ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

23 / 57
久しぶりの雫さん回です。
数えてみたら、登場するのは二週間ぶりでした。
時間の流れは速いなー。


【幕間】八重樫 雫②

 

――それは、『彼』が実家の道場に来て、まだ間もない頃の話。

 

 

その日の学校の授業が終わり、私は一人、家への帰り道を歩いていた。

 

男子達がはしゃぎながら、走って私を追い越していく。

 

その楽しそうな声を聞く度に、私の心は憂鬱になっていった。

 

それは、今日学校であった出来事が原因だ。

 

 

『――あっ、〇〇ちゃん! この間約束してた、新しいお人形見せてくれるって話、今日お家に行っても良い?』

 

私は、普段から仲が良かった友達に話し掛けた。

前から約束していた、その子が新しく買ってもらったという人形を見せてもらうために。

 

 

『……雫ちゃん。……ちょっと、家に来るのは止めてほしいかな』

 

『あ、そうなんだ……。じゃあ、明日……は稽古があるから、明後日はどう?』

 

 

その時の私は、今日は都合が悪いんだと解釈して、次に遊べる日を提案した。

でも、そんなのは関係なかったのだ。

 

 

『……違うの。……もう、雫ちゃんとは遊びたくないの』

 

『……え? ど、どうしたの? 私、何か怒らせるようなことした?』

 

 

困惑する私に、彼女は冷たい視線を向けてきた。

私が自覚していないことを責めるように。

 

 

『……だって、雫ちゃんって光輝くんと仲が良いんでしょ?』

 

『……え?』

 

『一人だけ光輝くんと仲良くなるようなズルい人とは、もう遊びたくないの。……じゃあね』

 

『え……ま、待って!!』

 

 

一方的に言いたいことだけ言って、彼女は去っていった。

 

そして、それ以降彼女は私に話し掛けることはなかった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

私は、あの後一人で家まで帰ってきた。

 

(……ズルいって、何がだろう)

 

『光輝くんと仲が良いんでしょ?』

 

あのとき言われた言葉が頭の中に蘇る。

 

 

光輝くんとは、ウチの道場に通っている天之河光輝のことだろう。

 

確かに、彼とはたまに話すし、私も彼の容姿はかっこいいとは思っている。

 

でも、別に付き合っている訳ではないし、同じ道場に通うただの友人という関係だ。

 

 

それが、あの子には気に入らなかったのだろうか。

 

 

私は、トボトボと歩き、道場の脇を通って家に入ろうとする。

 

すると、道場の方から物音が聞こえた。

 

(……? 今日は稽古はないはずだけど……)

 

今日は道場がお休みの日。

ウチの道場は、父がほぼ一人で指導していることもあって、週に数回はお休みがある。

 

 

だから、今日道場には誰も居ないはずだ。

 

気になった私は、こっそりと道場の稽古場へと向かい、音の正体を確かめた。

 

 

「……あれは、ゼオンくん?」

 

すると、そこには最近ウチの道場に通うようになった、銀髪の少年が居た。

 

 

彼は、誰も居ない道場で、一人黙々と剣を振っている。

 

その表情は真剣で、長い間訓練していたのか、顔には大量の汗が滲んでいた。

 

 

(……なんで、ゼオンくんが一人で道場にいるんだろう? お父さんも居ないみたいだし……)

 

稽古場に入って彼に問い詰めたい気持ちが湧くが、先日の試合から彼に対して苦手意識を持っていたため、中々踏み込めない。

 

 

「……はぁ、はぁ……。……ん?」

 

ふと、彼がこちらを向いた。

私は慌てて身を隠し、そのまま逃げるように自分の部屋へと帰るのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

次の日、学校から帰った私は、稽古へと参加して道場で剣を振っていた。

 

チラリ、と横目で彼――ゼオンくんを見る。

 

彼は、昨日と変わらず、真剣な表情で剣を振り続けていた。

 

 

(……昨日のは、結局何だったんだろう)

 

そのことが気になる私の耳に、他の門下生の声が届く。

 

「……ほら、アイツだよ。師範に贔屓されてるっていう、銀髪の外国人」

 

「……あぁ、アレか。頑張ってます、って顔で剣振りやがって。……新参者の癖に、生意気だな」

 

