ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。

なんと、評価に色がつきました!!
本当にありがとうございます。感謝しかありません。

評価や感想はもちろん、お気に入りやしおりの登録も、ありがとうございます。とても励みになっています。

これからも頑張って書いていきますので、本作をよろしくお願いします。


LEVEL.19 ユエの実力

 

気を取り直して、オレとハジメは仲間に加わった吸血鬼の少女――ユエと共に、奈落の底から脱出するために行動を再開した。

 

 

「――ユエ、歩けるか?」

 

オレの言葉にコクリと頷いたユエは、ハジメの腕にしがみつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 

先程ユエを開放するために魔力を消耗したハジメは、水筒から取り出した回復水で失った魔力を回復させている。

 

 

「とりあえず、この部屋を出るぞ。外には魔物がいるが、ハジメの《錬成》を使えば拠点が作れるからな」

 

オレは、薄暗いこの部屋から出ることを提案する。

 

ユエの精神衛生的にも、良い思い出のないこの部屋からは早く出たほうが良いだろう。

 

 

「ああ、そうだな。……んじゃ、行くか」

 

回復水を飲んで一息ついたハジメも、オレの言葉に賛同する。

 

 

オレ達は部屋の外に出るべく、扉の方へと歩いて行く。

 

 

しかし、オレ達が扉へと近付いた瞬間、扉に刻まれていた魔法陣がカッと輝き、自動的に扉が動き出す。

 

「何ッ!?」

 

 

慌てて駆け寄るが、無慈悲にも扉は閉められ、部屋は暗闇に包まれた。

 

「――クソッ、罠か!?」

 

「ハ、ハジメ……」

 

焦るハジメと、不安そうなユエの声が聞こえる。

 

オレは瞳に魔力を込めて視界を確保しようとするが、その前に部屋に明かりが現れる。部屋の中に幾つも建てられた柱に埋め込まれた石が、次々と淡く発光し始めたのだ。

 

薄暗くはあるものの、あっという間に封印部屋の全体が照らされる。

 

 

すると、オレ達は部屋の奥――ユエが囚われていた立方体に隠れて今まで見えていなかった壁に、巨大な魔法陣が刻まれているのに気が付いた。

 

それを認識した直後、壁一面に描かれた魔法陣が白く輝き出す。

 

 

「――この魔力は、オレの……。クソッ、扉を開けるだけであんなに魔力を吸われたのは、これが目的か!」

 

そこから感じる魔力の正体を知り、オレは歯噛みする。

 

そして、この部屋を作った奴は、この罠を作動させる事まで計画していたのだと悟る。

 

 

どんどん輝きが強くなる魔法陣。

そして、魔法陣の中から一体の魔物が姿を表す。

 

 

それは巨大なサソリのような魔物だった。

 

四本ある長い腕の先には巨大なハサミを持ち、二本生えている太い尻尾の先端には、鋭い針が付いている。

 

 

オレとハジメはその魔物を視界に入れた瞬間、最大限に警戒を強める。明らかに、奈落の底に生息する魔物の中でも一線を画した強さを感じたから。

 

 

この罠は、オレやハジメが一度部屋の外に出た時は発動しなかった。恐らくは、ユエの封印を解くことが条件の一つだったのだろう。

 

封印を解いた侵入者を確実に殺し、ユエをこの部屋から逃がさないための仕掛けということだ。

 

 

「――キシャアアアア!!!」

 

 

巨大サソリが鳴き声を上げ、こちらを威嚇してくる。

 

 

「……上等だ。俺の邪魔をするつもりなら、殺して喰ってやるよ」

 

殺気を放ちながら戦闘態勢に入るハジメ。

今にも飛び出しそうな姿に、オレは声を掛ける。

 

「待て、ハジメ。今回はオレが前衛を務める。ハジメは後ろでユエを守りつつ、オレの援護をして欲しい」

 

「あぁ? ……一人で相手できんのかよ? 俺も前に出たほうが……」

 

「ユエを守る役が必要だ。防御に関しては、オレよりもハジメの方が適任だからな。それに――」

 

 

――バゴンッ!!

