君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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『』
『——————それは運命を繋げる人』


『CONNECT』

「私と、お別れしてください」

 その言葉を正しく理解するのに、少しの時間が掛かった。

 

 なぜ。なんで。

 

 また……俺は何かを間違えたのか。

 

 今までと同じように。

 

 中学の頃から変わらない。『ごめんなさい』も『いやです』を聞いた時と同じ感情を持つ。

 

 度重なる想いの拒絶は俺の所為。

 きっと気に入らない事があったんだ。そうに違いない。

 

 やめてくれ、そんなこと言わないでくれ。なんでもするから。

 

 

 

 

 

 でも、その逡巡がいけなかったんだろうとすぐに気づく。

 その動揺していたわずか数秒の間に、羽香里は理由も告げず俺の手から溢れるように離れていった。

 

 

 

 心ここに在らずのままでも、時間は残酷に進んでいく。

 

 駄目だ。まるで雷に打たれたように思考がはっきりしなくなってしまった。何も考えられない。

 

 みんなとのデートにも関わらず、勝手に消えた羽香里を心配するみんなに大丈夫と根拠のない言葉で落ち着かせた。

 

 自分では記憶にないが、おそらくは正しく口を回らせることが出来ていたのだろうか。

 

 とりあえずは『自分がなんとかしてみる』というような意味合いの言葉にはなっていただろうと変に踏み込まれなかったことに安堵する。みんなをいたずらに不安にさせるわけにはいかない。すぐに連絡を取り付けるから少しだけ待っていて欲しいと心の中で望んだ。

 

 

 

 スマホから連絡しようにも電源が切られているのか、電話に出ない。

 なら、住所を調べるしかない。

 

 

 

 羽香里の郵送されてきたブロマイドから宛先を辿り、直接コンタクトを取ろうと試みる。

 

 家の敷地を囲む柵越しに大きく手を振れば、たまたま窓から遠くを見ていた羽香里が気付いた。

 しかし焦ったように伏せる合図をする羽香里。言う通りにした直後、警備員が4人ほど敷地内を通り過ぎていく。警備員達のしていた会話は明らかに俺達を警戒するための作戦を練るためのものだった。

 

 固定電話の子機にて羽香里が通話を投げかけてくれたが、窓から見えるその顔にはまだ翳りがある。

 

 見ただけで分かる。何かが起きていた。

 

 

 

「諦めてください……愛城君」

 

「嘘つくな。——————顔見ればそんな事くらい分かる」

 

 

 

 即答。そんな一言では、諦められない。

 羽香里の声は涙を堪えるように絞り出した声へ変わっていった。

 

 

 

 お母様に知られてしまった、羽香里はそう口から零した。

 

 それだけの事で、羽香里は恐怖していた。

 理由はすぐに思い知らされることになる。

 

 

 

 畳み掛けられるように、明日には引越しすることを告げられ。

 

 羽香里の音声が急に大人の女性に変わるや否や突き放され通話が終わる。今のが母親の声だと気づいてももう遅い。いくら掛け直しても繋がらない。

 

 話なんて、会話が成立するどころか一言たりともさせて貰えなかった。諦めずに叫び続けるとすぐに警備の男に見つかり拘束されてしまった。

 

 

 

 締め出される前に、警備になんて言われたか。

 自分にとって、酷く重いものであったのは確かだけども。

 

 もう、覚えてはいない。

 

 

 

 覚えていられるはずもなかった。

 ただ、彼女を悲しませてしまったという事実に……打ちひしがれた。

 

 身体が、怒りで震える。

 

 

 

「ぐうゥあああアァッ!!」

 

 喉が潰れるのも構わないくらいの絶叫とともに、塀に頭を打ち付ける。痛みが滲んでこようと知った事じゃなかった。

 

 

 

 最低だ。

 

 最低だっ。

 

 最低だっっ!!

 

 

 

 彼女達を守るなんて言っておきながら、何も出来ちゃいなかった!!

 

 

 

 何が『愛してる』だ。

 

 何が『幸せにする』だ!

 

 何が…………っっ!!

