君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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 いや皆さん!! アニメ二期!! 来ましたね!! 楽しんでますか!!

 いやー……
 本当に嬉しい……っすねぇ……スネー。

 (深呼吸)

 本当に遅れて申し訳ありませんでした!
 年末に向けて投稿する予定が忙しくなり、日課の小説作りが習慣から消え去り、そのままスランプ直行して一月が消し飛びました。本当にゴメンナサイ。

 去年までに1クールのお話まで進みたいとか思ってた時期の作者はどこへ行ったのか。

 今もただただアニメに置いてかれてますが、それ以上に読んでくれる方々を待たせる事なく進めたい所存でござる。頑張ります。


青い春と薬膳楠莉

 

「と言う次第でございまして……」

 

「やーやーよろしく、薬膳楠莉なのだ!」

 

 

 

「より多くの異性と付き合う方が効率的。……素敵」

 

「別に効率のために付き合ってんじゃないからね?」

 

 

 

 恋太郎が薬膳楠莉と付き合った翌日。

 早速、放課後にいつもの屋上で彼女達と顔合わせすることになった。

 

 ここまで彼女が増えると全員が慣れたもので大した驚きはない。驚くとすれば直近で入った凪乃の立ち位置の人ぐらいだろうが、反して凪乃の反応は好印象のようだった。……着眼点は少しおかしいが。

 

 

 

 ともかく、『私たちの恋太郎はみんなが付き合いたくなるほどのスパダリである』という事実に誇らしく感じている猛者たちばかりであった。

 

 

 

 そこまで考えて。

 私はここに居ない友達に気づく。

 

「〝そういえば〟『春人さん』〝は〟『どちらに?』」

 

「あいつならいつもの放浪癖でしょ」

 

 

 

 ここにいないあの人は、新しい彼女にどんな印象を持っているのだろう。

 

 ここにいる誰も、それを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いが、部員を呼んではくれないか」

 

「謹んでお断りさせてもらうよ、醜い男子生徒君」

 

 

 

 おれの眉がピクリと動き、目が細くなる。

 

 

 

 今頃、楠莉の紹介でもやってる頃だろうか。まぁ、あいつの紹介はおれには必要ないくらい関係が深い。わざわざいる必要はないだろうし、返って彼女同士の付き合いの邪魔になるわけにもいかない。

 

 そんなことよりも済まさなければならない用事をやらなければ。

 

 

 

「一言目がそれか、演劇部部長さん」

 

「『華劇部』だ。……二度と間違えないでくれたまえ」

 

 

 

「……ほぼ演劇部と変わらん活動の華劇部部長さんよ。少し話をさせてくれるだけでいいんだ。やましい目的ではないし、おれが嫌いなら見張ってくれてもいい」

 

「なぜ、君一人のためにそんな労力を使わなければならない?」

「だから手短に済ましてやると言っている」

 

 向こうは、やれやれとわざとらしく腕を上げる。

 

 

 

「敬いを持ちたまえよやんちゃ君。仮にも一年生の態度かい?」

「意味も分からず始めから喧嘩腰で来られりゃ流石にな。うっかり敬語も抜ける」

 

 

 

 例の女子生徒を放心状態にさせる不審者の目撃情報。

 

 その内の二人が、ここにいる華劇部とやらに所属していた。これは以前の水泳部員から手に入れた情報である。

 

 

 

 しかし肝心のターゲットに近づこうと声をかける前に門前払いを食らった。妙にキラキラした部長が優雅風というか芝居がかったようなセリフと雰囲気を纏うのが少々癇に障る。

 

 さらに本題に移る前に拒絶されたのだ。そんな相手に対し憎まれ口程度で済んでいるのは、おれの我慢が利いているだけだ。いつ爆発するかは向こうの態度次第だが……わざわざ直す気はないようだ。

 

 

 

 既に情報元らしき女子生徒は奥に。男子生徒達が部室に入れないように壁となっている。

 

 ……何が何でも接触させたくないらしい。かなり面倒な事態だ。

 

 

 

「一応言うが、あんたらの部員が被害に遭ったらしい不審なヤツの情報が欲しいだけなんだ。あんたらも不審者被害が増えたら怖いだろ」

 

「そんな厄介事は警察にでも任せてしまえばいい。矮小な君の出る幕ではない」

 

「警察に頼りきりで放っておけば勝手に何とかなると? 危険を前に楽観的だな。根本から解決出来ないまでも予防線ぐらい張って警戒すべきだろ。身の回りの仲間すら守れない男は美しさ以前に存在価値が無ぇぞ」

 

「君、友達少ないとよく言われないかい?」

 

 言葉の応酬が続く。

 

