ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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LEVEL.46 殲滅戦

 

 

ハジメが運転する魔力駆動四輪と、オレの操る魔力駆動二輪が並んで平野を駆ける。

 

 

オレ達は現在、北の山脈地帯で確認した魔物の群れについて報告するべく、ウルの町へと向かっていた。

 

 

行きの時よりも人数が増えたため、ティオはハジメによって魔力駆動四輪のルーフ部分に括りつけられている。

 

当初は流石に悪いと思って止めようとしたのだが、当のティオ本人が嬉しそうに縛られる姿を見て、誰も口を挟まなくなった。

 

 

「それにしても、この奇怪な乗り物といい、妾を目覚めさせた強力な雷魔法といい、ゼオン殿達は色々と規格外じゃのう」

 

 

魔力駆動四輪の上部で縛られたまま、並走しているこちらに顔を向けて話し掛けてくるティオ。

 

 

「あぁ、自覚はしている。だからこそ、無暗に知られると面倒なことになるだろう。ティオも、このことは他言無用で頼むぞ?」

 

 

「うむ、承知しておる。お主等は妾の目を覚ましてくれた恩人じゃ。恩人を売り渡すなど、竜人族の誇りに掛けてしないと誓おう」

 

 

真剣な表情で言うティオ。

 

……これで縛られた状態でなければ、恰好も付いていたのだが。

 

 

「――あっ、ゼオンさん!! ウルの町が見えてきましたよぉ!!」

 

 

そんなことを考えていると、オレの後ろに乗っているシアが前方を指差して声を上げる。

 

その言葉の通り、視線の先にはうっすらと町の姿が見えてきていた。

 

 

(さて、これからどうするかな……)

 

 

今ウルの町に向かっているのは、オレ達だけではない。

 

一万を超える数の魔物達も、一斉に町を蹂躙しようと向かっているのだ。

 

魔物の進行速度を考えると、あまり猶予は無いため、ウルの町の住人は選択しなければならない。

 

 

すなわち、町を放棄して避難するか、迫る魔物の大群に立ち向かうかだ。

 

 

オレは、これから起こる混乱を予想して、小さくため息を吐くのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

数十分後、ウルの町の役場は騒然としていた。

 

 

ウルの町に帰還するや否や、愛子と生徒達が町長の元へと急ぎ、魔物の件を報告したためである。

 

 

報告を受けた町長は直ぐ様、町の権力者達を招集して対策会議を開いていた。

 

 

現在、ギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっているが、何やら揉めている様子である。

 

 

「――やるべきことは決まっているだろう!! 今は一刻も早く町から脱出するべきだ!!」

 

 

「だが、それでは町が……!! 何とか魔物を打倒する策を考えるべきでは?」

 

 

「『神の使途』である勇者様が来ているのだ、魔物程度に勝てない筈はない!!」

 

 

そうして話は何時しか、愛子達『神の使途』に魔物を殲滅してもらうという方向に流れ始める。

 

 

「如何ですかな、愛子様。此処は一つ、『神の使途』としてのお力を示して頂きたいのですが……」

 

 

教会の司祭が発したその言葉に、愛子の後ろで話を聞いていた生徒達の顔が青ざめる。

 

彼女達は元々、魔人族との戦争が怖くて迷宮攻略組から抜けてきた者達である。

 

 

そのため、町を滅ぼしかねない魔物の群れとの戦いなど、できる筈もなかった。

 

 

「ちょっと待ってください、この子達に責任を押し付けるような事はやめてください!!」

 

 

愛子は生徒達を庇う様に両手を広げ、毅然とした態度で反対した。

 

 

町の権力者達は、困った様に顔を見合わせる。

 

愛子達の力を借りられないのであれば、この町を放棄するしか道は無くなる。

 

『救世主』として召喚された筈の愛子達に頼れない現実に、彼らの表情にも不満が浮かんでいた。

 

 

 

「……では、この町は……放棄するしかないのでしょうか……」

 

 

町長が暗い表情でそう呟くと、愛子は罪悪感を滲ませた表情で俯いた。

 

 

役場に重い沈黙が下りた時、愛子は大事なことを思い出してバッと顔を上げた。

 

その視線の先には、腕を組んでこちらを見つめていたハジメとゼオンがいた。

 

 

彼らであれば、魔物を倒す事が出来るのではないか。

 

そう思った愛子は、衝動的に口を開いてしまう。

 

 

「……南雲君、ゼオン君。貴方達なら、何とかできますか……?」

 