 

 

 

「てめぇが出来ることなんて……何もねぇじゃねぇか……!」

 

 

 

 

 

「打ちひしがれている暇もねぇな。おいっ、顔をさっさとあげろ」

 

 その声を聴いた俺は。条件反射のように振り返る。

 

 

 

「ひどい状況になったもんだ。……おれも今、己の不甲斐なさってやつを痛感してるよ。もっとやりようはあったんじゃないかと思わずにはいられん」

 

 

 

「……ハル」

「よう。……おれが言えたもんじゃないかもだが、随分ひでぇ顔だこと」

 

 何故ここにいるのか。そんな疑問なんてよぎることもなく俺は、ハルの胸に飛び込んだ。

 

 

 

「ハル……! ハルぅ……!!」

 

「……おいおい。泣いている場合じゃねぇのは分かってんだろ? ……お前になら胸なんぞいつでも貸してやりたいところだがな」

 

 そう言って、ハルは俺を引き剥がした。

 

 ハルの目は僅かだが、赤く腫れていた。

 

 

 

「さて、その泣き面を見るに……大体の事情は分かっているようだな。すまん、おれの方でも予め接触を図ったが向こうの動きは変えられなかった。羽香里は遠いどこかへ連れてかれるのも時間の問題だ。……むしろ、おれのやった事なんざ結果から見れば宣戦布告したに等しい状態にしちまった気がするがともかく、今はとにかくこれからのために情報を共有して整理したいな。いいか?」

 

「みんな……」

 

「……そうだ。あいつらにも大事だろう? 何も知らせないのは絶対に駄目だ、一言だけでも伝えるべきだ……そうだろ?」

 

 ハルの声によって、やっと目の前の景色がはっきりし始めた気がした。

 

「……うん、分かった」

 

 決意を新たに灯す。

 

 ……取り戻すんだ。

 羽香里のために、羽香里の幸せを。

 

 

 

 

 

 公園を待ち合わせ場所にして、彼女達に連絡を取る。

 近くのブランコや滑り台には目もくれず、おれたち二人はベンチに座った。

 

 ハルは楠莉だけ連絡を手伝ってくれた。

 わざわざ遅めでいいと告げて。おそらく出来る限り有用であろう薬の選定を頼んでいるのだろう。そういうところは抜け目がない男だ。

 

 太陽が地平線から消え、空が黒に染まっていく。

 

 二人でみんなを待つ。

 小さなベンチの両端に腰をかける俺達はかなり対照的だった。

 

 足を開き体を前傾させ俯く俺と、足を組んで空を見るハル。

 

 時間さえも夜の闇に吸い込まれそうな静寂が広がる。

 束の間の空き時間。目を軽く閉じようと気の重さは晴れない。

 

 

 

「そういえば、さ」

 

 ハルがこちらを見ることなく口を開いた。

 

 

 

「どうかした?」

 

「なんか久しぶりだ。お前と二人っきりなのも」

 

「……確かに、そうかも」

 

 

 

 今まで、か。……それこそ、高校に上がるまではずっと一緒にいたのに。いや、高校生活も濃密な時間を過ごせていたが……こうして彼女一人もいない場所で横に並んでいるのも随分久しぶりだ。

 今とは空気感がまるで違って、同じくらい尊い日々だった。

 

 色々と思い出す。

 たまたま、席が名前順で隣だった。最初はそれだけだった。

 

 そこから始まった。

 

 

 

 アイジョウと、アオイ。

 

 新たな出会いに、『今度こそ』と秘めた思いを持っていた時。

 

 隣の男は、『何も見たくない』とばかりに何もかもが煤けていた。

 

 

 

「ねぇ、ハル」

 

「どうした。レン」

 

「また今度、遊びに行かない? ……二人で」

 

「気が向いたらな」

 

 

 

 あの時の。

 全てをあきらめているクセに……気づいたら背中ばかり見せている、何事も放っておけないヤツの不器用な背中だ。

 

 

 

 それなのに。

 そいつ自身が一番苦しいはずなのに。

 彼を見る人はいない。

 

 

 

 『必要とされていなかった』人間。

 

 それが、俺と重なって見えていた。

 

 

 

 誰にも必要とされない人生。

 