「生憎、不審者に襲われる可能性のある女友達には恵まれていてな。再度言うが、喧嘩を売っているのはテメェだ」

「喧嘩? 違うね。これは拒否だよ。君がそれでも突っかかって来るから仕方なく相手してあげてるのさ」

 

 

 

 暖簾に腕押し、または糠に釘。平行線を辿るどころかまともな話さえままならない有様。

 

 

 

「なんでだろー、って顔をしているけれどね。当然の事だよ。悪い噂がある人間を我らが誇る美しい部員に近づけさせるわけがないだろう」

 

「なんだと?」

 

 向こうにいる男子たちの目が光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「振られた女を襲って一悶着起こした問題児。発覚してからは口を閉ざすように不登校。さらには何もお咎めなしで中学を卒業していった厄介者。そんな薄汚い男が何を言おうと我々に響くわけがないだろう」

 

「……」

 

「我が部員の一人が君と同じ中学出身でね。今も色々な情報で周りをざわめかせているのを知っているかい?」

 

「噂は当てにならないぜ、先輩」

 

「なら、真実を話してみせると良い。納得できる話であるなら是非とも謝罪させてもらおう」

 

「言えば納得するのか? 出来る限り努力するってツラには見えないが?」

 

「ふはっ、聞けば少々口は回るおりこうさんのようだけど、とどのつまりそれは黙秘という事かな? ……透けて見えるなぁ、下衆」

 

 

 

「あのなぁ。あんたらがおれをどれほど穿った見方で見ようと構わないが、こっちも友人を危険な目に遭わせないために潰しておきたいだけだ。情報だけくれりゃあんたみたいなやつとも関わる気がないんだが」

 

「分からん男だなぁ君も。その情報さえ渡したくないと言っているんだよ。悪用されて……犯人になりすまされたらたまったもんじゃないだろう?」

 

「第二の加害者がおれになると?」

 

「当然、他意はないよ。心配しているだけさ」

 

 

 

 

 

「ちっ……」

 

「おや? なんだその顔は。やはり最後は暴力に頼ろうとするのかい? そういえば最近は教頭先生と一悶着起こし続けている迷惑な輩もいるらしいね。一体誰だろうか?」

 

 

 

 ……こんな舌戦をしている場合じゃないか。

 徐々にヒートアップしていた頭を無理矢理冷やして平静に努める。

 

 おれを馬鹿にされるだけならまだ許せる。おれのいままでの行動の自業自得な部分もあるから。だがこのまま発展していった結果、周りの友人さえ悪く言い始められたらその時は手が出ない自信がない。

 

 この口の悪さで、よく『華劇部』の部長なんかが務まるものだ。

 

 

 

 もうここは諦めるしかないな。向こう側にとっておれは完全な悪者扱いだ。おれだけではどうしようもない。

 とんだ無駄足だったが、これ以上事態の悪化も時間の浪費も避けるべきだ。

 

 

 

 他の被害者を探してみるか?

 

 いや、もしかするとこの馬鹿どもが善意100%でおれのあらぬ噂を吹き込む可能性すらあるな。

 

 既に引き際を誤ってたか——————?

 

 

 

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 

「ん? 誰だ……い」

「え?」

 

 

 

 不意に誰かに声をかけられ……華劇部部長は言葉を失った。おれは考えを巡らせていたため少し間が空くように反応する。

 

 

 

 待て。どこかで見た顔だ。誰だったか。最近は知り合い以外にも会う機会が多かったから思い出せないな。

 

 

 

(わたくし)の後輩に酷い扱いですわね。そこまでの事をこの男性はなさいましたの?」

 

「いや、でもそういう噂が……」

 

 

 

 口を開けたまま動かない部長に代わって部員が反論するが……。

 

 

 

「『 あ な た 方 に 』なさいましたか?」

 

「ひぃっ」

 

 

 

 強い口調で引っ込めさせた。

 

 

 

 どうやら部員たちの方は弁舌があまりよろしくないらしい。やろうと思えば言いくるめることも可能かもしれないが、そこまですると厄介な部長がカバーしてくるだろう。無用な手出しは控えるのが無難だな。

 

 今は、背後から来た援護に任せた方が良いか。

 

 

 

 太腿まで伸ばされた金髪に青緑に映る瞳。薔薇のタイツとシャツの襟にワンポイントで付けられた青緑のリボンが派手さを演出しているかのよう。そして一際目立つのが腹部を覆うコルセット。

 

 寸分の隙の無い黄金比の体形、白磁のような肌、全てを見通すような目線。

 

 

 

 それは——————女神を幻視させ得る美しさ、というものだった。

 

 そんな女性が、おれの隣で歩みを止めた。

 

 

 

