ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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今回、シリアス成分多めです。

苦手な方はご注意ください。




LEVEL.34 初めての対立

 

 

ライセン大峡谷の出口に陣取っていた帝国兵は、下卑な笑みを浮かべて兎人族の女性達に視線を向けていた。

 

オレ達の後ろに居る兎人族は、その視線を受けてビクビクと怯えている。

 

 

すると、先程声を上げていた帝国兵の代表らしき男がオレ達に視線を向ける。

 

 

「……あァ? ……何だ、お前等? 兎人族……な訳ねぇよな?」

 

 

訝し気にこちらを見やる男に、オレは小さく息を吐いてから応じる。

 

 

「あぁ、オレは人間族だ」

 

「……そりゃあまた、何で兎人族と一緒に居るんだ? ……あぁ、もしかして奴隷商か? わざわざこんな所まで商魂逞しいことだが、残念だったな。後ろのそいつら全員、国が引き取るから置いていけ」

 

 

高圧的にそう命令してくる帝国兵。

 

どうやらオレ達のことを兎人族を狙った奴隷商人だと勘違いしているらしい。

 

 

「――断る。今彼らは、オレ達が雇った案内人だ。手出しは止めてもらおう」

 

 

「……何だと? お前、俺達が誰か分かっているんだろうな?」

 

 

帝国兵は気を悪くしたのか、苛立った様子で威嚇してくる。

 

 

「あぁ。わざわざ行く当てもなく彷徨っていた兎人族を狙っている、コソ泥だろう?」

 

 

「……てめぇ、よほど死にたいらしいな」

 

 

オレの挑発を受けて額に青筋を浮かべた帝国兵は、剣を抜いて戦闘態勢をとった。

 

 

「……一つ忠告しておくが、貴様等にオレ達を殺すことはできん。――大人しく国に帰るのなら、見逃してやるが?」

 

 

「調子に乗りやがって……!! おい、お前ら、今すぐこの生意気なガキをころ――」

 

 

次の瞬間、オレの後ろからバチリ、と何かがはじける音がした。

 

それを聞いたオレは咄嗟に駆け出し、帝国兵を背中に庇う位置(・・・・・・・・・・・)に移動する。

 

 

――バシィッ!!

 

 

オレは、帝国兵に向かって飛来した銃弾(・・)を掴み取り、目の前の人物――ハジメに目を向ける。

 

 

「……どういうつもりだ、ハジメ」

 

 

ハジメは、オレが帝国兵を庇ったことが信じられないようだった。一瞬動揺していたが、直ぐに切り替えてオレに返答する。

 

 

「どうもこうもあるか。そいつらは、俺達を殺そうとした。だから、俺もそれ相応の対応をしただけだ」

 

 

「……今放ったのは、魔物相手に使う『通常弾』だろう。人間相手であれば、『ゴム弾』で十分だった筈だ」

 

 

オレは先程掴み取った銃弾を掲げて指摘する。

 

それに対し、ハジメは首を横に振る。

 

 

「この手の奴らはな、生かしておいたところで百害あって一利なしだ。もし見逃しても、隙を見て俺達に復讐しに来るだろう」

 

 

「ハジメ……」

 

 

帝国兵を睨むハジメの目は、どす黒い殺意で満ちていた。

 

オレは、初めて見るその表情に、暫し唖然とする。

 

その表情は、『敵』は情け容赦なく叩き潰してきた、かつての自分のようで。それを見たオレは――。

 

 

 

「何だ、仲間割れかぁ……? ハハハッ――!! こいつは面白れぇ!! おい、眼帯のお前、そこの銀髪を殺したら、お前だけは助けて――」

 

 

 

「――お前たちは、黙っていろ

 

 

「――ヒィッ……!? あ、あぁ……!?」

 

 

技能《威圧》を発動し、帝国兵達を睨み付ける。

 

オレの体から溢れる魔力も相まって彼らは身動きすらできなくなり、ガクガクと震えた後、全員が失神してしまった。

 

 

オレは、倒れた帝国兵に照準を合わせ、引き金に手をかけているハジメの前に立ち、その射線を遮る。

 

 

「……何で止める? さっきも言っただろう。そいつらは生かしていても……」

 

 

「――ハジメ」

 

 

