ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

22 / 57
こんにちは。
今週こそ毎日投稿するため、ストックを溜めながらの投稿です。

今の所、執筆ペースは順調ですが、いけるだろうか……。

さて、今話は戦闘なしのほのぼの回になります。


LEVEL.20 三人での語らい

 

巨大サソリを打倒した後、オレ達は先程の戦闘による疲労で床に座り込んでいた。

 

 

オレとユエは、ハジメが差し出してくれた回復水で体力と魔力を回復する。

 

 

「……これは、凄いな。あれだけ傷を負っていた体が、こんなにもあっさり治るのか……」

 

「……ん、凄い。魔力も全快した」

 

回復水の効果に驚くオレとユエ。

ハジメもその言葉に頷きながら、回復水を飲んでいる。

 

「だよな。俺もこいつには何度も助けられたからな……」

 

 

オレは、先程の戦闘で折れてしまった直剣を見て、思わず後悔の念を漏らす。

 

「しかし、この剣には申し訳ないことをした。オレの技量が未熟だったばかりに……」

 

「……何か剣豪みたいなこと言ってるな、お前……」

 

何やらハジメが言っているが、曲がりなりにも剣を扱っている者として、自らの剣を折ってしまうなど恥以外の何物でもない。

 

 

そんなオレを見て、ハジメはとある提案をしてきた。

 

「そんなに惜しいなら、俺がその剣直すぞ?」

 

「……何? ハジメ、剣の修繕が出来るのか?」

 

「いや、何も本当に打ち直すわけじゃねぇけど……。《錬成》で砕けた部分を繋げて、形を整えるくらいなら出来るぞ。どうする?」

 

 

その言葉にオレは頷き、ハジメに剣の修復を頼むのだった。

 

「ハジメ、よろしく頼む」

 

「ああ。……それよりまずは、この部屋から出ないとな」

 

 

ハジメは、依然閉じたままの扉を一瞥する。

 

この部屋に仕掛けられたトラップの核である巨大サソリを倒したというのに、視線の先にある大扉は開いていない。

 

まさかこのまま出られないのでは、と思ったオレ達だったが、そんな心配は不要だった。

 

オレ達が立ち上がって扉に近付くと、扉に刻まれた魔法陣が一瞬光り、ゴゴゴと音を鳴らして開いた。

 

 

(……意外だな。外に出るための仕掛けも用意されているのか)

 

この部屋にユエを封印した人物が、ユエの封印を解いた侵入者を始末するために罠を仕掛けたんだとしたら、わざわざ外に出られる仕掛けを用意するだろうか?

 

どうしても侵入者を始末したいのであれば、絶対に扉が開かないようにすれば良い。そうすれば、扉を無理やり開ける力のないものは、自然とここで餓死するのだから。

 

だが、そんな仕掛けは無かった。

これでは、まるで――。

 

 

「おーい、ゼオン。何やってんだ、置いてくぞ―!」

 

既に扉の外へと無事に出たハジメとユエが、こちらを見ていた。

 

「……ああ、今行く!」

 

 

ハジメ達の後に続いて扉をくぐる直前、オレは振り返って呟いた。

 

「あんたがどんな思惑でこの部屋を用意したのかは知らん。だが……」

 

 

オレが最初に込めた魔力が尽きたのか、柱に灯っていた明かりが消えていき、徐々に部屋が暗くなっていく。

 

 

「――ユエは、オレ達がもらっていく」

 

 

去って行くオレ達の背後で、暗くなっていく部屋に残った魔法陣が、一瞬輝いた気がした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あの後、オレ達はハジメの《錬成》によって拠点を作り、そこで休憩していた。

 

 

一本道の行き止まりとなっている場所を《錬成》で広げ、椅子やらベッドやらを次々と作り出しているハジメの手際の良さに、オレとユエは脱帽していた。

 

「……いや、確かに拠点とは言ったが、ここまで本格的なものを作るとは……」

 

「……ん。ハジメ、手慣れすぎ」

 

 

見ているだけなのも悪いので、何か手伝えないかとハジメに尋ねたところ、さっきの封印部屋に残してきた巨大サソリの死体を持ってきてほしいとのこと。

 

