ウタが海兵学校に入り、卒業するまでの間、嵐のような時間が過ぎた。毎日のように騒動ばかりで一々対応に追われた。非常に面倒だったけど、まあ一通りの事は出来たと思う。
ウタは任官の後、大参謀つるの軍艦に配属されて実績を上げた。本人も高水準な見聞色の覇気を使いこなし、海兵としての任務だけでなく、各地でのライブ活動も順当に行った彼女は、やがて海軍の歌姫と呼ばれるようになっていった。
「さて、そろそろでしょうか」
そして、私はセンゴク元帥に、前から準備していた計画の実行を具申した。
「うむ、トットムジカ撃滅作戦か、確かに頃合いだな。分かった、ウタ小尉のエレジア行きを認める」
(トットムジカ撃滅作戦……さて、どうなるでしょうか)
作戦地点はエレジア。標的はトットムジカ。可能ならば撃破を、それが不可能な場合は再度封印する。
「その前に、まずはゴードン国王に挨拶しなければ」
「お久しぶりです、ゴードン陛下」
「ご丁寧にありがとう。久しぶりだな、赫鳥」
エレジア国王、ゴードン陛下とは既に顔馴染みになっている。何年も前から顔を合わせて、この作戦を練り上げて来たのだから。事前に住民を退避させた上でトットムジカを起動。バスターコールを発動し、トットムジカを撃破する。それがこの作戦の概要になる。
「貴方が、ゴードンさん?」
「如何にも、私が国王のゴードンだ。初めましてになるね、海軍の歌姫ウタ。今回の作戦では貴方の能力が鍵になると聞いている。どうか、このエレジアを守って欲しい」
「は、はい、任せて下さい!」
「それと、この作戦が終わったら、是非ともこの国でライブを開いて欲しいんだ。最高の環境を用意するよ」
「わ、分かりました!」
ウタは随分と張り切っているようだ。まあ悪くない傾向です。
「この場には、海軍の総戦力の大半が集結しています。必ずやトットムジカを打倒してみせます、どうかご安心下さい」
「ああ、頼む。トットムジカの封印までは案内するが、その後は私も避難しなければならない。後の事は海軍に任せるぞ」
「状況はどうです、黄猿」
「手筈通り、艦隊の準備は整ってるヨォ〜、国民の退避も完了、これで気兼ねは要らないネェ〜」
「成る程、それは良かったです」
ゴードン陛下の元を一旦退いた後、黄猿と少し話しておく。本作戦の指揮者は黄猿。この作戦についての情報もここに集まっている。
(流石に壮観ですね……)
エレジア近海に集結した艦隊は凄まじい数に渡る。視界中の海を艦隊が囲んでいる。恐るべき偉容と言って良い。
「それに、この場が56皇殺し、海軍大将緋熊の初陣だからネェ〜」
「別に56皇殺しなんて言う程大した物じゃねぇよ。泡沫四皇を沢山倒したってだけだからな」
四皇の一角に大穴が空いた事で現れた、通称六十皇とも称される程夥しい数の泡沫四皇達。その泡沫四皇の内56人を殺害し、新世界の安定化に大いなる貢献を果たした事で、彼は遂に海軍大将にまで成り上がった。彼こそが六十皇を四皇にまで減らした大人物。
「期待していますよ、海軍大将緋熊」
「所詮は山賊上がりなんだ、あんまり期待すんなよぉ赫鳥。まあやれるだけはやってはみるかねぇ」
彼の名はヒグマ、海軍大将緋熊となる。
「それと赫鳥、もう一つ話があるんだが、結構面倒事になってやがるぞ。ルフィの奴が密航して来やがった」
「はぁ、ルフィが」
「離せええ、だから俺も行くんだってぇ!」
「大人しくしろ。幾らガープ中将の孫でもまだ学生なんだろ、良いから本部に帰れ。帰りの補給船に乗せてやるから」
「はぁ……」