ハジメはオレの表情を見て、言葉に詰まる。

 

そして、一つ息を吐いた後、銃口を下げた。

 

 

「……後で後悔しても遅いぞ」

 

 

「――それでも、今ここでお前が人を殺すよりは良い」

 

 

オレの言葉に、ハジメはぐっと何かを堪える表情をして、樹海の方向へ歩き出した。

 

 

「――森の手前で待ってる。どうせそいつらを保護すんだろ? ……終わったら来てくれ」

 

 

そう言い残すと、ハジメは歩き去っていった。

 

 

「……ゼオン、私……」

 

 

ユエが、ハジメの去った方向を見て、オレに話しかけてくる。

 

 

「……あぁ。ハジメに着いて行ってくれ。……すまないが、頼んだ。」

 

「…………ん」

 

 

ユエは小さく返事をすると、ハジメの元へと駆けていった。

 

 

(……そういえば、こうしてハジメと意見が対立するのは、初めてのことだな)

 

 

ここまで真っ向からぶつかることなど、十年以上共に居て初めてだった。

 

 

オレは、青く澄んだ空を見上げて、ため息を吐くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

数分後、ユエはハジメに追いついた。

 

ハジメは、森の手前にある小岩に腰かけて項垂れている。

 

 

それを見て、ユエはハジメにゆっくりと歩み寄る。

 

 

「――ハジメ……」

 

 

「……ユエ」

 

 

ユエを見上げるハジメは、どこか疲れた表情をしていた。

 

 

「ハァ……。だっせぇな、俺……」

 

 

「……そんなことない」

 

 

ふとハジメが漏らした言葉に、ユエは首を横に振る。

 

 

「――あんな顔、させちまった。よりにもよって、あいつに。ゼオンに」

 

 

ハジメは、先程見たゼオンの顔を思い出していた。

 

寂しそうな、今すぐにでも泣き出しそうな表情。

 

 

ハジメは、あのゼオンにそんな表情をさせてしまったことを、悔いていた。

 

いつも自信に満ち溢れていて、どんな困難も跳ね除けられるくらい強い存在。

 

それを、自分のせいで壊してしまった気分になったのだ。

 

 

「……ハジメ、さっきはありがとう」

 

 

そんなハジメの横に座ったユエが、ポツリとお礼を口にする。

 

 

「――は……? なんだそれ、俺は何も……」

 

 

「……ハジメ、私達のために戦おうとしてくれた」

 

 

ハジメの反論は、続けてユエが発した言葉によって遮られる。

 

 

「私達に危険が及ばないように、考えてくれた」

 

 

「……違う。あれは、オレが奴らを気に入らなかったから……」

 

 

否定するハジメの顔を見つめて、ユエは首を横に振る。

 

 

「……だから、ハジメ、ありがとう」

 

 

「ユエ……」

 

 

再び紡がれたお礼の言葉に、ハジメは思わず口を噤む。

 

 

「……きっと、ゼオンも気付いてたと思う」

 

 

「…………」

 

 

「だから、きっと大丈夫」

 

 

何が、とは聞かなかった。

 

だが、ユエの言葉が張り詰めていた心に染み渡る。

 

 

「――あぁ、ありがとう」

 

 

それから、二人は一言も発さず、静かに空を見上げていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

今、オレは地面に魔方陣を描いていた。

 

二重の円を形作る魔方陣。内側の円には術式効果を、外側の円には発生範囲を記載する。

 

 

数分程で魔方陣を描き終わると、ずっと傍でオレの作業を見つめていたシアが、おずおずと話しかけてきた。

 

 

「……あの、ゼオンさん。……すみませんでした」

 

 

「……どうした、いきなり? シアに謝ってもらうことなどないと思うが」

 

 

オレが尋ねると、シアは泣きそうな表情で言葉を続ける。

 

 

「先程の、帝国兵の件です。……私達のせいで、ハジメさんと喧嘩をさせてしまいました」

 

 

ウサミミを垂らして元気なく謝罪するシア。

 

どうやら、先程オレとハジメが言い争った原因を作ってしまったことを気に病んでいるらしい。

 

 

オレは、シアに首を横に振る。

 

 

「……あれは、シア達のせいじゃない。シア達が居なくても、いずれ発生していた問題だろう」

 

