君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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 少し期間が開きましたが、構成の形が出来てきたのでまたゆっくりやっていきます。

 これからの100カノの流れが決まっていく大事な章。
 原作第二巻目突入でございます。

 春人がいる事でどの様に変わっていくか、ぜひお楽しみください。


青い春と栄逢凪乃

 たとえどんな体になろうとも、どんな心になろうとも。

 

 時は流れる。

 

 家族を亡くし、どれほどの絶望に塗れようと。

 友達が出来て、心に光が刺そうとも。

 

 時間は止まる事がないのだ。

 

 

 

 

 結局のところ、少し前まで猛威を奮ったおれの風邪は二日間程度で鳴りを潜めた。

 

 家に突撃された土曜日。全てが静かになった日曜日。

 

 折角の休みが爆散した事に憤りを覚えはしたものの、それ以降は特に変な病気に侵されることもなく、悪化することもなく。

 

 月曜日には変わらぬ姿……制服の下にいつもの青いパーカーを着て恋太郎たちの前に立つ事が出来た。

 

 その後もまぁ……大きなトラブルもなく、比較的平和に過ごせていたと思う。

 

 

 

 そして。

 気付けば高校最初のテストが間近になり。

 

 おれ達の全員がテスト勉強に時間を割く事を余儀なくされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルは本当にいいの?」

 

「いい、って。さっきからそう言ってんだからもういいだろうが。ほれ、みんなとやって来な」

 

 

 

 そう言って彼女達を含めた勉強会の話を断ったのが、つい最近。

 

 おれは家の中にある整理整頓が行き届いたリビングにて、一人でノートや教科書と睨めっこをする。

 

 時計の針は秒針しか動かない。

 そんな気さえした。

 

 

 

 そうして数分。

 

 

 

「やっぱめんどくせっ」

 

 

 

 つまらない文字列を見るのに飽きて……中学時代の教材を取り出す。

 

 それは中学校では購入する必要のない、規定とは違う本。しかし、教材と呼ぶには厚すぎる代物である。

 中身を開けば、情報の密度も桁違いである。馴染みやすいイラストやコラムはどこにも描かれていない。完全に学者向けに作られた教材だった。

 

 

 

 該当するページを互いに見比べて、独り言を漏らす。

 

「昔に叩き込んだ内容がテスト範囲だと、イマイチやる気が出ないもんだな」

 

 

 

 椅子の後ろにもたれながら、我ながら恋太郎達には見せないだろうなと思う顔をする。

 

 いつもの迷惑そうに眉間に皺が寄る顔とは似ても似つかない、虚無に近い無表情でテスト範囲を洗い出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 全てのテストが終わって数日後。

 テスト結果が発表された。

 

 生徒全員が貼り出された点数と順位を確かめ合う。

 この高校では解答用紙の返却とは前後する形で、ランキング形式の成績表を廊下に掲示する。わざわざすることでは無い事かも知れないが、納得出来ない順位や恥ずかしい成績の生徒を成績向上のために煽る意味合いもあるのだろう。

 

 日々多忙な教師陣を思えば、面倒な仕事だからと拒否しても良いと思うのだが……案外ここの高校にいる先生方は腐ってはおらず、出来る限り生徒達と真摯に向き合う姿勢があるらしい。

 

 

 

 見回せば、その効果は出ていると言えよう。

 

 一人は嬉しさに拳を握り。

 

 二人は点数を競い合い。

 

 一人は分かりやすく落ち込む。

 

 

 

 そんな阿鼻叫喚の景色の中、おれ達は同じクラスという事もあって5人で一緒に自分たちの結果を見に行くことになった。

 

 

 

「『貼り出されし試験結果』」

 

 好本と花園が恋太郎の腕に捕まりながら向かうのに対し。

 

 

 

「早く来なさいよ恋太郎!」

「後ろがつっかえてんぞー」

 

 おれと院田が前に出る形で歩いていた。

 

 

 

 正直なところ。

 みんなのテストの点数には結構興味がある。

 

 点数の良い悪いで仲間内の順位を付けたいワケではない。だが、今回のテストで知りたいのは自力でどこまで点数を取れるのか、というところである。

 

 今回だけは手伝わない。おれ自身のテスト結果もついでに確かめるためでもあるが、本命の目的のためには女の子達の学力を知るいい機会だからだ。

 

 仮に教える側におれが立つとしての話……学力の違いによって教え方というのは結構変わる。ただ闇雲に自分のやり方や知識を押し付けてもテストの内容が良くなった試しはないのだ。