 

それは、彼のことを良く思わない人達の声。

道場の師範――私のお父さんが、彼を直接勧誘したことは、あの日道場にいなかった人の間にも噂として広がっていた。

 

 

「ていうか、知ってるか? ……アイツ、休みの日も勝手に道場使ってるらしいぜ」

 

「……はぁ? 何だよそれ、調子に乗りすぎだろ」

 

 

彼への悪い噂は日に日に増えていき、結果、彼は道場では孤立した存在になっていた。

 

――まるで、学校にいる時の私のように。

 

 

しかし、彼はそんな事は気にした素振りも見せず、その日も最後まで稽古に集中していた。

 

 

 

次の日、私が学校から帰ると、また彼が道場にいて、一人で剣を振っていた。

 

 

次の日も、次の日も、次の日も……。

 

稽古がない日でも、彼は道場に顔を出し、一人で剣を振り続けていた。

 

 

(……どうして、あんなに頑張れるんだろう?)

 

それは、純粋な疑問だった。

辛くはないのか。やめたくならないのか。

 

 

私は、小さいときから何度も剣道をやめたい、と考えたことがある。

 

正直、剣を握るよりもおままごとをする方が好きだったし、一週間の半分以上は稽古があるので、友達と満足に遊ぶことも出来ない。

 

 

それでも、私の剣の腕が上達する度に、父が嬉しそうにするので、やめることは出来なかった。

 

 

(彼は、どうして……)

 

私は、彼が何故あんなに頑張れるのか、知りたくなった。

 

そしてとある稽古のない日、私は思い切って彼に話し掛けたのだ。

 

 

「……ねぇ」

 

「……ん? お前は、八重樫……だよな。……オレに何か用か?」

 

 

不思議そうにこちらを見てくる彼に、私は尋ねる。

 

 

「……どうして、休みの日に道場を使ってるの?」

 

しかしそれは、私が本当に聞きたいことではなかった。私が咄嗟に口にしてしまった質問に対して、彼は納得したように頷き、答える。

 

「あぁ、そのことか。実は、師範に休日も道場を使用したいと頼んで、許可をもらってな。道具の持ち出しは禁止されているが、稽古場で鍛錬するだけならば構わないと言われた」

 

「……そう」

 

 

その言葉は、私の中で予想していたものだった。

噂では、彼が勝手に道場を使っている、なんて言われていたけど、そんな事を父が許す筈もない。

 

使用できているからには、父の許可を取っていると思っていた。

 

 

しかし、私が一番聞きたかったのは、そのことではない。

 

私は、今度こそ勇気を振り絞って、質問した。

 

 

「……貴方は、どうしてそんなに頑張れるの?」

 

「……何?」

 

 

私の問いに、怪訝そうな顔をする彼。

 

「……この道場にいる皆は、貴方のことを認めてない。貴方も、自分が孤立してることは分かってる筈。それなのに、どうして頑張ってるの?」

 

「…………」

 

 

彼は、私の言葉に対して一瞬考えると、口を開いた。

 

「八重樫、その質問に対するオレの答えはこうだ。――オレは、オレ自身のために剣を振っている。断じて、オレの事を好き勝手言っている奴らに気に入られるためではない」

 

「え……」

 

 

その答えは、当時の私が想像していなかったものだった。

 

なぜなら、私が剣を持っていたのは、父が褒めてくれるから、というのが理由だったのだから。

 

驚く私に、彼は言葉を続ける。

 

 

「八重樫は、オレの記憶のことを知っているか?」

 

「う、うん……記憶喪失だって……」

 

 

彼は、手に持った竹刀を見つめ、呟いた。

 

「オレが剣を握るのは、過去の記憶を取り戻すためというのが大きいんだ。……どうやら、以前のオレも剣を使っていたようだからな」

 

「……何か、思い出せたの?」

 

 

私の言葉に、彼は首を横に振る。

 

「……いや、今のところは何も。ただ、体は覚えてるのか、たまに懐かしい気持ちにはなるがな」

 

「……それは――」

 

 

その言葉を聞いて、私は目の前にいる彼に思っていたことを、口にしてしまった。

 

 

「――貴方は、辛くないの? ……それだけ頑張っても報われないなら、私は……逃げてもいいと思う」

 

