君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

13 / 24
青井春人は地を駆ける

 目が覚めたのは、おれの家とは似ても似つかない豪華な部屋だった。

 

 おれは一旦瞼を閉じて状況を整理する。

 

 

 

 一瞬見えた窓の外に見えた暗い空、僅かに香る花の匂い、人肌の温もりを感じる寝具、そして騒音にもならないほど小さな身支度の音。

 

 ここは花園邸で、おそらく間違いない。

 

 

 

 (なるほど。気を失ってたのか、おれは)

 

 おそらくは眠っていた訳ではなさそうだ。そう分かるくらいには体の節々から痛みを感じる。

 

 花園家総出でボコボコにされたところで意識は途切れている。

 

 

 

 ゆっくりと上体を起こす。

 正面を見れば、黒髪の女性が背を向けていた。

 

 肩より長い髪を梳かしているその姿は、まるで女神か何かの朝支度みたいだ。一瞬で見惚れてしまうような儚い美しさを感じた。

 

 

 

 銘戸芽衣が椅子に座り、化粧台の前で身支度を整えていた。

 

 

 

「……起こしてしまいましたか?」

 

「あ、いや……大丈夫です。おれの事は気にしなくていいっす」

 

「そうですか」

 

 そういうと銘戸さんは鏡へ向き直り、髪留めを付ける。

 近くの時計を探せば、時刻は五時もまだ回っていない。銘戸さんは相当朝早くから準備して動こうとしていたらしい。

 

 おれにはそれがメイドとしての習慣なのか、銘戸さんが個人で行っている習慣なのかは判断がつかない。しかし、どちらにせよ相当過酷と思われる仕事を顔色ひとつ変えずにこなす彼女は相当すごい人だ。

 

 おれにはメイドはとても務まりそうにないな。

 

 上に付き従う在り方には敬意を覚えるし、とても見習えないくらい大きなものだ。ただの高校生には真似できん。

 

 

 

「えっと、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

「ところでここは?」

 

「私めの部屋でございます。気を失っておられたので、失礼ながらお世話をさせてもらっておりました」

 

「そうか……なら、早速だけど一つだけ聞きたいんだけどさ」

 

 そう言って、おれは肌の感覚を確かめるように掛け布団をめくった。

 

 

 

 

 

「なんでおれはパンツすら履いてねぇスッポンポンで寝かされてるんだ?」

 

 

 

 

 

「……」

 

「オイコラ、どうせあの花園親子がなんかしたんだろ。正直に言え」

 

 

 

「よく見てください」

 

「あ?」

 

 そう言われて、ベッドの中を確認する。

 

 

 

「………………お靴下様は無事です」

 

「じゃあそれ以外は無事じゃねぇってことじゃん!!」

 

 銘戸さんに当たり散らす事ではないが、気を失ってた間に相当の事があったのは確実のようだ。

 

 ……うそやろ。

 

 

 

 こんな目に遭ったのは羽々里さんを半裸にしてしまった自分の自業自得とはいえ、何をされたか一切分からないのがマジで怖い。……待て、服がダメになるって本当に何があったんだよ!?

 

 あとなんで全裸に靴下だけ履かされてんの!? 逆に気持ち悪いわ!!

 

 

 

「クリーニングに出させていただきますので、今日はこちらでご用意したお制服様でご登校してもらえますでしょうか」

 

「それはもう仮に拒否してもどうしようもないもんな。それでいいっすよ、もう。本当なら今すぐにでも返して欲しいのは当然だけども」

 

「かしこまりました、ではすぐに代わりの制服をご用意致します」

 

 そういうと銘戸さんが身支度を途中で切り上げ、寝間着のまま動き始めた。

 

 

 

 銘戸さんの身につけている寝間着はヒラヒラとしていて緩やかな印象のものだ。滑らかな生地に見えるし、大人っぽい色香を感じさせる。

 

 以前、悪夢で見た好本も似たような感じの服装ではあったが……アレとは透明度が全然違うな。向こうは輪郭どころか下手すれば肌の色さえ見えかねない薄さだったのに対し、銘戸さんのは安心出来る生地の厚さだ。

 

 

 

 ……いや、不味い。

 

 悪夢はさっさと忘れなければ。

 罪悪感に居た堪れなさ過ぎるあまり自滅しかねん。

 

 

 

「銘戸さん、もう一ついいか?」

 

「いかがなされました?」

 

 ほぼ反射的に銘戸さんを止め、言いそびれていた要求を伝える。

 

 

 

「制服の下の……青いパーカー。あれだけは……凄く大事なものなんですよ」

 

 

 

 それだけは他とは違う、思い出があるというか……替えの効かない服。

 

 入学初日に恋太郎と草だらけにしたが、あの時も1時間ほど丹念に手洗いしてから洗濯機で洗う程には、自分なりに大事にしていた。

 

 中学の終わりから着始めた物ではあるけど、アイデンティティにも似た『おれ』らしさの象徴。

 

 

 

「クリーニングのやり方とかは別に良いんだが、それだけは他よりも出来るだけ優先して早く返して欲しいんだ」

 

「かしこまりました」

 

 銘戸さんの即答する受け答えにはまだ慣れないな、と思いつつも。

 メイドという仕事人であるからこそ、これほどの安心感も中々ないなと少し笑った。

 

 

 

 ……ん?

