最近1から読み直して、誤字修正も頑張っている作者です。
100カノはいいぞ。と、面と向かって言えるようにならねば!
と言う事で。
第一話を加筆修正!
もちっとだけ読みやすく! 分かりやすく!
変わってます!
……えっ? 他の話はどうなんだ? ……誤字修正しか出来てないのでぇ……変わって〜……ないかも?
ぜ、ぜひっ! この機会に読み直してね!
そろそろ。
そんな予感は何処かでしていたかもしれない。
ただ、不意に来た。
それだけに尽きる話ではあった。
私の下駄箱にソレがあったのは、楠莉先輩のキスゾンビ事件があった日から次の日の事でした。
その時は、まさに王道と言ったような置き方にワクワクしたものがあったことは否定しません。
私は、自分の下駄箱からそのラブレターを取り出しました。
お昼休みに入れば、恋太郎君達をはじめとしたいつもの皆さんが屋上に向かうための準備をします。
その時までなんとなく読みづらかったので、教室から移動する直前のこの時に意を決して封を開けました。
誰もが私を注視する事ない、ご飯の準備に目を向けるスキマの時間で。
『好きです。
突然ですが、一目惚れです。
会って話したいので、校舎裏の桜の木の下に放課後来てください』
差し出し人も書いていなかったその文章は、とても拙い印象で。
文字さえもお世辞には綺麗とは言えませんでした。
(一体どなたからなんでしょうか?)
昼食をみんなで食べているというのに、どうしても気になってしまって1人考え込んでしまいます。
「ねぇ、あんた」
不意に、唐音さんが声を上げました。
「なんだよ?」
でも、私に対してではなく春人さんに向けて声を掛けたようです。
少し反応をしてしまった私は、会話に入るわけでもなく恥ずかしくなってしまいました。
「あんたさぁ、そろそろ私達を名字じゃなくて名前で呼びなさいよ」
「うん? ああ、まだ気にしてたのか。……もうそろそろ頃合いかとは思ってるが、もう少しかな」
「はっ? どういうこと? なんか基準でもあるわけ?」
「あるぞ。おれとの仲の良さも当然あるけどもう一つ。それはおれのスキンシップに対して、恋太郎が嫉妬しないかどうか。それが基準だ」
そう言って箸で多めに取った白米を一口で食べて、もちょもちょと音を立てながら口を動かす春人さん。
ですが反対に、唐音さんは箸を止めました。少し考えていたようですが、すぐに疑問符が頭を埋めたのでしょう。さらに聞き始めました。
「なんで恋太郎が関係してくんのよ」
「んー。仮に……仮にだぜ? わざとじゃなく完全に不慮の事故で院田にセクハラまがいのことをしてしまったとするだろ?」
「う、うん?」
「まぁ、簡単に胸に触ってしまったとする」
「うぅっ……」
唐音さんの顔が僅かに赤くなりました。
「はい、今の態度でおれは死ぬことになる」
「なんでよ!?」
そして唐音さんが急な話の飛躍に声を上げます。
急展開が過ぎませんか……?
「正確には院田の不快な感情を検知した恋太郎が自動的に外敵を処理するプログラムを組んでいるから、全自動暴力装置と化したヤツに肉塊にされる」
「私たちの彼氏ってロボットだったっけ……?」
なんとなく理解しました。
隣の静さんが物騒な話にいつも以上にぶるぶる震えだしちゃいました。明らかに青褪めてもいます。
春人さんが安心させるように肩に手を置くと、少し安心したのか口をまたもちょもちょし始めました。
この二人、食べる時によくそんな可愛い咀嚼音を出せますね。わざとですか?
