ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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LEVEL.45 操られる魔物達

 

 

大きく咆哮して襲い掛かってくる黒竜。

 

 

振るわれた腕の鋭い爪を、オレは直剣を振るうことで弾き返す。

 

 

「――グルゥオオ!?」

 

 

まさか真っ向から防がれるとは思っていなかったのか、黒竜が戸惑ったような声を上げた。

 

 

すかさずオレは空中で僅かに仰け反った黒竜へと掌を向け、呪文を唱える。

 

 

「ザケル!!」

 

 

掌から放たれた電撃が黒竜へと直撃し、大きく吹き飛ばす。

 

手応えはあったが、恐らくこれだけでは終わらないだろう。

 

 

オレは背後へと視線を向ける。

 

 

先程救出した男性冒険者と畑山先生達は、突然黒竜が襲撃してきたことに驚き、固まってしまっている。

 

彼らの事を考えれば今すぐに撤退するべきであるが、こんな山奥で動きの鈍った彼らを連れて逃げるのは不可能だ。

 

 

相手は竜種、それも恐らく特別に強い個体だ。

 

逃げようとしても機動力の差であっという間に追い付かれてしまうだろう。

 

 

 

オレは一瞬思案し、ハジメ達に向かって声を上げる。

 

 

「――オレが前に出る。ユエとシアは万が一のため、皆の防御に専念していてくれ。ハジメは先生達のフォローを頼む」

 

 

短く指示を出し、オレは黒竜の元へと駆け出す。

 

 

先程のザケルによって空高く吹き飛ばされていた黒竜は、既に体勢を立て直してこちらを警戒するように睨んでいた。

 

 

地面を強く踏みしめ、黒竜のいる空中へと跳び上がる。

 

 

黒竜はオレが跳び上がったのを確認すると、腕を振り上げて待ち構えた。

 

向かってくるオレを叩き落とすつもりなのだろう。

 

 

「――グルァアア!!」

 

 

咆哮と共に黒竜の剛腕が振るわれるが、オレは空中でもう一度(・・・・)跳ぶことで、その攻撃を避ける。

 

 

《天歩》と《魔力圧縮》の合わせ技によって黒竜の頭上をとったオレは、攻撃を空振りした黒竜の顔面に蹴りを叩き込んだ。

 

 

グラリ、と空中で体勢を崩した黒竜に掌を向け、呪文を唱える。

 

 

「ザケルガ!!」

 

 

放たれた雷の槍は黒竜へと直撃し、そのまま地面へと叩き落とす。

 

黒竜が墜落したことで土煙が舞い、黒竜の姿を隠していく。

 

 

ハジメ達の近くへと着地したオレは、感知系の技能を発動させながら、黒竜が墜落した地点を見やる。

 

そこそこのダメージは与えた筈だが、曲がりなりにも竜種がこの程度で倒れることはないだろう。

 

 

オレはいつでも呪文を放てるように体内で魔力を練りながら、黒竜が現れるのを待つのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「――すげぇ……。強すぎるだろ……」

 

 

あっという間に黒竜を打倒したゼオンを見て、一人の男子生徒が思わず呟く。

 

 

黒竜と遭遇してからまだ一分も経たない内の決着に、ハジメ達以外は驚愕していた。

 

 

その言葉を聞いて、ハジメは小さく鼻を鳴らす。

 

先程の攻防で、ゼオンは全くと言って良い程に力を出していなかった。

 

 

ゼオンが本気であれば、それこそ初撃で決着が付いていただろう。

 

だが、ゼオンは周囲への被害を考慮し、その選択を取らなかったのだ。

 

 

ハジメは腕を組んで黒竜が墜落した方向を見る。

 

そこには、《魔力感知》を発動しなくても分かる程の魔力が集中していた。

 

 

風が吹き荒れ、土煙に隠されていた黒竜の姿が露わになる。

 

 

黒竜は口を大きく開けて、魔力を口の中に集中させていた。

 

