ようやく奈落からの脱出が始まります。
体に感じる痛みと冷たさで、目を覚ます。
ドドドド、と大量の水が水面に叩きつけられる音が聞こえる。
――どうやらオレは、何とか生き延びる事ができたらしい。
「――う……、ぐっ……」
オレは、痛む体を引き摺りながら、巨大な水溜りから這い出る。
そして、何とか地面の上に辿り着くと、仰向けになった。
視線の先には、先程までオレが見ていたように、どこまでも続く真っ暗な闇が広がっていた。
しばし、その光景をぼうっと見ていたが、冷えた体にブルリと体を震わせ、行動することを決める。
オレは立ち上がると、辺りを見回す。
すると、少し離れた場所に、オレの直剣とステータスプレートが落ちているのが見えた。ステータスプレートは、薄暗い通路の中で淡く発光している。
そちらへ歩いて行き、二つとも拾い上げる。
発光していたステータスプレートには、新しい『呪文』が映し出されていた。
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ゼオン・ベル 17歳 男 レベル:10
天職:雷帝
筋力:500
体力:500
耐性:500
敏捷:500
魔力:1000
魔耐:700
技能:雷属性耐性・物理耐性・毒耐性・麻痺耐性・剣術・体術・槍術・杖術・魔力操作・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・気配遮断・威圧・言語理解
《使用可能呪文》
第一の術 ザケル
第二の術 ラシルド
第三の術 ジケルド
第四の術 ラージア・ザケル
第五の術 ザケルガ
第六の術 ラウザルク
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――第六の術、『ラウザルク』。
ベヒモスとの戦いで上がったレベルによって、開放されたのだろうか。
(……先程見た記憶は、これが原因か)
気絶している時に見た、オレの幼少期の記憶。
――地獄のような鍛錬の日々。
――時が経つにつれて強くなる怒りと憎しみ。
――胸に穴が空いたような、虚しさと寂しさ。
(――『ガッシュ』、か)
そして、オレの弟、『ガッシュ』。
(……オレに、弟がいたとはな)
かつてのオレは、ガッシュを強く憎んでいたらしい。確かにあの環境では、無理もないとは思う。
自分の事なのに、どこか他人事のようにそう思った。
今のオレから見ても、記憶の中の父が、どういう考えだったのかは分からない。この先記憶を取り戻していけば、その答えも知ることができるのだろうか。
そこまで考えた所で、オレは気を取り直して『今』の状況に集中することにした。
(ハジメは……、近くには居ないか。オレと同じ様に、ハジメもここに落ちている筈だ。……まだ、生きている可能性はある)
そう己に言い聞かせ、オレはハジメを探すべく、『奈落の底』の探索を始めるのだった。
◆◇◆
あれからオレはしばらく歩いたが、まだ何者にも出会っていなかった。
(クソ、この辺りは魔力が濃すぎて、ハジメの魔力を探せないな)
『魔力感知』でハジメの魔力を探そうとするが、辺りに充満する濃い魔力のせいで中々上手くいかない。他の存在を感知できるとしても、精々、半径数十メートルの範囲までだろう。
それとは別に、オレは気になる事があった。
(『気配感知』に、多数の気配が引っ掛かっている。まだ出会ってはいないが、ここにはオレ達以外の生物がいる)
恐らく人間ではない多数の気配を感知しているため、大声を出してハジメを探すこともできない。
かなりの高さから落ちてきたとはいえ、ここはまだ迷宮だ。魔物が居てもおかしくはない。
その後も薄暗い通路を進んでいると、オレの方に急速に近付いてくる気配があった。
(――数は、二体か。この速さからして、恐らく相手は……)
オレの視線の先、通路の曲がり角から二匹の狼らしき魔物が現れる。
白い毛に、二本の尻尾を持つその魔物の体には、赤黒い線が血管のように脈打っていた。
「グルルアァッ!!」
オレを発見した狼達は、一直線にこちらへと駆けてくる。
一体目の突進を避け、二体目の体をすれ違いざまに剣で切り裂く。
「ギャオッ!?」
しかし、相手の勢いを利用した一撃は頑丈な毛皮に阻まれ、致命傷を与えることはできなかった。
「グルル……!」
狼達は警戒するように距離を取り、オレを睨みつけてきた。
すると、狼達の体からバチバチと赤黒い雷が漏れ出す。
(――まさか、固有魔法か!?)
