「元帥の椅子、中々重い物です」
今日から、私はいよいよ海軍元帥と言う事になる。はぁ、ここまで来るとは思っていませんでしたね。
「貴方には新世界、対四皇の前線に立って頂きます。構いませんか赤犬」
「新世界の前線、それこそワシの方から望む所じゃのう」
「それは良かったです。四皇との決戦はもうすぐ来ます。赤犬には新世界の部隊の指揮権、編成権限を与えます。今後の決戦に備え、消耗を避けながら可能な限り敵四皇の戦力を削って下さい。最優先にするのはビッグマム海賊団です。白ひげ海賊団の相手は最小限で構いません」
「良いじゃろう、四皇の相手か。ワシに任せちょれ」
赤犬はそう言って、綺麗な敬礼を返す。私はドキッとする。自分が海軍大将から敬礼を返される立場になった事に。
(はぁ……慣れませんね、この感じ)
「全ての用意が完了次第、万国に対しバスターコールを発動、ビッグマム海賊団を殲滅します。それでは頼みましたよ」
「成る程、良いじゃろう。ワシはそろそろ下がらせて貰う。じゃが」
「元帥、ワシはお主が間違った事をしたとは思っちょらんぞ。お主が元帥になった事も。辛いじゃろうが、ウタとルフィの小僧を殺した事も。じゃから自信を持て。元帥らしくもっと胸を張るとええ」
「自信、ですか。そうですね、覚えておきましょう」
赤犬が去って行った後、私は思った。
「はぁ、私が元帥……私なんかが」
無い胸を張って、さてどうした物でしょうね。
新たな海軍元帥として赫鳥が選ばれた事で、世界は根本的に変わった。元帥に就任した後、彼女はまず二つの事をやった。手早く支援砲撃態勢を整え、全世界を自らの射程内に収めた事。もう一つは見聞色を用いた未来予知情報を世界中の支部に送信した事。
これによってどんなに脆弱な支部でも、遥かに格上の海賊をあっさり撃破出来るようになった。砲撃の種類、座標と時間を決めて海軍本部に連絡を入れる。たったそれだけで指定した場所が、バスターコールに匹敵する火力で焼き尽くされるのだ。
未来予知に基づく攻撃情報も非常に有用だった。攻撃情報に基づいて行動するだけで、どんなに用心深く隠れた海賊も、格上の海賊も容易に殲滅されてしまうのだから。
世界中全ての場所が赫鳥の射程圏内に入った事で、海賊に安息の地は無くなった。グランドラインの外、比較的安全だった四つの海でもそう。海賊達はいつ天上からの砲撃が落ちるか分からない、不安な日々を過ごさなければならなくなった。
各地の海賊は次々と撃滅され、多くがインペルダウンに送られるか、或いは無残に殺されていった。残る海賊達は生き延びる為に四皇を頼り、必死になって新世界へと向かう。現存する四皇の勢力はこうして更に巨大化していった。
これが赫鳥の君臨する世界。炎によって支配される、新たな地上の地獄なんだろう。
「ま、なんてな。それでどうだ? ファイアタンク海賊団は」
「順調です大佐。海賊団はあっさり壊滅しました。流石は赫鳥ですね。新元帥になってから随分変わりました。あの砲撃、最高にクレイジーですよ」
「そりゃあ良かった」
ファイアタンク海賊団、そして船長カポネ・ベッジの摘発は順調に進んだ。本部から送られてきた未来予知の情報に基づいて指定された海域に接近し、ファイアタンク海賊団を捕捉。そのまま電々虫で本部に支援砲撃を要請する。それだけだ。それだけで天空から超高威力の砲撃が落ち、船ごとあっさりと殲滅された。後は僅かな残党を捕縛し、破壊された船を検分すれば終わり。安い物だ。
「この感じ懐かしいなぁ。ファイス嬢ちゃんが上官だった頃を思い出す」
「あのおっかない新元帥を嬢ちゃん扱いって、今回の艦長ヤバくないか?」
「ああ、とんでも無く凄いな。新元帥は世界中何処でも、あんなとんでもない砲撃を平然と撃ってくる化け物なんだぞ。それを嬢ちゃん呼ばわりだとか」
「帰ったぞ、大佐」
「ああ、僧正ウルージ。船はどうだったか?」
「船は既に壊滅しておった。生き残りは僅か。酷い物よ、一通り供養はしておいたが」
「そうか、供養してくれたか」
僧正ウルージ、或いはウルージ少佐。赫鳥が直々にスカウトして来た逸材だ。分かりにくい言動が欠点だが、彼はとんでも無く強い。強い上に頼れる。それはもう普段から頼りっぱなしだ。
「感謝する、僧正ウルージ」
「南無。この程度気にすることは無い」
「良し、船の検分は済んだ。皆んな引き上げるぞ」
「了解。進路反転、帰還します」
船は帰還の航路を取る。途中少しだけ考えた。