(……そういえば、ハジメは魔物の肉を食べて強くなったと言っていたな)

 

今回も、あの巨大サソリの肉を食って力を取り込むつもりなのだろう。

 

 

つい先程、カッコつけて立ち去ったあの部屋に戻るのは微妙な気持ちだったが、あの巨大サソリの甲殻は有用な素材になると思い、オレとユエは封印部屋へと戻った。

 

 

戻って来た封印部屋の中には、先程と変わらず巨大サソリの死体が転がったままだった。

 

他の魔物に荒らされていなくて良かった、と安堵したオレは、巨大サソリの死体に近付いて思案する。

 

(さて、どうやって持ち帰るか……)

 

 

流石に、素の身体能力でこれを持ち上げるのは一苦労だろう。

 

ユエにも着いてきてもらったが、彼女はどう見ても魔法特化のステータスだ。あまり無理はさせられない。

 

 

(仕方ない、『ラウザルク』を使って、少しずつ運ぶか)

 

ここから拠点までは、『ラウザルク』一回の効果時間内に帰れる距離ではないので、何度か掛け直しが必要だろう。

 

 

「……よし、ユエはそっちの千切れた尻尾を持って来てくれ。サソリの本体は、オレが持って帰る」

 

 

オレがそう言ってユエに指示を出すと、ユエは不思議そうに首を傾げた。

 

「……何で? 絶対こっちのほうが重い。私も半分持つ」

 

「……いや、しかしだな……」

 

 

オレがユエにサソリの本体を持たせることに渋っていると、ユエの体から凄まじい魔力が溢れ、そのままサソリの足を掴んだ。

 

「……んっ」

 

ひょい、と擬音が聞こえそうな程にあっさりと、サソリの体が半分持ち上がる。

 

 

「……? ゼオン、そっち持って。早くハジメのとこに帰ろう」

 

「……あー、そうだな、うん」

 

 

とんでもない量の魔力による身体強化を見せられたオレは、気を取り直してサソリの下に入り込み、持ち上げる。

 

ユエのサポートもあってか、魔力による身体強化だけで運べそうだ。

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「ん、ハジメが待ってる。早く行こう」

 

 

早くハジメに会いたいのか、張り切るユエ。

その姿に苦笑しながらも、オレはユエと共に拠点に帰るのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

現在、オレ達は拠点にて火を囲み、飯を食っている。

 

 

ハジメは、焼いただけのサソリ肉へと豪快にかぶり付いていた。

 

「むぐ、むぐ……。まぁ、他の魔物よりはマシだな。美味くはねぇけど」

 

「あぁ。……こうして魔物の肉しか食えない生活をしていると、日本に居た頃の食事が恋しくて仕方ないな」

 

 

オレは、自分の魔力で炙った肉を口に入れながら、ハジメの言葉に同意する。

 

もう一ヶ月近く、魔物の肉しか口にしていないのだ。普通の食事が恋しくなるというものである。

 

 

「んぐ、んぐ……。……そういえば、ゼオンは知ってたか? この世界にも『かつお節』があるらしいぞ」

 

「……何? それは本当か、ハジメ」

 

「あぁ。西の海の沖合にある『エリセン』っていう海上の町が、漁業が盛んらしくてな。『かつお節』みたいな特産品もあるみたいだな」

 

雑談がてら、ハジメが切り出した話題に、オレは驚いた。流石に、この世界にも魚介類がいることくらいは知っていたが、地域の特産品などは調べていなかった。

 

 

(――となれば、『かつお節チップス』も作れるということか……)

 

かつて、食べすぎてハジメに止められた好物をまた食べられるかもしれない。そう思うと、体に活力が湧いてきた。

 

 

「――そうか……。ハジメ、絶対に生きてこの迷宮から出るぞ」

 

「お、おう……。何か、今までで一番気合入ってないか……?」

 

 

ちょっと引いているハジメの反応に、思わずオレが納得いかない表情をしていると、ハジメの隣りに座り、オレとハジメのやり取りを見ていたユエが、口を開いた。

 

「……二人は、兄弟なの?」

 

