君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

19 / 24
皆さんは『100カノ ビビーン!!とパズル』はやっているでしょうか。
100カノのパズルゲームとして配信されていて、魅力的な彼女の可愛いデフォルメが……。

え? 「原作でもうダイレクトマーケティングしてる」? そんなバカな話が……?

……。
う、嘘やろ。こんなことがあってええんか……!?

くっ、流石は中村先生ですね。下手すると二次創作界隈の我々よりイカれ……やりたい放題じゃなかろうか。個人的には大好きです。尊敬しておりますよ。Xでも野澤先生だけフォローしております。嘘です。ちゃんとフォローしてます。多分。

ちなみに私のアカウントは星三の羽々里さんが三人います。
描けば……もとい、書けば当たるとは言いますがちょっと偏りすぎではないでしょうか。早く書けと言わんばかりのプレッシャーがあります。コワイ。頑張ります。


青い春と綻ぶ目論見

「さて、今日はどうすっかのぅ~」

 

 幾分かヒマだった日に、ある日思い立った事をしてみるのも悪くない。

 

 最近何かと手持ち無沙汰だった縁結びまくりの神様は、愛城恋太郎に対して見守る事を度々やっていた。

 

 雲を筋斗雲のように操り、上空から俯瞰するように見守る。直接接触することはせず、本来なら見たところで面白くもない男を視線に合わせる。

 

 

 

「美女だったらよかったのにのぅ……」

 

 まぁ、わしがミスをやっちまった相手だ。

 たまに様子を見て、異常がなけりゃそれでいいじゃろ。

 

 そんなことを鼻でもほじりながら考え、雲の上から観察していた。

 

 

 

「最近は神様事情も変わったもんじゃの。運命の赤い糸なんぞも可視化できる虫眼鏡があるとは」

 

 

 

 この神様には知りえないことだが。

 神様の住む世界では今時の道具でもなんでもない、ただの化石レベルの虫眼鏡である。

 

 単純に、神様の情報収集能力が致命的なだけである。

 

 

 

 どうせだ。

 

 あの運命の人がクソ多いあいつをコレでみたら面白いことになるだろう。

 

 好奇心と茶目っ気から早速、空から町を赤い糸が見える虫メガネで見る。

 

「おお、おお! 町が真っ赤でなんも分からん! なんじゃ、案外運命の人なんぞ結構多いんじゃな!」

 

 実際は物理的な距離に応じて赤い糸が伸びているから多く見えるだけなのだが……神様はそれすら気づかないままはしゃぎ、愛城恋太郎を探していく。

 

 

 

「おおっ、おるやんけ。では早速」

 

 

 

 恋太郎を中心に放射状に広がる赤い糸。まるで傘みたいだと笑う。

 

 なんだあれ(笑)。マジ大変そう(笑)。

 

 そのうちいくつかはすぐ近くに繋がっていた。これは今付き合っている彼女達だろう。まったく、羨ましい。

 

 

 

 

 

 

 つながって。

 

 

 

 つなが……。

 

 

 

「ん? ……どういうことじゃ?」

 

 

 

 思わず疑問符を浮かべる。

 

 愛城恋太郎と比べて薄く、透けて見えるようだが……隣にいる人間にも赤い糸が繋がっていた。他よりも色が薄いのが返って目立っている。

 

 

 

 あれは……確か。

 運命の人がいない……誰だっけ。

 

 ……あっ、そうじゃ。青井春人とかいう男だ。

 

 うっすい色ってことは……今のところ脈なしなんじゃろうな。がはは。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 なんで、運命の人がいないはずなのに。

 

 

 

「お??」

 

 

 

 赤い糸が存在しているのか。

 

 そもそも、赤い糸が透けるはずは、無い。

 

 

 

「どういうことじゃ? 確かにあやつは……う、嘘じゃろ、なんじゃアレ……!?」

 

 

 

 神様は虫メガネでしっかりと覗き、開いた口が塞がらなくなったという。

 

 青井春人の赤い糸が、いかに『ありえない状況』にあるかを知って。

 

 

 

「……調べなければまずいかも。あやつにはもしかして、致命的な見落としがあるのかもしれん」

 

 神様は自分の神社へすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 微睡みから目を覚ます。

 昨日は中々に大変な1日だった。肉体的にも、精神的にも。

 

