ストック放出二発目です。早くも書き溜めていたストックが尽きました。
さて、20話目にして、ようやくあの子の登場となります。
「――ハジメ、なのか……?」
オレが思わず尋ねたその言葉に、目の前にいる白髪赤目の青年は、ニヤリと笑って口を開いた。
「――あぁ。……久しぶりだな、ゼオン」
その返事を聞いた瞬間、オレはハジメの元に駆け寄っていた。そして、オレと同じ位の背丈になった家族を抱きしめる。
「お、おい。いきなり何すんだ……」
文句を言いながらも抱擁を受け入れてくれたハジメに、オレは謝罪の言葉を口にする。
「……すぐに助けられなくて、すまなかった。――それと、生きていてくれて、ありがとう」
「…………おう」
オレ達は、この地獄の底のような迷宮の中で、再び出会えたことを喜ぶのだった。
◆◇◆
あれからオレ達は、情報共有するためにも、これまで自分がどうやってこの迷宮を進んできたかを話し合っていた。
「……なるほど、《錬成》で壁の中に避難していたわけか。……道理で見つからない筈だな」
「まぁな。結局、何日くらい壁ん中に居たかは覚えてねぇけど、『これ』が無かったら死んでただろうな」
そう言って、石の容器を取り出すハジメ。
その中には、青く輝く鉱石のようなものが入っていた。
どうやら、この鉱石から湧き出る水を飲むと、魔力が回復して傷も癒えるらしい。ハジメが左腕を無くしても生き残れたのは、この水のお陰なのだと。
「何にせよ、生きて合流できて嬉しいぞ。……それに、随分と強くなったようだな」
「まぁ、魔物の肉を食いまくったからな……。ステータスはそれなりに伸びてると思うぞ」
改めてハジメを見るが、奈落の底に落ちる前とは別格の強さを感じる。
魔物の魔力を取り込んだことによる、体の変質も理由ではあるんだろうが、何よりも変わったと思うのは、その精神だ。
ここまで奈落の底を生き抜いてきたからか、相当タフな精神力に鍛えられているようだ。口調まで変わっている。
(……正直、口調が荒くなったのは少し寂しい気もするが、どちらもハジメである事には変わりないからな)
「……? 何だよ?」
オレが、昔の可愛げがあったハジメを懐かしんでいると、視線に気づいたハジメが怪訝そうな顔で尋ねてくる。
「……いや、何でもない。――さて、思い出話はこのくらいにして、そろそろこの階層の探索を再会するか」
「……? あぁ、そうだな」
オレは話を切り上げ、再び巨大な扉に目を向ける。
ハジメも、オレの隣でこの巨大な扉を見上げて呟いた。
「でけー扉だな……。見たことねえ式の魔方陣があるし、相当古いやつか?」
「あぁ、神代までとはいかなくても、それなりに古い術式なのは間違いないだろう」
ハジメは興味深そうにペタペタと扉を触り、こちらへと向き直って尋ねてくる。
「……なぁ、この扉開けれないなら、《錬成》でこじ開けてもいいか?」
「……別に構わないが、まだ開けられないと決まったわけではないぞ? ……開けようとしたら石像達に邪魔されたからな」
「ふーん、まぁ開けばどっちでも良いだろ。んじゃ、いつも通り……《錬成》……ッ!?」
――バチッ!!
