今回は、メインキャラのあの娘が登場します。
一瞬の浮遊感の後、オレ達は洞窟の中に転移していた。
周囲の壁には魔石らしきものが埋め込まれており、淡い光を放っている。
「よっ、と。……何だ? 地上じゃねぇのか」
オレの後に転移してきたハジメは、周囲を見回すとあからさまにがっかりしていた。
そんなハジメの袖をちょいちょいと引っ張りながら、ユエが口を開いた。
「……秘密の通路なら、隠すのが普通」
「あー、そうか。反逆者の住処に繋がる道が、剥き出しの訳ないか……」
そんなことを話しながら、オレ達は洞窟の中を進んで行く。
一本道の通路の最奥には魔法陣が刻まれた壁があったが、ハジメがオスカー・オルクスの指輪を翳すと壁が地面へとスライドし、洞窟内に日の光が差し込んだ。
オレ達は久方ぶりに感じる日光に目を細めながら、洞窟の外へと飛び出す。
まず目に入ったのは、天まで伸びるかと思うほどの岩壁だった。
上を見上げると、ここが巨大な断崖に挟まれた峡谷であることが分かる。
「……どうやら、オスカー・オルクスの手記に書いてあったことは、本当らしいな」
この世界において、これほど巨大な峡谷は一つしかない。
西の『グリューエン大砂漠』から東の『ハルツィナ樹海』まで、大陸を南北に分断する巨大な峡谷。
断崖の下では殆ど魔法が使えず、多数の凶悪な魔物が生息するため、『処刑場』の異名が付くその地の名は、『ライセン大峡谷』という。
◆◇◆
「――地上に、戻ってこられたんだな……」
ハジメは万感の思いが籠った声で呟く。
オレも、久しぶりに地上の空気を感じて感慨にふけっていた。きっと、今以上に『空気が美味い』と感じることは今後無いだろう。
また、ユエも空から降り注ぐ日差しに目を細めながら、嬉しそうにしている。彼女にとっては数百年ぶりの地上なのだ。感動もひとしおだろう。
しかし、いつまでも感慨にふけってはいられなかった。
何故なら、ここは超危険地帯の『ライセン大峡谷』なのだから。
《気配感知》に、幾つかの反応が引っかかる。
次の瞬間、オレ達を囲むようにトカゲ型の魔物が岩陰から姿を現す。全部で五体の小規模な群れだ。
どうやらこちらを獲物と認識しているらしい。
「……はぁ、全く無粋なヤツらだな」
ハジメがうんざりした様に悪態をつく。
「向こうはやる気みたいだな。手早く片付けよう」
「……ん、瞬殺する」
一瞬でオレ達は戦闘態勢に入る。
ハジメはドンナーとシュラークを抜き、オレは直剣を構えた。ユエも、いつでも魔法を放てるように体内で魔力を練っている。
トカゲ達は獲物に逃げられると思ったのか、一斉にオレ達へと飛び掛かってくる。
しかし、次の瞬間二体のトカゲの頭が爆散した。
ハジメによる銃撃が頭部に直撃したのである。
オレは飛び掛かってきたトカゲを直剣で切り捨て、近くにいたもう一体に向かって掌を向ける。
「――ザケルガ!!」
放たれた電撃に貫かれ、トカゲ型の魔物は動かなくなった。これで四体。
「――《緋槍》!!」
残った一体は、ユエが放った魔法によって消し炭になる。
周囲に追加の魔物がいないことを確認し、戦闘は終了した。
「……なんか、あっけなかったな。奈落の魔物なら、もっと粘ったと思うが……」
余りにもあっさり勝ったからか、首をかしげるハジメ。
「まぁ、あそこの魔物が特別だったという事だろう。当然、油断は禁物だがな」
「……そうだな。それより、二人とも魔力は大丈夫か?」
ハジメが言っているのは、『ライセン大峡谷』の特性である『魔法が使えない』という点についてだろう。
確かに、体外に魔力を放出するとすぐ霧散してしまうため、いつもより多めの魔力を消費してしまった。
また、通常のザケルガであれば、あの程度の魔物を消し飛ばすくらいは訳ないのだが、先程倒した魔物を見ると、頭部に拳大の穴が開いている程度だった。随分と威力も減ってしまっていたらしい。
「……ん、魔力の消費は十倍くらいになってる」
ユエが言うには、魔力を通常の十倍程度込めれば、いつも通りの威力が出せるとのこと。
(……この調子では、上級呪文は控えた方が良いな)
こんな状態では、打てて二、三発だろう。
今後、基本的には初級呪文で対応するとしよう。
オレ達は、この土地が『処刑場』と呼ばれる理由を実感したのだった。普通の魔法使いでは、成す術もなく魔物に喰われるだろう。
「さて、無事地上に出られたわけだが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮がある筈だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」
ハジメが空を見上げながら、提案してくる。
「ふむ……そうだな。樹海側であれば、幾つか町があったはずだ。宿の事を考えると、その方針で良いと思うぞ」
その後、ユエも特に反対しなかったため、オレ達はひとまず『ハルツィナ樹海』がある東へと向かうことにしたのだった。
◆◇◆
本来人が立ち入らない領域であるライセン大峡谷を、二台の