 あの後、警察によって裏に控えていた不良達は軒並み連行されていき、犯人だった男子生徒は一旦勾留される事になった。

 男子生徒に改めて問い詰めたところ、あの催眠アプリは偶然できた生徒お手製の逸品だという事が発覚。男子の自宅にて、バックアップ及びオリジナルは全て削除された。アプリが拡散された形跡は無く、生徒本人も受け渡しは『実験途中のため、する気がなかった』と口述したため、おれ達の対応としては似たようなアプリを製作しないよう睨みを効かせていると脅し、当分は朝日のばぁちゃん経由で監視を頼むことになった。

 

 ともかく、これで一件落着。

 あとは各々がやらかした事の責任を取らせて終了。長い一日だったなぁ。

 

 

 

「青井春人。今日はいい天気。早く起きるべき」

 

「……ん、ふぁ~あ! ふぅ。……おはよぉ」

 

 

 

 流石に、あいつらが危険になるかもしれないとは思ってはいたけど……想定している最悪の事態が起こったのは割と驚いた。……が、昨日ほど色々対策する為にあれこれ調べまくったことを良かったと思ったことはなかった。

 

 朝日のばぁちゃんにはまじで色々苦労を掛けてしまった。

 実働部隊はおれではあったが、それ以外のほぼ全ての仕事はばぁちゃんばかりだった。

 

 かなり無理をさせてしまった。

 一段落もしたし、少しはあの老体も休めてもらいたいものだ。

 

 

 

「そろそろ起きて。今日は朝から予定を組んでいるから」

 

「待て待て待て、誰だお前は」

 

 

 

 寝起きとか関係ない。脳みそが完全に醒めた。

 

 いや、隣から妙に艶やかかつ透き通った声が聞こえるのは分かっている。そのうえで、うん。……スルーしたかったのだが……。

 

 

 

 目を合わせられない。

 なぜかって? 全裸であろう栄逢がすぐ隣にいるからだよ。

 

 

 

 ってか、なんで全裸なの!?

 なんなんだ!? みんな脱がなきゃならないルールでもあるのか!?

 

 花園も院田も好本も栄逢も!!

 いい加減にしろ!!

 

 落ち着け。分かっている。分かっているぞ、こんなふざけた経験は不思議と何回もあるから嫌でも分かる。

 

 

 

 

 

「あ~~。またこういう夢かよ……っ!」

 

 

 

 おれは、何度目かの頭を抱えた。

 恋太郎の彼女達によるエッチな夢。……何回目だ。まじで。

 

 花園と院田で一回目。

 

 好本で二回目。

 

 はい、通算三回目でございます。イエイ。

 

 

 

 胃がっ、もうキリキリしてきた。

 もうやだ。おれを元の世界に返してくださ~い。

 

 現実でも時々やらかして危ういというのに、そろそろ夢の中でも恋太郎に刺される。そのことを考えるたびに心臓が跳ね上がる。考えるたびにだぞっ。切実にやめてもらいたいっ!

 

 

 

 ちらりと、なんとなく薄目で隣の方を見る。

 

 上体を上げ、添い寝をするように身を傾けている栄逢にドキリとしてしまうのは男なら責められないはず。

 

 

 

 張りのある柔肌は日光によって白く照らされ、すぐ近くに寄せられている顔を見ればまつ毛の長さが目に映る。

 

 まぁ、案の定というか。

 僅かに乱れた長い銀の髪は、女性的な隠さなければならない箇所を見事に隠していた。

 エッチな部分は一切見えない。とりあえずは安心である。

 

 ……いや、全っ然、安心できないけどねっ!!

 

 

 

 ……本当に勘弁してくれ。

 順番におれの頭の中に来てそんなことしなくていいから。

 

 かわいいのもきれいなのも分かってるから。

 

 正直、青少年としてずっと見ていたいと思う気持ちは嘘にはできない。おれにもそれなりの下心がある。言ってしまえば、夢であるならいっそのこと触りたい。

 欲望のままに、やりたいことをしまくりたいとかの邪なものはちゃんとあるのだ。

 

 

 

 でも。

 

 たとえささやかな抵抗であろうとも。

 

 恋太郎に顔向けできるままでいたいんだ。

 

 

 

 間違っても、むふふな雰囲気なんかに負けないんだからね!

 

 ……ん? なんか敗北フラグを立てた気がするな?

