ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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LEVEL.37 どうしてこうなった

 

 

オレ達がフェアベルゲンに滞在してから、九日が経った。

 

いよいよ、明日は大樹の元に出発することになる。

 

 

そんな中、オレ達が実施しているハウリア族の鍛練についても、最終段階に入っていた。

 

 

「――えぇいっ!!」

 

 

白髪の兎人族――シアが、オレの正面から突っ込んでくる。その突進のスピードは凄まじく、彼女が蹴った地面は大きくひび割れ、陥没していた。

 

 

オレはその突進を避け、すれ違いざまにカウンターを入れようとする。しかし、シアは事前に察知していたのか、直前で真横へと飛び、オレの拳を躱してみせた。

 

 

「……成程、これは確かに想像以上だったな」

 

 

オレは純粋に驚いていた。

 

今のオレは身体強化をしていないとはいえ、先程の一撃は本気で当てるつもりだった。

 

恐らくは、技能《未来視》によって攻撃を予知したのだろう。消費魔力量が多いという話から、そう何度も使える手段ではないと思うが、それでもシアはオレの予測を上回ったのだ。

 

 

「……どう思う、ゼオン?」

 

 

驚いているオレに、先程の戦闘を離れたところで見ていたユエが声を掛ける。

 

何を隠そう、この模擬戦はユエの提案で行っていたのだ。

 

 

昨日、オレはユエに相談を受けた。

 

シアの戦闘に関する素質は、当初オレ達が思っていた以上であったこと。

 

また、身体強化については既にユエを越えつつあることを聞かされたのだ。

 

 

そして、一度直接シアの力を確認してほしいと言われ、この模擬戦が設定されたのだ。

 

 

「あぁ、正直驚いている。まさかこれ程までに化けるとはな……」

 

 

聞けば、訓練初日は碌に身体強化もできなかったという。

 

それが短期間でここまで成長したのだ。

その成長性は正に天才と呼べるもので、末恐ろしいものがある。

 

 

その後も数回打ち合ってみたが、スピードだけでなく、パワーも凄まじかった。

 

恐らくは、かつて戦ったベヒモス程度であれば、身体強化だけで強引に討伐できてしまうだろう。

 

 

「本当ですかぁ!? じゃあ、私もゼオンさん達の旅に付いてっても良いですよね!?」

 

 

「――あぁ、これだけ戦えれば問題ないだろう。オレに異論はない」

 

 

そう告げると、シアはぴょんぴょんと跳び回り、全身で喜びを表現していた。

 

 

「あっ、でも……まだユエさんとハジメさんには認めてもらえてませんでしたぁ……」

 

 

思い出したかのようにシュン、と落ち込むシアに苦笑しながら、オレは口を開く。

 

 

「心配することはない。ハジメにはオレから伝えておく。それにユエも、既にシアの事を認めていると思うぞ?」

 

「なっ……!? ゼオン、私は別に……」

 

 

ユエは咄嗟に否定するが、僅かに赤く染まった頬を見れば、照れ隠しだということが分かる。

 

そもそも、シアの件をわざわざオレに相談したということは、そういう事だろう。

 

 

「ええー? ユエさん、そうなんですかぁー?」

 

 

ニマニマと顔が緩んだシアは、ユエにダル絡みしていた。

 

 

「…………調子に乗るな、ウザウサギ」

 

 

「――ひゃあぁぁ!? ゼオンさーん!! 助け――ぐべっ!?」

 

 

調子に乗ったシアは、ユエの《嵐帝》によって吹き飛ばされ、悲鳴を上げるのだった。

 

 

(――はぁ、何をしているんだか……)

 

 

オレは、空高くから墜落して泣きながら謝罪するシアを見ながら、ため息を吐くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

さて、シアの訓練はひと段落した後、オレは他のハウリア族の訓練に顔を出していた。

 

……正直、ここ最近この時間が少し憂鬱に感じていることは、此処だけの秘密である。

 

 

それは、今俺の目の前に広がる光景が原因である。

 

 

「――我が王(・・・)!! お戻りになられましたか。シアの様子は如何でしたか?」

 

 

オレの目の前に傅き、声を掛けてくるこの男。

 

何を隠そう、シアの父親であり、ハウリア族の長であるカムである。

 

出会った当初のどこか儚い雰囲気は消え失せ、キリっとした表情でこちらを見る姿は、最早別人である。

 

 

「……あぁ、かなり強くなっていた。あれなら、オレ達の旅にも付いて来られるだろう。」

 

 

