君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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 アニメ化おめでとうございます。
 そんな喜びの感情のまま書いてみた結果、こうなりました。

 しかし、今の所原作タグが用意されてないのは……まだ知名度が足りないのか。うーむ。
 または、そもそもこの原作における二次創作文化がここには少ないのか。どちらにせよ、せっかくアニメ化するのなら二次創作界隈も迷惑にならないように盛り上がって行きたいものですね。

 みんな。100カノはいいぞ。(合言葉)

 これを読んだ人は是非とも原作を買っておくれ。買ってる人はこの機会に是非とも読み直して欲しいです。

 そんな気持ちになってくれたら嬉しいなー、と書いています。


【第一部】君だけが大好きなただ一人の友
青い春と愛城恋太郎


 大分幼かった頃の話になる。

 今でも思い出せるくらいの思い出だ。

 

 その昔、おれは酷い失恋をした。

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 相手が対応が酷かった。ということじゃなかった。

 

「好きな人がいるの」

 

 その後の関係が悪化した。ということもなかった。

 

「これまで通り、友達として接してくれると嬉しいかな」

 

 

 

 ただ、単純な失恋という重みに圧し潰された。

 

 たったそれだけの事。でも、おれにとってはショックな出来事で。

 『失恋した』という事実ただ一つがおれを苦しめた。

 

 この時からおれは。

 

 

 

 たった一度の失恋で、恋愛というものに…………怖くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 青い空、白い雲。そして輝く太陽。

 

 いつもの道は綺麗な白線で歩道を区切っており、多少呆けながら歩けばすぐにおれの住む住宅街の顔を見せてくれる。

 一足早く春休みに突入した子供達が、公園の遊具の周りではしゃいでいた。

 

 しかし、この日常の光景も最後。

 今度からは景色が少し……いや、大きく変わるかもしれない。

 

 

 

 青井春人。現在、中学生最後の日の帰り道。

 

 

 

 卒業証書の筒を肩にかけ、中学生最後の帰路を歩いていた。

 思えば沢山の思い出があったが、そのどれもがきっとかけがえのないものに変わっていくのだろう。

 

 春人は目を反らしつつ、歩き続けようとして止まった。

 そして、足を止めた元凶に対して気まずそうに目を向けた。

 

 そう。

 隣にいるこの男に目を向けた。

 

 電信柱に寄り添い、頭を擦り付けているのはおれの友人だ。

 同じ日に卒業したその友人は最悪の場面が頭から離れないのか、しなびたウサギのように表情がしおれていた。

 

 正直、いじるのも憚られるほどに。

 

 

 

「いい加減元気出せって恋太郎。失恋がなんだってんだ」

 

 

 

 おれは友人、愛城恋太郎に励ましの言葉をかける。

 

「そんな病みかけのミッ〇ィーちゃんみたいな顔してたら、せっかくの卒業が台無しだぞ?」

 

「どんな顔だよそれ……」

 

「そんな顔だよ!」

 

 

 

 声を掛けても、恋太郎の気は晴れない。

 

 まさか、友人が卒業式の日にまで女子に告白なんてするとは思っていなかった。確かにロマンチックだの、後悔を残したくないって気持ちとかは分からないでもないけどなぁ。

 違う高校なら、もう会えないなんて事もあるだろうし。

 

 相手はあの浅川さん。隣のクラスだったおれでも「才色兼備」だという噂が聞こえてくるくらいには非の打ちどころのない美人で有名な女子だ。

 性格も気立てもよく、彼氏がいないのが不思議ってくらいの人だったけど……。

 

(まさか、そんな女の子から『恋愛対象としては反吐が出る』ってセリフが飛んでくるとは思わないって)

 

 ……そりゃ、こうもなる。

 恋太郎はさらに沈み、柱に同化した石像のように動かなくなっていく。

 

「ちなみに今日で何回目だったんだよ? 連続失恋記録」

 

「失恋で傷心の俺に、んなこと聞く!?」

 

 

 

「大丈夫、お前がボロボロなんていつもの事だろっ!」

 

「常に失恋してるみたいな言い方やめろよ!」

 

 

 

 ニッコリ笑顔でデリカシーのない事を言ったら多少怒らせたが、まだある程度の元気はあったようだ。

 よかったよかった。時間さえあれば立ち直りそうだ。

 

 

 

「……で? どうなんだよ?」

 

「……失恋は今日ので……」

 

 

 

「100回目だよ」

 

「常に失恋してるじゃねぇか」

 

 ……なんだ。100回って。

 

 コイツ、そんなに節操ねぇの?