 

 

 少し考える。

 ここは銘戸さんの部屋で、銘戸さんも寝間着を着てたから多分寝ていて、おれは銘戸さんによってベッドに寝かせてもらってて……。

 

 

 

 待て、銘戸さんはどこで寝てたんだ???

 

 

 

 近くで寝てたのかな、と周りを見回してもそれらしい寝具や形跡はない。世話と言ってもずっと徹夜でやってもらったわけでもないだろう。

 

 

 

 

 

 なら、同じベッドで寝てた……?

 

 

 

 他にこの部屋で安眠できる場所もない。

 

 

 

 

 

 いや、そんなわけないな。うん。ないない。おれほぼ全裸だったし。

 

 きっと、その辺りの椅子にでも座って眠っていたんだろう。済まないことをさせてしまったな。

 

 ……念の為、隣にいたかもしれない場所のシーツ周りを触る。

 

 もしも、と。

 流石にないだろうと思っていても魔は刺してしまう。

 つい触れてしまった。

 

 しかし手に感じるその冷たさは、手遅れであることを告げるかのように何も分からなかった。

 

 

 

 きっと気のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……無感情の中に潜む、淀んだナニか。

 

 そんなものを銘戸さんから感じてしまったなんて。きっと気のせいなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャツの上から、制服の上着に袖を通す。

 

 普段、間にあった青いパーカーが無い自分の姿は、いつもとは違う自分になったみたいで違和感をかなり感じる。

 

 平々凡々というか……まるで繋がりが薄くなるような、恋太郎や四人と距離が離れた感覚になる。

 

 

 

 流石に気のせいだとは思うのだけども。

 それでも鏡に写る新品の学生服姿を見ると、まるで別人になったみたいだ。

 

 

 

「それじゃ、行きますね」

 

 

 

 まだ暗いのも関係なしに、正面門の庭に出る。

 

 ここに来た時の最低限の貴重品を受け取り、鞄を背負った。

 

 

 

 ここに見送りに来たのはメイドの正装に身を包んだ銘戸さん一人だけだ。

 

 

 

「よろしいのですか? 羽々里様や羽香里様にお会いにならなくて」

 

「ふっ、何時だと思ってるんすか。わざわざ起こしてまですることでもないでしょう。おれは学校よりも先に家に戻って、準備しないといけないし」

 

 

 

 

 

 一拍置いて、告げる。

 

「それに、あんなことしでかして……そんで多分、しでかされて。お互いまともに顔合わせられると思います? 時間ガ。欲シイ。切実ニ……!」

 

「ふふっ、確かにそうかもしれませんね」

 

「……酒も飲んでないのにまるで泥酔したみたいな気分っすよ。まったくもうお恥ずかしい限りってヤツで」

 

 

 

 静かに笑い合う。

 

 

 

「……って、ん? 今、笑いました?」

 

「え?」

 

「あぁすいません、その……あなたの笑った顔、初めて見たから」

 

 

 

 そう言ったものの。やがて自分の言ったことに居た堪れなくなり。

 

 挨拶を一言、おれは逃げるように去ってしまった。

 

 

 

 銘戸さんも俯いていたし、きっと赤面していたことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 この心の締め付けは居心地の悪さというには……つららのように冷たく鋭いものを突き付けられたかのような悪感情に感じたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝の爽やかな風が肌を撫でていく。

 

 春人はやや駆け足気味に自分の家と歩を進めていた。

 

 

 

 それにしたって随分とひどい経験をしたもんだ。

 

 

 

 結局、気を失った後に何をされたのか必ず聞いてやりたいところではあるが、聞いたら聞いたでトラウマ級の破壊力があるような気がして。

 

 うん。めちゃコワイ。

 

 

 

 

 

 今は情けなく、そそくさと逃げるように帰ってきている。

 

 案外、おれは臆病なのかも。今は真実を突き止めるよりも忘れたい。

 

 

 

「ん? あれは?」

 

 

 

 見かけたのは男女の集団。一人の女性に二人の男が言い寄っている様子だ。

 会話は聞こえないが……見れば分かる、あからさまに不穏だ。

 

 

 

 それになんというか、三人組にしては、女性と男達との差というか……『格』が違う。

 

 

 

 男連中は深夜まで遊んできたかのような輩で……つまりは分かりやすいチンピラだ。ピアスなんかもつけているし、女性に向けている目線も下卑た目をしている。

 

 対して女性の方は服装こそジャージに大きなショルダーバッグとまったく洒落てこそいないが、顔や髪を見るだけで相当な努力が伺えるほどの美人だった。顔は美白で輝いているし、髪はとても透き通っている。相応の格式高いパーティーに呼ばれようと見劣りしないレベルだ。バイトをする学生には到底見えない。

 

 

 

 何が言いたいかと言うと、とても釣り合わない組み合わせだという事。

 

 

 

 加えて、女性が男達に対して迷惑そうにしているなら。

 

 

 

