もう週末とは、私の執筆速度が遅すぎて笑えないですね。本当に毎日投稿している方は尊敬します。
――ドパンッ!!
赤頭が吐き出した炎の壁を避けた後、最初に反撃したのはハジメだった。
ハジメの持つ拳銃『ドンナー』が火を吹き、電磁加速された弾丸が赤頭に飛来する。
「クルォオオ!?」
放たれた弾丸は見事命中し、赤頭が悲鳴を上げる。
銃撃を受けた首から血が吹き出していることから、ハジメの攻撃はヒュドラに十分通用している。
向こうもハジメの事を危険と判断したのか、ハジメの動きを警戒しているようだ。
だが、こちらの戦力はハジメだけではない。
「――ザケルガ!!」
オレの掌から放たれた雷撃が、ハジメの攻撃で動きが鈍った赤頭に直撃する。
どうやらオレの魔法もこの怪物に通用するらしい。
赤頭の長い首がグラリと傾き、地面に墜落したのを見て確信する。
「――《凍雨》!!」
さらにユエがダメ押しとばかりに放った氷の針を無数に突き刺され、赤頭の動きが沈黙する。
『――よし、まずは一体。残りもこの調子で倒すぞ』
『――ああ、了解だ』
『――ん。当然』
頭の中に響くハジメの声に返事をする。
今のは、ハジメが新たに獲得した技能である《念話》によるものだ。
ハジメが指定した対象に思考した言葉を伝えることが出来るというもので、戦闘中の会話に便利な技能だ。
ただし、使用者を起点に発動するため、当然ながらハジメがいない場合には使えない。
「クルゥアア!」
オレ達が更に攻撃を仕掛けようとした時、周囲にヒュドラの鳴き声が響く。
鳴いていたのは、白い頭だった。
奴が鳴き声を上げると、地面へ倒れ伏していた赤頭が白い光に包まれる。
「……これはまた、厄介な相手だな」
思わずそう呟く。
光が収まると、赤頭の傷が消えていた。
まるで何事もなかったかのように頭を持ち上げ、こちらを睨んでくる赤頭。
どうやら、白頭は回復魔法を扱うらしい。
『――二人共、先にあの白頭を狙うぞ!!』
再度ハジメの《念話》が届き、オレ達は再び動き出した。
白頭に近付こうとするオレ達へ、青頭が口から大量に氷の矢を吐き出して牽制する。
オレとハジメはほぼ同時に《縮地》を使用することで氷の弾幕を潜り抜け、白頭を射程距離に収める。
ユエも、柱の陰に隠れて攻撃をやり過ごしていた。
「――喰らえ!!」
「――ザケルガ!!」
「――《緋槍》!!」
三人同時の攻撃が白頭に直進する。
しかし、白頭を庇うように射線に入った黄頭が、代わりにオレ達の攻撃を受け止めた。
先程一度倒した赤頭の耐久力を考えればタダでは済まないはずだが、黄頭には大した傷が付いていない。
攻撃が当たる直前に黄色の光を纏っていたことから、《金剛》に類似する能力を使ったのだろう。
「クソッ、盾役か!? 攻撃、防御、回復とバランスが良いことだな!!」
苛立ったハジメの声を遮る様に、赤頭と緑頭が火球と風の刃を乱射してくる。
オレとハジメは一旦仕切り直すため、ヒュドラから距離を取って回避に専念する。
オレは次々飛んでくる攻撃を回避しながらも、ヒュドラの様子を注意深く観察する。
既にヒュドラとは何度かの攻防を行ったが、未だに動きを見せていない紫と黒の頭が不気味すぎる。
その二頭は白頭と同様に後ろの方に陣取り、今の所こちらを睨み付けているだけだ。
今まで得た情報から、赤、青、緑が攻撃担当で、黄が防御担当、白が回復担当なのは間違いないだろう。
となると、紫と黒の役割は何だ?
