一年以上投稿できておらず、申し訳ない……。
今日から少しずつ投稿を再開しようと思います。
執筆作業自体久しぶりだったので、今話を書き上げるのにめちゃくちゃ時間かかりました。
「あー、体中が痛ぇ……」
「……ん。もう、限界……」
ヒュドラとの死闘を乗り越えた後、オレ達は先程の戦闘による疲労から地面に座り込んでいた。
疲労困憊したハジメとユエの呟きが、シンと静まり返った広間に響いている。
「…………」
そんな二人を余所に、オレは急激な魔力消費によって朧気な意識の中、先程の出来事を思い返していた。
ヒュドラの放った攻撃が眼前に迫っていたあの瞬間、オレは確かに『声』を聞いた。それは、かつて共に戦った青年の声。『魔界の王を決める戦い』で、オレのパートナーだったデュフォーという男のものだった。
当然、この異世界に居る筈のない存在だ。しかし、オレは先程の出来事が幻ではないと確信していた。
しばし脳裏に焼き付いた先程の光景を思い浮かべていると、ボロボロになった服の胸元から光が漏れ出している事に気が付いた。
疲労による緩慢な動きで懐に手を入れ、この世界に来てから馴染み深くなった銀色のプレートを取り出す。
最早見慣れた存在であるステータスプレートが、淡い光を放っていた。
その光は、まるで記憶にある『魔本』のようで――。
「――まさか、コイツが?」
オレが思わずステータスプレートを見つめていると、視界の端でハジメの体がグラリと傾くのが見えた。
「ハジメっ!?」
近くにいたユエが咄嗟に体を支えたため地面に倒れ込むことはなかったが、ハジメはぐったりとしていて反応を示さない。
オレは二人に駆け寄り、ハジメの様子を確認する。
顔色が悪く、呼吸も酷く弱々しい。
しかし辛うじて意識はあるようで、オレが近くに来たのに気付くと顔を見上げながら僅かに笑った。
「……悪い、ちょっと……限界みてぇ、だ……」
そう呟くとハジメは脱力し、意識を失った。
オレ達は、ひとまず地面へとハジメを寝かせて容体を確認する。ボロボロになっているハジメの服を破くと、服の下には酷い火傷が広がっていた。恐らく、ヒュドラの光線からユエを庇った際にできた傷だろう。傷は塞がりかけているが、絶対安静の重傷であることは一目瞭然だ。
ハジメの道具袋から回復水の入った容器を取り出し、仰向けに寝かせた体の上から振りかける。すると、血の滲んでいた傷口が瞬く間に塞がり、それに伴いハジメの呼吸も安定し顔色も良くなっていく。
それを見て、オレは安堵のため息を漏らした。
「……ひとまずは、これで良いだろう。だが、何処かでしっかりと休ませなければ……」
そう呟いて辺りを見回すが、この階層は先程の戦闘で荒れ果てている。ハジメが意識を失った今、今までのように《錬成》で拠点を作成することもできない。
「……ゼオン、あの扉の先は?」
ふと、ハジメへと寄り添っていたユエが口を開く。
そしてユエの指は、この階層の最奥にある紋章が描かれた扉を指している。オレはユエの言いたい事を察した。
「反逆者の住処……。だが、危険ではないか? あの扉の先が本当に安全かも分からんぞ」
「……ん。でも、上の階層に戻るのは論外。それに、此処に居続けて大丈夫な保証もない」
こちらを見つめるユエの言葉に、思考を巡らせる。
(……確かに、ヒュドラを倒したとはいえ、この階層がずっと安全になったとは限らない。であれば、此処に居続けるよりは良い、か)
仮に此処へと残って再びヒュドラが出てくるとなれば、今度こそ終わりだ。
「……行ってみるか。……ユエ、立てるか?」
ユエはオレの言葉にコクリと頷き、ふらつきながらも立ち上がった。
オレもハジメを横抱きに抱え、立ち上がる。
それからオレ達はヒュドラの死骸の横を通り抜け、扉の前まで辿り着いた。
固く閉ざされた扉はやはり大きく、近くに寄ると上部を見上げるのが大変な程だ。