ハジメが脳筋っぽいことを言って扉に《錬成》を開始すると、突如扉に電撃が走ったため、思わずハジメは手を離した。
「クソッ、トラップか? 迂闊だったな……」
「……いや、無理やり開けられないためのプロテクトだろう」
ハジメが辺りを警戒するが、特に罠が作動した気配はない。
オレは、水筒から例の水を取り出して回復するハジメを尻目に、扉へと手をかける。
「大丈夫か? 手を焼かれるぞ」
「……これは勘だが、恐らく大丈夫だ」
オレは、扉の魔法陣に魔力を込めていく。しかし、先程のように放電は起こらなかった。
相当な量の魔力が必要なようで、オレの中の魔力がどんどん減っていく。
――ゴゴゴゴゴッ
もう少しでオレの魔力が半分ほど吸われると思ったタイミングで、扉が音を立てて開き始める。
「……マジか。……何でゼオンは開けられたんだ?」
「……さてな。とにかく扉は開いたんだ、中に入ろう」
疑問の声を漏らすハジメに答えながら、オレは扉をくぐって中の様子を伺う。
扉の中は暗く、殆ど何も見えなかったが、目に魔力を集中させて強化すると少しずつ全容が見えてきた。
そこは、まるで祭壇であった。
床や壁は、かつて聖教教会の大神殿で見た大理石のような物で出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいる。
そして、部屋の中央には巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光によって光沢を放っていた。
オレとハジメが警戒しながらも部屋に入っていくと、小さな声が聞こえた。
「――だれ?」
かすれた、弱々しいその声は、当然オレとハジメのものではない。
暗い部屋に目を凝らすと、部屋の中央に置かれている立方体から、何かが生えている。あれは――。
――そこには、幼い金髪の女の子がいて、垂れ下がった髪の隙間から見える真紅の瞳で、オレ達を見つめていた。
◆◇◆
「――人……なのか?」
暗い部屋に、ハジメの声が木霊する。
巨大な立方体から『生えていた何か』は、人間だった。
年齢は十二、三歳くらいだろうか。
随分やつれてはいるが、それでも美しい容姿をしていることが見て取れた。
紅い瞳の少女は、こちらをジッと見つめていた。
「……ゼオン、ちょっと来てくれ」
オレが吸い込まれそうなその瞳を見ていると、背中をハジメに突かれ、そのまま扉の近くまで引っ張られる。
オレとハジメが扉から一歩出たタイミングで、ハジメは少女に向かって軽く頭を下げ、口を開いた。
「――すみません。間違えました」
そう言ってそっと扉を閉めようとするハジメ。
それを見た金髪の少女が慌てたように、かすれた声で必死にこちらを引き止める。
「ま、待って! ……お願い! ……助けて……!!」
「嫌です」
そう言って、引き続き扉を閉めようとするハジメに、オレは思わず声を掛ける。
「……ハジメ、さすがにそれはどうかと思うぞ……」
「いやいや、あんな明らかに封印されているような奴を解放するなんて、絶対ヤバいだろ。見たところ、あの封印以外何もないみたいだし、脱出には役立ちそうもない。という訳で、見なかった事にする」
「アッ、ハイ」
……いや、まぁ、正論なんだが、あまりにも無慈悲なその行動に、オレは少し悲しくなった。
「ど、どうして……? なんでもする……だから……」
少女は必死に顔を上げ、懇願するが、ハジメは鬱陶しそうにするだけだ。
少女は、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。
「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」
関係ないとばかりに扉を閉めていくハジメに、オレが再度声を掛けようとした時、少女が発した言葉によって扉を閉めるハジメの手が止まった。
「――裏切られただけ!!」
しばしの時間が過ぎ、ハジメは扉を開き始めた。そして、苦虫を噛み潰した表情のまま、扉を全開にする。
オレはハジメの横顔を見て、その行動の理由を察した。
恐らくハジメは、自分とあの少女を重ねて見てしまったのだろう。
先程ハジメが言ったように、この少女を助けることはリスクが高い。嘘を吐いているようには見えないが、こちらを騙そうとしている可能性も当然あるのだ。
それでも、ハジメはこの少女の言葉を聞くことを選んだ。オレは、それを嬉しく思った。
「大丈夫だ、ハジメ。何があっても、オレが着いている」
「……ああ、そうだな」
ハジメの肩に手を置いてそう告げると、ハジメは頭を掻きながら、少女に歩み寄る。オレもそれに続くが、もちろん油断はしない。
「おい、お前。さっき裏切られたと言ったな? だがそれは、お前がここに封印された理由になってない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をこんな場所に封印したんだ?」
ハジメが戻って来て、質問を投げ掛けたことに驚いたのか、呆然とする少女。彼女はジッとハジメを見つめていたが、何も答えない姿にハジメがイラつき出したのを見て、慌てて封印された理由を語り始める。
必死にポツリポツリと語る少女の話を要約すると、彼女は先祖返りした吸血鬼で、かつてはとある国の王族だったらしい。