 

《縮地》で巨大サソリの懐に移動し、思いきり蹴り上げる。

 

 

「――オレは、接近戦の方が得意なんでな」

 

いきなり蹴り上げられ、腹を晒す巨大サソリに掌を向けて、オレは呪文を唱える。

 

「――テオザケル!!」

 

 

掌から放出された極大の雷撃が、巨大サソリに直撃する。

 

「――キシィイイイ!?」

 

 

雷によって体を焼かれ、悲鳴を上げる巨大サソリは、そのまま吹き飛ばされて壁に激突する。

 

 

巨大サソリが吹き飛んだ方向を警戒しながらも、チラリとハジメの方を確認する。

 

ハジメはユエを肩に担いで扉付近まで避難すると、ポーチから回復水を取り出し、ユエの口に突っ込んでいた。

 

体に活力が戻ったのだろう。

不思議そうに立ち上がるユエを確認し、ハジメはユエを背にするように立って巨大サソリの吹き飛んだ方へ銃を向ける。

 

 

そこまで確認した時、巨大サソリが起き上がり、尻尾の先をこちらに向けて紫色の液体を噴射してきた。

 

それを飛び退いて避け、オレは巨大サソリを見やる。

 

先程の雷撃によって体中の至る所から煙を上げているが、まだまだ元気そうである。

 

(――さすがに硬いな。『テオザケル』でもこの程度のダメージか。純粋な威力であの装甲を抜くには、『ザグルゼム』を二、三発は撃ち込まないとダメそうだな)

 

 

「――キシュアア!!」

 

巨大サソリが怒ったように振り回してくるハサミを避けつつ、オレは再び呪文を唱える。

 

 

「ザグルゼム!!」

 

 

放たれた雷の球体が、巨大サソリの胴体に向かって飛ぶ。

 

巨大サソリが振り払う様に『ザグルゼム』へと腕を振り回すと、ハサミに『ザグルゼム』がぶつかり、淡く光りだす。

 

 

それを見たオレは、巨大サソリの腕を避けながら攻撃のタイミングを見計らう。すると、大きな破裂音が部屋に響いた。

 

――ドパンッ!!

 

 

ハジメの『ドンナー』が放った銃弾が、巨大サソリの腕を弾き飛ばした。しかし、流石に一発では破壊することはできない。

 

だが今の状況では十分すぎる援護だ。

オレは銃弾によって弾かれ、無防備に持ち上がった『発光するハサミ』に向かって呪文を唱える。

 

 

「――ザケルガ!!」

 

一直線に進む雷がハサミに直撃し、激しい光を放つ。そして――。

 

 

――バギィンッ!!

 

 

強化された『ザケルガ』により、大きな音を立ててハサミが砕け散った。

 

「――キシュアアア!?」

 

 

悲鳴を上げた巨大サソリが滅茶苦茶に暴れ出したため、オレはハジメの元に一旦下がる。

 

 

「やるじゃねーか。あの甲殻をぶっ壊すとはな」

 

「ハジメこそ、良い援護だった。――それよりも、これから奴は『ザグルゼム』を警戒するだろう。普通に撃っても避けられる可能性が高い。数秒程、奴の意識をオレから逸らすことはできるか?」

 

「……ああ、任せろ。ヤツにも効果がありそうな、とっておきのがある」

 

「――よし、次にオレが攻撃を仕掛けた後、タイミングを見て仕掛けてくれ」

 

「了解だ」

 

 

手早く会話を済ませ、オレは再び巨大サソリの元へと駆け出す。奴はオレが向かって来たことに警戒しているようだ。

 

(――まずは、反応を見てみるか)

 

オレは巨大サソリに向かって駆けながらも、掌を向けて呪文を発動する。

 

 

「ザグルゼム!!」

 

掌から放たれた雷の球が、巨大サソリに向かう。

 

 

「――キシィッ!!」

 

巨大サソリはそれを見ると、八本もある足をギチギチとしならせ、その巨体に見合わない素早さで跳躍した。

 

それによって、『ザグルゼム』は奴の真下を通り過ぎていく。

 

 

(――よし、予想通りの動きだ。奴は『ザグルゼム』を警戒している)

 

ズシン、と地面を揺らしながら着地した巨大サソリは、残った三本の腕でオレに連続攻撃を仕掛けてくる。

 

 

――ガチンッ!!

 

オレの真横で音を鳴らして閉じるハサミ。

次々と振るわれる腕に、避け続けるのは難しくなってくる。

 

 

――ドパンッ!!

 

オレが避けきれない腕はハジメが銃撃で弾いてくれているが、このままでは防戦一方だ。

 

オレは一旦距離を取り、巨大サソリに掌を向ける。

 

 

(まずは、奴の動きを抑える)

 

あれだけ暴れられては、ハジメの攻撃は巨大サソリに上手く当たらないだろう。オレを追ってこちらに向かってくる敵を見据え、呪文を唱える。

 

 

「――ガンレイズ・ザケル!!」

 

放たれた電撃の弾丸が、巨大サソリへと襲い掛かる。次々と放たれる電撃を受けた奴は、一発の攻撃力は低いと判断したのか、ジッと動かず、耐える体勢に入った。

 

 

――ガギッギギギンッ!

