今回は、ハジメくんのメイン回となりますので、ゼオンくんは登場しません。
迷宮に広がる暗闇の中、赤い光が辺りを照らす。
――バチバチィッ!!
「――ギュッ!?」
それは、雷撃であった。
不意打ちで打ち込まれた攻撃に、獲物であるウサギは悲鳴を上げるが、直ぐに術者へ蹴りを叩き込むため、動き出す。
だが、雷撃によって鈍った動きは、この場にいる『捕食者』にとってはあまりに遅すぎた。
「――遅ぇんだよ」
――ドパンッ!!
直後、凄まじい轟音を伴って放たれた『弾丸』が、ウサギの頭を吹き飛ばす。
ウサギの体は一瞬ビクリと震え、そのままドサリと地面に倒れ込んだ。
「――よし、飯確保だ」
ウサギの死体を抱えた男――南雲ハジメは、自らの拠点へと向かって歩いていくのだった。
◆◇◆
「……ウサギ肉つっても、マズイことには変わりねぇな……」
現在、ハジメは《錬成》にて作成した拠点で、先程狩ったウサギの肉を喰らっていた。
かつて自分を見下していた魔物は、今やただの食料となっていた。
そんなハジメの容姿は、奈落の底に堕ちた時から、大きく変化していた。
まず髪の色が白くなっており、元々持っていた日本人特有の黒髪の面影は何処にもない。
体つきについても、身長が伸び、筋肉や骨格が太くなっている。見るからに強靭な体の内側には、薄っすらと赤黒い線が幾本か浮き出ている。
まるで、奈落の底に生息している魔物達のような見た目になっているのだ。
そして、変化したのは見た目だけではない。
「――さて、初めてウサギの肉を喰ったわけだが、ステータスはどうなってる?」
ハジメは、懐からステータスプレートを取り出して眺める。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12
天職:錬成師
筋力:200
体力:300
耐性:200
敏捷:400
魔力:400
魔耐:400
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]、魔力操作、胃酸強化、纏雷、天歩[+空力][+縮地]、言語理解
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明らかに、奈落の底へ落ちる前とは別格のステータスである。
更に、技能についても『錬成』と『言語理解』しか無かった初期から大きく変化していた。
ハジメがここまで急激にステータスを高める事ができたのは、魔物の肉を喰らったことが原因だった。
ゼオンが警戒していたように、人間にとって魔物の肉は猛毒である。
しかし、ハジメは長時間堪え続けていた耐え難い飢餓感によって、初めて仕留めた魔物である狼の肉を衝動のまま喰らったのである。
当然、体内に取り込んだ魔物の魔力がハジメの体を蝕んだが、幸か不幸かハジメは治癒効果の高い水、『神水』を持っていた。
魔物の魔力による肉体の崩壊と、神水の治癒効果による肉体の再生。
繰り返される破壊と再生によって、激しい苦しみを味わいながらもそれを乗り越えた時、ハジメの体はより強靭な形に生まれ変わったのだ。
「――『天歩』、ね。ついでに派生技能が二つも付いてるのは、なんか得した気分だな」
先程ウサギの魔物を喰らったことで、技能が追加されていた。更に、『空力』と『縮地』のオマケ付きである。
ちなみに、狼の魔物から手に入れたのは、『魔力操作』、『胃酸強化』、『纏雷』の3つである。
初めて魔物の肉を食べたからなのか、大幅にステータスも強化されたのを覚えている。
試しにそれぞれの技能を使ってみるが、制御が上手くいかず、地面や壁に激突する。
「――いてっ!? ……クソ、加減が難しいな……」
そう呟きながらも、ハジメは新しく手に入れた技能を使いこなすための鍛錬を始める。
――次の目標は、当然あの『爪熊』だ。
(――待ってろ。必ずテメェも殺して、喰らってやる)
気合を入れ直し、ハジメは鍛錬に集中していくのだった。
◆◇◆
あれから一日後、『天歩』を完全にマスターしたハジメは、その姿を霞ませる程のスピードで迷宮の通路を移動していた。
それは、とある相手を探すためだった。
一度、自身の心が折れた原因。
以前出会った時は、圧倒的な強さによって死を覚悟した敵。ハジメが探しているのは、爪熊であった。
(――アイツを殺して、ようやく俺は前に進める気がする)
「グルァア!」
移動している最中、狼の群れと遭遇した。
ハジメの姿を確認すると、先頭に居た一頭が飛び掛かってくる。
それを見たハジメは、右足の太ももに固定していた拳銃――『ドンナー』を抜き、発砲する。
――ドパンッ!