その目はゼオンを苛立たし気に睨み付けている。

 

 

黒竜が放とうとしているのは、冒険者達を消し飛ばしたというブレスだろう。

 

 

だが、今黒竜の目の前に居る存在は、その程度では焦ることなどない。

 

 

「――ユエ、先生達に余波がいかない様に守ってやってくれ」

 

「ん、分かった」

 

 

短く言葉を交わすと、ゼオンは右手の掌を黒竜へと向けた。

 

 

「――グルァアア!!」

 

 

黒竜の口から凄まじい威力の光線(ブレス)が放たれる。

 

 

光線は一直線にゼオンへと向かうが、ゼオンの顔に焦りはなく、ただ一言呪文を発した。

 

 

「――テオザケル!!」

 

 

 

次の瞬間、黒竜の放った光線は極大の雷にかき消される。

 

雷がそのまま直進し、黒竜の全身を飲み込むと、何処からともなく大きな声が響くのだった。

 

 

『――あんぎゃーー!? あばばばばっ!? 痺れるのじゃーーっ!?』

 

 

 

咄嗟に雷撃を消すゼオン。

 

その顔には、困惑が浮かんでいた。

 

 

それと同時に、その場にいる全員が先程声のした場所――黒竜を見つめる。

 

 

 

『うぅ……、鱗がぁ……。妾の立派な鱗がぁ……』

 

 

 

そこには、地面へとうつ伏せに倒れ込みながら体中からプスプスと煙を上げ、切なそうな声を上げている黒竜の姿があるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

『ううぅ……、まだ痺れが取れんのじゃ……。あっ、でも、ちょっと気持ちいいかも……』

 

 

――喋っている。目の前の黒竜が。

 

 

人語を理解し、話せる魔物というのは基本的に存在しない。

 

今まで発見されていなかった新種の魔物である可能性はまだあるが、竜種で言葉を理解しているとなると、もう一つの可能性が浮上する。

 

 

「……まさか、『竜人族』なのか?」

 

 

案の定というべきか、オレの呟きに黒竜は反応した。

 

 

『……むっ? 如何にも、妾は誇り高き竜人族である。……すごーく偉いんじゃぞ?』

 

 

……どうやら、本当に竜人族らしい。

 

 

竜人族とは、五百年以上前に滅びたとされている伝説上の種族である。

 

まぁ、地面に伏せて時折ビクンビクンと跳ねている今の姿からは、まるで威厳を感じないが……。

 

 

「遥か昔に滅びた筈の竜人族が、何故こんな所で冒険者を襲っていたんだ?」

 

 

ようやく痺れが取れたのか、首を持ち上げた黒竜はオレの質問に対して返答した。

 

 

『――妾は、先程まで操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも、妾の本意ではない。仮初の主……あの男(・・・)にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ』

 

 

そう言って、オレ達が救出した冒険者へと視線を向ける黒竜。

 

 

つまり今回冒険者達が失踪したのは、黒竜を操っていた男の指示によるものだったということだ。

 

 

そして、黒竜はこれまでの経緯を話し始めた。

 

 

 

まずこの黒竜の出自についてだが、数ヶ月前に竜人族の隠れ里という場所から出て来た竜人族だという。

 

その目的は、異世界からの来訪者について調べるため。

 

つまり、オレ達勇者一行が召喚されたことで異変を察知した竜人族達が送り込んだ調査員なのだという。

 

 

そうして人間族の世界に出て来た黒竜は、人に化ける術を使いながら調査を進めていたが、ある日この北の山脈地帯にて元の姿へと戻り、休息のために眠りについていたのだという。

 

 

その隙を突かれて、先程『あの男』と呼んでいた黒いローブを纏った男に洗脳された、という事らしい。

 

 

何とも間抜けな話だが、肝心なのはその黒いローブの人物についてである。

 

 