 

 

 

「むしろ、99回フられてもなお告白に立ち向かえるそのメンタルよ。ソンナ オ前ニ 『恋愛勇者』 ノ 称号ヲ 授ケヨーウ」

 

「やめろやめろ! こんな歴戦の敗残兵を捕まえてぇ!」

 

 卒業証書の筒を贈り物代わりに表彰する。

 あっ、ちゃんと受け取ってはくれるのか。

 

 

 

「でも100回って、どんな計算だよ……」

 

 小学校からか? それともまさか幼稚園の頃からとか?

 コイツなら言いかねないな。

 

 そう思いながら聞いてみる。

 

「初めて告ったの、何歳だ?」

 

 

 

「忘れもしない……あれは生後8か月のある日……」

 

「勇者ってかただの化け物(モンスター)じゃねぇか!?」

 

 お前はあれだ、勇者にシバかれる悲しきモンスター枠だ。

 

 でもまぁ。

 そんだけ失恋してれば、理解はできなくとも納得できることはある。

 

「そんだけ早くから恋愛感情持ってて未だに叶わないんじゃ、そりゃ愛の過積載も起こすわな」

 

 どれだけ過積載してるかは、目を背けるとして。

 

 

 

「ぐぅぅ彼女が欲しい!」

「彼女が欲しい」

「手とか繋いでキュンとしたい……!」

()じゃなく()()を投げ合う『好き合戦』がしたい……!!」

「……できれば雪合戦もしたい」

 

「うるせぇなコイツ」

 

 気づけば、おれの卒業証書の筒を持ったまま、自分で自分を抱きしめ始めた。

 ああ、悲しき恋愛モンスターよ。そろそろ筒を返せ。

 

「でも結局、謎のままだったよなー……どうしてお前がそこまでフられるのか。そんだけ告りまくってても女子からの評判は下がるどころかずっと良かったくらいだし……」

 

「そうか?」

 

 

 

「顔も悪くないし」

 

「うん」

 

「運動も勉強もできてる方だし」

 

「うん」

 

「誰にでも親切で気が利くし、男女問わず人望があるし、真面目なのに気さくで接しやすいし」

 

「……」

 

 

 

「……お前なんでモテないの?」

 

「べた褒めじゃねーかなんだお前気でもあんのか!」

 

「あるわけねぇだろ気持ち悪い」

 

 そこだけはバッサリ切り捨てさせてもらう。その気はないから。うん絶対に。

 

 

 

 

 

「まぁ、ともかく今は春休みを満喫しようぜ恋太郎。せっかく高校も一緒になったんだからよ」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「じゃあよ。高校では失恋記録1000回を目指そうぜ!」

 

「新たなる門出になんてこと言うんだこの友人Aは!?」

 

「モブみたいな呼び方はやめろ、泣くぞこの野郎っ!」

 

 おれ達2人は、中学最後の通学路を騒ぎながら歩いていった。

 

 

 

 

 

「どうか……どうか、恋の神様仏様」

 

「いや卒業したあとすぐに来るとこじゃないだろここ」

 

 何を思ったのか、恋太郎について行ったら神社に着いていた。

 寄り道するのは構わなかったけど、なぜ神社なのか。

 

 失恋を払拭したいのか、新たな出会いを求める気満々らしい。神頼みするよりも出会いを探しに行った方がいいと思うけど……。

 

 てかここ、縁結びのご利益しかねぇじゃねぇかよく見つけたなこんなところ。

 

「高校こそは彼女が出来て、幸せな学園生活が送れますように……っ!!」

 

「それは入学してみないと分からねぇだろ……」

 

 

 

「 大 丈 夫 じ ゃ 」

 

 

 

「えっ?」

「はっ?」

 

 

 

 恋太郎を引っ張って帰ろうと近づいたとき、声が聞こえた。

 

 目の前の賽銭箱から光があふれだす。

 そして光が収まったかと思うと。

 

 にゅっ、と。おっさんの顔が賽銭箱の上に佇んでいた。

 

 

 