「……む?」

「……は?」

 

 

思わず疑問の声を出すオレとハジメに、ユエが言葉を続ける。

 

「……すごく仲が良さそうだし、見た目も似てる。……それに、二人共魔力を直接操れる」

 

その言葉を聞いたオレとハジメは、互いに顔を見合わせる。

 

 

確かに、容姿に関しては今のハジメとオレは似ているところがあるかもしれない。オレの白銀の髪に、ハジメの白髪。背丈も今は同じくらいだし、服装は王国に居た頃のままなので、同じようなデザインだ。

 

 

「……あー、俺とゼオンは、その……何というか……」

 

「オレとハジメは、家族だぞ」

 

なぜか言い淀むハジメに代わって、オレがユエの質問に答える。

 

 

「……ゼオン、お前には羞恥心がないのか?」

 

「……? 確かに血は繋がっていないが、家族だと言うことは恥ずかしくないぞ?」

 

「……あぁ、そういえばそんな感じだったな、お前……」

 

 

ガックリと肩を落とすハジメに、ユエが声を掛ける。

 

「……ハジメ、大丈夫」

 

「ユエ……」

 

「家族だというのは恥ずかしくない。あと、私は恥ずかしがってるハジメも嫌いじゃない」

 

「追い打ち止めてくれません!?」

 

 

ハジメは『天然二人に挟まれるとか、どうすりゃ良いんだ』と呟いていたが、オレ達はその後も談笑を続け、体を休めるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

食事も終わったので、オレ達は気を取り直してこれからの迷宮攻略に向けて準備を進めていた。

 

 

手始めに、オレとハジメはそれぞれステータスプレートを取り出して眺める。

 

現時点でのお互いの能力を共有するためだ。

 

まずは、オレのステータスから見る。

 

 

 

======================

ゼオン・ベル 17歳 男 レベル:35

 

天職:雷帝

筋力:2000

体力:2000

耐性:2000

敏捷:2000

魔力:4000

魔耐:3000

技能:雷属性耐性・物理耐性[+金剛][+物理耐性強化]・毒耐性[+治癒速度上昇]・麻痺耐性[+治癒速度上昇]・剣術[+斬撃速度上昇]・体術[+縮地]・槍術・杖術・魔力操作[+遠隔操作][+精密操作][+部位強化]・先読・高速魔力回復・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・気配遮断・威圧・言語理解

 

《使用可能呪文》

第一の術 ザケル

第二の術 ラシルド

第三の術 ジケルド

第四の術 ラージア・ザケル

第五の術 ザケルガ

第六の術 ラウザルク

第七の術 ザグルゼム

第八の術 ガンレイズ・ザケル

第九の術 テオザケル

 

======================

 

 

 

(……新しい呪文は、増えていないか)

 

目新しい変化は、ステータスと派生技能《物理耐性強化》が追加されたくらいだろうか。

 

レベルについては、30を超えてから全く上がらなくなっていたが、一気に5も上がっている。それだけ、あの巨大サソリが別格だったのだろう。

 

ステータスについては随分と伸びている。

レベルが上がり辛い分、上昇量が多いのだろうか。

 

 

「……何だ、このステータス。チートにも程があんだろ……」

 

オレのステータスを確認したハジメが、ゲンナリしつつそう呟いた。

 

『クソ、俺も大分上がったと思ったのに……』と呟くハジメだが、オレはハジメも大概だと思った。

 

 

そんなハジメのステータスが、こちらだ。

 

 

 

======================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:55

 

天職:錬成師

筋力:1000

体力:1200

耐性:1000

敏捷:1300

魔力:900

魔耐:900

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・言語理解

 

======================

 

 

 

最初のステータスからは考えられない程の成長だ。

全ステータスが初期値の100倍近い値になっていることから、その異常さが分かる。

 

それと、《錬成》が進化しすぎている。

派生技能を6つも獲得しているのだ。それだけ必死に《錬成》を鍛え続けてきたのだろう。

 

(……というか、技能の数は同じなんだが)

 

派生技能を含めると、オレとハジメの技能数は共に27個。同じ数である。

 

 

