ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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LEVEL.48 先生として

 

 

ゼオンが神の使途ノイントを打倒した頃、ウルの町へと進行してくる魔物の群れを撃滅していたハジメ達の方でも決着が付こうとしていた。

 

 

「――ギュアアア!?」

 

 

ところどころで、魔物の悲鳴が上がっていく。

 

 

本来であれば、ウルの町を容易く蹂躙できるであろう数万体の魔物の軍勢は、たった四人の規格外によって次々とその数を減らしていた。

 

 

「――《壊劫(えこう)》」

 

 

金色の髪を靡かせたユエが、莫大な魔力を一点に収束させる。

 

解放者の一人ミレディ・ライセンから授けられた神代魔法である《重力魔法》によって、魔物達が密集する地点に渦巻く闇色の球体が出現する。

 

 

球体は徐々にその形を変化させていき、魔物達を塗り潰すように四方数百メートルの正四角形を形作る。

 

そして次の瞬間、その正四角形の範囲内に居た魔物達が、地表ごと消滅した(・・・・・・・・)

 

 

たった一発の魔法で千体を超える数の魔物が殲滅され、戦場にぽっかりと穴ができた。

 

その事象を成した黄金の吸血姫は、特に気にすることもなく、次の魔法の準備に取り掛かっていく。

 

 

 

またある一方では、体から黒い魔力を立ち昇らせながら魔法を行使するティオの姿があった。

 

 

「――吹き荒べ頂きの風、燃え盛れ紅蓮の奔流、《嵐焔風塵(らんえんふうじん)》」

 

 

魔力消費を抑えるために詠唱を行って発動された魔法により、魔物達の群れは突如現れた火炎旋風に飲み込まれて灰になっていく。

 

ティオは魔力が少なくなってきたためか多少ふらつくが、指に嵌めた指輪を撫でると、直ぐに背筋を伸ばして立ち、再び魔法を発動して魔物を殲滅していく。

 

 

 

さらに別の一角では、オルカンを構えたシアが魔物の群れに向かって照準を合わせ、引き金を引いていた。

 

パシュッ、と気の抜けた音と共に放たれた弾頭は、着弾すると大爆発を起こし、数百体の魔物を一度に粉砕した。

 

 

シアは自身の傍らに積み上げられた弾頭をオルカンに再装填すると、また別の魔物の群れに向かって照準を合わせ、引き金を引いていく。

 

あちこちで巻き起こる大爆発によって、魔物達は大混乱に陥っていた。

 

 

 

極め付けは、ウルの町の正門前に陣取り、六砲身ガトリング砲のメツェライから無数の弾丸を吐き出しているハジメである。

 

ドゥルルルル、と激しい音を鳴らしながら撒き散らされる死の雨は、ユエ達が討ち漏らした僅かな魔物達を含めて、目の前にある存在全てを蹂躙していく。

 

 

ハジメ達が攻撃を開始してからほんの数十分であるが、数万体はいた魔物の群れは、既に残り数千体にまで数を減らしていた。

 

 

ウルの町の住人は、あれだけいた魔物達があっという間に全滅しかけている事実を前にポカンとしていたが、やがて大きな歓声を上げ始める。

 

もはや逃げ惑うしかできない魔物達の姿から、この町の危機が去ったのは誰の目にも明らかであった。

 

 

 

こうして、ウルの町に迫っていた魔物の脅威はたった数人の人間によって排除されたのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

(――クソッ、クソッ、クソッ!! 何なんだよ、あれは!?)

 

 

使役していた魔物が全て殲滅されたことで、錯乱している黒ローブの男――清水(しみず)幸利(ゆきとし)は、心の中で悪態を吐いていた。

 

 

今彼は、ウルの町から離れるために、北の山脈地帯へ向かって駆けていた。

 

 

(――今度こそ、上手くいく筈だったのに!! 俺が最強なんだって、誰もが認める筈が、何で!?)

 

 

清水の頭の中には、妄想で作り上げた自分の未来が浮かんでいた。

 

しかし、異世界で華々しく活躍する自分の姿は、今まさに崩れ落ちていった。

 

 

 

突如現れた雷の奔流。

 

自身が苦労して集めた魔物達を一瞬で消し飛ばした圧倒的な力。

 

その魔法を放った存在が戦線を離脱したことで、自分は計画通り(・・・・)に町とアイツを消し去れるはずだったのに。

 

 

 

今度は、理不尽なまでの魔法と爆撃の連続。

 

この世界にある筈のない銃火器によって、残った魔物達は一匹残らず駆逐された。

 

もはや、自分に手駒となる魔物は残っていない。

 

 

何とか体制を立て直すために、清水は北の山脈地帯へ向かって走り続ける。

 

 

 

清水幸利にとって、異世界召喚とは正に憧れであり夢であった。

 

夢と妄想の中で何度世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えたか分からない。

 

そしてようやく夢が叶い、異世界で活躍する自分を想像していたというのに。

 

 

蓋を開けてみれば、自分は『その他大勢の一人』に過ぎなかった。

 

クラスメイトは皆特別な力を宿しており、地球に居た頃と同じく自分は陰に埋もれていった。

 

 

そうした生活の中で鬱憤が溜まっていた時、『とある人物』による助力を受け、大勢の魔物を使役することができた。

 

 

これで自分は『特別』になれる。

 

誰もが自身を崇め、畏怖と尊敬の念を抱くだろうと妄想していたというのに。

 

 

現実は、今こうして一人で逃げ惑っている。

 

 

(あいつ等さえいなければ、今頃俺は……!!)

