満を満たして、海軍本部は大規模作戦を発令した。標的は金獅子のシキ。かつての四皇を撃破する。
「……」
シキの本拠地、標的であるメルヴィユは、フワフワの実の能力によって浮かぶ浮遊島となる。その性質を考慮して、飛行可能な私と黄猿が先発で突入する。
その次はこの作戦の為、クードバースト機構を搭載した軍艦が次々と飛行して本島に突入、シキ海賊団と交戦し、メルヴィユを制圧すると言う手筈になっている。メルヴィユには現地民も居るため、破壊は最小限に。制圧後はメルヴィユを陸に降ろす準備も整えた。
「ではランチャーを」
「はい、お気をつけて」
ランチャーのロックは解除済み。飛行甲板に立って作戦開始の時間を待つ。
「さて、緊張したかねェ? 赫鳥」
「はい、そうですね。緊張しています、黄猿」
今の私は、バースト機構を搭載した新型突入用パッケージ「VOBシステム」を着用している。VOBの名前は自分で付けさせた。
メカニカルでカッコいい造形、正直好きな感じです。私は黄猿より遅いから、少しでも追いつくにはこうしたサポートが必要なのだ。
ランチャーをVOBに固定して、飛行用ゴーグルを降ろす。その状態でカタパルトの上に立って待機する。
本作戦は奇襲であり、スピードが命綱となる。メルヴィユの性質上、奇襲しなければあっさりと逃走されてしまうからだ。逃げられれば作戦はご破算。つまりはシキの不意を如何に打てるか。
現在はシキの見聞色から逃れる為、見聞色の索敵範囲外と思われる数百km先に隠れて布陣している。ここから短時間で突っ込むのだ。
「まあそうなるのも仕方ないよォ〜、相手は元とは言え四皇なんだからねェ」
「そうですね……その通りです」
「作戦は一人でやるんじゃあ無いんだからねぇ、困った時はあっしらにも頼っておくれよォ?」
「分かりました」
心を落ち着けさせて、作戦開始の時間を待つ。ドク、ドク、心臓の音がする。
視界の先に、1等兵の1人が立つ。彼の持っている旗が飛行開始を告げる合図。彼が旗を挙げた瞬間、バーストを点火し、作戦開始。
「……」
そして、時間が来る。旗が、振り上げられた!
「作戦開始! 作戦開始だぁ!」
「ファイス大将が出るぞぉ!」
「VOBシステム始動! どうぞ!」
「アルメリア・ファイス、赫鳥、出撃します!」
旗を振り上げて、即座に退避する1等兵。バースト機構を点火、そしてカタパルトを起動、加速開始。甲板を超えて飛び立つ。そのまま更に加速して、一気に数百kmを飛翔する。
「あそこがメルヴィユ。黄猿はもう突っ込んでる、急いで突入を。VOBパージ!」
視界の果てにメルヴィユが見えてから、辿り着くのは一瞬だった。メルヴィユへの到達と同時にVOBをパージ。固定を解除したランチャーを掴みつつ爆弾化したVOBパーツを落とす。地上で爆発し、獣に直撃。
上陸、成功。急ぎ黄猿の支援を。
「ジハハハハハ、奇襲とはなぁ、恐れ行ったぜ海軍! どうやってここの場所を知った?」
「知るか、死ねよ」
「中々冷たいじゃねぇか! ジハハハハハハハ」
(あっしがシキの足止めをしとくからねェ、赫鳥さんは橋頭堡の確保を頼むよぉ〜)
さっき黄猿に言われた事を思い出す。後続が突入する為の突入地点を確保する。それが私の目的。
「攻撃開始!」
その為にシキ陣営の幹部を散らし、安全なポイントを作る。飛行用ゴーグルを付けたまま、八咫烏の翼から炎を吹き上げて、私は死地へと突進した。
今装備しているランチャーは改良型の速射タイプ。単純火力と射程は低下した代わりに速射性が大幅に向上し、さながらガトリングのような乱射が可能。熱効率も向上に成功し、継戦能力も強化。本体の頑強さも高まっており、汎用性と安全性、そして連携におけるフレンドリーファイアの可能性を抑えた点が売りと言った所。
「射貫け」