「ふつくしい…… 「なんだって?」 いや!? 何でもないよ!」

 

 

 

 華劇部部長の口から出た言葉に素で返してしまった。

 何を急に言い出してんだコイツ。

 

 しかし、確かに助け船を出しているこの人はかなり綺麗な人だ。生憎おれは美的センスが人並みだから、漠然と『相当な努力で美しさを維持してる』くらいしか感想が持てないけれども。

 

 

 

「私は、先日彼に助けられた者ですわ。不良に絡まれていたところを追い払ってくださいましたの。もしその噂通りの方なのでしたら、彼はきっと一瞥すらせずに立ち去ったでしょう。でも、わざわざ不良を退かしてくれましたわ」

 

「いいでしょう信じます」

 

「もしまだ疑いの目が拭えないのでしたら……って、え?」

 

「ん?」

 

 

 

「貴女のような美しい人が言うなら間違いない……! 後光さえ見えてくるその美貌ッ! きっと、さぞ清く澄み渡るような美しい心を持っているに違いない! 貴女の言葉であれば信じましょう、ええそうします!」

 

 

 

「えっと……」

「えぇ……。さっきまでの苦労は何だったんだ」

 

 

 

「ま、なんとかなりましたわね!!」

 

 ふふーんですわ、と言わんばかりのドヤ顔でニッコリ微笑む彼女。

 

 

 

 それを一旦放置させてもらって、女子部員の方へ近づいていく。

 

「面倒くさいし簡単に終わらせよう。被害にあった時の場所や時間、その他の気になった事を出来る限り思い出して教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして華劇部を脅かす()()は去り、部長は床に崩れた。

 

「部長!?」

 

「くっ……、はぁ、はぁっ……!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「も、問題ないよ。ありがとう」

 

 部長の顔には大粒の汗が噴き出していた。

 

 

 

 酷く疲れ果て肩で呼吸し、顔はかなり青褪めていてもはや病人にさえ見える。

 

 

 

「噂は当てにならない、なんて酷い冗談だよ。……噂以上におっかないじゃないか」

 

「すいませんでした部長! 隣にいながら何も出来ず……!」

 

「いや、あれはどうしようもない。あんな敵意の篭った眼を向けられて平静を装えられるだけでも十分だろう。私も演技の殻を被っていなければまともに喋れなかった」

 

 曲がりなりにも華劇部の矜持が部長を持ちこたえさせていた。しかし部員を守るためとはいえ、話を余計に拗らせた自覚は部長にもあったが。

 言葉を選んでいられないほどの杜撰なアドリブでしか対処出来なかった事実に恐怖する。もし、あれ以上論戦を繰り返していたらどうなっていたか。

 

 あの化け物のような気迫に怒気が孕めば、拳など振るわれるまでもなく失神していた。

 

 今回は信用を保証してくれる美しい人に縋りつけたのは幸運だった。まさに幸運の女神と言っていいだろう。しばらくは彼女の顔が脳裏から離れなさそうだ。

 

 

 

 二度と対峙したくないという思いと、何故そこまでのプレッシャーを放ってまで行動している動機が計りかねないまま、華劇部の面々は気まずい沈黙を続けた。

 

 彼らは結局、いつもの時間よりも一時間遅れで芝居の練習を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふーん、お役に立てたようでなによりですわ」

 

「すまない、本当に助かった。……正直収穫が少なかった所為で徒労になったのが申し訳ないくらいだ」

 

 先ほどの綺麗な人と言葉を交わす。

 

 ふと見てみれば、早朝にチンピラ二人に絡まれていた人だと気づいた。

 新聞配達のバイト中の時は動きやすい服だったので、肝心のスタイルや美貌とミスマッチしていた印象が拭えなかったのだが、こうした品のある制服を着て出会うと……なるほど、絵になるほど整った容姿だ。

 

 あの時とは、似ても似つかない。

 

 

 

「あら、そうでしたの?」

 

「今までの情報の正確性がちょっぴり上がったぐらいだな。あとはほとんど知らん分からんと言われたから、新しい情報はほぼ無かったと言っていい」

 

「それはそれは……残念でしたわね」

 

 不審者の件は、さっさと対策だけでも取りたいところだけどもう手詰まりだな。もうやれることが無い。あとは出来る限り網を張って向こうの尻尾が出るのを待つぐらいだ。

 

 念のため、女性陣全員に何かあった時のための対抗手段を講じる必要があるな。あまり不安にさせたくはないが情報を共有するべきかもしれない。

 

 

 

「……るとさん……。春人さん!」

「うおあ!? 何っ!? あっ、すまん! 考え事してた!」

 

 目の前のセンパイはわざとらしく口を尖らせた。

 

