ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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またまた遅くなりました……。
あまりにも平日に執筆時間が取れないので、この土日で来週分のストックを作ろうと思ってます。


LEVEL.14 憤怒の雷、小さな希望

 

「――グルゥオオオオオオオ!?」

 

迷宮内の通路に、爪熊の絶叫が響き渡る。

 

 

――『バルギルド・ザケルガ』

 

ゼオンがその『呪文』を唱えた瞬間、爪熊がまず感じたのは『痛み』だった。

 

 

ゼオンの掌から放たれた雷に触れた瞬間、意識を失う程の激しい『痛み』が全身を襲い、思わず絶叫する。

 

大抵の魔法は防げる自慢の毛皮など関係なく、全身を焼いてくる雷によって地面へと膝を付き、直後に倒れ込む。

 

 

「ルォオオ……!!」

 

 

何とか立ち上がろうともがく爪熊は、自分にこんな無様を晒させた存在を睨みつけるため、顔を上げる。

 

自分はこの階層の『王』だ。自分以外の存在は、全て『獲物』なのだから。

 

しかし、爪熊は倒れ伏す自分を見る『獲物だった存在』の目を見て、硬直する。

 

 

――そこには、闇が渦巻いていた。深淵の如き暗い瞳の中に、怒りと憎しみが渦を巻いている。

 

 

先程まで見下していた相手に、今は自分が見下されている。そんな事など気にならなかった。

 

自分は、絶対に敵に回してはいけない存在に手を出したのでは、と。

 

その時、初めて爪熊は『恐怖』を感じた。

 

 

「――グァオオ……!?」

 

 

爪熊が激しく暴れだす。

一刻も早く目の前の存在から逃げるために。

 

しかし、逃げようとした瞬間に激しくなる痛みに、再び絶叫する。

 

 

それから、どれだけの時間が過ぎただろうか。

 

何度も意識が飛びそうになるが、その度に痛みで強制的に意識を覚醒させられる。

 

次第に精神がすり減り、叫び声すら上げられなくなっていく。

 

 

爪熊の心には、抗えない『恐怖』が刻み込まれていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――憎い。

 

オレの目の前に這いつくばるコイツが。

オレから大切な『家族』を奪った敵が。

 

 

――腹立たしい。

 

無様に地面をのたうち回っているコイツが。

何より、こんな奴に負けそうになっていた自分自身が。

 

 

――虚しい。

 

どれだけコイツを苦しめても、満たされない心が。

コイツを殺しても、ハジメは戻ってこないから。

 

 

胸の内で暴れ回る感情の渦。

 

その想いが強くなるほど、掌から放たれる雷撃も強まっていく。

 

そして、電撃が強くなるほど、自分の中の『何か』がヒビ割れ、崩れていく。

 

こんなに強力な魔法を使い続ければ、とっくに魔力は尽きている筈なのに、電撃が止まることはなかった。

 

 

気が付けば、爪熊は抵抗を止めていた。

時折ビクリと体が震えて小さく鳴いていることから、まだ生きてはいるようだ。

 

 

胸に渦巻く暗い衝動に従い、このまま殺してやろうかと考えた時、雷が鳴らす激しい音の中で、かすかにキィンと甲高い音が聞こえた。

 

ふと足元を見ると、何か光るものが転がっていた。

どうやら、オレの足にぶつかったらしい。

 

 

(――)

 

 

爪熊がもがいている時に、吐き出したのだろうか。そこには、ハジメが付けていた指輪型の魔道具が輝いていた。

 

まるで、今のオレを静かに見つめるように。

 

 

(ハジ、メ……)

 

 

フシュ、と雷の放出が止まる。

同時に、体が鉛のように重くなった。

 

 

「ル、オォオ……?」

 

唐突に止んだ攻撃に、困惑する爪熊。

爪熊は動くようになった体を引き摺って、少しずつオレから離れていく。

 

だが、そんな事は目に入らず、オレは足元に転がった指輪を拾い上げる。

 

 

「……ハジメ、すまない……」

 

ギュ、と指輪を握りしめて呟く。

 

ハジメが食われた時の事を思い出し、再び心に激しい怒りと後悔の念が押し寄せるが、ふと頭の中に引っ掛かるものがあった。

 

……何だ? オレは、何を気にしている……?

 

 

高速で思考が回り始め、徐々に頭が冷静になっていく。

 

思い出すのは、オレがハジメの声がした場所に辿り着いた時の光景。

 

 

通路の中央に佇む爪熊の後ろ姿。

 

近くの地面は何箇所か抉れており、所々に血痕も残っていた。

 

――そして、ハジメの『左腕』を咥えて、嗤う爪熊。

 

 

そこまで考え、ハッとある可能性に思い至る。

 

(――『左腕以外』は、どこにあった?)

 

そう、オレはハジメの左腕以外を確認していない。

 

あの時、既に全身食われた後だった?

いや、それにしては周囲の血痕や、爪熊に着いていた返り血も少なかった。

 

それに、ハジメの悲鳴が聞こえてからオレが現場に駆け付けるまで、十秒程度しか経っていない。もしその間に、ハジメが爪熊から逃げていたら?

 

 

「……まさ、か」

 

ドクン、と心臓が大きく音を鳴らした。

 

(生きて、いるのか?)