 

 

 

「さぁ、去るがよい、わが悪夢ッ! 頼むから二度と誘惑せずにおれの夢から出ていって……なんだそれ」

 

 

 

「あーん」

 

「するかぁっ!」

 

 どこからそのスプーンを持ってきた。

 絶対に近づけられたって食べないぞ。その白いもんはなんだ。ヨーグルトか?

 

 よく見れば、視界の奥の方でテーブルを見つけた。ベッドの隣にあるその上には少し欠けたヨーグルトとわずかなジャムが添えてある。

 

 今日の悪夢はこういう方向性で来るのか。

 直接的な接触よりもシチュエーション重視と言いますか……むふふ(意味深)よりもイチャイチャする方向っていう感じのかな?

 

 

 

 これはマズイと口を閉じ続けていると、栄逢の表情が変わりだす。

 

 片方の頬を膨らませ、明らかな不満をおれに示したのだ。

 

 

 

 ……なんだ今の表情。リアルなら絶対しないだろ。ちょっとグッとくる顔を見せるのはやめるんだ。

 

 

 

「仕方のない人。ならこっちの方が効果的」

 

 そう言った彼女は、おれの食べなかったヨーグルトを自分の口に流し、そのまま飲み込むことなくおれとキスをした。

 

 口内を蹂躙され、半ば押し込まれる形で酸っぱい感覚が流れてくる。

 

 

 

 そして、そこから栄逢の攻勢は止むことがなかった。

 

「……いただきます」

 

 お……。

 

 お前が食うんかい。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚め、自分の部屋であることを確認して。

 ほっと息を吐いた。

 

 やっと、本当の朝を迎えた。

 

 近くにあるスマホが鳴らなければ、まだまだ悪夢の中で幸せな苦しみを……いや、ともかくツラい目に遭い続けていたはずだ。

 

 

 

 ……おれ、欲求不満なのかなぁ。

 

 

 

 一人で黄昏れる。

 動けるまでに十分弱くらい、時間がかかった。

 

 

 

 よく恋太郎はキスとか抱きしめるだけで満足できるものだ。

 思春期男子においてはやはり性の知識とかに興味津々ってのはそういう時期だし、花園とか羽香里とか花園羽香里とかと同じように積極的になってもおかしくはないはずなのにな。……なんか今、例えに出した人物がおかしかったような? まぁいいか。

 

 

 

「まぁ、恋太郎だからな。あいつのメンタルの硬さの前にはダイヤモンドすら欠けるわな」

 

 

 

 大きく右腕だけで背伸びをして起床。

 時計を見れば十時ごろを針が指している。

 

 

 

 スマホから振動が再び響く。

 

 そういえば、この通知は何だったのだろう。

 今日は休日だ。

 

 久しぶりにあいつらとの予定もない。

 

 無茶をした身体を存分に労りたいのだが……メッセージの宛先は恋太郎だった。

 

 

 

 なんだ。彼女たちが大変な事態でもなったか。

 些細な用事だったら後にしてほしい。二度寝でも決めたい気分で…………。

 

 

 

 

 

『今日来れないって聞いたけど、大丈夫?』

 

 

 

 …………は?

 

 

 

 

 

「どういうことだ? 来れない? 何にだ」

 

 思考を停止したい衝動に駆られながら、脳みそをぶん回す。

 

 これまでの記憶を辿って、細かいところまで必死に思い出す。

 

 

 

 いや。

 

 

 

 行けないとかどうとかじゃねぇ。まず誘われていねぇよ。

 

 いつ。どこで。誰と。簡単な事さえ何も知らない。

 

 

 

 恋太郎がメッセージを送るほどのお出かけだ。まず彼女達は全員いると見ていいだろう。

 二人きりのデートならおれは要らない。おれと恋太郎だけだと連絡漏れなんてあるはずがない。ましてや来れないなんて嘘が届いていることに説明がつかない。

 

 つまり、彼女達は遊びの用事があることをちゃんと知らされているはずだ。

 

 

 

 ……それもおれがいないタイミングで知らされた。

 その他全員はちゃんといるタイミングなら、推測はつく。

 

 帰宅時間なんて特にそうだ。

 最近おれは一緒に帰れていない。お出かけを提案するなら絶好の機会だ。

 

 

 

 それが物語るのは、おそらく……いや、もう確定だ。

 

 

 

 誰かが。

 意図的に。

 

 おれを外した。

 

 

 