しかし、強すぎる力を持った彼女を恐れた叔父は、殺すことのできない彼女をこの迷宮に封印した。これが、少女がここにいる理由だった。
ハジメは少女の話を聞き、幾つか質問を投げ掛けている。その会話の中で、彼女も魔力を直接操る力を持っていることが分かった。
「――たすけて……」
考え込むハジメをジッと見つめながら、ポツリと少女が懇願する。
「……」
ハジメと少女がしばし見つめ合う。
はぁ、と一つ溜息を吐き、ハジメはガリガリと頭を掻きながら、少女を捕える立方体に手を置いた。
「良いのか? ハジメ」
オレは思わず口角が上がるのを抑え、答えが分かり切っている質問を投げかける。
「…………ああ、もう決めた」
少女がその言葉に大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して《錬成》を始めた。
バチリ、とハジメの魔力が立方体の上を駆け巡り、紅い輝きを放って部屋全体を明るく照らす。
直後、少女を縛る立方体がドロリと融解し、彼女を少しずつ開放していく。
やがて体の全てが解き放たれ、一糸纏わぬ少女は地面にペタリと座り込んだ。
オレは少女の裸体を隠すように外套を被せるが、少女は反応せずにジッとハジメを見続けていた。どうやら、今の彼女の意識は全てハジメに向けられているらしい。
だいぶ魔力を消耗したのか、肩で息をして座り込んでいるハジメに歩み寄り、手を差し伸べる。
「……立てるか、ハジメ?」
「ハァ、ハァ……。何とか、な。割と魔力を吸われたから、大分疲れたが……」
そう言ってオレの手を取ろうとしていたハジメの腕は、キュ、と横から伸びてきた手に掴まれる。
そこには、無表情だが瞳に喜びを溢れさせている少女がいた。彼女は口を開き、震える声で小さくともはっきりと言葉を紡いだ。
「――ありがとう」
ハジメの手を取り、ギュッと握る少女。
困惑するハジメも、その手を振り解いたりはしない。
オレは苦笑しながらも、しばらく二人がそうしているのを眺めていた。
(――それにしても……吸血鬼、か)
この世界の歴史書によると、吸血鬼とは数百年前に滅んだ筈の種族だ。
つまり彼女は、この世界における吸血鬼の、唯一人の生き残りであると言える。しかも、元は王族であったというのだからその希少性は推して知るべしだろう。
(……元王族、そして今はたった独りで世界に取り残されている……か。――フン、どこかで聞いた話だな)
つい、『どこかの誰か』と重ねてしまったが、すぐに気を取り直す。
そんな事を考えていると、少女がハジメに話し掛けていた。
「……名前、なに?」
ハジメは一瞬驚いたが、すぐに答える。
「――ハジメだ。南雲ハジメ」
少女はハジメ、と呟き、こちらに顔を向ける。
「……あなたは?」
どうやら、オレのことも認識してくれていたらしい。あまりにもハジメと二人の世界に入り込んでいるものだから、忘れられていると思っていた。
「ゼオンだ。よろしく頼む」
オレの言葉にコクリ、と頷いた彼女に、ハジメが尋ねる。
「……それで? お前の名前は?」
その言葉を聞いた少女は、しばし考え込んでから口を開いた。
「……名前、付けて」
「……は? ……付けるって何だ。まさか忘れたのか?」
困惑するハジメの問いに、少女はふるふると首を振って答えた。
「――もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前が良い」
「……そうは言ってもな……」
悩むハジメの顔を、少女は期待するような目で見ている。そんな視線を受けたハジメは、少し考えて彼女の新しい名前を告げた。
「――『ユエ』、なんてどうだ? ……ネーミングセンスないから、気に入らないなら別のを考えるが」
「ユエ? ……ユエ……ユエ……」
オレは、ハジメが付けた名前の由来を理解した。
「……なる程、『月』か。良いんじゃないか?」
「ああ。……ユエって言うのはな、俺達の故郷で『月』を表すんだよ。お前のその金髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんだ。……どうだ?」
名前の由来を聞いた少女――ユエは、嬉しそうに瞳を輝かせた。
「――んっ。今日からユエ。……ありがとう」
「……おう。まぁそれよりも、取り敢えずは……」
「……?」
言い辛そうに言葉を濁すハジメに、ユエは首をかしげていた。
「……ちゃんと、服は着てくれ……」
オレが被せた外套をはだけさせ、大きく肌を露出させるその姿に耐えきれずにハジメは呟く。
その言葉に、自分の姿を確認するユエ。
わざとらしく体を隠して、言葉を放った。
「――ハジメのエッチ」
「…………」
言い訳はしないものの、納得いかない表情をしているハジメを尻目に、オレは思わず心の中で呟く。
(……何だ、この状況)
――何とも締まらないが、こうしてオレ達に新たな同行者、『ユエ』が加わるのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
という訳で、正妻不死身魔法砲台系ヒロインことユエさんの登場回でした。
今後のゼオンくんとの関係性もある程度考えているので、上手く表現していければと思ってます。
では、次話もよろしくお願いします。