君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

21 / 24
『それは、死の運命を断ち切る者——————』
『』





『SLASH』

 線香を立て、一筋の煙を昇らせながら仏壇の前で手を合わせる。

 

 写真立てには、俺をわざと切り取った家族の写真がある。いつ見ても思い出の一枚は笑顔が揃っていて……そう、笑顔が揃っている。

 この時、おれはどんな顔をしていたのだろう。もう霞んでしまった記憶だが……みんなと同じように笑っていただろうか。

 

 でも、まだ一緒の場所で笑うわけには行かない。

 残っている約束がある。放っておけない奴らがいる。なら、生きる理由には十分だと思う。

 

 せめて見守ってくれるようにと、祈る。

 

 ふと思い出す。

 この写真には家族の他に……もう一人写っていたはずだ。

 

 まるで、他人事のように。薄れていたものをハッキリさせるために写真に目を向ける。

 

 確か……あいつは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴメンナサイ』

 

 

 

「……ぃぎぃ、かっ、ぁっ!」

 

 頭に響くその声がいつかの痛みを思い出してしまう。

 脂汗が滲み、喉が急激に詰まり呼吸困難へ。

 

 精神的なトラウマによるものだと分かっていても、そんな認識は関係ないとばかりに、肉体に影響を及ぼすほどの膨大なストレスが駆け巡る。吐き気が止まらない。指一本動かせなくなる。

 

 

 

 今は……いや、今もまだ無理だ。

 時間は随分経つというのに耐えられない。

 

 目を強く瞑り、あの時の後悔から逃げる様に打ち払う。

 そして、ただただ強く祈った。

 

 現実から目を背けながら、それはそれとして無事でいられるように。

 

 

 

 まだ、こんなところでうずくまっている場合じゃねぇんだ。

 都合の良い願いだろうと、知ったことか。

 

「はぁっ……。はぁっ……。……みんな、行ってきます」

 

 

 

 

 

『おれが正面で引き付ける。その間に入れ』

 

『無事に済む判断なんだね? あと、もしもの時の抜け道とかあった? 羽香里を連れて逃げる可能性は気にしないと』

 

『金持ちの家だ、可能性はあるだろうな。でも、知ったところでどうする事も出来ん。スピード勝負で逃げる前に助け出す、余裕があればそっちで勝手に道を潰しとけ。中に侵入したら臨機応変に展開、羽々里さんと接触する前におれ達が合流出来ればいいが……全員黙らせるのに時間はかかる、期待はするな』

 

『やっぱりただ引き付けるつもりはないんだね』

 

『当然だろ。やるからには、だ。……じゃあ、少し時間が欲しい。一旦おれが向かうまで待機か隠れてろ。そのあとは任せていいか、恋太郎』

 

『分かった。ハルもケガだけは』

 

『……ああ』

 

 

 

 そんな会話が大体10分前ぐらいの事。

 

 花園家へ向かうため。そして、自分なりの覚悟を決める為に少しの時間を使わせてもらう。

 

 テーブルの上には紙袋。

 右手で中身を取り出す。

 

 そこにあったのは、新品同然に綺麗になった青いパーカー。

 

 以前に、このパーカーだけは早めに返して欲しいと銘戸さんにお願いしていたものだ。律儀なのかなんなのか、帰りに持たせてくれた。

 

 正直、ありがたい。

 

 これが無かった数日、マジで運が向かなかった。

 もしかしたら、いつも着ていたこの服を着てなかったのが原因かも知れない。なんてな。

 

 それでも験担ぎってワケじゃないが、あやかれるところはあやかって行こう。

 これから、何が起こるか分からない。小さな事を怠って後悔するぐらいなら神様にだって縋ってみせる。

 

 

 

 ゆっくりと袖を通す。

 

 僅かに顔を歪め、左腕を通そうとし……痛みで中断した。

 

「ぐっ……ぁっ! くそっ」

 

 

 

 左前腕骨折。

 

 

 

 動かざるを得ない状況にならない限り、少しでも休息を取っていたかった。

 そもそも恋太郎からの連絡から重大性を推測して、今回のこの奪還作戦まで繋がっているが……これがあったから、余程の事でなければ動くつもりはなかった。

 

 今のおれの左腕は使い物にならない。病院で診てもらう時間も無かったために、素人では治す事も出来ない。

 

 

 

 原因は自分の中では明白だが……恋太郎達は知らなかっただろうし、そもそも伝えていない。

 これは例の催眠野郎事件の際に負ったものだ。

 

 花園羽香里が標的となり、恋太郎達が窮地を救った。

 その裏でおれは恋太郎達に主犯を任せ、周囲の警戒によって判明した増援を対処する役割を担っていた。

 

 あの時、対峙したのがただの不良集団ならまだ楽だった。

 実際には全員が武器を持ちながらバイクに乗って路上に停まっていた。

 

 ただの不良集団ではない。暴走族に近く、暴力性の高い悪質な連中だった。隣町では有名で、窃盗するのにまず頭をかち割ってからひったくるようなグループだったらしい。

 

 その時のおれは意に介さず、そのまま鎮圧に動いたのだが……場所は道路とはいえ、広さに限界がある。

 

 

 

 バイクによる波状攻撃と狭い地形に、とうとうまともに被弾した。

 

 バールのようなものを振り下ろされた時に、回避出来ないと悟り咄嗟に左腕で防いだのだ。顔には出さなかったが、泣き叫びたいくらいの激痛が走った。

 

 催眠という怪しく光る宝に引き寄せられたのだろう。15人前後の集団は人を襲う事に躊躇いは無かった。

 

 

 

 なんとかなったから良かったものの、結果は圧勝ではない。

 怪我による影響は尾を引くように蝕み、これからの大立ち回りを考えればコンディションは平時の半分以下にまで落ち込んでいる事だろう。

 

 それでも。

 

 やらなければならない。

 

 

 

 悟られないように花園邸では固定具を外していたが、これから激しく動くことになるために処置をしておかないと攻撃はおろか守る事すらロクに出来ない状況に置かれる。応急処置は必須だった。

 腕には基本、当て木と言われる通り基本的には木材や軽くて硬めな材質の物を使用するが、それだけだと足りない。

 

 家ならどこの家にでもあるであろう、アームガードを引き出しから持ち出す。

 格闘技用のプラスチックで出来ているものだ。少し心許ないが、固定具だけだと防いだ時に痛みで判断が必ず鈍る。

 アームガードは硬い攻撃を防ぐ部分と伸縮性の高い素材で腕を覆う部分がある。が、固定具の上から付けようとすると手間だ、包帯と……ガムテープで固定すればいいか。さっと巻いてからパーカーの袖で隠す。

 

 さっきよりは痛みは少ない状態で、パーカーを身につけることが出来た。

 

 十分痛いけどなっ!