 

 

そんなことを考えていると、ふと目の前に誰かが現れた。

 

 

「――止まれ。どうやら貴様が、今回の首謀者らしいな」

 

 

月明かりを反射する銀髪。

 

雷を閉じ込めた様に輝く紫の瞳。

 

 

「あ、な、何で……!?」

 

 

目の前には、数か月前に死んだ筈のクラスメイトが立っていた。

 

 

「……安心しろ、殺しはしない。お前に会いたがっている人がいる。――付いて来てもらうぞ」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、清水の意識は暗転した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

神の使途ノイントを退けた後、オレは怪しい黒ローブの男を発見したため、気絶させて連行していた。

 

 

何だか見覚えのある顔だと思ったら、やはりクラスメイトの清水幸利だった。

 

 

(畑山先生の懸念は当たっていた、ということか)

 

 

行方不明になっていたのも、今回の騒動を起こす準備として魔物を集めていたのだろう。

 

どうやってあれだけの数の魔物を従えたのかには疑問が残るが、それは後程本人の口から吐かせれば良い。

 

 

オレは清水を担いで、ウルの町へと向かうのだった。

 

 

 

 

数分後、オレはハジメ達と合流し、魔物騒動の首謀者として清水を引き渡していた。

 

 

清水が見つかったと聞いて、真っ先に飛んで来た畑山先生と生徒達が見守る中、オレは清水の肩を叩いて起こす。

 

 

「う、うぁ……? ――ひ、ひっ!?」

 

 

目を覚ました清水は、オレを視界に入れると、息を呑んで後ずさりした。

 

 

「……意識はハッキリしているようだな。お前には幾つか聞きたいことがある。正直に答えろ」

 

 

オレの言葉に怯えながらも、清水はコクリと頷いた。

 

その言葉を聞いて、畑山先生が一歩前に出てくる。

 

 

「……清水君、先生は清水君に聞きたいことがあります。……どうして、こんなことをしたのですか?」

 

 

目に涙を溜めて問い掛ける畑山先生を見て、清水はフン、と鼻を鳴らして口を開く。

 

 

「――どうして? ……そんな事も分からないのかよ。どいつもこいつも、無能ばっかりだ」

 

 

しかし、発された言葉は周りを見下す発言だった。

 

清水は続けてブツブツと言葉を発していく。

 

 

「馬鹿にしやがって……。勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに、気付きもしないで。散々モブ扱いしやがって……。本当、馬鹿ばっかりで嫌になる。……だから、俺の価値を示してやったんだよ」

 

 

それは、多くの冒険者達を殺し、町一つを滅ぼそうとした動機としては、余りに自分勝手な言い分だった。

 

 

「……てめぇ、自分の立場わかってんのかよ!? 危うく、町がめちゃくちゃになる所だったんだぞ!?」

 

「そうよ!! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!!」

 

「愛ちゃん先生がどれだけ心配してたと思ってるのよ!!」

 

 

反省の色すら見せない清水を、生徒達が次々と非難する。

 

畑山先生はそんな生徒達を落ち着かせると、優しい声で再度問い掛ける。

 

 

「……清水君、沢山不満があったのですね。……でも、やっぱり先生には分かりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われていたら、多くの人々が亡くなっていました。……それでは、人々に貴方の価値を示せません」

 

 

畑山先生の指摘に対して、清水は薄く笑うと、バカにするように答えた。

 

 

「――価値なら、示せるさ。……魔人族にな!!」

 

 

その言葉を聞いた者は、皆驚愕した。

 

今、清水は自分が魔人族と繋がっていると言ったのだ。

 

 

それから清水は、ポツリポツリとこれまでの経緯を話し始めた。

 

 

怪しまれずに王国の外に出るため、愛子の護衛隊へと立候補したこと。

 

魔物を捕まえるため、行方不明を装って北の山脈地帯へと行ったこと。

 

そして、そこで魔人族と出会ったこと。

 

 

「――その魔人族は、理解してくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。……だから俺は、そいつと『契約』したんだよ」

 

「……契約、ですか? それは、一体どのような?」

 

 

愛子が恐る恐る尋ねると、清水はヘラヘラと笑いながら言葉を発する。

 