その現場はヒグマが言った通りの結構面倒な事になっていた。エース中尉やサボ中尉は兎も角、ルフィはまだ海兵学校も卒業していない。ただの学生を死地には連れてこれない。
「あっファイスさん、ちょうど良いや。なあ頼むよ、俺も連れてってくれ、ウタだけはどうしても放って置けないんだ」
「まだ学生でしょう、良いから帰りなさい」
「ええ、そんな」
「帰れ、作戦の邪魔です。そちらの軍曹、ルフィさんを補給船に乗せて下さい。任せても?」
「はい、お任せをファイス大将。さ、もう帰るぞルフィ君。まだ学生なんだろ」
「うわっ、だからちょっと待てって、うわぁぁっ」
「帰りなさい」
ルフィは強制連行させた。このまま帰りの船に乗せる。
(はぁ、面倒臭い)
「多少乱暴でも構いませんよ。ルフィさんは暴れますから」
「分かりました、おい、良いから来い、来るんだ」
「ぐぁぁっ、ちょ、ちょっ待たよぉ!」
そうして力尽くで連行されて行くのを見る。私は少しだけ安心した。
(……後は)
ルフィはどうせ知恵を絞り、誰かの協力を得て戻って来る筈。その時どうするか、協力者は誰か? 私はそんな事を考えていた。
占いを弾く。見聞色の予知も使う。誰が協力するのか、どうやってここに戻って来るのか。要因を察知して全て潰しておく必要がある。
「さて、主人公の相手は面倒です」
「遅れてすみません、黄猿。トットムジカの移送作業は?」
「心配しなくても良いよォ? トットムジカは移動完了、予定通りエレジア近辺の無人島に設置したから、後は起動するだけになるネェ〜」
「成る程、それは良かったです」
トットムジカは、エレジア近辺の無人島に移送した後に起動する。これで周辺に被害を及ぼさず、思いっきり戦えるという寸法。
(無人島は更地になるでしょうが、許してください。無人島くらい)
無人島くらいは許せ……あー兎に角、今回作戦に参加する大将は私と緋熊、黄猿と青雉の4人。2人ずつを夢と現実に、それぞれ振り分けてトットムジカと交戦する。私と緋熊は夢側の担当。黄猿と青雉は現実側。赤犬は本部で待機となる。
(ルフィの帰還する可能性……良し、占術上は0%まで縮めました。未来を変える権利は、貴方にだけは与えませんよ)
ルフィは、もうここに帰っては来れない筈。でも、まだ安心はしていない。奴なら未来を変えるくらい必ずやるでしょうし。だからこそ、帰還する可能性は全て潰しておいたのですが……それでも絶対とは言えないのです。
(ルフィ、貴方の未来は可能な限り潰します。潰さなければ、潰されるだけですから)
「それに、貴方の方はどうです。緋熊」
「まぁぼちぼちだ。それにしても悪かねえじゃねぇかシキの刀。名前は、桜十っつったか。赫鳥も貰ったら良いんじゃねぇか? まだ本部に木枯らしが残ってんだろ」
「剣は苦手ですから。剣では正面からのぶつかり合いを強いられます。それでは技量の差を誤魔化せません。長柄を持つか、それが出来なければナイフで十分です」
剣を持つのは苦手だ。剣の中途半端なリーチでは、どうしても正面からの戦いを強いられる。技量の差を誤魔かせない。そのくらいなら、ランチャーの邪魔にならない上に扱いやすいナイフで十分。
「ですから、業物ならむら雲切が欲しい。それ以外は要りません」
「むら雲切……白ひげの得物か。中々けったいな物を狙うじゃねぇか」
(それにトットムジカ……楽譜の焼却は試しましたが)
トットムジカの楽譜、焼却は結局不可能だった。核の炎ですらあれは燃やせない。かつての人々でも封印するしか無かった程の難物だ。だからこそこんなに大規模な作戦をやっている。