 左腕だけが膨らんでいるのが不恰好だし。

 

 なんせ、昨日の今日だ。

 骨折の炎症は今がピークの真っ最中だ。動かしてなくても痛みが酷い。

 

 

 

 マズイ、顔が青くなってきた。体が肉体の不調を訴えるために気分が悪くなってくる。そろそろ向かわないとな。これ以上体を休めると、かえって動けなくなりそうだ。

 

 

 

 靴を履いて家を飛び出したと同時に、通話がかかる。

 ドローンで偵察をお願いしていた朝日のばぁちゃんからだ。

 

『あんた、骨脆いねぇ』

 

「うるせぇな、開口一番に」

 

『まっ、薬膳のところへ誘拐しに来たエージェント共に比べりゃただの警備員さね、あんたなら片腕はいいハンデじゃないかい?』

 

「敵の数によるだろが……どうだ?」

 

『ざっと見えるだけで30人以上。護衛に相当金を注ぎ込んだと見えるね。中も警戒態勢、恋太郎のガキンチョ達が潜んで助けようにも何処かで見つかるよ。……あんた、どうやったらここまで嫌われるんだい』

 

「とにかく、目立つように動く必要がある。出来る限り屋敷の中にいる奴らも引き付けたい。……真正面で暴れりゃいけねぇか?」

 

『無理だね。インパクトが足りない。どうせ恋太郎と愉快な仲間達が来るだろう、って考えは全員持ってるだろうしねぇ』

 

「最初の段階で引き摺り出せさえすりゃいいんだ。恋太郎が途中でバレない限り、前に出てきた奴が後ろに戻ることはない。おれが1人で戦っている状況しか分かってない限り敵前逃亡の形にしか見えないからな。根拠もないモノのために動ける奴なんて……特に、ただ雇われただけの警備が出来るわけないだろ」

 

『へぇ、相変わらず目の付け所がいやらしいじゃないか』

 

「言い方が悪いだろそれは」

 

『ふむ、インパクトが足りないって話だが……良い方法があるさね』

 

「……何がある?」

 

『クソガキ、空の旅は好きかい?』

 

 

 

 

 

 空から飛んで着地する。

 

 プロペラの回る音が耳をつんざく中、おれは花園邸の正面に立つ。

 

「あー、うるさかった……。なんでヘリなんて持ってんだあのババァ」

 

『聞こえてるよクソガキ!!』

 

 防音のヘルメットに付いている無線越しに怒鳴り声が聞こえる。

 

 警備員がわらわら出てきたが、周りのご近所さんからもクレーム来そうだからさっさと帰って欲しい。

 

『春人』

 

「なんだよ、ばぁちゃん」

 

 

 

 

 

『しっかりやるんだよ。あんたなら出来る』

 

「……ああ、ありがとうな。ばぁちゃん」

 

 重く響く言葉だ。

 あの人の言葉はいつもそうだ。失敗しちゃいけない仕事ばかり手伝わせたくせに、大事な時に失敗させないような力強くてそれでいてどこか安心するような言葉を過不足なく伝えてくる。

 

「さて」

 

 ヘルメットを投げ捨て、ヘリから正面へ向き直る。

 既におれは警備員達に囲まれている。

 

 屋敷の奥に——————羽香里がいる。

 

 

 

 砦のように見える花園邸を見据えていると、上階の窓から羽々里さんが見えた。

 睨むように一瞥した後、カーテンがその姿を隠す。

 

「やるか」

 

 全員が警棒やスタンガンを持っている。

 そんな状況だからか、どこかヘラヘラとした警備員が1人近づいてくる。

 

 舐めてることだけは、顔を見て分かった。

 

「小さい子供がこんなところに1人で、ヒーローみたいでカッコいいじゃねぇの。ところで、前にここの使用人達にタコ殴りにされたって本当かい?」

 

 ……なるほど。

 無謀に見えてるわけね。

 

「悪いが、口の臭い大人とくっちゃべってるほど暇じゃない。止める実力もないならどいてくれないか」

 

「何言ってんだお前。こっちの人数——————」

 

 

 

 言い終わる前に、警備員の身体が5mほど後ろへ飛んで行く。

 プロボクサー顔負けの速さで、右手が動いていた。

 

 吹っ飛んだ警備は頬に拳の跡をつけたまま、そのまま動かなくなった。

 

 

 

「邪魔だっつったんだ、何回も無駄な事言わせんな。それに……楽勝じゃなきゃわざわざ正面から来ないぞ」

 

「お、おい。なんだ今の」

「嘘だろ……!?」

「マンガみてぇな吹っ飛び方したぞ」

「原作はマンガだからセーフだろ」

「ならセーフかぁ」

 

 狼狽える警備員達。

 今のうちに全体の数を把握する。

 

 やっぱり、想定より多い。

 

 

 

「今日が最後なら、無理にでも押し通る」

 

 それでも、やるしかないから。

 

「時間もねぇ」

 

 あいつがこれから、大きな悲しみに打ちのめされ苦しむ。

 そんな道を辿らせる訳には行かないから。

 

 今なら、きっと間に合う。

 

「来ないなら……こっちから行くぞォ!!」

 

 

 

 開戦の火蓋が、切って落とされる。

 

 

 

 

 

 得物を真っ先に前に出して突きつけてくる敵達に対して、小細工も無く正面から走って行く。

 先程までのざわめきは既に鳴りを潜め、先手とばかりに手に持った武器をおれに近付けてくる。特にスタンガンを持つ奴らはその動きが顕著だ。

 

 まずは分析。回避をギリギリまで抑え、敵全体の力量を大雑把ではあるが測る。今までの経験から、筋肉の動かし方や敵が発する敵意などの雰囲気を基準に観察する。

 

 

 

 ……論外、だな。

 複数人であれど……フェイントもロクに出来ない、または選択肢として考えてない奴らと判断する。なら取るに足らん。羽々里さんは高い買い物をしたな、可哀想に。

 

 全く単調にも程がある。当たらない事ぐらいは想定しておけっての。

 

 

 

 1人目。

 スタンガンを難なく避け、右ストレートを顔面にお見舞いする。

 

「オラァッッ!!」

 

「ぐあぁっ!?」

 

 

 

 2人目。

 スタンガンを難なく避け、右ストレートを顔面にお見舞いする。

 

「オラァッッ!!」

 

「ゲブフゥっ!?」

 

 

 

 3人目。

 スタンガンを難なく避け、右ストレートを顔面にお見舞いする。

 

「オラァッッ!!」

 

「うげぇっっ!?」

 

 

 

「くそっ、バカの一つ覚えみたいな動きしやがって!!」

 

 警棒を持った奴がおれに向かって走り、縦に振り下ろしてくる。

 

 だが悪く思うな。

 一人一人の攻撃を対処するには、まだ敵が多いんだ。

 

 

 

「がぶぁ!?」

 

 一瞥もせず裏拳を当てて警備員を沈める。

 

 後ろで白目を剥いて倒れたであろう警備に、最後まで警棒を振り抜ける程の意識はない。力なく地面に落ちたことを音で確認する。

 

 素早く次の標的へ。

 

 

 

 ……ここからだ。そろそろ経験則では、息を揃えて複数人での戦い方をやり始める。1人で敵わなければ数で抑える、当然の理屈だ。

 

 つまりは連携プレーをさせないように動くべきだが。

 向こうのチームワークの練度によってはかなり面倒になるだろう。阿吽の呼吸で挟み撃ちが出来る組が一つでもあれば……要は時間をかけ過ぎれば詰みになりかねん。

 

「囲め! 数で抑えろっ!!」

 

 まぁ、杞憂か。

 声を出さないと陣形を組めないのなら。

 

「誰か1人でも動きを封じられれば……がぁっ!?」

 

 縮地と呼ばれる技術で加速する。

 通り過ぎざまに、司令塔を担い始めた警備員を沈めた。

 

 足で地面を蹴る従来の走り方ではなく、前傾姿勢や体重移動を駆使した『倒れる前に足を出す』という歩法。

 分かりやすい特色として、地面を蹴ると当たり前のように地面の土は後ろに飛ぶが……この走法は土が前へ飛ぶ。

 その状態からさらに身体を傾ければ、脚への負担が増す代わりにスピードが段違いに変わっていく。そのせいで上体は常に低く、達人レベルであれば地面をロケットの様に進んでいる様に見えるだろう。