 それがどれだけツラいことか。俺には分かる。

 

 

 

 俺も同じところにいたから。同じ泥に塗れていたから。

 

 誰からも応えてくれない。

 誰も求めてくれない。

 

 そんな人生の中で会ったのが、会えたのが君だから。

 

 

 

 仲間だ、と……思った。

 

 

 

 最初の一言は記憶に残らないほどの他愛のない言葉で。

 頬杖を突きながら窓を見るお前に色んなことを随分と話したっけ。

 

 でも、君が一番最初に反応した言葉だけは覚えてるよ。

 

『俺、好きな人が出来たんだ』

 

 その時だけ、君は初めて。ゆっくりと振り向いた。

 

 

 

 その時に、初めて目が合った。

 

 それが俺達のスタートラインだった。

 

 

 

「なぁ」

 

 

 

 

 

「何?」

 

 

 

 

 

「今、何考えてたんだ?」

 

「うーん。どうだろ」

 

 

 

「おれは、初めてお前に会った時の事。……思い出してたよ」

 

「……」

 

 

 

「もしかしたら同じ事考えてたって……ふと思ったんだけどよ」

 

「ふふっ……うん。ハルは凄いね」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

「んじゃあ、もうやるか。やれることなら山程ある」

 

「ああ。羽香里を助けよう」

 

 

 

 

 

 しばらく待つこと数分。

 栄逢、院田、好本がほぼ同時にこの公園に集まった。

 

「皆……ごめん、こんな時間に呼び出して」

 

 俺の謝罪に対し、いち早く口を開いたのは唐音だ。

 

「……で? なんなのよ、大事な話って……」

 

 唐音の顔は心配の色が強い。

 焦ったようにも見える彼女をハルが制す。

 

「楠莉の姉さんがまだ来てない。知りたい気持ちは分かるがもう少しだけ待って欲しい」

 

 

 

 

 

「…………羽香里も、じゃないの?」

 

「……」

 

 失言したにも関わらず、ハルは目を合わせない。

 

 

 

「……前、言ったわよね、私。……『助けてあげて』って」

 

「ああ、言っていたな」

 

「……何も出来なかったの?」

 

 

 

「そうだ」

 

「…………っ」

 

 

 

 大きな音が鳴る。

 ハルは身動き一つ取らず、甘んじて受け止めた。

 

 ビンタした唐音の目には涙が溜まっている。

 

「……叩くだけでいいのか?」

 

「言い訳を言いたいなら聞いてあげるわ」

 

「か、唐音!?」

 

 二人の間に何かあったのだろう。きっと羽香里についてのことで。でも、これ以上ハルに当たるのなら流石に止めなければならない。

 唐音とハルの間に立つ。

 

 

 

「言い訳なんて……言いたくても言えねぇよ。今回の件は例えアクシデントがあろうと問題ないようにしていたつもりだったんだ。それでもいずれは最悪の事態になっていたのは変わらなかっただろうよ。成功させるには長期間の下準備が必要だったし、計画を始動し始めた段階で向こうの気付きも動きも速すぎた。それだけだ。言い訳のしようがない」

 

「その……、計画って……?」

 

「この通り、恋太郎にも言うことが出来なかったくらいだ。ああ、その辺りも含めてまだ何か思うところがあるならぶん殴ってくれていいぞ。院田以外もだ。これからの話を冷静に聞けなくなるくらいなら……いや、今後に支障が出るくらいならな」

 

「『そんな』〝傷つけるなんて〟」

 

「薬膳楠莉も来た。これ以上の時間の浪費は非効率的」

 

「みんなー! お待たせなのだーっ!」

 

「………………ふんっ!」

 

 

 

 羽香里を除いた全員が揃う。

 

 院田唐音。

 好本静。

 栄逢凪乃。

 薬膳楠莉。

 そして、青井春人。

 

 

 

「お前、なんでほっぺたに紅葉マーク作ってんのだ???」

「気にするな」

 

 

 

 まずは、現状を説明する。

 

 羽香里が家族によって、家に閉じ込められていること。

 

 俺と羽香里のお付き合いを解消させようとしていること。

 

