君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

17 / 24
やぁ。
モンハンはい……じゃない、100カノはいいぞ。(少し揺らぐ合言葉)

楽しみが沢山増え、仕事の範囲も増え、遅筆具合に目を回し、日々の生活に追われる毎日です。

アニメ二期も終わっちゃったにも関わらず、ラスト数話走りきれておりません。なんたる体たらく。

でも、だからこそ!
アニメが終わった穴が空いてしまった人たちのためにも頑張らねばならんというわけですな!
相変わらず遅いのはまだ変わりませんが、頑張って供給していきますゆえ! 楽しんでいただけたら幸いです。


青い春と愛の薬

 春人が好本静、栄逢凪乃と本格的に交戦した頃。

 恋太郎と楠莉は科学室に到達した。

 

 

 

 キスゾンビとなってしまった彼女達4人を元に戻すべく、俺たちは早速『打ち消しの薬』を作る作業に入っていく。

 

「楠莉先輩! 俺も何か手伝います!」

 

「いや、素人が下手に首つっこむとマジで危ないからやめろなのだ」

 

「あっ、はい」

 

 

 

 専門的な知識や技術が必要なら引き下がるしかない。楠莉の作業を邪魔しないように、恋太郎は廊下を窓越しに見張り始めた。

 春人の足止めがあるものの、どこまで通用するかは分からない。どれだけ時間を稼いでくれるのか。また、何人まで妨害出来ているのか恋太郎達には分からないのだ。

 

「あっ、あれは……!?」

 

 廊下の先に人影が二人。

 

(羽香里と唐音だ……! 俺たちを探しながら向かってきてる……!?)

 

 打ち消しの薬を作っている間、楠莉は動けないと判断した恋太郎は真っ先に囮となって時間を稼ぐ方法を思い付いた。

 

 彼女達の狙いは俺だ。そんな確信が恋太郎にはある。

 

(何故ならキスゾンビだから。大好きな人とキスしたい薬なら、二人とも大好きな俺にキスするために追いかけてくるはずだ。なら、俺が目の前に出て全力で逃げれば楠莉先輩は邪魔されない!)

 

「楠莉先輩! 暴走した二人が来ます! 俺が囮になって離れるので、今のうちに完成させておいて下さい!」

 

「げっ、もう来たのだ!? ハルトのヤツ、ちゃんと足止めしてたのだ!?」

 

「静ちゃんと凪乃はまだ来てない。二人までが限界だったのか……!?」

 

 

 それでも、静ちゃんと凪乃が後から来てしまっても楠莉先輩を守れない。だから、そこだけは信じるしかない。

 

 化学室の扉を勢いよく開けて、恋太郎が叫ぶ。

 

 

 

「こっちだ!!」

 

 気づいた羽香里と唐音が追いかけ、恋太郎が走り出す。

 

 

 

 春人はこっちに来ることは期待できない。なら、俺がなんとかしないと。

 

(そっちは任せたよ。ハル!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況を整理。

 おれがこの屋上で出来ること、やらなければならないことの確認及び、現在厄介な要素を並べていこう。

 

 まず、花園と院田は……どうしようもない。悪いな恋太郎。

 

 今から追いかけると好本や栄逢も一緒に連れて行ってしまう事になる。そうなるとかえって楠莉の嬢ちゃんや恋太郎の足手まといになってしまう。

 

 

 

 次に、好本と栄逢。2人なら確実に足止め出来る。

 この2人の行動自体は膂力こそ薬のチカラで強化されているものの、そこまで脅威ではない。1人ずつかかれば余裕を持って無傷で無力化できる。

 

 

 

 問題は、この2人の対処を同時に行わなければならないこと。これに尽きる。

 

 好本は戦闘において、人に危害を加える事が出来ないほど弱い。好本と爪楊枝のどちらかが強いかと言われればチクッとした痛みのある分、爪楊枝の圧勝だろう。

 その上で耐久力もゴミである。吹けば飛び、おれのパンチなんてまともに当てようものならこの屋上にお墓が出来る。

 

 だからこそダメージの許容量が低く、攻撃を当てることはおろか多少の事故でぶつかっただけでも大怪我になりかねない。

 

 それはおれも恋太郎も望むところではないのは百も承知。

 薬を飲んでいようがパワーバランスは変わらず、ただ動きを封じてくるだけなので簡単に引き剥がせる。

 

 

 

 栄逢は、先程からカッターを右手に持って的確に倒しにきている。というかさっきから急所の位置しか攻撃が飛んで来てなかったぞ。おれなんかしたか???