「どこまで許されるか、っていうハードルがいい感じに緩くなってくればこんな感じに触る程度なら許される。まぁ当然、おれとの友達としての関係が進むのも加味してほしいところではあるが……」
そう言って、春人さんは人差し指を立てます。
「少なくとも、院田にこうすると——————」
人差し指を唐音さんの胸の中心辺りに近づけ、ギリギリ触れるかどうかのところで止めたところで。
春人さんの背後から死神へと変貌した恋太郎君が現れました。
「——————神への祈りをささげる時間を用意されたのち、地獄に連れてかれる」
「ハル? 何をしてるのかな?」
「さっきまで凪乃と遠くでイチャイチャしてたんじゃなかったのか? 大丈夫だ、院田に分かりやすくお前の恐ろしさを教えてやってるだけだからな。冗談だから向こう行ってろ……ねぇ、顔近すぎない???」
「本当に?」
「フッ……。まったく、親友のことが信用できねぇのかよ?」
「……」
「……えっ? あれ!? ねぇ、信用してるよね!? なんで何も喋らないの!? ねぇ!? 怖いよ!?」
あはは、と乾いた笑いがつい漏れ出てしまいます。
手で押さえるには遅く、呆れの混ざった笑いはやがて純粋な感情へと変わっていき。
和やかな雰囲気が私達の輪の中に波及していったんです。
ああ、あなたこそ私たちの彼氏。どうしようもなく、愛しい人。
愛城恋太郎君こそが、私たち全員を幸せにしてくれる何よりも素敵な彼氏です。……ですが、時々心配になることがあります。
彼は私たちに隠れて、無茶を押し殺して頑張ってくれているのでは、と。
見られないように悟られないように。
私達彼女の預かり知らぬ場所で疲弊し、傷ついていないかと不安になるんです。
しかし、その不安を払拭してくれる人がその隣にいます。
彼の前では恋太郎君も……私たちに見せる顔とは違う気の緩みを感じます。正直に言えばいつもとは違う表情を見せるのは今のところ彼の前だけなので……少し嫉妬のようなものを持ってしまいます。
いつもとは違う新鮮な魅力を感じられてそれはそれでいいのですがっ。……ですがっ!
ごめんなさい、やっぱり考えるだけで頬を膨らましたくなるくらいには今でも羨ましいですっ!
恋太郎君の特別な表情をいつでも見られるなんて! くぅっ!
まぁ……彼のおかげでその特別な顔のおこぼれを見られるのも確かなのですが。
「春人〜、この薬を微調整したから飲んでみて欲しいのだ〜」
「なんだそれ」
「コレを目に入れると普段は見えない赤外線がカクカクシカジカと……」
「はいはい分かった、メシの後にでも……おい今お前、目に入れる薬を飲めっつったか???」
「副作用として他の視界が〜……」
「違うっ! 副作用の話じゃなくて、まずはおれの話を聞け!」
「誤飲した時のリスクが知りたいのだ。『打ち消しの薬』も渡しとくなっ!」
「ほぼほぼ酷い目に遭う気しかしねぇな!?」
「春人さん」
声をかけます。
「ん? どうした?」
振り返る春人さんの青い目が、私に向けられました。
私は。
喉から出そうになった話題を押し込んで。俯く。
「そういえばなんですが——————」
待ち合わせはこの辺りです。
相手の方よりも早く来た事が分かった後、小さなため息が出ました。
ラブレターにあったのは大雑把な待ち合わせ場所ではありましたが、校舎裏の桜は少なく、それでいて近い位置に佇んでいるので問題はないでしょうね。
……告白したことはつい最近。でも告白されたことは……確か中学前半の頃以来ですか。
あの時は、恋愛は少女漫画の世界の出来事のようで……そういえばあの頃からあまり欲しいと思ったことはありませんでしたね。色々なクラスメイトの方々の告白をやんわりと断ってばっかだった記憶があります。
ああ、そうだ。
芽衣さんが家に来たのが中学時代というのもあって、学校の人間関係よりも優先していたんでした。
あの頃は、まだ遊ぶことすら何も知らないような無垢で。放っておいたらヒビ割れてしまいそうなほどに脆くて。
ほとんどの友達と距離を置いてでも、芽衣さんのそばにいることが多かったなぁ。
「来てくれたんだね。よかった」
後ろを振り返ると……見たことのない男子がいました。
(……えっ?)