(マジでおれ、厄介事には首突っ込むことに関してはレンの事言えないかも)

 

 なんて、そんな事を思いながら。

 

 

 

「うぃっす先輩、こんなトコで何してんすか?」

 

 いざ突撃。

 こんなトラブルは割と慣れている。さっさと輩には退場願おう。

 

 

 

「あ?」

「えっ?」

 

 声をかけ、速やかに女性の手を取って歩き出す。女性にはかなり驚いた顔をされたが、すぐに理解を示したようだ。

 

 ついでにカバンに入っている新聞の束を確認した。なるほど。なんの仕事かは理解した。

 

 

 

「今日、部活の朝練あるの忘れてませんか? 新聞配達のほどほどにしないと体壊しますよ。さぁ、なんならおれも手伝いましょうか?……」

 

「おい、待てよテメェ」

 

「おっと、えー、どちら様?」

 

 通り過ぎようとしたところで肩を掴まれる。

 

 

 

 呆気にとられてた不良たちが我に返ったらしい。邪魔が入って顔を赤くしていた。当然、怒りの顔色だ。

 

 

 

「何、人様の女を奪ってんだ、あぁ?」

 

「ふざけてんのかコラ、オイ」

 

 

 

「……らしいっすけど。実際どうなんすかセンパイ」

 

「貴方達の殿方になった覚えは……一切っ、ありませんわ」

 

 女性の方を見ると、綺麗に一刀両断してくれた。いやぁ、意思疎通が取れて助かる。やっぱりお節介を焼いて正解だったか。

 

 ……そう言えばこの人、学校で見覚えがあるな。なんなら廊下ですれ違った事もある気がする。

 

 

 

「という事なんで、迷惑だからナンパなら帰ってください。あんたのだろうがそうじゃなかろうが知ったこっちゃないが……言わせてもらえりゃ、今のアンタらの行動は嫌われる要素しかないぜ。こんなに早い時間の……しかも仕事してる女性だと分かってんのに絡んでくるのは落第レベルの論外、少しは思いやりや空気を読む大事さを学ぶことを薦める」

 

「んだとコラァ!?」

 

 

 

 おれの煽りにかなり激昂したのか、一人は叫ぶ。

 

 そして肩を掴んでるもう一人は無言で、凄い形相のまま拳を振りぬいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぐぅぇ……」

 

 しかし、呻き声を上げたのは殴りかかった不良の方だ。

 

 

 おれの顔面を狙ったパンチは手の平で難なく受け止め。

 次の攻撃が来る前に不良の腹を抉っただけだけど。

 

 

 

 しかしコイツのパンチは大振りが過ぎる。わざわざ振りかぶった後から動いたのに難なく防げたし……。この弱さならおめおめ顔に当てさせてやる事も出来ないな。

 

 もう分かる。コイツらはケンカなんてまともにやってない連中だな。所詮おっかないのは見た目だけか。

 

 

 

「はぁ……まだやるか?」

 

 ため息混じりの声が出た。

 

 

 

 うずくまった不良は何も答えず……いや、何も答えられない。

 

 片割れの不良は声さえ張り上げれば普通の人は怯えるとでも思ってたのだろう。反撃一発で沈んだ仲間を見て明らかに怯えている。

 

 

 

 おれがこいつらを見る目はもう、自分でもわかるくらい冷淡なものになっていた。

 

「すまないが疲れててな。一思いに病院送りさせられなくて悪いね。……おい、ついでにお前も黙らせてほしいならオマケにノドかアゴにぶち込んでやるが? どうだ?」

 

「い、いや!? い、いりません! 本当に!!」

 

「そっか、じゃあ消えてくれ。あと、今日と同じようなことまた繰り返すならその時はちゃんとぶちのめしに行くからな。もうやめとけよ」

 

「ひ、ひぃっ」

 

 

 

 倒れた仲間の不良を運ぶこともせずに、もう一人は逃げていった。

 

 仲間すら助けないのか最近の不良ってやつは。優しさすらロクにないな。

 

 

 

「すまん、助けて欲しそうな顔してたから助けたけどよ。迷惑だったか?」

 

 助けた女性に向き直る。

 

 

 

「そんなヒロアカみたいな理由で助けましたの? ……でも、助かりましたわ。こんなに美しいと不埒な方も引き寄せてしまうようで」

 

「美意識っつーか自意識っつーかなんというか。とりあえず変な奴らを引き寄せる自覚があって何よりだよ」

 

 

 

 帽子のつばでイマイチ表情が見えないが、助かったのなら良かった。礼を言われるなんて最近じゃあほとんど無かったしな。

 

 

 

「じゃあ、おれはこれで。お元気で」

 

「お待ちくださいな! 何かお礼を……」

 

「気にしないでいいんで。勝手にやった事だし」

 

 

 

「あ、そうだ。新聞は読まれますの?」

 

「それはただの勧誘やんけ。いやおれ新聞取ってないし、断ってるし。悪いが要らねぇす」

 

 

 

「ならせめてお名前を伺ってもよろしいかしら?」

 

「……青井春人」

 