 

 

 

 ……あっ。なんかしたわ。そういや保健室で怒鳴ってたわおれ。

 

 ……いや、それかなぁ? それかも。

 

 

 

 実際に含まれているかは定かではないが、おれを倒してからでないと恋太郎の下には行けないとは判断したようだ。

 

 これ以上はふざけずに分析すると……カッターは脅威ではあるが、効率を求めるあまり動きが単調過ぎる。どこまでも人体の弱点ばかりをストレートに狙ってくるので、動きが読みやすく刃物を持っていても凌げられそうだ。

 今まで喧嘩のひとつもしていないからだろう。牽制やカウンター、体捌きのやり方を身につけないとおれとの戦闘では技術的な面で勝負にはならない。

 

 ただ、単純におれと同等かそれ以上の腕力は薬の影響で手に入れていた。ダメージ覚悟でゴリ押しされるとかなりマズイことになる。現状かなり嫌な戦法だ。

 細心の注意を払って無力化を狙うおれは、小手先の技で切り抜ける場面が多くなるだろう。それらの牽制が効かないまま突撃を繰り返されるとジリ貧だ。徐々に不利になってしまう。

 

 そこまで理解されるまでに決着をつけたいところだけど……。

 

 

 

 腰には抱きつきながらこちらを見る好本。

 目の前には、おれの両腕で阻まれているカッターを押し込もうとする栄逢。

 

 好本はおれの腰から肩の方に手を伸ばし始め、さらなる動きの妨害を。

 栄逢のカッターは首の頸動脈に向けて段々と近づいていた。

 

 

 

 さてさて、どうしようか。

 

 カッターを遠ざけるには、好本の妨害をやめさせないとロクに動けない。

 引き剥がそうにも、片手が離れただけでも栄逢にパワー負けする。

 

 

 

(……割とマズイ状況なのが笑えねぇな!)

 

 まともな無力化方法も思いつかないまま、劣勢に陥る。

 

 そんなものを考える前に早く行動しなければならない。

 

 まずはどちらかを引き離して……一瞬でもいい。

 一対一の状況を数秒でもいいから作る!

 

 

 

 何がある、考えろっ、最善の策を! 何が良い!?

 どちらかを引き離すことの出来るナニかを脳みそフル回転させて思い付け!!

 

 いきなり無力化するのは無理だ、一旦押しのけて置いておけッ! まずは戦況を有利にしなくては!!

 

 

 

「あ、アー! あんなところに院田に吹き飛ばされたレンタローガー!!」

 

「『ちゅ!?』」

 

 

 

 ……う、うーん。正直、やけくそ気味の苦しいウソを吐いたと自分でも思う。

 こんなウソに引っかかるヤツは数えるほどもいねぇだろ。

 

 不意に体の拘束が外れ、トテトテとおれの見た方向へ走っていく好本を見るまではそう思った。

 

 

 

「でも,おかげでセーフだ! あっぶねぇなマジでッ!!」

 

 すかさず手首を捻って、栄逢の腕を掴んで思いっきり引く。

 

 一歩だけ歩かせればそれで充分。体勢を崩した栄逢に、おれは一歩だけ踏み込んだ体当たりをしっかりと押し込んだ。

 

 おおう、肩に柔らかい横乳の感触が……って違ぁうッ!

 今はそんな事はどうでも良い!!

 

「ちゅ」

 

「『ちゅっ』」

 

 たたらを踏んだ栄逢だが……手加減したおれの狙い通り、離れただけでダメージは無さそうだ。

 

 ウソに気づいた好本も振り返る。オメェは結構な時間探してたな、もう少し早く気付くと思ってたぞ。

 

 

 

「はぁッ!!」

 

 おれは今の隙に、後ろに向かって踵落としを放つ。

 

 踵をまともに食らった扉のドアノブは、足の形に歪み外れかかった状態へ。これで開ける事が難しくなった。時間が稼げる。

 

 

 

 ほぼまぐれとはいえ、もう気は抜けない。

 出来る遅延行為は全てやる。

 

 それにこれからは好本と栄逢に同時攻撃を許しちゃならない。

 

 もうさっきのようなウソは通じないだろうと考えて、他の対応策が思い浮かばない限り……先程の状態は本来は詰みに等しい。一番警戒しなければならない状況かもしれない。

 

 それによって恐れる事態が引き起こされる事もあるしな……!

 最低限、恋太郎の下には行かせない事を前提に考えた場合。追い詰められるとどうなるか。

 

 

 

 【もう後がなくなる】

     ↓

 【やぶれかぶれで暴れる】

     ↓

 【彼女達が負傷する】

     ↓

 【恋太郎から †死の宣告† を受ける】

     ↓

 【ハルトよ しんでしまうとは なさけない】

 

 

 

 ……うん。おれの敗北条件って、多分目の前のコイツらに倒されるより恋太郎に殺される確率の方が高い気がする。

 

 怪我させる。イコールおれの死。

 

 

 

 おれがやられるのは流石に論外として、いかに無傷で無力化させるか。

 これが最大の関門だ。

 

 

 

 三人がお互いに見やる。

 

 

 

「……」

 

「ちゅっ」

 

「『ちゅ』」

 

 

 

 まず最初に動いたのは好本。それに続くように栄逢が走り出し……好本を追い抜いた。

 