クラスメイトじゃない?
他のクラスの方だということに少し驚き、落ち着いて心を持ち直します。
変に動揺しちゃいけませんね。これから、私は返事をしなければならないのだから。
「こんにちは。あなたが手紙をくれた人で合っていますか」
「好きです。付き合ってください」
間髪を入れず、ストレートに告げながらじっと私を見つめる男子に少し気圧されながらも。
私は頭を下げ、言葉を返しました。
「ごめんなさい」
下を向いているため、彼の姿は見えません。
ふと、目の前にいる人がダレかと重なった。
「私には好きな人がいます。お付き合いもさせてもらっているんです。……あなたの想いには応えられません」
目の前にいる人がもし、春人さんだったら。
なんて言うでしょうか。
「そっか」
許してくれるでしょうか。悲しんでしまうのでしょうか。
でも貴方なら、きっと……。
「
頭の中にいた春人さんが。
今の一言で霧散した。
彼なら、絶対に。そんなことは言わない。そんな確信があります。
なんですか。この妙な気持ち悪さは。
春人さんとも、恋太郎君とも違う。
告白の仕方もひどくあっさりしていましたし、それに……?
目が合っていた……?
恋太郎君は『頭を下げて』告白していたのに?
まさか。
告白するだけが目的じゃない?
「ところで、君。これ、知ってる?」
あっ。
気づくのが遅かった。
私は、ソレを見てしまった。
「はい、『催眠完了★』ってね。はいっ、君は終わりだよ」
スマホの液晶に映った、奇妙な絵。
その深淵に吸い込まれるように。意識が吸い込まれていく。
体が動かない。立ったまま、倒れることもできない。
「はぁ良かったぁ。本命に効いて良かったぁ。本当に良かったよ。君には通じないなんてことがあったら目も当てられないし」
薄くぼやける視界はまるで夢のようで。
このひとは、だれ?
「君を一目見た時からさぁ、ど~しても手に入れたかったんだよ。なのに準備してたらさぁ! 誰かがどこから知ったのか、俺を探りに来てたらしいし」
そのひとは、だれ? もしかして……?
「本当に迷惑なハナシだと思わない? えっと……ごめん、名前ぇ……なんだっけ?」
ワタシ? ワタシノナマエハ……?
「まぁいいや。ともかくあとでそんな鬱憤は君で沢山発散できるし。とりあえず連れていくか」
ドコニ? ツレテイクノ? ……イヤダ。
テが、ちかづいて。いや、ワタシのテがまえに。
うごけない。
いや。
だれか。
さわらないで。
たすけて——————。
「なにやってんだ」
「あ?」
息を切らせて、肩が上下に揺れるのも意に介さず。
「
「ちっ、おらっ催眠——————っ!」
「うるせぇっっ!!」
「ぐふぅぁ!?」
スマホをまともに見ることなく弾き、そのまま殴り抜けるように顔面まで拳を伸ばした。
こいつが、ハルの言っていた不審者の正体か……!?
万が一があるからと、話を聞いててよかった。
ハルの忠告は正しかった。
そして、羽香里の懸念も。
『春人さん』
『ん? どうした』
『そういえばなんですが——————今朝ラブレターが届いていたんです。春人さんは心当たりありますか?』
『あるわけないだろ冗談でもやらねぇ。けど……怪しいな。恋太郎、どう見る?』
『前にハルが言ってた不審者の可能性ってことだよね? 羽香里には悪いけど、もしかしたらあるかもしれない』
『はい、私もその可能性が高いと思います』
『同意見だな。花園と恋太郎の関係は学校の連中から見れば一目瞭然だ。それをガン無視して送ってきたってことは余程の一目惚れか自己中心的野郎か……』
『または恋人関係を捻じ曲げられる不審者か……っ!』
「羽香里っ!! 大丈夫!? 俺の声が聞こえる!?」
「あ……っ、はぁ……ぅ」
ダメだ……! 仮に声が届いていても、まともに意思疎通が取れる状態じゃない。
一体どうすれば……!?
