「おおすげー! 、56皇殺しぃ! 海軍大将緋熊ぁ!」
「こ、こいつ、よりによってヒグマじゃないか。何でこいつを連れて来たんだい! 赫鳥さんは」
「いえ、海軍にスカウトしたら、想定以上に上手く行ったので……」
「海軍がこんな奴をスカウトするのかね……、まぁ、ここからヒグマの奴を追い出してさえくれるなら、こっちはそれで万々歳だよ」
ダダンさんからは随分怪しまれた。実際、ヒグマのスカウトには不安要素がある。そこは否定出来ない。
(ですが、間違い有りません。ヒグマは極めて強大な覇気を、それも見聞色殺しを持っている。凄まじい素質です)
ここまで来ると、流石に私にも否定出来ない。ヒグマは覇気使いだ。無自覚だが覇気を使っている。それも見聞色殺しという極めて高レベルな覇気を。
(ヒグマは覇王色の持ち主だなんて。想定以上ですが、まぁ悪くは有りませんね)
悪く無い結果だ。ここまで強大な覇王色の覇気持ちをスカウト出来た。しかも非能力者なのだ、つまりは水中戦も熟せるし、海楼石の拘束も受けないと言う事。その恩恵は大きい。
「ヒグマさん、改めて言いますが、貴方は非常に強大な覇気を持っています。きっちり鍛えたなら、それこそ海軍大将も夢では有りませんよ」
「ま、マジかよ……現役の海軍大将がそこまで言うのか?」
「ええ、私が保障します」
「すげぇ! 本当に海軍大将緋熊だぁ!」
「だからそこのガキ共! さっきから延々と海軍大将緋熊ってのは何なんだよ!?」
場所はダダン一家の家。私はヒグマの引き込みに成功して一息付いている所。
(はぁ、コーヒーが飲みたいですね……)
こうやって休んでいると、何となくコーヒーが飲みたくなる。好きですから、コーヒー。そして、何となく思い付いてしまう。
(ヒグマ……シャンク56人殺し。シャンクスは複数いるシャンクの集まり。えっ? い、いや、私が殺したのはシャンクの中の一人で、シャンクは後55人居る?!)
背筋が寒くなる。シャンクスはまだ生きている? いや、そんなことは無い筈。海賊の手配書は常に確認しているけど、シャンクスの手配書は存在しない。シャンクスの死体はローグタウン沖合で入念に確認した。シャンクスは殺した、赤髪海賊団の名前は歴史の陰に消えた筈だ。
(シャンクスは殺した筈。シャンクが生きて……いやそんな、筈は……。シャンクスがシャンクとスに分かれていてシャンクが57人も居るなんて、ま、まあ、一応想定だけはしておきましょう)
シャンクスの名前は、ロジャーの処刑以降ずっと消えたまま。原作の様に有名にはなっていない。シャンクスは身を隠している? 或いは世界政府が匿った可能性は、あるか?
(分かりませんが、まぁ良いでしょう)
例えシャンクスが死んでいないとして、海軍の情報網だけでなく、世界中にまで届く見聞色の探知にも、未来視にも占いにも全く引っかからない事があるでしょうか……。幾ら何でも、そこまで隠せる可能性は乏しい筈。
(シャンクスが生きている可能性、覚えるだけしておけば良い……はぁ、妙な事を考えてしまいました)
「酒は飲まないのが主義なんです、すみません。ダダンさん」
「そうかい、それは残念だねぇ」
ダダンさんにも酒を勧められたけど、一応飲まないでおいた。酒は、そんなに好きじゃない。
「コーヒーとか有りますか?」
「コーヒーかい? ならこっちさ、好きに飲みな」
「ええ、頂きます」
供されたコーヒーを飲みながら、ルフィ達の動向を見る。
「すげぇぜヒグマって、山賊王がよっ」
「56皇殺しってびっくりだもん。本当に凄いんだから」
「だから山賊王だの56皇殺しだの、俺はさっぱり知らねえんだよこのガキ共ぉ!」
「よーし! 山賊王に俺はなる!」
「だから山賊王なんて称号は無えんだよ!」
(ヒグマは……あー大変そうですね)
ヒグマは子供達に煽られて随分と困っている。はて、山賊王とか56皇殺しとか、流石に脚色し過ぎましたかね。文句はヒグマだのドンクリークだの、妙なやられ役ばかり必至に持ち上げてシャンクスやルフィの株下げ散らかすネット民に言って下さい。
(まぁ構わないでしょう。それにしてもルフィ、さっき山賊王になるって言いました?)
ルフィが、山賊王に? い、いや、冗談でしょ……。冗談、ですよね?
(ほ、本当に山賊王を目指すなら。えっと、ど、どうしましょうか……?)