 

 

 ……。

 いやぁお前さん。瞬発力も負けるのかぁ。

 

 栄逢がカッターを突き出す。

 狙いが明らかに眼球を狙ってきているのが気になるけど、難なく手の甲で押すように受け流す。

 

 逆手に持ち替えられたカッターが首に迫るが、腕で阻みながらもう片方の手の平で押すように脇腹に打ち込む。

 

 綺麗にお腹に手が沈んでいった。程々に良い場所に当てられたようだ。

 

 

 

 苦しそうによろける栄逢をよそに、真っ直ぐ走ってきた好本の頭を鷲掴む。

 

 好本の方が体が小さいため頭を押さえるだけで腕の長さ、つまりリーチが届かなくなる。

 よって、好本は腕を振り回すくらいしかできなくなった。

 

 仮に振り回した腕が当たったとしても痛くないし、肝心なのは至近距離まで近づかれ拘束されないようにすることだ。

 

 

 

 軽く押して遠ざけ、すかさずデコピンを打ち抜く。

 

「……っ!? 『ちゅぅ……!?』」

 

 

 

 コイツらには痛覚がある。痛みでひるむのは院田の尊い犠牲で判明済み。

 しばらく苦しんでてもらおう。

 

 

 

 今度は栄逢に注視。

 このまま順番に相手取って時間稼ぎしていけば、楠莉の『打ち消しの薬』が間に合うはずだ。

 

 

 

 そんな考えは、振り返った途端に消し飛ぶ。

 そう、甘くはなかった。

 

 咄嗟に頭部を守るために手を上げる。

 

 手の甲に打撃音。

 手と頭との間の空間が潰れ、勢いそのままの衝撃がこめかみに伝わり皮膚を僅かに揺らす。

 

 さらに捻じ込まれる脚は……おれの身体を反らして折り曲げ、吹き飛ばした。

 

 コイツ……っ!

 よりにも寄って蹴ってきやがった!!

 

 地面に両足をつけ、過度に飛ばされないようブレーキをかける。

 上履きの摩擦で焼けたゴムの匂いが微かに鼻につんざく。

 

 

 

 どこかで聞いたことがある。脚で放つキックの威力はパンチの約3倍から4倍であると。

 そして薬による一時的な肉体強化。強くない訳がない。

 

 さらに、蹴りを使ったという事は。急所を狙って短期決戦に持ち込むのは効率的でないと判断された結果だ。

 

 どこまで無茶をやってくるかは分からないが、今までより面倒な戦術に切り替えている事は確定した。

 

 栄逢の攻撃はおそらく。もう止まらない。

 

「ちゅ……っ!」

「キスしたいとは思えねぇくらいの殺気を出すのやめてくれねぇか!?」

 

 

 走り出した栄逢をおれは迎え撃たなければならない。

 

 相手に合わせるように、足を大きく上げて横に薙ぐ。

 お互いの頭部を狙ったハイキックがぶつかりあった。

 

 

 

 ……くそっ、押し込まれる。

 

 力の差を悟るのに時間はそんなに要らない。吹き飛ばされないように力を弱くさせ、押し負けて崩れた足回りは簡単なターンで取り戻す。

 

 身体を一回転させたため、栄逢からほんの少し目を離すことに繋がる。

 それは本来は致命的かもしれない。だが、相手は力が強いだけの素人。

 

 隙を見つけることは出来ても、そこを突くのは容易ではない。

 

 

 

 だから。

 

「見えてんぞ」

 

 捌けないワケがない。

 

 

 

 カッターを持たない左手からのストレートを手のひらで受け、そのまま外側に流す。

 右手には相変わらず逆手持ちのカッターが握られていて、次の一手はそれだ。

 

 雑に横に振り回されるカッターを一歩後退しながら回避する。

 

 矢継ぎ早に拳とカッターを浴びせてくる栄逢。

 それでもおれはケガひとつ負うことなく対処していく。

 

 

 

 防ぐのは簡単だ。

 まず知識として喧嘩のボキャブラリーが少なすぎる。

 右、左、右、左と交互に攻撃しているのが分かっていればバカでもまともに喰らわない。フェイントの一つでも出来ない限り絶対にやられん。

 

 もっと言えば薬の筋力増強効果は、ただ強くするだけ。

 それだけじゃ戦闘技術を持つ喧嘩野郎なんかには遠く及ばないだろう。さらには頑張って鍛えた高校エリート力士レベルぐらいに上昇した筋力を一般女性が使いこなせる訳もなく、精々5割は使えてもそれ以外は持て余す。

 

 

 

 その上、手と足の有効射程もイマイチ理解出来てねぇなら。

 

 足を浮かせた瞬間の栄逢を見逃さない。

 体の中心に狙いをつけ、首の下……正確には胸元の少し上へ拳をコツンと当てる。

 

 至近距離の足技ほど迂闊なモノはない。仮に当たってもスネから足先に当たらない限りそこまで痛く無いんだ。せめて近づいてくるのを予想して膝蹴りまでに留めておけばまだマシだったかもな。

 

 

 

「ふぅぅー……っ!」

 

 呼吸を最大限稼働させ、酸素をガンガン体内に流し込み脳みそをぶん回す。

 

 栄逢の体力の総量。どこまで消費された?