 

 コレは昔からの教訓のようなもので、おれから見れば教わる前の成績というのは結構大事、マジで。自己申告されるよりも正確に読み取れる場合が経験として多い。

 

 

 

 簡単な話。

 おれは彼女らの成績アップに対してかなり積極的になる予定だ。

 

 当然だが、どんな生徒であろうと赤点を取れば追試になるだろう。だが、恋太郎の彼女になった以上はそんなことを見過ごすことは……いや、そんなに堅苦しい考え方じゃなくていいか。

 

 

 

 隣にいる友人としては、恋太郎と過ごす時間を無駄に減らすような事はさせたくない。うん、それが屈託の無いおれの本音だ。

 

 追試なんてただ空しいと思うだけのマイナスな結果しか残らないし、それを未然に防ぐための勉強を教えることに躊躇いもおれ自身が迷惑に感じる事も無い。

 

 つまり、次回からは手を出す気満々である。成績不良の親泣かせだろうと全体の5割は取らせるほどの気概は持っている。

 

 

 

 人間、イチャイチャしたいのならすればいいのだ。まぁ場所は多少弁えて欲しいとは思わなくもないけどね。

 

 でも、もし。

 したくても出来ない。恋太郎に焦がれて悶々となっていくコイツらを見て「なんかやってやれば良かったかなぁ」と謎の後悔をするよりかは、前のめりに協力した方が何倍もマシだというもの。

 

 後は……ついでにお礼の一言でも添えられりゃ、それだけでお釣りがくるくらいには十分だろ。

 

 

 

「あれは皆との写真や思い出が詰まってる命より大切な宝物なんだっ!!」

 

「うおいっ!? ……と、えっ、何事?」

 

 

 

 勝手に自分の思考の中に沈んでたのもあり、後ろにいる恋太郎達の会話に一切気付かなかった。

 そのために、急に聞こえた恋太郎の叫びに面食らってしまった。

 

 振り返ったら既に遅く、恋太郎は教室の方へ走って行ってしまった。

 

 

 

「どうした? 何しに行ったんだ?」

 

「「「……ほぇ」」」

 

「いや、腑抜けになってないで教えてくれ?」

 

「「「……」」」

 

 

 

 反応なし。仕方ないので耳元に近づいて大きめに叫んだ。

 

「おーいコラァ!」

 

「……っ!?」

「ひゃい!?」

「ぎゃあ! きゅ、急に叫ぶんじゃないわよっ!」

 

「相変わらず可愛い悲鳴を上げられねーもんだな院田。……んで? 恋太郎は何しに行ったんだ?」

 

「す、スマホよスマホっ! その……大切なものだからって取りに行っただけなんだからねっ!」

 

「わざわざ、今すぐ必要でもないのに? ……大切なのは百歩譲って理解したとして、そもそも盗むヤツなんかいねぇだろ。変に使っても先生に怒られるだけだし」

 

 

 

 なんなら、結果発表の後はすぐ教室に戻るだろうに。

 

 大切過ぎて肌身離さず持っていたかったとか? なら……まぁ分かる……か? うぅ〜ん。

 

 

 

「私達との思い出が沢山残ってるそうなので飛んで行っちゃいました」

 

「そうか……まぁいいや。んじゃ、先に恋太郎の名前も見つけに行くか」

 

 

 

 とりあえず深く考えるのはやめておく。

 アイツの事だ、すぐ戻ってくるだろ。

 

 

 

 万が一、スマホのトラブルに遭遇してたとしてもそれほど問題はない。例え合法だろうと違法だろうと恋太郎のスマホはいつでも位置が分かるように細工(本人容認済み)はしてるから盗まれても問題ないし、何かの間違いで壊れても修復及び復元のツテもある。

 

 そもそも、恋太郎はそこまでトラブルメーカーではない。

 空回りするほどの予防線やお節介は要らないだろう。

 

 恥ずかしい話、おれの方が厄介な事に巻き込まれる事が多いしな。

 

 

 

「『いざ行かん』」

 

「さて探すか。どうする? 上から見るか、下から見るか?」

 

「それとも横から見るか?」

 

「「……」」

 

 花園とおれの目が合う。

 

 

 

「掲示されてるのを見てるんだから、当たり前に横だろ」

 

「じゃあ上と下は?」

 