「さて、どうやって開けるか……」
そう呟きつつ扉を調べていると、扉の下側中央付近に一か所だけ四角い窪みがあるのを見つけた。自分の肩くらいの高さに存在するその小さな窪みには、細かく魔法陣が刻まれている。
(これは、もしや……)
ユエにハジメを預けたオレは、窪み部分に手を当てて魔力を流す。
僅かに回復した程度の魔力量で足りるかは分からなかったが、直ぐに魔力が流し込めなくなり、魔法陣が輝きだした。思いの外、必要な魔力量は少なかったらしい。
ガコン、と扉から音が鳴ったと思ったら、窪みを含めた二メートル四方の範囲が扉側へと押し込まれる。押し込まれた部分はそのまま横にスライドして、後には小さな通路が残っていた。
「……まさか、こんなにあっさりと開くとは……」
「……ん。ちょっと予想外」
どうやら、これが扉の先に向かう通路らしい。
通路の中を覗いてみると、数十メートル先から光が差し込んでいるため、そこまで長い通路ではないようだ。
念のためオレが先に通路に入って安全を確認する。
慎重に通路を進むと、直ぐに開けた空間に出た。
差し込む光で一瞬目が眩んだが、その後に見えた光景に思わず目を見開く。
「――これは……」
そこには、広大な空間が広がっていた。
地面には芝生の様に整えられた植物が生い茂り、綺麗に並べられた石畳の通路が何本か敷かれている。通路の先には石造りの立派な建物が建っており、その近くには畑の様なものまであった。
また、部屋の奥は壁一面が滝になっており、心地良い音を響かせながら大量の水が流れ落ちている。
そして何よりも目を惹くのは、部屋の上空で輝いている『太陽』の様な物体だ。それは暖かい橙色の光を発しており、部屋全体を照らしている。
まるで地上に戻ってきたかの様な光景に、オレは思わず見惚れてしまう。
「……ゼオン? 大丈夫?」
「あ、あぁ……すまん。大丈夫だ」
後ろから聞こえたユエの言葉で気を取り直し、ユエを部屋へと誘導する。
「……ここが、反逆者の住処? ……まるで外みたい」
「あぁ、そうだな。……随分と穏やかな場所だが、罠が有るかもしれん。警戒して探索しよう」
「ん。分かった」
ハジメをユエに預け、オレが先導して石畳の通路を進んでいく。道中は特に何も起きることなく、オレ達は石造りの建物へと辿り着いた。
建物に対して感知系の技能を発動するが、罠の痕跡は見つからない。慎重に入口らしき扉を開けると、部屋の中に取り付けられている球体が独りでに光を灯し、清潔感のあるエントランスが照らし出される。
エントランスは吹き抜けの構造になっており、上の階へと続く階段が正面に見えた。
別の部屋へと繋がる扉も幾つか存在したため、一つ一つ部屋を確認していく。
大きなソファが置かれたリビングに台所、トイレや風呂らしきものなど、かなり設備が充実している。
「それにしても……大昔の人間が住んでいたにしては、この屋敷は綺麗すぎるな。数千年前の建物であれば、もっと風化しているものだと思うが」
「……ん、確かに。……誰かが管理してる、とか?」
「今のところ、人の気配は感じないがな……」
時折ユエと会話しながらも探索を続けていく。
幾つか開かない部屋もあったが、一階にある最後の部屋に入ると、そこには大きな天蓋付きのベッドが置かれていた。
「ここは、寝室か? ようやくハジメを休ませられる場所を見つけたな」
「ん。早く寝かせてあげるべき」
罠の有無を確認し、ハジメをベッドに寝かせる。
ハジメの容体は安定しているが、血まみれに汚れた服を身に着けたままでは体調が悪化するかもしれない。せめて汚れは拭き取っておかなければ……。
「ユエ、ハジメの体を綺麗にする。少し手伝ってくれ」
「ん、分かった。……何をすればいい?」
「そうだな、まずは――」