「ぎゃああああ賽銭泥棒!!?」

 

「こんな奇々怪々な登場の仕方をする賽銭泥棒がおるか!!」

 

 

 

「いや、目の前にいるが?」

 

 

 

「わしゃ、この神社の神じゃ!!」

 

「そんな奇々怪々な登場の仕方をする神がいるか!!」

 

 

 

「いや、目の前にいるな」

 

 

 

 三者三様の混沌。気持ち悪いおっさんは浮遊感を持ちながら全身をおれたちに晒した。

 恋太郎は警戒心マックス、おれは半信半疑で困惑の表情を隠せなかった。

 

 

 

「ぐぅぅ、物質をすり抜けている……! 神だなんて信じ難いが少なくとも、もののけの類であることは確かだ……!」

 

「もののけの類とかいうな神のことを」

 

「大体すり抜けれるなら杖の意味ないじゃねぇか。おれにくれよ、丁度燃えるものが欲しかったんだ」

 

「お前はお前で神にカツアゲしようとするな」

 

 

 

 

「大丈夫じゃ恋太郎。祈願などせずともおぬしは高校で『運命の人』と出会うことになっている」

 

「う……運命の人……!?」

 

 

 

「違うぞ、『うんめぇ人』だってよ」

 

「ああ、うめぇのね、その人。味が」

 

「東京のグールかおのれらは」

 

 

 

「よいか、『運命の人』というのはじゃな……」

 

 

 

「人がこの世に生まれた時に定められる『最高の恋愛パートナー』同士の事じゃ」

 

「最高の……!」「恋愛パートナー……!」

 

「ああそうじゃ」

 

 

 

「運命の人が出会うと全身にビビーンと衝撃が走り、たちまちお互いのことが好きで好きでたまらなくなる。……俗に言う一目ぼれの事じゃ」

 

「お互いのことが……!」「好きで好きでたまらなくなる……!?」

 

「ああそうじゃ」

 

 

 

「ただ注意しなければならないのは、この時、女は『その場ですぐに』 男は『時間をおいて徐々に』相手を好きになると言うことじゃ」

 

「女はその場ですぐに……!」「男は時間をおいて徐々に……!」

 

「さっきからわしが言った事ちょこっと繰り返すのやめろ、文字数の無駄! ただでさえ読者がちゃんと原作読んでるか分からないんじゃからこの二次創作は!!」

 

 

「なるほど……ともかく俺はその運命の人と出会い、幸せな恋が出来るってことなんだな……!」

 

「ああ……しかもなんと……」

 

 

 

「おぬしが高校で出会う運命の人は100人もおるのじゃ!!」

 

「「 1 0 0 人 ! ? 」」

 

 おれ達の声が揃う。

 流石に多すぎやしないか!? そんなにたくさんいるモノなのかよ!?

 

「そうじゃ! もう好きな彼女選び放題じゃ! 良かったな!」

 

「そ、そんなぁ……! う、嘘じゃないんだろうな、そんな夢のような話!?」

 

「ああ、神は嘘などつかぬ」

 

 恋太郎がかなり前のめりになっている。いままで失恋続きだったんだ。無理もない。

 

 

 

「じゃあ嘘だったら……この神社燃やしてもいいか?」

 

 

 

 ……うん、無理もない。

 

 

 

「まつぼっくりは燃えやすいらしいぜ」

 

「いくら疑わしいからって、普通神を脅すかこのバーチャル世代共が!」

 

 

 

 神社の帰り道では、恋太郎はすっかりいい気分になっていた。

 おれには運命の人がいるのか聞いたけど、胡散臭い神いわく「いない」らしい。

 

 くやしいからおみくじを引いてみたら『大凶』とでた。燃やした。

 

 とにかく神社に行く前とは一転して、恋太郎の上機嫌さがひどく印象に残っていたのは確かだ。

 

 

 

 

 

 そして入学式当日。

 

「いや~、待ちに待ったぜ!」

 

「これで晴れて高校生ライフを送れるってもんだな!」

 

「読者は数行しかめくってないから、実感もクソもあったもんじゃないけど」

 

 

 

「やめとけ、おれ達と読者とは時間の流れが違うんだ」

 

 

 

 二人で入学式の案内を見ながら右往左往していると、二人そろって他の人に大きくぶつかってしまった。

 