 明日には引っ越ししてしまい、物理的に会うことも出来なくなること。

 

 

 

「明日引っ越しって……!? あんたは知ってたの!?」

 

「羽香里が話を持ってきた時に懸念されていたことではあったよ」

 

 ハルの言葉は事実だけをしっかり伝えているように見えた。口調がどこか大人しい。半端な軽口を言わないよう言葉を選んでいるようだ。

 

「だが、結局どう動こうとこの五股が発覚した時点で向こうの家が引き裂こうとするのは想像に難くなかった。動いても動かなくても変わらないのなら今からでも動くべき、と結論付けたところでおれと花園は計画を練り始めた」

 

 

 

 そこから、ハルが計画の全容を語る。

 

 全員が一目惚れで付き合うなどまず信じられないだろうということ。

 

 そのため、現実的にギリギリあり得るレベルまで関係を落としていく事を考案した事。

 

 そして信頼を勝ち得たタイミングで、まるでリアルタイムでハーレムが形成されていくかの様子を花園家に見せつける計画。

 

 家の者達自身が事情を知る当事者になりさえすれば、恋太郎周りの関係に理解を示すかもしれないという賭け。

 

 

 

「そんなの……私たちに言ってくれれば協力だって……」

 

「お前が一番頼れなかったんだよ大根役者。……お前達が感情さえ欺ける女優ならここまで渋っちゃいない。二人の結論としては、おれと花園だけでもいつ嘘がバレるかわからない中でリスクは出来る限り増やしたくない。そう考えれば『どうしてもその人物が必要になる』という直前ギリギリまで自然体でいてくれていた方が都合がよかったんだ。向こうもおれと花園の関係に『お熱』だと思っていたしな」

 

「……『オネツ』?」

 

「……おれが彼氏なら良かった、だとさ。不誠実な五股野郎よりもマシって話だろうよ。それなら猶更、身辺調査なんてされないと思っていたんだが……対策を怠った結果だ」

 

「不誠実……それでも、俺はみんなを幸せに——————」

 

「それで全員の人間が納得しないからこうなってるんだ。常識から考えれば娘は騙されているとまず疑うだろう。お前の並外れた愛は他人と比べてしまえば常識外れだという自覚は持っていてくれ」

 

「……そうか。だからあの時、親御さんは一言も聞いてくれなかったんだな」

 

「仲の良い知り合いでもなきゃ当然の対処だな。まぁ結果に見てみても、お前らに何も伝えないまま特に事態の好転もなくこのザマだ。笑い話にもならん」

 

 

 

 ハルの目が僅かに揺れる。

 

「ここからが本題だ。いままでの話を聞いたうえでお前らはどうする。……おれは花園邸に乗り込む。まだ、約束を果たせちゃいないんでな」

 

 

 俺と彼女達一人一人に目を合わせながら、ゆっくりと足を動かし正面に立つ。

 

 

 

「今、ここで決めるんだ。行くか、留まるか。……恋太郎以外のヤツもこの場で選択しろ。この決断だけは、自分達の意思で決めないとならない」

 

「俺は……行くよ。これから屋敷に忍び込んで羽香里を迎えに行く」

 

「……そうか」

 

 ハルは、少しだけ穏やかな顔を見せた。

 

 

 

「あっ! 楠莉知ってるのだ! それ『カケオチ』ってゆーのだ!」

「『世の中そんなに甘くはないぜ!?』」

「相手はバ金持ちなんでしょ!?」

「成功確率……0%」

 

「ああ……どこまで、いつまで逃げられるか分からないけど——————」

 

 俺にできることは、ただひたすらに『精一杯頑張る』事だけなんだ。

 

 

 

 ——————今の俺に出来る精一杯を、全てを懸けて。

 

 

 

「俺には……あんな顔した羽香里を放っておく事なんて、死んでも出来ないから……!」

 

 これからどうなるかなんて、何も分からないけど。

 

 でも確かなことは。

 しばらくの間、みんなと会えなくなることは確定してしまうことだ。

 

 

 

「だから————「私も行くわよ」————……えっ?」

 

 俺の言葉を遮るように、唐音が断言した。

 

 

 

