全ては順調に行くと思っていた。4皇を除く脅威はほぼ排除に成功、4皇の殲滅作戦についても、間もなく用意が整う。そう思って、私は戦力の強化を急いでいた。
「ルフィ大尉が、シャボンディ諸島で天竜人を殴ったと? ウタ少佐を庇って」
「ああ、その通りだ」
私が来たときには既に、執務室は重々しい雰囲気に包まれていた。
(この展開は、ウタを引き取った時から予想済みでした)
いつも通り行われたシャボンディ諸島でのライブの帰り。その日、ウタは天竜人に奴隷として狙われた。ルフィはそれを殴って掣肘し、そして2人で逃亡した。これが、その事件の概要。
「成る程、では追いましょうか?」
「いや、黄猿がもう動いている、これを機に四皇が動き出す可能性もある、守りを疎かには出来ん。赫鳥は待機し、継続して対四皇計画を進めろ」
「分かりました」
私は一礼すると、一旦執務室を出た。今後の事を考える。
(ルフィは、やはり消すべきようです)
(面倒なのは……ガープ、それにエースとサボ)
対四皇の作戦を準備する間、片手間にルフィ追撃の情報も集めた。ルフィの追撃は失敗続きのようだ。シャボンディ諸島でルフィを取り逃がしてから、ずっと、何度も何度も失敗し続けている。それこそ原作の様に。
(この状況も想定済みですが……はぁ、主人公を甘く見過ぎでは有りませんか?)
「これ以上、損害ばかり重ねてもしょうがないのでは無いでしょうか。ルフィの居場所は分かります。直ぐにでも仕留めて来ましょうか?」
「それに、あまり放っておくとアホウドリの動きを止められませんよ。センゴク元帥」
「そうだな……、確かにその通りだ」
アホウドリ、今の状況だとあいつが一番厄介だ。もしルフィとの接触を許すと更に面倒になる。
(トリトリの実モデルアルバトロスの能力者、新聞王モルガンです。この状況だと、あいつが一番面倒い)
「いや、ワシは構わんわい」
「ガープ、そうか、分かった。頼めるか、赫鳥」
「分かりました、直ぐに行ってきます。ルフィ元大尉とウタ元少佐は現在ウォーターセブンに居ます。対四皇作戦の兼ね合いも有る以上、早い内に仕留めて来ます」
「ファイス」
「はい、ガープ中将」
「ルフィと、ウタを、ワシの孫を頼むぞ」
「分かりました、承ります」
センゴク元帥と、ガープ中将に礼を言った。部屋を退出する。急がなければと、そう思っていたのだけど。
「……」
「エース大佐、サボ大佐、どうしましたか」
「ルフィを、ウタを助けられないのか?」
「事ここに至っては、最早不可能でしょう。話はそれだけですか?」
「ウタはっ、あんたの娘なんだろ! どうして娘を助けられないんだよ! アンタそれでも母親なのかよ!?」
「私はウタの母親ではありませんよ。ウタはただの監視対象です。手元に置いたのはウタウタの実の能力者を監視する為、血縁関係も有りません。親子関係など、ウタが勝手に言い出しただけです」
「て、てめえぇっ」
「よせ、待てよ。待つんだエース」
激昂するエース。サボがそれを掣肘する。そして、
「アルメリア大将、本当に助ける方法が無いんですか? 本当の、本当に。それこそ追撃が失敗して、革命軍に身柄を奪われたとかでも良いんです。何か、方法は」
「有りませんよ。では」
「なっ、そんな事は!」
「待て、待てよ赫鳥! 巫山戯んじゃねぇ! 何てめえの娘を殺そうとしてんだよ! ウタはお前を信じてるんだぞ!」
「ですが敵です。世界の敵である以上、殺されるより先に殺します。でなければ殺されるだけです。私は死にたく無いので」
まだ何か言うエースの言葉を、私の思考は遮断する。羽を広げ、飛び立つ。目標はウォーターセブン。
(本当の所、助ける方法はある)
シュガーの、ホビホビの実の能力でルフィとウタを玩具にすれば良い。その上で、忘れても良いよう記録を残して保管する。ざっと2年くらい待てば良いだろう。2年間の間に四皇さえ片付ければ、天竜人による体制を倒壊させる準備が整う。そうすれば、ルフィとウタも再び日の目を浴びても良い時が来る。
(でも、関係ありません)
「殺さなければ、殺されるだけです」
「おやおや、殺伐としていらっしゃいますねぇ」
「ブルックですか。何の用です?」
「いえ、何でも」
マリンフォードから飛び立つ寸前、いつの間にか来ていたブルックが言う。ブルックは
「しかし、骨肉の争いなどする物では有りませんよ。ましてや母親が娘を手にかけるなど」
「その娘は世界最悪の犯罪者です。殺すしか有りません」
「ヨホホ、それは厳しいですねぇ。ですが」
「私を止めますか?」
「いいえ、止めませんよお嬢さん。止めませんとも」
「そうですか。ではさようなら」
私はまた翼を開いた。一気に飛び立つ。
「ですが、中々虚しい物です」
ウォーターセブン近辺で羽を閉じる。時間は真夜中。
(やはり狙撃しますか? ……ウォーターセブンは狭い上に民間人が多い。狙撃すると、少し面倒ですね。それに、例え接近戦でも私が有利です)