 

 さらに最初に加速する為に、身体を前に傾けながら前に出ている方の脚で地面を2回程踏む。当然、前の脚が浮いた時だけ重力に従い倒れて身体が地面に近付く形。つまり、手をついていないクラウチングスタートの体勢になり、ただ走り出すよりも加速の乗り方が大きく変わる。

 

 この縮地走法により、高速移動が可能。

 アニメの様な瞬間移動とまではいかないが、速さは十二分。

 

 速ければ、正面からの攻撃であろうと奇襲になり得る。

 

 

 

 だがしかし、結局は見様見真似。

 極めたと言うには練度は少なく、単純に使いこなせていない部分がほとんどだろう。

 だからというか、拙い部分は力任せで無理矢理補っている。速度の調整や曲がる際には流石に地面を蹴るし、手を地面に付いて支柱にしながら滑る事で体勢を維持する。

 

 おかげで、加速は問題ない。

 

 

 

 次の集団。

 固まっていた3人の真ん中の警備員が突如としてその場から消える。

 自動車に轢かれたかのように遠くまで飛ばされた警備員は、何回かバウンドした後に気を失った。

 

 時間帯が夜なのもあって、時々奴らはおれを見失う。

 

 ただでさえバラバラの集団にこの状況、反撃なんてあってない様なものだ。

 

 

 

 吐いた息が喉に切り裂く様な痛みを与え始める。

 スタミナの減少が著しい証拠だ、汗が噴き出しているのも自覚する。

 

 相手は大人。

 生半可な攻撃では倒せない。

 連撃で仕留めようにも時間が惜しい。

 

 なら、必然的に攻撃面でも本気を出す必要がある。

 

 加速も乗っているお陰で威力が上がり倒れてくれているが、体力の消耗が激しいことに変わりはない。

 

 さらに問題は、警備員の数。

 

 

 

 (まだ、いんのか……っ!)

 

 屋敷の中や後方で張っていたらしき警備がぞろぞろと集まり始める。

 

 朝日のばぁちゃんに心の中で悪態を吐く。

 

 ドローンの偵察で分かった人数の2倍以上は現時点で立ってるぞ。

 ふざけんな。どれだけいるんだよ。

 

 

 

 まだ10人前後しか倒せていないが、足を止める。

 ハイスピードで動き回るのは短期決戦に持ち込みたい意図もあったけれど。

 

 無理だ。これ以上高速で動き続けると近いうちに限界を迎える。疲労困憊のタイミングで致命的一撃を喰らえば敗北は必至だ。

 

 地にきちんと両足を付け、構える。

 負傷した左腕をだらけさせ、残った右手を顎を守る様に備える。

 

 楠莉の姉さんから預かって来た薬品にも体力回復系の物はない。

 というか、まともに使えそうなのはそんなにない。有用な薬ほど真っ先に秘密裏の規制が入るから仕方ないとはいえ、今使ってもどうしようもないものばかりだ。

 

 敵は次第に大きな円陣となって、おれを追い詰めるだろう。逃げ場を無くしてしまえばほぼ勝利がなくなる。

 

 だから、ヒットアンドアウェイ戦法で先程のようには激しく動き回らないだろうが動く必要に迫られるな。これは。

 

 

(これでも大分楽な方ではあるが、な。……向こうが拳銃を持ってないだけでもかなり出来ることの幅が違う。またはまだ使う必要がないと思われてるか。どちらにせよ、まだおれの方が有利だ)

 

「うわぁ!!」

 

「ふッ」

 

 少しの息を一気に吐き出し、全身の筋肉を引き締める。

 

 増援は平静なのはともかく、おれの襲い方を見ていた内の何人かがパニックを起こしたのか、我先にと独断で迫ってくる。

 

 気づけば隣の仲間だった人間が刈り取られ、吹き飛んでいくのだ。恐怖で判断力が鈍ったのだろう。動けなくなるよりはマシな行動だが、そんな奴らだろうと手を抜くつもりは毛頭ない。

 

 

 

 警棒を持った手を右手でいなし、隙だらけの腹に膝を捻じ込む。

 

 次の奴には、武器を持つ手の手首を掴んで無理矢理引き寄せる。軽く顔を前に突き出せば警備の顔面に頭がクリーンヒットする。

 

 続いて横薙ぎで警棒を振り回す敵には、伏せながらの突き蹴りを腹部に当てる事で動きを止める。すかさず脛へサッカーボールキックを食らわせると勢いよく180度回転し、頭から着地してそのまま失神した。こりゃあ、当分起きれないだろう。

 

 

 

 やはり、左手が使えないと何かと不便だな。

 柔道の様な投げ技も使えなければ、武器盗み……もとい悪い手癖も片手ではやりにくい。

 

 見渡すと、ほとんどの敵が動かない。

 後から来た警備員達も、普通の侵入者ではない事に気付いたのか警戒して近付かない。

 

 

 

 だが、こちらには付き合っているヒマはない。

 いつ花園の状況が変わるか分からない。羽々里さんが連れて逃げ出す発想に至るまでには辿り着かないと意味が無い。

 

 もし、1人なら手段も選ばずもっと強引に……怪我も厭わず突撃していただろうな。

 

(きっと大丈夫、何故なら恋太郎がいる)

 

 アイツなら、何が何でも花園のところまで辿り着く。

 ……そんなのは当たり前だ。あいつなら。

 

 だが、その後の状況が良いか悪いかはおれに懸かっている。

 

 

 

 おれの役割が邪魔な奴らの露払いというのなら、徹底的に払いきる。

 その為の正面突破だ。

 

「ははっ」

 

 上等だ。やってやるよ。

 

「あいつ……本当に昼に来た奴なんだよな……?」

「わ、笑ってやがるっ!」

 

 まだ、たくさん。たくさん。

 

 数えるのも面倒だ。全員ぶちのめせば数える必要もなくなる。

 

 

 

「我ながら随分バイオレンスな思想に染まってるな。……いや、前からこの程度は日常茶飯事だったか? 相変わらずの騎士道の欠片もない喧嘩殺法だが、性に合ってるから仕方ねぇよなぁ。……んじゃあ覚悟はいいか? 一気呵成にまとめてぶちのめすっ!!」

 

 おれは一直線に集団の中を突っ切って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 啜り泣く声が聞こえる。

 

 目を閉じている分、鮮明に聞こえる。

 

 いつもはメイドとして微笑みを絶やさぬよう努めていた自分も、今回ばかりは口角を少しでも上げる事は出来ないと思った。

 

 

 

 羽香里様はアルバムを開いている。

 

 ページをめくり、ご学友との思い出を大切に思い。

 指に力が入ったと思うと、何回目かの涙を流す。

 

 引き離さなければならない。

 それが他ならない羽香里様のため。

 

 そして、羽々里様の決断。

 

 

 

 たった今。

 あの男が来ている。

 

 先程のヘリコプターの騒音で察したかどうか。自分には連絡が来たが、羽香里様に知らせる訳にはいかない。

 

 知らせる訳には……いかない。

 

 

 

「羽香里様」

 

「……なんですか」

 

「先程、青井春人様が来られました。現在、警備の者が対応中です」

 

「っ!?」

 

 明らかに目の色が変わった。

 でもそれは嬉しさも、悲しさも混じった複雑な色でした。

 

 そうなのですね。

 そこまでの思いを持つ人、なのでしょう。

 

 

 

 『対応』という言葉がその通りの意味ではない事は羽香里様も分かっておられるはず。

 