 鳥肌が立つ。嫌な予感がする。

 落ち込む時間なんてない。さらに思考を続ける。

 

 おれに小細工をした動機は分からないが、小細工をするほど後ろめたいものを持っているヤツなら…………心当たりがある。

 

 気のせいであってほしい。『たまには恋太郎の隣でイチャイチャしたい! お前邪魔!』と言われているだけなら、理解も納得もできる。恋人同士の時間というものは特別という言葉では言い表せられないほど尊いものだと認識しているから。

 

 

 

 ……場所を調べよう。

 スマホのアプリから位置情報アプリを起動する。

 

 恋太郎含め、彼女全員の位置情報はすでに掴めるように仕込み済みだ。

 

 

 

 ちなみに、いつぞやの美杉先輩のブローチにも発信機を仕込んでいるため、先輩の自宅の位置も把握できている。

 

 元々は昨日の催眠野郎騒ぎに対して、知り合いになったばかりでは理由を話しても警戒されるだろうと判断して無断で仕掛けたものだが……解決した今、事情を話して外させてもらわなければ。

 なんか忘れている気がするが……脱線した、戻そう。

 

蘭舞園(ラブその)フラワーパーク……? あぁ。恋太郎に56回連れてかれた場所か。そんな名前だったか」

 

 

 あいつ昔から大して花をよく分かってないクセに、おれに『いい花言葉の植物は何?』ってしきりに聞いてくるから『自分で探して来いよ』と言ったのが運の尽きだったっけ。事あるごとに引っ張られて、フラワーパークの人に名前覚えられるまで通ったんだよな。行くたびに花だけを見に行きたくないトラウマと軽率に言葉を吐いてはいけない戒めを思い出すぞ。

 

 そんなことは置いといて。

 

 たしか、あそこの目玉は結婚式体験と記念写真の権利を賭けたブーケトスだったはずだ。デート場所としては定番かつ、恋人時代の思い出としては申し分ない場所だ。

 

 

 

 問題は、誰がそこをデート会場に決めたか。

 おれを省くならデート主催の人間だ。他の人の提案したデートでおれを省こうとすると軋轢が生まれる。メインで仕切りながら人知れず弾くのが安定策だと予想できる。

 

 

 

 恋太郎。

 こいつはそもそもおれを邪魔するどころか何が何でも引っ張ってくる。論外。

 

 花園。

 可能性あり。

 

 院田。

 花畑の鑑賞自体は好きそうだが、結婚式イベントを進んでやりたがるかと言えば……恥ずかしさでやりたがらないだろう。

 

 好本。

 こいつがブーケトスの奪い合いで自分が勝てるとは思わんだろ。次。

 

 栄逢。

 蘭舞薗フラワーパークは知っているだろうが、デート場所としては認識してたかどうか怪しい。

 

 楠莉の姉さん。

 調合が趣味のヤツが、時間を惜しんで花を見たいとは思わん。材料集めを理由にしてもデートを名目には絶対しない。

 

 

 

 ……一人だけ、消去法で、あり得る。いや、やはり浮き出てしまった。

 

 

 

 そして、後ろめたいものをこの集団の中で唯一隠していると言っていい。

 

 こいつは黒だ、な。

 ……何かある。または、問題が起きてしまった、か。

 

「……」

 

 行きつく先は、おれにとっては一つしかない。

 

 

 

 

 

「……クソォ!!!!」

 

 まったく。

 最悪だ。

 

 花園がおれを呼ばなかった理由をなんとなく察した。

 

 もうおれがなんとかする範囲を超えて、事態が大きく進んだ。と考えていい。

 

 

 

「バレたのか、羽々里さんに」

 

 

 

 思えば、随分と長い間動けなかった記憶がある。

 

 それはそうだ。

 おれは恋太郎への連絡を遅らせたのは、あいつが羽々里さんを騙しきれると思っていなかったからだ。そしてゆっくりと段階を踏んで花園家全体を懐柔させていく予定だった。

 

 あいつは潔癖ともいえる誠実さを持っている。まずこの作戦に対し首を縦に振らない。それが分かっていたから、協力させるのは拒否できないほど引き返せないところまで来た時の予定だった。

 この判断自体は、当時のおれの判断なら間違っていない。

 

 ただ誤算だったのは、恋太郎がどんどんと彼女を増やしていったこと。

 