「グルルアァッ!!」
バチバチッ、とこちらに向かって放たれる雷撃。
「ッ! ――ザケル!!」
咄嗟に唱えた呪文によって掌から放たれた雷が、狼達の雷とぶつかり合う。
一瞬の拮抗の末、オレの術が奴らの魔法を飲み込み、そのまま狼達に直撃する。
僅かに後退する狼達だったが、ダメージを受けたようには見えない。
雷の魔法を使用するだけあって、雷属性に耐性があるのかもしれない。
オレは、狼達に向かって駆け出した。
狼達も、一体はオレに向かって飛び掛かり、もう一体は再度魔力を高め始める。
飛び掛かってきた狼の突進を避け、オレは晒された脇腹に剣を突き刺す。
「ギャオォ!?」
強い抵抗の後、ズブリ、と狼の体に直剣が突き刺さったのを確認し、オレは呪文を唱える。
「ザケル!!」
「グアォオオオ!?」
剣を伝う雷撃によって、内側から体を焼かれて悲鳴を上げる狼。
すぐにぐったりとし、動かなくなった狼から剣を抜き、オレは残った一体に意識を向ける。
「グルアァッ!!」
相方が殺された怒りを込めるように放たれた雷撃に向かって、オレは掌を向ける。
「――ザケルガ!!」
直後、オレの術が狼の魔法を貫き、そのまま狼の頭を吹き飛ばした。
一瞬遅れてドサリと倒れ込む死体を見て、オレは息を吐く。
「……ふぅ、何なんだ、ここの魔物は。明らかに異常な強さだ」
流石にベヒモスとまでは行かないが、それを除けば今までで一番強い魔物だった。
しかも、今戦った狼達は、『群れ』で行動していた。
今回は二体だから対処できたが、もし更に大規模な群れであったら……。
それに、他にも気になる事がある。
(これだけ強い魔物が、群れで行動するだと? ……ここには、もっと強い魔物が存在するということか?)
これは、ハジメの捜索を急いだ方が良いだろう。
オレはハジメを見つけるために、足早にその場を立ち去るのだった。
◆◇◆
南雲ハジメは、現在薄暗い通路を慎重に進んでいた。
あの石橋から落ちた後、運良く落下中に壁から出ていた水流に流され、生き延びたのだ。
彼が勇気を出して行動している理由は、地上への帰り道を見つけるためだ。そして、もう一つ。
(――あの時、ゼオンも橋の下に落とされてた。でも、きっとゼオンなら生きてる。早く合流しないと)
自身と同じ様に、この『奈落の底』へと落とされた筈の家族を探すためであった。
しばらく歩き続けていると、分かれ道に辿り着いた。
どちらに進むべきか、とハジメが考えていると、視界の端で何かが動いた気配を感じ、慌てて岩陰に身を潜める。
静かに顔だけ出して様子を窺うと、白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もあるその姿は、ウサギそのものであった。
だが、その見た目は異様であった。まず大きさが中型犬程もあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何よりも目を引くのは、体中に走っている赤黒い線がまるで血管のようにドクンドクンと脈打っていることだった。
明らかにヤバそうな魔物なので、ハジメはあのウサギを避けて進もうと決める。
岩陰に張り付くように身を潜めながら、逃げるタイミングを図っていると、獣の唸り声が辺りに響いた。
「グルァア!!」
声と共に、ウサギと同じく白い毛並みをした狼のような魔物が数体飛び出してきた。
どうやら、あのウサギを捕食するつもりなのだろう。ウサギには悪いが、襲われている内に移動しようとハジメが思っていると、次の瞬間起こった予想外の展開に、思考が停止する。
「キュウ!」
――ドパンッ!