 しかし、羽香里様はアルバムに目を向けたまま動きません。

 

 

 

「羽香里様、彼とは……」

 

「……芽衣さん。私は、どうすればいいんですか」

 

 ふと、声が掛かる。

 

 アルバムを見てたのではない。

 ただただ……苦しんでいる。

 

「お母様はもう決して、恋太郎君を許さないでしょう。春人さんだって……! もう、どうしようもないのですか!? 私は……! 私は……」

 

「羽香里様……」

 

「ただ……みんなと一緒に、……仲良くいたかった、だけなのに……」

 

「一緒に、仲良く……」

 

 慰める為に伸ばした手を、元の位置に戻す。

 それは出来ません。味方にはなれないのです。

 

 今の私は、羽々里の命令でここにいるのですから。

 

 

 

『あいつは家族と友達が嫌い合うことは何一つ望んじゃいなかった!』

 

 

 

 

 

 脳裏に彼がちらついた。

 

 考えが過ぎる。

 私めは……もしかしたら。

 

『おれの道こそ、花園羽香里が望む道です。おれが、花園羽香里の意思そのものです』

 

 

 

 何か、勘違いをしているかも知れない、と。

 

「羽香里様」

 

「……はい」

 

 

 

 ……関係ない。

 

「私めはしばらくここを離れます。羽香里様の周りには侵入者用のセキュリティが至る所に設置されております。決して外には出られないようにお願いいたします」

 

「芽衣さんは、一体どこへ行くんですか」

 

「青井春人様に会いに行きます。二度と花園家に近付かないように。おそらく、雇ったお警備員様達は全滅するでしょうから」

 

「全滅? 春人さんが、という事ですか?」

 

 

 

 信じられないという様に、羽香里様は自分の方を見る。

 

 それに答えられる明確な事実が自分の記憶にある。

 

 

 

 数瞬、迷って。

 伝える。

 

「彼の宣言を、知っていますか」

 

 

 

「宣言?」

 

「春人様は以前、こう言われました。信用出来ないなら、ある情報を公表していいと。そこで公開された二つの情報は……一つは不鮮明でしたが、もう一つはすぐに判明しました」

 

「な、なんの話ですか?」

 

 

 

 

 

「……開示されたのは青井春人様本人の犯罪歴……と言えばいいでしょうか。彼の犯した罪についてです」

 

「え……」

 

「少年法の適用や正当防衛と判断されたことによって、重い罪にはならなかったとの事ですが……警察では暴行事件として処理されています」

 

「何が……あったんですか?」

 

 

 

「集まりになられたお不良様におギャング様、お暴走族様、果ては反社会勢力の……単独での殲滅です」

 

 

 

 知り得る限りの経緯を説明していきます。

 正直、尋常ではない事件ですが。

 

「彼は当初、不良集団の抱えていた女性に話し合いに行ったそうです。しかし話し合いは拗れ、一日中殴られ続けたら要求を飲むと言われ春人様はそれを承諾。6時間に渡って暴行を加えられました」

 

「は、え? えっ? ……なんですかその話」

 

「しかし、不良のリーダー様が『要求を飲むわけがない』と口を滑らせた途端に春人様は豹変、全員を病院送りにさせるほど暴れたそうです」

 

「あの春人さんが暴れた——————?」

 

「それを内輪揉めと勘違いしたギャングが攻め入ったことで事態は悪化、自分達のシマを荒らされたと暴走族、ヤクザが出張って来てしまう事態になりました」

 

 

 

 羽香里様はもう、唖然として声すら出ないようでした。

 

「その100人以上も集まったいくつもの集団をたった1人で全滅させたのが当時の春人様です。警察が来た時には春人様の姿は無く、全滅した方々のほとんどが過去に行った犯罪の為に逮捕されていきました」

 

「なんでそんなことをっ!? 春人さんはなぜそんなことをしたんですか!?」

 

「振らせるため、だったと」

 

「……振らせる?」

 

 

 

 

 

「唯一の友人からの告白を受けた女性に、『パシリとして利用するくらいなら振ってくれ』と言いに行った。たったそれだけのために動いた結果とのことでした。本人からの証言だったので間違いないかと」

 

 

 

 自分で言っていてさらに思いを強くするが、彼は戦闘面においては他に類を見ない程の化け物だ。一体何をしたらそこまで強くなるのか。

 

 そもそも、それ程の凶暴性をどうやって若い頃に身に付けたのか。

 事件の起きた日から考えて、春人様はまだ中学生の頃の話で。

 

 

 

 何があったら。

 そこまで自分を傷つけられるのか。

 

 

 

「流石に、突拍子がなさ過ぎて信じられませんね。ですが、春人さんならやりかねないなって思います」

 

「何故、そう思うのですか?」

 

「だって、春人さんって好きなんですよ。その『友人』の事を今でも大事に大事に思うくらい。分かっちゃいますよ……恋太郎君はみんな同じくらい好きだと思っているから、一番なんて無いんです。あえて言うなら一番好きなのは私たち全員なんですよ」

 

 一拍置いて、羽香里様が言う。

 

「でも、一番恋太郎君の事を大好きなのは春人さんですから。一緒にいた時間なのか、関係性なのか分からないですけど……そう思うんです」

 

 

 

 羽香里様の涙は、いつの間にか乾いていた。

 

 

 

 私はそれを聞いて……一言だけ呟いた。

 

 1人だけ——————『好き』ではなく。

 

 

 

「春人様だけが、『大好き』と言える人……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命は変わらない。

 定まった運命は、止められない。

 

 だとしても、きっと。

 

 おれ達の歩いてきた道にはきっと意味があるはずだ。

 

 そうだろう、レン。

 

 

 

「どけぇぇっ!!」

 

 呼吸が乱れながらも、攻撃の手を緩めない。

 

 緩めたら終わる。ダメージを負うわけにはいかない。

 油断したらやられる。ここで死んだらダメだ。

 

 動けなくなったら……花園は。

 殺気は射抜くほどの気迫になっている。心の底から叫ぶ。

 

 

 

 させない。

 絶対にっ!

 

「うおおおああ!!」

 

 警棒を骨折した左腕で防御。痛みに気が遠のく前に顎へ打ち込む。

 

 既に左腕の骨折は見抜かれている。やたらと左に回り込まれる回数が多くなってきた。肘までなら無事だから、余裕があれば肘で弾いて防御はする……が。

 

(……ッ痛ェ。くそっ!!)

 

 痛みに悶える時間も僅かしかない。

 すぐに行動しないと、次にダメージが来るのは頭部や急所になりかねない。

 

 腹部に蹴りを放ち、膝を付いた敵の肩に足を掛け大きく跳ぶ。

 勢いよく奥にいた敵へ飛び蹴りを放つ。蹴りで倒れた敵に乗っかる様にそのまま顔面に着地。全体重はかけないようにはしたが、踏み抜いた顔を確認する暇はない。

 

 後ろから来るであろう攻撃を前転で予め回避、そのまま敵集団から離れて呼吸を整える。

 

「はっ……はっ……!」

 

 そろそろ、流石に翳りが見えて来たな。

 

 もう既に、やられる前提で敵が動き始めている。

 背後取られたら最後、魔貫光殺砲に射抜かれる悟空の如く自分の身を犠牲にしておれを羽交締めにするだろう。

 

 というか、既に2回ほど巻き込まれ覚悟の拘束をされた。

 

 1回目は正面を蹴りまくって暴れ、なんとか脱出した。

 

 だが、2回目は警備員ごとスタンガンの電撃を食らった。

 流石にもうダメかと思ったが、電力が弱くて助かった。一般向けの威力なら電撃を浴び続けても数秒なら無理矢理動けるのが功を奏した。あまり慣れたくはないもんだけどな。

 

 その間に敵を掴んで巻き込めば先に倒れるのは敵の方だ。

 

 両腕に力を入れるのも億劫で、ダラリと腕を下ろしたまま目線だけは正面を見据える。

 

 ざっくり、あと三分の一ってところか?