「わっ!」

「おっと、とっ、たぁっ!」

「きゃ……っ!」

「いたっ!」

 

 

 

「いてて……、あっ、すみません!」

 

「いえ……こちらこそすみません」

「いったいわねー、ちゃんと前見て歩きなさいよね!」

 

 

 

 その瞬間だった。

 突如、おれの周りがピクリとも動かなくなった。

 全員がぶつかり、顔を上げたその時から硬直して動かなくなる3人。

 

 傍目からでも何かが起きたと分かる雰囲気。そんな感覚がおれを支配する。

 

 恋太郎。胸が大きいピンク髪の子。金髪の快活そうな子。

 ……の、中心で無様に転がっているおれ。

 

 おれを囲んで互いを見やるように動かない3人に対し、おれ達と同じ新入生たちがちらっと好奇な目を向けてくる。

 

 いや、誰か動けよ!? 囲んでるせいでなんかおれを生贄とした儀式をしてるみたいになってるんだが!?

 

 

 

「お……おーい、どうしたんだよ」

 

 おれが声をかけると、そこで初めてみんなが我に返った。

 

「……っ!? だ、大丈夫?」

「ま、まぁな。それより恋太郎、ピタリと動かなくなったのは一体何が……」

 

 一足先に恋太郎が我に返る。そしてをおれの方に手を差し出し。

 

 ぶすっ、と。おれの右目を突き刺した。

 

 

 

「いだぁ!? 目が、目がァァァァアアアアア!?!?!?!?」

 

 

 

「大丈夫? 二人とも……」

 

「大丈夫じゃない!? お前の大事な友人が大丈夫じゃないいいいい!!」

 

 この野郎、おれが見えてないのか!? おれの後ろにいた女の子達に釘付けになってるんじゃねぇよ!!

 

 

 

「ああ……っ。すみません、足をくじいてしまったみたいで……」

 

 目の痛みにもがき苦しみながらも様子をうかがっていると、ピンク髪の方が動いたようだ。

 おれはピンク髪が「閃いた!」って感じの顔に一瞬なったこと、見逃してないぞ。

 

 

 

 ……何か企みがあるらしい。

 

 

 

「保健室まで……。肩を貸してくれませんか……?」

 

 手を顎に近づけ、弱弱し気に呟くピンク髪の少女。

 

 

 

 さっきの顔があるから裏はあるのだろう。でも目的が分からない以上、そういうことならと善意で手を出す。

 

「おれが肩を貸そうか?」

「……」

 

 

 

 恋太郎が手を出す。

 

 

 

「もちろんいいよ……! 本当ごめん……!」

「……うふ♡」

 

「あれ? おれの手っていま消えてる? そんな露骨に見ないふりすることある???」

 

 あまりにも自然に無かったことにされたから、透明人間になったかと思った。

 

 

 

「結構痛むの……!?」

「あ、いえ、大したほどじゃ……」

 

 

 

「ごめんね……っ!! マジで……!」

 

 

 

「え、えっ!?」

「う、嘘だろ。泣いてやがる……!」

 

 自己嫌悪で責めているのが分かるほどの号泣。

 いや、お前の感情どうなってんだ。極端過ぎるだろ。「怪我させちゃった」で謝るのは分かるとして心配で泣くほどではない。絶対に。

 

 ほらよく見ろ。感情が爆発しすぎて女の子が引いてるぞ……って、ん?

 

 

 

(いやなんかこっちはスンゴイうっとりしてるぅ!? 乙女モード全開みたいな吐息を出してる感じがスッゴイするぅぅ!!!)

 

 

 

 なんだこの女、あの恋太郎をどう見たらそんな反応になるんだ。

 

 まるで「見ず知らずの人の足をくじかせただけでそんなに涙を流せるだなんて、なんて心優しい方……っ!」とか考えてそうだなコレ!

 

 心優しくないから! 優しいならそもそも足くじくことしねぇから!

