ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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本日二話目の投稿です。
ギリギリですが、何とか間に合いました。


LEVEL.15 追う背中

 

オレがこの『奈落の底』に落ちてから、おそらく半日程が経過した。

 

あの後、オレはここに落下してきた地点へと戻り、体を休めていた。

 

 

「飲水が確保できるのは、助かったな」

 

念のため持ってきていた携帯食料を食べ、滝壺のようになっている所から水を汲み、喉を潤す。

 

不思議なことに、ここの水を飲むと、僅かに魔力が回復するのだ。『奈落の底』特有の、異常に魔力が濃い環境が原因だろうか?

 

 

「――よし、そろそろ行くか」

 

水の効果もあり、枯渇していた魔力は数時間程で回復した。体の疲れも十分取れている。

 

オレは、この階層の探索を再開するのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「――ハジメ!! 聞こえるか!? 聞こえていたら返事をしてくれ!!」

 

現在オレは、迷宮内を駆け回り、ハジメのことを探していた。

 

だが当然、大声を出せば、それに寄ってくる者が現れる。

 

 

気配を感じたオレは、その場に立ち止まる。

すると、壁の隙間や岩陰から次々と狼共が飛び出してきた。

 

「グルル……!!」

 

一瞬でオレを囲む狼達。

その数は多く、十匹はいるだろうか。

 

 

オレは剣を抜き、呪文を唱える。

 

「――ラウザルク」

 

直後、雷がオレの体を包む。

そして、狼達が何かを仕掛ける前に、オレは駆け出した。

 

 

――ザシュッ!

 

一番近くに居た狼に接近して、その首を跳ねる。

 

続けざまに数体の狼に向かって駆け、そのまま切り捨てた。

 

 

一瞬で仲間が半分程やられた事に動揺する狼達だが、直ぐに体をバチバチと帯電させ、固有魔法の発動準備をする。

 

「グルアァッ!!」

 

複数体から放たれる雷撃。

しかし、それらはオレが腕を振るうことであっさり霧散した。

 

――バシュッ!!

 

「グルゥッ!?」

 

更に困惑する狼だったが、魔法が効かないと見るや一斉に飛び掛かって来る。

 

オレは突進を避けながら、狼達を剣で切り裂き、殴り、蹴り飛ばす。

 

 

戦闘が始まってから数十秒、あっという間に、狼達は全滅した。

 

 

「――ふぅ、終わったか」

 

体を包む光が消えたタイミングで、呼吸を整える。

 

 

――第六の術である『ラウザルク』は、一時的にオレの身体能力を向上させる、いわば『強化呪文』である。魔法に対する耐性も上がるため、今のように素手で魔法を掻き消す、なんて芸当もできる。ただし、術の発動中は『ザケル』等、他の呪文は使用できないので注意が必要だが。

 

 

休息を挟んでから数時間は迷宮内を探索しているが、いまだにハジメとは出会えていない。

 

そして、別に会いたいわけではないが、あの爪熊も見かけない。

 

相当珍しい個体なのか、それとも爪熊はあの一体だけ存在しているのか、どちらなのかは不明だが。

 

 

そんな事を考えながら探索していると、オレはあるものを発見する。

 

「……下に向かう階段か。今見つけたいのは、上の階層に続く階段なんだがな……」

 

とある通路の突き当たりに存在していたその階段は、明らかに下へと続くものであった。

 

 

まさか、ここよりも更に下の階層があるのか?

 

基本的に、オルクス大迷宮は階層を下れば下る程、魔物が強くなると言われている。ここ『奈落の底』も同じかは分からないが、もしそうであれば……。

 

(爪熊よりも強い魔物が出てくる可能性が高い、ということか)

 

己の攻撃が殆ど通じず、殺されかけた強敵の姿を思い浮かべる。

 

あの時、突発的に発現した呪文がなかったら、間違いなく死んでいた。

 

 

(――『バルギルド・ザケルガ』、か)

 

あの後、ステータスプレートを確認したが、そんな呪文は記載されていなかった。

 

試しに唱えてみても、やはり術が発動することはなく、あの『力』は一時的なものだったのだろう。

 

(……まぁ、あの呪文が使えたとしても、できるだけ使用は避けたいがな)

 

オレは、あれは多用するべき呪文ではないと思った。

 

あの強大な雷は、オレの怒りや憎悪が元になっているのだろう。使う程に、負の感情が大きくなっていく。あの時、呪文を使い続けていたら、オレの心は怒りと憎しみに呑まれていただろう。

 

あの雷を使いこなすには、オレ自身がもっと強くなる必要がある。力だけでなく、心も。

 

 

オレは、今よりもっと強くなることを決意し、探索を続けるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あれから二日程、オレはハジメを探しながら迷宮を探索し続けていたが、ハジメは見つからなかった。

 

この階層はかなり広いようで、まだ全ての道を探索できていない。

 

 

また、途中で持ってきていた携帯食料が尽きたため、オレは魔物の肉を食らって腹を満たしていた。

 

本来であれば魔物の肉は人間にとって猛毒なのだが、ある研究結果によると、その原因は魔物の肉に含まれる魔力が原因であると言われている。

 

魔物の肉を食べると、人間が元々持っている魔力と、魔物の肉に含まれる魔力が拒絶反応を起こし、死に至るらしい。

 

つまりは、自分以外の魔力を体に取り込むことで害が発生するのであって、理論上は魔物の肉に含まれる魔力を取り除けば、拒絶反応は起きないということである。

 