「春人さん……ええ、覚えましたわ! 私は美杉美々美と申しますの。今度お礼に伺わせてもらいますわね」

 

「名前に『美』がちょっと多いな……まぁ、またどこかで会えたら」

 

「それではご機嫌よう!」

 

 

 

 そう言って、美杉さんは走って行った。

 

 キャラが……強いな。すごい濃かった。

 

 

 

 ……また会うことになるのかね。ほんの少しだけ気が重たくなってしまった。あんな人と合う話題が想像つかない。

 

 

 

 

 

 

 

 美杉さんが去ったと同時に携帯が鳴る。

 

 携帯を開けば『朝日のばぁちゃん』の文字が映った。

 

 

 

「……もしもし」

 

『ようガキンチョ。昨夜はお楽しみだったかい?』

 

 この様子さては……大体の経緯は把握済みのようだな。

 本当に、良い性格をしているババァだ。煽ってきてやがる。

 

 

 

「冗談で言ってんならその口を縫い合わせたい気分だ」

 

『ふんっ、アタシより裁縫が上手くなってからほざくんだね。今、花園邸を出たところだね。時間はあるかい?』

 

「ああ、問題ねぇ。昨日連絡したかったことか?」

 

 

 

 

 

『その通りだよ。……世間にはまだ公にはなってないが、女子高生への被害が最近出始めていてね。その原因を探って欲しい』

 

 

 

 

 おれは顔を顰めた。

 

 

 

「女子高生の被害? なら警察の仕事じゃないのか?」

 

『ただの暴力沙汰じゃないのが厄介でね。女の子は全員、何をされたのか分かっていないのさ』

 

「はぁ?」

 

 

 

『被害者は3人。3人ともあんたのとこの生徒さね。全員が立ちっぱなしの放心状態で見つかっている。誰に会って、何をされたのか。また、何処でやられたのかも全く分かっていないのさ。大して暴行を受けた訳でも盗難された訳でもない。だから女の子達は気味悪がっても通報までは行っていない。そういう事件さ』

 

 

 

 頭の中で朝日のばぁちゃんに聞く事を整理しながら、家に向かって歩く。

 

 空は既に明るくなっている。

 

 

 

「情報源は?」

 

『監視カメラのハッキング。アタシが情報源さね』

 

「……そのシュミやめろよな。プライベートも何もあったもんじゃねぇ」

 

『最近、目が悪くてね。アンタの友人なんてそうそう見分けつかないんだよ。だから同じ制服を覗いてたら、たまたま不審なバカを見つけたのさ』

 

「捕まっても知らねぇぞ」

 

『そんなヘマしないさね』

 

 

 

『とにかく、運悪く犯人の顔は分からなかった。画角が足りなかったり、データ自動消去の関係で過去に遡れなかったりでね。でも犯人は男で制服もお花の蜜大学付属高校の物だったのは確定さ』

 

「おれらの目的は?」

 

『意図的に行われているのは確実だから……放心状態にさせている何かの正体を探って、場合によっては破壊することさね。なんであれ人を無抵抗に出来る道具なんてどう悪用されるか分かったもんじゃない。犯人の方は金輪際やらせない事を最低限誓わせればいいが、アンタの友達に手を出したならアンタに一任するよ。好きにしな』

 

 

 

「ようするに?」

 

『街が荒れる前にぶちのめしな』

 

「なるほど、話が簡潔でいいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 随時追加情報を寄越してくれるように、と朝日のばぁちゃんとの約束を取り付けて置き、登校の準備をする。

 

 いつもの連中に『一緒に登校できない』と連絡しようか迷って……やめた。

 

 

 

 恋人でもないし、そこまでするような間柄でもないか。

 

 さらに言えば、栄逢がそこに加わるのなら、以前の放ってしまった拒否発言に対して筋を通さなければならない。

 

 

 

 彼女に対しての答えはまだ見つかっていないから、あまり面と向かい合うことは避けたい。非礼を詫びるには言葉が足りなさすぎる。

 

 

 

 一旦、自分一人での行動を続けよう。

 そう決めると玄関のドアノブを掴み、開けた。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 ちょっとだけ。花園がスタンバってるか警戒してしまったおれは悪くないよな?

 

 あいつならやりかねないな。今回はいなかったけども。

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、学校には部活動の朝練をする生徒が多くいる。

 

 そのほとんどが運動部ではあるものの、文化部も活発な時は朝から集合して活動するらしい。意外かどうか、中々に部活動全体の活気が大きく漲っている学校だ。

 

 残念ながら実績は伴っていないが。

 

 でも、もしかしたらおれたちの世代で活躍できる人が現れるかもしれない。出来ることなら、在学中に決勝進出だのなんだのと書かれた垂れ幕でもお目にかかりたいものだ。

 

 

 

「まずは聞き込み……というか被害者探しか。今回の場合は被害者自身もよく分かってない事態になっている分、証言よりかは何かしらの共通点探しを優先した方がいいか」

 

 おそらくは被害者を発見して聞き込んだとしても、本人たちが覚えていなければ成果は無いに等しい。それならば、被害者の特徴を探して犯人像を狭めていく。

 