 栄逢の体勢。無理に吹き飛ばせば受け身が取れないぞ。

 

 ……科学の細かい数字や物理の法則なんざ、ここでは用が無ぇ。

 

 今まで馬鹿やった喧嘩の経験から、打ち込む威力をハジき出す!

 

 

 

 思考整理。手当たり次第に並べていくんだ。

 スタミナ。疲労。体幹。運動神経。薬の作用。怪我の起こりやすい事例。

 他にもあるはずだ洗い出せ!

 

 肘の筋肉、肩の筋肉、腰の筋肉、足の筋肉の順番。

 パワーのリミッターの壁を設定。最後にある足の筋肉までの稼働率を100%として、思考した要素を反映させた答えの割合を脳内に棒グラフを作ってざっくりとイメージする。そこから割合を仮定した上で出来る限り威力を理想の加減に近づける。

 

 あぁもう! ぶっつけ本番やってみねぇと答えが正しいかどうかすら分からねぇ!

 勉強は出来ても、頭良くなけりゃ応用が出来ねぇ良い例だなぁチクショウ!

 

 出来る限りはした!

 この一撃!! 受け取れ!!

 

 

 

「……だぁっ!!」

 

 

 

 押し込む。衝撃は最低限。

 

 

 

 タタラを踏ませた。脚の筋肉を考慮。

 

 

 

 尻餅をつく。疲労の状態を看破。

 

 

 

 上体が地面に転がる。制服に擦り傷が出来た程度なら問題ない。

 

 

 

 勢いのまま捲れるスカート。…………ほんとごめん。

 

 

 

 よしっ、とにかくほぼノーダメージで押し切った!

 

 

 

 あーくそっ、たった一発パンチブチ込むだけでここまで神経擦り減らさねぇとならんのか!! しんどすぎるって!!

 

 ただ、無尽蔵のスタミナでないならまだやりようがある。このまま疲労困憊まで持って行けりゃやれるかもしれん。

 

 最高なのは恋太郎との接触を諦めてくれる事だけどな!

 多分それは無理だよな! 諦めちゃくれねぇよな!

 

 

 

 押し込んだだけにも関わらず、無事な栄逢はゆっくりと立ち上がる。

 

「ちゅ」

 

 キスゾンビとやらは続いている。それは厄介だが……明らかに今の栄逢は息を切らしている。

 

 

 

 時間稼ぎ、無力化からの捕縛、または無理矢理羽交絞めしての拘束。

 やっと光明が見えてきて、ある程度の手段なら通りそうになってきた。

 

 どれかさえ成功すれば勝てる。とりあえずは、だが。

 

 

 

 

 

 何処かで。

 

 からんっ、と。

 

 音がした。

 

 

 

 それは、蛇のようにまとわりつく暗殺者の様な気配を幻視させる。

 

 

 

 黒い液晶が屋上の地面に置かれていた。

 

 そこで、気付かなかったおれはどれほどマヌケだろう。

 

 その視界に。

 もう一人が、いない。

 

 

 

 気付くのに、一秒。

 

 状況を把握するのに、一秒。

 

 両手を首に回され、悪寒と共に下を見るのに一秒未満。

 

 

 

 好本静は二度刺す。

 意識の外から、栄逢の殺意に紛れるように。

 

 

 

 好本の顔が、すぐ目の前まで来ていた。

 

 

 

 ぎゅっ、と強くはないけれども弱くもない力で密着する好本。

 

 ここから避けるのは出来なくもなかったが……もう手遅れだ。コイツは既にジャンプして飛んで来ている。

 そこから無理に回避したら……最悪、好本は頭から落ちて地面で大根おろしだ。怪我をさせないために受け止めるしかない。

 

 しかも、両腕で首に手を回されている。

 その意味も分かってしまった。

 

 

 

 さっきの音は落下音。

 

 

 

 ()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()おれに飛び掛かりに来たっていうのか……!?

 

 

 

 好本の目がハート形に光っている。思わず目が合った。

 薬の影響だろう。まともな状態ではないのは明白……だ。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……………。

 

 

 

 まて。

 

 

 

 なにか、おかしい。

 違和感が、頭の奥にチリチリと火花が散る。

 

 

 

 

 

 よく考えろ。

 そもそも、おかしい部分があるぞ。

 

 脳が今までの手掛かりを。

 違和感を照らし始めた。

 

 

 

 

 だって、そうだ。

 

 栄逢は理由が分かる。アイツはおれを障害と見做したんだ。

 恋太郎に近づくための実力行使。

 

 

 襲ってくる理由がある。

 

 

 

 花園は?