「もう、せっかく見目麗しい美女を捕まえておいて……はしたないですわよ」

 

「捕まえた覚えは無いんですがね」

 

「ところでお時間はよろしくて?」

 

「ハナシ聞いてます? 会話のキャッチボールが成り立っておりませんよセンパイ」

 

 

 

 少しだけ考えて、多少なら遅れても恋太郎なら許してくれるだろうとアタリを付ける。

 

「まぁ、時間は少しならありますけど」

 

「そうですのね。では……」

 

 

 

 センパイがおれの正面に立つ。

 

「改めて、二年の美杉美々美と申しますわ。これから、あの時のお礼をさせてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。『美』が凄い多い名前の人。こんな濃い人を忘れてたなんて……。

 

 それ以上に、ここ最近のイベントの密度が多かったからかもしれないが。

 

「お茶でも……いかが?」

 

 

 

 

 ともかく、それならおれの答えは一つだろう。

 

「美杉先輩……」

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい流石に今からだと友人を待たせちゃうので後日でいいすか?」

 

「えぇ!? 今のはイケる雰囲気ではありませんでしたの!?」

 

 

 

 

 

 美杉先輩が面白い顔で驚く。綺麗というよりは可愛げのある親しみやすい顔だ。

 思わず笑いそうになるがどうにかこらえて、頭を下げる。

 

 多少の会話程度ならよかったんだけど。

 

 

 

「連絡先を交換しておきますか。予定が空いたら、その時はエスコートさせてもらいます」

 

「いえ、それではお礼の意味が……っ! いや待ちなさい、まさかっ、これはデートというものでは……!?」

 

「ん?」

 

「いえ、お気になさらず!! 交換はっ、出来ましたわよね!? それではごめんあそばせ!!」

 

「あっ! 美杉先輩ストップ!」

 

「何ですの!?」

 

 

 

 呼び止めた美杉先輩の正面に立ち、胸元のリボンに手をかける。

 

「なんで急に焦ったか知りませんが……リボン乱れちゃいましたよ。素敵なレディなら優雅な心は大事じゃあないんですか?」

 

「え、あっ、はい、そうですねごめんなさいすいませんちかいちかいちょっと近すぎではなくてーーッ!?」

 

「あの、全身をマナーモードみたいに震わせられるとピシッとキレイに出来ないんですけど……」

 

 

 

 急に顔が真っ赤になったな。

 

 美白な肌をお持ちになられているから、そういった顔色の変化がとても分かりやすい。

 

 だが、ここまで動揺されるのは意味が分からない。ただ、二人の間の距離が半歩もないくらい近づいただけだ。

 

 

 

「よし、おっけ。それじゃまた!」

 

 

 

 呆然と立ち尽くす先輩を尻目に屋上へ向かう。

 

 やれることはやる。が、やはり優先事項は恋太郎達だから。

 

 

 

 これは余談だが、おれはこれからしばらく連絡することを忘れてしまっていたのだが。

 

 反対に、向こうから連絡が来ることもなかった。

 

 

 

「……」

 

 この時の美杉先輩が何を思っていたのか。

 おれには分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「よっす」

 

「「あっ!!」」

 

 

 

 おれが屋上に戻った時、恋太郎達と新しく加わった楠莉は囲んでお茶会の準備をしていた。

 

 今まで姿を見せていなかった男の出現に、花園と院田の声が揃った。

 

「アンタ、一体何処に行ってたのよ! 楠莉の自己紹介はとっくに終わっちゃったわよ!?」

 

「楠莉の……今は嬢ちゃんか。嬢ちゃんとは知り合いだからな。わざわざおれと顔を合わせることもないだろ。おうおう楠莉の嬢ちゃん、初めてのお友達は出来たかー?」

 

 

 

「……今ここに『瞬時に友達を無くせるくらいのゴミ野郎になる薬』があるのだ。……あとは、わかるよな?」

 

「なんでそんなモンがあるんだよ。いや分かったすまん、おれが悪かったから近づけるな」

 

 

 

 ジャージに身を包んだ花園が割って入ってくる。

 

「なんですか? その、『嬢ちゃん』って呼び方……」

 

「ん? ああ。楠莉の嬢ちゃんはこんなガキンチョに見えても年上だからさ、昔は楠莉の姐さんって呼んでたんだ。そしたらまぁ、身長が低い姉ってどういうことだって世間は思うわけよ」

 

「ああ、だから……」

 

 

 

「……それのせいで一日に五回も職質されたら流石に頭を抱えるだろ?」

 

「…………本っ当に苦労したんですね」

 

 やべっ、その当時のことを思い出したら、目が死んできた。思い出すのはよそう。

 

