ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

18 / 57
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
今回は、ハジメくんのメイン回となりますので、ゼオンくんは登場しません。


LEVEL.16 異常な進化

 

迷宮に広がる暗闇の中、赤い光が辺りを照らす。

 

 

――バチバチィッ!!

 

「――ギュッ!?」

 

 

それは、雷撃であった。

不意打ちで打ち込まれた攻撃に、獲物であるウサギは悲鳴を上げるが、直ぐに術者へ蹴りを叩き込むため、動き出す。

 

だが、雷撃によって鈍った動きは、この場にいる『捕食者』にとってはあまりに遅すぎた。

 

 

「――遅ぇんだよ」

 

――ドパンッ!!

 

 

直後、凄まじい轟音を伴って放たれた『弾丸』が、ウサギの頭を吹き飛ばす。

 

ウサギの体は一瞬ビクリと震え、そのままドサリと地面に倒れ込んだ。

 

 

「――よし、飯確保だ」

 

 

ウサギの死体を抱えた男――南雲ハジメは、自らの拠点へと向かって歩いていくのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「……ウサギ肉つっても、マズイことには変わりねぇな……」

 

 

現在、ハジメは《錬成》にて作成した拠点で、先程狩ったウサギの肉を喰らっていた。

 

かつて自分を見下していた魔物は、今やただの食料となっていた。

 

 

そんなハジメの容姿は、奈落の底に堕ちた時から、大きく変化していた。

 

まず髪の色が白くなっており、元々持っていた日本人特有の黒髪の面影は何処にもない。

 

体つきについても、身長が伸び、筋肉や骨格が太くなっている。見るからに強靭な体の内側には、薄っすらと赤黒い線が幾本か浮き出ている。

 

 

まるで、奈落の底に生息している魔物達のような見た目になっているのだ。

 

そして、変化したのは見た目だけではない。

 

 

「――さて、初めてウサギの肉を喰ったわけだが、ステータスはどうなってる?」

 

ハジメは、懐からステータスプレートを取り出して眺める。

 

 

 

======================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

 

天職:錬成師

筋力:200

体力:300

耐性:200

敏捷:400

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]、魔力操作、胃酸強化、纏雷、天歩[+空力][+縮地]、言語理解

 

======================

 

 

 

明らかに、奈落の底へ落ちる前とは別格のステータスである。

 

更に、技能についても『錬成』と『言語理解』しか無かった初期から大きく変化していた。

 

 

ハジメがここまで急激にステータスを高める事ができたのは、魔物の肉を喰らったことが原因だった。

 

ゼオンが警戒していたように、人間にとって魔物の肉は猛毒である。

 

しかし、ハジメは長時間堪え続けていた耐え難い飢餓感によって、初めて仕留めた魔物である狼の肉を衝動のまま喰らったのである。

 

当然、体内に取り込んだ魔物の魔力がハジメの体を蝕んだが、幸か不幸かハジメは治癒効果の高い水、『神水』を持っていた。

 

魔物の魔力による肉体の崩壊と、神水の治癒効果による肉体の再生。

 

繰り返される破壊と再生によって、激しい苦しみを味わいながらもそれを乗り越えた時、ハジメの体はより強靭な形に生まれ変わったのだ。

 

 

「――『天歩』、ね。ついでに派生技能が二つも付いてるのは、なんか得した気分だな」

 

 

先程ウサギの魔物を喰らったことで、技能が追加されていた。更に、『空力』と『縮地』のオマケ付きである。

 

ちなみに、狼の魔物から手に入れたのは、『魔力操作』、『胃酸強化』、『纏雷』の3つである。

 

初めて魔物の肉を食べたからなのか、大幅にステータスも強化されたのを覚えている。

 

 

試しにそれぞれの技能を使ってみるが、制御が上手くいかず、地面や壁に激突する。

 

「――いてっ!? ……クソ、加減が難しいな……」

 

そう呟きながらも、ハジメは新しく手に入れた技能を使いこなすための鍛錬を始める。

 

――次の目標は、当然あの『爪熊』だ。

 

 

(――待ってろ。必ずテメェも殺して、喰らってやる)

 

 

気合を入れ直し、ハジメは鍛錬に集中していくのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あれから一日後、『天歩』を完全にマスターしたハジメは、その姿を霞ませる程のスピードで迷宮の通路を移動していた。

 

それは、とある相手を探すためだった。

 

一度、自身の心が折れた原因。

以前出会った時は、圧倒的な強さによって死を覚悟した敵。ハジメが探しているのは、爪熊であった。

 

 

(――アイツを殺して、ようやく俺は前に進める気がする)

 

 

「グルァア!」

 

移動している最中、狼の群れと遭遇した。

ハジメの姿を確認すると、先頭に居た一頭が飛び掛かってくる。

 

それを見たハジメは、右足の太ももに固定していた拳銃――『ドンナー』を抜き、発砲する。

 

 

――ドパンッ!