 例えば、目覚めた場所で照らし合わせれば大まかな活動地域なら浮かび上がる。身体的特徴が一致していれば犯人は選り好みして襲っている変態になる、という具合だ。

 

 

 

 現状の共通点は、この学校にいる女子生徒が狙われているということ。

 

 犯人の特徴は、この学校の男子生徒であるというだけ。

 

 

 

 これだけだと流石に材料が少なすぎる。

 

 今は手あたり次第に聞きまわるしかないな。犯人がまた次もやると分かればパトロールなり警戒することも出来るんだが。

 

 

 

「運動場には……人が少ないな。陸上部とかはいると思ったが、今日は屋内の部活しかやってないか……。ん? おっ、野球部員いるじゃん」

 

「……16331……16332……16333……」

 

「まずい、一心不乱に素振りしてやがる。あれは多分邪魔しないほうがいいヤツだ。……てか回数おかしいだろ数値バグってんのか?」

 

「えっ? なに!? まさか入部希望ですか!?」

 

 マズイ、絡まれたっ。

 

 

 

「違う。聞きたいことがあっただけだ。というか、ここ何部だよ?」

 

「女子野球部です!」

 

「性別で弾かれてるじゃねぇかおれ。入りたくても入れねぇよ」

 

 

 

「入りたいんだね!?」

「違う、入らない!!」

「大丈夫かもしれないよ。最近はトランスジェンダーってものがあって……」

「待て!? その話は不用意に触れるとマジでややこしくなる!! 金輪際二度と口にするな!!?」

 

 話を聞け。頼むから。

 

 

 

「せめて、バットを僕のお尻に思いっきり……」

 

「悪い、用事を思い出した。またな」

 

「あっ! 待ってよ、一発だけで良いから!」

 

「逃げろォ! こんなところに居られるか、おれは教室に帰らせてもらうッ」

 

「待ってー……ッ!? ああ♡ こんな時に筋肉痛が……!」

 

 

 

 上手く、撒いたようだ。

 割と早い段階で後ろにヤツはいなかったが……まったく、生身の人間に対してホラーを感じたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、なにそれ?」

 

 運動場から離れて、教室には向かわずプールサイドへ。

 

 人懐っこそうな女子水泳部の部員に声をかけて、その目的を話してみた。

 

 

 

「放心だけしてるの? ぼーっと? ありえないよ。その犯人、流石に何かしてるでしょ」

 

「確かにそれはおかしいんだよな。目的が読めないのは分からんポイントだが、とにかくその矛先がおれの女友達に来たら冗談じゃねぇって感じなんだよ」

 

「なるほどねぇ。確かに怖いけどそんな不審者は聞いたことないや」

 

「じゃあ被害にあった方は? 誰かがなんか変な経験したとか、聞いてないか?」

 

「それなら友達の中にいるかも? 他の部員に話を通してもいいけど……」

 

「なんだ? 条件でもあるのか?」

 

「うん、どうせならちょっと協力してくれる?」

 

 

 

 

 

 時間が経つ事、数分。

 

 おれはプールの飛び込み台に片足を乗せていた。

 

 そして肩から制服を握りしめ、一気に脱ぎ捨てる。

 

 

 

「「「キャアアアアア!!!」」」

 

 

 

「何あの筋肉……!!」

「が、眼福ですわー!」

「り、理想の……! 理想の細マッチョが目の前にいる!!」

 

 

 

 青井春人スイミングスタイル、いざ推参。

 

 

 

「なぁ、本当にこんなのでいいのか?」

 

「すまない。女子水泳部だからか、男子の肉体美に目がない節操なしが多いんだ。たまには男と競いたいだの泳ぎたいだの遊びたいだの、ほとほと困っていた所でな」

 

 先ほどの人とは違う、比較的大人な印象を持つ水泳部キャプテンはかなり呆れたような顔で謝ってくれた。

 最初に話しかけた女の子は既に向こう側。俺に対し黄色い声ではしゃいでいる。

 

 

 

 現在のおれは、ピッチリとした競泳用水着、帽子、水中眼鏡を着用したスイミングスタイルである。

 

 

 

「男子の泳ぎ方というのをぜひ参考にさせて欲しい。確かに他の部員は少し邪な考えを持っているかも知れないが実害はないと言わせて「春人さんって彼女いますかー!?」本当にすまない5分ほど待っていてくれないか」

 

「気にしてないからいいですよもう……。ところで何本くらい泳ぎます?」

 

「乗り気で助かるよ。一回で構わないが、泳いでいる様子を撮影させてもらいたいと思っている。後学のためだ。嫌なら撮影はやめておくがどうする?」

 

「問題ないです。どうせなら隣で泳ぎます? レースみたいな感じ出せば緊張感出ると思いますけど」

 

 

 

「はーい! 私泳ぎたいです!!」

「ふざけんな! アタシが隣で泳ぐのよ!!」

「一番速い私が行くべきですね。隣、失礼します」

 

 

 

「じゃあ私は同じレーンで泳ぎますね」

 

「「「それだ!!!」」」

 

 

 

「お前達、いい加減にしろ!!」

 

 流石に悪ふざけが過ぎたらしい。キャプテンの一喝がプールサイドに響いた。

 