 

 

「いやそんなことより、お前はなんで恋太郎のジャージ着てるんだよ」

 

「楠莉さんの『セクシーになる薬』飲んだら服が溶けました」

 

「服がよりにもよって溶けるわけないだろ、冗談は院田の胸ぐらいにしておけ」

 

 

 

 

 

 

 

「五秒あげるわ。神への祈りを済ませなさい」

「オラまだ死にたくねぇだ……ッ!」

 

 じょ、冗談ですやん。

 軽いジョークだから見逃してくれると嬉しいなー、なんて。

 

 

 

 首に指を当てられている。おそらくは喉をつぶすか首をひねるか。どっちにしろいつでも殺せるという死刑宣告である。いや目が怖すぎるタスケテジョーダンガツウジナァーイ!!

 

 

 

「院田唐音。こっちの方が効果的」

 

「カッターを渡すな」

 

 

 

「あら、ありがとう。気が利くわね」

 

「受け取るな! いや、受け取らないでください! やめて!」

 

 

 

 

 

「〝ところで〟『用事は』〝もう済んだんで?〟」

 

「まぁな……いや、そうでもないな。うーん……」

 

 

 

 少し話題としては暗くなるものだから、言い淀む。

 ……が、意を決して共有することにした。

 

 

 

「みんな、少しいいか? 院田も冗談はやめて話をさせてくれ」

 

「この怒りを冗談で済ませないで欲しいんだけど!?」

 

 

 

 そう言いつつも解放はしてくれる院田。そこはさすがツンデレというべきか、本来の優しさが滲み出ている。

 

 

 

「ハル。何かあったの?」

 

「先日の泥棒騒ぎでおれが水泳部に顔を出してた件だ。ほらっ、おれがおかしな場所でトラブルに巻き込まれてただろ? その辺りの事情を詳しく、な」

 

 

 

「メンドそうな話なのだ。今のうちにお茶をなみなみ注いどくのだ」

 

「単純に言えば、女性目当てに不審な事をしてる馬鹿が目撃されてるんだが……少々奇妙でな」

 

 隣で楠莉が水筒と人数分のコップを用意し始めた。

 

 

 

「……と思ったら、しっこしたくなってきたのだ」

 

「楠莉の嬢ちゃん、トイレ行けよ?」

 

「ま、いっか。オムツしてるし」

 

「トイレ行けって!!」

「ちゃんとトイレでしてください!!」

 

 

 

 こいつのおかげで話が進まねぇ。

 男性陣の声が揃い、さらにおれは手で追い払うように楠莉にトイレを催促する。

 

「あ……じゃあ私が代わりにお茶の準備しておきますね」

 

「あっ……! 恋太郎用とその他用と春人ぶち殺す用とで分かれてるから注意するのだ!!」

 

 

 

「なんですか……? 俺用?」

 

「その他ってなによ?」

 

「おい待て不穏な用途が聞こえたぞ」

 

 

 

「とにかくボトル見れば分かるのだぁー……!」

 

 

 

 そう言って、楠莉はドアを開けて出て行ってしまった。遠くなる声を見送りながら、花園に声をかける。

 

 

 

「なんか目印あるか?」

 

「…………ひとつ、ドクロマークがついてます」

 

「どう見てもそれがハル用のお茶なのは確定だね」

 

「捨てておけ」

 

「離れたところに置いておきますね……」

 

「ついでに毒見もするから、両方注いどいてくれるか」

 

「あはは……信用がないですね」

 

 若干花園が引いた様子で準備を始めた。

 

 

 

「話の続きをするぞ。最近不審な輩が出没している。ここの生徒というところまで分かっているが、おそらくその不審者は何らかの方法を使って意識を曖昧にして……一種の催眠状態にすることが出来る」

 

 その言葉だけで、ゾッと顔を青くしたのは恋太郎と院田だ。他のみんなはイマイチ要領を掴めていないのか続きを促す。

 

「……目的は不明だが、推測はできる。……例えば、その不審者は自分の選んだ本命の女に仕掛ける前準備や実験として、複数の女子に対して試していたと考えたら? もしこの世に意識を操ることの出来る催眠ってのがあるなら、自分を無理矢理好きになるように仕向けるのが最終目的だとしたら……本人の意思を捻じ曲げ、文字通り好きにすることができる」

 

 そこに、好きな人がいるかどうかは関係ない。

 

 

 

「は、はぁ!? そんな事あるワケ……!?」

 

「もちろん正確ではないぞ。ただこれまでの情報……女子が無抵抗のまま放置され、さらに怪我の形跡がない事を考えるとこの線がストレートではある。すでに思いを抱いている相手がいるから興味がない、女性を意のままに操ることさえ分かればいい、ってな。たとえその女子が誰と恋人関係になっていようと関係ない」