「愛城恋太郎。どいて」
「凪乃!?」
遅れてやってきた凪乃が、羽香里の介抱を代わるために俺を下がらせる。
「花園羽香里は今、催眠状態になっている。なら、このスマホの画面を見せて『正気になるように』と催眠を重ねれば対処できる可能性がある」
「恋太郎! もしダメでもこの『打ち消しの薬』なら今の羽香里に効くかもしれないのだ!」
「『ここは俺達に任せて先に行け』」
「分かった。そっちはお願い!」
振り返り、男の方へ向く。
そこには男の姿ともう一人。
怒髪天を衝く勢いの……友達を傷つけられた彼女がいた。
「あんた……覚悟はできてるんでしょうね……」
「くっ!」
唐音がこれ以上ないほどの怒りを見せている。
世間では、自分以上に激しい感情を見せている人がいると客観視出来てしまい、かえって自分は落ち着いてしまうというが……どうやら今の俺には当てはまらないようだ。
「よくも俺の彼女に手を出したなぁっ!! 殺す!!」
「よくも私の親友に手ぇ出したわねぇっ!! 殺す!!」
「て、てめぇら!? 殺す以外の選択肢はないのか!?」
身じろぎする催眠野郎だが、桜の木へ唐突に走り出すと——————。
「ふ、ふざけやがって」
——————木陰に隠していたバットを掴み取った。
「めんどくせぇなあ、まったくよぉ!!」
「警察沙汰にまでなりたいの? さっさと諦めなさいよ!」
「関係ねぇ! 催眠アプリがそのスマホだけにしかないとでも思ったか? 予備もある、抜かりはねぇ! そんで警察ごと催眠すりゃよぉ! 女ひとりを襲ったお前らが『俺たちがやりました』と自供しても、誰も疑わないさ!!」
「そういうこと……。こンのっ、クズがっ!!」
唐音の憤慨が止まらない。
その隣にいる俺も同じ気持ちだ。だから、絶対に許せない。
何かあった時の武器まで持って来ているのは用意周到な男だ。今回の犯行にそれだけチカラを入れていたというのがイヤでも理解出来てしまう。
それほどまでに羽香里を求めていた。
悪意を持って、よりにもよって、羽香里の事を。
そんな事、許せるワケがない。
息を吐く。
自分の眉間に皺が取れない。
どうしようもなく、目の焦点は男を捉え続ける。
だからだろう。
「『来いよ。お前が何をしようと、おれは死んでも彼女達を守る』」
自分自身が、微かに青井春人と重なった気がした。
なんでだろう。あいつを感じるだけで勇気が湧いてくる。
「なめんなぁ!!」
バットを振りかぶり、ストレートに真っ直ぐ突撃してくる男。
唐音の方へ、真っ直ぐと。
「唐音っ!!」
狙いは、男性よりも弱く見える女子。
唐音は照れ隠しやツッコミではパワフルな子だ。もしかしたら回避できるかもしれないけれど、考えなきゃいけないことはそこじゃない。
無傷であることが大事なんじゃない。そもそも彼女達が危険な目に遭わないことこそが最重要なんだ。
唐音なら大丈夫? 避けられる? 反撃できるかも?
馬鹿野郎っ、そんなことを1ミリでも思った時点で彼氏失格だっ!!