ツッコミが出そうになるのを抑えて、オレは淡々と口を開く。

 

カムはというと、嬉しそうにウサミミをピコピコと動かし、傅いたまま頭を下げてきた。

 

 

「はっ……!! それは喜ばしい限りです。どうか、我が娘の事をよろしくお願い致します……!!」

 

「あ、あぁ……。分かった」

 

 

カムの言葉に返事をしながら、オレは何故こうなったのかと自問する。

 

だが、さっぱり理由が分からない。

 

ある日突然、シア以外のハウリア族が皆、こんな調子になってしまったのである。

 

 

(……ハジメに聞いてみても、『知らない』と言っていたしな……)

 

 

思えば、その時のハジメは何か挙動不審だった気がするが、オレの気のせいだろう。

 

 

「――あっ、我が王!! お疲れ様です!!」

 

「――我が王!! 恐れ入りますが、剣の鍛練の成果を見て頂きたく!!」

 

 

次々と傅くハウリア族の皆。

 

オレは居心地の悪さを感じながら、彼らに言葉を返していく。

 

 

すると、今日の訓練を担当していたハジメが、声を上げて彼らを止めた。

 

 

「――お前達!! 今は訓練中だぞ、後にしろ!!」

 

 

右手に銃を握った状態で腕を組むその姿は、まるでドラマに出てくる鬼軍曹である。

 

 

「「「――はっ!! 申し訳ありません、教官(サー)!!」」」

 

 

ハジメの声を聞くと、バッと身を翻し、訓練に戻っていくハウリア族達。

 

 

(……どうしてこうなった)

 

 

オレは未だに見慣れない光景に、思わず思考を放棄しかけるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「――そうか、あのシアがなぁ……」

 

 

何とか気を取り直した俺は、ハジメにシアがユエに認められたこと、また実力も申し分なかったことを報告していた。

 

 

ハジメは少し驚いていたようだが、シアがオレ達の旅についてくることについては割とあっさり了承した。

 

理由を尋ねると、『ゼオンとシアが認めたのなら大丈夫だろ』と言っていた。

 

 

「さて、明日はいよいよ『ハルツィナ樹海』の迷宮に挑む訳だが……。ハジメ、準備は良いか?」

 

 

「あぁ。俺だって、何もハウリア族を鍛えてただけじゃねぇ。迷宮攻略のために新兵器も用意してある」

 

 

そう答えるハジメの顔には、確かな自信が現れていた。頼もしい事だ。

 

 

「ふぅ……ゼオンさん、ハジメさん、ただいま戻りましたぁ……」

 

 

そうしていると、ボロボロになったシアが集落に帰ってきていた。

 

……どうやら、本気のユエにきっちりお灸をすえられてきたらしい。

 

 

オレは戻ってきたシアに、ハジメもシアの事を認めたと伝えた。

 

シアは嬉しそうに跳び跳ねると、隣にいたユエに抱き着いていた。尤も、ユエは鬱陶しそうにしていたが。

 

 

 

因みに、この後シアは久しぶりに会ったカム達が変わり果てているのを見て、驚愕するのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

次の日、フェアベルゲンへと滞在してから十日目の朝、オレ達はカムを先頭に樹海の中を進んでいた。

 

目的はもちろん、『ハルツィナ樹海』の真の迷宮があると思われる大樹に行くためだ。

 

 

歩くこと数十分。

思ったよりも早く、オレ達は大樹へと辿り着いた。

 

 

だが、その見た目はオレ達が想像していたものとは大きく違ったのだ。

 

『大樹』は、確かに凄まじい大きさだった。

 

天高くそびえ立つその姿は、周りの木々のどれよりも巨大だ。

 

 

しかし、その姿は周りの葉が茂っている木々とは違い、見事に枯れていたのだ。

 

 

「……大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、決して朽ちることは無かった。枯れたまま変化なく、ずっとここにあるそうです。……周囲の霧の性質と、大樹の枯れながらも朽ちないという点から、何時からか神聖視されるようになっています」

 

 

ここまで案内してくれたカムが、オレ達にそう説明してくれる。

 

その説明を聞きながらも大樹の近くに歩み寄ると、根本付近に石板が建てられていた。

 

 

「これは……オルクス大迷宮にあった扉でも見たな」

 

「……ん、同じ文様」

 

 

ハジメの発した言葉に、ユエが同調する。

 

石版には正七角形とその頂点に七つの文様が、中心には『魔本の紋章』が刻まれていた。

 

 