末恐ろしいのは、ハジメの天職は『非戦闘系』であるということだ。魔物の力を取り込んでいるからか、そんな事知らんとでも言うように、成長している。

 

一体どこまで強くなるのか……。

 

 

(オレも、負けていられないな……)

 

 

オレとハジメは互いの能力を確認し合い、今後の戦闘にどう活かすかを話し合っていった。

 

 

 

現状のステータス確認が終わり、次は武器だ。

 

オレは手持ちの剣が折れており、現在武器がない状態だ。

 

ハジメには『ドンナー』があるが、今後のために、もっと威力の高い武器を作るとのこと。

 

 

ハジメは、オレとユエが持ち帰った巨大サソリの甲殻を見て、何かに気付いたようだ。

 

戦いの跡が刻み込まれている甲殻に触れ、ハジメが《錬成》を行うと、形がぐにゃりと変形した。

 

 

「マジかよ……。これなら、最初から《錬成》しとけば苦労しなかったんじゃね―か……?」

 

思わずそう呟くハジメ。

どうやら、巨大サソリの甲殻は何らかの鉱石で出来ていたようだ。

 

 

ちょっと落ち込んだハジメだが、すぐに気を取り直し、作業に戻る。

 

「こいつがあれば……。悪いな、ゼオン。剣を修理するのは、先に俺の武器を作ってからでいいか?」

 

「ああ、それで構わない。オレの事は気にするな」

 

 

オレの返事を聞き、ハジメが嬉々として何かのパーツを作り始める。

 

そんな姿を見て、『そういえば、日本に居た頃もプラモデルとか好きだったな』と苦笑する。

 

 

オレとユエはハジメの作業を見守りながら、雑談した。時折ハジメも話に加わりながら、親交を深めていく。

 

話の内容は、主にユエの事だった。

 

彼女は十二歳の時、魔法の才を開花させたらしい。

その後、十七歳で吸血鬼族の王位に就き、二十歳の時に叔父に裏切られて封印された。

 

壮絶な人生だが、同情はしない。

ユエの反応からそれを望んでいないのは分かったし、オレやハジメに過去を打ち明けてくれたのだから、今はきっとそれで良いのだ。

 

 

話題は変わり、この迷宮についての話になった。

ユエは一度ここに封印されたのだから、帰る方法を知っているかと思ったが、その当ては外れた。

 

しかし、何も情報が手に入らなかったわけではない。

 

 

「――反逆者?」

 

「そう。……この迷宮は、反逆者の一人が作ったと言われてる」

 

 

ユエの話を要約すると、かつて神代に神へと反逆して世界を滅ぼそうとした七人の眷属がいたが、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走したのだという。

 

その逃げた先というのが、現在の『七大迷宮』といわれているらしい。

 

つまり、今オレ達がいる『オルクス大迷宮』もその一つであり、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われている……らしい。

 

 

「……そこなら、地上に繋がる道があるかも」

 

「……なるほど。神代の魔法使いが住んでいたならば、転移魔法で直ぐに逃げられるようにしていた可能性は高い、か」

 

 

オレとハジメは顔を見合わせ、同時にニヤリと笑った。

 

 

「――目指す場所は決まったな」

 

「――あぁ。この迷宮の、最深部を目指す」

 

 

オレ達は、ようやく見えてきた地上への帰還方法に、頬が緩むのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

その後も黙々と作業を進めるハジメ。

脱出する希望が見えたからか、その表情は明るい。

 

 

時折雑談しながら、作業を続ける。

その中には、ユエからの質問もあった。

 

「……ハジメ達は、どうしてここにいる?」

 

 

ピタリ、とオレとハジメの手が止まる。

 

 

――それは、当然の疑問だ。

 

そして、オレ達は生き残るために、『そんな事』を振り返っている暇はなかったのだ。

 

 

オレは、奈落の底へと落ちた原因を思い返す。

 

 

――頭上を無数の魔法が飛び交う石橋の上。

 

――誰かの魔法が直撃し、橋の外に吹き飛ばされるハジメ。

 

――ハジメを助けようとしたオレにも当たった魔法。

 

 

(…………)

 

 

――そして、こちらを見て嗤う、檜山大介。

 