片方にゼオン、もう片方にはハジメとユエが乗るこのバイクは、当然ハジメが作成したアーティファクトであり、魔力を動力として動くアメリカンタイプのバイクである。
魔力駆動のためエンジン音等は鳴らず、走行時は非常に静かなのだ。
時折飛び出してくる魔物をハジメが銃撃しながら、三人は軽快に進んで行く。
しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、進行方向に大型の魔物が現れた。
頭が二つあるティラノサウルスのような見た目の魔物は、こちらへと真っ直ぐ向かって来ていた。
「――でかいな。そこらに居た他の魔物とは別格だ」
「しゃーねぇな。向かってくるなら撃ち殺して……って、何だアレ……?」
ハジメが困惑した声を上げる。
視線の先には、ティラノサウルスモドキの足元を跳ね回る何かがいた。
それは、ウサミミを生やした少女だった。
魔物が狙っていたのはこの少女なのか、少女の顔は半泣きになっており、必死に逃げ回っていた。
「……兎人族?」
ユエの呟きにハジメが反応する。
「……なんでこんな所に? 亜人族って樹海に居る筈だよな?」
「……犯罪者として落とされた、とか?」
ユエの言葉に、ハジメはげんなりとする。
ライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることから、ウサミミ少女が犯罪者である可能性に気付いたのだ。
「――よし、無視するか。魔物もあのウサミミを狙ってるみたいだし、ほっとけばいいだろ」
凄まじい程の鬼畜っぷりを発揮するハジメ。
そのまま通り過ぎようとするが、流石に見かねたのかゼオンから待ったが入る。
「……いや、流石に見捨てるのは後味が悪いだろう」
「でもよ、もしあのウサミミが犯罪者だったら、絶対に面倒なことになるぞ」
なおも渋るハジメに、ゼオンはため息を吐いて説得する。
「それは助けてから考えよう。……もし本当に悪人なら、その時は彼女を置いて逃げれば良い」
自分達なら簡単だろう、という言葉に、ハジメは渋々納得した様だった。
ゼオンが一足先に魔力駆動二輪のスピードを上げ、魔物とウサミミ少女の元へ駆ける。
ウサミミ少女の方も、自身に近づいてくる何かを認識したのか、大声で助けを求め始めた。
「――そこの人ー!! だずげでぐだざーい! 死んじゃいますぅー! だずけてぇー、おねがいじますぅー!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶウサミミ少女は、どうやらこちらに助けを求めているようだった。
何ともギャグテイストな格好だが、本人は大真面目である。
スピードを上げた魔力駆動二輪から飛び降りたゼオンは、そのままの勢いでティラノサウルスモドキに跳び蹴りを食らわせる。
「――グゥルァ!?」
巨体を仰け反らせて怯んだティラノサウルスモドキに、後ろから追いついたハジメの銃弾が襲い掛かった。
一瞬で片方の頭を吹き飛ばされたティラノサウルスモドキは、バランスを崩して倒れ込む。
すると、生き残った方の頭が倒れる先に移動したゼオンが、迎え撃つように頭を蹴り上げる。
ゴキリ、と鈍い音がすると同時にティラノサウルスモドキの首が捻じれ、地面へと倒れ伏した。
「――あ、あれ? えっ……えええぇぇーー!?」
たった数秒で魔物が倒されたことに驚いたウサミミ少女は、困惑の叫び声を上げるのだった。
◆◇◆
「あ、ありがとうございますぅー!!
オレ達は、先程魔物から助けたウサミミ少女が泣き止むのを待っていた。
先程から、恥も外聞もなく泣いていた少女は、ようやく落ち着いて話ができる様になっていた。
そして話を聞いてみると、なんと彼女の目的は、自分の家族を助けてほしいというものだった。
今はハジメがウサミミ少女との交渉を行っているが、これが中々に前途多難である。
少女はかなり図太い性格をしているらしく、助けてくれたら何でも言うことを聞きますよ、などと言ってハジメを誘惑したのだ。
これにはユエも我慢が出来なかったのか、命乞いするウサミミ少女に
オレは、ハジメ達が警戒する兎人族の少女を観察する。
だが、やはり警戒する必要性を感じない。オレ達を騙そうとしているにしては、余りにも純粋で無防備だ。
(不思議なのは、まるでオレ達が助けてくれることが分かっているかのような発言があることだが……)
そんなことを考えていると、涙やら鼻水やらで顔面をぐちゃぐちゃにした兎人族の少女が、こちらを見て固まった。
そして次の瞬間、彼女はオレを指差しながら絶叫した。
「え、えええぇぇーーッ!? ――貴方はもしかして、『王様』!?」
「………………は?」
――訂正しよう。このウサミミ少女は、想像以上に頭がおかしい人物なのかもしれない。
読んで頂いてありがとうございます。
いよいよ新章スタートです。
最後のあの娘についても、色々と設定を考えてますのでお楽しみに。
では、次話もよろしくお願いします。