唐音を背にして悪漢に立ちはだかる。
両手を大きく広げて、彼女を守る……フリをする。
本当の狙いは反撃。
正直に言えば喧嘩は得意じゃない。廊下でよく妖怪と化した教頭とハルがバトル漫画みたいなことをしているところをしばしば目撃するけれど……あれに比べたらヒヨコもいいところだ。
だから。
ヤツのように武器を持っていたらまず勝てない。
なので一点だけ。
たった一回のアクションに全霊を込める。
いつかハルに教えてもらったことがある。
『喧嘩の時、距離って大事でさ。技を放つとき遠ければ外すけど……逆に近すぎるとどうなると思う?』
『……早く当たる?』
『半分正解。今お前、拳同士の喧嘩を想像したろ。もっと極端に……スナイパーライフルを持っている敵と考えてみたらどうなる?』
『……あっ! 撃てない……っ!?』
『そっ。攻撃が当たらない。または当たったとしてほとんどダメージがない』
ハルは続ける。
『素手の喧嘩だと投げとか肘打ちとか選択肢があるから分かりづらくなるけど……そもそも素手なら喧嘩の基本をおれが教えてる分、きっとレンの方が強い。お前が心配するのはバットとかの武器を持っている相手の時だ。この時に、武器を持っているからとビビって後ろに下がりまくるとまず勝てん』
『向こうの方がリーチが長いから……』
『そういうこと。大袈裟な空振りをして近づかれない限りは有利を取り続けられるからな。向こうもそんな隙だらけなところを見せないように攻撃してくるだろうし。避け続けて、疲れて、鈍くなったところをクリーンヒットでお陀仏っ! ……は割とよくあるパターンだ』
相手が最も当てたいのは、バットの先端部分。
一番当たると痛く、とても怖い箇所だ。そして一番、当てたいだろうと分かる箇所。
俺が何もせずただ守るだけだと判断して、力いっぱい振り下ろそうとするヤツを冷静に観察する。
……今だ。
一瞬だけ中腰に屈み、足を溜め、一気に前へ駆け出す。
驚いた様子を男が見せた。
『いいか。仕掛けるなら最初だ。あえて前へ行く勇気が肝心なんだけど、油断している敵なら接近はしてこないだろうと思い込んでることが多い。喧嘩慣れしてないレンなら尚更そう見えるだろうな。……まず敵は虚をつかれて反応できない』
狙いは。たった一つ。
『グリップ部分。手で持っている場所とその前後。バットを直接押さえてもいいし、手首を掴んでもいい。そこさえ狙って取れれば一旦無力化できる』
手首を掴む。
片手だけで押し続けていれば、例え暴れられようとすぐにバットが頭に飛んでくることはない。
『大振りならこの時点で反撃はなくなる。全身の力をバット振ることに費やしてんだ、気づいたところでもう遅い。さらに、急に武器や持ってる手を触られるとな……人間って咄嗟に武器を手放せないんだよ』
今、目の前に広がる光景は大きく三つ。
一つ。バットを振ることが出来ない男。
二つ。両手が塞がり、隙だらけな男の体。
三つ。懐に入り、至近距離で片手が使える俺。
『ん? 至近距離で最も強い攻撃はどれかって? ……リーチの短さがなんとかなるなら肘による打撃一択だろ』
腕を折り込み、胴体の中心へ。
肋骨をすり抜け、内臓が潰れんばかりに肘を抉りこませる……っ!!