「楽譜が燃やせない以上、物理的に燃やし尽くすまでです」
「おいおい、そりゃ随分と物騒だなぁ」
「そうですね。物騒だと良いのですが」
「はっ、言うねぇ」
「……んぅぅ」
「大丈夫なのか? ウタ」
「大丈夫。大丈夫だよエースさん」
無人島の中心、艦隊によって入念に包囲され、陣地の構築も一通り完了したその場所で、ウタはエースと何やら話している。
「ウタ少尉、今回の作戦では貴女の能力が要になります。頼らせて貰いますよ」
「は、はい、お母さ……アルメリア大将」
ウタは緊張している様子だった。私は気にしないふりをする。
「そう言えば、大将、さっきルフィが密航して来たって聞いたのですが」
「えっルフィが、嘘?」
「その通りです、確かにルフィが密航して来ました。もう追い返しましたから、別に気にしなくて良いですよ?」
「あー、もう追い返されちまったのか。しょうがねぇな、ルフィの奴。まあ良いさ。ルフィの分も俺たちでやってやるぞ」
「う、うん、エースさん。私も頑張ります」
(この辺りで、良いでしょうか)
「それでは、また後で。ウタ少尉」
ウタとエースとサボに一旦別れを告げて、私はまた羽を広げて飛び立った。
「所で、本当に大丈夫なのか? ウタ。お前は作戦の中心なんだから、無茶は絶対に避けろよ?」
「あはは、大丈夫だよエースさん。私はウタ・ファイス。海軍大将アルメリア・ファイスの娘だもの。お母さんなんかに負けてられないんだから」
「ランチャー、正常に作動中……出力、70、80、90%……100%、エネルギー充填完了。最終確認、良し。ナイフも問題無し」
「はっ、面倒な武器だなぁ、そのランチャーってよぉ。使う度一々準備が必要な割に、構造が複雑で妙に脆いじゃねえか。もっと単純な奴にした方が良いんじゃねえか?」
「そう見えますか、緋熊。でも私は気に入っていますよ。火力も射程も安定的に出せますから」
「ま、何でも良いがねぇ。そろそろ始まるぜ」
夢の中には巨大な艦隊が陣容を広げる。ここには大艦隊と無数の海兵、複数の中将、そして大将である私と緋熊が居る。この部隊でトットムジカを押さえつけるのが作戦。
「予定通りなら、間も無く……さて、来ました」
トットムジカ、映画館で見たあの原作のように、神聖で恐ろしい旋律が聞こえる。ウタの旋律、間も無く来る。
「総員戦闘用意。トットムジカの起動を確認次第に砲撃開始だ。急げぇ!」
「もうすぐ来るぞ、気をつけろォ!」
そして、
「絶滅放射!」
「こいつが海賊王ロジャーの技さぁ、神避リィィ!」
ランチャーからは最大出力で放射。更には赤黒い覇王色の覇気を纏う、神避の斬撃がトットムジカを襲う。それと同時に軍艦が、海兵隊が、中将達が次々と攻撃を開始。夢の世界に砲音が轟く。激しい爆発、しかしトットムジカはまだ健在。
「はっ、この程度じゃ足りないってかぁ? 良いぜぇ上等だァっ、弄月ぅ!」
「まだまだ先は長いのです、皆さんお気をつけて。2射目、絶滅放射!」
神避とは違う、覇気を用いた近接剣術、弄月がトットムジカの右半身を引き裂く。左半身は私の砲撃で射抜く。
(さて、持久戦ですかね)
間違い無く持久戦になる。覚悟を決めましょう。
「神避三連!」
「フレームランチャー、リミッター解放。フルバ──スト!」
見聞色を通じて現実側と連絡を取りながら、相互に攻撃のタイミングを合わせる。その瞬間に、ヒグマは一瞬で神避の三連撃を放ち、私はランチャーのリミッターを解除、そのまま最大出力で放射。
大爆発を起こして倒れるトットムジカ。それでも、息の根は止まっていない。
「はっ、やるじゃねぇか、中々面倒臭え」
