本来のキャラクター設定は学生で生徒会のメンバーなのですが、今回は大人の女性向けに会社員の設定で二次創作をさせていただきました。
2023年4月23日のtwitterスペースが元になっております。また、鬼一くんだけメタバライブ後の完成となってしまったため、ピアノ要素を盛り込ませていただきました。
ヒロインがややストーカー気質ですが、ご了承ください。
メタバライブ最高でした!!これからも応援しております!!!
眩しい太陽が一面を照らす、会社の屋上。そこに一人の美青年が寝転んでいた。
彼の名は鬼一太郎。私の同僚で、私の……憧れの人だ。
「鬼一、あなた誰かに恨まれたりいじめられたりしていませんか!?」
鬼一くんの上司で幼馴染でもある蛇神独歩課長が鬼一くんに詰め寄っている。そこにはペットボトルに刺さった真っ白な花が揺れていた。
「誰にも恨まれてないって。お昼寝の邪魔しないで~~~。」
鬼一くんはしっしっと手を振るようにして蛇神さんを追い払った。
就業規則の休み時間を何回かに分けてちょこちょこお昼寝に来ている彼は、ふわぁ、と大きな欠伸をするとまたごろりと横になった。
鬼一くんは王子様のような甘い顔立ちの美青年なので社内にはたくさんのファンがいる。ただ、彼の醸し出すちょっと不思議な雰囲気のせいか、直接話しかけたりする女性は少なく、多くのファンがいつも遠くから見守っているような状態だった。
かく言う私も、彼と話すのは仕事のことばかりで、雑談のひとつもろくにできない一ファンである。だって、無理なのだ。あの美しい顔立ち、キラキラしい王子様みたいな出で立ち。とても私のような凡人が話しかけてよい存在とは思えない。
では彼とどうなりたいかと問われば、もうそれは一つしかない。「貴方のメイドにしてください!」。それだけが今の私の望み。
「ねぇ、アイス食べる?」
その日、信じられない量の仕事が残ってしまった私はオフィスで一人残業していた。深夜残業になるとさすがに課長に怒られてしまう。急いで終わらせなければ、と気が急くが、そういう時に限って資料にミスを見つけてしまったりして余計な時間ばかりくってしまったのだ。
幸いなことに翌日は休み。今日はあきらめて思い切り残業していこうと心に決め、パソコンとにらめっこしていたところで突然声をかけられたのだった。
「き、き、き、鬼一くん!?こんな時間にどうしたんですか!?」
「いや、それを言うなら君こそ。なんでこんな時間まで会社にいるの??」
「それは、仕事が、終わらなくて……。」
「どうせまた誰かが作った適当な資料に間違い見つけて直してたとかでしょ?あとどの位残ってるの?」
「あ、大丈夫です、もう、もう終わるので……!」
私は丁重にお断りして、パソコンに向き直った。鬼一くんに仕事を手伝わせるなんてとんでもない。ただでさえ話しかけてもらうという超特大特典がついた残業なのだ。これ以上欲張ってはバチが当たる。
「君さぁ、いつもそうやって自力で頑張ろうとするけど、たまには誰か頼ったら?ほら、糖分とって!」
唇に冷やりとした感触がして、反射的に口を開ける。鬼一くんは私の口にアイスクリームを残してスプーンをスルリと引き抜いた。
「ボクが誰かにアイスをわけるなんて滅多にないんだから、感謝しなよね。」
今度は先程のスプーンが乗ったアイスをカップごとずいっと渡された。さすがに自分が口をつけたものを返すわけにはいかないので、素直に受け取る。
「あ、ありがとうございます。」
「うん、溶ける前に食べちゃお。」
鬼一くんは自分のアイスをガサガサと袋から取り出し、隣の席にドカッと腰を下ろした。
ウキウキとアイスの蓋を開け食べ始める姿が眩しい。こんな幸せがあっていいのだろうか。
しかし、このままではこんな夜中に鬼一くんを拘束することになってしまう。