大きな破裂音が響き、こちらへ向かって来ていた狼の頭部が弾け飛ぶ。
先頭の狼が倒れるのには一瞥もせず、ハジメは残りの狼に向かって連続で発砲する。
装填されていた弾を全弾撃ち切る頃には、狼の群れは全滅していた。
戦闘とも言えない蹂躙が終了すると、ハジメは周囲を警戒しながらも素早くドンナーに弾丸を装填していく。
ハジメが『ドンナー』と名付けたこの拳銃は、全長約三十五センチメートルもある大型のリボルバー式拳銃である。
材質は、この辺りで最高の硬度を持つ『タウル鉱石』を使っている。また、弾丸もタウル鉱石で作成されており、中には粉末状にした『燃焼石』を圧縮して入れてある。引き金を引くと、衝撃を受けた燃焼石が爆発して弾丸を撃ち出す、という仕組みである。
更に、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法《纏雷》によって電磁加速させる事もできる。
さながら、小型のレールガンである。
ドンナーへの装填が終わると、ハジメは狼の死骸には一瞥もくれず、再び駆け出した。
しばらく迷宮内を駆け回り、時折遭遇する狼やウサギを瞬殺していると、ようやく探していた相手の姿を発見した。
探していた相手、爪熊は今まさにウサギの魔物を仕留め、喰らっている最中だった。
爪熊の姿を確認したハジメは、ニヤリと笑って爪熊に向かって歩き出す。
数日、この階層を探索して分かったことがある。
それは、爪熊はこの階層における最強の魔物であり、この一頭しか存在しないということ。
数多く生息する狼やウサギとは違う。
まさしく、爪熊はこの階層の『主』とも言える存在だった。
ハジメはそんな存在に自ら近付き、声をかけた。
「――よう、爪熊。久しぶりだな。俺の腕は、美味かったか?」
爪熊は、その声に振り返り、一瞬硬直する。
そこに居たのは、白髪の男。
初めて見るはずの存在だったが、その雰囲気は、あの『理解不能な敵』を思い起こさせた。
数日前、自身に刻まれた嫌な記憶が蘇る。
最強である筈の己が、初めて『恐怖』を感じたあの時の出来事を。
だが、それも一瞬のこと。
直ぐに目の前の存在はあの時の人間とは違うと判断し、睨みつける。
しかし、目の前の存在はそんな視線を受けてもなお、不敵な笑みを崩さない。
「リベンジマッチだ。……まずは、俺がお前の獲物ではなく、敵だという事を理解させてやるよ」
そう宣言して、ハジメはドンナーを抜き、銃口を真っ直ぐに爪熊へ向ける。
「――殺して、喰ってやる」
――ドパンッ!
次の瞬間、大きな炸裂音を響かせながら、超高速で飛来する弾丸が爪熊に迫る。
「――グォウ!?」
嫌な予感を感じた爪熊は、咄嗟に地面へ身を投げ出してその銃撃を回避しようとする。
二メートル以上ある巨体に似合わない反応速度だが、完全には避け切れなかったため、銃弾によって肩の一部が抉れ、白い毛皮を鮮血で汚している。
「――グァォオオ!!」
瞳に怒りを宿した爪熊は、咆哮を上げながら突進してくる。
爪熊から凄まじいプレッシャーが発せられるが、ハジメの不敵な笑みは崩れなかった。
「クハハ!! そうだ、俺は敵だ!! ただテメェに狩られるだけの、獲物じゃねぇぞ!!」
突進してくる爪熊に向けて、再度ドンナーを発砲する。発砲音の後、弾丸が爪熊の眉間に向かって飛ぶが、爪熊は突進しながらもその巨体を捻り、弾丸を回避した。
そうしてハジメの元に辿り着いた爪熊は、突進した勢いのままに腕を振るう。
固有魔法を発動しているのか、三本の爪の周囲が僅かに歪んでいる。
ハジメの脳裏に、かつて爪の攻撃範囲外だったのにも関わらず、両断されたウサギの姿が浮かんだ。
咄嗟に、ハジメは全力で後方に飛び退く。
すると、一瞬前までハジメがいた場所を風が通り過ぎ、触れてもいないのに三本の爪痕が刻まれた。
「――グルゥオオ!!」
獲物を逃がしたことに苛立つように、爪熊が咆哮を上げる。
逃げるハジメを追おうとする爪熊だったが、ふと足元から響いたカランという音に釣られて視線を向ける。
そこには深緑色の球体が転がっており、爪熊が足元に視線を向けた瞬間、カッと強烈な光を放った。
ハジメが、発光する『緑光石』を利用して作成した、《閃光手榴弾》である。
球体から発せられた強烈な閃光を直視したことで、爪熊は一時的に視力を失った。咆哮を上げ、両腕をめちゃくちゃに振り回してもがいている。
その隙を見て、ハジメはドンナーを爪熊に向け、即座に発砲する。
放たれた超速の弾丸は爪熊の左肩に命中し、左腕を根元から吹き飛ばした。
「グルゥアアアアア!?」
強烈な痛みに、思わず悲鳴を上げる爪熊。左肩からは、血が噴水のように噴き出している。
遅れて、吹き飛ばされた左腕がドサリと地面に落ちる音が響いた。
