本来のキャラクター設定は学生で生徒会のメンバーなのですが、今回は大人の女性向けに会社員の設定で二次創作をさせていただきました。
2023年4月23日のtwitterスペースが元になっております。
また、今回の設定は年上彼女と年下ハオランくん、かつ、ハオランくんの片思い強めとなっております。
それゆえ、ハオランくんのキャラが若干崩壊しておりますが、何卒ご容赦くださいませ。。。
ふっ、ふっ、と短い息を吐きながら、ダンベルを持つ手を引く。額には汗が滲み、背中が、全身が熱い。15回、3セット、それを両側。しっかり背中を追い込んでから、私はダンベルをラックへと置いた。
顔を上げると、ジムの一角に女性が群がっているのが見えた。あの集団の中心に居るのが誰かなんて、見えなくても分かる。リー・ハオラン。うちの会社の営業だ。
軽い男は苦手だ。ニコニコしていて、その本音は見えない。いつも誰にでも優しくて、いつでも明るく笑顔を振りまいて。……私とは、大違いだ。
むくむくと湧き上がってくる嫌な気持ちを振り払うように私はトレーニングに没頭する。
ふと顔を上げた時、女の子たちの間をすり抜けて薄茶色の瞳と視線がぶつかった気がしたが、きっと気のせいだろう。
滴り落ちる汗と共に、この妙な焦燥感を振り払いたい。私は更にトレーニングに勤しむのだった。
それから一週間。私は今、船に乗っている。
必死に仕事をこなしたご褒美で、3日間の休暇を取ったのだ。今日がその2日目。一人旅は本当に気ままで楽しい。
この観光船のいいところは、途中で色々な島に立ち寄ってそこを見て回る時間を取ってくれるところだ。
この島で3島目。私はウキウキしながら桟橋を渡った。
美しい白い砂浜に、白い波飛沫がキラキラと輝いている。いい気分で歩を進めると、木立に差し掛かった。
木々の間から日の光が差し込み、優しく吹き抜ける風が気持ちいい。少し歩くと、小さな滝があった。
小鳥たちのさえずりが聞こえる。滝から上がって来る飛沫が時々頬に触れて冷たい。自然と口角が上るのを感じる。それにしても鳥の声が近い。
ふと顔を上げると、人の影が見えた。そこに小鳥たちが舞い降りているように見える。
驚かせないように、少し遠くから目を凝らす。
肩に小鳥を留まらせて、駆けていく狸に手を振る、ピンク味がかった茶髪の青年。
(リー・ハオラン……!?)
私はそっと後ずさりすると、彼から見えない方に向かって早足で進んでいった。
なぜ彼から逃げてしまうのか、自分自身でもよく分からない。ただ、どうしても苦手なのだ。苦手なのに、視線が外せなくなる。だから余計に近づきたくないと思う。
あまり人付き合いが上手くないという自分のコンプレックスを刺激されるからなのかもしれない。それほど、彼は自分と対照的な人間に見えた。
気づけば、森の深いところまで来てしまったようだ。島を散策するために与えられた時間は1時間。念のため戻っておいた方がいいだろう。落ち葉をサクサクと踏みながら、来た道を戻る。
なぜこんなところに、彼が。まさか同じ船に乗り合わせていた、なんて、そんな偶然あるだろうか。考え事をしながら歩いていたら、盛大に躓いてしまった。どうやら木の根が出っ張っていたらしい。服をパンパンと払って立ち上がると、右足首に鈍い痛みを感じた。どうやら少し捻ったらしい。
万が一乗り遅れたら大変なことになるが、そんなに遠くへは来ていないはずだ。私は無理しない程度に足を引きずりながら、なんとか先程の滝まで戻って来た。
すると、信じられないことに、船が出発する合図が聞こえてくるではないか。慌てて船まで走ろうとするが、足が痛い。流石に走るのは難しそうだ。
「まっ……待ってぇっ!」
叫びながら、できる限りの全速力で森の入り口へ向かう。この際右足首はどうなってもいい。こんなところに置いていかれてたまるもんか……!