 

硬い甲殻によって『ガンレイズ・ザケル』は弾かれているが、奴の足止めには成功した。

 

すると、後ろからハジメの声が飛んでくる。

 

「――よし、ゼオン!! そいつから離れろ!!」

 

 

その声に従ったと同時、巨大サソリに向かって何かが投げ付けられる。

 

それは巨大サソリへと当たる直前に空中で爆ぜ、中から燃える黒い泥を撒き散らす。

 

 

「――キシィイイイ!?」

 

絶叫を上げ、自身へと付着した燃える泥を落とそうと藻掻く巨大サソリ。今の奴には、オレのことなど意識から外れているだろう。

 

オレは、藻掻く巨大サソリに掌を向け、呪文を唱える。

 

「ザグルゼム!!」

 

 

放たれた『ザグルゼム』は巨大サソリの胴体に向かうが、直前でこちらに気付いた巨大サソリが咄嗟に腕で体をかばった。

 

腕に『ザグルゼム』が当たり、淡く発光し始める。

 

 

オレは一気に畳み掛けるため、再度巨大サソリへと接近して呪文を唱える。

 

「――ザケルガ!!」

 

 

己に向かってくる電撃を認識した巨大サソリは、先程ハサミを砕かれたことを思い出したのか、素早く跳躍して『ザケルガ』を避けた。

 

それを見て、オレはニヤリと笑う。『予定通り』だ。

 

 

巨大サソリの真下を突き抜けていく『ザケルガ』は、そのまま直進して『淡く輝く柱』に当たる。

 

すると柱がカッと強く輝き、『ザケルガ』が『巨大サソリの方向』へと跳ね返った。

 

 

「――キシッ!?」

 

避けた筈の攻撃が、下から迫って来たことに混乱する巨大サソリだが、空中では上手く身動きが取れない。

 

オレが放ったときよりも強大になった『ザケルガ』は、軌跡上にあった巨大サソリの足を数本吹き飛ばしながら、先程『ザグルゼム』を当てた腕に直撃して、根本から消し飛ばした。

 

 

――これが、『ザグルゼム』が持っている効果の一つ。『電撃の連鎖誘導』だ。

 

『ザグルゼム』で強化された術は、別の『ザグルゼム』に引き寄せられる性質を付与される。

 

つまり、あらかじめ複数の『ザグルゼム』を地形等に打ち込んでおけば、攻撃の軌道を途中で変えられるのである。

 

当然、『ザグルゼム』に当たる度に術は強化されていくので、打ち込む数が多い程、攻撃力も高くなっていく。

 

 

 

「――キシュアアア!?」

 

一度に腕と足を数本失った巨大サソリは、上手く着地することが出来ずに地面へと墜落した。

 

 

オレは、更に追い打ちを掛けるべく、巨大サソリに向かって駆け出すのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「――凄い……」

 

ハジメの後ろに守られ、巨大サソリとの戦闘を見守っていたユエは、ゼオンとハジメの戦闘能力に驚愕していた。

 

戦闘が始まってから僅か数分で、圧倒的な威圧感を放っていた巨大サソリが地を這って藻掻いている。

 

 

そして何よりも驚いたのは、二人が攻撃を仕掛ける際に、魔法陣や詠唱を使用していないことだ。

 

 

ハジメは、見たこともない武器で閃光のような攻撃を放っていたが、魔法を発動した気配は感じられなかった。攻撃の直前、武器を持つ右手から魔力は感じられたが、それだけだ。

 

 

ゼオンの方は、もっと可笑しい。

明らかに魔法のような現象を引き起こしているのに、魔法陣や詠唱を必要としていない。一応、魔法名らしきものは唱えているが、威力や範囲なども自分で調整しているように感じた。

 

(詠唱破棄? ……でも、普通の人間は魔法陣もなしにそんなことできない)

 

 

辿り着いた結論は、二人が自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということ。

 

 

自分と『同じ』。そして、何故かこの奈落にいる。

 

ユエは、戦う二人の姿から、目が離せなかった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

巨大サソリに向かって駆けていたオレは、ゾワリと嫌な予感を感じ、咄嗟にその場を飛び退く。

 

――ズガガガガッ!