 

 

 

 ピンク髪の子を手をつないで立たせる恋太郎。とりあえずくじいただけ(?)で大きなけがはないらしいので、おれはもう一人の方を心配する。何やら顔を赤くして慌てふためいているようだがどうかしたのだろうか。

 

「あ……あっ、え? あ……っ」

 

 とてつもなく焦っていた。何事か分からないけど、話しかけようとしてるのは分かる。

 

「アンタは大丈夫か? 立てるか?」

 

「べ……、べ……っ!」

 

「『べ』?」

 

 

 

「別にあんたの肩が借りたくて足をくじいたわけじゃないんだからねっ!!」

 

「はぇっ!?」

 

「えっ!? 何がっ!?」

 

 よく分からないタイミングの照れ隠しがファールボールのように飛び越えていった。いやツンデ……レ? これツンデレか?

 

 おれのイメージのツンデレとは印象が違うっていうか、ただただ残念な性格っていうか……。

 言葉に詰まる。まぁ素直な子ではないみたい……?

 

 後ろでも恋太郎と、手をつないだままの女の子が驚いて困惑していた。

 

「え……! もしかして君も足を!?」

 

「そ……そうよ、くじいたのよ! 何か文句でもあるっ!?」

 

 

 

「いや、文句っていうか。流石に二人同時は偶然じゃあ……なぁ」

 

 

 

「 う わ あ あ あ ー ー ッ ! ! 」

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 恋太郎は罪悪感のあまり、発狂してしまった!!

 

 訳も分からず……ではないが、いくつもの罪とその罪深さにより、自分を殴り始めてしまった。

 

 

 

「歩く筋肉要塞かてめーは!! どんな歩き方してりゃ触れ合う人をことごとく負傷させられるんだバカ野郎ーッッ!!」

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「発作!?」

 

 

 

「いや、うん。いつも通りです」←見慣れている

 

 

 

 こんな友人ですまん。これから仲良くしてほしい。

 もうこの奇行で引かれて嫌われなければいいなぁ、って半分おれは諦めてるよ。

 

「え……あれ、二人とも、足は……?」

 

「ん? 足?……あっ」

 

 恋太郎の指摘に気づいて彼女達の方を振り向くと、二人とも何事もないように立っていた。

 

 

 

 奇行だったからこそ化けの皮が剥がれたのだろう。

 つまり足のくじいた怪我はウソだった。ということになる。

 

 

 

「「いたたたたた」」

 

 

 

「それは無理があるんじゃね?」

 

 ごり押しにもほどがある誤魔化し方だな。

 

 

 

「い、いいから早く肩貸しなさいよっ」

 

「え、あ、うん」

 

「まぁ、仕方ない……のか? いいけどよ」

 

 

 

「「よいしょ、っと」」

 

「だーかーらぁ、なんでおれのほうにどっちも来ないの!?」

 

 

 

「ねぇ、これむしろ俺がけが人みたいに見えてない!?」

 

「てめぇも自滅で負傷してたろがっ!! 実際お前もけが人だよっ!!」

 

 もう勝手にしろ!!

 おれは多くはない恋太郎の荷物を持ってやり、三人の後をついていく。

 

 

 

 他愛ない会話として、恋太郎が名前を切り出す。

 

 

 

「俺は一年四組、愛城恋太郎」

 

「おれは青井春人な」

 

「二人は?」

 

 

 

「「私は」」

「「一年四組の」」

「花園羽香里です」(「院田唐音よ」)

「ふん! 同じクラスなのね」(「同じクラスなんですね」)

 

「ステレオ自己紹介!?」

 

 

 

「も、もう一度だけ俺にチャンスをください……」

 

「花園さんと院田さんだってよ」

 

「お前すごいな!?」

 

「そんなもん一発で覚えろ。ちゃんと覚えないと嫌われるぜ? なぁ、花園さん、院田さん」

 

 

 

「「……(じーっ)」」←恋太郎を見ている

 

 

 

「訂正。覚えててもどうしようもないっぽいな。ちょっくら泣いてくる」

 

 

 

 

 

「ねぇ聞いた!? この学校に伝わる恋のおまじない!」

 

「ん?」

 

 

 自己紹介のやり取りをしていたら、不意に聞こえてきた。

 見れば、噂好きのの女子が友人と話しているらしい。

 

「裏庭にピンクのクローバーが生えてて、その中の四葉のクローバーを渡しながら告白すると必ず付き合えるんだって!」

「なにそれ、小学生みた~い」

「いやそれがマジのマジで百発百中みたい」

「なにそれ怖い……」

 

 

 

 

 

(なにそれ怖っ……)

 