「どうした!?怪我!?怪我してるの!?」
私の声が届いたらしい。なぜかこちらに向かってリー・ハオランが走って来た。
「そんなこといいから、船!船は!?」
「出航の汽笛が聞こえてたね。急ごう。ほら、肩に掴まって。」
差し出された手を素直に掴み、私は肩を借りて砂浜へと走る。しかし、時すでに遅し。船はすでに出航していた。
「……ごめんなさい、私の声を聞いて戻ってきてくれたんでしょう?」
「え?いや、うーんと……まぁ、ね。」
「今観光船の会社に電話してみるので。少し待っててください。」
私は、砂浜に座れそうな岩を見つけ、そこまでそろそろと歩いていった。大丈夫、右足は痛むけれど歩けない程ではない。幸い携帯は通じるようだ。私は観光船の管理事務所に電話をした。
「あの、次の便が3時間後に来るそうです。で、砂浜の向こう側に救急箱なんかを揃えた避難用の小屋があるそうなので、私はそこで船の到着を待つことにしました。」
「そっか。じゃぁ行こう!」
彼は当然のように私に手を差し出すが、今回はその手を取らずに立ち上がる。
「お気遣い、ありがとうございます。一人で行けますので、大丈夫です。ここでお待ちになれば船に真っ先に乗れますし、観光の続きもできますよ。ご自由にしていただいて大丈夫ですので。」
「え、けどキミ、怪我してるでしょ?俺もそろそろやすみたくなっちゃったし。それに、ちょっと雲行き怪しくない?」
言われて空を見上げると、やや雲が出始めていた。心なしか風も強くなってきた気がする。
私は諦めて、一緒に小屋へと向かった。砂浜の端、木立に守られるようにして建っていたその小屋は思っていたよりもしっかりした造りだった。
ダイヤルロックの番号は先程の電話で聞いている。やや錆びついた鍵ではあったが、無事に開いてくれた。
「ふぅ、着いた着いた。お、椅子あるじゃん。座りなよ、今救急箱探してくるから。」
「あの、本当に大丈夫ですから。お気遣いなく。」
「怪我してる子を気遣うなっていう方が無理じゃない?遠慮しないで、ほら!」
椅子に半ば強引に腰かけさせられる。リー・ハオランは棚から救急箱を取って来ると、私の前に跪いて靴を脱がせた。
「あの、自分で出来ますから……っ!」
「あぁ、ほら、動くから。痛いんでしょ?じっとしてなよ。湿布あったから貼っちゃうね。」
ヒヤリとした感触に思わずビクリと体が震える。彼はそんな私を気にすることなく、包帯を綺麗に巻いてくれた。
「よし、これで大丈夫っと。じゃ、俺筋トレしてるから!」
そう言って彼は唐突に筋トレをし始める。なんて気分屋なのだろうか。手持無沙汰になった私は、とりあえず小屋の中を見て回る。カセットコンロにペットボトルの水、缶詰、毛布と椅子、LEDのランタン。ザイルや大きなカッターナイフなんかもあったから、レスキューの準備もされているらしい。
ひとつだけある窓から外を見ると、空が急激に暗くなってきていた。私は慌てて船の運航会社に連絡する。
『申し訳ありません、当社としても海が荒れてきた以上船をお出しすることが困難になってしまいまして。予報では明日、天気が回復する見込みとなっております。出航が可能な条件になり次第救助船を向かわせますので、今晩はなんとかそちらで耐えていただくことになります。大変申し訳ございません……!』
ということで、ものすごく謝られた。まぁ自業自得ではあるのだけれど、それにしてもこの会社、確認が甘すぎないだろうか。乗客を置いていくわ、天気はしっかり確認しないわ、流石にどうかと思う。
ただここで怒っても仕方がないので、呑気に筋トレをしているリー・ハオランに船の運航状況を伝えた。
「そ、っか、っ、ふぅ、っ、じゃぁ、明日まで、がんばろ、ねっっ!っはー!がんばったーーー!」
丁度筋トレが終わったらしい。額に汗をにじませながら、ぐっ、と気持ちよさそうに背伸びをして、彼は小屋の奥へ向かった。そして、両手いっぱいに何かを持って来る。ガタゴトとテーブルに置かれたのは、備蓄されていた食料とランタンだった。
「よし、じゃぁごはんにしよう!腹が減っては戦はできぬって言うし、どうせ明日までやることないんだし。あー、トランプでも持ってくればよかったね。遊び道具全然ないや。」
「……余裕なんですね。」
「んーーー?こういうのはさ、楽しんだ者勝ちなんだよ!」