『――クソッ、バカスカ撃ってきやがって。相当俺達を近付けたくないみたいだな』
『――それだけ警戒しているんだろう。だがもし近付けたとしても、あの盾を突破できる火力が必要だな』
オレ達は回避しながらも《念話》で作戦を練る。
三人の同時攻撃すら防ぐ強度を突破するのは難しいが、方法が無い訳じゃない。
『――ハジメ、シュラーゲンを使え。時間はオレが稼ぐ』
『――いいのか? しばらく援護できなくなるぞ』
『――大丈夫だ。ユエ、ハジメの援護は頼むぞ』
『――ん。任せて』
『――ったく、勝手に決めやがって……。了解だ』
作戦会議が終わると同時、ハジメはユエと合流するために下がっていく。
それを追う様に赤頭が首を伸ばす。
だが悪いな、それは止めさせてもらう。
「ラシルド!!」
直後、ハジメと赤頭の間に雷の盾が出現する。
「クルォオン!?」
赤頭はハジメを追っていた勢いそのままに盾に激突し、電撃によって顔を焼かれて絶叫する。
「――ラウザルク」
その隙に肉体強化の術を唱え、ヒュドラに向かって駆ける。
更に《縮地》も使用し、姿が霞む程の速度で突っ込んだオレは、赤頭の首を直剣で斬り付けた。
刃が当たる瞬間に強い抵抗を感じたが、構わず剣を振り抜いてそのまま切り裂き、傷口に剣を突き刺す。
「――――!?」
今までよりも大きな絶叫が辺りに響く。
どうやら相当痛かったらしい。
付けた傷は直ぐに回復されたが、全ての頭が怒りの籠もった目でオレのことを睨んでいた。
「――悪いな。少しの間付き合ってもらうぞ」
次の瞬間、オレに無数の攻撃が殺到する。
強化された身体能力を使い、全方位から飛んでくる魔法を避けて、弾き、耐え続ける。
『――ゼオン、準備できたぞ!!』
ハジメから《念話》で狙撃準備が整ったことが知らされた直後、ラウザルクの効果が切れる。
オレの速度が落ちたことでチャンスだと思ったのか、ヒュドラの攻撃が殺到してくる。
眼前に迫る攻撃に掌を向け、一瞬思考する。
(――テオザケルであれば、打ち消すことは可能だろう。だが、ここは――)
「ラシルド!!」
地面から現れた雷の盾が、無数の火球や氷の矢、風の刃を受け止める。
――ミシッ!!ビキッ!!
次々と放たれる攻撃を受け止めきれず、ラシルドにヒビが入るが、オレは間髪入れず次の呪文を唱える。
「ザグルゼム!!」
放たれたザグルゼムがラシルドに当たると、破壊された箇所が修復され、更に強大な盾となった。
強化されたラシルドは、ヒュドラの攻撃を全て受け止めると、電撃を纏わせて跳ね返す。
「クルォオオオオ!?」
自らが放った大量の魔法が帰ってきたことで、ヒュドラは悲鳴を上げて怯んでいる。
「――ハジメ、今だ!!」
――ズガンッ!!
直後、白頭を守っていた黄頭にシュラーゲンによる狙撃が直撃する。
だが驚くべき事に、黄頭が纏っていた黄色い光が砕け散り、その身に弾丸を受けたにも関わらず、黄頭はまだ辛うじて生きていた。
あまりのタフさに驚愕するが、直ぐにトドメを刺すべく追撃を行う。
「――ザケルガ!!」
白頭を狙った雷撃は、やはり黄頭によって防がれるが、黄頭は《金剛》を発動する間もなく、そのまま貫かれて地面に倒れ伏した。
攻撃直後のオレに再びヒュドラの魔法が集中したため、今動けるユエに白頭への追撃を指示する。
「ユエ、トドメだ! 白頭に――」
「――いやぁああああ!!!」
しかし、それはユエの悲鳴によって掻き消された。
思わずユエのいる方向に視線を向けると、そこには錯乱したように髪を振り乱し、ハジメに抑えられているユエがいた。
(――何だ!? 何が起きている!?)
オレは殺到する攻撃を回避し、ヒュドラを睨んだ。
すると、今まで沈黙を保っていた黒頭が、強い魔力を纏っているのに気付く。
黒頭の瞳は怪しい光を放っており、その視線はじっとユエに固定されていた。
(まさか、精神に干渉する魔法か!?)