 二股でも危ういと頭を捻らせていた問題が、常識外れの五股となってぶっ飛んでいった。

 

 計画の筋書きを書こうにもすぐに前提が変わっていく。そんな状態で秘密裏に動けるわけがなかった。

 

 

 

 さらに逆風となるように催眠野郎の邪魔が入る。

 こういう時の嫌な予感は経験上当たってしまう。目の前の危機を放っておけなかったために、羽々里さん側の問題に手を出すどころではなかったのが実情だ。

 

 ここのところ、花園から家の様子も報告も連絡も聞けていない。怪しさに拍車がかかる。

 

 

 

 全てが、空回った。

 決定的に、致命的に。

 

 失敗した。

 

 

 

 挽回しようにも事態は思った以上に深刻だ。

 今すぐにでも確かめに行かないとならない。場合によってはただでは済まないかもしれないが、言っている場合じゃない。

 

 

 

 

 

『連絡遅くなった。悪いが急用なんだ。みんなと楽しんでくれ』

 

 恋太郎への返事は、こうなった。

 

 

 

 淡泊な返事とは裏腹に、腹の奥はマグマのような気持ち悪い熱が滾っている。

 

 

「行かないとな。花園邸に」

 

 

 

 太陽の光は、やがて真上からギラギラと輝きだす。

 

 今日ほど、そのまぶしさがイラつく日はなかった。

 

 

 

 

 

 チャイムを鳴らす。

 財閥だからと怖がっている時間すら惜しいのだ。早く出て欲しい。

 

 おれの悪い予感が当たっているなら。

 花園がおれに悟らせないように仲間外れにするくらいだ、もうどうしようもないところまで来ているだろう。挽回する暇すら与えられないくらいの失望が目の前に来るはずだ。

 

 何もなかったと強烈な肩透かしを食らう可能性も少しだけある。いや、肩透かしであってほしい。

 

 先ほど、移動中に朝日のばぁちゃんも叩き起こした。無理を言って、家の死角にドローンを待機させてもらった。おれ自身にも盗聴器を仕込んで情報整理に協力してもらう。

 

 まだ、なんとかなる状態であってくれ……!

 

 

 

『……はい』

 

 花園家のメイドらしき声が応答する。

 羽々里さんの声ではない。

 

「青井春人と申します。以前、こちらで預かってもらっていた上着を受け取りに来ました」

 

『失礼ですが、アポイントメントは取っておられるでしょうか』

 

 来たな。

 これを答えられなかったら問答無用で追い返される。

 

 

 

「こちらのメイドである銘戸芽衣さんから、『いつでも取りに来て良い』と言葉をもらっていましたので参りました。それとも、『何か』お忙しいところにお邪魔してしまったでしょうか」

 

『……』

 

 

 

 確認は難しい。だろ?

 

 

 

 おれは、以前に言質を取ったのでここにいますよ、と伝えた。

 

 

 

 それが嘘だと証明するにはおれが滞在していた時を正しく記憶している必要があるし、銘戸芽衣本人は今この時間屋敷にはいない。

 

 ドローンで観測した。

 お出かけか。あるいはお迎えか。

 

 確認を取りたくても、服を取りに来た程度で時間を取るには些細な事柄すぎる。ましては、おれの立場は五股している不貞の関係者だ。

 

 花園家が五股を知っている、ということを探らせないためには怪しい行動はとれない。

 

 

 

『出迎えをさせていただきます。少々お待ちください』

 

 まぁ、確認を取るかどうかで言葉を詰まらせた時点で……確信できちまった気がするけどな。

 

 

 

「ようこそおいでくださいました」

 

 当然の訪問にも関わらず、メイドの少女は静かに言葉を紡ぐ。

 センター分けから見える額や一回り小さい体格から可憐な印象を持つ。しかし今は状況が状況。以前に訪問した時に見た容姿だが、その時よりも固い印象が見受けられた。

 

 

 

 屋敷の中へ案内されたので、警戒しつつも応じることにする。

 

 おれよりも若く、幼い女の子だ。(※実は同い年です)

 それなのに佇まいや所作だけで教養のある人間だと分かる。

 

 だからこそ、だろうか。

 おれより若い(※違う)というなら……年齢的には大体が新人や見習いに近い立場だ。

 単純に年齢の近い者を寄越したという考えの他に、対応しない上の立場の者達がおれの処遇を決めるための間の時間稼ぎにも見て取れる。

 