 

どうして、結果が出るかも分からない事をそんなに頑張れるのか。

辛いなら、逃げても良いんじゃないのか。

 

そう言った私を、彼は真剣な表情で見つめる。

宝石のような紫の瞳が、キラキラと輝いていた。

 

 

「――これは、オレが自分で決めたことだ。だから、絶対に投げ出したりはしない」

 

 

少なくともオレの中で納得ができるまではな、と彼は続けた。

 

 

(――ああ……この人は、『強い人』だ)

 

 

きっと、私とは違う。

 

でも、私は真っ直ぐなその姿に強く憧れた。

 

 

(――いつか、私もこんな風になれるかな?)

 

 

この時の言葉は、私の胸に深く刻まれるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――コンコン、という何かを叩く音で目が覚める。

 

 

「……また、昔の夢……」

 

 

私、八重樫雫は懐かしい夢を見たことで、思わず呟く。

 

最近、こんな風に懐かしい夢を見るようになった。

 

彼に会いたいという気持ちが見せているのか、それとも無意識に現実逃避しているからか。

 

 

――ゼオン達がいなくなってから、一ヶ月程が経った。

 

あの日、香織と一緒にもっと強くなると誓った日から、随分と時間が経った。

 

あれから私達は、自分の力を鍛え、強くなる努力を惜しまなかった。

 

 

大多数のクラスメイト達は、『あの事件』がきっかけで戦うことに恐怖心が芽生えたのか、訓練にも参加してこない。

 

それに対して、良い顔をしなかった聖教教会は毎日復帰を促していたが、ある人物の声でそれは止まった。

 

 

その人物というのが、愛子先生だ。

 

戦う気のない生徒達へと戦うことを強制することに対して猛然と抗議し、遂には教会側もその要求を飲むまでに至った。

 

彼女の天職『作農師』は、この世界の食料関係を一変させる可能性すらある貴重なものだ。

教会側は、そんな彼女との関係が悪化することを避けたかったのだろう。

 

 

 

そんなことを考えていると、再びコンコン、という音が部屋に響く。

 

音のする方を見ると、ドアがあることから、誰かが扉をノックしていたらしい。

 

 

「……はい、どちら様ですか?」

 

私が返事をすると、大切な親友の声が聞こえてくる。

 

「あっ、雫ちゃん? おはよう。まだ時間まで余裕あるけど、ちょっと話したくて部屋まで来ちゃった」

 

「……香織? ……とりあえず、中に入って」

 

 

私は部屋の鍵を開け、香織を部屋に入れる。

 

 

「ありがとう、雫ちゃん。……あれ、その格好だと、今起きたのかな?」

 

「えぇ、ごめんなさい。少し寝すぎたみたいね。……時間はまだ大丈夫よね?」

 

「うん、まだ余裕あるよ。……フフ、珍しいね、雫ちゃんの方が起きるの遅いなんて」

 

「……ちょっと、夢を見ていたからかしら」

 

 

軽く雑談しながら、私は今日の準備を進める。

 

私達は今、『宿場町ホルアド』に宿泊している。

 

――目的は、『あの時』と同じだ。

 

 

「……いよいよだね。雫ちゃん」

 

「……えぇ。あれから私達は強くなった。……今回は、前回のようにはいかないわ」

 

 

改めて、決意を固める私と香織。

 

そう、今日から私達は再び『オルクス大迷宮』に挑戦するのだ。

 

 

「……南雲くん達のこと、絶対に見つけようね」

 

「……もちろん、言われるまでもないわ」

 

 

話しながらも、準備を整えていく。

 

やがて、装備の装着が終わり、髪を結び終えると、私は傍で待っていてくれた親友に声を掛ける。

 

 

「――お待たせ。じゃあ、行きましょうか」

 

「――うん、行こう」

 

 

 

――私達は、最悪の思い出が残る迷宮に向かうため、部屋を出ていった。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

雫さんの過去話はまだ続きます。
本当はもう少し先まで書く予定だったんですが、次回に持ち越しになりました。

それと、ゼオンくんの考え方ですが、雫さんが言っていた通り、『強い人』の考え方だよなぁと。
書いた私が言うのも何ですが、こんな考え方できる人あんまりいないと思います。

では、次話もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。