「聞こえなかった? 私も一緒にあのバカを迎えに行ってやるって言ってんのよ」

 

「楠莉も羽香里とカケオチするのだーっ!」

「0,01%でも成功率を上げるため協力者は多いに越した事はない」

「『いざ行かん、愛の逃避行へ』」

 

「ま、待ってくれ皆……! これはそんな簡単に決めていい話じゃないんだ!」

 

 

 

 

 

「……分かりきってたか。全員答えは出たようだな。……頼むぜ?」

 

「は、ハルッ!!」

 

 勝手に話を進めようとするハルを制するが、逆に睨みを返される。

 

 

 

「覚悟を決めろよ、恋太郎。『全員を幸せに』するんだろ? それに、お前が惚れた女どもは仲間を見捨てるような奴らばかりか? それこそ分かりきってることだが?」

 

「……っ!」

 

 

 

「ねぇねぇっ。勘違いすんじゃないわよ春人。仲間じゃないわ」

 

「ん? ……どういうことだ、関係性でも変わったか? 仲間じゃないなら……」

 

 

 

「家族よ。 ——————私たちは『恋太郎ファミリー』なんだから」

 

 

 

「…………なるほど、うん。……いいかもな。それは」

 

「言っとくけどあんたもとっくに入ってんだからね。他人事みたいな顔してるんじゃないわよ」

 

「勝手に決めんな。こっちにも選ぶ権利はある」

 

「ないわよ」

 

「そうだなぁ、もうちょっとセンスの良いネーミングだったら即答できたけどな」

 

「へぇ、『春人コミュニティ』の方が良かったクチ?」

 

「そっちの方がイヤに決まってるだろ。ソッコーで潰すわそんな名前のグループにしたら」

 

 

 

「〝私は〟〝お役に立てるだろうか〟」

 

「役に立たないヤツはいないよ。それにやりようなんていくらでもあるさ。キスゾンビの時なんてお前相手にどんだけ苦労したか……」

 

「『共に行こうぜ、相棒……!』」

 

「相棒って言いてえなら、そうだな……恋太郎を頼む。そんで、お前の出来ることをやればいい」

 

 

 

「青井春人」

 

「栄逢。おれに対して思うことや言いたいことはあるだろうが……今だけはナシにして協力してくれないか」

 

「ええ。その方が建設的であることは分かってる、安心してくれていい」

 

「…………じゃあなんだよ、その目は」

 

「考えていることも言いたいことも、後回しにする理由はあっても放置する理由にはならないはず」

 

「当然だな」

 

「だから……今度、二人きりで話がしたい。花園羽香里を助けた後に……ゆっくりと」

 

「ああ、分かった」

 

 

 

「流れ的に次は楠莉の番だと思ったのだ! ふっふーん、天才の楠莉に任せておくのだっ!」

 

「使える薬品は揃えられたかー? 薬膳印の薬がなけりゃオメェはただの役立たずだぞー」

 

「おいコラガキィっ!! 年上に言っていいセリフじゃねぇだろ!! というか、さっき静には『役に立たないヤツはいない』って言ってたばかりなのだっ!!」

 

「お前は例外だろ」

 

「その口溶かすぞ」

 

「なら、せめて打ち消しの薬を飲み続けて元の姿に戻っておけ。多分、理性ぶっ飛んでる子供モードよりも頭が回る方が力になれるはずだ」

 

「言われなくてもそうしてやるのだっ!! ……グビリッ……まったく、昔から可愛さの欠片もない弟なのだよ。……さて今回用意したものだけれど、お前専用の特注を持ってきた。いつもより効果時間が長い分、何が副作用として起こるか分からないから十分取り扱いには気を付けるように。使わないに越した事はないのだよ」

 

「いや、今戻る必要ないだろ。肝心な時に効果切れ〜、持って来た薬も無くなった〜とかやめろよな。……そんで、薄い菱形のネックレスになっている理由は?」

 

「中に閉じ込めた薬品を噛み砕く事で体に流し込む試験的なタイプなのだよ。唐島のお婆ちゃんの提供なのだな。首にかければすぐ手に取れる利点があるし、破片を誤飲しても消化される素材でできているからその辺りの心配はない。ただ衝撃には弱いから、敵の攻撃に気を付けるのだよ」