 

 

(疑ってかかるのも悪いとは思うが。今はなりふり構っていられないよな)

 

 でも、このメイドさんが事情を知っていようが知るまいが、その裏にある意図を勘ぐらないと何が起こるか分からない。

 

 

 

「先ほど連絡がございまして、羽々里様がお会いになりたいと言っておられます。もしお時間よろしければご挨拶を賜りたく存じます」

 

「待ってくれ」

 

「……ご都合が悪かったでしょうか?」

 

「違う、固い」

 

「と、申されますと?」

 

「いやそうじゃないな、言い方が悪かった。すまん、敬語はやめてくれ」

 

「……えっ、なんで? 何か気になることでもありますか?」

 

 今日、初めて無表情を崩すメイド。

 どうやら銘戸さんとは違い、常にクールな性格という子ではないらしい。

 

 

 

「まぁ……そんな価値はないからな。普通にしてくれて良いんだぞ?」

 

「……は? どういう……?」

 

 

 

「……ん? そのままの意味だが。君みたいな若い頃から仕事してるヤツの方がおれなんかよりも偉いからな。他に他意はないが、何か気に障ったか?」

 

「えっと、いやっ、そういうわけじゃないんですけど。へ……じゃなくて不思議な人ですね」

 

「変なヤツって言おうとしたか今?」

 

「顔は割といいのに、おかしな人だなーとは……」

 

「言い直そうとして失敗してるじゃん。どこからどう見てもまともな一般高校生だろ。おかしな要素なんて一欠片もないぞ」

 

 まったく。恋太郎達の事を詳しく知らないからかもしれないが……彼女達含め最もまともな感性してるのはおれだと思うぞ。

 

「……え?」

「え?」

 

 こいつ。

 想像以上に豊かな表情をなさる。お前が友人だったら「くたばれ」の捨て台詞くらいは吐いてたぞ。

 

 

 

 いや。

 何を言っている。こんな細かいことすら癇に障るくらいには余裕がない。

 

 どこまで平静でいられるか。頭が痛い。

 

 

 

 やがて、大きな扉の前に案内される。

 

 案内は終わったと言わんばかりに、扉の横に佇むメイドさんを横目に正面に立ち。

 思い切って扉を開けた。

 

 

 

 目の前には、大広間でありながら酷く細く見えるほどの人。

 

 メイドや執事を始めとした使用人。おれを警戒するかのような警備員。そのほとんどがこの部屋に集まっていると察する事ができるくらいの人数が左右から挟むように並んでいた。

 

 

 

 当然、その最奥かつ中央には。

 おれが話したくて堪らなかった、花園羽々里がいた。

 

 比率としては圧倒的にメイドが多い。

 メイド全員が軽く頭を下げ続けている並びは、どこか機械仕掛けのような気味の悪さすら感じる。

 

 先程案内をしてくれたメイドもさっきまでのややフランクな喋りをしてくれた時とは打って変わり、ポーカーフェイスの仮面を被って女主人の元へおれを連れて行く。

 

 まるで、羽々里さんまで伸びている紅い絨毯の上に立たされて。

 

 自分の意思とは関係なしに歩かされている感覚だ。

 

 

 

 

 

「急に呼び立ててしまってごめんなさいね」

 

 謝罪の言葉は聞こえても、バツが悪そうな顔なんて一欠片もしてない。

 初対面の時の気迫。いや、それ以上のプレッシャーが肌に刺さっていく。

 

「いえ、こちらも聞きたいことがありましたので良い機会です。早く本題に入りましょう。ハッキリさせたいのはお互い様ですしね」

 

 ここは気圧されている場合ではない。

 

 何らかの粗相を働けば、すぐに制裁が来るであろう従者達の配置なのは見ればすぐ分かってしまう。

 さらに羽々里さん目の前に相対しているおれの横に並ぶ人達は、屈強で戦闘経験がありそうな警備員ばかりだ。

 まず不審な動きは許されない。仮に、ここから羽々里さんへ奇襲を掛けたとしても阻まれるだろう。やらないけど。

 

 だから、今ここで出来るのは羽々里を侮辱する以外の舌戦のみ。

 元々するつもりで来てはいないが、荒事で収めるのは状況的にも不可能になった。

 

 今現在、羽々里さんは何も言わない。

 