 

 そこで全員が察した。

 

 

 

 恋太郎が好きだろうと。

 

 恋太郎を愛していようと。

 

 恋太郎と恋人だろうと。

 

 

 

 この不審者はその幸せを引き裂くことができる。

 

「少なくともそういった悪用の可能性がある以上、気を付けるに越したことはない。みんなも十分注意してくれ」

 

 

 

 当然、可能性の話ではある。

 

 何も起きないかもしれないし、華劇部たちの言っていた通り警察が捕まえてくれるかもしれない。

 

 でも。

 

 

 

 おれにとっては見過ごす理由にはならない。

 

 

 

「……とまぁ、本来なら犯人さっさと見つけて催眠なんて物騒なもんを何とかしたいんだがな。なかなか尻尾を出さないんだ。悪いがしばらくは……そうだな、おれや恋太郎以外の男と接触する時とかは特に注意してくれ」

 

「なら、楠莉先輩にも教えないと……!」

 

「あいつはいい」

 

 逸る花園を止める。

 

 

 

「あいつのような薬にしか興味のない……ましてや大きくなったり小さくなるような人間を好きになるやつはそんなにいない」

 

「ここにいるぞ」

 

「……こいつだけだな。あいつに関してはそこまで心配することはねぇよ。お得意の化学で自衛できるだろうし」

 

 

 

「ふーっ、スッキリしたのだーっ!」

 

「……な? 見た目も中身もアレだから大丈夫だ。みんなも何かあればおれか恋太郎に連絡をくれればいい。すぐに飛んでくるから」

 

「うん。必ず守るよ。命に代えても」

 

「いのちだいじに、して欲しいんだけどな。お前も」

 

 

 

 みんなでクッキーを取り囲んでいる間にお茶の毒見を一通り済ませる。味は普通においしい。色は……。

 

 

 

 

 よく見る。

 

「……」

 

 

 

 確かめる。

 

「…………ふーむ」

 

 

 

 首をかしげる。

 

「?」

 

 

 

 ……禍々しくて分からん。両方えっぐい色してる。

 

 似たようなの見過ぎて麻痺してるかもしれないけど、薬膳家のお茶って大体似たような感じだしなぁ。

 

 

 

 

 

「「『いただきまーす!!」」』

 

「みんなっ、そのお茶は逆なのだわわわわわわわ!!!!」

 

 全員がお茶をぐいっと飲み干した瞬間にそんなことを言い出す元凶。

 

 

 

「何を飲ませたんだよ今度は!?」

 

「皆、ゲーするのだ!! ゲーッ!!」

 

「そんなお茶の味を間違えたくらいで……」

 

 

 

「違うのだ!! そのお茶には『大好きな人とチューしたくてしたくてたまらなくなる薬』が入ってて……! それを恋太郎に飲ませてチューしまくる作戦だったのだーっ!!」

 

 

 

「「えええええッ!!?」」

 

 

 

「そ、そんな……」

 

 恋太郎がよろめく。

 

 

 

 

 

 

「そんな薬飲まなくても!! 俺は先輩とチューしたいですよっ!!」

 

「そうかもしれないけどそういうことじゃなくない!?」

 

 

 

「れんたろーッ!!!!♥♥♥♥♥」

 

 

 

 楠莉の嬢ちゃんが抱き着いてキスしようとした瞬間。

 

 すぐ近くにいた院田が楠莉の首根っこを掴み。

 

 

 

「どひゃー」

 

 思いっきり上空へ投げ飛ばされた。

 

 

 

「 焼 き 殺 す レ ベ ル の ヤ キ モ チ 」

 

 

 

 

 

「だだだ大丈夫ですか楠莉先ぱ——————」

 

「まかせろ!」

 

 

 

 すかさず、おれが走り出す。

 

 上に勢いよく飛ばされただけだ、あの程度ならすぐに追い付いて——————!

 

 

 

 

 

「ハルトー! 着地任せたのだー!」

 

「いや、うん……。楠莉に着地任せたー、って言われるとちょっとな……」

 

「ぐべあっ」

 

 

 

 楠莉の嬢ちゃんは尾てい骨を負傷した。

 

 

 

「何するのだ!? お前は楠莉のサーヴァントだろ!? さっきの『まかせろ』はなんだったのだ!?」

 

「テメェの使い魔になった覚えはねぇ。そんなことより、あれはどういう状況だ」

 

 

 

「ちゅ……」「ちゅ……」

 

 

 

「あ、あれは……! またやっちゃったのだ……!」

 

「ちぃ! レンっ! そいつらから離れろ!!」

 