 

その言葉は、彼女が先程拒絶した『生徒に責任を押し付けること』であると気付かずに。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――やはりこうなったか。

 

 

オレは、こちらを縋る様に見てくる畑山先生に視線を向ける。

 

彼女が今発した言葉に回答するのであれば、オレ達なら対処は可能だ。

 

 

だが、それはハジメとオレの力を大多数の人間へと晒すことに繋がるのだ。

 

 

七大迷宮を攻略しているオレ達は、あまり目立ち過ぎるべきではない。

 

エヒト神の眷属がどこで見ているか分からない以上、なるべくリスクは抑えた方が良いだろう。

 

特に、今の様に教会の関係者が見ている中で目立つのは避けるべきだ。

 

 

オレが先生の言葉を否定しようすると、それより前にハジメが声を上げていた。

 

 

「――なぁ、先生。その言葉の意味が分かってんのか?」

 

「え……?」

 

 

ハジメの視線は、酷く冷え切っていた。

 

そんな目を向けられた畑山先生は、困惑した声を上げている。

 

 

「アンタさっき言ったよな、『責任を押し付けるのはやめてくれ』って。それなのに、俺達には魔物を討伐させようとするのか?」

 

「あっ……!?」

 

 

畑山先生がハッとして口を押さえる。

 

気付いたのだろう、オレ達に『責任を押し付けてしまった』ことに。

 

 

「それに勘違いしている様だから言っておくと、俺はこの町がどうなろうと知った事じゃない。そもそも此処にはギルドからの依頼のついでに寄っただけだしな。命を懸けて助ける義理もない」

 

「……それ、は……」

 

 

ハジメの言葉に、畑山先生は完全に俯いてしまった。

 

それを見て、ハジメは部屋の出口へと歩いていく。

 

 

「戦うにしろ、町を放棄するにしろ、住民の避難準備は早めにしといた方が良い。……魔物が来るまで、一日も猶予は無いだろうしな」

 

 

そう言い残すと、ハジメは今度こそ部屋から出て行き、オレも続いて部屋を後にした。

 

 

 

 

部屋の外に出ると、ハジメがオレの事を待っていた。

 

 

オレはハジメに近付くと、口を開く。

 

 

「――良い演技だったぞ、ハジメ」

 

「……演技じゃねぇよ。思ってたことを言っただけだ」

 

 

顔を逸らして言うハジメに苦笑して、オレは言葉を続ける。

 

 

「では、そういう事にしておこう。……とにかく、あの場で引き受けなかったのは正解だったな」

 

 

あぁ、とハジメはオレの言葉に頷いた。

 

やはりハジメも聖教教会に目を付けられることを嫌ったらしい。

 

 

 

「――さて、いつ出発する?」

 

 

オレの言葉に、ハジメは何でも無い事のように返した。

 

 

「今日の夕方だな。魔物共がこの町から見える距離まで来たところで迎え撃つ」

 

 

オレはその言葉に驚く。

 

想像していたよりも遅い時間だったためである。

 

 

「……大丈夫か? 町から見えてしまえば、目撃者が増えるぞ」

 

「――あぁ。それについては、考えがある」

 

 

そう言うと、ハジメはニヤリと笑うのだった。

 

 

 

「先生には、今回の件の責任(・・)を取ってもらう」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

ゼオン達がウルの町の役場を後にしてから数時間後。

 

 

ウルの町の住人達はパニックになっていた。

 

町長を始めとする町の権力者達が、数万単位の魔物の大群が迫っている事を公開したからである。

 

 

彼らは伝えられた事実に冷静ではいられなくなっていた。

 

町長達に罵詈雑言を浴びせる者や泣いて崩れ落ちる者、我先にと町を逃げ出そうとする者、罵り合って喧嘩を始める者。

 

明日には自分達の故郷が滅び、逃げなければ自分達も魔物に蹂躙されてしまうのだと知ってしまった彼らの心は、皆絶望に暮れていたのだ。

 

 

そんなウルの町の中を、必死に駆け回る人物がいた。

 

小さな体から大きな声を張り上げて、落ち込む住民達を鼓舞するその人物の名は、畑山愛子。

 

最近、『豊穣の女神』と一部の国民から呼ばれるようになった、女性教師である。

 

 

彼女の働きによって、人々は少しずつ冷静さを取り戻していった。

 

 

しかし、ウルの住人達は避難の準備を進めてはいるものの、町を離れようとしない人が大半だった。

 

