今回は文字数が少ないですが、キリが良かったので投稿しちゃいます。
あの後、ハジメを医務室まで送り届けたオレは、訓練場に戻って来た。
ハジメの怪我自体は白崎の治癒魔法で完治していたが、大事を取って午後の訓練は休ませることにした。日頃の疲れも溜まっていただろうし、丁度良い休息になるだろう。
まぁ、その際に雫がハジメと二人で話したいことがあると言ったことで、恐ろしい目をした白崎と二人で待たされるなんてこともあったが。
現在オレは、一緒に訓練場まで帰ってきた流れで、雫と模擬戦を行っている。
「――はあっ!!」
オレの目の前まで疾走してきた雫が横薙ぎに振るう剣を避ける。
雫が使用しているのは、シミターの様な形状をした片刃の剣だ。本人的には刀が良かったのだろうが、残念ながらこの世界に刀は存在しなかったため、一番形状が近いこの剣を使用しているという訳だ。
オレは連続で振るわれる斬撃を避けながら、雫の動きを注視する。
――速い。雫の天職は『剣士』だが、速さだけであれば、勇者の天之河を超えているだろう。次々と舞う様に振るわれる剣撃には美しささえ覚える程だ。
時間が経つにつれて、更に速く、研ぎ澄まされていく剣撃。次第に、オレも避け続けるのが困難になっていく。
――ギャリギャリッ
避けきれない斬撃を、直剣で受け流す。
剣同士がぶつかり合うことで、一瞬火花が散った。
再度、切り返しで振るわれる雫の斬撃に、オレは剣を合わせる。
――ガキィッ
剣の鍔同士が噛み合い、一瞬お互いの動きが止まる。
「くっ!?」
雫は距離を取ろうとするが、一度速度を殺してしまえば、初動はオレの方が速い。
オレは雫の攻撃体勢が整う前に再度距離を詰め、直剣を当てる直前で止めた。
「……はぁ、私の負けね。降参するわ」
そう言って手を上げる雫に対し、オレも剣を収める。
「もう少し善戦できると思っていたけど、まだまだ実力が足りなかったわね」
「そんなことはない。速く、綺麗な良い剣だった」
オレがそう言うと、雫はふわりと微笑んだ。
「ふふ、ありがとう。でも、鍔迫り合いになった時点で私の負けは確定してた。それに、ゼオンは魔法を使ってなかったでしょ?」
「ああ。今のは『訓練』だからな」
確かに、先程の模擬戦中に『術』を使用できるタイミングは幾つかあった。
だが、これが『訓練』である以上、オレが一方的に勝てば良いという訳でもない。
雫とオレ、両者に得る物がある試合にした方が有意義だろう。
一瞬脳裏に檜山と模擬戦した時の記憶が浮かんだが、あれは例外だ。アイツに手加減などいらん。
そんなことを考えていると、訓練の終了時間になった様で、メルド団長が訓練場に居る皆に声をかけていた。
「よーし、今日の訓練はここまでとする!! 明日からは、実戦訓練の一環として『オルクス大迷宮』へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意しているが、今まで王都外で行った魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!!」
メルド団長の言葉に、ザワザワと騒ぎ出す生徒達だったが、次に告げられた内容によって多少の不安などは吹き飛んだ。
「まぁ、要するに気合入れろってことだ!! 俺達もできる限りフォローするから安心しろ!! それと、今日は明日からの遠征に対する激励会が開催されるとのことだ。初日にやった食事会みたいなもんだな。各自、美味いもん食って、ゆっくり休めよ!! ……では、解散!!」
そう言ってメルド団長が去って行くと、テンションの上がった生徒達は我先にと解散するのだった。
◆◇◆
あの後、オレはハジメが休んでいる医務室を訪れていた。
後ろには、雫と白崎も着いてきている。
医務室に入ると、ハジメはベッドに横になりながら、分厚い本を読んでいた。
恐らくは、城の図書館で借りてきたのだろう。
本のタイトルは『北大陸魔物大図鑑』であり、オレも以前読んだことがあるものだった。
名前の通り、北大陸に生息している魔物の図鑑で、魔物の特徴や生態などが図を交えて分かり易く纏められているのだ。
ドアを開ける音でこちらに気付いたハジメは、本を閉じてこちらに話し掛けてくる。
「ゼオン、お疲れ様。もう訓練は終わったの?」
「あぁ、ついさっきな」
軽く話をしながら、明日から『オルクス大迷宮』への遠征があることや、今日はその激励会が開催される事を伝える。
「オルクス大迷宮って、七大迷宮の一つだよね……。うーん、上手く戦える自信無いなぁ」