「はぁ? ……点数的な意味じゃなけりゃ天井張り付くか、床に這いつくばる……とか?」

 

「何言ってるんですか、上と下は当然成績順に決まってるじゃないですか。そんな物理的に考えちゃうなんておバカさんですねぇイダダダダダダァァァアアア顔面だけがスリムになってしまいますゥゥ!?!?」

 

「馬鹿話に乗っかった分際で梯子を外すんじゃねぇ」

 

 おれはアイアンクローで鉄槌を下した。

 

 

 

「そこのアホとピンク、さっさと探しなさいよ」

 

「おい、アホとピンク。言われてるぞ」

「私は二人もいないです。アホはどう考えても春人さんですよ」

「ピンクはいいのかよ」

「事実なので良いですよ、悪口でも無いですし」

 

 

 

「早く探しなさいアホピンクとアホブルー」

 

「わざわざアホをくっつけなくても良くないですか!?」

「ブルーはおれかよ!? まったく……ふぅ」

 

 

 

「オーケー、んじゃあ探そうかアホレッド」

「アホレッド、先導をお願いします」

 

「お前らしばくぞ」

 

 

 

 さて、弄りすぎると手が出るのでこの辺りにして。

 花園と遊んでたら怒られたので真面目に探す。

 

 とは言っても、間違い探しのように見つけづらいモノでもない。その気になればすぐに見つかるだろう。

 

「あっ、ここです! 見つけましたよー!」

 

「おっ、早速」

 

 

 

『25位 花園羽香里』

 

 

 

「ふっふーん」

 

「なんでこっち見てんのよっ!?」

 

「唐音さんはどうだったんですかぁ〜?」

 

「うぐっ……っ! わ、私はまだ見つけられてないけどまぁまぁよ!! きっとね!!」

 

「〝唐音さん〟〝ありました〟」

 

 

 

『87位 院田唐音』

 

 

 

「あれ〜? 大分下の方にいますねぇ〜? 唐音さーん?」

 

「ぬぎぎ……っ!」

 

「おっ、恋太郎もいるじゃん」

 

 

 

『88位 愛城恋太郎』

 

 

 

「……はんっ! 私の方が恋太郎と同じ価値観で生きていられてんのよっ!」

 

「その理屈はおかしいと思うぞ?」

 

 

 

「ぬぎぎ……っ! 恋太郎君と同じくらいになれるように点数を調整するべきでしたか……!」

 

「恋太郎中心過ぎて本末転倒にも程があるだろうが! 勉強、大事だぞ。……な?」

 

 

 

 あっさり3人を発見。

 意外にも花園が高得点で驚いたが、花園の実家は太いことを思い出せば確かに納得だ。きっとそれなりの英才教育は熱心に励んでいたのだろう。

 

 

「〝ようやっと見つけたぜぃ〟」

 

 

 

『44位 好本静』

 

 

 

「おっ、なかなか好成績。よくやったな好本」

 

 素直に喜んで頭を撫でてやる。

 そうするとニッコリ笑って嬉しそうな表情を浮かべてくれた。

 

 二人が少し羨ましそうな顔でこちらを見ている気がする。

 何故こっちを見る。好本を子供扱いするのが不服なのか?

 

 

 

「あれっ、春人は?」

 

「うん?」

 

「春人さんの成績がまだ見つかってないですよ。もしや大分後ろの方でしたか?」

 

「いや、実はもう見つかったぞ。ほらソッチ」

 

 

 

 そう言って、指を向けた。

 

 

 

『7位 青井春人』

 

 

 

「うっそ……」

 

「多少勉強はしてみたんだが……やっぱ完璧はしんどいな。ケアレスミスが目立っちまった」

 

「凄いじゃないですか!?」

 

「へ? うわっと、っと!」

 

 羽香里を皮切りに彼女達全員から一気に詰め寄られるとは思わず、反射的に顔を遠ざけた。

 

 

 

「頭良いなら言いなさいよ! てっきり勉強できないのにまた変に気を遣って勉強会来なかったのかと思ったじゃないっ!!」

 

「『よもや賢者であったか』」

 

「これなら、むしろ分からない所を教えてもらいたかったです! もしかして高校もここより良い所入れたかも知れなかったんじゃないですか!?」

 

「……まぁ確か、高校入試の結果なら学年次席だったとは聞いたが」

 

 

 

「「『次席ぃ!?」」』

 

 

 

 想像以上の声量に、ついにおれは耳を抑えた。

 うるさい。驚くのはわかるが、こんな至近距離で叫ぶ事ではないだろう。

 