 

 

「ちゅちゅー!!」

 

 恋太郎に呼びかけると同時に、花園が飛び出した。

 本来の花園ではありえない跳躍で恋太郎に覆いかぶさらんとしている。

 

 咄嗟に恋太郎は後ろに下がった。

 

 花園の着地とともに、屋上の地面が陥没するほどの衝撃が走る。

 体勢から見るにそれは……。

 

 キスしようとしただけの動き。なのに、まるでバーサーカーだ。

 

 

 

「こりゃ薬の副作用か。相当マズイ状況かもな」

 

「俺の事をこんな状態にするつもりだったんですか!?」

 

「違う、あれは女子が飲んではいけない薬だったのだ!!」

 

 

 

 

 

 

「細かいことは原作で説明してるから諸々省くとして、言わばキスゾンビなのだ!!」

 

「「大事な設定部分全て省いちゃった」」

 

 

 

 

 

「ちなみに薬が全身に回りきる前に『打ち消しの薬』を飲ませなければ四人は一生このままなのだ」

 

「んなもん飲ませてんじゃねぇよこの野郎!!」

 

 

 

 二人を守るように前に出る。

 

 このキスゾンビどもの目には分かりやすくハートの光みたいなものが浮き出ている。隠して騙すほどの知性があるかは分からないが、万が一のことがあっても見分けは付きそうだと判断する。

 

 

 

 後ろで恋太郎と楠莉が状況把握に努めている。

 

「薬が全身に回りきる……って、どのくらいで……!」

 

「個人差があるが……大体一時間弱なのだ……!」

 

 

 

 時間は、ない。

 

「四人分もの『打ち消しの薬』は化学室にたどり着かなければ作れないのだっ!!」

 

「レン!! 楠莉についていけ!! 近くで守り切るんだ!!」

 

「ハルは!?」

 

「出来る限りの足止めはする! ……けど、全員無力化する自信はねぇからな!!」

 

「くっ……わかった! 無理すんなよハル!!」

 

 

 

 掌に拳を当てる、軽い音が鳴った。

 

 じりじりと彼女達四人が囲い込んでくる。

 

 

 

「来るなら来い!!」

 

 

 

 真っ先に動いたのは花園だ。

 おれを無視する形で、恋太郎の方へ突撃していく。

 

 当然、簡単に行かせるわけもなく。

 

 

 

 おれを無視するなら動き方は容易い。隙だらけの後ろから羽交い絞めにして扉の前で振り回し続ける。

 

「おぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

「ちゅーーーーーーっっっっ!?!?」

 

 

 

 これで少しだけ時間を稼いだ。

 流石に危ないと分かっているところに突っ込むほど知能が低下する薬ではなかったようだ。ほかの三人は無理やり扉を突破しようとはしなかった。そんなことをされれば回り続けている花園に当たりケガすることは避けられない。おれとしてもありがたい。

 

 しかし、一対四の人数差は大きい。

 無理に目が回るほど振り回し続けて自身が動けなくなれば、楽々突破されるだろう。

 

 三半規管が完全におかしくならないうちに花園を横へ転がす。

 向こうは完全に目を回したようでしばらくは動けなさそうだ。

 

 

 

「ちゅ……ちゅ……」

 

 

 

「ちゅっ!!」

 

「くぅ!?」

 

 次に襲い掛かってきたのは院田。両手を前に出して組み付きにかかってくる。先ほどの動きを見ておれをスルーするのは危険だと判断したのだろう。

 

 真っ向から手を組んだ力勝負に持ち込まれる。

 

 

 

 くそっ、ゴリラみたいな腕力だとは常日頃毎日86400回は思っていたが……!

 いままでまともに競い合うことがなかったから正しく計れなかったが、まさかおれが押されるほどの怪力レベルとはな!?

 

(いや、薬の影響で強化されてんのか……? 楠莉の吹き飛んだ姿見れば強くなってる気はするんだけど、なんかこいつだけ逆に薬が邪魔してるっつーか……最大値超えてマイナスに振り切ってる気がする。全力には思えないけど十分厄介か!?)

 

 

 

 徐々に押し負けていく自分に焦燥感を感じながら、単純な力押しでは現状勝てないと判断。

 

 

 

 まず二歩下がる。

 

「ちゅっ!?」

 

 腕を引きながら後ろに倒れる。

 急に押される力がなくなりよろけた院田に、足を腹に当てて支えるように。

 

 

 

 少しやり方は不格好だが……巴投げってヤツだよ!