 

(……仮に、奴がオレとハジメを陥れたとして)

 

 

当然、恨む気持ちはある。

 

だが、それはオレに攻撃したことではなく、ハジメを巻き込んだことに対してだ。

 

もしも、奴の動機がオレとの模擬戦に負けた事に繋がるのだとしたら、そんな下らん逆恨みにオレの家族を巻き込んだ奴には、――いずれ報いを受けさせる。

 

 

オレは、気を取り直し、ユエの質問に答えるべく口を開いた。

 

「――ユエ、それは……」

 

「――ゼオン、大丈夫だ。……俺から話す」

 

 

オレの言葉を遮り、ハジメがゆっくりとユエの質問に答えていく。

 

この世界に召喚されたことから始まり、ベヒモスとの戦いで裏切られて奈落の底に落ちたこと。奈落の底に落ちてからは、何度も死にそうになりながら、ここまで辿り着いたこと。

 

 

ハジメの話を聞いたユエは、ポロポロと涙を流していた。

 

「……ぐすっ……ハジメ、つらかった……私も、つらい……」

 

 

ユエは、ハジメに抱きついてしばらく泣くと、オレの方にも顔を向けてくる。

 

「……ゼオンも、ハジメと一緒に、落とされた……?」

 

「……あぁ。大体はハジメと同じだ。この五十階層で、ようやくハジメと合流できた」

 

「……そう、二人とも、生きてて良かった……」

 

 

そう言って涙を流すユエに、ハジメは声を掛ける。

 

「……ユエ、あんま気にすんな。俺はここに落とされたこと、あんまり気にしてねぇから。それよりも、生き残るために力を磨くことと、故郷に帰る方法を探すことに全力を注がねぇとな」

 

 

努めて明るく言うハジメに、オレは思わず口角が上がる。

 

――本当に、根っこの部分は変わっていない。

 

 

「……ハジメ、帰るの?」

 

「ん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。……色々変わっちまったけど、故郷に……家に帰りたい……」

 

「……そう」

 

 

ハジメの言葉に、ユエは顔を俯かせ、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない、から……」

 

 

暗い表情でそう言うユエに、ハジメは一瞬視線を彷徨わせ、口を開いた。

 

「……あー、何なら……ユエも一緒に来るか?」

 

「――え?」

 

 

その誘いに、しばし唖然としたユエは、小さく聞き返した。

 

「……いいの?」

 

「――ああ。……あっ、ゼオンは……」

 

 

オレは、このタイミングでこちらに話を振るハジメに苦笑しながらも、答える。

 

「オレも構わない。……というか、オレも居候の身だからな。ハジメが了承した以上、それで決まりだ」

 

 

その言葉を聞き、ユエは瞳をキラキラと光らせ、花のように笑った。

 

「……ハジメ、ゼオン……ありがとう」

 

 

 

――その後しばらくオレ達の間に会話はなかったが、その場に居た皆の顔は、今までで一番穏やかだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「――よし、全員準備は良いな?」

 

オレの言葉に、ハジメとユエが頷く。

 

 

あの後、オレ達は準備を整え、ここ五十階層から下に降りる階段の前にいた。

 

 

ハジメの背には、巨大サソリの甲殻で作られた対物ライフル――『シュラーゲン』が背負われている。

 

最大威力でドンナーの十倍近い威力が出る、とんでもない化け物ライフルである。

 

 

オレの腰には、修復された直剣が収められている。

ちなみに、ハジメが『シュラーゲン』や弾丸を作っても尚、巨大サソリの甲殻が余ったので、オレの剣にも混ぜ込んだのだ。

 

そのため、剣に魔力を込めると硬度が更に増すという、嬉しい効果が付与されている。

 

 

ユエは……特に変わらずだが、コンディションは万全のようだ。

 

 

「――よし、じゃあ行くか」

 

 

オレ達は、この奈落の底の最深部に向けて、攻略を再開するのだった。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

何だか打ち切りみたいな最後になりましたが、まだまだ終わりません。

次回以降は、少しだけ幕間のお話を挟んでから本編に戻ろうと思います。

では、次話もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。