 

 

「本当にすまない」

 

「いえ、全然良いですよ」

 

「お詫びとして、今度食事でもどうだ? お出かけくらいなら私でも付き合えるぞ?」

 

 

 

「「「「まさかの部長が一番卑しいんですけど!?」」」」

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、最近忙しいので」

 

「「「「 即 撃 沈 ッ 」」」」

 

 

 

 後ろの女子がさっきからうるさいが、こっちは対価として手がかりを聞いて回る約束だ。例え情報が一切出ずに無駄に終わるとしても、そこからさらに何か要求する気はないのでお断りさせてもらおう。

 

 

 

「じゃあやりますか。とりあえずキャプテンと一番速い人がいれば比較しやすいかな?」

 

「部長が固まってる……。初めてあんな部長見た……」

 

「ちなみに、青井さんは得意な泳ぎ方はあるんですー?」

 

「ん……そうか、クロール以外でもいいのか。どうだったっけなぁ」

 

 少し考える。

 最近は泳ぐ事が少なかったし、恋太郎達のプールデートも断ってしまった。案外機会が無かったから答えに詰まる。

 

 まぁ強いて言うなら、アレか。

 

 

 

 

 

「水面歩行ならかなり得意かなぁ」

 

 

 

「水面ほっ、えっ、んん? 歩行!? ……あなたニンゲンだよね?」

 

 何を言っている。どこからどう見ても人間だろ、失礼な。

 

 

 

 一回見せたら、化け物を見るような目をされた。

 あとあだ名が『烈●王』になった。

 

 いや、そのぐらい一向に構わん。って感じだけどさ……。

 

 

 

 見たことはないが、おれが幼い頃に聞いた話だとメイドさんは簡単に出来るらしいぞ。多分銘戸さんも出来るはずだ。

 

 

 

 ……えっ、出来ない?

 

 …………そうなのか……。

 

 

 

 その後、水面歩行は何の参考にもならないと拒否されて普通に泳ぎ切り、代わりとして部員からの情報を得た。

 

 

 ちなみに一番速いらしい人と大体一秒差をつけての一位だったらしい。うーむ、一位は嬉しいがなんか微妙な気がする。今度練習しないと。

 

 

 そして話によると、同じクラスの演劇部の女子がそのような体験を友人に愚痴っていた、と水泳部員の一人が教えてくれた。気のせいかもしれないとも言っていたが収穫があるだけでもありがたい。

 

 

 

 

 

 

 

 早速演劇部に伺いに行くにしても、流石に早朝にはいないことも聞いたため、断念することにした、放課後から調査は再開だな。

 

 

 

 水泳部とのレースを終え、一通り泳がせてもらった後。

 

 シャワーを浴び、更衣室のロッカーに向かう。

 

 

 

 この学校は男子の水泳部は開設されておらず、男子更衣室の一部も女子水泳部が使用している。今回はそのスペースに荷物を置かせてもらっているのだが、その辺りは水泳部の方々に確認しながら使用させてもらっている。

 

 

 

 初めて更衣室を使ったが……近くに女子の荷物があると考えるとなんだか落ち着かない。

 

 

 

 ロッカーの中で厳重に施錠されているとはいえ、もし盗難でも発生してみろ。どうあがいてもおれが容疑者にされてしまう。一時のいやらしい考えで魔が差すと即人生終了だから、自制はしっかりと、だな。

 

 

 

「あっ、お疲れ様です」

「えっ!? ど、どうも……」

 

 

 

 いや、そう考えると。

 さっきまで、おれは水着の美人たちに囲まれてたわけで……。

 

 

 

 …………うん、羨ましいと思われても仕方ないが、あんまり嬉しかった気がしないな。

 

 恋太郎や花園、院田や好本と一緒にいた方が多分楽しく過ごせる。

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、一足早く上がらせてもらったし演劇部の場所だけでも確認しておいて…………。

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………ん?

 

 

 

 ロッカーに着替えが無いな。

 それどころか荷物ごと空っぽで、何もかもない。

 

 まぁ、人生で一度くらいは。

 

 こんなこともあるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………」

 

 と、一息。

 

 

 

 

 

 

 

「着替えが無いだとっ!!?」

 

 いやそんなわけねぇな!? なんで無い!?

 

 

 

 ロッカーにあった荷物が綺麗さっぱり無くなっているぞ。一体全体どういうことだ!?