 

「……畑山先生、アンタを殺す事だよ」 

 

 

「…………え?」

 

 

予想外の言葉に、畑山先生は目を丸くして驚く。

 

そんな先生に向かって、清水は得意げに語りだした。

 

 

『豊穣の女神』として人気のある畑山先生を殺せば、魔人族側の勇者として招かれる契約だったのだと。

 

 

だが、魔人族の手まで借りて実行された計画は失敗した。

 

オレと、ハジメ達という想定外の存在によって。

 

 

「あの軍勢なら、絶対あんたを殺せると思ったのに!! 何なんだよっ!! 何で、あれだけいた魔物が全滅してんだよ!? 何でお前が生きてんだよっ!? お前の、お前らのせいで……!!」

 

 

錯乱したように叫び出す清水。

 

畑山先生を殺そうとしたのを自白したことで、清水を見る生徒達の視線は冷たい。

 

 

しかし、そんな清水に近付く人物がいた。

 

優しく清水の手を握り、話しかける女性――畑山先生は、清水の目を見て言葉をかける。

 

 

『特別』でありたいと思うことは間違っていないと。

 

そして、清水ならきっと『特別な存在』になれる。だからもう一度やり直そう、と。

 

 

慈愛に満ちたその言葉は、美しいものだろう。

 

だが、オレにはその言葉が清水に届いているとは思えなかった。

 

 

「――さぁ、清水君。みんなと一緒に帰りましょう」

 

「…………」

 

 

清水の手を取って立ち上がった畑山先生は、清水が懐から取り出した針を突き刺そうとしていることに気付いていない。

 

 

「――悪いが、これは没収させてもらう」

 

 

清水の取り出した針が畑山先生に突き刺される直前、オレは二人の間に入って清水から針を奪い取る。

 

直後、再び地面へと押さえつけられた清水は、呻き声をあげて沈黙した。

 

 

「……先生、生徒を信じる貴方の信条は素晴らしいものだ。だが、話し合いが通じない人間というのも存在する。俺が思うに、清水はその手合いだ」

 

 

「ゼオン君……。……それでも、先生は、先生として最後まで諦めません」

 

 

オレの言葉に、畑山先生は悲しそうに顔を俯かせたが、その瞳はまだ清水との対話を諦めていなかった。

 

 

思わずため息を吐きながら、オレは清水を手錠で後ろ手に拘束する。

 

ちなみにこの手錠はハジメによる特別製だ。清水ではどうやっても外せないだろう。

 

 

 

こうして、ウルの町を騒がせた魔物騒動は、ひとまずの決着が付いたのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一面に広がる、真っ白な世界。

 

 

神々が住まう聖域――『神域』にて、二つの人影が向かい合っていた。

 

 

片方は頭から足の先までが光によって構成されている奇妙な存在、創生神エヒト。

 

もう片方は、ボロボロの体でエヒトへと傅く天使の様な女性、ノイントであった。

 

 

 

「――それで、まんまとやられて帰ってきたのか?」

 

 

エヒトが冷たい声でそう語り掛ける。

 

声を掛けられたノイントは、深く頭を下げながら、謝罪を口にした。

 

 

「……申し訳、ありません」

 

 

片方の翼と腕を失い、満身創痍の状態でノイントは主の言葉を待つ。

 

 

「……まあ良い。それだけ強力な魔物だということが分かった。良いか、次は必ず捕らえよ。これ以上、我を失望させるな」

 

 

「承知、致しました」

 

 

ノイントの言葉を聞き、エヒトはノイントを下がらせる。

 

空間が歪み、ノイントの姿が消えると、エヒトは愉悦を含ませた声色で呟いた。

 

 

失敗作(・・・)とはいえ、アレを打倒するとは……。どうやら、想像以上の『当たり』らしいな」

 

 

そう呟いて小さく嗤うと、エヒトは真っ白な空間から姿を消すのだった。

 

 

 

 

一方、エヒトへの謁見を済ませたノイントは、真っ白な通路を進んでいた。

 

 

やがて、巨大な魔方陣が敷かれた広い空間へと辿り着くと、ノイントは魔方陣へと魔力を込める。

 

すると、魔方陣から緑色の光が溢れ出し、ノイントの失われた翼や腕があった場所へと集まっていく。

 

 

そして傷付いていた部位が時間を巻き戻すように再生していき、数十秒でノイントの怪我は完治した。

 

 

傷が治ったというのに、ノイントはしばらくその場を動かず、顔を俯かせながら口を開いた。

 

 

 

「…………ゼオン・ベル」

 

 

 

その呟きは、誰もいない空間に消えていくのだった。

 

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

今回の話を書くにあたって、タグを追加しました。
もし他にも必要そうなものがあれば、ぜひ教えてください。

また、キリが良いところで終わったので、次回は幕間のお話を挟もうと思います。


では、次話もよろしくお願いします。
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