 ピンクのクローバーの時点で生えてるか怪しいモンだが、その中でも希少な四葉ねぇ……。

 恋のおまじないとは言っても、さすがに眉唾ものだな。こんなのに引っかかるヤツなんているわけ……。

 

「私ちょっと用事が!!」

「私も!!」

 

「だから足はーーっ!!」

 

 ……いたかぁ。ここに。しかも二人。

 

 俺たちは嵐が去った後の廊下に立ち尽くしていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「青井、そういえばいたんだ。」

 

「てめぇが殴ったその顔面をさらにボコボコにしてやろうか」

 

 冗談にしてもうるさいぞ。

 こちとら、さらっと何回もスルーされてんだからな。ばーか。

 

 

 

 

 

 その後、入学式を終えたおれ達は二人で帰ることにした。

 ……のだが、途中で少し挙動不審な教師を見つけた。

 

 よぼよぼのおじいちゃん先生だったのだが、話を聞くとどうやらコンタクトレンズを廊下に落としてしまったらしい。

 どうしようか逡巡したが、恋太郎が我先にと手伝い始めたのでそのままおれも加わることにした。

 

 気づけば今日だけは午前中で終わる高校に、日が傾くまでいることになった。

 

 見つけ出すのにかかった時間は四時間。

 踏みつぶさないように慎重に事を進めていった結果なのだが、途中から視界がコンタクトレンズを認識しないのではないかと混乱し、同じところを再度確認。そんなことを二人そろって無様にやらかしていたせいもある。

 

 先生からは「内申点一億点やるからな~」とお礼を言われたが、時間こそかかったが大したことはしていない。隣の恋太郎もそのようか考えのようで、おじいちゃん先生に対して終始笑顔で対応していた。

 

 四時間かかるとは思わなかったけどな!

 

「おっし、帰ろうぜ。今日は泊まりって言っておいたし、何して遊ぶか考えながら行こうぜ」

 

「放課後、あの二人とまた話したかったんだけどなぁ……」

 

「さすがに帰ってるだろ、あの恋のおまじない大好きの二人組も」

 

 

 

「……」

「……」

 

「どこだっけ?」

 

「……確か裏庭。フラグ立てたくはないがさすがにいないだろ。……帰ってなかったら飲みもん奢ってやるよ」

 

 

 

「四葉」

「四葉」

「四葉」

「四葉」

 

「……四葉!」

「四葉!?」

 

「……四葉」

「……」

「……」

 

「四葉」

「四葉」

 

 

 

「……いたな。ピンクのクローバーってこんなに目に悪いんだ、知らなかったぜ」

 

「まだやってる……!!」

 

「……閃いたっ。……四葉のために『四つん這(よつば)』いする……へへっ」

 

 

 

「……はっ?」

「ごめん、気にすんな」

「…………はっ?」

 

「恋太郎。悪かったから顔近づけんな」

 

 

 

「それにしても……4時間も四葉のクローバーを探して……!? そんなことってあるのか!? 4時間だぞ……!?」

 

「恋太郎やめろ、おれまでブーメランに巻き込まれてる。後頭部に貫通して突き刺さる勢いだから」

 

「あれって、もしかして……俺に渡すために探してくれているんだよな……」

 

「……そうだな。嘘かもしれない百発百中っていうおかしなおまじないを、それでも信じて探してるな。今日あったばかりの誰かさんのために」

 

 一階の窓から見える二人は、まさに一心不乱。おれ達が見ているのすら気づかずに夢中で必死になって探している。

 それが誰のためかだなんて、言うまでもないことだ。

 

 同じぐらい一心不乱ではないけど。見てたら居ても立ってもいられない性分なんだ、きっと。

 

 こういう時の隣にいるこいつも。

 

 

 

「春人、ちょっと行ってくる」

 

「待て」

 

 

 

 恋太郎が振り向く。呼び止められるとは思っていなかったのか、少し驚いていた。

 

「何しに行くつもりだ」

 

 問う。

 それはまるで意志を固めてやるための確認。

 

 

 

「飲み物を買ってくる。彼女達のために。俺のためのものなら協力しちゃいけないのは分かるけど、応援しちゃいけない理由にはならないから」

 

「……」

 

 愛城恋太郎は即答した。

 目の色が、いや目の奥の力がさっきとは全然違う。

 

