今回、一部独自設定が出てきます。苦手な方はご注意ください。
ハジメが目覚めてから数時間後、オレ達は改めて屋敷の探索を行っていた。
あの後、オレが屋敷に戻って来ると、何やらげっそりとしたハジメが恨めしそうな目で見てきたが、反対にいつもより元気なユエがハジメの傍を離れなかったため、文句を言われることはなかった。何だかんだでユエには弱いのだ。
屋敷の探索の話に戻るが、一階は既に探索済みのため、二階から見て回ることにする。エントランスの階段から二階へと上がると、そこには書斎や工房らしき部屋が存在していた。
部屋に入ることはできたのだが、あちこちに設置された保管棚は封印でも施されているのか、開けることができなかった。
仕方なく二階の探索は諦め、三階へと足を運ぶ。
三階は階段を上った先に一本道の廊下が伸びており、その奥に一つの扉が存在するだけだった。
(……如何にも何かありそうな扉だな)
慎重に廊下を進んで扉に手をかける。また封印されているのではと思っていたが、予想に反して扉はすんなりと開き、部屋の中に入ることができた。
「――これは……」
酷く殺風景な部屋だった。
薄暗い部屋には殆ど物が置かれておらず、目を惹くものといえば床に刻まれた巨大な魔法陣くらいである。
オレ達が部屋の奥に向かって一歩を踏み出すと、部屋の壁に埋め込まれた球体が明かりを灯し、薄暗かった部屋を明るく照らし出した。
すると、先程までは見えなかったが、部屋の最奥に豪奢な椅子が置かれていることに気が付いた。椅子には黒いローブを羽織った骸骨が座っており、俯いた姿勢で空洞となった瞳をこの部屋の魔法陣へと向けている。
「コイツが、かつての反逆者ってことか……?」
「……恐らくはな。此処で力尽きたのだろう」
ハジメの呟きに答えながらも、オレは骸骨が手に持っている物から目が離せなかった。
「――何故、これが此処にある……?」
骸骨の腕には、ハイリヒ王国の宝物庫で見たのと全く同じ物――『魔本』が抱えられていた。
「……? ゼオン、どうしたの?」
「……おい、あれって前に城の武器庫で見た本だよな? 何だって此処に……」
オレの様子が可笑しいと気付いたユエと、同じく魔本の存在に気が付き、不気味がるハジメ。
二人の声に気を取り直し、オレはこの部屋の探索を優先するべく口を開く。
「……すまない、大丈夫だ。あの本については後で説明する。まずはこの部屋をもう少し調べよう」
「……まぁ、そうだな。地上への道について、この部屋に何か手がかりが有るかもしれねーし」
オレの言葉に同調してくれたハジメが、部屋の魔法陣を調べるべく足を踏み出した。
次の瞬間、突然魔法陣が強い光を放ち、部屋中を真っ白に照らしていく。光は一瞬で収まると、オレ達の前には眼鏡をかけた黒いローブを纏った青年が立っていた。
「――ハジメ、大丈夫か!?」
「あ、あぁ……問題ない」
オレとユエが直ぐ様ハジメに駆け寄り、謎の人物から距離をとらせる。
「コイツは、一体……?」
オレが疑問の声を漏らすのとほぼ同時に、青年は口を開いた。
『――試練を乗り越え、よく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ』
「……何?」
オスカー・オルクス。そう名乗った青年は、自身を『オルクス大迷宮』の創造主だと言った。それが真実であれば、今オレ達の目の前にはあの『反逆者』が居るということになる。
『ああ、質問は許して欲しい。今、話をしている私は記録映像の様なもので、君の質問には答えられない。この場所に辿り着いた者に対して、メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい、我々が何のために戦ったのか……。きっと捻じ曲げられてしまったであろう、世界の真実を知る者として……真の歴史を語ろう』
そうして始まったオスカーの話は、オレ達の知る歴史とは大きく異なるものだった。
神代よりも少し後の時代、人や国々はそれぞれに神を祭り、神託によって争い続けていたらしい。
だが、何百年と続く戦争を終わらせるため、とある集団が立ち上がった。後に『解放者』と呼ばれる彼らは、神代から続く神々の血を引いた直系の子孫であり、神々が人々を巧みに操って戦争へと駆り立てていることに気が付いたのだという。
彼らは志を同じくする者達を集めて勢力を拡大していき、ついに『神域』と呼ばれる神々がいる場所を突き止めた。そして先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、神々へと戦いを挑んだのである。
だが、彼らを危険視した神々は神託によって人々を操り、人間同士で争う様に仕向けたのだ。守るべき人々に剣を向けられ、次々と『解放者』の人々は討たれていった。