「おらああああああっっっ!!!」
「うぐぅえええ!?!?」
『ちなみに中国の八極拳では
「がっ、がふっ……!」
「恋太郎っ、あんた……強いじゃないっ!!」
目をキラキラさせて駆け寄ってくる唐音。
守られた上に彼氏のかっこいいところを見たからだろう。彼女のそんな可憐な表情に顔のパーツが中心に寄ってしまうほどの可愛さを感じるが……内心は心臓バクバクだった。
なにせ、彼女が出来て初めての防衛戦だ。
失敗したらみんなが危なくなる。そんなプレッシャーの中で無事に一撃で決められたのはひとえに日頃のトレーニングのおかげである。
続けてよかった、筋トレ。
やって良かった、イメトレ。
あとは、師匠としてなんとかなるところまで教えてくれた……ハルのおかげだ。
「大丈夫だった、唐音? ケガはない?」
「べっ、別にケガなんてしてないんだからねっ!! 恋太郎のおかげで余裕だったわよ!! ……れ、恋太郎の方こそ……大丈夫なの……?」
「うん。心配かけてごめんね」
頭をなでてあげる。
さっき、バットの方を押さえた手でなでたのだが、じんじんと赤くなったかのような感触がまだ抜けない。
唐音がふと視線を別の方向へ移して……固まる。
その方向は、倒したヤツの方向だ。すかさず警戒態勢を取りつつ、唐音を後ろに回す。
「く、くそっ……! 調子に乗りやがって、ば……ばかどもっ、がっ……!」
上体を起こし、なんとか立ち上がってくる。
しかし、すでにフラフラなのは一目瞭然だ。
きっと抵抗されても何とかなる。
男があるものを取り出し、見せてくる。それは……スマホだ。
「あっ! それっ、予備のスマホなのだ!?」
「楠莉先輩!」
「羽香里の洗脳は大丈夫なのだ! うまく解決はできなかったけど、時間経過で元に戻り始めてるのだ! そんなことより洗脳されないように気を付けてなのだっ!!」
「分かりました!」
「けっ、わざわざ洗脳すんのもメンドくせぇ。これはなぁ、合図さ」
男が不気味な笑みを鳴らす。
執念。もはや、それだけで動いている悪魔のようだ。
「俺の知り合いには、不良グループのリーダーがいてね。洗脳アプリを使わせてやる代わりにもしもの用心棒を頼んでいたのさ。お前みたいな邪魔者をぶちのめすためになぁ!」
「はぁ!?」
「なんだって!?」
「ここにいるてめぇら全員もう終わりだ!! ヒーローごっこは楽しかったかぁ!?」
「楽しいぜ、ヒーローごっこは。今度お前もやってみるといい。 ……ところで、おれがボコボコにしておいた向こうのバカ集団についてだが……呼び寄せたのはてめぇか?」
「……あ? え?」
後ろからやってきた、もう一人の男。
ごく自然に、まるで催眠男の味方かのように気安く。
それでいて、にこやかに笑い。
人を殺さんばかりの眼差しで、見つめている。
「ハルっ!!」
「Yes! I am! ……とでも言えばいいか? よう、陰湿野郎。やっと尻尾を出したってんで、うちの不審者担当も徹夜から解放されそうだな」
「て、てめぇが……っ!? どういう……!?」
「あまり口も聞きたくないから簡潔に言ってやる。お前をシバくために探してたのはおれだ。案の定、こっちの身内に手を出される最悪の事態が起きたからな。だが焦ってくれてよかったよ。こっちの打てる手がなかったのにも関わらず、勝手に追い詰められて動いちまったんだからな」
「全部っ、てめぇの仕業だったのか!?」
「そもそもお前のまいた種だろう。要らん労力使わせやがって。お前がするべき最善は、探していたおれを見つけ出して誠意を見せ、催眠ツールを消すことだった」
「バカなバカなバカな!! そ、外に待機してた奴らはどうしたぁ!!」
「頭悪いな、お前。さっき全員寝てると言ったろう。なんなら警察も呼んどいた。てめぇは終わりだ」
「青井春人。大丈夫? 目立つ外傷はないように見えるけれど」
「問題ねぇが……ちと時間がかかった。本当なら恋太郎にすら殴らせるつもりはなかったんだがな。……栄逢。そのスマホは壊すなよ、大事な証拠だ」
「春人~! ナイスなのだー!」
「楠莉の嬢ちゃん、花園は?」