 ああ、こりゃもうどうしようもねぇな。

 

 

 

「どうせ言っても止まらねぇんだろ?」

 

「うん。そうだね」

 

 

 

「~~~っ。……よしっ、じゃあ俺のも買ってこい。……確か奢るっつったしな」

 

 そういって五百円玉を恋太郎に投げつける。

 

 

「自販機の飲みもんがいくらか知らねぇけど」

 安いものなら百円で買えるはず。何本買うかなんて知らんが、欲しい数までは足りるだろ。

 

 

 

「余ったら財布にでも入れて好きに使え」

 お前のことだから、使い道なんて分かり切ってるが。

 

 

 

「ありがとう。行ってくる」

 

「行ってこい」

 

 開いていた窓に肘を乗せる。

 おれは恋に燃える男を見送ると、正面の女の子たちに目線を動かした。

 

 

 

(花園羽香里がいない……。さっきまでいたから、休憩でもしに行ったのか)

 

 ピンク髪の女子が確か花園さんだったから、今いるのはもう一人。

 

 

 

「院田唐音。残念ツンデレだったヤツだ」

 

 金髪のツインテールに猫のようなつり目。指しか見えないくらいの長い袖を着ていたり、ルーズソックスを履いていたりと今時のファッショナブルな印象を持つ。へんてこなツンの表現だったり、顔を赤くしながら目線を逸らす癖が鈍感なヤツでも気づくぐらい多く見られる。好きなヤツ相手だからかもしれないが。

 

 そういえば、この子はぶつかってから何かと顔を紅潮させていた覚えがある。

 

「恋のおまじないってのに食いつくぐらいだし、恋太郎への異様な執着……は、花園もだな。まさか一目惚れか? あの時のぶつかった一瞬で?……冗談だろ」

 

 しばらく思考に浸ろうとして、神様とやらが言っていたことを思い出す。

 

(ビビーンと、衝撃。……そんで俗にいう一目惚れになる。なら、あの時の三人の硬直が……そういうことなのか?)

 

 ただの一目惚れなら恋太郎だって、おれだってウェルカムだ。なんたって彼女が出来るんだからな。

 

 でも、問題は……きっと他にある。

 

 

 

 そうこうしているうちに、恋太郎が飲み物を持って院田のいる裏庭にくる。

 ここからだと、あまり小さな声は聞こえないかもしれないな。少し残念だ。

 

「私はただ急に催してきたから用が足せような場所を探してただけなんだからっ!!」

 

 

 

 ……近づかなくてよかった。頼むから爆弾発言だけを大声で叫ぶのはやめてほしい。

 

 

 

 恋太郎は少し花園のことを探し、院田に居場所を聞いていたが、「今だけいない」と分かると早速院田にジュースを渡していた。

 

「き……気持ち悪くて胃液から何から逆流しそうだけどもったいないから飲んであげるわよっ!」

「そこまで無理を強いるのはこちらとしても不本意なんだが!?」

 

 なにやってんだアイツら。

 傍から見ればいちゃついてるように見えるが、おれにはコントにしか見えないな。見てて飽きないけど。

 

 

 

「あの様子だと花園のためにも待つだろうし、さすがに何か飲みに行くか。喉は乾いたけど空気読まずにあそこに行くのも嫌だし、恋太郎には買わせて悪いが自販機行こうっと」

 

 廊下から恋太郎のいる裏庭を迂回するように自販機へ向かう。

 

 二台あるうちの右側は先客がいたので、左側の自販機で炭酸飲料を買ってすぐに飲み干す。

 のどを潤す炭酸の刺激がたまらない。

 

 一気飲みで満足したので、空の缶をゴミ箱へ捨てる。

 

「ん?」

「あっ」

 

 ゴンッ、っと中身のある缶が近くで落ちる。

 何も考えずに拾い、落とし主に渡そうとして、俺は動きを止めた。

 

 

 

 そこにいたのは。

 

 

 

「院田……さん、だよな」

 

「あんたは、愛城の隣にいた……?」

 

 

 

 隣の自販機を占領し、ほぼすべての飲み物を購入していた院田唐音だった。

 

「……あーっ、半分持とうか?」

 

 眉間にしわを寄せ、必死にこの言葉を絞り出したおれを褒めてくれ誰かっ。

 

「誰だっけ?」

「青井な!!」

 

 誰かーっ! 怒らないおれを褒めてーっ!