 

 おれが止めた。アイツはそもそも暴力に頼っていない。

 結果だけで言ったら阻まれただけだ。

 

 

 

 院田は?

 

 おれが止めた。アイツは襲ってきたから。

 でもおれは恋太郎達との直線上にいたし、花園を直前で食い止めたのも見ていた。襲いに来る理由がちゃんと明確だった。

 

 

 

 でも、お前だけなんだ。

 

 ……そうじゃないか、好本。

 

 

 

 好本だけは、例え恋太郎の方へ向かえた状況にいたとしても。

 

 おれに真っ直ぐ向かって来ていた。

 ということは、まさか……。

 

 

 

 

 「私に貴方を——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————愛させて下さい」

 

 

 

 

 

 いつぞやの夢を、思い出した。

 故に、血の気が引いた。

 

 

 

 

 

 『好きで——————』

 

 

 

 

 

「う”お”あ”あ”あ”あ”あ”アッブネェッッッ!!!!!!」

 

 

 

 好本の幼げな小さい唇が迫っていた。

 叫びながらも、すんでのところで回避する。

 

 咄嗟に出来たのは首を大きく上に向けただけであったが。

 好本のキスは喉に当たった。

 

 

 

 そうだ。

 他の恋人は恋太郎に首ったけなのは言うまでもないけど、好本だけは唯一の恋太郎とおれ、両方ともに好意をぶつけた彼女じゃないか。

 

 そして、あの時の感情をまだ心のどこかに潜ませていた。

 それならおれが狙われるのも納得がいく。

 

 

 

 でなければ、キスしたい標的におれを選ぶはずがない。

 

 

 つまり好本は、まだおれのことを……。

 

 

 

 ……。

 

 少し顔を歪める。

 

 

 

 いや、気にしても仕方ない。

 乙女の本懐がどんなモノであれ、このようなカタチで結ばれてはならないはずだ。

 

 やるなら本人の意志で、本人なりに覚悟を決めてキスするべきだろう。

 あくまで常識として。

 

 少なくともおれに好意があるとか関係なしに、薬のチカラで無理矢理するモノではない。絶対に。

 

 

 

 好本の顔を両手で押さえてとにかく遠ざける。

 が、好本はしっかりと密着しているため離せない。それどころか下手に力を入れ過ぎると、好本の首に要らぬ負担を掛けてしまうおそれもある。

 どうしても加減する必要に迫られる。

 

「くそっ、なんとか離れろっ!」

 

「ぅ〜っ……!」

 

 

 

 そして、それが致命的な隙になってしまった。

 

「ちゅっ……!」

 

 栄逢が迫ってくる。

 手に持ったカッターを最早使わず、助走込みで後ろ回し蹴りを放ちに来ていた。

 

 

 

 避けれる。

 多分、通常なら。

 

 でも、今は状況が違う。

 好本がおれに抱きついた状態である以上、栄逢からの攻撃に巻き込まれて当たってしまう確率が非常に高い。おれだけならまだしも、間違っても好本には喰らわせる訳にはいかないんだ。

 

 

 くそ……。

 

 誰かを守りながら、なら。

 チンピラに絡まれた女性を守った経験ならいくらかあるってのに。

 

 襲いに来たヤツを守りながら戦い続けるなんざ

 

 やったこと、ねぇよ。コノヤロウ。

 

 

 

 守るために。

 好本の顔を先程までの突き放す動きとは反対に、強く胸元に沈めた。

 

 それと同時に背中に大きな衝撃が入る。

 身体が浮き、屋上の金網の方向へ飛んでいくのを自覚する。

 

 おれか好本か、どちらを狙ったのかもよく分からないその蹴りは、一時的とはいえおれの意識を奪いつつ全身を脱力させるには十分な威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………。

 

 …………再起動完了。

 

 防ぐには受けるダメージが大き過ぎる。

 避けるには好本と共にいては間に合わない。

 

 でも、どちらのリスクを取るかと言えば。

 

 当然、好本を守れる選択肢のある前者だった。

 

「……痛ってぇ」

 

 

 

 運はおそらく良くなかったらしい。

 

 意識まで持っていかれたのは、屋上の周りに設置されている金網の硬い柱部分に頭をぶつけたせいのようだ。目覚めてから後頭部の頭痛が酷い。

 

 左の肩甲骨付近に激痛。蹴りをまともに食らったからだろう。骨にヒビが入っててもおかしくない痛みだ。薬による筋力強化のせいでもあるだろう。急所や内臓にそれほど影響はないのが救いだな。

 

 

 

 まだ、動ける。

 気絶した時間も幸い短いようだ。

 

 おれの胸元には、おれの腕からなんとか抜け出し顔を近づけようとする好本がいた。

 

「……ちゅ」

 

 こちらの方へ見上げる好本。

 