「なんで言わないんですか!?」

 

「自慢するような事でもないからだ。そんな事よりも、実は……気になる名前があってな」

 

 

 

「気になってるって……まさか好きな子って事!?」

 

「順位が上の人達って事じゃないですか?」

 

「〝もしかして首席についてではなかろうか?〟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや……その、原作を見てくれりゃ分かるんだが……6位に後藤ひ●●って奴がいるんだけど、なんか……ホントによく分からんけどとてつもなくマズイ気がする。……大丈夫かコレ」

 

 

 

「安心して下さい、同姓同名です」

 

「ぼっちでロックな子じゃねぇのよ」

 

「『他作品とは一切関係はございません』」

 

 そうか……関係ないか。良かった。

 偶然だろうけどヒヤヒヤした。

 

 

 

 そんなこんなで、全員の順位が分かった。

 

 全学年を考えると意外と上澄みの方に固まっているおれ達。特に恋太郎がこの中で最下位となった結果には驚いたが、コレなら赤点回避のため無理に勉強させるなんて事にもならないだろう。

 恋太郎相手なら中学時代に色々教えた経験もある。余程のおバカさんがこの集団に加入しない限り、胃を痛める事にはならないようで安心した。

 

 

 

 ……いや、待て。

 

 

 

 このペースで彼女が増えてもらっても困るのだが。というか、そもそも増える事前提で考えている自分に頭が痛くなった。

 

 おれってもしかして、思ったよりもこのイカれた状況に毒されてる???

 

 

 

 少しして、恋太郎が急ぎ気味で帰ってきた。

 

 余程褒められたかったのか、彼女達は各々の成績を恋太郎に伝え……なでなでをおねだりしていた。

 恋太郎はイヤな顔ひとつせずに即座に手を高速で動かし、彼女達を癒していく。

 

 

 

 ……いやおかしい、お前の手どうなってんだ。残像が見えるくらい速いんだけど? 

 

 

 

「あの」

 

 恋太郎が彼女達……いや、視線の先にいるおれにも声をかけた。

 

「一位の栄逢さんって知ってる?」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「同じクラスの方でしたよね?」

 

 と、花園が言う。

 

「〝窓際で常に勉学に励む姿を〟」

 

 と、好本は記憶を辿る。

 

「ああ……私は話した事ないけど、なんか噂じゃ……」

 

 と、院田は続ける。

 

 

 

「正体はAIって説があるだとか」

 

「都市伝説かよ!」

 

 …………。

 

 

 

「なんだなんだ? ソイツとトラブルでも引き起こしたか?」

 

「いや、そういうんじゃないけど……さっき少し会話しててさ。気になっちゃったんだ」

 

「……。ふーん、そっか」

 

 教室へ戻る集団の後ろから、生徒にぶつからないように机に戻る。

 

 成績の確認は終わった。またいつも通りの授業が始まる。

 

 ふと、おれは振り返った。

 

 

 

『1位 栄逢凪乃』

 

 全教科満点を取った秀才。おれ達の学年トップ。つまり首席。

 

 おれに唯一、成績を上回って受験に成功した女性。

 

 おれにだって、そのくらいは知っている。

 

 だけども。

 

「…………」

 

 

 

 今までとは違うタイプの女性に対し、少しばかり思案する。

 

 恋太郎なら変な選り好みはしないだろうと高をくくっているが、どちらかというと今までの女の子達は積極的だった。

 

「…………っ? なんだろうな……?」

 

 ただタイプが違うだけ。

 普段を見る限り、栄逢凪乃はあからさまに他人を近づけない。そういう接し方だ。

 

 良い悪いという話ではなく、それがひとつの個性のようなもの。

 

 だからだろうか。

 おれは喉の小骨が刺さったかのような違和感が拭いきれない。

 

 

 

 しかし、この違和感は傍迷惑な友人達の所為で忘れていってしまった。相変わらずこの集団は飽きることがなく、ちょっとしたイベントには事欠かないためだ。

 

 そう。

 

 思い出したのは。

 

 

 

 彼女だ、と屋上で伝えられてからだった。

 

 

 

 

 

「という次第でございまして、栄逢凪乃さんを彼女として迎え入れてよろしいでしょうか」

 

「なんかそんな気はしてた」

 

 呆れ過ぎて頭を痛める事すら無くなったわコノ野郎。

 

 

 

 