ウサギの可愛らしい鳴き声が聞こえたと思った直後、ウサギの姿がブレ、狼に蹴りが叩き込まれていた。
更にウサギはそのまま空中で一回転し、『空中を踏みしめて』別の狼に突撃していく。
再度、蹴りが出せるとは思えない音を発生させ、ウサギの足が狼の頭部を捻じ曲げる。
次々と岩陰から現れる狼達がウサギを取り囲んで襲い掛かるが、一瞬で頭が吹き飛び、壁に叩きつけられ、数を減らしていく。
残った最後の一匹が、唸りながらバチバチと放電を始める。恐らく固有魔法だろう。
「グルゥア!!」
咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて飛ぶが、ウサギは素早い動きでそれを避け続ける。そして電撃が途切れた瞬間、一気に狼へと接近してサマーソルトキックを叩き込んだ。
狼は吹き飛び、グシャリと音を立てて地面に叩きつけられた。確認するまでもない。確実に死んでいるだろう。
「キュ!」
戦闘の終わりを告げるように、ウサギが元気良く鳴く。
気が付けば、あれだけいた狼の魔物が全滅していた。
(嘘だと言ってよ……)
思わず冷や汗を流し、ハジメは後退する。あんな魔物に見つかったら、自分は一瞬で殺される。
下手したら、あのベヒモスよりも厄介な魔物かもしれない。
そのまま後退していくハジメだが、足元に転がっていた小石に気付かず、後ろ足で蹴ってしまう。
――カランッ
小石が転がる音が、通路内に大きく響いた。
ハジメは、恐る恐るウサギが居た方向を見る。
――ウサギが、こちらを見ていた。
そして、足に力を入れるように、その白い体が僅かに屈む。
(――マズイッ!?)
咄嗟に横に跳んだハジメの判断は、正しかった。
一瞬遅れて、先程までハジメが立っていた場所が爆発する。
更に、ウサギがまたこちらに向かって跳ぼうとしている。
「ッ!? ――錬成!!」
一瞬で目の前に岩壁を生成するが、ウサギの蹴りはそれを軽々と貫通し、そのままハジメに向かってくる。
「ぐぅっ――!?」
直後、ハジメは大きく吹き飛ばされた。咄嗟に左腕で頭を庇わなければ、今頃狼達のように死んでいただろう。
ほとんど動かなくなった左腕を引き摺りながら、ウサギから距離を取ろうともがく。
ウサギは、逃げる獲物で遊ぶかのように、ゆっくりとこちらに向かってくる。
いつの間にか壁際に追い込まれ、背中が壁に当たる。
「ぐ、そんな……」
既にウサギは目の前で足を振り上げている。錬成を使っても逃げられない。
(――ごめん、ゼオン……)
ハジメは思わず眼をつぶる。
しかし、いつまで経ってもウサギの攻撃が来ることはなかった。
(一体、何が……?)
目を開けると、ウサギは依然とハジメの前に立っていた。しかし、様子がおかしい。
ふるふると白い体が震えている。まるで、なにかに怯えるかのように。
次の瞬間、ハジメは自分とウサギの他に、もう一体別の存在がいることに気が付いた。
「グルル……」
それは、巨大な熊だった。白い毛皮を纏い、長い爪を携えた強靭な腕。そして、先程見た狼やウサギと同じく、赤黒い線が体中に走り、脈打っている。
(ま、マズイ……!?)
逃げろ、と本能が訴えてくる。
恐怖で碌に動かない体を、必死に動かそうとする。
「キュッ!?」
一足先に、ウサギが気を持ち直して逃走する。一目散に逃げるウサギを一瞥した爪熊は、ウサギのいる方向を目掛けてその腕を振るった。
――ズシャッ
明らかに爪熊の攻撃は届いていなかったにも関わらず、次の瞬間ウサギは真っ二つになっていた。
(……今、のは?)
ドスリ、ドスリと足音を響かせながらハジメの前を通り過ぎた爪熊は、ウサギの死体の場所まで辿り着くと、それを喰らい始めた。
バリ、ボリとウサギを丸ごと咀嚼する音に我に返ったハジメは、なんとか立ち上がって駆け出す。
(――逃げなきゃ、とにかく遠くへ逃げないと……!!)