ガトリングを乱射して大量の珍獣を始末する。こうして橋頭堡を確保する。見聞色で分かる。大量の船が空中からメルヴィユに突っ込んで来る。間も無く第1陣が到着する。
「すぐに後続が来る。制圧を急ぎましょう」
そして轟音と共に、大量の船が突入。空中のメルヴィユが激しく揺れた。
落下の衝撃で損壊した船はそのままバリケードにし、海軍側の攻撃拠点として使用する。贅沢ではあるけど、シキを潰す為には資材は惜しまないとの事。
「よし到着だ。武器を取れ、全員出撃!」
「やるぞぉ、お前らぁぁ!」
壊れた船を盾にして海兵が続々と展開し、本格的な制圧を開始。作戦は第2段階に入った。
「来ましたか、赤犬」
「遅れてすまんのぉ、借りは返しちゃるけぇ」
突入隊の指揮者は赤犬。青雉は不測の事態に備え本部で待機中。
「島の制圧はワシらがやる。じゃから黄猿に加勢せい」
「分かりました。お気をつけて」
目標は黄猿の加勢に変更。黄猿はシキと激突し、時間を稼いでいる。ここでシキを潰す。シキに砲撃しつつ接近する。
「ここには3大将が全て集結しています。私も含めて4人です。最早貴方に勝ち目は有りません。投降を、金獅子のシキ」
「ジハハハハハ、てめぇが赫鳥か、随分とやってくれんじゃねぇか。この奇襲もてめぇの差し金かぁ? なぁ!」
「知るか、死ね」
私はブラフを使った。ここに青雉は居ないのだから。ランチャーからガトリングを乱射、しかし躱される。返しの斬撃を回避しつつ、誘導放射を放つ。これは防がれた。
「おっとぉ〜、あっしを忘れないで欲しいねぇ〜」
「ジハハハハハ、黄猿め、相変わらず鬱陶しい能力だな」
私の砲撃の隙間を縫うように、黄猿もまた攻め立てる。黄猿との連携は、正直に言うと非常にキツい。ピカピカの実は速過ぎるし、私の殺傷能力は高過ぎる。そもそも八咫烏の実も、ピカピカの実も連携向きの能力じゃない。フレンドリーファイアの可能性が恒常的に付き纏う上に、ピカピカの実との連携は非常にピーキーだ。見聞色で未来を見て、必死に追い縋ってやっとのレベル。
それでもこの場で、空中戦を制しうるのは2人しかいない。だからやる。その為の改良型ランチャーなのだから。
(それに、この場でシキを始末するとメルヴィユが崩落する。崩落への対処が整うまで、時間は稼がなければ)
「ジハハハハハハ、分かるぜ、時間稼ぎのつもりだな。メルヴィユが落ちるのが怖いんだろ?」
「何の事です?」
しらを切り通すのもそろそろ限界ですかね。かつては四皇だった程の大海賊を、何時迄も騙すのは難しいようだ。
「正義の味方さんは大変だなぁ、ジハハハハハ。だが、その甘さが仇になるぜぇ?」
「知るか、死ね」
でも、知った事じゃない。私は撃ち続ける。シキが倒れるまで、攻撃を継続する。
そして、見聞色で気付いた。メルヴィユが移動を開始した。でもどこへ向かう? これは、海軍本部?
(チッ、メルヴィユがマリンフォードに落ちる!)
シキはメルヴィユをマリンフォードに落とす気だ。その事に気付いたのは、交戦を開始して暫く経ってからの事だった、見聞色で知覚を共有し、マリンフォード側に連絡を付けた。
「マリンフォードにメルヴィユを落とす気ですか?」
「ジハハハハハ、そりゃ一体何の事だ?」
「しらを切りますか」
しらを切り通すシキ、更に砲撃を続ける。しかし躱される。時間稼ぎも、そろそろ終わりでしょうか。
(メルヴィユの落下を武器にする。可能性は想定済みです。後は……)
落下への対処は私の考える事じゃない。シキの相手に集中する。もう少し、時間を稼がなければ。
対処の為の時間を稼ぐ。それは成功した。だが、
「チッ、マリンフォードが目の前に!」
「ジハハハハハ、そろそろ時間稼ぎも限界みてぇだなぁ!」
マリンフォードが、もう真下に来ている。崩落への対処は整ったのでしょうか、でも気にしていられない、ああ面倒い!