「――こりゃあ、偶然にしては出来過ぎだな」
別に左腕を狙った訳ではなかったが、かつて自身が左腕を奪われた相手に、同じ事をやり返した様な状況に思わず笑ってしまう。
ハジメは、未だに回復していない視力と痛みによって暴れる爪熊へとドンナーを向け、再度発砲する。
爪熊は混乱しながらもギリギリ反応し、弾丸を回避した。
「チッ、野生の勘ってやつか? ……なら、これはどうだ?」
ようやく視力が回復してきたのか、こちらを睨む爪熊に、ハジメは『右手の掌』を向けた。
バチバチ、と《纏雷》によって赤い雷を纏うハジメに、爪熊は思わず体を硬直させた。
雷を纏うその姿に、見覚えがあったから。
「グ、ルァ……!?」
爪熊に刻まれた、恐怖の記憶が蘇る。
あれは、あの男が使っていた――。
怯え始める爪熊に、ハジメはニヤリと笑って言葉を紡ぐ。
「――ザケル!!」
その言葉にビクッ、と体を縮こまらせる爪熊だが、何も起きない。
「――なんてな。くたばれ!!」
ハジメは、溜め込んだ雷を、地面へと放出する。
そこには、先程爪熊が流した血が、爪熊の足元まで広がっていた。
「――グルゥオオオ!?」
バチバチ、と音を鳴らしながら体を焼かれる爪熊。
当然、ハジメもこれだけで仕留められるなんて思っていない。
痺れて身動きが取れない爪熊の近くまで駆け、ドンナーを頭に押し当てる。
「――じゃあな」
――ドパンッ!!
放たれた弾丸が、爪熊の頭部を粉砕する。
かつて、ハジメの心をへし折った強敵は、ズシンと重い音を立てて地面へと倒れ伏すのだった。
◆◇◆
「……まさか、本当に上手くいくとはな」
あの後、ハジメは倒した爪熊の肉を食いながら、そう呟いた。
ハジメは、気付いていた。
爪熊が自身を認識した時に、一瞬怯えていたのを。
まるで、ハジメと誰かを見間違えたかの様なその表情を見て、ハジメはそうなった理由を察したのだ。
(……先を越されてたって訳か)
この奈落の底には、当然の如く人間は存在しない。
もし自分以外の人間がいるとしたら、それは――。
思わず、口角が上がる。
(――ま、そりゃそうだ。生きてるよな、アイツなら)
この奈落の底に落ちる前、あの石橋の上で最後まで自分を助けようとしてくれた『家族』の存在に、心が暖かくなる。
ハジメは、黙々と爪熊の肉を食いながら、久しぶりに感じる暖かい気持ちに浸るのだった。
「さて、と。お待ちかねのステータス確認だ」
あの後、爪熊の肉を食い尽くしたハジメは、ステータスプレートを取り出していた。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17
天職:錬成師
筋力:300
体力:400
耐性:300
敏捷:500
魔力:450
魔耐:450
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]、魔力操作、胃酸強化、纏雷、天歩[+空力][+縮地]、風爪、言語理解
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「へぇ……。こりゃまた、随分とステータスが伸びたな」
全ての数値が50以上も伸びている。特に、身体能力に関する項目は上昇量が凄まじい。
「『風爪』……これが、見えない攻撃の秘密ってことか」
試しに使ってみると、腕に風が纏われた。そのまま腕を振るうと、風の刃が飛んでいく。
(どうやら足でも発動できるようだし、これは使い勝手が良い技能だな)
しばらく『風爪』の使い心地を確かめた後、俺は地上への道を探すべく、探索を再開するのだった。
◆◇◆
「……これで、最後の通路を調べ終わったか」
あれから数日、この階層を探索していたハジメは、この階層には上へと繋がる道は存在しない、と結論付けていた。
先程、この階層内にある全ての通路を調べ終わったが、上の階層へと続く道は見つからなかった。
あるのは、今目の前に口を開けている、明らかに下へと向かう階段のみ。
(――思い付く可能性は幾つかあるが、最悪なのは……)
この奈落の底における、一番奥の階層まで辿り着いたら地上へと帰れるというもの。
「……ハッ、上等だ。何が来ようと、俺の邪魔をするなら、殺して喰ってやるよ」
そう呟くと、ハジメはニヤリと笑い、先の見えない階段を降りていくのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
という訳で、ハジメくん回でした。
実は、今話の展開は初期から考えていたものになります。ようやく書けたー。
ストックの進捗ですが、まぁ、うん……。
明日は投稿できますとだけ言っておきます。
では、次話もよろしくお願いします。