 

確証はない。

あの強さの魔物に出会した時点で、生存は絶望的だろう。しかし、まだ可能性が残っている。

 

 

――小さな希望が、胸に灯った。

 

 

「グルル……!」

 

そこまで考えた所で、魔力の高まりを感じ、視線を向ける。

 

そこには、オレから数十メートル程離れた位置まで移動し、立ち上がってこちらを睨む爪熊がいた。

 

あのまま逃げることは出来た筈だが、奴のプライド的にただ逃げ帰るのは許せなかったらしい。

 

奴の爪には、先程戦った時以上の魔力を感じた。どうやら、残った魔力を全て込めてでも、オレを仕留めたいらしい。

 

 

「グルァアアア!!!」

 

 

爪熊が腕を横薙ぎに振るう。

直後に放たれた風の刃が、通路の壁を削りながらこちらに向かってきた。

 

 

確かに、今のオレでは避けられない攻撃だ。先程の呪文のせいか、体が重くて碌に動けない。

 

 

爪熊の顔が喜びに歪む。

オレが攻撃を避けられないと気付いたのだろう。

 

 

だが、今のオレは、死ぬわけにはいかないのだ。ハジメが生きている可能性があるのだから、まだ諦める事はできない。

 

 

オレは迫りくる風の刃を真っ直ぐ見つめながら、『呪文』を唱える。

 

「――第六の術、ラウザルク!」

 

 

次の瞬間、天から落ちてきた雷がオレの体を包み、体がキラキラと発光する。

 

そして、先程まで鉛のように重かった体が、動かせるようになった。

 

 

既に眼前にまで迫った風の刃に、――オレは腕を振り上げ、拳を叩きつける。

 

 

――ギギギギィ!!

 

風の刃と拳が衝突し、金属同士がぶつかり合う様な音が響く。

 

そんな事は構わず、オレは全力で腕を振り抜いた。

 

 

「――おぉおおおっ!!」

 

 

――バキィンッ!

 

 

一瞬の拮抗の後、振るわれた拳によって風の刃は砕け、オレの左右にある壁を抉りながら通り過ぎていく。

 

 

「ル……ォ……?」

 

爪熊が、理解できないものを見るように唖然とした声を上げる。

 

「……グ、ルォオオオ!?」

 

そして、オレの視線に気が付くと、叫び声を上げながら逃げていく。

 

 

爪熊の姿が通路の先に消えたとほぼ同時に、オレの体を包む光が消えた。

 

再び重くなった体に、思わず地面に膝を付く。

 

 

「ハァッ、ハァッ……! 流石に、限界か……」

 

既に、魔力も体力も尽きていた。

 

だが、かすかな希望だけは残っている。

 

 

(――ハジメ、生きていてくれ)

 

 

重い体を引き摺り、壁に背を預けてオレは上を見上げる。

 

視線の先には相変わらず先の見えない闇が広がっていたが、オレの心が沈むことはなかった。きっと、ハジメは生きていると信じることができたから。

 

 

静かな迷宮の中、オレはしばらくその景色を見続けるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――ぴちょり、と頬に水滴が当たる感触で目が覚める。

 

 

「……う、くっ……。ここ、は……?」

 

 

うめき声を漏らしながら、周囲を確認するも、暗くて何も見えない。

 

そして、その理由を思い出す。

自分は、あの爪熊から逃れるために《錬成》で穴を掘って逃げたのだと。

 

(……まだ、生きてる? ……あれだけ、血が出ていたのに)

 

そして、思わず左腕のあった場所に触れようとするも、そこには何もなかった。

 

自分が左腕を失ったことを思い出し、その瞬間、無いはずの左腕に激痛を感じた。

 

「う、ぐっ……」

 

痛みによって反射的に左腕を押さえたことで、気が付いた。

切断された腕の断面に肉が盛り上がり、傷が塞がっている。

 

「一体、どうして……?」

 

疑問に思っていると、ぴちょり、と再び頬に水滴が当たる。

 

その水滴を口に含むと、体に活力が戻った気がした。

 

 

「……まさか、この水が?」

 

また意識が薄れつつある中、本能に従って水滴が流れる方へ右腕を突き出し《錬成》を行う。

 

少しずつ、少しずつ掘り進み、遂に水源に辿り着いた。

 

 

「――これは……?」

 

そこには青白く発光する美しい鉱石が存在しており、水を滴らせていた。

 

引き寄せられるように鉱石へと口を付け、そこから流れ出る水を飲むと、先程まで感じていた幻肢痛や倦怠感が治まっていく。

 

やはり、自分が生き残れたのは、この水が原因らしい。どういう物かは分からないが、強い治癒作用がある液体のようで、腕以外の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

 

 

しかし、体の傷や魔力は回復しても、心の傷はそう上手く治らない。

 

たとえ外に出ても、あの爪熊がまた襲ってくる。そう思うと、体の震えが止まらない。

 

 

「もう、嫌だ……。誰か、助けて……」

 

残った右腕で震える体を抱き、蹲る。

先程まで目前に迫っていた『死』への恐怖から逃れたくて、強く目をつぶる。

 

「怖い、怖いよ……」

 

独り呟いた言葉が消えていく。

 

 

――ハジメの心は、折れていた。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

今回短くてすみません。

今日は夜にもう一話投稿しますので、許してください。

では、次話もよろしくお願いします。
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