「退避じゃあ、急げえ! ここはもう保たん! 現地民を連れてメルヴィユから脱出するんじゃあ!」
「りょ、了解!」
「よし、脱出だあ、時間が無いぞお! 急げぇ!」
海兵達は現地民と共に、赤犬の指揮で脱出を開始。事前に用意した飛行船や気球、パラシュートに乗ってメルヴィユを飛び立つ。メルヴィユの制圧は既に完了していたものの、単に制圧しただけでは、シキの能力で稼働するメルヴィユを止められない。
「そろそろ潮時ですかね、黄猿」
「ん〜そうみたいだねぇ〜。でもまあ、もう一踏ん張りくらいは頑張っちゃいたいねぇ」
「分かりました」
メルヴィユはもう落ちる。落下を開始した。どうする? 形振り構わず仕留めるか? い、いや
見聞色で見た。遥か下のマリンフォードに冷気が疾る。冷気が天高くに向かう氷の橋を作り上げ、その橋を、突進するのは
「たかが石ころ一つ、このワシが押し返してやるわぁぁ!」
それは間違い無く海軍の英雄、海軍中将ガープだった。ガープは氷の橋を駆け抜けて飛び上がると、一気にメルヴィユへ突入、そのまま力づくで落下するメルヴィユを押し返そうとする。えっあ、いや、落下への対策って、いや、こんなの聞いてませんよ? えっ? もうちょっと、こうスマートにやるんじゃあ……
「えっ、いや、えっ? ……何で?」
「ガープ中将だけに良い思いはさせませんよ」
「地上が駄目になるかならないかなんだ。やってみる価値は有りますぜ!」
「そんな、シキ海賊団まで」
(何でシキの海賊団まで押し返そうとしてるんですか……)
「英雄ガープは伊達じゃない!」
色んな奴らがガープと共に、落下するメルヴィユに取り付いて押し返し始めて、な、何ですかこれ、えっ? ……。な、何でこんな時に限って出来の悪い逆シャアのコント始めるんですか!!? 、そんなのお可笑しいですよねぇ?!? 、ねぇっ!??
「ん、んな……こんなの聞いてない……何で? えっ? 対策って、もうちょっと、こう、システマチックに、何でこんな、力技で……」
「ジハハハハハ、流石は海軍の英雄ガープじゃねぇか。おい、お前も目に焼き付けときな、赫鳥。これが英雄の姿ってもんだ」
「は、はぁ……そうですか」
何か知らんけど楽しそうなシキ。激しい脱力感が襲う。な、何なんですこれ、もう付いていけないんですけど。
「ああ、兎に角、もう良いです。死ね、シキ!」
「ジハハハハハ、良いぜ、最後に良いもんが見れた! 来な!」
もう何でも良い。シキを潰す。ランチャーを向ける。時間稼ぎは終わりです。
「死ね! 『おやおや、駄目だよぉ〜赫鳥』んな、何ですか黄猿?」
最大出力でランチャーをチャージ、殺そうとして、でも黄猿に止められた。
「赫鳥も、大将なんだから覚えとかないといけないねぇ〜。例え相手が海賊でも、可能なら生かして捕らえとく方が良いってもんだよぉ?」
「そ、そうですか……」
ガープ中将が力技でメルヴィユを押し返すという冗談みたいな真似をやったせいで、メルヴィユはマリンフォード前へと緩やかに落着、損害は軽微に収まった。
シキは海楼石の鎖に繋がれ、捕縛された。彼は再びインペルダウンに送られるらしい。
「はぁ、何だったんですか結局、あれ……」
私は、その、あー、特に言う事は有りません。そういえば、ブルックが音楽家としてデビューしました。
「それ以外、もう何も考えられませんよ」
正直、今は何も考えたくない。机に突っ伏した。はぁ、コーヒー飲みましょう。
「お母さん凄いじゃない! シキを倒して、しかもメルヴィユを止めたって。ねぇどうやったの? 教えて!」
「一応、私がやったのはシキと戦う事だけですよ? ウタ」
ウタは興味津々と言った様子で話しをせがんでくる。私はまた回答に困った。
主人公:シキ海賊団の居場所を探知して元帥に報告、作戦の立案から必要な装備の調達、製造。更には作戦実行までの全ての作業をこなす。本作戦の9割は彼女の手によるらしい。
シキ:海軍の総力を結集した作戦に敗れた事、最後にガープの活躍が見れたので割とご満悦。インペルダウンでは大人しくしているつもり。