ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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LEVEL.3 異世界『トータス』

 

 

光が収まったのを感じ、目を開いて周囲を見渡す。

 

 

そこは、正に聖堂というイメージがぴったりの場所であった。

 

大理石らしき光沢を放つ白い石によって造られた巨大な広間に、美しい彫刻が彫られた巨大な柱が並んでいる。

上を見上げると、天井はドーム状になっている。

 

そして、この空間の中で一際目を引くのは、巨大な壁画だろう。

 

後光を背負った長い金髪の人物が微笑んでいる様子が描かれている。

美しい筈なのに、その微笑みは何処か不気味さを感じさせる。

 

 

どう見ても先程まで居た教室ではない。

 

それどころか、ここが日本であるかも怪しい光景だった。

 

 

周囲には、同じく周囲を唖然として見回しているクラスメイトたちが居る。

 

ハジメも、オレの傍で周囲に目をやり、考え込んでいた。

 

 

オレはこの状況に至った理由を考える。

 

 

集団拉致? ――ありえない。あの一瞬でこれだけの人数をここに運び込んだことになる。

 

だが、先程の異様な光景。……まさか、あの魔法陣によるものか?

 

非現実的だが、状況的にこれが一番可能性が高いだろう。

 

 

そこまで思考したオレは一度考えを切り上げ、自分達を取り囲む法衣を身に纏った集団に視線を移す。

 

彼等は、オレ達がここに居ることに驚いていない。

 

つまり、この状況についても理解しているのだろう。

 

 

観察していると、集団の中から老人が歩み出てくる。

 

手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らし、深みのある落ち着いた声音でオレ達に話しかけた。

 

 

「――ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致します」

 

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人はこちらに微笑みかけるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あれから、オレ達は場所を変え、長いテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

上座に近い席には、たまたま教室にいた先生と、天之河達いつもの四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。

 

オレは最後方に追いやられたハジメと並んで座った。

 

 

ここに案内されるまで、大して騒ぐ者はいなかった。

 

イシュタルが「事情を説明する」と告げたことや、カリスマを発揮した天之河が皆を落ち着かせたことが理由だろう。

 

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでメイドの様な格好をした者達が入ってきた。

 

現実では中々見れないからだろう、男子の大半がメイドを凝視している。

 

ハジメも傍で給仕してくれたメイドを思わず凝視……しそうになっていたが、ビクリと体を震わせて正面に視線を固定した。

 

 

上座の方を見ると、白崎が笑顔でジッとハジメを見ていた。

 

ハジメの方も視線を感じているのか、冷や汗を流しながら白崎に顔を向けない様にしている。

 

 

(……あいつらは何をやっているんだ?)

 

 

少し呆れていると、視線を感じたのでそちらを向く。

 

 

「…………」

 

 

雫がこちらを見ていた。オレが視線を向けると、直ぐに顔を逸らしたが。

 

 

「……?」

 

 

そんなことをしている内に全員へ飲み物が行き渡り、それを確認したイシュタルが話し始める。

 

 

「さて、皆様方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますので、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 

そう言って始めたイシュタルの話に皆が耳を傾ける。

 

 

イシュタルの話から分かったこと。それは、オレ達が今居るのは地球ではない、別の世界だということだ。

 

この世界の名は『トータス』。

大きく分けて三つの種族――人間族、魔人族、亜人族が存在している。

 

そして、人間族と魔人族の間で何百年も戦争が続いているようだ。

 

人間族と魔人族の戦力は拮抗しているため、大規模な戦争はここ数十年起きていないが、最近、魔人族が『魔物』を使役したことで、現在は人間族側が不利な状況になっている。

 

 

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した存在……らしいが、この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。魔物はそれぞれ強力な種族固有の魔法が使えるため、強力で凶悪な害獣らしい。

 

 

「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創造された至上の神。恐らくエヒト様は悟られたのでしょう、このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒して我ら人間族を救って頂きたい」

 

 

そう締めくくると、イシュタルは恍惚とした表情を浮かべた。

 

神託を聞いた時のことを思い出しているのだろう。

 

 

そんな中、突如立ち上がりイシュタルへと抗議する人物が現れた。

 

 

「――ふざけないで下さい!! 結局、この子達に戦争させようってことでしょう!! そんなの許しません!! ええ、先生は絶対に許しませんよ!! 私達を早く帰して下さい!! きっと、ご家族も心配しているはずです!! 貴方達のしていることは、ただの誘拐ですよ!!」

 

 

彼女の名前は畑山(はたやま)愛子(あいこ)

 

今年二十五歳になる社会科の教師で、非常に生徒からの人気が高い存在である。

 

『愛ちゃん』の愛称で親しまれている彼女は、説明された理不尽な召喚理由に怒り、イシュタルに詰め寄っていたが、次の瞬間イシュタルが発した言葉に凍りついた。

 

 

「お気持ちはお察し致します。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 

場に静寂が満ち、話を聞いていた誰もが何を言われたのか分からないという表情になる。

 

 

「ふ、不可能って……どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

「先程言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族に異世界に干渉するような魔法は使えませんので、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということです」

 

「そ、そんな……」

 

 

畑山先生が顔を青褪めさせて椅子に腰を落とすと、生徒達も口々に騒ぎ始め、パニックになる。

 

比較的落ち着いているのは、ハジメと、雫ぐらいだろうか。

 

 

(……いや、こんな時、真っ先に動く存在を忘れていたか)

 

 

バン、と天之河がテーブルを叩いて立ち上がる。

その音によって自分へ注目が集まったことを確認すると、天之河は話し始めた。

 

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

 

天之河が視線を向けると、イシュタルは神妙に頷きながら口を開いた。

 

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

 

天之河は真剣な表情で頷き、再度イシュタルへと質問を投げかける。

 

 

「俺達には、大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょうな」

 

 

その言葉に天之河は笑顔で頷くと、拳を握り締めて言葉を続けた。

 

 

「……うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 

そう力強く宣言する天之河を見て、絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始める。

 

 

「――へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

 

「雫……」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

 

いつものメンバーが天之河に賛同すると、後は早い。

次々にクラスメイト達が賛同していき、オレ達全員が戦争に参加することになった。

 

 

オレは、盛り上がっているクラスメイト達の姿を尻目に、イシュタルへと目を向ける。彼は天之河を見やりながら、満足そうな笑みを浮かべている。

 

 

(……中々、計算高い爺さんのようだな)

 

 

オレ達をここに集めて説明を始めたときから、今までの流れは全てあの老人がコントロールしていた。

他の生徒への影響力が強い天之河を焚き付け、『戦争』に対する恐怖から目を逸らさせる。

 

 

僅か数十分程度話しただけで、場の流れを掌握した話術は手慣れてすらいた。

今後、イシュタルの行動には注意を払ったほうが良いだろう。

 

 

 

(――それにしても、異世界、魔物、そして魔法(・・)……か)

 

 

オレは、召喚された時に感じた、不思議な感覚を思い出していた。

 

初めて体験する筈なのに、懐かしい感覚。

 

 

この世界には、失くした記憶を取り戻す方法があるかもしれない。

 

オレは、密かにこの世界に期待をするのだった。

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

まだ導入部分ということもあって、ゼオンくんの影が薄くなってしまう……。
次話あたりから、ようやくクロスオーバーっぽくなるのではと思ってます。

ところで、今回の話を書いていて、ありふれ世界の魔物の設定って、何かに似てるよなぁと思いました。
『魔物はそれぞれ強力な種族固有の魔法が使える』とか、ですね。

では、次話もよろしくお願いします。
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