 

 

大きな破裂音が響き、こちらへ向かって来ていた狼の頭部が弾け飛ぶ。

 

先頭の狼が倒れるのには一瞥もせず、ハジメは残りの狼に向かって連続で発砲する。

 

装填されていた弾を全弾撃ち切る頃には、狼の群れは全滅していた。

 

 

戦闘とも言えない蹂躙が終了すると、ハジメは周囲を警戒しながらも素早くドンナーに弾丸を装填していく。

 

 

ハジメが『ドンナー』と名付けたこの拳銃は、全長約三十五センチメートルもある大型のリボルバー式拳銃である。

 

材質は、この辺りで最高の硬度を持つ『タウル鉱石』を使っている。また、弾丸もタウル鉱石で作成されており、中には粉末状にした『燃焼石』を圧縮して入れてある。引き金を引くと、衝撃を受けた燃焼石が爆発して弾丸を撃ち出す、という仕組みである。

 

更に、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法《纏雷》によって電磁加速させる事もできる。

さながら、小型のレールガンである。

 

 

ドンナーへの装填が終わると、ハジメは狼の死骸には一瞥もくれず、再び駆け出した。

 

しばらく迷宮内を駆け回り、時折遭遇する狼やウサギを瞬殺していると、ようやく探していた相手の姿を発見した。

 

 

探していた相手、爪熊は今まさにウサギの魔物を仕留め、喰らっている最中だった。

 

爪熊の姿を確認したハジメは、ニヤリと笑って爪熊に向かって歩き出す。

 

 

数日、この階層を探索して分かったことがある。

 

それは、爪熊はこの階層における最強の魔物であり、この一頭しか存在しないということ。

 

数多く生息する狼やウサギとは違う。

まさしく、爪熊はこの階層の『主』とも言える存在だった。

 

 

ハジメはそんな存在に自ら近付き、声をかけた。

 

「――よう、爪熊。久しぶりだな。俺の腕は、美味かったか?」

 

 

爪熊は、その声に振り返り、一瞬硬直する。

 

 

そこに居たのは、白髪の男。

初めて見るはずの存在だったが、その雰囲気は、あの『理解不能な敵』を思い起こさせた。

 

数日前、自身に刻まれた嫌な記憶が蘇る。

最強である筈の己が、初めて『恐怖』を感じたあの時の出来事を。

 

だが、それも一瞬のこと。

直ぐに目の前の存在はあの時の人間とは違うと判断し、睨みつける。

 

 

しかし、目の前の存在はそんな視線を受けてもなお、不敵な笑みを崩さない。

 

「リベンジマッチだ。……まずは、俺がお前の獲物ではなく、敵だという事を理解させてやるよ」

 

そう宣言して、ハジメはドンナーを抜き、銃口を真っ直ぐに爪熊へ向ける。

 

 

「――殺して、喰ってやる」

 

――ドパンッ!

 

次の瞬間、大きな炸裂音を響かせながら、超高速で飛来する弾丸が爪熊に迫る。

 

 

「――グォウ!?」

 

嫌な予感を感じた爪熊は、咄嗟に地面へ身を投げ出してその銃撃を回避しようとする。

 

二メートル以上ある巨体に似合わない反応速度だが、完全には避け切れなかったため、銃弾によって肩の一部が抉れ、白い毛皮を鮮血で汚している。

 

 

「――グァォオオ!!」

 

 

瞳に怒りを宿した爪熊は、咆哮を上げながら突進してくる。

 

爪熊から凄まじいプレッシャーが発せられるが、ハジメの不敵な笑みは崩れなかった。

 

 

「クハハ!! そうだ、俺は敵だ!! ただテメェに狩られるだけの、獲物じゃねぇぞ!!」

 

 

突進してくる爪熊に向けて、再度ドンナーを発砲する。発砲音の後、弾丸が爪熊の眉間に向かって飛ぶが、爪熊は突進しながらもその巨体を捻り、弾丸を回避した。

 

そうしてハジメの元に辿り着いた爪熊は、突進した勢いのままに腕を振るう。

 

固有魔法を発動しているのか、三本の爪の周囲が僅かに歪んでいる。

 

 

ハジメの脳裏に、かつて爪の攻撃範囲外だったのにも関わらず、両断されたウサギの姿が浮かんだ。

 

咄嗟に、ハジメは全力で後方に飛び退く。

 

すると、一瞬前までハジメがいた場所を風が通り過ぎ、触れてもいないのに三本の爪痕が刻まれた。

 

 

「――グルゥオオ!!」

 

獲物を逃がしたことに苛立つように、爪熊が咆哮を上げる。

 

 

逃げるハジメを追おうとする爪熊だったが、ふと足元から響いたカランという音に釣られて視線を向ける。

 

そこには深緑色の球体が転がっており、爪熊が足元に視線を向けた瞬間、カッと強烈な光を放った。

 

ハジメが、発光する『緑光石』を利用して作成した、《閃光手榴弾》である。

 

 

球体から発せられた強烈な閃光を直視したことで、爪熊は一時的に視力を失った。咆哮を上げ、両腕をめちゃくちゃに振り回してもがいている。

 

その隙を見て、ハジメはドンナーを爪熊に向け、即座に発砲する。

 

放たれた超速の弾丸は爪熊の左肩に命中し、左腕を根元から吹き飛ばした。

 