洗脳などと言う闇系統の魔法を扱うという話から、魔人族の仕業かと思ったが、その考えは黒竜によって否定された。

 

黒竜が言うには、その男は黒髪黒目の人間族の少年だったという。そして、状況から闇系統の魔法に関して相当な才能がある。

 

 

 

ここまでの話を聞いた時、畑山先生と生徒達の顔が青ざめていた。

 

どうやら、その特徴は彼女達と行動を共にしていた、清水(しみず)幸利(ゆきとし)の特徴と合致するのだとか。

 

 

動揺する先生達を落ち着かせること数分。

 

 

ようやく落ち着いたと思ったら、今度は黒竜が体を震わせて口を開いた。

 

 

『……あ、もう魔力がもたん。『竜化』が解けてしまう』

 

 

そう言うや否や、黒竜の体が淡く発光した。

 

一瞬で光が収まると、そこには黒髪の美女が地面に座っていた。

 

 

突然の事に面食らっていると、美女はゆっくりと立ち上がり、こちらを見つめて口を開いた。

 

 

「……ふぅ、いきなりすまぬな。改めて名乗らせてくれ。――妾の名は、ティオ・クラルス。最後の竜人族である、クラルス族の一人じゃ」

 

 

そう言うと、黒竜――ティオは優雅に微笑んだ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、黒髪の人間族の様な見た目に変化していた。

 

話を聞くと、どうやら魔力切れによって人型の姿に戻ってしまったのだという。

 

 

話を続けるぞ、とティオは『黒いローブの男』について話してくれた。

 

 

それによると、黒いローブの男は魔物を洗脳して大群を作り出し、町を襲う気らしい。

 

ティオも洗脳されている間、魔物の群れを洗脳するのに協力させられており、魔物の総数は数千体にもなるとのことだった。

 

 

そんなことを話していると、ふと《気配探知》に気になる反応が引っかかった。

 

恐らく魔物であろう反応が、大量にこちらへと向かってきている。まだ場所は遠いが、その数は千や二千といった程度ではない。少なくとも一万体は超えるだろう。

 

 

「――これは……」

 

「……ゼオン、どうした?」

 

 

思わず呟いた言葉に反応するハジメ。

 

オレは、《気配感知》に大量の魔物の反応があったことを伝える。

 

先程のティオの話を踏まえると、どうやら魔物達の目的地はウルの町らしい。

 

 

「そ、そんな……!? 早く町に知らせないと!! ええと、まずは住民を避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

 

話を聞いた先生が慌てふためいているのを落ち着かせ、オレ達はすぐさま帰還する用意を始める。

 

 

そんな中、ティオがオレに話しかけてきた。

 

 

「――のう、妾も連れて行ってくれんか?」

 

「……何?」

 

 

突然の申し出に、つい怪訝そうな声を出してしまった。

 

理由を尋ねてみると、ティオは申し訳なさそうにしながら口を開いた。

 

 

「元はと言えば、魔物の件は妾が気を抜いてしまったことが発端じゃからの。罪滅ぼしのためにも、手伝わせてほしいのじゃ」

 

 

どうやら、操られていたとはいえ冒険者を手に掛けてしまったことを気に病んでいるらしい。

 

 

「……いいだろう。ただし、妙な真似をするようだったら、すぐに置いて行くからな」

 

「うむ、それで構わん。……それと、おぬし等の名前を教えてくれんか?」

 

 

そう言われて、まだ自己紹介をしていなかったことに思い至った。

 

 

「ゼオン・ベルだ。よろしく頼む」

 

 

オレが名乗ると、他の皆も次々と自己紹介していく。

 

 

こうして、オレ達は新たな同行者のティオを連れ、魔物の件を報告するためにウルの町へと引き返すのだった。

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

というわけで、原作ではギャグ要員であるティオさんの登場回でした。
正直、上手く料理できるか不安なキャラですが、魅力的に描けるように頑張ります。

では、次話もよろしくお願いします。
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