その可能性に思い至ったオレは、周囲を囲む炎や氷の弾幕に当たりながらも強引に突破し、呪文を唱える。
「テオザケル!!」
掌から放たれた極大の電撃が数体の頭を巻き込みながら進み、黒頭に届く。
悲鳴を上げて後ろに下がった黒頭から先程の魔力を感じなくなったことから、何とか邪魔できたようだ。
ユエの方を確認すると、暴れるのは止めているが虚ろな目でぐったりとしている。ハジメが声をかけているようだが、今すぐ戦闘に復帰するのは難しいだろう。
「――流石にこれは、厄介すぎるだろう……!!」
厳しい状況に、思わず悪態をついてしまう。
先程のユエの様子から、黒頭が使ったのは恐らく精神に悪影響を与える魔法といった所だろう。直接攻撃だけでなく搦め手まで使ってくるとは、本当に隙がない。
一旦退けはしたが、黒頭は依然オレ達から視線を外していない。オレ達の誰かが隙を見せた途端、また先程の魔法を使ってくるだろう。
そこまで考えた所で、テオザケルで吹き飛ばした数体の頭が回復し、再びオレに攻撃を仕掛けてくる。
オレは降り注ぐ魔法の嵐を避け、ハジメ達に合流しようと足に力を込めるが、動くことは叶わなかった。
――ミシッ!!
「――ぐっ!? 何だ、これは……!?」
突如、体が押し潰されるかのような力を真上から受け、オレの動きが鈍る。
当然、敵がその隙を見逃す筈もなく、赤頭がガパリと口を開け、オレに向かって熱光線を放ってきた。
避けられない事を悟ったオレは、熱光線を迎撃するべく、重くなった腕を上げ、呪文を唱える。
「ザケルガ!!」
赤頭の放った熱光線とオレのザケルガが激突するが、徐々に押し負けていく。
(弱所を狙ってもこれか……!!)
だが、ザケルガをぶつけたことで着弾までの時間が稼げたため、間一髪逃れることが出来た。
更なる追撃を避けるため、大きく飛び退く。
一瞬遅れて、先程までオレがいた地点の地面が僅かに陥没する。ヒュドラの方に視線を向けると、紫頭が口を開き陥没している地面に頭を向けていた。
(――さっき体が重くなったのは、アイツの仕業か)
まだ力を隠している可能性はあるが、どうやら奴は一定範囲に強い重力場を発生させられるらしい。
今まで様子見していた紫頭と黒頭が手を出してくるとは、本格的にオレ達を潰しにきているな。
そう考えた時、ハジメから《念話》が届く。
『――ゼオン、無事か?』
『――ああ、何とかな。……ユエは大丈夫か?』
『――もう、大丈夫。……さっきは、ごめんなさい。折角のチャンスだったのに、攻撃できなかった』
申し訳無さそうにユエが謝罪してくる。
ハジメのお陰なのか、冷静さを取り戻したようだ。
『――気にするな。それより、敵は相当厄介だぞ。このままだと、手数の差で強引に押し切られる』
『――そのことだが、作戦がある』
ハジメの語る作戦とは、非常にシンプルだった。
そして、その鍵を握るのは――ユエだ。
『――ユエ、いけるのか?』
『――やれる。もう負けない』
決意の籠もった声によって、作戦は開始される。
オレはユエの元に駆け、三人が集合する。
既にユエは、精神を集中させ、魔力を高めている。
それを見て、ヒュドラが再び攻撃態勢に入る。
「どうやらオレ達の狙いに気付いたみたいだな」
「関係ねぇさ。もう面倒くさいのは止めだ。――全員まとめて片付ける」
直後、無数の魔法が殺到する。
オレは掌を前方に向け、ハジメは地面に手を付ける。
「――ラシルド!!」
「――《錬成》!!」
正面には雷の盾、側面には《錬成》による壁が出来上がる。
オレ達を囲む壁により、ヒュドラの魔法が防がれる。
破壊されそうになれば、ザグルゼムと《錬成》で都度修復し、攻撃を耐え続ける。
「――二人共、準備できた!」
――そして、ついにユエの準備が整った。
オレはラシルドを解除し、こちらに向かってくる魔法に向けて呪文を唱える。
「テオザケル!!」
放たれた電撃によってオレ達に向かって飛んできていた魔法は一掃され、一瞬ヒュドラの攻撃が止む。
そこへ、吸血姫の一撃が振り下ろされる。
「――《蒼天》!!」
ヒュドラの頭上に、青白い炎の塊が出現する。
第五十階層で使用したのと同じ魔法だが、今回の炎はあの時の数倍は大きい。感じる魔力量から、威力もあの時とは段違いだろう。
ユエが腕を振り下ろすと、炎がヒュドラに向かって落下し、その巨体を飲み込んだ。
「――クルゥウオオオ!?」
それぞれの頭が絶叫を上げて炎から逃れようと藻掻くが、オレとハジメが炎の中から出てきた頭を攻撃して
押し戻すため、延々とその身を焼かれ続けている。
体を溶解させ、徐々に動きが鈍くなっていくヒュドラを見て、オレ達は勝利を確信する。
しかし次の瞬間、それは甘い考えだったのだと思い知ることになった。
――バシュッ!!