 

 

 

 よく考えるんだ。

 

 違うロッカーに入れたなんてことはあり得ない。そういう事を起こさないために一番端のロッカーをわざわざ選んでいたんだから。そこは記憶がはっきりしているし確実だ。

 

 

 

 周囲を見渡すと、今さっき挨拶したおっさんと目が合った。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 唐草模様をふんだんに使った布に身を纏い、今まさに出口から出ようとしているおっさん。

 

 どこからどうみても、学校の職員には見えない。

 

 

 

「……では」

「……」

 

 

 

 背中に背負っている大きな布袋は既にかなりの大きさになっていて、扉から出る際に思いっきりハマってしまっている。

 

 

 

「よいしょ~、うっ、ぬぐぐ…………!」

「大丈夫かそれ。後ろから押しますね」

「ああ、ありがとうな、若いの」

 

 

 

 なんとか外に出ることに成功した泥棒とおれは、お互い横に並んでクラウチングスタートの態勢を取る。

 

 

「……すぅ」

「……ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

「待てやこらぁぁぁぁあああ!!!!」

 

「ひぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!」

 

 

 

「えっ、何!? 青井君!? 海パン一丁で何処に行くのぉぉぉぉおおお!!??」

 

 

 たまたまプールサイドから見てたであろう、女子水泳部員の静止も振り切り、走り出し追いかけた。

 

 

 

 

 

 くそっ、女子の着替えどころかおれの着替えまで持って行きやがって!!

 

 

 

「絶対に捕まえる!!」

 

 

 

「おのれぇ! よくも私が着替え泥棒だと見破ったな!?」

 

「誰でもわかるわ!! おれの服まで盗みやがって!!」

 

 

 

 そんな分かりやすい『ほっかむり』と海苔みてぇなヒゲを口周りにくっつけておいて、よくバレないと思ったなこの野郎がっ。

 

 

 

「なんだと!? 確かにあんなボーイッシュなパンツを最近の女は履くのかと驚いたが……。貴様っ、貴様も女子更衣室で着替えてるじゃないか!!紛らわしいヤツめ、ちゃんとその辺りはしっかりしないと怒られるぞ!!」

 

「てめえに言われたくねぇわ変態野郎!!」

 

 

 

 あそこはもともと男子更衣室なんだよ!

 

 

 

 泥棒はそのままの足で学校内に逃げ込む。おそらくは外に出るよりも学校内で撒く考えなのだろう。なら、出来る限り動きを合わせて離されないように追いかけるよう心掛けるしかないか。

 

 砂や小石の突き刺さる感覚が足の裏に掛かる。

 裸足の影響だろう。靴なんて履く余裕はなかった。

 

 

 

 下駄箱を通り過ぎて、一階廊下を通過。すぐに階段へ曲がり二階へ向かっていったので追跡していく。

 

 

 

「くそっ……!」

 

 コイツ、なかなかに速い。

 

 

 

 50メートル走や直線の全力疾走なら、おそらくおれに軍配が上がる。

 

 

 

 だが、これは速さを競う戦いではない。捕まえなければ意味はないし、ルートは泥棒が決めているようなものだ。闇雲に速度を上げれば急な方向転換に対応できない。

 

 ただでさえ不利な上、泥棒はルート取りがかなり上手い。あらかじめ見つかっても撒けるようにこの学校の地形をほぼ把握されてるみたいだし、加えて手すりや壁を利用してさらに加速している。かなり手慣れてやがるな。

 

 それに対しておれは、学校の中をまだ全て把握できていない。あくまで自分の活動してる範囲までならなんとなく使うルートは予測できるかもしれないが、特別教室の方まで逃げられて死角に潜まれたら見失わない自信が無い。

 

 

 

 割と不利な状況だ。早くケリはつけたいが、焦って飛び込んでも捉えられなければ目も当てられない。

 

 

 

 別の階段に着いた泥棒は手すりを思いっきりつかみ、今度は下って行った。

 

 

 

 なら一瞬の機会をもぎ取る。一か八かだがリターンが大きい——————。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 ここで——————!!

 

 

 

 階段の真ん中から飛び降り、少しでも距離を詰める。

 

 

 

 ここは一階で地下への階段はない。階段を出れば右か左の二つに一つ。

 

 

 

 そのぐらいなら、身体の向きを見極めれば予測できる。

 

 右だ。

 

 

 

「オラァ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

 

 

 その一瞬だけ見出した活路に、両足で差し込む。

 

 階段の数段上から繰り出したドロップキックはまっすぐ泥棒を捉えた。

 

 

 

 勢いもあって壁に激突していったが、背中にあった盗品の衣服がクッションになっていたのか気絶はしていない。しかし体勢が上手く整わずによろよろと身体を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 だから、逃げ出す前に先回りすることは簡単だった。

 

 

 

「諦めろ。あんた、身のこなしを見るに常習犯だな? 全部まとめて罪を償うんだな」

 

「くぅっ。まさかたまたま居合わせたガキにここまで手こずるとは……」

 

「単純に盗人は罪だから許す気はないが一応聞いといてやる。ここ最近、女子生徒のちょっとした昏睡事件が度々起きているらしいが……それもアンタの所為か?」

 

「こんすい? なんの話だ?」

 

「……まぁ分かってた。それもやっててくれりゃ解決が楽だったんだがな。流石にそんな美味い話はねぇか」

 

「ふん、もう捕まえた気でいるのか?」

 

「当然」

 

 

 

「ならばわしの一子相伝のスーパー暗殺拳を打ち破って見るがよい! この南北斗神聖拳が火を噴くわ!」

 

「ごちゃごちゃしすぎだろ」

 

 

 

「ふっ……あそこの星を見るがいい」

「朝だから全然分からないが」

 

 

 

「ほら、死兆星が見えるじゃろ?」

「確か本人が見えたらダメな奴じゃなかった?」

 

 

 

 泥棒が構えを取る。完全に抵抗する気だ。

 

 おれもそれに応じるように手を前に構えた。

 

 

 

 剣呑な朝の静寂は…………しかしておれの背後から砕かれた。

 

 

 

 

 

「貴様ら……校則を破ったな?」

 

 

 

「「………………へっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

「呼ばれて飛び出てババババァーーン!!」

 

「呼んでねぇし飛び出てくんな!!」

 

 

 

 残念、教頭先生があらわれた!