「……やはり、ここが迷宮への入口みたいだな。……だが、入り口はどこだ……?」

 

 

オレは辺りを見回すが、石板の他には何もなかった。

 

いきなりの立ち往生に、オレ達はどうするかと思案する。

 

 

「……二人とも、これ見て」

 

 

そんな中、ユエが何かを見つけたのか声を上げる。

 

ユエが指していた石板の裏側を見てみると、そこには小さな窪みが開いていたのだ。

 

 

窪みに刻まれた紋章に気が付いたハジメが、オスカー・オルクスの指輪をはめ込むと、突如石板が輝きだした。

 

光が収まると、石板の上には光で文字が形作られていた。

 

 

『四つの証、再生の力、紡がれた絆の道標。これら全てを有する者に、新たな試練の道は開かれるだろう』

 

 

 

――どうやら、この迷宮を攻略するには、幾つかの条件を満たさなくてはならないらしい。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あの後、オレ達は石板に示された三つの条件が何かについて、話し合っていた。

 

 

一部憶測はあるが、下記の様になるのではと結論が出た。

 

 

――四つの証。これは、他の七大迷宮の攻略を意味すると思われる。現在オレ達が攻略したのはオルクス大迷宮の一つのみ。条件は満たせていない。

 

 

――再生の力。これも正直分からないが、恐らく神代魔法の中に、『再生』に関わる魔法があるのではないだろうか。当然オレ達は持っていないので、これも条件を満たせていない。

 

 

――紡がれた絆の道標。これは、亜人族の案内でここまで辿り着くことを意味していると思われる。なので、これは条件を満たしている。

 

 

要するに、オレ達は先に他の七大迷宮を攻略する必要があるということだ。

 

 

 

「……はぁ、ここまで来て今直ぐ攻略はできないってことか。……面倒だが、他の迷宮から攻略するしかないな」

 

 

ハジメの言葉に頷く。

 

ハウリア族の皆にもこのことを伝えると、彼らは再びオレ達が樹海に来た時には、また力になると約束してくれたのだった。

 

 

「――我が王。暫しのお別れですな」

 

 

「……あのなカム、その呼び名は……。……いや、もういい」

 

 

ハウリア族を代表して、カムが話し掛けてくる。

 

その顔には僅かに悲しみの色が宿っていたが、直ぐに持ち直して傅いてきた。

 

 

「今の我らでは、我が王の足手纏いとなってしまうため、着いて行きたいなどとは言いません。……ですが、次に皆様がこの地を訪れた時まで、役に立てるよう鍛練しておきます。その時は、是非とも傍に侍ることを許して頂きたく」

 

 

傅いたままに言葉を紡ぐカムに、オレは半ば呆れながらも了承する。

 

すると、ハウリア族皆が揃って傅きだしたので、流石に止めた。

 

 

 

(――本当に、どうしてこうなった……)

 

 

オレは、ここ数日で最早癖になってしまったため息をこっそりと吐くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あれから数時間後、オレ達は樹海を抜け、『ライセン大峡谷』に向かっていた。

 

 

西にある『グリューエン大砂漠』に向かう道中、ライセンの迷宮も攻略するためである。

 

 

「ゼオンさん、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営するんですか?」

 

 

オレとハジメが魔力駆動二輪を取り出していると、新たに加わった仲間であるシアが声を掛けてきた。

 

オレは魔力駆動二輪を起動させながら、その問いに答える。

 

 

「食料を確保しておくためにも、今日は近くの町に寄る予定だ。今後のことを考えると、ある程度金銭も持っておいた方が良いだろうしな」

 

「わぁ……!! 何だか、冒険って感じですねぇ。ちょっとワクワクします!!」

 

 

ウサミミをピコピコ動かしながら、嬉しそうに言うシアに苦笑する。

 

まぁ、彼女のこういう正直な所も別に嫌いではない。ちゃっかりとオレの後ろに乗ってくるシアにしっかり捕まる様に言ってから、オレ達は出発する。

 

 

「それで、その町の名前は何て言うんですか?」

 

「あぁ、町の名前は確か……『ブルック』だったかな」

 

 

シアの質問に答えながら、魔力駆動二輪を走らせる。

 

 

そんなことを言っていると、オレ達はあっという間に樹海から遠ざかり、遠くに町が見えた。

 

 

 

こうして、オレ達は新たな仲間――シアを連れて、七大迷宮の攻略に向かうのだった。

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

今日は休日なので、夜にもう一話投稿する予定です。


では、次話もよろしくお願いします。
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