 

 もはや諦めたような顔で見てくるおれに、恋太郎はただでさえ固い表情がさらに固まった。汗もダラダラと流している。

 

「な、なんで分かったの?」

 

「おれらぐらいしか学校終わりに屋上くるヤツはいねぇだろうが!」

 

 即答である。

 

「ずっとおれの後ろで歩いてたし」

「階段まで一緒だし」

「目も合った」

「言葉のやりとりもしたし」

「なんなら『私は愛城恋太郎の彼女』だと目の前で言われたわ!」

 

 

 

「なら、そんな気がしても仕方ねぇだろが!!」

「そこまで証拠揃ってんならハッキリ言い切りなさいよ」

 

 麻雀でいえば数え役満というヤツだ。

 もう紛れもなく彼女である。

 

 とは言え。

 

 好本の時とは比べ、彼女達の反応は思ったよりも肯定的。

 好印象とまではいかないようだが、当然。

 

 おれ達みんなにとってはクラスメイトであっても、栄逢の人となりを知っているヤツはここにはいないのだから。

 

 というより、学校中の誰も分からない。

 

 彼女の態度、仕草、視線。その全てが他人を排斥していたから。

 声を掛けた事や他生徒が声を掛ける姿を見た事くらいはある。それでも栄逢は一言二言で会話を断ち切っていた。

 

 だから、何故そんなヤツが恋太郎の彼女になったのか分からない。

 

 

 

 恋太郎に惹かれた理由。

 栄逢は恐らく、自分の価値観が揺らぐような変化を恋太郎が与えたのかも知れない。

 

 人との壁を作っていた人間が、人との関わりに興味を持ち。

 恋太郎の彼女となった。

 

 恋太郎が何かのキッカケになったと仮定すれば、納得できるかも知れない。

 

 もしそうならば、本当に直近の話だろう。おれが把握できていなかったのも理解できる。

 紹介した時に恋太郎はデートをしたと言っていた。タイミングとしては……間違いないだろうな。

 

 

 

 そう考えていると、彼女達がそれぞれの意見を述べていた。

 

「もう二回目だし大して驚かないわよっ! 好きにすればいいでしょっ!」

「私をフらずにいてくださるのであれば、それ以上の幸せはありませんから……!」

「『我自身、追加戦士の身故、異論などない』」

「断る」

 

 ほとんどの彼女は栄逢を認めたようだ。

 

 まぁそうだろう。変に拒否する理由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、一人だけバッサリ切ったヤツがいる。

 誰だ、空気の読めないヤツは……。

 

 

 

 辺りを見渡すと、違和感が膨らんでいく。

 

 

 

 全員がこちらを見ていた。

 

 

 

 おれを、見ていた。

 

 

 

「…………はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 おれは。

 

 おれ自身が栄逢凪乃を拒絶したことを。

 

 今、知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、おれには拒否する理由があったようだ。

 

 栄逢はとりあえず保留。

 

 恋太郎はおれを責める事は一切言わず、彼女達も困惑を隠せない。

 

 

 

 何故なら、おれでさえ拒否した理由が分かっていないのだから。

 

 

 

 そんなおれは屋上で這いつくばり、足をバタつかせながらもがいている。

 

 仮に栄逢に拒否した理由を乞われても、おれは回答を用意出来ていないのだ。この無責任な発言を放置してしまえば、ただなんとなくで認められないと言われた……そう思われかねない。

 

 違和感自体は、いつかの頃から正直……あった。

 恋太郎が栄逢と会って会話した時ぐらいの頃合いだったはず。

 

 だが、肝心の違和感の正体が分からないのだ。引っかかりはするのに掴み取れない。

 

 

 

 それでいて、栄逢が彼女になる事をおれの理性は認めているのだ。

 

 

 

「ぬぐぐ……! 彼女にはなってもいいはずなんだ。栄逢は。それはそうなんだけど、おれはどこで栄逢を阻むと決めたのかがさっぱり分からない!」

 

「彼女にはなっていい? どういう事、ハル?」

 

「聞きたいのは承知の上だが、それが思い当たらんからおれはミミズみてぇな動きをしてるんだろうが!」

 

 思わず叫んだ。

 

「個人の印象としては彼女のポテンシャルは認めている。それなのに恋太郎相手だと二の足を踏む理由がおれの中にあるはずなのに、それを決定づける何かが分からん。あー! 気持ち悪いっ!! モヤっとして離れん!!」

 