 ……可愛いという感想は確かに持ってしまうが、だからといって腕の拘束を解いてしまうと……好本にも良くない結果になるし、巡り巡って恋太郎に殺される。

 

 

 

 早くしないと栄逢が屋上から出て行ってしまう。

 

 そちらを見ると、栄逢はガチャガチャと扉を開けようとしていた。

 当分は無理だ。ドアノブは力任せに破壊したおかげで手間取っている。

 

 

 

 そしてこれは好機。

 この瞬間の今だけは、二人同時ではなく順番に対処出来る。

 

 追い討ちされていたら流石にまずかったが、だからこそのチャンスタイムと言ったところかねぇ。または怪我の功名というかなんというか。

 

 でも、その辺りの悪運は持っていたらしい。

 

 

 

 おれは片手でズボンを緩め、引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「栄逢、終わりだ。もうテメェの勝ちはねぇ」

 

「ちゅ…!?」

 

 そう言って、栄逢の前に立つ。

 ボロボロでなけりゃ、もう少し格好がついたんだけどな。

 

 おれに気づいた栄逢は、やっと自分の状況が不利になったと分かった。

 

 

 

 好本はおれのベルトで金網に拘束されていた。

 

 いくら暴れても好本なら抜け出せない。

 金具部分は背中になるよう縛ったから自力ではもう動けないだろう。

 

 

 

 お前一人を対処するなら、もう問題は一つもない。

 

 カッターを再度取り出し、突き出してくる栄逢の手に向けてミドルキックをぶつける。

 手から離れたカッターは地面を滑っていった。

 

 

 

 そして、無防備になった一瞬。

 

 おれは栄逢を抱きしめた。

 

 

 

 しばらく抵抗するが、栄逢は徐々に力が入らなくなっている。

 

 

 

 

 

 いつか、恋太郎が言っていた事がある。

 おれがハグした連中が軒並み眠ると。

 

 実際、いつだったか恋太郎の前で喧嘩の仲裁をした時。

 小脇に抱えた二人を沈ませた事がある。

 

 

 

 だが、それは超能力とかそういうもんじゃない。

 

 大量の睡眠薬を身体に取り込みまくった結果、おれの人体に影響が出るようになっただけだ。

 

 

 あまり人に話せる内容ではないけど。

 

 家族がいなくなっておれが使い物にならなくなっていた当時、周りに当たり散らす度合いが酷すぎて眠っていた方が都合が良かった時があった。

 当時のばぁちゃんが手を焼くレベルまで狂っていた、と聞く。……自我すらあったかどうか、おれ自身が覚えていないほどだ。

 

 それでなくとも、ストレスから明らかに睡眠時間が欠如していたおれに対し、朝日のばぁちゃんが薬膳家に相談して薬膳印の睡眠薬を大量投入した。

 

 

 

 ここで薬耐性の話とも繋がってくる。

 

 早々におれの身体が慣れていったせいで、あらゆる種類の睡眠薬を濃くしていきながら投薬せざるを得ない状況に朝日のばぁちゃんは陥った。

 

 塗り薬、飲み薬、注射。

 

 投薬の為に一時間拘束される事もあったし、食事も摂らなかったために点滴と同時に流し込まれる事もザラだった。

 

 

 

 相当の量を摂取したおれは、やがて睡眠剤の成分を体外へ排出する量が追いつかなくなっていった。

 

 その影響で、常人が吸ったら眠くなる程度の軽い睡眠促進効果なら触れるだけで発生出来るようになってしまった。

 

 

 

 ……今は大分弱くなっているが。もう睡眠剤に頼っていない現在では身体から成分が吐き出されていくばかりである。

 

 

 

 こんなに長い間ハグしなくても。

 昔は触れただけで充分だったんだがなぁ……。いや、でもあまり持っていて良いモノでもないな。

 

「今回ばかりは、この体質に感謝だな。どうしても他の方法って考えると攻撃して気絶させるくらいしか思い浮かばん。好本を拘束するのに使ったベルトは流石に一本しかねぇし」

 

 

 

「ちゅ、ちゅぅ……っ!」

 

 やがて、栄逢は指さえも力が入らないのか、おれの身体からずり落ちていく。

 

 流石に転ばせる訳にもいかないため抱き止め、ゆっくりと地面に降ろした。

 

 

 

「すぅ……、すぅ……」

 

「……ふぅ。とりあえず、こっちは一件落着。……かね?」

 

 制服の上着で栄逢の腕を縛り、好本がまだ拘束から抜け出していないことを確認すると、壊れたドアノブを直すためにカバンからかんたん工具セットを取り出した。

 

 

 

 

 

 それから。

 おれは化学室へ直行。

 

 二人の無力化を知らせ、まだ花園と院田が脅威であるなら加勢するためだ。

 

 しかし、化学室には恋太郎どころか楠莉の嬢ちゃんさえ見当たらない。

 残っていたのは、楠莉の嬢ちゃんが行ったであろう調合の跡だけだった。

 