しかし、次の瞬間、ハジメの体が吹き飛ばされる。
「ぐっ……!?」
地面へと叩きつけられる痛みに苦悶の声を漏らすが、ハジメは自分の体に違和感を覚える。
「…………え?」
――自分の左腕が、無かった。
唖然とするハジメにドスリ、ドスリと重い足音を響かせて近付く爪熊は、ひょい、と何かを拾い上げる。
掲げるように持ち上げたそれは、ハジメの無くした左腕で、爪熊は見せつけるようにそれを口に入れる。
「あ、ああ…………うわぁああーー!!」
あまりの恐怖に叫び声を上げて、ハジメは壁に手をつく。
「れ、《錬成》!! 《錬成》、《錬成》、《錬成》!!」
連続で唱えた《錬成》によって壁に穴が空き、そこへ体を潜り込ませるハジメ。
「グゥルアアア!!」
爪熊が逃げようとする獲物に怒りながら、腕を振るう。
「――《錬成》!!」
しかし、間一髪間に合った《錬成》によって穴は閉じられ、ハジメには当たらなかった。
爪熊は何度か壁に向かって腕を振るっていたが、しばらくすると諦め、落としたハジメの腕を再度食べ始めた。
「――《錬成》、……《錬成》、……《錬成》、れん、せい……」
ハジメはというと、段々と意識が朦朧としながらも、壁を掘り続けていた。
しかし、ふと限界が来て意識を失うのだった。
◆◇◆
オレは、あれからも数回魔物との戦闘を挟みながら、ハジメを探していた。
しかし、中々見つからないため、魔物にも見つかる事を覚悟で大声を出そうかと思った時、迷宮内に声が響いた。
(ッ!? ――これは、ハジメの声!?)
大きな悲鳴のような声が響き渡るが、場所は近い。オレは声がした方向へと全力で駆け出した。
「――ハジメ!! 無事か!? 返事をしろ!!」
叫びながら走っていると、通路の先に一体の魔物が立っているのを発見した。
初めて見る魔物だ。熊のような見た目をしており、その身から放つ威圧感は、ベヒモス以上だろう。
オレが来たことでこちらに振り返った魔物を見て、オレの思考が一瞬止まる。
熊の魔物は、『あるもの』を咥えていた。人間の、腕のようなものを。そして、その腕の指に付けられている指輪に、オレは見覚えがあったのだ。
――『ゼオン、お待たせ。僕はこの錬成を補助する指輪にしたよ』
「――ハジ、メ?」
――『たとえ何者であっても、ゼオンは僕の自慢の『家族』だから』
爪熊は、唖然とするオレをあざ笑うかのように、その腕をバクリと飲み込んで嗤った。
頭の中が、怒りで染まる。
「――貴様あぁああああ!!」
爪熊に向かって駆け出し、掌を前に突き出す。
「ザケルガァ!!!」
一直線に向かう電撃に対して、爪熊は両腕の爪を交差させるように重ねて受け止めた。
――ギャリリリッ!!
「グゥルアアア!!」
バキン、とオレの『ザケルガ』が弾かれる。
(――何ッ!?)
驚くオレへ、爪熊は腕を振りかぶって横に薙ぎ払う。
「――ッ!?」
爪熊の腕から強い魔力を感じたオレは、咄嗟に飛び上がる。
直後、オレが先程まで居た地点の通路が、切り裂かれたかのように抉れた。
だが、驚いている暇など無い。飛び上がったオレを追う様に、爪熊も跳んでいた。
「グゥルオオオ!!」
空中で振り下ろされる腕。当然、その爪には魔力が籠もっている。
「ザケルガ!!」
――バチィッ!