「それにしても、最近めっきり海賊が少なくなったな。これもファイス嬢ちゃんのお陰だろうか」
「ファイス嬢ちゃんっ、今元帥の事ファイス嬢ちゃんって言いましたよこの船長! やっぱり怖すぎますって」
「ああ、真剣に怖いぞ。これ」
(怖がられてるな……俺ごときが)
正直、俺なんか大した人物じゃ無い。せいぜい20年近くファイス嬢ちゃんの部下として活動したと言うくらいだ。武装色が多少使えるだけで、見聞色も覇王色も無理。その武装色も少し上手いやつに比べると勝負にならないレベル。後は申し訳程度のキングパンチ。俺が持っているのはそれだけでしか無い。
(それにしても、俺も出世したもんだ。まさか自分の船を持つ日が来るなんてな……)
嬢ちゃんに大佐大佐と言われて顎で使われていた日々が、今になっては懐かしい。自分の船を持つと色んな苦労が分かって来る。それこそ嬢ちゃんの苦労も。
「他に残った厄介な海賊……そう言えば、最近キッド海賊団ってのが居たな」
キッド海賊団。海賊が落ち目になったこのご時世には珍しい、新人気鋭の海賊団だ。新人らしからぬ巨大な戦力と強力な悪魔の実の能力を持ち、最近になってグランドラインに乗り込んで来たルーキーの海賊。そう遠くない内に新世界に辿り着く程の勢いだそうだが。
「情報通りなら、正直この船で相手するのは避けたいな……、いや、支援砲撃を使えば、行けるか?」
戦うなら、最低でも支援砲撃が必要になるだろう。支援無しにこの船で相手をするのは絶対に避けたい。
「出会わないと良いんだがなぁ……キッド海賊団」
「どうですか? 黄猿」
「革命軍本拠地、バルティゴは確かに壊滅したヨォ〜。いやぁ順調だねぇ」
「それは良かったです」
革命軍本拠地、バルティゴに対するバスターコールも奏功した。これで後顧の憂いは絶ったと言える。
(事前に攻撃を察知出来た原作とは違って、この作戦は奇襲です。被害は大きい筈)
「残存戦力はカマバッカ王国に撤退……、成る程。次はカマバッカ王国にバスターコールを掛けましょう」
「それはまた大仰だねぇ。非加盟国と言っても、カマバッカ王国には民間人も多いよォ?」
「分かっていますよ。ですが、革命軍という最悪の反動勢力を匿うのです。覚悟はある筈」
「成る程ォ〜、まあその時にでも、改めて考えれば良いだろうネェ」
「最後に黄猿、革命軍にサボの存在は確認出来ましたか?」
「そこは調べておいたけど、確かにサボの姿を確認出来たヨォ〜」
黄猿の話によると、どうやらサボは原作通り革命軍にいるらしい。なら話は早いでしょう。
「分かりました。次の命令は追って伝達します、当分は休んで良いですよ」
「そう言う事なら、遠慮無く休ませて貰おうかネェ〜」
去って行く黄猿を見送る。私は次の客を迎えなければならない。
「次の方、どうぞ」
「お久しぶりです、元帥」
「ええ、お久しぶりです、ロシナンテ少将。魚人島での任務はどうでしたか?」
今度はロシナンテ少将を執務室に入れる。ロシナンテ少将とSWORDには魚人島での任務を任せ、それがつい数日前に完了したと言う報告があった。
(私は魚人島だと、蛇蝎の如く恐れられている。そんな私では魚人島の活動は不適でしょう。フィッシャー・タイガーもジンベエも殺したから、当たり前ではあるのですが)
「順調に行きましたよ。元帥が仰っていた通り、魚人海兵の登用工作は成功しました。また特殊薬物、エネルギーステロイドの現物を何個か確保出来ました。確保した物がこちらになります」
SWORDには現在、潜水艦ポーラー・タング号が配備されている。原作ではハートの海賊団旗艦だった船。潜水艦であれば魚人島での任務にも適すると考えて動かしたけど、上手く行ったようだ。
「ありがとう、回収したエネルギーステロイドは全てこちらに渡して下さい。後で技術部に回して解析させましょう。それと、魚人海兵の徴兵工作についてはどうでしたか?」
「成果は上々です。多数の魚人が志願してくれました」
「成る程、それは良かったです。徴兵工作はこれからも継続して実施します」
「……それと元帥、オトヒメ王妃からの伝言です。次は貴女も来て欲しい、昔の事は忘れて良い。と」
「分かりました」
ホーディーは既に暗殺済み。魚人島でやるのはエネルギーステロイドの回収、そして魚人海兵の徴兵工作になる。ホーディーがオトヒメ王妃の身柄を狙う事は分かっていた。暗殺する寸前を狙って魚人島に入り込み、実行する所を射殺した。その点で、彼女には随分と恐れられましたが。