 

「はぁ…っ、はぁ……っ。流石は羽々里さんってところか。……こんだけやり合っても逃げ出すヤツが1人もいねぇとは。よほど金を積んだか、良いコネを持ってるか……」

 

 一区画はもう動けなくなった人で絨毯が出来ている。

 

 ほとんどが呻き声をあげたり、失神で声を上げられない警備員の連中。

 動けるヤツも中にはいるが、戦意喪失で動けないフリをしている者も何人か……いや、無駄な行動をせず最善のタイミングを見計ってるだけか。

 

 

 

 彼らの意思は固く、それでいて歪まない。

 

 全員が拳を握り、武器を握り。

 おれを抑えるべしと決意を露わにする。

 

 それは……当然の話だ。

 

 

 

 彼らにとって。

 花園羽々里こそが正義だと疑わないからだ。

 

 決して盲信ではない。

 事実そうであると、心の底から思っている。

 

『悪いのは目の前の男である』

『悪は秩序を乱すお前達である』

 

『我々こそ、正義だ』と。

 

 

 

 花園羽々里は娘の為に、不貞の男を遠ざけようとしている。

 それに共感し、仕事として受諾した者達。

 

 

 

 それはすなわち。

 

 おれが最も懸念し恐れていた『世間体』。

 それこそが彼らの正体。

 

 

 

 多数の女性を侍らせる関係など、あり得ない。

 

 そんな人生が幸福である、訳がない。

 

 

 

 彼らはそんな『常識』を『正義』へと変換し、おれという『常識知らず』に加担する愚か者を誅するため。

 

 おれ達の望む道を阻む。

 

 

 

 

 

 なら、ここでおれが倒れるのは正義であるか。

 

 答えは……。

 

 

 

 

『正義』である。……と、おれは思う。

 

 

 

 正しいと思う。

 何故正しいか。恋太郎の目指しているものは今まで……いや、これまでの人類が2000年以上積み重ねてきた歴史の中で、ほぼ成立する事のない関係であるから。

 

 何故駄目か。

 それはそうだ、歴史が証明しているんだ。今回も駄目なものだと決めつけるに決まっている。

 

 王や皇帝であれば、世継ぎの為に正妻の他に女性がいた。その一夫多妻には理由がある。

 

 庶民の中では愛人や浮気という言葉が浮かび上がり、そのほとんどが人間関係を大きく揺るがすものとして非難の対象になる。

 事実として、その手のスキャンダルはお茶の間では話のタネとして有用であるように。口を揃えてだらしのない奴だとかバカな奴だとか、悪意の捌け口には最適な対象だ。

 

 

 歴史が、常識が、世間が。

 ハーレムを歪んだ愛の形と捉える。

 

 そして、それを推し進めるおれは。

 本来、関係悪化を企てているような立場であり、裏に隠れた巨悪に見える事だろう。

 

 だから、『正義』の力がおれに向いている。

 圧倒的に正しいのは彼らだ、と言わんばかりに。

 

 

 

 ……納得は、出来る。

 向かい合っているヤツらも、倒れているヤツらも、さも当たり前かのように攻撃しているが、これが本来の反応なのだ。

 

 

 

 ああ、おれも恋太郎に。

 

 それは駄目だ、と。

 せめて1人だけ愛する様に努めろ、と。

 

 そう言ってやれりゃどれだけ楽だったか。

 

 

 

 でも。

 

 運命の形を、おれは知っている。

 花園羽香里は、愛城恋太郎と結ばれなければ死ぬ。その運命はきっと変えられない。

 正義とか悪は関係ない。どれだけ羽々里が羽香里を想っていても関係ない。死ぬか、死なないかのどちらかだ。

 

 

 

 だから……こっちも関係ない。

 

 花園羽香里が死ぬ事が『正義』だと。

 『正義』であると貴様らがのたまうのであれば。

 

 

 

 おれは喜んで、『悪』を成そう。

 

 ……絶対に花園を助ける。

 

 変わらない。変えられない。それだけは……!

 

 邪魔するのなら、何人来ようがぶちのめすだけだ。

 例え、おれの体がどれほど悪の泥に塗れようと。

 

 

 

 花園羽香里の幸福を守るのは、おれだ。

 

 

 

 

 

 突如花園邸の正門が空き、大型の車が3台入って来る。

 

 おれも警備員もしばらく注目していたが、やがて互いの顔が正反対に変わる。

 

 

 

 援軍だ。

 どう見ても目の前の集団と似た制服を身に纏い、その手には全員警棒が握られている。

 

 

 

「お、お前ら!? なんでこんな所に!?」

 

「なんでって、社長がヒマなら行ってこいって蹴り飛ばされたんだよ」

「あの花園の女主人に頭下げられちゃ社長も弱いねぇ」

「その小僧、情報通りに厄介なようだ。アンタらの会社とはライバルでいたかったんだかな。今日だけは共闘と行こうじゃねぇか」

 

「お、お前ら……っ」

「かっこいいなチクショウ!」

 

 

 

「いや、そういう熱い展開のヤツは主人公サイドのおれらがやるもんじゃねぇの!?」

 

 おいおい待て待て。

 そっちでいい感じの掛け合いをするな。

 

 

 

 人数をどれだけ揃えられようと関係ない、と覚悟は決めてきたが……現実問題、ここまでされると勝てるビジョンが思い浮かばなくなる。

 

 こっちは骨折と疲労。

 向こうは元気いっぱいの援軍プラス士気向上ときた。

 

 ……万事休す、ってとこか。

 

 

 

 いや、それでもやるしかない。

 

 

 

 まずは残りを片付ける。

 車で来た連中は後で相手してもらおう。

 

「はぁあっ!!」

 

「甘いな小僧っ!!」

 

 さっきの援軍のおかげで、時間が少し稼げた。そのおかげで体力が少しは戻った。

 ならば、出鼻を挫こうと最初と同じような速攻を試みたが……避けられた。

 

 速度を伴った右の拳が、敵の頭の横を掠め……背中を晒す。

 

 

 

「だぁっ!!」

「ぐげっ!?」

 

 体に急ブレーキをかけ、後方へ逆噴射するように飛び出す。右肘を折り曲げてロケットの様に打ち込む。

 

 おれの肘は警備員の持つ警棒を正確に捉え、弾き。勢いのまま警棒ごと肘を顔面へ押し込んだ。

 

 

 

 だが、ダメージが少ない。無理な挙動をしたせいで力が足りなかった。よろけてこそいるが、気絶や戦闘不能まで追い込まないと安心できない。

 

 追撃を入れる前に、他の敵からフォローの為のタックルが飛んでくる。回るように身を躱したが、間合いが離れた。攻撃を当てれた方の警備員は数秒もしたらまた復帰して来るだろう。

 

 さっきまでタックルされることは無かったし、連携も万全じゃなかったはず。明らかに増援の所為で士気が上がっている。

 強気の行動を繰り返されるとジリ貧でこのまま終わるな。気を引き締め直さないとまずい。

 