「拒否した人間の反応じゃないよそれは」

 

「こうしたら答えが出るかー!?」

 

「ブリッジしても無理だよ」

 

 

 

 恋太郎も隣にいるが、表情が固い。

 内心ではおれが思ってもない反応だった事でショックを受けているのだろう。

 

「とりあえず、羽香里がみんなでデートに行きたいって言ってる。凪乃も行く気だけれど……ハルは行く気ないよね」

 

 おれは座り直して恋太郎の正面に向く。

 

「当たり前だろ。この気まずい空気を作ったのは間違いなくおれだし……少なくとも、おれの感じてるモノはお前と栄逢の相性が悪いだとか、後々大変な事態を引き起こすような危険性みたいなのとは違うものだ……と思う。全然おれ抜きで楽しんでもらって結構だぜ」

 

「……これからどうするの?」

 

「しばらく一人で考えてみる。一歩離れた方が客観的に見れるかもしれない」

 

 そう言って屋上から下に降りる扉へ向かっていく。

 

 

 

 ドアノブを掴む。

 振り返ると、全員がこちらを見ていた。

 

 各々が心配そうに見ている。

 唯一、栄逢の表情は変わっていない様に見えたが……おれの言葉に対して恨んでる様子には見えなかったのが印象的だった。

 

「すぐ、戻ってこいよ」

 

 恋太郎が呟いた。

 いつもの物腰の柔らかさとは違う、気心を知っている口調におれは口角を上げて返す。

 

「当然」

 

 そうしておれこと青井春人は、頭を冷やすために恋太郎達からしばらく離れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 校門を出てすぐ、携帯電話が鳴る。

 

 それと同時に車が目の前に止まった。

 

 車の中から出て来たのは……。

 

 

 

 ポケットからも着信が鳴る。電話だ。

 

「お久しぶりです。青井様」

 

「銘戸……芽衣さん」

 

「……そちら、お携帯様が鳴っておられます。お先にどうぞ」

 

 スマホの画面には『ばぁちゃん』からの連絡。

 

「……もしもし」

 

『やぁ、あんたの大好きなばぁちゃんだよ。三点、連絡事項がある』

 

「なんだよ」

 

 

 

『ひとつ、花園家からの車が出ている。目的地はあんたのところさね』

 

「今、目の前にいるよ」

 

『……懸念している事ではないらしいよ。安心しな。だが、そこの義母があんたに用事があるらしい』

 

「やめてくれ、そういう間柄じゃない」

 

 

 

『ふたつ、あんたのところの学校に不穏な噂が出始めている。今度詳しく話すよ。最悪、あんたに動いてもらった方が都合が良いかもね』

 

「なんでおれだよ」

 

『恋太郎のボウズ共も巻き込まれる可能性があるからねぇ。気にならないなら別に好きにしてくれていいよ』

 

「分かった、後で聞く。それで最後は?」

 

 

 

『アレの使用期限は確認したかい? そろそろマズイ時期だ、服用してないなら新しくする必要があるよ』

 

「……」

 

『話を付けて薬膳とこの孫娘が対応してくれることになったから、古いものの処分と補充を済ませな。ついでに実験の仕事も任せたいようだね』

 

「マジかよ……親父さんの方に対応してもらった方が良いんだけど……。楠莉の姐さんと喋ると100%親父さんが睨み利かせてくるんだぜ?」

 

『今積極的に新薬作ってるのは孫娘の方だからねぇ。文句は本人に言いな』

 

「言えるわけないだろうに。それしても親父さん睨んでくるじゃねぇか……」

 

『それじゃ精々頑張んな。少なくとも、あんたが頼んだから情報を提供してやってるだけだからね。あんたのやりたい様にしな』

 

 

 

 それを最後に、通話が終了した。

 

 

 

 大きく息を吐いて、銘戸さんに向き直る。

 

「失礼しました。用件をお伺いしても?」

 

「はい、羽々里様が是非お会いしたいとの事です。お時間様はございますか?」

 

 

 

「問題ないですよ。すぐにでも」

 

 何故こんな急に忙しくなるのだろうか。

 そう思いながらも促されるままに車へ乗り込む。

 

 

 

 花園。

 

 栄逢。

 

 そして不穏な噂と、薬膳。

 

 

 

 大きな波乱はうねりを上げ、自分を中心に動いている気がした。




原作第6話、7話完結。

副題「霧中の拒絶」踏破。

次回もお楽しみに。
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