ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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いつも読んで頂きありがとうございます。

前話の後書きで言った通り、今回は幕間のお話となります。


【幕間】帝国と勇者

 

ガタゴトと揺れる馬車の中、一人の少女がため息を吐く。

 

 

「……もう少しで七十五階層に到達するところなのに、王宮に戻らないといけないなんて……」

 

 

そう呟いたのは、勇者パーティーでヒーラーを務めている白崎香織だ。

 

現在勇者一行は、七十四階層まで進んだオルクス大迷宮の攻略を一時中断し、ハイリヒ王国へと戻る最中であった。

 

 

「……仕方がないわ。王国だけでなく、教会からも要請が来ている様だし」

 

 

香織の言葉に答えたのは、八重樫雫である。

だが彼女も香織と同じく、内心は迷宮攻略に戻りたいと考えているのであった。

 

 

勇者一行が王国に戻らなければならない理由。それは、近々ヘルシャー帝国からの使者が勇者一行に会うため、王国へと訪問して来るからである。

 

 

ヘルシャー帝国とは、約三百年前に名を馳せた傭兵が建国した国であり、建国以来一つの思想が根付いている。

 

それは、完全実力主義。

『強い奴こそが正義』という思想により、冒険者や傭兵達の聖地とも呼ばれている国なのだ。

 

 

そんな帝国にとって、突然現れた勇者が人間族を率いる存在だ、等と言われても納得はできないだろう。

 

 

今までは帝国側のトップである皇帝陛下が勇者に興味を持っていなかったため、関わる機会が無かった。

 

しかし、光輝達がオルクス大迷宮の最高到達記録である六十五層を突破したことで、帝国も興味を覚えて使者を送ってきたのだろう。

 

 

そんな話を馬車の中で聞かされながらも、勇者一行は無事王宮へと辿り着くのだった。

 

 

王宮の前で皆が馬車から降りると、金髪の少年が駆け寄ってくる。少年は集団の中にいた香織の元まで一直線に辿り着くと、嬉しそうに声を上げた。

 

 

「――香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

 

この少年の名は、ランデル・S・B・ハイリヒ。現在十歳になるハイリヒ王国の王子である。

 

香織以外には目もくれず話しかけるその様子から、彼が香織の事を意識しているのは明らかなのだが、残念ながらその想いが実る気配は微塵もない。

 

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

 

香織がランデルに向かって優しく微笑む。

それを見たランデルは顔を真っ赤にするが、悲しいかな、香織はランデルの事を可愛い弟の様な存在としてしか見ていない。よく話し掛けられるのも、小さい子が懐いてきている程度の認識なのである。

 

 

それから暫く、ランデルが香織を口説こうとしては上手く伝わらず、失敗するというやり取りが続いた。

 

更に、香織が迷宮攻略へと参加するのを良く思っていないランデルに対して、光輝が「香織は俺が守るから大丈夫」と火に油を注ぐ宣言をしたため、ランデルの怒りが爆発。光輝を敵意丸出しの表情で睨むのだった。

 

 

面倒な状況に思わずため息を吐きそうになる雫だったが、ランデル王子の後ろから歩いてくる人物を見て、それを飲み込んだ。

 

 

「――ランデル、いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 皆様にもご迷惑ですよ」

 

「あっ、姉上!? いや、これは……」

 

 

凛とした声でランデル王子を叱る金髪の少女の名は、リリアーナ・S・B・ハイリヒ。ランデル王子の姉であり、現在十四歳の王女である。

 

 

「言い訳は結構です。皆様お疲れなのに、こんな場所に引き止めて……。時と場所を考えなさい」

 

「うっ……。で、ですが……」

 

 

尚も言い訳を重ねようとするランデル王子に、リリアーナ王女はスッと目を細める。

 

 

「――ランデル?」

 

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

 

そう言い残し、バタバタと駆けて行くランデル王子の背を見送りながら、リリアーナ王女はため息を吐く。そして、光輝達に向き直ると、美しい所作で頭を下げた。

 

 

「皆様、弟が失礼を致しました。代わってお詫び申し上げます」

 

 

リリアーナ王女の謝罪に対し、香織と光輝は気にしていないと笑い、久しぶりに会った友人と親しげに言葉を交わす。

 

 

「――改めまして皆様、お帰りなさいませ。無事のご帰還、心より嬉しく思います。お食事とお風呂の準備もできておりますので、ゆっくりとお寛ぎ下さい」

 

 

リリアーナに促されて光輝達は王宮の中へと入っていき、迷宮の攻略で疲労した体を休ませるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

勇者一行が王国へと帰還してから三日後、遂に帝国からの使者が訪れた。

 

 

謁見の間には、先日迷宮攻略に参加したメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる聖教教会の司祭数人が勢揃いし、帝国の使者を迎えていた。

 

 

エリヒド陛下と使者の間で定型的な挨拶が交わされた後、早速勇者である光輝達のお披露目となった。

 

 

「では、紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 

 