 

 

 ならば『打ち消しの薬』は完成したのか、と辺りを散策。

 

 少し奥に進んだ廊下で4人とも全員発見した。

 

 

 

 まぁ、うん。花園と院田がキスしているのを恋太郎達がなんとか引き剥がそうとしている光景だ。

 

 いや、どういう事だ。本当に。

 

 聞けば、ピンチだった恋太郎がお互い好き同士でもあるだろう二人を試しにキスさせてみたら……見た通りのいかがわしい事になってしまったらしい。

 

 長い時間キスし続けているのか、2人の唇が一段と艶やかになっている。

 そんな様子を直視するのは気まずいが、『打ち消しの薬』を使うまでの時間制限がある以上そんな事は言っていられない。

 

 薬は飲み薬だ。口に入れなければ始まらない。

 おれの力を合わせても、2人を引き剥がすのには5分くらいかかった。

 

 薬の影響で無駄に馬鹿力を発揮していたせいでマジで疲れた。

 

 

 

 

 

 屋上に戻って、好本と栄逢も『打ち消しの薬』のおかげで無事回復に成功。

 全員を保健室に放り投げて、目覚めるのを3人で待つ。

 

 やがて、少女達は同じくらいのタイミングで目覚め出した。

 

「ここは……?」

「……!? ……っ!? 寝ぼけてなんかいないんだからねっ!!」

「私は一体……? なぜ……青井春人にあんな事を……」

「『申し訳ない』〝の極み〟」

 

「皆……!」

「気にするな、みんな無事ならそれでいいだろ?」

 

 

 

「なんで春人さんは磔にされてるんですか!?」

 

 みんなが目覚めた時、おれは両手足を縛られていた。

 

 

 

「んー、なんでだろう、おれにもよく分かんない。恋太郎への釈明をしたいんだけど何も聞いてくれねぇんだこれが」

 

「安心していいよ、羽香里」

 

 

 

「コイツの骨は拾っていいから」

「まさか火葬するだけでは飽き足らず、遺品をゴミにするとこまで信頼が墜ちかけてたのか!? おれは無実だーっ!!」

 

 つい叫ぶ。

 みんなを……厳密には2人だけどさぁ! 助けたことを感謝されても、こんな扱いを受けるのはどうかと思いますよ!?

 

 

 

「いいよ。じゃあ今回の件でハルがやらかした事を並べて行こうか」

「え? ああ。……頼むわ」

 

「羽香里を振り回し」

「事実ですね」

 

「唐音のおでこに跡が付くくらいのデコピンをして」

「すごく痛かった」

 

「静ちゃんの大事なスマホをあろうことか落として傷つけ」

「〝責めるなら〟『ワシだけにしてくれぃ』」

 

「凪乃の下着を覗き見た」

「あの時の青井春人の顔は忘れていない」

 

 

 

「反論は聞くけど……納得できる言い訳出来そう???」

 

「いっそ、殺してくれ……っ!!」

 

 

 もう顔を背ける事しか出来ない。

 今回のやった事を羅列したら、そりゃ恋太郎も笑顔に青筋浮かべますわ。

 

 

 

 そりゃあね。助けるためとはいえ、ね。

 

 おれが正しい想い、正しい行動だとしても、恋太郎は彼女達の彼氏であるから。

 

 

 

 例え良かれと思った事でも、ほんの少しでも傷つく事は容認する訳にはいかないのだろう。恋太郎はこう動くしかない。

 

 まぁ強いて言うなら、彼女達さえ許せば恋太郎も矛を収められる。むしろ敢えて行き過ぎた行動を恋太郎が率先して怒りとともにぶつける事で、全員が許し合えるように持って行けると考えてもいるはずだ。

 

 もしかするとパフォーマンスの意味合いの方が多いかもな。流石は恋太郎だ。こういう時の頭の回転はおれより速い時がある。

 まぁそれはそれとして、少なからず危害を彼女達に加えたのは事実ではあるので今後の反省としてこれからはなんとかしなければ。

 

 

 

「全部……楠莉のせいなのだ……!!」

 

 

 

 叫ぶ声が聞こえた。

 心からの吐露が痛々しく耳に響く。

 

 

 

「ごめんなさいなのだ……! 皆……! 皆は楠莉が作った薬のせいで、あんな風になっちゃったのだ!!」

 

「ごめんなさいなのだ……! ごめんなさいなのだ……!」

 

 

 

 シリアスな雰囲気になってきたため磔にされたままでは格好がつかないと思い、四肢を縛っていたロープを引きちぎり着地しておく。

 

 

 

「薬膳楠莉……」

「楠莉……」

「楠莉先輩……」

「〝薬物を支配せし者(ドラッグルーラー)〟……」

「正直、またやらかしやがったなって感想しか……」

 

 おれのセリフだけ、隣の好本から口を塞がれたため阻まれた。

 

 

 