そうして、オレとユエはハジメの服を脱がせ、体を綺麗にしていった。
幸いにも家の中に清潔な布があったため、近くの川から汲んだ水で濡らし、汚れを拭き取ることができた。
「――よし、これで良いだろう」
「……ハジメ、大丈夫?」
「傷も塞がっているし、呼吸も安定している。あとオレ達にできるのは、待つことだけだ」
「……ん」
ユエは心配そうにハジメの顔を覗き込んでいる。
ハジメの看病をしている間も不安そうな表情が絶えなかった。
「ユエも少し休んだ方が良い。どうやら、この家に罠の類はなさそうだからな」
「……ん。もう少ししたら休憩する」
もう何度目かの休息を促す声にも反応が悪い。
これは、今オレが何を言っても聴かないだろう。
「……オレも少し休んでくる。何かあれば呼んでくれ」
「……ん、分かった。……おやすみ、ゼオン」
「……あぁ、おやすみ」
寝室を出る直前、オレは振り返る。
ハジメに付き添って甲斐甲斐しく世話をするユエを見て、オレは思わず声を掛ける。
「……ユエ。これからも、ハジメのことをよろしく頼む」
「……? そんなの当たり前。ゼオン、どうしたの?」
「――いや、気にしないでくれ。……早めに休めよ」
二人を残して寝室を出る。
そのままリビングへと向かい、ソファに腰掛けると、今まで蓄積された疲労によって急激に睡魔が襲ってくる。
ふらりと倒れ込む様にソファの上で横になると、オレの意識は数秒で闇に沈んでいくのだった。
◆◇◆
「――ん……? ここは……」
パチリ、と目を開けると、知らない部屋の天井が視界に入った。
体が柔らかいものに包まれている心地良さと、少しの倦怠感を感じながらも徐々に目が覚めていく。随分と久しぶりな感覚だ。
体を起こそうとした時、ハジメは自身が豪奢なベッドの上に寝ていることに気が付く。寝起きでぼんやりとしていた意識が完全に覚醒する。
「何だ、此処は一体……? 確か俺は、迷宮に居た筈……」
とにかく起きなければと、体を起こそうとすると右腕に何かが絡みついていることに気が付いた。
一体何だと布団を捲ってみると、そこには――全裸のユエが己の腕に抱き着いていた。
「は……? ――ッ!?」
一瞬惚けたが、動揺によって声にならない悲鳴を上げるハジメ。
「……んぅ……?」
そしてそんな大声を上げれば、当然近くにいるユエには聞こえる訳で。むくり、と体を起こした彼女はハジメが起きているのを確認すると、目に涙を溜めて抱き着いてきた。
「――ハジメっ!」
「ちょっ……!? ユエ、待ってくれ!」
「――良かった……! もう、目覚めないかもって思った……」
ハジメは羞恥心から咄嗟に引き離そうとするも、ユエが泣いていることに気が付くと、諦めて抱擁を受け入れた。
「……悪い、心配かけたみたいだな」
「……んっ。目覚めてくれたから、いい」
ぐりぐりと顔を押し付けてくるユエの頭を撫でながら、ハジメは微笑んだ。
そんな時、コンコン、と扉をノックする音が部屋に響いた。
「――ユエ、すごい声がしたが、大丈夫か?」
ハジメは、その声でもう一人此処にいる筈の人物を思い出した。そうだ、ゼオンもきっと心配してくれただろう。礼を言わなければ。
そこまで考えて声を上げようとした時、ハジメは今の自身の状況を思い返した。
ベッドの上、裸で抱き合う男女。どう見ても逢引きである。
「――ッ!? ちょっ、ユエ、一旦離れてくれ……!!」
「……ふふふ、ハジメの裸……。じゅるり……」
「聞こえてんのか、アホ吸血鬼……!? こっの……!!」
ハジメがユエを引き離そうと格闘していると、返事がないことを不審がったゼオンが、扉を開こうとしていた。
「……? ユエ、大丈夫か? 開けるぞ」
――ガチャリ
ゼオンが扉を開けると、そこには顔を赤面させて体を隠すハジメと、頭にたんこぶを作ってベッドに蹲るユエがいた。