 

「オーケー」

 

「……無茶しちゃダメなのだよ、春人。昔みたいに馬鹿な真似したら楠莉のおっぱいで潰すのだよ」

 

「その昔よりはマシになってるつもりだ。それで今は許してくれよ、姉さん」

 

 

 

「さて、あとは恋太郎。お前次第だ」

 

 俺の親友が、告げる。

 

 されど、それ以上の言葉は必要ないと言わんばかりで。

 

 

 

 俺は。

 

 一人で抱え込むばかりで、周りを全然見ていなかった。

 

 誰一人、ここで不満を口に出す事はなく。

 その手で羽香里の手を掴もうと決意している。

 

 止める権利は、俺には無い。

 

 

 

 羽香里も春人も俺に何も話そうとしなかったのは、今ならなんとなく理解できる。

 二人に信頼されるには、俺はきっと無鉄砲過ぎると判断された。

 

 羽香里の親ならばと、人の良心と器量を無責任に信じ込んで真っ直ぐ突っ込んでしまう。

 自分でもそう思うし、事実それで花園家には向かって門前払いされている。

 

 

 

 それしか……一人でいた俺にはそれしかやり方を知らなかった。

 

 誰かさんが隣にいても、共に直らなかった悪癖。

 

 

 

 でも、頼る事は弱さの証明にはなり得ない。

 

 そうだ。

 そうだよ。

 

 いつだって教えてくれた。

 

 今、俺の目の前にはいるのは……頼れない仲間ではない。心の底から信じられる俺の彼女達なんだ。

 

 そして。

 

 

 

「みんなで、羽香里を助けよう」

 

 俺のそばで信じてくれる、ただ一人の友がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな柵を越え、静ちゃんを支えながら降ろし。

 

 全員で花園家の敷地内に侵入する。……いや、厳密には全員ではないけど。

 

 

 

 見たところ、警備員が3人はいる。

 役に立ちそうな道具は色々と用意してはいたが、これではまともに近付くことも出来ない。

 

 植物で各々身を隠しながら、様子を探る。

 

「電話に出た時は上の階の……確かあの窓のとこだ。気付いてくれるようにゴムボールを投げようと持って来たけど、このままじゃ投げても警備員に先に気付かれる」

 

「どうすんのよ。ここまで警備が厳重だと動くことも出来ないじゃない」

 

「割と敷地内に入れた時点で運が良かったなのだな」

 

「しばらく様子を見よう。それに……」

 

 

 

「警備が厳重なのはハルの予想通りだ。あとはどこまでやってくれるかにかかってる」

 

 

 

「〝そう言えば何故〟『別行動を許したのか?』」

 

「……ハルは、あまり人と何かをするのが得意じゃないから。仲間と行動する時はまず足手まといかどうかをつい考えてしまうって中学時代に本人が言ってたのもあるけど、実際は人質にされて動けなくなる事を恐れてるんだと思う」

 

「ごめんなのだけど、ちょうどヘリが飛んでて聞こえないのだよ」

 

「愛城恋太郎」

 

「どうしたの、凪乃?」

 

 

 

「青井春人の様子……なのだけれど、何か違和感がある」

 

「……〝違和感?〟」

 

「まだ隠している事がある、と予想している。愛城恋太郎への反応しか根拠がないから可能性は低い」

 

「凪乃、いつの時か分かる?」

 

 

 

「愛城恋太郎が花園羽香里を助けに向かうと宣言した時。彼は僅かに顔を綻ばせた。それだけ」

 

「えっ、それだけ?」

 

「凪乃ありがとう。多分、間違ってないよ」

 

「……さっぱりなのだよ。なんで安心したらダメなのだ?」

 

「『春人君』〝の視点で考えると良い〟『恋太郎君』〝が〟『人を助けるのは当たり前』」

 

「……ああそうか、なるほどなのだよ。つまり春人が安心したのは恋太郎が『想定通りの動きをしてくれたから』という感情に見えたというわけだな」

 

「ほぼ私の考えと一致した。以上の点から、青井春人を花園羽香里に近づけないようにすべきと判断する」

 