 そもそも、状況が変化した。

 先ほどまでの暗闇の戦場は、増援の車によるライトの所為で明るくしていた。こんなに明るければ、高速移動してもおれを見失う奴はもういない。

 

 考えれば考えるほど、不利な要因しか思い浮かばない。そして、今度は考える時間すら奪われていく。

 

「おおォォ!!」

 

 こっそり背後に移動したヤツへ上段の後ろ回し蹴りを当てる。回避行動は取られたが、運良く顎に当たった。顎を掠めて脳震盪を引き起こしたようで、その警備は力なく倒れる。

 そこへ猛ダッシュで突撃して来る援軍として来た集団を視認。立ち向かうように走り、ラグビーみたいなショルダータックルしてくる奴の肩に手を添える。そしてその腕を軸にして、そのまま宙返りで身を躱した。

 

「なっ!? 俺を踏み台にしたァ!?」

 

 そのまま後続の警備の頭と肩に着地。そこから踏み込んでジャンプし、最後尾にいた警備に飛びかかる。

 倒れた警備の顔に拳を打ち込んで終わらせ、すぐに振り返るが僅かに遅れた。

 

「う、ぐぅっ!」

 

 間一髪。

 

 警棒の突きを両腕で防げた。だが左腕の痛みは深刻だ。

 

 大立ち回りで動き回った事で、結果的に警備員全員を花園邸側に陣取らせ集めたけれど……。背後に敵はいない、挟み撃ちの心配が無くなっただけで不利に変わりはない。

 

 

 

 不意に、全身に鳥肌が立つ。殺気だ。

 

(後ろから感じる……!? まさか!?)

 

 1人だけ遅れたのか。

 もしかすると降車した時に潜んでいたか、車の影にいた警備が復帰したのか。

 

 まだ、いた——————っ!

 

 

 

 振り向いても遅い。

 避けれない、防げない。

 

 振るわれた警棒は確実におれの頭を捉え——————。

 

 

 

「がっ——————!」

 

 

 

 

 

 

 

 ——————る前に、小さな石が警備の顔に強く当たった。

 

 

 

 大きな影。

 長い髪をたなびかせたそいつは、大型車がライトをつけっぱなしにした所為で逆光になって見えない。猫の様に素早い動きで横から出てきたその女は、地面に落ちていたのを拾ったであろうスタンガンを握り締め……。

 

「ぎゃああああ!?」

 

 おれの背後を取っていた警備員へ電撃を強く押し付けた。

 

 

 

 電撃によって力なく膝を付いた警備員を、とりあえず追い討ちで殴って意識を奪う。

 そして、悠然と隣に立つ彼女へ言葉を投げかけた。

 

「なんで来た?」

「貴方がこのまま無事でいられる確率は5%」

 

 

 

「お前がいたら、変わるってのか?——————

 

 

 

 

 

 ——————栄逢」

 

 

 

 

 

 

 

「私達2人の場合、生存確率2%」

「下がってんじゃねぇか」

 

「今のは冗談。……青井春人は友達、だから」

 

 

 

 栄逢凪乃が、立っていた。

 

「冗談って全くよぉ……ハッ、まぁこっちの方がおれ達らしいか」

 

 

 

 

 

「貴方のおかげで愛城恋太郎と院田唐音は侵入できた。でもセキュリティの構造上あの2人のみでしか侵入不可能な仕掛け。私達は外で待機して欲しい、と愛城恋太郎が言っていた」

 

「待機って言われたのにわざわざ来たのか?……無茶しやがって」

 

「好本静には薬膳楠莉が付いてくれている。それに、私がここに来るのが適任と判断した」

 

「……どうして?」

 

「貴方と戦った経験があるから。貴方の動きと癖は記憶している。それに……みんなの力になりたいと思ったから」

 

 

 

 力になりたい、か……。

 

 まずは冷静に分析するべきだな。栄逢の状態を観察する。

 身体の震えはなさそうだ、戦闘への緊張はない。

 どこまで攻撃に躊躇いがないか……は、それこそキスゾンビの時、急所一点狙いをおれに対してやらかしてたから問題はないのか。

 

「栄逢、お前強かったっけ?」

 

「春人式の戦闘術なら再現可能、でも完璧とは言い切れない。それに肉体性能は貴方に劣る」

 

「……それは当然か。んん〜〜」

 

 

 

 微妙。

 栄逢をとりあえず喧嘩の素人と仮定して思考を回す。キスゾンビの時にやってたおれの闘い方は……手加減しまくってたな。あれを参考に、か。

 

 あんなのを戦闘術と言われても困る。必殺技らしいことはおろか、得意技すら使ってない。栄逢が参考に出来る動きなんてしていたか?

 

 どうすればいい。

 この場に現れた以上、変に下がらせると見えない所でロクなことになりかねない。

 

 ……下手すれば、怪我させて恋太郎にまたどやされる。

 

 

 

「おれの足捌き、覚えてるか」

 

「大丈夫」

 

「避けの要がそれだ。避ける、防ぐ、崩す、ずらす……まずは敵の攻撃を対処して、余裕があればスタンガンで仕留めろ。……基本はおれがトドメを刺す。お前はあくまでおれの死角にいる敵の攻撃を抑えることに全力を尽くせ。お前が抑えた数秒がおれ達の勝機への活路になる」

 

「……フォーメーションを決めて」

 

「背中合わせしかねぇな。向こうも出方を伺うだろうが自分から手を出すな。……自分が思っている以上に攻撃には隙が出来るもんだ。半端な攻撃への対応は向こうの方が十八番だ、カウンター決められたら間違いなく怪我すんぞ」

 

 

 

「その上で栄逢、お前に合わせる。精々暴れてやれ」

「分かった。——————効率的に行く」

 

「乗ったっ! 初撃は派手にぶちかませよ!!」

 

 栄逢の駆ける脚にピッタリ続くように。

 ほぼ一緒のタイミングで動き出す。

 

 栄逢の速攻ぶりに驚く警備員達。

 まだ加勢した少女が戦闘をするとは考えられなかったのか、反応が全員遅れている。

 

 いや、もしかしたら。

 彼らの中で『正義』の価値観が揺らいだ瞬間なのかも知れない。

 

 彼らの考えでは栄逢は被害者であり、おれは栄逢達を利用して甘い蜜を吸いまくっている巨悪の認識だった。

 

 

 

 決して相容れない、はずの2人。

 

 そのはずの2人が花園羽香里のためという大義名分を共に掲げ、自分達と相対する。

 

 なるほど、何かがおかしい事に気付いて動揺や混乱を招いているなら納得だ。だからといって、完全に手を止めてくれるだろうと決めつけるのは楽観的に過ぎるが。

 

 やる事は変わらない。

 邪魔する奴らには容赦はしない方向で押し通る。

 

 

 

「……ふっ!」

 

「うお!?」

 

 栄逢が2本の指を立て、真っ直ぐに目に向かって突き刺す。

 

 わお。おれとは全く違う戦い方だ。

 

 力こそ全力を込めるが急所を外す、または後遺症にならない程度の急所当て……軽い脳震盪を引き起こさせる程度の攻撃をするのがおれの戦い方で、それと比べるならかなり遠慮のない戦い方だ。

 

 根本的に非力な女性だからだろう。彼女の攻撃手段は何処かロボットの如き精密操作性を持っていることもあり、当たれば確実に致命的になる攻撃が基本スタイルの様だ。

 

 だが、攻撃速度は人並み。

 狙われた警備員はすかさず避ける。

 

 

 

 でも仮に、『避けさせる』のが目的なら話は変わる。

 