「〝先ほど〟『洗脳』〝から〟『解放されたようだ』」
「もう少しだけそばにいてやってくれ。そろそろ終わる」
「ハル」
「恋太郎。悪い、間に合わなかった。手間をかけたな」
「大丈夫。いつも助けてくれてるから、こういう時くらい力にならないと」
「まっ、お前が正面で体張ってくれたから、正面以外に隠れてた不良どもに対応できた。10人前後はいたから、ここに来られてたら流石に守りきれたか分からん。やっぱお前は頼りになることしかしないな」
互いに拳を出し合い、軽く当て合う。
結果として、ケガこそ無いものの、羽香里を危険な目に遭わせてしまった。
それ以上の最悪の事態は避けられたけど……。
不甲斐ない。
向こうの洗脳するまでの時間が短かったからとか言い訳ならいくらでも言える。でも、そんなのは予想できた。はずなのに。
俺の気の沈みを理解したハルが声をかける。
「お前のせいじゃない。花園はそんな状況でもあの男を信じようとした。告白してきたあいつに真摯に応えようとした。きっと、洗脳状態にされるかもしれないことくらいは分かっていたさ。その後、絶対に助けてくれるヤツがいると分かってるからこそ、アイツはすべてをお前に託すことが出来たんだ」
ハルが微笑む。
その顔には「次は同じことすんじゃねぇぞ?」と言っている気がした。
優しく、そして厳しい眼をしていた。
そうだ。
彼氏の俺が守らないといけなかった。
次こそは洗脳の一つさえ食い止められるように。
改めて俺は、彼女達を守る彼氏としてこれからの決意を固め直さなければならない。
「さてと」
ハルが振り返る。
「あとは、こいつの始末だけだな」
「ひぃっ!」
完全に全ての手札を奪われた男は一歩、二歩とたじろぎながら退がろうとする。しかし逃げ場所はなく、やがて桜の木の前まで追い詰められていく。
「ゆ、許してくれっ! 洗脳はもう解いたじゃねぇか!?」
「いかにも『自分がやりました』って感じに言うんだな、お前って。勝手に解けただけなのによ。まぁいい……警察がこの後来る。その時に催眠アプリの出所を吐いた上でデータを全て消去すりゃ、おれは許してやる」
「わ、分かった!! 言う通りにする!!」
「物分かりが良くて助かる。もし隠しでもしたら……花園へやった恨みの分だけ念入りにぶちのめさせてもらうからな」
「そんなことはしない!! 絶対だ!! 信じてくれ!!」
「そう、ならいい」
そう言って踵を返すと、ハルは微笑む。
「これでおれの番は終わりだ、院田」
「あら、随分そいつに優しいじゃない」
阿修羅がまだ、いた。
「まぁ、おれがやるとお前の怒りの行き場がなくなるからな」
「あっ…? ひ、ひぃっ!?」
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうわ。……行くわよダメ押しっ!」
「お、おい!? やめ……!?」
「ぎゃあああっっ!?!?」
私が完全に意識を取り戻したのは、唐音さんが催眠男を私の代わりに倒した時とほぼ同じタイミングです。
仰向けの私を、みんなが覗き込んで心配して。
ごめんなさい、と声を出すと。
みんなが口々に「気にしないで」「守れなくてごめんね」と仰ってくださいました。
言葉が出ません。
しかし、その『みんな』には、春人さんが含まれていませんでした。
彼の姿だけは周りを見ても近くにいませんでした。
やがてサイレンが近づいてきました。
春人さんが通報したものだそうです。
恋太郎君が言うには。
私の様子を一瞥したらしい彼は、少し胸を撫で下ろすとそのまま事後対応に向かったそうです。
それに、春人さんの保護者さんも警察に協力するためにやってくるとか。なんでも「朝日のばぁちゃんはそういうツテがあるからな。正当防衛の喧嘩程度なら厄介事にすらならん」との事。
「大丈夫? 羽香里」
「ええ、もうフワフワした感覚もありません」
「……送って行くよ。みんなも家に着くまでは一緒に帰らない?」
「はぁ!? べ、別に心配だから隣にいてやりたい訳じゃないけど、どうしてもって言うなら一緒に帰ってやるわよ!!」