例え服装を変えた所で、私の身長の313cmだとあっさり素性がバレる。だから変装は無しで、人目を避けながら移動するだけに留める。見聞色を使って、敵の居場所は精査済み。
「……」
夜陰に紛れて移動する。ナイフシースからナイフを取り出す。そして見つけ出す。
「見つけた、ルフィ」
ルフィの居場所を目視でも確認。想定通り、フランキーハウスの様だ。フランキーハウス……面倒な場所ですが。
「フランキー毎殺す。最低最悪の犯罪者を匿うのです。死ぬ覚悟はある筈」
接近する。そして、
「死ね『まあ待ちな』誰です、貴方」
突入しようとして、しかしナイフを止める奴。面倒い、これは、フランキーですか。このくらいは想定内です。
「内の客人に手ぇ出してんじゃねぇよ。何のつもりだ『知るか、死ね』全く、最低だなぁお前」
「鬱陶しい。死ね、死ねよ」
ナイフと拳の応酬。例え相手がサイボーグでも、パワーではこちらが上。押し切れる。赤熱化したナイフを突きつけ、そして
「クソ、やっぱり止められねぇか」
「消えろ『待ちやがれ』出てきましたか、ルフィ」
シキの持っていたもう一振りの刀、木枯らし。それを私に向けてナイフを抑え込もうとするルフィ。
「フランキーに何してやがる。お前の目的は俺なんだろうが」
「好都合です、死ね『待て、止まれよ!』死ねよ、ルフィ」
「どうして自分の娘を殺そうとしやがる! ウタはお前の家族なんだろ!」
「知りません、死ね」
「ふざけやがって、この野郎!」
(2対1……面倒ですね。それに、時間をかけると鬱陶しいのが来る)
「死ねよ、ゴミ共。終わらせてあげますよ」
ナイフに覇王色と武装色を纏わせる。更に核熱を打ち込んで高熱化、そのまま全速力で突撃。策も何も無い、ただの滅多刺し。
「く、ぐぁぁっ」
「ふ、フランキーいぃ!」
「死ねよ」
受け止めようとした木枯らしが溶ける。溶解した木枯らしをこちらに投げ付けて、更に格闘戦を仕掛けて来るルフィ。溶けて爆発したフランキーの肉体からナイフを引き抜き、投げられた木枯らしを斬り払う。そのまま拳ごと、ナイフで何度も何度も何度もズタズタに引き裂いた。
「うぁぁぁっ、に、逃げてくれウタ『死ね』ぁぁぁ……」
「ルフィ、思っていたよりあっさり倒れましたね。はぁ、良かった」
正直、いつ横槍が入るか気が気で無かった。グチャグチャに破壊し尽くされたルフィの死体を見ながら、始末出来て安心する。
「お母さん、ここに、来て『死ね』きゃああっぁ、ルフィいいいっッッッ」
突入したフランキーハウスの中、ウタに向けてルフィの首を投げつける。驚愕するウタをルフィの生首に仕込んだ爆弾で焼き尽くす。悪魔で普通の爆弾だ。核爆弾だと後処理か面倒。
「なんで、何でこんなっぁぁっ……嫌、だ、お母ぁ、さん」
「おや、嫌ですか? それは良かった」
そのままナイフでウタの全身をズタズタになるまで引き裂いた。最早原型を留めない程グチャグチャに損壊したウタの身体。ウタも、始末そのものはあっさりだった。安心する。
「死になさいウタ。貴女は世界の敵。はぁ、主人公の相手は面倒です。殺せて良かった。……可能な限り証拠を消して、早い内に撤退しましょう」
余り物証が残っていると例のモルガンに気取られる。そうなったら鬱陶しい。証拠は可能な限り消して、ウォーターセブンを脱出する。
「世界政府に逆らう者には死を」
帰還したマリンフォードは、重苦しい雰囲気に包まれていた。その様子を私は気にせず進む。そして、
「何故ルフィを、ウタまでも殺した!」
「必要だから殺しました。彼等は世界の敵です」
振りかざされた拳を、ナイフで必死に抑え込んだ。その後は何も考えられなかった。ガープ中将を相手に考え事をしている余裕なんて無い。只管ナイフで切り裂き続ける。私にはそれだけしか出来ない。でも
「そこまでだ、ガープ」
「センゴク、貴様」
「その辺りにしておけ、ファイス嬢ちゃん」
「何です青雉!」
青雉が私を止める。凍りつかせる冷気を、高熱の炎が強引に遮る。熱と冷気が鍔迫り合う。
「何のつもりです」
「嬢ちゃんこそ海軍大将だろうが! ここは正義のお膝元なんだぞ、ここを何処だと思ってる、誰を相手に何をしてる!」
「成る程……」
ナイフを止める。ガープ中将は、センゴク元帥と何か言い合っている。何を言っているのか、もう気にすることも出来なかった。私は酷く憔悴している。
「なぁ、オハラでサウロ中将を殺したの、嬢ちゃんか? サウロ中将だけじゃ無い、逃された子供も殺したな?」
「はい、私がサウロ中将を殺しました。逃された子供も」
「……」
「彼等は、オハラの学者は世界の禁忌に触れました。かつての知識を得て、世界を破壊しようとした連中。殺してはならなかったのですか?」
「……そうか」
「私は、何か間違った事をしましたか? したのでしょうね。でも、それでも構いません」
「この世界は見かけよりずっと脆弱です。脆弱な世界を覆す者は、誰であっても生かしてはおけない。私は死にたく無いんです」
青雉は、それ以上何も言わなかった。元帥に詳細を報告した後、その場は一旦解散になった。