 

 

「言いたい事は分かるよ。ハルが怪しいと思うのは同意見だから。でも勘違いしちゃいけないのはハルは敵じゃない、という事。少なくとも羽香里と離れ離れにさせたくないのは本心だよ。でないとみんなにわざわざ連絡する意味がないからね」

 

「〝むしろ〟〝連絡取る前に〟『口封じすれば良い』」

 

「俺と二人の時に妨害すれば、その時点で止められる人間は居なくなるからね。そもそも敵だったという線はほぼ無い。それに……」

 

「それに?」

 

 

 

「ハルは、実はああ見えて俺のこと大好きなんだ。……だからきっと大丈夫。青井春人という人間がみんなを悲しませるような事をする筈がないから」

 

「……愛城恋太郎がそう言うなら」

 

 

 

「そもそも春人は陽動で、私達が潜入なら気にしなくて良いんじゃないの? とにかく私達は進入口だけでも見つけないと……!」

 

「唐音。それ、おそらく違う」

 

「えっ、あれ? そんな話だったと思ったけど……?」

 

 

 

「俺達のやる事は潜入。ハルは…………正面突破だ」

 

 

 

「『恋太郎君!』……『やっこさん、近付いて来やがった!?』」

 

「……えっ? あっ、ハァッ!? アイツやりやがったのだ!?」

 

「はァ!? 嘘でしょ!?」

 

 

 

 

 

「「ヘリコプターが降りてくる——————ッ!?」」

 

 

 

 大きな音と風が強く吹き荒れる。

 

 そのどよめきは俺達だけじゃない。

 

「なんだなんだ!?」

「屋敷の正面はヘリポートじゃないぞ!?」

「プロペラがうるせぇっ!? こんな夜更けに何考えてんだ!?」

 

 

 

 警備員がパトロールを投げ出し、ヘリコプターの方へ走っていく。

 

 

 

 

 

 しばらくして、ヘリコプターが飛び去る。

 

 その間に彼女達が進入する場所を探しているが、俺はヘリコプターから降りた人物に目が離せない。

 

 

 

「いくぞぉ!!」

 

 

 

 聞き慣れた声が正面から聞こえてくる。

 

 あいつだ。

 

 どんなに遠くとも聞き逃すはずがない。

 この声は間違いなく……!

 

 

 

「……ハル?」

 違和感。

 

 

 

 ふと感じた。いつもと違う。

 

 動きがおかしい。何か妙だ。

 

 

 

 胸のざわめきが収まらないまま、彼女達から『扉が開いた』という連絡が届く。

 今なら、中に入れる。

 

 俺は彼女達と共に走り出した。




原作第十五話、完結。

主題「青井春人との繋がり」踏破。

次回もお楽しみに。


【エラーを検知】
【エラーを検知】






〜追記&ご連絡〜

 どうも、作者の夢見双月です。
 今現在、物語が大きく動いておりますが、ひと段落落ち着いた辺りに閑話を挟もうと思います。

 その時に、読みたいファミリーの組み合わせ、エピソードを感想欄にて募集しようと思います!

 原作単行本もサラッと過ぎてましたし。到達記念として何かやりたいと思った企画です。
 とりあえずルールはこちら!

1、組み合わせは春人、恋太郎、恋太郎ファミリーの彼女(〜端須蓮葉まで)の中だけ
2、エピソード、シチュエーションの希望はアリだが、完璧には応えられない可能性があるので、『お題』の認識でおなしゃす。
3、作者の独断と偏見で採用します。書けそう、書きたいものを制作しますので不採用や次にやるかも知れない時まで持ち越しなどが発生します。ごめんね。
4、上記のルールを守らず荒らしや誹謗中傷、連投など迷惑行為を発見した場合は相応の対処をします。最悪春人くんが暗殺しに行きます。絶対ダメだよ!

 期間は設けませんが、あと3〜4話程度書いたら記念回に辿り着く想定です。ある程度時間は長いですが、後半にいくにつれ採用しづらくなると予想されます。お気をつけください。

 以上です。
 これからもチマチマ進めて参りますので、気長にお待ちください。
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※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。