「とは言え、早いうちに仕留めなければ。次の攻撃で仕留めます。海兵隊、キングパンチ発射用意。巨人中将各員は覇国の用意を。全員、時間合わせ」
「ま、そうなるかぁ。そろそろかねぇ」
トットムジカは、それでも再び立ち上がる。攻撃の準備を整えようとする私達を狙って、
「無駄な足掻きはするもんじゃねぇぞ、天神弄月!」
ヒグマの放った乱れ切りがトットムジカを抑え付ける。時間は、これで稼げた。
「向こう側との同期……問題無し。行ける。良し……、全員一斉攻撃!」
「絶滅しなさい、終末の火炎 」
「奥義、神無神避ぃ!」
圧倒的な破壊が、トットムジカの全てを滅ぼし尽くして無に帰す。そして、遂に
「トットムジカ……倒れましたか」
漸く、トットムジカの打倒を確認する。私は小さく安心した。
「これにて、トットムジカの撃破を確認しました。皆さん、お疲れ様でした」
「うわぁぁ、ち、畜生ぉ」
「きっちり見たか? 神避って言ってな、これが海賊王ロジャーの技さ。覇王色の奥義だが、お前も覇王色の素質があるんだ。きっちり鍛えれば出来る筈だぜ」
「な、なんのっ、俺は今度こそウタを守らなきゃいけねぇんだ。山賊王なんかには負けねぇっ」
「はは、言ってろ。そら、もう1発行くぞぉ!」
(ルフィさん、やはり食らいつきますね)
トットムジカを撃破し、マリンフォードに帰還した後。恐らく何か思う事があったのでしょう。ルフィがヒグマに鍛えて欲しいと頼み込んだ時は正直驚いた。
驚いたと言えばこれもだ。ヒグマが短期間の内に覇王色の奥義を覚え、遂にはロジャーやシャンクスの技、神避まで使い出した事も。
(神避。原作で使った事例は、ロジャーとシャンクス以外に有りません。やはりヒグマは特別のようです)
「……」
「はぁ、なぁファイスおばさ……大将。大将も神避って出来ねえのか?」
「おや、出来ますよ。見せてあげましょうか? その木枯らしを借ります」
ルフィが持っていた木枯らしを借り受ける。シキの持っていたもう一振りの名刀、木枯らしは元々海軍本部に置いていたのだけど、これをルフィが貰い受ける事になったのだ。
木枯らしを居合の形に構えた。そして
「神避!」
木枯らしが赤黒く発光する。放たれる圧倒的な破壊。巨大な斬撃が大地を飲み込んで穿つ。
「やっぱり、木枯らしはアンタが持っといた方が良いんじゃねぇか?」
「いえ、良いですよ。私は剣士じゃ有りません。ナイフで十分です」
「や、やっぱすげーや。本当に何でも出来るんだな、おばさん……大将」
「木枯らしは返しますよ」
いつの間にかシキの桜十を貰って、神避まで使い始めたヒグマ。序でにルフィは木枯らしを持って行きました。この作品のルフィはクソ強無能力者剣士路線の模様。
神避(かむさり):ロジャー、そしてシャンクスの象徴。覇王色の覇気を用いた説明不要の必殺技
弄月(ろうげつ):武装色の覇気を用いた近接剣術
神避三連(かむさりさんれん):神避を一瞬の内に三連射する。三連射した神避は全てが一つに纏まっており、一見すると普通の神避にしか見えない。普通の神避だと思って防御すると三発分の威力を持った神避が襲ってくると言うクソ面倒なフェイント仕様。ヒグマは普通の神避の中にしれっと神避三連を混ぜる事で、的確な心理戦を仕掛けて来る。
天神弄月(てんしんろうげつ):武装色と覇王色を同時に用いた渾身の乱れ切り
神無神避(かんなかむさり):武装色と覇王色を同時に用いる超高威力の巨大な神避。単純故に凶悪
ヒグマの技名は神、或いは天上の存在を弄び、馬鹿にすると言う意味で統一しています。