 

 

 

「な、なんだその化け物は!?」

 

「化け物……は、否定できねぇが。一応うちの教頭だ」

 

「嘘つけ! 妖怪だろ!」

 

「それも否定できない」

 

 

 

 しかし、今まではエグイ罰を押し付けてくるため忌避していたけど、今回はいいタイミングで来てくれた。手を借りて確実に捕らえなければ。

 

 

 

 

 

 

「教頭! この男は女子水泳部の着替えを盗んでました! 今はとにかくこの男の確保を……教頭?」

 

 

 

 おかしい。教頭先生がおれの方しか見ない。

 

 

 

「青井……また貴様かァ……!」

 

 

 

「あれ? なんか矛先こっちに向いてない? ……違うよね? 規則云々より生徒の私物含め窃盗してる方が悪いって分かってるよね!? 正義の名の下にお仕置き(ディープキス)してやればいいじゃないですか!! 流石に法も許してくれるでしょうに!!」

 

 

 

 

 

「普通に不細工なおっさんとしたくないだろ」

 

 

 

 

 

「くそっ、身も蓋もねぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「これまでの禍根んんんんん!!!」

 

「うおおおおこっち来んなババァーー!?」

 

 教頭先生が脇目も振らずにこっちに突撃。くそう、敵が増えただけじゃねぇかよ。

 

 

 

「キェイ!!!!」

 

 

 

 殺気を感じ取って、咄嗟に首を傾ける。

 

 

 

 何かが横を飛んでいく。僅かに頬と耳から血が垂れる。

 

 

 

 なんだ!? 何か飛ばしてきたぞ……!

 

 

 

 

 

(いや違う!! これは……!!)

 

 

 

「ち”ゅ”ぅ”!!」

 

(高速で舌を突き刺してんのか!?)

 

 

 

「あぶねぇ!?」

 

 

 

 教頭先生の口に注視して一つ一つのベロショットに対応していく。

 

 いやなんで舌が伸びるねん!? 以前にダッシュで恋太郎たちを運搬中にエンカウントした時よりも教頭の化け物レベルが進化してやがる! 多分これまともに食らったら教頭の本体に吸い寄せられてアウトなヤツか!? 必ず避けきらねぇと即死(キス)ルートとかクソゲーすぎるぞ!!

 

 

 

 ふと背中にある廊下の壁を見る。そこには教頭先生の攻撃によって傷が……おい待て、なんかヒビ一つなく貫通穴が開いてるんだが!?

 

 

 

「最強の一撃というのは無駄な破壊をしないモノぞえ」

 

「そんなおっかねぇ威力の技を生徒に使ってんじゃねぇよ!?」

 

 

 

 間違えて当たったら致命傷じゃねぇか。

 

 

 

「やかましい!! 四度に渡るあの屈辱ッ!! 今こそ晴らせぇぇぇぇい!!」

 

「くそっ、『盗人ガード』ッ!!」

 

 

 

「ま、待てっ、お前曲りなりにも主人公じゃあ……ギャアアアアア!!!!」

 

 

 

 ふぅ、近くに盾が無ければ危ないところだった。

 今しがた利用させてもらった盾は廊下の奥まで吹っ飛んで行ったがさしたる問題ではない。

 

 だが、目の前にいるこの異形は元々おれがまいた種のようなものだ。

 無理やりにでも大人しくさせないとならない。そろそろ普通の生徒なら登校してくる時間だ。悪夢というものは見ないに限る。

 

 

 

 両の拳を握って構える。

 

 

 

 厄介事には首を突っ込む。そんな自分を自嘲していた帰り道のイザコザがもう昔のように感じる。

 

 花園邸を出てからの時間が全て濃すぎる。恋太郎がいないところではおれはここまでのトラブルメーカーだったっけか。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 いや、確か恋太郎いてもいなくてもちょくちょく騒動は起こしてた気がする。

 うん、我ながら救いようがない。

 

 さて。

 

 

 

 自分の後始末は、自分でやらないとな。

 

「化け物ってのは、最後は人間にシバかれるのが物語の結末だ。いい加減、ケリつけさせてもらいますよ。教頭先生」

 

 

 

 

 

「 オトナシク 死 ヲ ウケイレヨ 」

 

「いやキャラ変わりすぎだろ」

 

 

 

 瞬間、何の変哲もない廊下で。

 

 急激に距離を詰めた二人が交差した。




原作第9話……継続。

副題「たった一人の珍道中 その一」踏破。



お花の蜜大学付属高等学校一学年次席
   青井春人

    VS

お花の蜜大学付属高等学校教頭
   馬場杏



次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。