 

 

 

 力は劣るとしてもと技の多さでカバーする。

 

 決して頭から地面に落ちないように、より腕を引き、肩に持ち替え、頭を手で添えながら回っていく。

 頭の変な場所を打ってもらっても困る。

 

「ちゅちゅー!?」

 

 

 

 巴投げはぶん投げないように手で掴んで転がり続けると、倒れた院田の大体腰回りぐらいに腰を下ろすことができる。つまり、いわゆるマウントポジションと呼ばれる状態になった。

 

「……」

 

 

 

 いや、どうしよう。

 

 ……パンチ? ビンタ? いや、気絶するくらいシバいてヒロインにあるまじき顔にするのもな……。

 

 

 

 とりあえずデコピンで済ませとくか。花園が三半規管狂って動けなくなってるし痛みで悶えてくれるなら時間稼げるだろうし、全力でデコピンしとくか。

 

いままでの恨みとか、さんざん照れ隠しで頭から足先までぼこぼこにしてくれたお礼とかそういうわけじゃないけど。とりあえず全力で。

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅ、ぐっ……ぉアアアアアア!!!!」

 

「くっ、言語能力は戻ったから薬の効果がなくなったと思ったがそんなことはなかった!」

 

 

 

 尊い犠牲だった。

 

 

 

 不意に敵意を察してマウントポジションから横に飛ぶ。頭部のあったところに何かが空を切った。

 

 

 

「……ちゅっ」

 

「え、栄逢……!」

 

 今のは、栄逢の蹴りか。危なかった。

 

 

 

 

 

 ……うん。

 

「アレ!? キスゾンビってこんな手段を選ばないタイプなの!?」

 

 

 

 もうちょっと、キスに盲目になる感じじゃないの!? 実際花園はそんな感じだったよね!?

 

 これあれか!? 栄逢の効率的ってフィルター通したらまずおれを始末することから始まるカンジか!?

 

「……ちゅっ!」

 

「あぶなぁ!? 刃物もちだすんじゃねぇ!!」

 

 

 

 カッターをノータイムで取り出してきやがった!

 さっき院田に渡そうとしてたやつか! なんやかんやでまだ栄逢が持ってたんだな!

 

 

 

「ちゅ……!」

「ちゅ……!」

 

 くそっ、花園と院田が脇目も振らずに出口に向かって……!

 

 

 

 栄逢は後だ。

 今は全員屋上に留めるのが先決だ。

 

 視線を二人に向けた途端、足を取られる。

 

 おれの足に何かが取り付いた。

 

「くっ……!」

 

 

 

 

 

 

「好本おまえぇ……、いつの間にっ……!」

 

 好本がおれの足に抱き着いていた。

 憎まれ口のように言葉を吐き捨てたが、自分でも分かるくらい口角が上がる。

 

(気配が……いや、敵意が全然感じられないくらい小さい。こういう強みがあるのか、お前には……ッ!!)

 

 

 

「ちっ! 感嘆してる場合じゃないか。こいつを何とか引きはがして……」

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 

 

(……どうやって? 好本はどこまで加減すればいい?)

 

 

 

 吹けば飛ぶような小動物。

 おれのような喧嘩慣れした男からすれば常人を引きはがすなんて造作もないことだが、最弱の生物に致命傷を与えずに勝つとしたら。どこまで繊細な手加減が必要なのか答えに窮する。

 

 

 

「そんで、その状況でもテメェの殺気は据え置きだよなっ!」

 

 両手をクロスし、凶器を持って襲い掛かった手を抑える。

 

 

 

 栄逢が。

 

 薬に汚染されたハートの目で射貫く。

 

 

 

「……レン。花園と院田は任せる」

 

 

 

 小さく深呼吸をする。

 

 心の中に、ナニカが灯った。

 

 

 

「テメェらは全力で相手してやる。安心してかかってこい!」

 

 

 

 いつからかおれの中で出来た心の合図。

 

 右眼が熱くなった時が、おれの本気の合図だ。

 

 

 

 三人目と、四人目。

 

 相手にとって不足はねぇ。

 

 

 

 大怪我させることなく、行動不能にする。または、恋太郎達が来るまで時間を稼ぐ。

 

 今の自分にどこまで最善が尽くせるか。

 おれはどこかわくわくしながら、戦闘モードに脳を切り替えた。




原作第十一、十二話、未完。

副題「薬の災厄」踏破。



お花の蜜大学附属高等学校学年次席
  青井春人

   VS

お花の蜜大学附属高等学校学年主席
 キスゾンビ栄逢凪乃
   &
お花の蜜大学附属高等学校図書委員
 キスゾンビ好本静

[勝利条件]
・時間経過
・二名の無力化

[敗北条件]
・春人が再起不能になる
・二名の屋上脱出を許す
・二名の負傷させる
・【???】を当てられる

次回もお楽しみに。
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