ドアが開けられる直前、自身に抱き着いて離れないユエにハジメは
「……はぁ。何をしているんだ、お前達は……」
ゼオンの呆れたような呟きに、ハジメは気まずくなって視線を逸らすのだった。
◆◇◆
「――何はともあれ、目が覚めて良かった。ハジメ、体に違和感はないか?」
「あぁ、問題ない。悪かったな、色々世話をかけて」
あの後、ひとまずユエを部屋から追い出し、オレとハジメは二人で会話していた。ハジメの精神衛生上、ユエには別の部屋で着替えてもらっている。
「気にする必要はない。幸いにも、この部屋に罠の類はなかった。少し休んで、体調を万全にしてから地上への道を探そう」
オレの言葉に頷いたハジメは、大きく息を吐いてベッドに体を預けた。
「それはそうと、ユエには礼を言っておけ。夜通しずっと付きっきりでハジメの看病をしていた」
「――そうか、ユエが……」
ユエのことを話すと、ハジメは嬉しそうに微笑んだ。いつもユエのアプローチに対してそっけなく返してはいるが、やはりハジメはユエに惹かれている。
五十階層での出会いから今まで、ユエとはひと月近くの時間を共に過ごしてきた。多くの戦闘を共に乗り越えてきた信頼感もあるのだろうが、人を好きになるには十分な時間だろう。
できれば、ユエにはずっとハジメの傍に居て、ハジメのことを支えていってほしい。
(――オレは、傍に居られるか分からんからな)
仮に今後地上に帰還したとして、待っているのは魔人族との戦争だ。ハイリヒ王国に居た頃には魔人族と戦う機会もなかったため、彼らがどれほどの強さを持っているかも分からない。
もしかしたら、今のオレ達と同等もしくはそれ以上の力を持っているかもしれない。
だから、オレの安全も保障できない以上、これからのハジメには一人でも多くの味方が必要だ。
オレが思考に耽っていると、ガチャリとドアが開き、着替えを終えたユエが部屋に入ってくる。フリル付きの白いシャツに黒いスカートを身に着けた姿は、どこぞの貴族令嬢の様な気品も感じさせる、文句なしの美少女である。
「……着替えてきた。……ハジメ、似合う?」
「お、おう……。まぁ、良いんじゃないか?」
照れた様子で褒めるハジメに気を良くしたのか、ユエはハジメに駆け寄り、抱き着いた。
二人だけの世界に入ってしまう前に、オレはユエに今後の予定を伝える。
「――という訳で、もう少し休んでから屋敷の探索を再開することにした。ユエも、ハジメと一緒に休むと良い」
「……んっ、分かった」
会話もそこそこに、オレは部屋を後にする。
「……ハジメ、この服、似合ってる?」
「……あ、あぁ。さっきも言ったが、良く似合ってる……と思うぞ?」
「……嬉しい」
オレが扉を閉める直前、そんな会話が聞こえた。
「えっと、あの……ユエさん? 何でベッドに入ってくるんですか……?」
「…………これは看病の一環」
「何か間がなかったか……? ていうか、何でまた服を脱いでるんだ!?」
「………………看病に必要だから」
「嘘つけぇ!?」
何やら騒がしいが、元気になった証拠だろう。
ハジメ達も腹が減っているだろうし、何か飯でも用意しなくては。川の方に行けば何かあるだろうか?
「――ていうか、ゼオン! 聞こえてるなら助けてくれ!? 《気配感知》でそこに居るの分かってるんだが!?」
さて、二人の邪魔をしては悪いし、オレは屋敷の外でも探索することにしよう。
「――えっ? ユエ、ちょっ、待っ……!! アーーッ!?」
スタスタと屋敷から出ていくオレの背後から、何やら悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
読んで頂いてありがとうございます。
久しぶりに書いた文章なので、違和感があったらすみません。
少しずつ感覚を取り戻していければと思います。
では、次話もよろしくお願いします。