 

 

一瞬後、オレが先程まで居た場所に大量の太い針が突き刺さっていた。

 

思わず巨大サソリの方を見ると、尻尾の先端が針が突き刺さっている場所を向いている。

 

(……毒液だけじゃなく、針まで飛ばすのか。しかも、射出速度がかなり速い。近くにいる時に使われたら避けられないな)

 

 

オレがこちらを向いた尻尾を警戒していると、もう一本の尻尾がハジメ達の方を向き、その先端が膨らみ始めた。

 

 

「――ッ!? ハジメ、壁を張れ!! 狙われてるぞ!!」

 

「クソッ!? ――《錬成》!!」

 

 

――ズガガガッ!

 

間一髪、ハジメが作った石壁が針を防ぐ。

しかし、オレの方を向いていた尻尾からも針が射出される。

 

 

「――グッ!?」

 

咄嗟に地面へと伏せたお陰で殆ど避けられたが、肩に何本か掠ってしまった。

 

オレは巨大サソリから距離を取り、連続で放たれる針を避けていくが、このままではいずれ捉えられるだろう。

 

 

――ドパンッ!!

 

 

ハジメの援護射撃によって片方の尻尾が弾かれるが、やはり破壊することは出来ない。

 

オレは尻尾が弾かれたタイミングで直剣を抜き、呪文を唱える。

 

「――ラウザルクッ!!」

 

 

直後、光に包まれたオレの体が加速し、巨大サソリが放つ針の弾幕を避けながら接近する。

 

近付いてきたオレに向かって二本の腕が振るわれるが、体勢を低くすることで避けて奴の背後に回り込み、剣を振るう。

 

狙いはもちろん、奴の尻尾だ。

オレは硬い甲殻に覆われた尻尾の、関節部分に剣を差し込む。

 

 

――ブシュッ!!

 

青い体液を撒き散らしながら剣が肉に食い込むが、尻尾の半ば程で剣が止まる。

 

「――おぉおおっ!!」

 

オレは全身に魔力を込め、全力で剣を振るう。

 

 

――ズバンッ!

 

ようやく尻尾を切り落としたところで、もう片方の尻尾がこちらを狙っていることに気付く。

 

既に尻尾の先端は膨らんでおり、次の瞬間高速で針が発射された。

 

 

「――クソッ!?」

 

避けられないことを悟ったオレは、咄嗟に直剣と腕で急所を隠す。

 

 

――バキィンッ!!

 

頭を守った腕と、胴体をかばった直剣に針が直撃し、オレは吹き飛ばされる。

 

 

「――ガッ……!?」

 

壁に叩きつけられたタイミングで、体を包んでいた『ラウザルク』の光が消える。

 

肉体強化をしていたお陰で致命傷は避けられたが、ダメージは大きい。

 

更に、手に握った直剣を見ると、刀身全体にヒビが入り、半ばから折れていた。

 

 

ふらつきながらも立ち上がる。

先程はハジメが巨大サソリに攻撃していたので追撃はなかったが、既に満身創痍だ。

 

 

「クソ、マズイな……!」

 

オレとハジメの単体火力では、巨大サソリの硬い甲殻を抜くことは出来ない。

 

対して奴は、一撃でこちらにダメージを与えられるだけでなく、尻尾も片方残っているため、遠距離攻撃の手段もあるのだ。

 

 

この絶望的な状況を打開するべく、オレが頭を働かせていると、急激に高まる魔力を感じた。

 

思わずそちらを見ると、一人の少女がいた。

黄金の魔力を纏い、金髪を揺らめかせながら静かに巨大サソリを見つめる少女の姿に、オレは驚愕した。

 

 

「――ユエ……?」

 

 

そこにいたのは、ハジメによって救われた吸血鬼の少女、ユエであった。

 

オレが驚いている間にも彼女の莫大な魔力が収束していき、部屋に彼女が発した声が響く。

 

 

「――《蒼天》」

 

 

――瞬間、部屋の中は青白い光によって照らされた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――時は少し前まで遡る。

 

ゼオンが巨大サソリの尻尾を切り落とす少し前、ハジメは《錬成》によって作成した壁にユエと共に隠れていた。

 

 

「……クソッ、あの針を連射されたんじゃ、上手く近づけねぇな」

 

今も前衛として戦っているゼオンの身を案じるハジメ。そんなハジメに、ユエがポツリと問い掛ける。

 

 

「……どうして?」

 

「あぁ?」

 

「どうして、貴方達は諦めないの?」

 

 

あれだけ強大な魔物にも臆せず、立ち向かう二人に対する疑問。怖くないのか。絶望しないのか。

 

それを聞き、ハジメは呆れたような表情を向ける。

 

 

「……何を今更。俺達は、絶対に生き残るって決めてんだよ。少し強い敵が現れたぐらいで、諦めたりしねぇ」

 

「……」

 