エリヒド陛下に促され、光輝が使者の前に出る。

 

 

「ほう、貴方が勇者様ですか……。随分とお若いですが、本当に六十五層を突破したのですか? 確か、あの階層にはベヒモスという化物が出てくる筈ですが……」

 

 

使者は光輝を観察する様に見やると、疑いの眼差しを向けてきた。使者の護衛をしている男に至っては、こちらを値踏みする様にジロジロと眺めてくる。

 

 

光輝は信じてもらうため、証拠として六十六層の情報を教えようとするが、使者はその言葉を遮り一つの提案を持ち掛けた。

 

使者の護衛と模擬戦をして力を見せてほしい、と。

確かに、実力を確認するのには一番手っ取り早い方法だった。

 

 

その後、エリヒド陛下やイシュタルからも許可が出たことで、光輝と護衛の男は模擬戦をすることになったのだった。

 

 

 

さすがに謁見の間で戦う訳にはいかないため、王宮内の訓練場へと移動した一同。

 

訓練場の中央付近では、光輝と護衛の男が向かい合っていた。

 

 

護衛の男は、片手に持った大剣をだらりと地面に垂らす様な体勢で光輝を見据えていた。やがて模擬戦を開始する合図がされるも、構えをとる様子がない。

 

その態度から光輝は舐められていると感じ、最初の一撃は強めに打ち込むことにした。

 

 

「――では、いきます!」

 

 

その宣言の直後、光輝が護衛の男に向かって高速で踏み込む。《縮地》を使用したその速度は、普通の人間では視認することすら難しいだろう。

 

事実、護衛の男が光輝の動きに反応した様子はない。光輝は勝ちを確信し、剣を寸止めするために力を込めようとする。

 

しかし剣の動きが鈍った瞬間、男の腕が唐突に持ち上がり、自身に迫る剣を光輝の体ごと弾き飛ばした。

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

大きく放物線を描きながら吹き飛ばされる光輝。

何とか体勢を整えて着地するが、その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。

 

そんな光輝を見て、護衛の男は持ち上げていた腕を下ろし、大きくため息を吐く。

 

 

「――はぁ、まるでなってねぇ。……勇者ってのは、こんなもんなのか?」

 

 

男の表情には失望が浮かんでいた。

真面目にやってんのか、と呆れたように呟く男は、目を細めて光輝を見やる。

 

 

光輝は、油断していたのは自分の方だった、と相手を舐めていたことを自覚し、反省した。

 

 

「……すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

 

頭を下げて仕切り直しを求める勇者を見て、護衛の男は不機嫌そうに目元を歪める。

 

 

「……もう一度、ね。……戦場じゃ、そんなもん無いんだがな」

 

 

小さく呟きながらも、男は先程と同様に大剣をだらりと下げる体勢をとる。

 

それを見た光輝は、気合を入れ直して再度男に向かって駆け出した。

 

 

《縮地》による高速移動からの剣撃。

しかし、先程と同じく護衛の男には通じない。あっさりと斬撃を防がれるも、光輝は再び《縮地》を使用して距離を取り、別の方向から攻撃を繰り出す。

 

まるで嵐の様に、あらゆる方向からの連続攻撃を仕掛けていく光輝だが、男は最小限の動きで攻撃を捌き続け、時折反撃まで繰り出している。

 

 

男の動き自体は光輝の様に速い訳ではない。

しかし、恐らく圧倒的なステータス差があるにも関わらず、未だに光輝は男へと攻撃を当てることができていないのだ。

 

再び光輝の剣が弾かれ、二人の間に距離が開いたタイミングで、男が光輝に話し掛けてきた。

 

 

「成程、確かにそこらの人間じゃ相手にならない程の身体能力だ。しかし、攻撃が単純すぎる。……戦いに身を置いたのは、召喚されてからが初めてか?」

 

「えっ? ……はい、そうです。俺は元々、唯の学生ですから」

 

「……それが今や、『神の使途』か」

 

 

男は光輝の返答に顔を歪めると、横目でイシュタルを見て鼻を鳴らす。そして光輝に向き直ると、剣を構えて一言警告する。

 

 

「……おい、勇者。今度はこちらからいくぞ。……余り気を抜いていると、殺してしまうかもしれんから気を付けろ」

 

「――ッ!?」

 

 

直後、男が光輝に向かって駆け出して一瞬で肉薄すると、そこからは一方的な展開となった。

 

男が繰り出す不規則で軌道が読み難い剣撃に翻弄され、光輝は上手く攻撃に転じることができないでいる。《縮地》を使用して距離を取ろうにも、先手を打たれて発動すらできない。

 

 

「穿て――《風撃》」

 

「――くっ!?」

 

 

次第に焦りで動きが悪くなる光輝に対し、男は魔法を発動して光輝の片足を打ち抜く。

 

体勢を崩して倒れ込む光輝に向けて、大剣が振り下ろされる。本来なら勝負ありの状況だが、大剣が止められる気配はない。

 

 

(――まさか、本気で俺を殺すつもりか!?)