正直確証はなかったが、仕留めた狼の肉を威力を下げた『ザケル』で炙り、狼の魔力をオレの魔力で洗い流すと、炙る前の肉から感じた嫌な感覚はしなくなった。

 

思い切って口に入れるも、味がマズイということ以外に特に問題は起きなかった。

 

(王宮の図書館にあった論文を読んでおいて良かったな)

 

食べてからしばらく経っても、体に異変は起きなかったことから、あの論文は正しかったのだろう。

 

 

そんな事を考えながら迷宮の探索を続けるが、未だに上の階層へと繋がる階段は発見できていない。

 

「地上に戻る手段はこの階層にはない、とかは勘弁してほしいが……」

 

嫌な予感を感じながらも、オレは迷宮の通路を進んでいった。

 

 

 

「……嫌な予感が当たったか」

 

あれから数時間後、オレはこの階層における『最後の通路』を探索し終え、思わず呟いた。

 

結局、この階層内で上に向かう階段や魔法陣などは見つからなかった。

 

つまり、地上へと戻る道を探すには、下の階層へと進むしか無いということである。

 

(空でも飛べれば話は別なんだろうが……)

 

生憎、そんな便利な呪文は持っていない。

 

 

(……それにしても、結局ハジメは見つからなかったな)

 

これだけ探索したにも関わらず、ハジメとは未だに出会えていない。

 

「――まさか、既に下の階層に向かったのか?」

 

ハジメであれば、まずは上の階層に続く道を探しそうだが、魔物から逃げながらであれば、下の階層に進んだ可能性も十分考えられる。

 

 

「……行ってみるか」

 

オレはこの階層を離れるべく、下へと続く階段の元に向かう。

 

 

しばらく移動して、再び階段の前に辿り着いたオレは、下の階層に降りる前の休息を取っていた。

 

焼いた狼肉を飲み込んで一息つき、立ち上がる。

 

階段の先を覗くが、案の定真っ暗で何も見えない。

 

 

「――よし、行こう」

 

覚悟を決め、ゆっくりと階段を降りていく。

その先にハジメがいることを信じて、オレは暗闇の中を進んでいった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

ゼオンが下の階層に降りて行った頃、ハジメは《錬成》によって進んだ壁の奥深くで横になっていた。

 

ギュッと手足を縮めて丸まったその姿は、まるで胎児のようであった。

 

 

この数日、ハジメは殆ど動かず、壁に埋まった輝く鉱石から滴り落ちる水のみを口にして生きていた。

 

治癒効果のある水によって何とか生きているものの、空腹感までは消えず、ハジメは壮絶な飢餓感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

 

(――どうして、僕がこんな目に?)

 

 

この数日に何度も考えた疑問。

しかし、苦痛に苛まれ続けてまともに働かない頭では答えが出ず、今日もまた気絶するように眠りにつく。

 

 

何度、そんな時間を過ごしただろうか。

それから何日もの時間が過ぎていき、次第にハジメの精神には異常が現れていた。

 

――早く楽になりたい、まだ死にたくない。

 

死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛に耐え続けていたハジメの心に、ふつふつと暗い感情が湧き上がってくる。

 

 

(なぜ、こんなにも苦しまなければならない? 僕が何をした……?)

 

(なぜ、僕はこんな目にあっている? 何が原因だ……?)

 

 

次第に、自分がこんな状況に陥った原因を考え始める。

 

(この世界の神は、僕らを理不尽に誘拐した……)

 

(クラスメイトは、僕らを裏切った……)

 

(ウサギは、僕を見下した……)

 

(アイツは、僕を喰った……)

 

 

無意識に、自分の『敵』を探し求める。

強い痛みと飢餓感が精神を蝕み、暗い感情を加速させる。

 

 

(どうして、誰も助けてくれない……?)

 

(誰も助けてくれないなら、どうすればいい?)

 

(この苦痛を消すには、どうすればいい?)

 

 

次第に、巡る思考は現状を打開する方法を考え始めていた。

 

生きるために、湧き上がっていた感情すら不要なものだと切り捨て始める。

 

生き残るためには、余計なものを全て削ぎ落とさなくてはならないのだと。

 

 

神が強いた理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物共の敵意も、自分を守ると言っていた誰かの笑顔も、全てはどうでも良いことだ。

 

 

そうして、己の中からあらゆるものが削られていく中で、脳裏にある光景が浮かんだ。

 

それは、ある人物の背中。

銀髪を靡かせ、一歩一歩前へと進んでいくその背中を見て、ハジメの胸に浮かんだのは、強い憧憬だった。

 

 

(――僕は、いや、『オレ』は……)

 

頭に浮かぶのは、強くなると誓ったあの日。

その記憶が、ハジメの中の何かを繋ぎ止める。

 

 

(――そうだ。俺は、強くなるんだ。もう、何も奪われないように)

 

 

そのために、邪魔するものは全て、殺してやる。

 

 

意識が覚醒し、体力を回復するために目の前の鉱石から滴る水を啜る。

 

濡れた口元を拭い、ニヤリと笑うその顔には、決意が表れていた。

 

 

「――あぁ、やってやるさ。そのためにも……」

 

手を壁に向け、《錬成》を始める。

 

その瞳は、ギラギラと輝いていた。

 

 

「――殺して、喰らってやる」

 

 

――その日、奈落の底に怪物が生まれた。

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

という訳で、ハジメくんの覚醒回でした。

こんな調子で来週分のストック作れるのだろうか……?
明日は一回更新になると思います。

では、次話もよろしくお願いします。
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