私は頂いたアイスを口にしながら、またパソコンと向かい合った。
人生でこんなに早く仕事を終わらせたことがあっただろうか。自分でもありえないほどの集中力で臨めたと思う。
気づくと隣の席で鬼一くんがぐぅぐぅと寝息を立てていた。すっかりお待たせしてしまった。時刻は午前一時を指している。
「あの、鬼一くん。鬼一くん、起きてください。」
「ん、んーーー、もう、なぁにぃ?ボク眠いんだってばぁ……。」
「鬼一くん、さすがに出ないと怒られちゃいます。出ましょう!こんな時間までかかってしまってごめんなさい……!」
「ん……あぁ、そっか、ここ会社かぁ。道理で眠いと思ったんだよね。」
ガタリと席を立つと、鬼一くんは自分の机から明らかに軽そうな鞄を持った。
「ふぁ……。はぁ、仕方ない、救護室でも行くか。」
「え?おうちに戻らないんですか?」
「だってどうせ始発まで待たなきゃでしょ?ボクの家電車乗らないと帰れないし。君は?どうするの?タクシー?」
「いえ、私は歩いて帰れますので……。」
少しだけこの時間が名残惜しくなってしまって、帰り支度をする手が遅くなる。せめて、救護室まで一緒に行かせてもらおう。夜中だからか、いつもよりも少し欲張りになってしまう。
「じゃ、行こっか。」
歩き出す鬼一くんを慌てて追いかけた。救護室に向かうのかと思いきや、守衛の居る裏口から外に出る。
「あ、あれ?鬼一くん、外に出ちゃいましたけど……。」
「うん、だってキミ、家に帰るんでしょ?さすがにこんな時間に女の子を一人で家に帰すわけにいかないでしょ。」
「!?送ってくださるつもりだったんですか!?」
「?当たり前じゃん。何を今さら……あ!ちょっと!」
私は鬼一くんを振り切るようにして駆け出した。これ以上迷惑をかけてはいけない、という理性もそうだが、それよりもこれ以上一緒に居てはいけないという本能に従ったからだ。
これ以上は、いけない。私の中でのひとつのラインを越えてしまう。
私は、夜の街を駆けた。汗だくになっても、足が痛くても、とにかく家までの道を全力疾走した。そして、家にたどり着くと、倒れこむようにして眠りについたのだった。
翌日と翌々日は休み。悶々としながらその二日を過ごして、また週明けの出社日となった。休みの間、ほとんど家からは出ていない。少し買い物に出た程度だ。
「おはようございます。」
「あ、おはよー。」
出社すると、鬼一くんがいつも通りの挨拶を返してくれた。よかった、いつもの距離感だ。
提出した書類にも不備はなかったらしく、あっさりと受理された。よかった。
ふと顔を上げると、そこに鬼一くんの姿はない。外は快晴。多分、いつもの屋上だろう。
私はお手洗いに立つふりをして、デスクを離れた。
そっと覗いてみると、やはり鬼一くんは屋上にいた。今日は蛇神課長の姿がない。少し安心して、準備を始めた。
手持ちの小さなバッグの中から、ペットボトルと花を取り出す。それを持ったまま鬼一くんの死角になるよう回り込み、床にそっと置いた。
「たまには声かけてくれればいいのに。」
「きゃぁっ!?」
突然頭上から降ってきた声に驚いて尻餅をついてしまった。
「な、な、な……!」
「あのね、気づいていないと思ってたの?最初から知ってたよ。いつも置いてくれてるじゃん。どこで手に入れてくるのか不思議だったんだよね、シロバナムシヨケギク。」
「普通に、ガーデニングにも使うので、割と手に入れやすいです……。いや、そうじゃなくて。」
「んーーー?あ、この前のアイスのお礼でもしてくれるのー?」
「そ、それはお望みならもちろん……!」
パニックになってしどろもどろになっていると、鬼一くんは「じゃ、今日仕事終わったら駅集合ね」とだけ言い残し、先にオフィスに戻っていった。
マズい。そろそろ戻らなければ。いや、それどころじゃない。私は今、一体、誰と何の約束をしたのだろうか。