振り下ろされる腕を『ザケルガ』で弾き、なんとか攻撃を防ぐ。
互いに地面へと着地し、睨み合う。
(……クソッ、ザケルガを当てたのに、大してダメージを受けた様子がない。――このままでは、勝てない)
「グルル……」
爪熊も多少はこちらを警戒したのか、唸り声を上げて様子を窺っている。
(至近距離で、限界まで魔力を込めた『ザケルガ』を当てるしか無い。そのためには……)
オレは、冷静に作戦を練る。目の前の敵を、絶対に殺すために。
「――ザケル!!」
再び仕掛けたのは、オレの方。爪熊は放たれた電撃を片手で防ぎ、反対の腕を振るってくる。
だが、既に奴の攻撃が当たる場所にオレはいない。
「グゥルオ!?」
オレがいないことに気付いた爪熊は、奴の側面に移動していたオレに驚き、腕を振るおうとするが、遅い。
「――ザケルガァ!!!」
ドン、とオレの掌から放たれた電撃が奴の体を押す。相変わらず、丈夫な毛皮に阻まれてほとんどダメージはなさそうだ。
(――だが、これならどうだ?)
『ザケルガ』で押された爪熊の体が、壁に押し付けられる。そして、奴の体が壁と『ザケルガ』に挟まれた。
――ギャリギャリッ!!
少しずつ、爪熊の毛皮を抉っていく。オレは、ありったけの魔力を込め続けた。
――ブシュッ!
「グルゥオオオオオ!?」
遂に毛皮を貫いて体に穴を開けられた爪熊は、悲鳴を上げながら、がむしゃらに暴れだした。
「ぐっ……!?」
振り回された腕に殴られ、オレは爪熊から突き放された。
地面を滑ってようやく止まったオレは、再び爪熊に突撃しようとした所で、危険を感じて停止する。
「グルル……!!」
怒りに顔を歪ませた爪熊が、今までとは比べ物にならない程の魔力を両腕に込めていた。
(――マズイッ!?)
「グルゥアアアアア!!」
オレが追撃する間もなく、爪熊は両腕を交差するように振り下ろした。
通路一杯を埋め尽くす、風の刃。避けることはできない。オレに選択肢はなかった。
「――ッ!? ラシルドォ!!」
地面から出現した盾が、風の刃を受け止める。
「ぐっ……!! く、そぉ……!!」
――ビキッ
あまりの威力に耐えきれず、『ラシルド』にヒビが入る。
オレは魔力を込め続けて踏ん張るが、遂に限界が来た。
――ゴシャアッ!!
オレは、破壊された『ラシルド』ごと、吹き飛ばされる。
幸い、大きく威力は殺せたようだったが、すぐに立ち上がることができない。
「ぐうっ……!?」
ドスン、ドスンと爪熊が近付いてくる。その顔は、勝利の喜びに歪んでいた。
(――くそ、こんな奴に、負けるのか。こんな所で、死ぬのか。)
オレの中にあるのは、悔しさだった。ハジメの仇も討てず、無様に地面に這いつくばっている。
(――ふざけるな、こんな事、許してたまるか)
次いで、激しい怒りと憎しみが心を満たしていく。
(――こいつは、ハジメを殺したんだ。オレを受け入れてくれた『家族』を、オレの目の前で!!)
ギリ、と歯を強く食いしばる。既に、爪熊はオレの目の前に立っていた。
(――こいつの罪は、万死に値する!!)
その瞬間、オレの懐に入れていたステータスプレートが、激しい光を放つ。
「グルォ……?」
不思議そうに目を細める爪熊を尻目に、オレは立ち上がる。
だが、今更何ができるというように、奴は嗤いながら腕を振り上げた。
――オレは、そんな爪熊に構わず、右手の掌を奴に向ける。
「グルァア!!」
振り下ろされる腕が、オレを叩き潰す前に、オレは心に浮かんできた『呪文』を唱える。
「バルギルド・ザケルガ!!」
瞬間、オレの掌から放たれた雷が、通路を埋め尽くした。
読んで頂いてありがとうございます。
覚醒シーンかと思ったら、闇堕ちシーンだったというお話でした。
今回、初めて多機能フォームを使用してみました。上手く出来てるでしょうか……?
では、次話もよろしくお願いします。