やはり故郷は捨てられない、という考えが強いのと、『豊穣の女神』が何とかしてくれると期待しているのだ。

 

 

 

そんな町の外に出た愛子は、数時間前まで存在しなかった町を囲むように聳え立つ外壁(・・)に腰掛ける人物を訪ねていた。

 

 

「――南雲君、何か手伝えることはありますか?」

 

 

その人物とは、この外壁を作った本人であるハジメであった。

 

ハジメは愛子の声を聞いても、北の山脈地帯から視線を外さないまま、口を開いた。

 

 

「いや、何もねぇよ。……先生」

 

 

その言葉に愛子は少しだけ寂しそうな顔をしたが、直ぐに気を取り直して言葉を発した。

 

 

「南雲君、本当にありがとうございます。ウルの町を守るために行動してくれて……」

 

 

そう言って頭を下げる愛子。

 

その言葉の通り、今ハジメはウルの町を守るための準備を進めていた。

 

 

実はハジメは先程の役場での会議が終わった後、愛子と個人的にコンタクトを取っていたのだ。

 

その内容とは、ウルの町を守る代わりに愛子と生徒達にとある条件(・・・・・)を飲んでもらうことだった。

 

 

結果として、愛子はその条件を飲んだ。

 

そうしてハジメ達はこうしてウルの町を守ることになったのである。

 

 

愛子は不思議そうにキョロキョロと辺りを見回し、疑問を口にした。

 

 

「……そういえば、ゼオン君はどこですか? 彼にも改めてお礼を伝えたかったのですが……」

 

 

「ゼオンなら、魔物の動向を調べに行ってる。作戦開始まで、この町には戻ってこないぞ」

 

 

その言葉に愛子はハッとして、少し落ち込んだ表情を浮かべる。

 

 

「……そうですか。……あの、南雲君。今更こんなことを言うべきじゃないのは分かっているんですけど……」

 

 

迷う様に愛子が言葉を言い淀むと、ハジメは愛子へと視線を向けた。

 

 

「……本当に、勝てるんでしょうか? 相手の魔物は、数え切れない程の数だって聞いています。もし、負けてしまったら……」

 

「――勝てる。負ける可能性なんて、万に一つも無い」

 

 

きっぱりと断言するハジメに、愛子は思わずキョトンとしてしまう。

 

ハジメは言う。

 

自分とゼオンがいて、負ける事などありえないと。

 

 

その確信したような表情を見て、愛子は優しく微笑んだ。

 

 

(本当に、ゼオン君の事を信頼しているんですね)

 

 

愛子は、かつて地球に居た頃は二人が兄弟として生活していたことを思い出す。

 

 

「……それよりも、先生。この戦いが終わった後は、約束を守ってくれよ?」

 

 

ハジメがふと発した言葉に、愛子は力強く頷いた。

 

 

「はい、分かってます。貴方達のことについては他言無用。これから来る魔物の討伐も、私達がやったことにする、ですよね」

 

 

愛子の言葉に、ハジメは黙って頷いた。

 

ハジメが魔物の討伐と引き換えに愛子へと要求したことはただ一つ。自分達の存在の秘匿である。

 

 

聖教教会に自分達の生存が発覚するのを少しでも遅らせるために、ハジメは策を打ったのだ。

 

 

そんなことを話していると、ハジメの表情が引き締まった。

 

再び北の山脈地帯を見つめて押し黙ったハジメだったが、暫くして愛子へと振り返って口を開いた。

 

 

「ゼオンから連絡があった。もうすぐ魔物達の先頭が町から見える距離にまで到達するらしい」

 

 

その言葉に、愛子の表情も引き締まる。

 

後ろを振り向くと、眼下に広がる町の広場では早速魔物の姿を確認したのか、町に残った住民がざわつきだしていた。

 

 

そんな様子を確認したハジメは、大きく息を吸うと住民達に向かって声を張り上げた。

 

 

 

「――聞け!! ウルの町の勇敢なる住人達よ!! 私達の勝利は既に確定している!!」

 

 

いきなり何だ、とハジメへと視線を向ける住人達。

 

ハジメは混乱する彼等を尻目に言葉を続けた。

 

 

「――何故なら、私達には女神が付いている!! そう、皆も知っている『豊穣の女神』、愛子様だ!!」

 

 

その言葉に、ハジメの隣で大人しくしていた愛子がギョッとしたようにハジメを見た。

 

そんなことは構わずに、ハジメの言葉は続く。

 