 

 

攻撃が当たる直前、光輝は男が本気でこちらを殺そうとしていることを悟り、咄嗟に『切り札』を使用する。

 

 

「――ぐっ!?」

 

 

突如、護衛の男が大きく吹き飛ばされる。

男は受け身を取って地面へと着地し、光輝がいる方向を見てニヤリと笑った。

 

 

「……何だ、やればできるじゃねぇか。今の一撃は中々良かったぜ」

 

「――ハァッ、ハァッ……!」

 

 

光輝は剣を振り抜いた体勢のまま、荒い息を吐いていた。その体には、白いオーラが纏われている。

 

先程光輝が咄嗟に発動したのは《限界突破》という技能で、一時的に全てのステータスを三倍に引き上げるという、かなり強力な効果をもっている。

 

 

ステータスが向上し、圧倒的に有利となった光輝であるが、その顔は険しい。その様子を見て、護衛の男は大剣を肩に担ぎながら口を開く。

 

 

「少しはマシな顔になったじゃねぇか。さっきまでの腑抜けた顔よりはな」

 

「……貴方は、さっき俺を殺すつもりでしたよね? これは模擬戦なんですよ?」

 

 

攻める口調で抗議する光輝に対して鼻を鳴らした男は、不遜な態度で返答する。

 

 

「さて、どうだろうな? ……だが、さっきので死ぬのなら、その程度だったというだけだ」

 

「なっ……!?」

 

 

信じられないと目を見開く光輝へと、男は言葉を続ける。

 

 

「――戦いが始まれば、お前は俺達人間族の上に立って率いることになる。その自覚があるのか?」

 

「自覚って……。もちろん俺は人々を救って――」

 

 

「……いいや、お前は『戦う』ってのがどういうことか、何も分かっちゃいない」

 

 

反論しようとする光輝の言葉を遮り、男は断言する。

 

 

「何も知らない子供が俺達を率いる? 誰かを傷付ける覚悟すら持てないガキに何ができる?」

 

 

男はそう吐き捨てると、大剣を構え直す。

 

それを見た光輝も慌てて剣を構えるが、もはや戦意は無くなっていた。

 

 

男が再び光輝に向かって駆け出そうとすると、突如二人の間に光の壁が発生した。

 

 

「――そのくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになりそうですからな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

 

「……バレてたか。相変わらず、食えない爺さんだ」

 

 

護衛の男が、光の壁を発生させたイシュタルに向かって小さく悪態をつく。

 

男は剣を収めると、右耳に取り付けていたイヤリングを外した。すると男の周囲の空気が一瞬ぼやけ、次の瞬間には全くの別人がその場に立っていた。

 

突如現れた野性味溢れる男を見て、周囲の人間が一斉に騒ぎ出した。

 

 

「――皇帝陛下!?」

 

 

何と護衛の男の正体は、ヘルシャー帝国の現皇帝である、ガハルド・D・ヘルシャーだったのである。

 

 

「……どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

 

「これは、これはエリヒド殿。碌な挨拶もせずにすまなかった。どうせ勇者殿と会うのであれば、自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なこと故、無礼は許して頂きたい」

 

 

まさかの事態にエリヒド陛下が詰め寄るが、ガハルド皇帝は全く悪びれる様子もない。

 

その態度を見たエリヒド陛下は大きなため息を吐くと、疲れた表情で「もう良い」と呟くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

帝国からの使者を迎える晩餐の席が終わり、王宮内に宛がわれた部屋に入ったガハルド皇帝は、大きく息を吐いた。

 

後ろに連れられて一緒に部屋へと入った部下は、ガハルドに昼間の事を訪ねていた。

 

 

「――如何でしたか? 勇者の力量は」

 

「……お前には、あれが救世主に見えたのか?」

 

 

そう返すガハルドの表情には、僅かな苛立ちが籠っていた。

 

 

「……ありゃ、唯の子供だ。確かに、戦う力や人を率いるカリスマはあるだろうよ。……だが、現実がまるで見えてねぇ。あのままじゃ、その内仲間の誰かを死なせるだろうな」

 

そこまで言うと、ガハルドはため息を吐く。

 

 

「とにかく、あんなのでも『神の使徒』である以上は蔑ろにはできねぇ。ある程度は向こうに合わせて上手くやるしかないだろう」

 

 

人間族の救世主として呼び出されたのが、碌に戦いも知らない子供だったことに思うところはあるが、まず考えなくてはならないのは自分達の事である。

 

 

「魔人族との戦争が本格化したら変わるかもしれんが、今は小僧共に巻き込まれない様に立ち回ることが重要だ。それと、教会の横槍――特に教皇の動きには注意を払え」

 

「御意」

 

 

 

こうして、ガハルド皇帝を含む帝国からの使者は、翌日に帰国していった。

 

滞在日数たったの一日という、フットワークが軽過ぎる皇帝であった。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

次回も幕間のお話になる予定です。

では、次話もよろしくお願いします。
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