 

そう。オレは、ハジメが奈落の底で生き残り、再会できたことに安心して、大事なことを見落としていたのだ。

 

 

ハジメの、『敵』に対する価値観というものを。

 

 

奈落の底では、相手が魔物だけだった。

 

だが、先程の出来事で、オレは思い知らされた。

 

 

ハジメにとっては、たとえ相手が人間であっても、『敵』は『敵』。

 

情け容赦をかけるなど、ありえないのだろう。

 

 

それは、ある意味では正しい。

 

毎度『敵』一人一人に配慮していては、いずれその隙を利用されてしまうだろう。

 

 

だがそれでも、オレはハジメに人間を殺してほしくなかったのだ。

 

 

『人を殺す』という出来事を経験してしまえば、それがハジメにとって何も影響を与えないわけがない。

 

 

きっと、いずれ罪悪感に苛まれるだろう。

 

覆水盆に返らず。

一度起きてしまった事実は、どれだけ後悔しても無かったことにはできない。

 

 

「…………」

 

 

分かっている。ハジメは、恐らくオレ達の為に汚れ役を買って出たのだろう。

 

帝国兵の復讐という、厄介ごとを背負わせないために。

 

 

……だがそれでも、ハジメにはいずれ後悔する道を辿ってほしくなかった。

 

 

過去の自分が犯した罪を悔やみ続ける、今のオレの様には。

 

 

 

「ゼオン殿。……全員、運び終わりました」

 

 

シアの父親であり、ハウリア族の長であるカムが話しかけてきた。

 

 

彼らハウリア族には、気絶した帝国兵達を魔方陣の中に運んでもらっていたのだ。

 

 

「……すまないな。貴方達も、こいつらに恨みがあるだろうに」

 

 

オレは、帝国兵を生かすことにしたことを謝罪した。

彼らにとって、こいつらは同胞の仇だ。今回の結果にも、思うところがあるだろう。

 

 

「ええ、何も感じていないと言えば嘘になってしまいますな……。ですが、ゼオン殿達に守られているだけの私達には、何も言う権利などないでしょう」

 

 

少しだけ悲しそうな眼をして、カムは言った。気にしなくて良い、と。

 

こちらを気遣ってくれるその言葉が、とてもありがたかった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あの後、オレは帝国兵の中で『小隊長』と呼ばれていた男を叩き起こした。

 

 

「な、何だ……? ――ッ!? て、てめぇはッ――!?」

 

 

「――黙れ。……そのまま横を見ろ。」

 

 

騒ぎ出しそうになった男を、再び《威圧》で黙らせ、横を向かせる。

 

 

男の視界には、気を失って倒れている部下全員の姿が見えただろう。

 

 

「安心しろ、全員生きている。……良いか、今からオレが言うことをよく聞け」

 

 

男は、焦ったようにコクコクと首を縦に振る。

 

 

「お前たちを生かしてやる。その代わりに、今日ここであったことはすべて忘れろ。帝国に戻ったら、『兎人族は峡谷から帰ってこなかった』と報告するんだ。……分かったな?」

 

 

「わ、分かった。分かったから、殺さないでくれ……」

 

 

帝国兵は怯えた様子で了承する。

 

思った以上に《威圧》が効いていたらしい。

 

 

「分かっていると思うが……もしも帝国にオレ達の事を報告して、復讐しようなどと考える様なら……。――次こそ命をもらうことになるからな」

 

 

「――ヒィッ……!? わ、分かった……!! お前達の事は絶対にしゃべらない……!!」

 

 

「……よし、良いだろう」

 

 

腰を上げ、帝国兵達の下に描かれた魔方陣に魔力を込める。

 

 

「お前の部下達は、あと数時間もすれば目覚めるだろう。それまでの間は、この魔方陣から出ないことだ。《結界》の魔法を発動しているからな。……まぁ、魔物に食われたければ好きにしろ」

 

 

 

そう言い残し、オレはハウリア達を引き連れて、樹海の方向へと歩いていくのだった。

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

今回は結構難産でした……。

帝国兵に関して、原作では割とあっさり手を下していましたが、今作ではゼオンくんがいるので、当然許さないよねということでこんな展開になりました。


では、次話もよろしくお願いします。
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