 こちらからの言葉が先になるよう、促されている。

 つまりはおれの出方を伺っていると見ていい。少なくとも、羽々里さん達からの目線で考えれば、まだおれは敵とは確信されていない。9割は敵だと思われているが、おれの言葉によって判断が揺らぐ事もあるだろうという事だろう。

 

 では、この機会だ。

 遠慮は出来ない。今ここで言うしかない。

 

 

 

 

 

「なぜ…………おれが全裸に剥かれてたかの説明をお願いしてもよろしいか!!」

 

 

 

 羽々里を含めた、おれ以外の全員が一斉に顔を逸らした。

 

 

 

 

 

 いや、本題になんて行かせねぇよ???

 だって考えてもみてほしい。

 

 今の状況を把握するならばかなり不味い状態であるのは見た通り。この面会は言わば羽々里さん主導で行われる魔女裁判だ。余程の完璧な証拠と全員を納得させられる弁護を用意しなければまともに話が通じなくなる。話を聞いてくれなくなったら実力行使という最後の手段に頼らざるを得なくなる。

 しかし、おれには恋太郎達の状況を否定する証拠も擁護しきれる弁護のチカラも持っていないのだ。正面からこじ開けるには無理があり、相手の主張を受け止めようとしても耐えきれず最早どうしようもない。けれども、まだ羽々里さんと話が通じる事を前向きに捉えるなら、僅かにだが希望は潰えてないかもしれない。

 だから、まずは今の空気であるおれの首にギロチンが触れているかのような裁判ムードを破壊ないしは全力で話を逸らすしかない。そのために呼吸を乱す必要があった。

 

 握った弱みをチラつかせるのはスマートではないが、手段は選んでいられない。

 

「く、靴下はあったから……」

「靴下が残ってた事が擁護になると思ってます?」

 

 手段は選んでいられないのだ。

 ほんとに。

 

 

 

 さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら。

 

 滝汗を流している羽々里は一向に目を合わせず、おれは向こうのクソ雑魚擁護を正面から叩き斬る。

 

「私が貴方を呼んだのは他でもありません」

 

「全裸」

 

「貴方は知っていたわね。羽香里の周りに集る悪い虫を」

 

「ねぇ全裸」

 

「貴方のこれまでの行動は、その虫を肯定するものという認識で私達はいるの。その弁明があるなら聞かせなさい」

 

「話題逸らしが強引過ぎるだろ! せめてこっち向いて話してくれませんか!? あと何故頑なに全裸に剥いた理由を説明しないんですか!?」

 

 

 

「や、山より深く……海よりも高い事情があるから……」

 

「浅っせぇな!? 逆じゃねぇのか!? ……はぁ、なら怒らないですから何があったか最低限の経緯を教えて下さいよ、理解は出来なくとも納得出来るよう努めはするので」

 

「それには及ばないわ」

 

「及べ」

 

 

 

 はよ説明しろ。

 いたいけな男の子を、ましてや娘の友達を裸にした説明を。

 

「まさか、裸にして舐め回した訳でもあるまいし」

 

 

 

「…………そうね」

 

「おい。……何しやがった」

 

「気にしないことよ。……貴方のために」

 

「何しやがった!?」

 

「ちなみに主犯は羽香里よ」

 

「何しやがったぁ!!」

 

 

 

 一目散に羽々里へ向かい、両肩を掴んで振り回す。

 

「ふざけんなてめぇなんでアイツが関わってんだぶっ殺すぞぉ!!」

 

「うぎゃあああなんで羽香里が関わると目の色が変わるの!?」

 

「そこは止めんのが親の役割やろがいぃ!! 教育放棄してんならキン肉バスターぶちこむぞコラァ!!」

 

「目の色変わりすぎぃーっ!! いやぁー!! ぼーりょくはんたいぃー!!」

 

 

 

「まぁいいです。どうせ答えられないかもとは思ってた。想定内、って奴だ」

 

 目上に対するメッキが、取り繕ろうとして、より剥がれる。

 

 

 

「代わりに…………一つ、聞いてもらっても?」

 

「……何かしら?」

 

 

 

「今から言う……おれの言葉をしっかりと聞いてください」

 

 その声を聴いて、羽々里さんの顔が変わった。

 

 

 

 きっと、叫ぶ羽々里さんも本来の姿なのだろう。

 でも、向かい合わなければならないのは『こっち』じゃない。

 