突如、炎の内側から爆発的な光が発生し、一瞬で炎を消し飛ばした。
「――――は?」
炎が消えたことでヒュドラの姿が露になるが、先程と変わらず全身を融解させ、地面に倒れ伏しているだけだった。
「――何だったんだ、今のは?」
ハジメはオレ達全員が思っていた疑問を呟く。
ヒュドラによる最後の抵抗だったのだろうか?
どうも腑に落ちない点はあるが、この様子では奴が瀕死なのは間違いないだろう。
「――クルゥ……オォ……」
オレ達がヒュドラにトドメを刺そうと考えた時、微かな鳴き声と共にヒュドラの体が白い光に包まれる。
「何っ!?」
「白頭か!?――クソッ、やらせるか!!」
――ドパンッ!!
ハジメが咄嗟に放った銃撃は白頭の頭部に命中し、今度こそトドメを刺す。
それでも他の頭への回復は阻止できなかったのか、地面に倒れ伏していた頭が一斉に動き出した。
「……つべこべ言わず、直ぐにトドメを刺すべきだったな」
オレは後悔の言葉を口にするが、もう遅い。
ヒュドラが怒りを込めた瞳で睨んでくる。
その体を見ると、所々に傷が残っており、流石にあの一瞬では全ての傷を回復しきれなかったらしい。
「――チッ、どんだけしぶといんだよ」
「だが、ハジメのお陰で回復役はいなくなった。当初の作戦通り一体ずつ倒していこう」
「ん。大丈夫、また倒せばいい」
会話を終え、再びオレ達はヒュドラと対峙する。
前衛のオレがヒュドラに向かって駆け出すと、数体の頭が地面に向かって魔法を連射した。
不可解な行動に警戒していると、大量に舞った爆煙によってヒュドラの姿が隠されていく。どうやらこれを狙っていたらしい。
『――ユエ、魔法で煙を吹き飛ばしてくれ』
『――わかった。ゼオン、少し離れてて』
ハジメの念話でユエに指示が出され、オレは魔法の射線に入らないように移動する。
――ゾクッ
しかし、ユエの魔力が高まった瞬間、直感が警報を鳴らす。
『――待て、何かおかしい。ユエ、魔法を――』
オレの言葉を遮るように、ヒュドラがいる方向から強い魔力が発せられる。煙の中に一瞬、赤く鋭い眼光と、先程ユエが放った炎を消し飛ばした光が見えた。
その視線の先にいるのは、今まさに魔法を発動させようとしているユエ。
「――不味いっ!? ユエ、逃げろ!!」
直後、煙の中から極光が放たれる。
それは一直線にユエへと向かって進み、ユエを庇うように前に出たハジメもろとも飲み込んだ。
「クソッ!! ――ハジメ、ユエ!!」
オレは焦って二人の下に駆け出す。
しかし、次の瞬間オレの体は再び放たれた極光によって大きく吹き飛ばされた。
「――ガッ!?」
途中幾つもの柱を破壊しながら壁に激突し、ズルズルと滑り落ちる。
丁度ハジメ達がいた辺りまで吹き飛ばされたオレの視界に、全身から血を流して倒れるハジメが映る。
ピクリとも動かないその姿を見て、オレの心が不安で埋め尽くされる。
そんな心の隙を、ヒュドラが見逃す筈がなかった。
――キイィィィン
「――グッ!? しまっ――」
頭が割れるような痛みを感じ、黒頭がオレを見つめているのに気付く。
「ハジ、メ……」
何とか抵抗しようとするも、オレの意識はグラリと揺らぎ、闇へと落ちていった。
読んで頂いてありがとうございます。
久しぶりの戦闘回でした。
原作よりも味方の戦力が強化されたなら、敵側も強くしなきゃの精神でヒュドラは強化されてます。
原作そのままの強さだったら、ゼオンくん達が割と簡単に勝ちそうなので……。
では、次話もよろしくお願いします。