そうして、『解放者』は人類の敵――『反逆者』と呼ばれるようになってしまう。
追い詰められる中、最後まで生き残った七人は、もはや自分達では神々を討つことはできないと悟った。彼らはそれぞれ大陸の果てに迷宮を創り、試練を用意した。いつの日か、試練を突破した強者に自分達の力を譲るために。
そして、その中から狂った神々を止めてくれる者が現れることを願ったのだ。
話が終わると、オスカーは真剣な表情でこちらを見つめる。
『――君が何者で、何の目的があって此処に辿り着いたのかは分からない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのかを』
彼は引き締めていた表情をふっと緩ませ、微笑んだ。
『君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには使わないで欲しい。……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらんことを――』
その言葉を最後に、オスカーの記録映像は消え去った。
「……何だか、すごい話を聞いてしまったな」
「……ん。話の規模が大きい」
オレの呟きに対し、ユエも唖然としつつ同調する。
ハジメはというと、何やら頭を押さえて顔をしかめていた。
「ハジメ? どうかしたのか?」
「……いや、何か新しい魔法が刷り込まれたというか……。『神代魔法』ってのを覚えたみたいだ」
「……何?」
『神代魔法』とは、遥か昔――文字通り神代に使われていたとされている魔法の事だ。オレ達をこの世界に召喚した転移魔法も『神代魔法』の一つらしい。
「どうやら、この床の魔法陣が神代魔法を使える様に頭を弄る……みたいだな」
「……それは、大丈夫なのか……?」
「問題ない……と思うぞ。多分……」
微妙に自信無さげな言葉に少し不安になっていると、ハジメが何かに気付いたらしく、興奮気味に口を開いた。
「というか、この魔法……《生成魔法》って名前らしいが、俺と相性が良すぎるな……。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法みたいだ」
ハジメの言葉に、オレとユエは思わず驚愕する。
それが本当ならば、その魔法があれば――。
「……ハジメ、アーティファクトが作れる……?」
「ああ、そういうことになるな」
ユエの言葉にハジメはニヤリと笑い、頷いた。
「ゼオンとユエも覚えたらどうだ? 魔法陣に入ると記憶を探られる感覚があったから、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」
「……まぁ、無いよりは覚えておいた方が良いかもしれんが……」
「……ん。ハジメが言うなら試してみる」
言うが早いか、ユエが魔法陣の中へと足を踏み入れる。すると、先程と同じく魔法陣が強い光を放ち、部屋を照らした。
『――試練を乗り越え、よく辿り着いた。私の名は――』
「ユエ、どうだ? 修得できたか?」
「ん、修得できた。でも、アーティファクトを作るのは難しそう」
光が収まると、オスカーの記録映像が再び再生される。先程と同じ言葉を繰り返しているが、ハジメとユエにはガン無視されていた。気のせいか椅子に座る骸骨も悲しそうである。
「よし、後はゼオンだな。乗ってみてくれ」
「ああ、分かった」
ハジメに促され、二人と同じように魔法陣に入るが、特に何も起きない。
「……何も起きないな」
「……何でゼオンだけ?」
魔法陣へと入り直したり、しばらく待ってみても反応がないため、どうしたものかと思っていると、突如オレのステータスプレートが輝きだした。
「何だ……?」
ステータスプレートが発する光はどんどん強くなり、それに呼応するように骸骨の腕に収まっている魔本が輝きだした。
眩い光によって部屋中が埋め尽くされると、オレ達の前にはローブを纏った青年が立っていた。
「オスカー・オルクス……?」
そこに居たのは、先程まで記録映像で見ていた人物だった。しかし、先程とは違い、一向に口を開かない。
しばらく沈黙の時間が過ぎた後、ようやくオスカーが口を開いた。
『――もし、この記録映像を見ている人がいるならば、僕の話を聞いてほしい』
『僕の名前はオスカー・オルクス。生き残った解放者の一人であり、神代魔法の一つ《生成魔法》の使い手。そして――』
『――魔界の王を決める戦いに選ばれた、魔物の子のパートナーだ』
読んで頂いてありがとうございます。
ここから少しずつオリジナルの展開が増えていくと思います。面白く書けるように頑張りますので、どうぞお付き合い下さい。
では、次話もよろしくお願いします。