バチンとナチュラルにウインクをする、こういうところが苦手だ。誰にでも同じようなことをしているに決まっている。あまり話をしたくないので、何か適当に作業でもしようか。
「あの、私、お湯沸かします。さっき紙コップのインスタントコーヒーセットがあったので。」
「マジで?ありがとう!飲む飲む!」
どうして自分の分も当たり前に作ってもらえると思っているのだろうか。私は溜息を吐きながら、鍋を洗って湯を沸かし、2杯のコーヒーを淹れた。
結局テーブルに向かい合って座り、無言でコーヒーを啜る。絶妙に居た堪れない空気感だ。手元だけをずっと見ていた私がふと顔を上げると、薄茶色の瞳と視線がぶつかった。
「……え、な、なんでしょうか……?」
「キミさ、よくオレと目ぇ合うよね?」
「……は!?」
「うちの会社の子でしょ?この前トレーニングジムにも居たよね?何回か目があったけど、覚えてない?」
「し、知りません!貴方のことは社内の有名人だから一方的に知っていますけど、別にそれ以上でもそれ以下でもないので!!!」
一気に言ってからハッとして口を閉じる。またやってしまった。いつもこう可愛くない口をきいてしまう。仮にも今晩を協力して乗り越えなければならない相手に、不快な思いをさせてしまったかもしれない。
「……気づいてた?」
「は?」
私の心配をよそに、リー・ハオランはすくっと席を立つと、机をぐるりと回りこんで私の隣に腰を下ろした。なぜわざわざ隣にくるのか、思わず椅子を引いてじりじりと後退する。
「だから、目が合うってことはさ。君がこっちを見てくれる時、オレも君を見てるってこと。」
言葉の真意が分からなくて、何も返せない。ただ、こちらに真っすぐ注がれる視線から、なぜだか目がそらせなかった。
「オレ、君のこと知ってるよ?めちゃくちゃ頑張り屋なんだよね?内心色々考えながらも仕事しっかりするタイプだって、いろんな人から聞いてる。」
「い、いろんな人って、誰の事……?」
「オレ、顔が広いからさ。で、色々聞いて気になって見てたわけ。けど、君はオレのこと見てる割に避けてるよね?なんで??」
ズイっと近づかれて、思わず高速で後ずさる。
「別に、避けてなんかないです!ただ、ちょっと、苦手なだけで……!」
「苦手?どうして?」
「私とは真反対だから!いつも人に囲まれてて、誰にでも優しくて、誰とでも仲良くなるでしょう?そういう人、苦手なんです。」
「オレよりも、君の方が十分素敵だと思うけど。」
当然とばかりに言われたその言葉に、私は溜息を吐いた。話が全然かみ合わない。
「せっかくのチャンスだから、俺はこの機会を生かしたいんだよね。君と、仲良くなりたいんだ。」
「ごめんなさい、謹んでご遠慮申し上げます。」
「そんなに冷たい事言わないでよ~!……結構、本気なんだからさ。」
少し声のトーンを落として、ふと微笑みながら吐かれた台詞が耳に残って離れなくなる。
「そ、そういうの、ほんと、やめて、もらえます……!?」
「はははっ、耳まで真っ赤!君、からかわれるの慣れてないんだね。」
「貴方と違ってそういうのには慣れていないんです!!目上の人を敬いなさいよ!」
「えー?そんなに年違わないじゃん。てか、そういうの気にするの?敬語使ってほしいってこと?」
わざと上目遣いで言ってくるあたりが本当に腹立たしい。可愛い顔を武器にするなんて卑怯だ。
「ねぇ、先輩。せっかくたくさん時間あるんですから、朝までオレと仲良くおしゃべりしましょうよ。」
「もう!いい声で迫ってこないで!!あと敬語じゃなくていいから!もう放っておいてよーーー!」
落としどころのないやり取りの応酬に、私は早くも疲れ始める。
「ねぇ、どうしてオレのこと避けるの?」
「センパイはオレのこと本当に嫌い?」
「ねぇ、なんでオレのこといつも見てくれてるの?」
「オレのこと、ほんとに、苦手?本当??」
時刻は午後5時。まだ夕方だ。この言葉の応酬に、朝まで耐えられる気がしない。
結局私はこの島を脱出するまでこのイケメンのイケボに翻弄される事になってしまった。
ただ、正確には脱出した後の方が更なる激流へと飲み込まれていくのだが……それはまた、別の機会に。
~fin.~
CNPプリンスローンチ直前!
正座しながら楽しみにしております!!!