混乱のまま、その日の仕事を終え、とりあえず指示された通り駅に向かう。就業後に待ち合わせなんてしたことがない私は、どこに居ればいいのかわからず、ひたすら所在なさげに突っ立っていた。
「ごめんごめん、待たせた?」
「え?いや、待ってないです、お気遣いなく!!!」
ふらりと現れた鬼一くんは「じゃ、行こっか」とだけ言って歩き始める。慌てて後についていくと、一軒のバーのようなところに入った。
少し照明を落とした店内には大きなグランドピアノが置かれ、とても良い雰囲気だ。慣れた様子でソファ席に座った鬼一くんは向かいの席を指した。
私はとりあえず腰を下ろし、店員さんから渡されたメニュー表に目を落とす。
「夕飯食べるでしょ?ボクはデザートにアイス盛り合わせ頼むから!それ、奢ってくれる?」
「あの、夕飯もご馳走させていただきます。」
「そういうのいいから、ほら、どれにするか早く決めて。」
私はとりあえず夕飯になりそうなメニューをいくつか選び、店員さんに伝える。やがて大皿に盛られた料理ととりわけ用の皿が運ばれてきたので、慌てて取り分けた。
「ほんと、甲斐甲斐しいっていうか、マメというか。」
「……すいません……。」
「あぁもう、褒めてるんだってば!伝わらないかなぁ。」
「えぇ!?あ、すみません、まさか褒めていただけるなんて……。」
「人の好意は素直に受け取ったほうがいいよ。」
もう、とため息を吐く鬼一くんの真意が全く分からず、私は視線を落としたまま料理にありついた。正直、味がよくわからない。緊張と混乱が先に立ってしまっていた。
「えっと、キミにははっきり言わないと伝わらないみたいだから、あえて言うけど。」
「は、はい。」
「毎日ボクのために花持ってきてくれてるのも、みんなのミスフォローして回ってるのも、仕事一生懸命やってるのも不器用なのも、全部知ってるの。で、それにはボクだけじゃなくてみんなが感謝してたりするわけ。」
「そんな、そんなはずは……。」
私は戸惑いを隠すこともせず、鬼一くんの話に耳を傾けた。
「でね、多分ボクに割といい感情を持ってくれているんじゃないかな、って思うわけ。……ボクの自惚れじゃ、ないよね?」
コテンと首を傾ける鬼一くんの破壊力たるや。私はもう見ていられなくなってしまって視線を落とした。
「で、その~、アレだよ。日頃の感謝ってやつ。そのために来てもらったの。」
「え、私がお礼をするのではなく、ですか?」
「あの日だって本当は仕事手伝って家まで送っていけば少しは恩返しになるかなって思ったんだよ?けど、キミ結局仕事は自力で終わらせちゃうし、走っていなくなっちゃったじゃん。だから何にもならなかったわけ。」
「そんな!あんなに幸せなことなかったです!もう、もう十分頂きましたから……!」
はぁ、とまたため息を吐く鬼一くん。あぁ居た堪れない。もう帰っていいだろうか。
訳が分からなくて目にうっすら涙さえ浮かんでくる気がする。
鬼一くんはスクっと席を立った。
「何をどう誤解してるのか、まぁわかる気がするんだけどさ。とりあえず、お礼ね。見てて。」
そう言うと、彼はピアノのところへ歩いていき、腰を下ろした。スゥっと息を吸うと、その細い指が鍵盤を叩き始める。
流れ出した繊細で、力強いメロディ。ピアノに向かい合う鬼一くんはなんて美しいのだろう。
しかも、その口から見事な美声が飛び出して、私の目からは涙があふれた。
長いようで短い素晴らしい時間が終わると、店中から拍手喝采が上がる。私も夢中で手を叩いた。
「!?なに、泣いてたの!?」
「うっ……グスッ、すみません、感動、しちゃって……!」
はぁ、とため息を吐く鬼一くんの目は心なしか優しい気がする。
彼はポンポンと私の頭をなでると、「ほんと、いつもありがとね。」と言って照れたように微笑んだのだった。
~fin.~