 急所を狙えば当てられるくらいのスピードを持つおれとは違い、警戒していれば避けられる速度の栄逢。

 だが、突然仕掛けられる栄逢の容赦のない目潰しには誰しも面食らうだろう。

 

 その隙を突いて、おれが栄逢の後ろから飛び出せば、どうなるか。

 

 おれの跳び膝蹴りが顔面へ。

 驚き、体勢が崩れ、おれを見失う。……そりゃ隙だらけだよ。

 

 警備員は「ぶへぇ!?」と情けない声を上げて沈んでいった。

 

 

 

 今の攻撃を皮切りに、次から次へおれたち2人に大人達が束になって襲い掛かる。

 

 ……が、大人達が面食らうのは襲い掛かって数分後。

 

 この2人に致命打を当てられない。それどころか着実に、そして一方的に戦力が減らされている。

 

 先程まではスピード頼りの戦法で蹂躙してきたが、元々おれの得意な戦術は防戦だ。相手の姿勢を崩して一撃を打ち込む。

 

 後ろの栄逢に攻撃が流れないように、たかだか数人を捌ききれないようではそもそも単身突撃するなんてしない。

 

 背後の心配は多少あるが、問題ない。

 

 栄逢はイマイチ反撃が覚束ないが、比較的得意らしい足技やスタンガンの所持によって十分な働きをしている。

 わざと大振りな足技や目の前にスタンガンを置くなどして下がらせ、反撃を狙う警備が前へ一歩出したところを……仕留める。

 

 相手の動きに合わせ、急に目の前に来たかのような錯覚を覚えさせる絶対的な間合いの管理。それが最初の攻撃に対して反撃されない栄逢の戦い方だ。

 

 拙い部分はあるが、おれのフォローでカバーしきれる。

 それでいて時間稼ぎとしても優秀に動けている。想定以上だ。

 

 

 

「乗れ」「ええ」

 

 3人ほど体躯の良い男が同時に突進してくる。力押しされればまず負ける。

 

 

 

 だから、栄逢を打ち上げる。

 痛みのない右手を上にしつつ両手を重ね、そこに栄逢の足が乗る。思ったよりも軽い身体に感謝しつつ、ほぼ右手だけの力によって空へぶん投げた。銀の長髪少女の綺麗な一回転が月に映える。

 

 目論見通りに男共は……栄逢を見上げた。

 よそ見をした。

 

 その頃には至近距離に近づいていたおれが、右方の警備へ拳を振り抜いていた。

 

 おれ達の意図に気付き……敵2人はおれの方へ振り向く。

 そこを着地を済ませた栄逢が左方の警備へ近づき、華麗なムーンサルトキックで顎を打ち抜く。

 

 最後の中央に居た男が栄逢だけでも抑えようと動くが……もう遅い。

 おれが背後を見せた男の膝裏を蹴って強制的にしゃがませる。一瞬だろうと動けないなら、これで詰みだ。

 

 

 

「「はッ!!」」

 

 

 

 左右からのハイキックを2人同時に頭部へぶち当てる。

 ……キスゾンビの時に脅威だった栄逢の足技を彷彿とさせる、キレが強く鋭い脚だ。

 

 あの時は、おれと栄逢でかち合ったが……。

 味方になればここまで心強くなるとはな。

 

 

 膝を折りながら倒れるガタイのいい警備員を横目に、互いが互いの息遣いを確認する。

 栄逢の肩が呼吸で少し揺れている。……まだ問題はなさそうだな。

 よし。

 

「「……次」」

 

 

 

 敵は多いが、2人ならかなり楽に撃破出来る。

 追撃、攻撃阻止、身代わり。負担はあるが、敵の攻撃手段を見られる程余裕があるのがありがたい。この手の目測は誤った事もないし、栄逢をほぼ無傷のまま戦闘終了まで持ちこたえる事が出来るだろう。

 何かあれば栄逢の方から援護も飛んでくる。何回か敵の武器を拾って寄越してくれたし、敵の攻撃を撃ち落とす勢いで阻んでくれる事もある。

 

 十分すぎる働きだ。

 

 

 

 互いにフォローを重ねながら、全てに対応していく。

 

「青井春人、その左腕は……」

 

「それを言うなら右手の指先にある絆創膏はなんだよ?」

 

「……少し痛むだけ。問題はない」

 

「じゃあ一緒だ、なっ!!」

 

 おれの左腕も肘までなら軽快に動かせる。栄逢の右腕と組んで、力任せに栄逢を背負うように投げる。

 

 投げられながら栄逢が蹴りを繰り出すことで、遠心力によって威力の増幅した蹴りがまた1人の意識を刈り取る。

 栄逢の両足が地面に着いた途端に腕組みを解き、そのまま栄逢の肩に手を付いて身体を浮かせる。

 

 そこから飛び蹴りに繋げる。栄逢の着地した隙を狙おうとした警備員が走った勢いを止めきれずおれの足へ突き刺さっていった。

 

 栄逢が、飛び蹴りして着地したおれの身体を支える。

 怪我をした右手をおれの背中に回す。

 

 おれも左腕を栄逢の腰に当て……残った手と手を繋いだ。

 

 コツは、背すじをぴんと。

 ダンスも、ケンカもそう変わらん。

 

「……踊る?」

「喜んで、とでも言えばいいか?」

 

 

 

 そこから戦闘スタイルが一気に変化した。

 連携して連続攻撃していると思えば、栄逢がおれの動きを正確に真似始める。

 

 大きな振りかぶりを体捌きで横に回ると、栄逢は鏡写しの様に反対側へ同じ足運びで回り込む。

 丁度足首辺りを狙うように軸の足を蹴ると、栄逢も反対の足を合わせて蹴り上げて転倒させることに成功。

 そのまま足側に回り込んだ栄逢が足先の方から股間を踏み抜いた。

 

 ……そこまでやれとは言ってない。

 

 

 

「あがっ、おああああ!?!?」

 

 

 

「おっかねぇなおい」

「動けなくさせるならこれが効率的」

「代わりに大事なものが二つほどなくなったけどな」

「大事なもの……睾丸?」

「女の子ならそんな言葉を口にしちゃいけません。はしたないですよ」

 

 エグい攻撃の後に可愛く顔を傾けてもダメです。

 真顔なのに可愛いとはこれ如何に。

 

 

 

 

「……んで、アンタでラスト」

 

「ひ、ひぃ……!? そんなバカな!?」

 

 数は順調に減らせた、もう外の庭で立っている警備員はこの人だけだ。

 そりゃ、足をそこまで震わせてビビってりゃ襲いかかりに来ない訳だ。

 

 最後の敵に向かって、足を進める。

 

 

 

「悪いが、後々他の奴らを起こされても困るんでな」

 

「やめろ! 近付くな……うわぁっ!」

 

 抵抗する意思がないのは見れば分かる。

 だが、今回はこっちもギリギリの立場であって後顧の憂いは払わないと何が悪影響を及ぼすか分からない。

 

 額に向けてのパンチを打ち抜き、そのまま地面まで叩きつける。

 せめて一瞬で気絶まで持って行けたはずだから、痛みはそこまで感じないはずだ。少々心苦しいがこれで許して欲しい。

 

 

 

「は、ハルト〜!」

「『春人』〝さん!〟『凪乃』〝さん!〟」

 

「ふぅ……お前らもこっちに来たのか」

「くっ……! ……はぁっ、はぁっ!」

 

 楠莉の姉さんと好本が走って来る。

 その声で気が抜けたのか、栄逢は四つん這いで倒れ込んだ。

 