「確かに先輩のせいでああなっちゃいましたけど……先輩の薬のおかげ元に戻れたんだからプラマイゼロなんじゃないですか?」

 

 

 

 恋太郎が失意に沈む楠莉に問いかける。

 

「……」

 

 

 

 楠莉はまだ顔を上げない。

 

 だけど。

 あいつが言葉を尽くすなら、きっと大丈夫だ。

 

 

 

 伊達に4人も彼女がいない。

 ちょっとした気恥ずかしさから、少し保健室から離れることにする。

 

 

 

 あんなとんでもない失敗をやらかすヤツでも、おれにとってはかけがえのない姉のような存在だ。

 

 それに、何をしてもおれと楠莉が一緒にいると……甘い雰囲気にはならないだろう。

 おれのせいで恋太郎に甘えられないだとか、恋太郎とイチャつけないとか言われても困る。

 

 さて、屋上のドアノブも応急処置しただけだし。様子見に行かねぇと。

 早く帰れるよう、後始末を先に進めときますかね。

 

 

 

「楠莉は……ッ!!」

 

 おれは、足早に保健室を抜け出した。

 

 

 

 

 

「薬も恋太郎も、大大大大だ〜いすきなのだーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忘れ物?」

 

「——————。」

 

「うん、分かった。でもいいの? 一緒に行こうか?」

 

「——————、——————。」

 

「そう? じゃあ、行ってらっしゃい」

 

 

 

 恋太郎の声を後ろから受け、集団から離れるようにワタシだけ学校に戻る。

 

 おそらくは私だけが気付いていた。

 

 みんなに入った連絡を確認する。

 

 

 

 

 保健室を出てすぐに入れたであろうメッセージ。

 

 青井春人はまだ学校にいるが、ワタシ含めた全員は先に帰っていいという連絡。

 

 

 

 その時から、思っていた事があった。

 

 

 

 居場所に憶測はついていないが、何となく屋上に向かう。

 

 みんなといつも一緒にいる場所だ。

 

 

 

 すぐに見つかった。

 

 開いたドアの近くに見えた。

 

 

 

 肝心なのは、見えた脚からして青井春人は倒れているということ。

 

 

 

 近くには工具のドライバーが落ちている。ドアノブを直した後だろうか。

 

 倒れた理由にワタシは心当たりがあった。

 

 

 

 事件の前に起こしていた行動で、青井春人が一番最初にしたこと。

 

 

 

 水筒の薬をコップに入れてみんなに回した時の事だ。

 

 

 

 

 

 

 真っ先に『毒味』をしたのは彼だ。

 

 

 

 多分、本来の薬の作用を受けてしまった結果がこれだ。

 

 キスしたいという欲求の限界が来て、無理矢理意識を飛ばしたのだろうか。

 もしかしたら睡眠薬を持っていたのかも知れない。寝顔は苦しそうではあるが、寝息の方は安定していた。

 

 おそらく、時間を稼いで薬の効果が切れるのに賭けたのだろう。

 しかし、未だに赤らめている頬は薬の効果がまだ出ている証拠かも知れない。

 

 

 

 少し、考えたことを思い返す。

 

 ワタシ達が飲んだ場合。

 本来、女性が服用してはいけないために暴走してしまう。

 

 でも、男である場合は。

 正常な『キスがしたくなる薬』として、一種の媚薬として働くだろう。

 

 

 

 それでもキスを拒否すれば倒れるレベルだったのは驚いたけれども。

 少なくとも、『打ち消しの薬』とやらを使わなくてもいいのではないか。

 

 なんらかの形で発散さえ出来れば、青井春人は元に戻るのではないだろうか。

 

 

 

 それにしても、効果が出たのはワタシ達と同じ頃のはず。

 

 それなのに、欲望に負けないどころかワタシ達を止めてくれた。助けてくれた。

 

 

 

 感謝して、ワタシに出来ることならしてあげたいと思うのは当然のこと。

 

 

 

 でも。

 

 ワタシの心がざわめく。

 

 

 

 あなたが恋をしていなければ。

 あなたに恋人がいなければ。

 あなたにその機会がなければ。

 

 

 

 あなたのファーストキスは、ワタシになってしまう。

 

 

 

 手を添える。

 それでもワタシはあなたを助けたい。

 

 

 

 失望されるかも知れない。

 二度と友達とは思われないかも知れない。

 

 だから……このままずっと言えないかもしれないけど。

 

 

 

 今だけ。

 

 ワタシを。

 

 受け入れて欲しい。

 

 

 

 口元の赤と紅が、交わった。

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

「——————。」

 

「ああ、おはよう……なんでいるんだ?」

 

「——————、——————。」

 

「そうか、迷惑かけちまったな。膝枕なんてしなくてよかったんだぞ?」

 

「——————。」

 

「……そうだな。帰ろう。送っていくよ」




原作第十一、十二話、十三話、完結。

副題「愛と呼ばない口づけ」踏破。

次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。