 

「グルゥアアアアア!?」

 

 

強烈な痛みに、思わず悲鳴を上げる爪熊。左肩からは、血が噴水のように噴き出している。

 

遅れて、吹き飛ばされた左腕がドサリと地面に落ちる音が響いた。

 

 

「――こりゃあ、偶然にしては出来過ぎだな」

 

 

別に左腕を狙った訳ではなかったが、かつて自身が左腕を奪われた相手に、同じ事をやり返した様な状況に思わず笑ってしまう。

 

ハジメは、未だに回復していない視力と痛みによって暴れる爪熊へとドンナーを向け、再度発砲する。

 

爪熊は混乱しながらもギリギリ反応し、弾丸を回避した。

 

 

「チッ、野生の勘ってやつか? ……なら、これはどうだ?」

 

ようやく視力が回復してきたのか、こちらを睨む爪熊に、ハジメは『右手の掌』を向けた。

 

バチバチ、と《纏雷》によって赤い雷を纏うハジメに、爪熊は思わず体を硬直させた。

 

雷を纏うその姿に、見覚えがあったから。

 

 

「グ、ルァ……!?」

 

爪熊に刻まれた、恐怖の記憶が蘇る。

あれは、あの男が使っていた――。

 

怯え始める爪熊に、ハジメはニヤリと笑って言葉を紡ぐ。

 

「――ザケル!!」

 

その言葉にビクッ、と体を縮こまらせる爪熊だが、何も起きない。

 

 

「――なんてな。くたばれ!!」

 

ハジメは、溜め込んだ雷を、地面へと放出する。

 

そこには、先程爪熊が流した血が、爪熊の足元まで広がっていた。

 

 

「――グルゥオオオ!?」

 

バチバチ、と音を鳴らしながら体を焼かれる爪熊。

 

当然、ハジメもこれだけで仕留められるなんて思っていない。

 

痺れて身動きが取れない爪熊の近くまで駆け、ドンナーを頭に押し当てる。

 

 

「――じゃあな」

 

 

――ドパンッ!!

 

 

放たれた弾丸が、爪熊の頭部を粉砕する。

 

かつて、ハジメの心をへし折った強敵は、ズシンと重い音を立てて地面へと倒れ伏すのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「……まさか、本当に上手くいくとはな」

 

あの後、ハジメは倒した爪熊の肉を食いながら、そう呟いた。

 

ハジメは、気付いていた。

爪熊が自身を認識した時に、一瞬怯えていたのを。

 

まるで、ハジメと誰かを見間違えたかの様なその表情を見て、ハジメはそうなった理由を察したのだ。

 

 

(……先を越されてたって訳か)

 

この奈落の底には、当然の如く人間は存在しない。

 

もし自分以外の人間がいるとしたら、それは――。

 

 

思わず、口角が上がる。

 

 

(――ま、そりゃそうだ。生きてるよな、アイツなら)

 

 

この奈落の底に落ちる前、あの石橋の上で最後まで自分を助けようとしてくれた『家族』の存在に、心が暖かくなる。

 

ハジメは、黙々と爪熊の肉を食いながら、久しぶりに感じる暖かい気持ちに浸るのだった。

 

 

 

「さて、と。お待ちかねのステータス確認だ」

 

あの後、爪熊の肉を食い尽くしたハジメは、ステータスプレートを取り出していた。

 

 

 

======================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

 

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:500

魔力:450

魔耐:450

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]、魔力操作、胃酸強化、纏雷、天歩[+空力][+縮地]、風爪、言語理解

 

======================

 

 

 

「へぇ……。こりゃまた、随分とステータスが伸びたな」

 

全ての数値が50以上も伸びている。特に、身体能力に関する項目は上昇量が凄まじい。

 

「『風爪』……これが、見えない攻撃の秘密ってことか」

 

試しに使ってみると、腕に風が纏われた。そのまま腕を振るうと、風の刃が飛んでいく。

 

(どうやら足でも発動できるようだし、これは使い勝手が良い技能だな)

 

 

しばらく『風爪』の使い心地を確かめた後、俺は地上への道を探すべく、探索を再開するのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「……これで、最後の通路を調べ終わったか」

 

あれから数日、この階層を探索していたハジメは、この階層には上へと繋がる道は存在しない、と結論付けていた。

 

先程、この階層内にある全ての通路を調べ終わったが、上の階層へと続く道は見つからなかった。

 

 

あるのは、今目の前に口を開けている、明らかに下へと向かう階段のみ。

 

(――思い付く可能性は幾つかあるが、最悪なのは……)

 

この奈落の底における、一番奥の階層まで辿り着いたら地上へと帰れるというもの。

 

 

「……ハッ、上等だ。何が来ようと、俺の邪魔をするなら、殺して喰ってやるよ」

 

 

そう呟くと、ハジメはニヤリと笑い、先の見えない階段を降りていくのだった。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

という訳で、ハジメくん回でした。
実は、今話の展開は初期から考えていたものになります。ようやく書けたー。

ストックの進捗ですが、まぁ、うん……。
明日は投稿できますとだけ言っておきます。

では、次話もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。