「何かあれば、騎士団の方々やオレがフォローするさ。ハジメはあまり気負わず、今まで積み重ねた努力の成果を見せればいい」
「簡単に言うなぁ……」
苦笑してそう言うハジメだが、オレはあまり心配していない。この二週間でハジメの戦闘能力は確実に上がっている。
それに、先程言った通り今回は騎士団の面々もサポートに回るのだ。何も魔物との一対一を強いられる訳じゃない。
そんな事を話していると、夕食の時間が近付いていた。
「あ、もうこんな時間か。ごめん、僕はこの本を図書館に返さないといけないから、先に行くね」
そう言って医務室を出て行こうとするハジメに、白崎が声を掛ける。
「南雲くん、私も一緒に行くよ。南雲くんの体もまだ本調子じゃないかもしれないし」
「えっ」
白崎の申し出に、ハジメは一瞬固まってから助けを求める様にこちらを見るが、オレと雫は目を逸らした。
すまんな、ハジメ。
白崎の言う通り、何かあった時に治癒魔法が使える人間が近くに居たほうが良いだろう。今回は我慢してくれ。
(――それに、オレは先約があるからな)
唖然としたまま白崎に連行されていくハジメを見送りながら、オレは振り返る。
「……これで良かったか? 雫」
「えぇ、ありがとう。時間を取ってもらって」
実は医務室に来る前、雫に「二人きりで話がしたい」とお願いされていたのだ。
オレ達が今居る部屋は、医務室とは言っても治療が済んだ患者を寝かしておくだけの部屋なので、ハジメが居なくなった今、オレと雫の二人しか居ない。
「それで、話したい内容というのは何だ?」
「うん……、貴方に、謝りたい事があるの」
そう言って一つ呼吸を入れた雫は、こちらを真っ直ぐ見つめて言葉を続けた。
「今日、南雲君が檜山達にされた事を見て、気付いたの。……私は、この世界に来てから自分の事しか考えていなかったんだって」
「……今回の件について、雫に責任はないと思うが」
そう言うも、雫は首を横に振って続けた。
「ちょっと考えれば、南雲君がそういう目に遭うかもしれないことには気が付けたと思う。だけど私は、自分の事ばかり気にして、その可能性に目を向けなかった。……それに、貴方のことも」
暗い声で言葉を続ける雫。
「あの時……貴方が『天職なし』だって皆に知らせた時も、せめて私は、貴方の味方をしないといけなかった」
「貴方が強い人だってことは知ってる。十年来の付き合いだもの。でも、そんなことは関係ないの」
その言葉には、強い後悔が込められていた。
「貴方達、大切な友人の立場が危うい時に、私は何もしなかった。この事実は変わらない」
まさか、雫があの時の事をここまで気にしていたとは、知らなかった。
……だが、やはりオレは雫に責任は無いと思う。
むしろハジメの件については、一番近くに居たオレが事前に檜山達の暴走を防ぐべきだった。
「……雫、もう一度言うぞ。お前は悪くない。あまり気に病むな」
そう言うと、雫は小さく笑った。
「ふふ、南雲君にも同じ事を言われたわ。貴方達って、そういう所そっくりよね」
「何? では、昼にハジメと二人で話していたのは……」
「えぇ、今回の件について謝ったの。でも、『八重樫さんは悪くないよ。気にしないで』って何でも無いことみたいに言われちゃった」
(……あぁ、ハジメならそう言いそうだ)
苦笑しながら語った雫に、オレもその時の様子が容易に想像できた。
雫は、再度オレを真っ直ぐ見つめる。
その瞳には、先程までの暗さは無く、何か強い意志が感じられた。
「決めたの。二度とあんな事が起きない様に、貴方達を守れるくらい強くなるって」
「……守るって、オレのこともか?」
「えぇ、もちろん。……必ず、追い付いてみせるから」
これは、もう止まらないだろう。
真面目すぎるとも思うが、そういえば昔からそういう性分だったな。
「あまり、無理はするなよ」
オレの言葉に、雫は力強く頷いた。
「えぇ、大丈夫。『自分で決めたことだから。絶対に投げ出したりしない』」
そう言うと、雫はいたずらっぽく笑って医務室を出ていく。
(――今のは)
昔、オレが雫に言った言葉だ。
(……あんな昔の事、良く覚えていたな)
オレは思わず苦笑し、雫の後を追って、誰も居ない医務室を後にした。
読んで頂いてありがとうございます。
というわけで、私の中で今作のヒロイン候補である雫さんがメインの回でした。
本当は、次話と繋げて投稿する予定だったのですが、読み返してみると流れに違和感があったので、分割しました。
なので、今日はこの後もう一話投稿します。
では、次話もよろしくお願いします。