まあ兎に角、海賊だろうが山賊だろうが、世界政府の敵になるなら始末しましょう。考える事はそれだけで良いのだ、ま、まあ、多分。
(その、べ、別に何でも良いのです。世界政府に逆らう者には死を)
「あっそうだ。ヒグマさん、サイン下さい」
「いやいやいやいや、そそれ何でだよぉぉぉ!??!?」
「なぁファイスおばさん、おばさんって強えのか?」
「そうですね、弱くは無いと思いますよ。それと、私はあなたの叔母さんではありません」
「えっじゃあ見せてくれよ! どんだけ強いのか!」
「私の能力は積極的に公開する物ではありません」
「えー、ケチー」
不貞腐れるルフィ。私は、ああ、私も叔母さんと呼ばれる年齢になったのですか……何て思っていた。
「ねぇ、モンキー・D・ルフィ。貴方は海賊になりたいですか?」
「えっ海賊って何で?」
「そうですか。では、山賊になりたいですか?」
「んや、山賊王は凄いけど、なりたいって程じゃ」
「そうですか……」
どうやら、ルフィは海賊に憧れていない。これなら、海賊になる可能性も低いでしょうか。
「そうですね、では一つだけ言っておきましょう。貴方が海賊になったら、私は貴方を殺します。山賊になっても殺します」
「ええー何で!?」
「簡単ですよ。誰であっても海賊は殺す、山賊だろうと。単にそれだけの事です」
「んーそう、でも、いきなり言われても」
ルフィの返答は要領を得ていない。私はまあ良いと思った。
「最後に、ルフィさんは海兵になりたいですか?」
「いやー、分かんない」
「成る程、そうですか。まあ、海賊や山賊でさえなければ、私は何になっても気に留めませんよ」
(さて、どうなるでしょうね)
複数の未来が見える。果たしてどうなるか、正直私にも分からない。
(まぁ何でも良い筈です……恐らく)
それに、もう一つの懸念点も。
(それに、ルフィは無能力者です。ゴムゴムの実の護送が成功したから)
ゴムゴムの実が護送される際、私は未来を予知して実が奪取される可能性を探った。その可能性は無かった。シャンクスの不在によってか、ゴムゴムの実は無事に世界政府が回収し、フーズ・フーが更迭される事も無かった。フーズ・フーは今もサイファーポールで活動している。
(つまり、ニカニカの実は……)
「所でルフィさん。一つルフィさんにお願いがあります」
「お願い? 何なに」
「実は、ルフィさんを海軍にスカウトさせて欲しいんです」
「えっスカウト? ホントに!?」
「ええ、本当です。さあどうですか?」
「わーいスカウトされたぁ。よーし、おれ行く!」
「ふふ、ありがとうございます。それと、エースさんとサボさんにも、後で同じ話をするつもりですよ」
「皆んなー! 今日もウタライブにようこそー! ウタだよー」
「ヨホホ、視聴者の皆様、本日も御機嫌よう。いつも通りのブルックです。今日の放送もゴア王国のフーシャ村からお送りしております」
「おおそれすげー! 何やってんだぁ!?」
「あー気になるぅ? これはウタライブって言うの。世界中に放送してて、あっ、この子はルフィって言って、ガープお爺ちゃんの孫だよ! 宜しく!」
「んー何か知らんけど凄いな!」
ルフィはウタのライブ放送に参加しているようだ。エースにサボまでやって来て騒がしい放送になっていた。私は無視して考える。
(後はドンクリーク、そしてウルージ。この辺もスカウトすべきでしょうか……)
ルフィは引き込み、エースとサボのスカウトも成功した。これで深刻な懸案が3つも消えた。少し安堵している。
「あっそれと、今日は凄いゲストが居るの。はい、この人、山賊王のヒグマさん! 56皇殺しのヒグマって言って、かつて海に君臨していた60皇を4皇まで減らした大山賊なんだ! 更に山賊になる前は何と海軍大将で、海軍大将緋熊の異名で恐れられていたんだよ!」
「だから山賊王だの56皇殺しだの海軍大将だの変な事ばっかり言ってんじゃねえ! 俺はそんなんじゃねえんだよ! 、あー全く、俺はヒグマだ、海軍にスカウトされた。宜しく頼む」
(ヒグマを、ライブに出すのですか?)
まあ好きにすれば良いでしょう。強いて言うなら、海軍の広告塔になってくれると助かります。
「あっお母さん! お母さんも歌って、ほらお願い!」
「嫌です」
「ヨホホ、まあそんな事は仰らず。どうぞこちらに」
結局私もライブで歌わされた。私、歌うのは好きでも得意でもないんですが。
「はぁ、お母さんの歌。相変わらず気持ち悪いくらい綺麗だよねぇ」
「やはり、ファイスお嬢さんは色々才能を持っていらっしゃいます」
ガープの系譜を継ぐクソ強無能力者路線のルフィ。ゴムゴムの実は世界政府が美味しく頂きました。