「それに、『この程度』の状況、慣れてんだよ。絶対にアイツをぶっ殺して、生きてここから出てやる」

 

 

ユエは、ハジメの言葉を聞いて納得したように頷き、ハジメに抱きついた。

 

 

「……は? ……え、どうした?」

 

 

こんな状況で、いきなり抱きついてきたことに動揺するハジメ。

 

だがそんなハジメには構わず、ユエはハジメの首に手を回す。

 

 

「……ハジメ、信じて」

 

 

そう一言呟いたユエは、ハジメの首筋に口付ける。

 

 

「――ッ!?」

 

 

次の瞬間、ハジメは首筋にチクリと痛みを感じ、ユエに噛み付かれたのだと理解した。

 

そして、体から力が抜き取られていくような感覚から、ハジメはユエが吸血鬼と名乗っていたことを思い出し、今まさに自分は吸血されているのだと理解する。

 

 

「キシュァアア!!」

 

 

そうこうしているうちに、ゼオンが巨大サソリに接近し、片方の尻尾を切り落としていた。

 

同時に、残った尻尾の攻撃によって吹き飛ばされたゼオンを援護するべく、ハジメはドンナーを巨大サソリに向かって発砲する。

 

 

それと同時に、ユエがハジメの首から口を離した。

 

どこか熱に浮かされたようにペロリと唇を舐めるその表情には、先程までのやつれた様子はなく、生気に満ちていた。

 

 

「……ごちそうさま」

 

 

そう一言告げると、ユエはすっと立ち上がり、巨大サソリに向けて片手を掲げた。

 

同時に莫大な魔力が小さい体から噴き上がり、黄金色の魔力光が暗闇を明るく照らす。

 

そして、ユエはただ一言、呟いた。

 

 

「――《蒼天》」

 

 

次の瞬間、巨大サソリの頭上に、奴の体を優に超える大きさの青白い炎の球体が発生し、巨大サソリを飲み込んだ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

オレは、目の前の光景に目を奪われていた。

 

 

突如発生した、青白い炎の球体が巨大サソリの体を焼き、奴に悲鳴を上げさせる。

 

 

「――ギュァァアアア!?」

 

 

何とか離脱しようとする巨大サソリだが、ユエが指揮者のように指を振るうと、魔法も巨大サソリに追従して動き、奴の体を焼き続ける。

 

 

しばしその光景が続き、青白い炎が消滅する。

そこには、全身の甲殻が赤熱化し、表面をドロリと融解させて悶え苦しむ巨大サソリがいた。

 

 

「――ッ! ハジメ、チャンスだ!!」

 

「――ああ!! 分かってる!!」

 

 

巨大サソリに向かって駆け出すオレとハジメ。

 

オレは巨大サソリに近付くと勢いそのままに跳び、奴の真上から呪文を唱える。

 

 

「――ザケルガ!!」

 

放たれた雷撃は赤熱化した甲殻を貫き、穴を開ける。

 

 

「――ギュァア!?」

 

 

悲鳴を上げる巨大サソリに、更に追い打ちが迫る。

 

オレの後ろに続いていたハジメが、ポーチから何かを取り出し、先ほど『ザケルガ』によって開いた穴に投げ込む。

 

 

――ゴバッ!!

 

 

爆発音が辺りに響き、巨大サソリの赤熱化した甲殻が内部から吹き飛ばされた。

 

「ギュ、ァアアア!?」

 

 

ここまでやっても巨大サソリは倒れず、腕と尻尾を振り乱してハジメを遠ざけるように動く。

 

 

――だが、もう終わりだ。

 

 

トン、と巨大サソリの背中に着地したオレは、空中で用意していた呪文を唱える。

 

 

「――テオザケル!!!」

 

 

甲殻が大きく削れ、露出している生身の部分へと、極大の雷が放たれる。

 

 

「――ギュァァアアア!?」

 

 

甲殻に守られている体の内側を焼かれ、巨大サソリが絶叫する。

 

 

やがて動かなくなった巨大サソリはゆっくりと傾き、地響きを立てながら崩れ落ちた。

 

 

「……はぁ、はぁ、ようやく終わったか……」

 

 

地面に着地したオレは、込み上げた疲労感から、思わず呟いた。

 

 

視線の先には、ハジメとユエが疲労と嬉しさを滲ませた表情でこちらを見つめている。

 

 

 

オレは、その表情に釣られるように笑いながら、二人の元へと歩き出すのだった。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

人数が増えた分、描写が難しいですね。
もっと皆を上手く動かせるように、表現力を磨いていかねば。

では、次話もよろしくお願いします。
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