 

「――我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!! 愛子様こそ、我ら人類の味方にして豊穣と勝利をもたらす、天が遣わした現人神である!!」

 

 

ハジメの隣の愛子があわあわとしている内に、ハジメの演説は締めに入っていた。

 

 

「――ウルの住人達よ、見よ!! これが、愛子様によって起こされる、女神の雷(・・・・)である!!」

 

 

 

その言葉が終わるや否や、夕日に照らされる魔物達の大群は、天へと延びる雷(・・・・・・・)によってその一角を消し飛ばされるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「……少し派手にやり過ぎたか?」

 

 

ハジメから《念話》による合図が届いたオレは、ウルの町へと向かっている魔物の先駆隊を焼き払った後、呟いた。

 

先程までオレの周りに居た数百体の魔物達は消し飛び、焼け焦げた地面だけが残っている。

 

 

「――グギャア!!」

 

 

そんなことをしていると、再び押し寄せてきた魔物の群れが耳障りな鳴き声を上げながら突っ込んできた。

 

 

オレは先頭にいたゴブリンの様な魔物の突進を跳んで避け、魔物の群れの中に着地する。

 

 

直ぐ様オレに襲い掛かってくる魔物達に掌を向け、オレはその場で回転しながら呪文を唱える。

 

 

「ラージア・ザケル!!」

 

 

掌から放たれた雷撃によって、再び魔物達が消し飛んでいく。

 

雷によって自身の周囲を薙ぎ払ったオレは、そのまま魔物の大群に突っ込む様に駆け出す。

 

 

惜しみなく呪文による雷の雨を降らせ、魔物を駆逐していくと、オレの進行を止めようとしたのか、体長五メートルはあるトロールの様な魔物が数十体こちらへと駆けてきた。

 

 

「……随分と頑丈そうな魔物を寄こしてきたな」

 

 

どうやら、この大軍を操っている奴は、今の状況を良く思っていないらしい。

 

 

――だが、この程度の魔物で止められると思っているのなら、まだ認識が甘いがな。

 

 

オレは魔力を掌へと集めて、天へと突き出す。

 

 

「――レード・ディラス・ザケルガ!!」

 

 

上空に雷の刃を纏った円盤が出現する。

 

オレの掌から放たれた雷がその円盤に繋がると、円盤はオレの意のままに動かせる凶器と化した。

 

 

オレは円盤を横薙ぎに振るい、トロール達を吹き飛ばす。

 

円盤に纏われた雷の刃に切り裂かれたトロール達は、上半身と下半身を泣き別れさせながら絶命した。

 

 

ものの数秒でトロール達を全滅させたオレは、そのまま円盤を操り、周囲の魔物を駆逐していく。

 

一振りで数百体の魔物が蹴散らされていく中、オレの脳裏に声が響く。ハジメの《念話》だ。

 

 

『ゼオン、順調みたいだな。まだいけそうか?』

 

 

『あぁ、問題ない。魔力もあと一時間はもつだろう』

 

 

ハジメの声に短く答える。

 

今回、ハジメにはオレが討ち漏らした魔物の対処を任せていた。

 

 

『よし、何かあれば言ってくれ、すぐ交代する』

 

 

『了解だ。その時は――』

 

 

突如ゾワリ、と悪寒が走る。

 

オレは念話を中断し、その場を全力で飛び退いた。

 

 

――ボンッ!!

 

 

すると、先程までオレがいた地点の地面が大きく抉れ、砂埃を上げた。

 

 

オレはその時になって、上空に人影があることに気が付いた。

 

体勢を整えながら、オレはその人影に視線を向ける。

 

 

「――成程、流石は想定外(イレギュラー)。今の攻撃を避けられるとは思いませんでした」

 

 

そこには、銀髪を靡かせてこちらを無表情に見つめる女性がいた。

 

月を背景に宙へと浮かぶその背中には、二対の翼が存在している。

 

まるで『天使』とも呼べる容姿をした女性は、二対の剣を構えてゆっくりと降りてくる。

 

 

「一瞬で済ませたかったのですが、仕方がありません。……貴方には私に付いてきてもらいます。拒否権はありません」

 

 

そして、突如現れた女性は翼をはためかせ、オレに向かって突進してくるのだった。

 

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

色々と忙しすぎて中々執筆できませんでした。申し訳ない。
年始以降であれば時間が取れそうなのですが、それまでは投稿が少なくなるかもしれないです。

では、次話もよろしくお願いします。
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