 2人からの説明を聞けば、罠が邪魔をして恋太郎と院田しか行けなかった、と。先程栄逢も言っていたことと同じ言葉を並べた。その様子なら途中でトラブルにはならず2人は奥へ向かえたのだろう。

 2人も参戦したかったが好本が足手纏いになると判断し、隠れることに。楠莉の姉さんはもしも見つかった時のために好本の護衛に回っていてくれた様だ。

 

「好本、栄逢はかなり疲労してる。そばで支えてあげてくれ」

 

「『合点承知』」

 

「姉さん、何か水分あるか?」

 

「あるのだよ。確か『一時間くらいガニ股になる薬』なら一番無害で——————」

 

「アンタに聞いたおれがバカだった。栄逢、立てるか?」

 

「…………っ、ごめんなさい」

 

 しっかりと座り込んでしまい、息を絶え絶えだ。

 当然だ、こればかりは多少息が乱れているだけで済んでいるおれがおかしいんだろう。素人ならまず疲弊して当然だ。

 疲れてしまうのは例えおれの動きを記憶していても関係ない。動きの理屈が分からなければどうしても無駄なエネルギーが出て来る。それを埋めるのは理論と経験の両方が必要だが、初めての実戦で経験のない栄逢にそれを求めてはならない。

 

 戦果は上々。よく頑張った。

 

「どうだ? 初めての喧嘩は。……思った以上に気持ちの良いものじゃなかったろう」

 

「…………あなたも、こんな気持ち、なの……?」

 

「……? 当たり前だろ」

 

 戦闘狂だの、闘争本能がどうだの。あんなのはごく一部の連中だけだ。

 殴って、殴られる。こんな事を楽しいと思うヤツらの気が知れない。ただ戦いたいだけならボクシングとかそういうスポーツで十分だと思う。

 

 おれの場合、ほとんどが守る為に強くなる必要があっただけだから。そこに楽しみは見出せなかった。

 

 だから。

 

 鋭い痛みも、骨から聞こえる音も。

 返り血の温かさも、傷だらけの体も。

 

 ……全てが苦しい。

 

 でも、今は苦しさを誤魔化してもやりたい事がある。守るべき願いがある。

 なら、戦える。

 

 

 

 疲労していると、本来のコンディションの半分も維持出来ないだろう。

 栄逢は一時的にだが戦力外だ。

 

 好本は論外。今回ばかりは仕方ないだろう。

 

 楠莉の姉さんは……戦力としては人並みのフィジカルしかない。薬品の使用を加味しても、楠莉は使い所を見極められない。

 例えば、FPS初心者が必死にゲームで銃を撃っているとグレネードの存在を忘れる、みたいな。またはグレネードを使うタイミングが分からないままやられるのと一緒だ。

 

 

 

 色々メリットとデメリットを考えてはみるが。

 ……そもそも、こいつらをあまり矢面に立たせたくもない。

 

 誰が好き好んで怪我させたいというのか。

 

 

 

 なら、やる事と方針は決まった。

 

「ここからは真正面からはおれだけが行く。その時、お前たちは決して中に入って来ないでくれ」

 

 1人で行く。

 警備を蹴散らした今、花園家の身内しか屋内にはいないだろう。

 

 だが、反対に言えば。

 おれという戦力と無理矢理拮抗させるため、より手段を選ばなくなる可能性が高い。

 

 より強力な武器の持ち出し。切り札と呼ばれるなんらかの配置。

 

 特におれが恐れなければならないのは、恋太郎の彼女達が人質に取られる事だ。

 本業が奉仕活動の人間に、拘束の仕方なんて心得ている訳もない。こちらが変に抵抗してしまい、花園家の人間が手に持っているナイフを滑らせて刺さる……なんてシナリオになったら目も当てられない。

 

 

 

「これからどんなモノが見えても、大きな音が聞こえても、何があろうと決して近付くな。お前らが前に進んで屋敷に寄れば寄るほど、おれ達の首はどんどん締め付けられていく。少なくとも栄逢が回復するまでは身を隠せ。いいな」

 

「で、でも……」

 

「姉さん。おれの言う通りにしてくれ。切り札の薬は持ってるし、屋内戦だと足手まといになりかねない。好本もいいな?」

 

「『おうよ』」

 

「……本当なら、栄逢にだって手足を痛めてもらうつもりはなかった。でも、ここからは下手すると向こうの使用人を殺しかねない。おれ達が全力で気兼ねなく戦えたのは敵がプロの警備員達だったからだ。おれ達の目的を履き違えたらいけねぇ……分かってるな」

 

「……」

 

 栄逢は喋りこそしないが、静かに首肯した。

 

 楠莉の姉さんも渋々引き下がり、栄逢の容体を確認し始めた。

 

 

 

「なんとか上手くやってくる。何かあればスマホを鳴らせ。それで分かる」

 

 大きく深呼吸をして、未だ暗い正面入り口へ歩き出す。

 

 後ろからの視線を感じる。

 

 

 

 さて、どう思われてるか。

 おれには分からない。

 

 

 

 

 

 鍵がかかっていない。

 扉を開けると、何も点いていなかった照明がおれを照らす。

 

 見事な正面入り口だが……自動センサーの照明である気がしない。

 

 

 

 呼吸を感じる。僅かな衣擦れも。

 

 潜んでいると感じたからこそ、あらゆる感覚が嘘くさい。

 

 待ち伏せ。

 

 

 

 どうするか。

 いや、何が来ようと関係ない。

 

 おれは中央にある階段へ歩き出し、部屋の中心にて立ち止まった。

 

 

 

「いるのは分かっている!! 出て来い!!」

 

 

 

 息を呑む。そんな音が聞こえる。

 やはり、もう警備は……プロはいない。いるのは素人の使用人達だ。

 

 でなければ、緊張とはいえここまでバレるようには——————。

 

 

 

 

 

「構えっ!!」

 

「……は?」

 

 いるだろうと身構えてた2階から、複数人のメイド達が現れる。

 

 ——————全員、拳銃を握っていた。

 

 

 

 

 

 

「撃てェ!!」

「それは聞いてねぇ!!」

 

 轟音が、鳴り響いた。




原作第十六話、未完。

主題「青井春人の戦い」踏破














あとがき

 アニメ3期決定!
 おめでとうございます。どんどん物語的に置いてかれている事を悔しく思えばいいのか、人気である事に喜ぶべきか。まぁ当然、喜びの方がデカいんですけどね。
 こちらも熱を冷まさぬよう、界隈の一つとして盛り上がりたいですな。
 原作に迷惑をかけない端っこで、こっそり頑張って参ります。



 3期記念企画! ……というと語弊が出てしまうのですが、2巻完結記念企画としての「皆さんの見たいエピソード」もまだまだ募集しております。
 前話と同じ文章ですが、ルールを改めて置いておきますね。

1、組み合わせは春人、恋太郎、恋太郎ファミリーの彼女(〜端須蓮葉まで)の中だけ
2、エピソード、シチュエーションの希望はアリだが、完璧には応えられない可能性があるので、『お題』の認識でおなしゃす。
3、作者の独断と偏見で採用します。書けそう、書きたいものを制作しますので不採用や次にやるかも知れない時まで持ち越しなどが発生します。ごめんね。
4、上記のルールを守らず荒らしや誹謗中傷、連投など迷惑行為を発見した場合は相応の対処をします。最悪春人くんが暗殺しに行きます。絶対ダメだよ!

 みんなそれぞれ楽しく100カノライフを楽しみましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。