 

 

 本題に入る。

 

 おれの大事な人を拒絶する、彼女の透き通るほど澱んだ瞳。

 

 

 

 花園の屋敷にノイズが走ったかのように。

 

 友好が、嫌悪に。

 

 優しさが、憎しみに。

 

 

 

 希望が、絶望に塗りつぶされていく。

 そんな顔だった。

 

 

 

「おれは花園羽香里が望んだ道を共に歩むと決めた人間です」

 

 それでも。

 

 

 

「今まで育んでくれた、花園羽々里よりも」

「これからを支えるだろう、愛城恋太郎よりも」

 

 

 

 

 

「花園羽香里はおれを選んだ」

 

 あいつが手を伸ばしたのは、おれだった。

 

 

 

「だからこそおれは応えなきゃならない」

 

 あいつがおれを選んだ意味を履き違えず。

 

 

 

 

「おれの道こそ、花園羽香里が望む道です。おれが、花園羽香里の意思そのものです」

 

 願いを、思いを。否定させてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

「その上で、言わせてもらいます。おれはあなたの……敵です」

 

 

 

「そう……。やはり、そうなのね」

 

 

 

 全てが繋がった。

 花園羽々里はそう言わんばかりに吐息を吐いた。艶やかで、重く、静かな吐息を。

 

 

 

「それが何?」

 

 細い声に怒気が孕む。

 

「あなたも一緒だった、のね。娘を不幸にする醜い蛆虫だと」

 

 

 

 その言葉は初めて会った時の言葉に似て。それでいて以前よりも明確な悪意。

 

 だからこそ、おれの顔は歪んだ。

 

「去りなさい。せめてもの猶予をあげるわ。あなたのような害虫はいつでも殺せるのよ」

 

 

 

「あいつを不幸にする……? なら、奇しくもおれと同類だよ。あんたも」

 

「……なんですって?」

 

 

 

「あいつの心は悲しんでいる。それはあんたの所為で、おれの所為だ。あいつは家族と友達が嫌い合うことは何一つ望んじゃいなかった! うんざりするほど無駄な禍根だ。このまま行けば、あいつは心に深い傷を負って生涯ずっと後悔し続けるんだぞ!?」

 

 拳に力が入る。

 まだ、諦められない。

 

「今なら、まだ間に合う。あいつにとってのハッピーエンドはこんな結末じゃない。……あんたが望まないのは分かってる! 花園羽香里の恋を許してやってくれないか!」

 

 

 

「その恋を押し通した結果が……私なのよ!! 貴方には分からないでしょう、愛した人に先立たれて孤独になった私の気持ちは! 私の後悔は! ……娘である羽香里にはこんな思いはしてほしくないの。私を毒親と囀るなら、嗤って毒親になってやるわ。恋をした自分を、愛した自分を憎むくらいなら!」

 

「……っ」

 

「ハッピーエンド? そんな泡のように軽い言葉を吐かないで頂戴、虫如きがッ! 人生には必ず折れるべき、乗り越えてはならない壁があるの。愛してると言ったことがここまで苦しくなるなら……こんなになるまで、愛したく、なかった……!」

 

 

 

 羽々里の慟哭は懺悔だった。

 

 

 

「な、んで……」

 

 彼女の言葉が詰まっていく。

 

「なんで、あなたじゃないの? なんであなたじゃないのよ? 普通の男の子と普通に知り合って、普通に遊んで、普通に付き合って、普通の恋人になって、普通な幸せを掴んでくれればそれで良かった……なのに、なんで私と似たような道を……っ!!」

 

 

 

 その姿は小さな少女のようで。

 出来ることなら隣に寄り添ってあげたいほど、痛々しい憎悪だった。

 

 でも。それでも。

 

「あなたは、『愛していると言った』ことを後悔してるのか……でも、おれはその後悔を否定しないとならない」

 

 

 

 

 

 こちらにも譲れないものがある。それだけだ。

 

 

 

「おれは、『愛してると言えなかった』ことで後悔した人間だから。それでも輝く光があるんだと、あなたに証明するよ」

 

 

 

「どう……証明するって……いうのよ」

 

 

 

 

 

 

 

「命を賭けて、()()()の想いを守りますよ。おれは」




原作第十四話、完結。

副題「未熟、されど友として」踏破。

次カイも%楽()#ににニにn弐に。









『エラーを検知』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。