「『合点承知』」
「私は構わない」
「何かあったら楠莉に任せるのだ!」
「皆さん……ありがとうございます」
本当に、優しい人達。
こんなに温かい輪の中に居られるのはとても幸福な事ですね。
「じゃあ……あっ、ハルーっ!!」
「ん? どうかしたか?」
全員で移動を始めると、門の近くに春人君を見つけました。
学校の外ではパトカーと警察。それに小さくではありますが、春人さんの後見人である唐島朝日さんも後ろ姿も見えました。
警察の仕事を邪魔しないように一歩引いたその姿はどこか緊張感が抜けておらず、目を細めて怪訝な顔をしていました。
「俺たちはこれから帰るよ。任せてもいい?」
「ああ、むしろ居ない方が警察に色々聞かれなくて楽かもしれんな。負担も酷かったろう。先にゆっくり休みな」
「ハルに比べたら全然だと思うけど」
「勝手におめぇの物差しでおれを測るなよ。おれだって苦手なトコは他人にぶん投げてる時はあるんだから、負担なんてな……この後始末もほぼばぁちゃんが結局全部やってくれちまってるし」
「……じゃあ、一緒に帰る?」
「バカ言え。確実に事が済んだか確認するまでは終わりじゃねぇ。お巡りさん達がどこまで口を挟んでくるか分からねぇが、データの消去まで見届けないとならない」
そういって、彼が言葉を繋ぎます。
「悪いな。嫌な思いをさせた」
私に向けた言葉に、できる限りの感謝が伝わるように返答します。
「いえ、貴方がいなければ……恋太郎君のことを忘れて後戻りできない目に遭ってたかもしれません。私を助けてくれたのは他でもない貴方です。本当にありがとうございました」
深々とお辞儀を……礼を尽くすように頭を精一杯下げます。
「お前と関わるようになってから、お前のアタマのテッペンをよく見るな。もう少し気安くてもいいんだぜ?」
「恩人に、そんなこと出来ませんっ」
「……」
騒ぎを聞きつけた先生たちが徐々に集まり、部活動の生徒も野次馬になり始めました。
野次馬の一人が「あれ、なんでボクのお尻用のバットがここに……?」という声も聞こえてきました。
「説明はおれがやっておく。今のうちに早く帰れ。いよいよ帰れなくなるぞ」
「うん、分かった。ありがとうね、ハル」
「ああ」
ということで。
春人さんを除いた全員で、学校の敷地から出ていくことに。
流石に騒ぎになっている方向からの下校はやめて、正門の方へ向かいます。
そこに、私だけが見たことのある車が目に映り……私の家族が車の前に立っていました。
「失礼いたします、羽香里様。お待ちしておりました」
「芽衣さん……!?」
……。
今回の騒動に関して、私に直接関係がないと判断して報告は入れていません。
もしかすると。
後ろにいる皆さんも、おそらくはタイミングの良さに驚かれています。
「羽香里。この人は……?」
「私の家のメイドさんです。迎えなんて聞いていませんでしたけど……」
「ご学友様方。申し訳ございませんが、奥様からの至急でお話があるとのことでお迎えに上がりました。不躾で申し訳ありませんが、車にお乗りください羽香里様」
「れ、恋太郎君」
「うん。今日は色々あったし。メイドさんの言う通りにして先に帰った方がいいよ」
違う。
違うんです。恋太郎君。
そういうことでは、ないんです。
きっと。
この車は。
すべてを言ってしまいたい。
嫌な予感がするんです。
貴方が。みんなが。離れるような気がして。
「分かりました。皆さん、お先に失礼しますね」
そうと決まった訳じゃないです。
でも……。
車に入り、やがてみんなが見えなくなった後。
全てが解決したかのような晴れやかな気分ではいられなかった。
恋太郎君。……春人さん。
そろそろ。
そんな予感は何処かでしていたかもしれない。
ただ、不意に来た。
それだけに尽きる話ではあったんです。
ただ、それを誰にも言うことができませんでした。
ごめんなさい。
私は、目の前の事態から逃避するように。俯くことしかできませんでした。
原作第?話、完結。
副題「タイムリミット」踏破。
次⬜︎もお楽しゐに。