 

 

 

 

「その大量の水分は、もしかしなくても恋太郎に?」

 

「うぐっ、そ、そうよ! 悪いっ!?」

 

「悪かないさ。だがさすがに恋太郎のハラが水腹になっちまうなこりゃ」

 

「早く愛城の好きな飲み物を教えてくれればよかったじゃないっ!!」

 

 そういってへそを曲げる院田。

 

「おれが来た時には手遅れだったじゃないか。まぁそれでも、うん。あいつなら喜んでくれるかもな」

 

「そ、それ本当!?」

 

 

 

 飲み物がどう、とかよりは院田が買ってきてくれたことに喜びそうだが。

 

 

 

「もし喜んでくれなかったら……アンタを燃やしてもいいかしら?」

 

「あー、うん。……付き合ったら大分気が合いそうだよ。お前ら」

 

 どっかの神社と同じ運命を辿りそうだぜ、おれ。

 

「べ、別にあいつと付き合いたいとか思 「あーあーハイハイ。おれにはいらないからっ。恋太郎にぶっこんでやれよなそういうのはよっ!」

 

 

 

 そんな感じで缶ジュースの山を裏庭へ運んできたおれと院田。院田も心なしか変に興奮したりせずに道中リラックスしていたように思える。隣の男が好きな人ではないからか、多少気楽に構えることが出来ていたのかもしれない。 

 

 

 

 しかし、目の前の光景にそんな微かな余裕は一瞬で吹き飛ばされる。

 

 

 

「愛城君……っ。すっ、好きです……! 私と……付き合ってください……!」

 

 

 

 もし、目の前で。

 

 自分の好きな人が。

 

 別の異性に告白されていたのなら。

 

 

 

 おれなら、きっと。呆然と立ち尽くして何もできなくなることだろう。

 

 

 

「愛城くんに一目惚れをしてしまったみたいで……っ」

 

 それは、院田唐音も感じていたこと。

 

 

 

「それに……愛城君を好きなのは私だけじゃないみたいですし……」

 

 同様に、察してしまったこと。

 

 

 

「手遅れになってしまったら……一生後悔すると思って……っ」

 

 だから、おまじないにすら頼ろうとした。

 

 

 

 

 

      おれは、    その場から動けなくなった。

 

 

 

 なんでだろう。

 

 院田が缶を落とした、だとか。

 

 抜け駆けを言い争ったり、だとか。

 

 今更好きであることをツンデレで隠そう、だとか。

 

 

 

 そんなのは遠い夢のように、俺の心の中には入ってこなくて。

 

 隣には、もうさっきまでの素直ではない女子はいなくて。

 

「わっ……私も……っ」

 

 

 

「愛城のことが好きなの……っ、付き合ってください……!」

 

 

 

 我に返った後になってからようやく、自分の友人に究極の選択が訪れていることに気づいた。

 

 

 

「愛城君……っ」

「愛城……っ」

 

 

 

 

 

「私たちのどっちと付き合うんですか!?」

「私たちのどっちと付き合うのよ!?」

 

 恋太郎の答えを待つ彼女候補2人に。

 

 

 

 恋太郎は答えた。

 

 

 

 

 

「こ、答えはCMの後……っ」

 

「ぶっ飛ばされたいの!?」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、後半へ続くぅ……」

 

 恋太郎の情けないヘタレた震え声のなか、おれも小声でなけなしの冗談しか言うことが出来なかった。




青井春人。(名前はオリジナル)
愛城恋太郎と同じお花の蜜大学附属高等学校に入学することになった、一話の数ページで出番を無くしたアイツ。今作では同じ高校に入学したという世界線のもと、恋太郎の彼女関係に振り回されることに。
 彼女達よりも恋太郎の近くにいる所為か、原作よりも恋太郎が弱い部分を見せたりするなど恋愛モンスター要素が薄まる要因となっている。

 恋太郎などに対してそこそこの罵倒や手を出す事があるが本人の中での線引きはちゃんとあり、むしろ許されると分かってる仲の良い相手ほど酷く暴れる傾向がある。少なくとも傷つけるためだけの悪口や暴力は決してすることはない。

 良くも悪くも恋太郎の友人、と言える性格の持ち主として今作では描写される。
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