「それに、ローは気にしていますか? 私がウタとルフィを殺した事」
「ええ、ローはここ暫く落ち込みぱなしです。ただ、この任務で少し持ち直してくれましたよ」
「そうですか。ですが、貴方も気にしているのでしょう? ロシナンテ少将」
「……気にしていないと言えば、嘘になります」
「どうしてウタを殺したのか。どうしてルフィを殺したのか。助ける事は出来なかったのか。そう思ってはいないのですか?」
「思って、居ますよ。ですが、元帥の立場は、理解します。非情な考えも必要なのでしょう?」
「……すみませんね、ロシナンテ少将」
「いえ、辛いのは寧ろ元帥の方です。俺の苦しみなど、元帥の足元にも及ばないでしょう」
「自分で殺したのですから、後悔はしていません。必要だから殺したと言うだけです。天竜人に手を挙げる大罪人を、この世界はまだ許さないのですから」
「まだ?」
「元とは言え、貴方も天竜人でしょう? ロシナンテ少将」
「昔の話です、所詮は」
「すみません、冗談です。まあ兎に角、魚人島は非常に重要な場所です。魚人島、そして魚人に対する現状の待遇は、はっきり言って非常に不適当だと考えています。魚人島は楽園と新世界を繋ぐマリージョアに並ぶもう一つの要衝、海賊にとって唯一の抜け道です。ここさえ塞げば、海賊が新世界に出られなくなる」
「それに、魚人が持つ強大な力と、海への親和性は海軍にとっても非常に有益です。海軍への魚人族登用、ひいては魚人島への海軍基地新設は、魚人、そして魚人島に対する世界の理不尽な扱いを解消する、一つの梃子になってくれると思います」
私は魚人島において二つの計画を展開している。一つは魚人海兵の登用計画。巨人海兵の登用については既に実績がある以上、魚人海兵の登用も不可能では無い筈だ。二つ目が、魚人島への海軍基地新設計画。例え基地が建てられなくても、小規模な駐在所、魚人島と海軍の仲立ちが出来る程度の部署を設置する。海軍は魚人島を見捨てない、そうアピールするのが目的。まあ、魚人島は現在白ひげの縄張りだから、基地の設置はまだ先になるだろうか。
「元帥、まさかそこまで考えていたのですか……。てっきり、元帥は魚人を酷く嫌っていらっしゃったのかと」
「ふふ、魚人にとっての私の評判は最低ですからね。まあ、その辺りの事情も汲んで動いて下さい」
「ええ、分かりました。良く覚えておきます」
「それと、SWORDには次の作戦を通達します。ワノ国での工作についてですが」
「和の国、カイドウの本拠地ですか?」
「その通りです。目標は二つ、ワノ国にて未だ活動する反百獣海賊団、反オロチ勢力と接触し、交渉の窓口を作る事。もう一つは現在スパイとして活動している海軍本部少将、X・ドレークの回収です」
「成る程、詳細を聞いても?」
「ええ、まずは」
ロシナンテ少将は退出する。私は改めて元帥執務室を眺めた。
「はぁ、洋風が恋しいですからね」
今の執務室は、私の趣味に合わせて洋風の内装に改造してある。床は畳を外し、壁も改造済み。かつては和風だったし、見かけは随分と様変わりした。こうやって重要な施設を好き放題改装出来るのも、元帥の特権と言えるのでしょうか。
「そろそろです、メガリス・システムが完成する。そうなれば」
「支援砲撃要請、来たぞ!」
「良し、撃て! 7番ランチャーだ。座標入力は?」
「座標入力完了、射撃時間良し、発射!」
窓の外で、海兵達が作業しているのが見える。円形に何十基も並んだ大砲の群れ。あれには私の炎を封入したカートリッジを搭載し、要請に応じて発射する。発射後はエネルギーが切れるけど、カートリッジを替えれば直ぐに再発射出来ると言う寸法。普段から数千のカートリッジを保管しておき、私が一日ごとに、使用したカートリッジの再装填を行う。
「支援砲撃システム……思っていた以上に上手く機能しましたが、あれもその内自動化したい所です。いつまでも能力頼みでは不安定ですし」
何て、私はそんな事を思っていた。あの砲撃システム、能力への依存を解消して自動化出来たら、ストーンヘンジって名付けましょうか……。
「世界政府に逆らう者を、全て殺せる時がもうすぐ来ます」
主人公元帥に就任、早速元帥権限で世界中の海賊を追い詰めて行く。海軍元帥になるオリ主人公って珍しいですよね。
オトヒメ王妃…生存。ホーディは8年前に銃殺された模様。
赤犬…ちゃんと前線に立てて嬉しい模様。執務室で怒鳴ってるだけなんて無かった。