君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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[春人&恋太郎の成長曲線、レベルアップについて]

・青井春人
 春人は現在多くの事を忘れた状態です。しかし、本人の肉体だけは過去に限界の壁を超えた多くの事柄を覚えています。
 そのため【上位のスキルツリー】が開放され、更なる成長が可能になりました。

 しかし恋太郎ファミリーにとっては春人は大きく弱体化した存在。経験値を貯めるために再び彼女達と絆を結び、まだ見ぬ彼女達と交流を深め、守る為のチカラを取り戻して全盛期以上の伝説を目指しましょう。



・愛城恋太郎
 恋太郎はレベルアップの為に必要な経験値の増加はありません。代わりに、彼女の人数に応じて成長・強化されます。

 加入した彼女に応じた強化項目が成長するため、自由にスキルツリーを埋める事は出来ませんが、代わりに青井春人よりも大幅に性能が向上する特徴があります。
 彼女達から来る全力の愛を受け止め、最強の彼氏を目指しましょう。



青い春と今と未来

 

 唐音は訝しんだ。

 

 羽香里は訝しんだ。

 

 結論から言えば、春人の行動は既に異常の領域だった。

 

 

 

 

 恋太郎は春人を見ながら、顎に指を当てる。

 記憶にある春人の姿では……ある。そう分析はしていた。

 

 だが明らかに様子がおかしい。

 

 

 

 見覚え自体は確かにはある。

 だが、恋太郎にとっては遠い記憶の春人のようであると感じていた。

 

 そう。まるで、彼だけが昔に戻ってしまったかのように。

 恋太郎はそう思った。

 

 

 

「——————……、——————」

 

 先生の授業の声が聞こえなくなるくらいには考えに没頭していたようで、慌てて恋太郎は黒板の板書を写し始める。その時だった。

 

「やっぱりおかしい、という事で合ってますよね?」

 

 やや自信無さげに、華暮愛々が机の横からニョキっと生えてきた。

 

 

 

 恋太郎と羽香里、そして唐音は後ろ側の席で比較的近い所にいる。

 対して春人と静は隣同士で中央で座っていて。

 凪乃は窓側、愛々は廊下側と離れた所の席である。

 

 そんな彼女が授業中にも関わらず、恋太郎のすぐ横に来たのは本来ならば驚くべき事だろう。

 

 しかし、3人は愛々の動きに慣れていた。

 いや、正確に言えば。

 

 

 

 以前の春人が愛々に仕込んだ、進化したミスディレクションの挙動に慣れていた。

 

「愛々ちゃん。……ハルの事だよね」

 

「はい」

 

「ですよね。やっぱりそうですよね」

「というか愛々、あんたどうやって……ってああ、アレね」

 

 

 

 唐音が前を見れば、真面目に授業を受けている……もう一人の華暮愛々が席に座っていた。

 

「例の精巧に作られたハルくん特製私そっくり人形です。少しの間入れ替わるだけなら問題ありません」

 

「いつ見ても愛々そっくりよね。あれ」

 

「私の編みぐるみとは全く違う……あらゆる材料を使った超高品質擬態人形ですからね……。ハルくんが私の為に作った『ミスディレクションした事さえ気付かせない』ための人形ですから……そんな物をくれた大事な人の身に何かが起きてるなら、私はそんな酷い事をする人は絶対に許せません」

 

 愛々はそう言い切った。

 

 

 

『どうですか? この編みぐるみ。ハルくんそっくりに作ったんです』

『良いけど……確かに可愛いが、何もおれに似せる事はなかったろう。恋太郎とか、そっちの方がみんなキャーキャー褒めてくれたんじゃねぇか?』

 

『いえ……、その、もし良ければ日頃のお礼で……。受け取って……欲しいんです』

『……そうか。ああ、そういう事ならありがたく貰うよ』

『その……似せて作ったんですが、えっと、気に入らなかったら……』

『なんでそんな事思わなきゃいけねぇんだ? 嬉しいに決まってる。……ああ、ただアレだ。ひとつ考えなきゃならん事が出来たか』

『え……っ? 考え事?』

『こんな素敵な物を何処に飾ればいいか分かんねぇのが……なぁ。うわどうしよう、ちょうど良い飾り場所なんてあったっけか……?』

 

『ふふっ』

『今度お礼しないとな。その時は愛々を『わぁっ』と驚かせてやるから、お返しは程々に期待しておいてくれよ?』

 

 

 

 今振り返っても、愛々には心地の良い空間だった。

 この後、飾る所が見つからなくて春人のカバンに入れてくれているのも。編みぐるみのお礼にクオリティの高い超そっくり愛々人形を次の日に仕上げて来たのも。

 とても驚いたが、それ以上に嬉しかった事だった。

 

 だから。

 

 

 

「多分だけど、あれはハルだと思う。偽者にしては誤魔化し方が杜撰過ぎるし、ハル自身アレぐらい隠し事が下手だったから」

 

 恋太郎は彼の身自体に何かが起きたと推測し、それを愛々にも伝える。

 でないと、彼女みんながハルのためとはいえ何をしでかすか分からない。

 

 別人であれば、彼女達は我先にと彼をボコボコにしに行くだろう。

 

 それぐらい青井春人という存在は、恋太郎ファミリーの中でなくてはならない存在になっていたから。

 

 

 

 それに、恋太郎は春人の状態に心当たりがあった。

 

 恋太郎が前を見る。

 静の対応に四苦八苦している春人ではない。微動だにしない凪乃を方を心配して見つめていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 まずい。

 この最悪な状況に陥った要因は二つある。

 

 

 

 まず1つ目。

 肝心な事を失念していた。

 

 おれの席が今までと変わらないという事は、隣の席に常に好本静という誤魔化し続けなければならない存在が鎮座するという事。

 改めて席を確認したときに静の場所を目印にしたまま、一度はスルーしてしまう。静が教室に来てから、隣の席というのがどういうことなのかを理解した。

 

 

 

 

 

 そして2つ目。

 

 

 

 これもまずかった。

 

 

 

「~♪」

 

(妹ィィィィ!! ヘルプッッ!! ヘルプゥッッ!!)

 

 今までのおれと静の関係がどうなっていたのかなんて。

 分かるはずもなかったわけで。

 

 

 

 ノータイムであろうことか座ってるおれの膝に座り、本を読み出し。

 極め付けは授業中でさえおれを高級チェアーとしてくつろぎながらノートを取り始めた。

 

 最初は「たまたま甘えたくなったか?」と思い、今も仲良しならと受け入れた。……が、これは明らかに度を越している。

 

 というか、時々もたれかかって頭と頬を擦り付けてくる。柔らかくも固い頭の感触を受け、とても可愛らしい香りを浴びせられる。

 どういう感情表現なんだそれは。授業を聞いてくれ。出来れば降りろ。

 

 

 

 こっちとしては、女の子特有のいい匂いとかあまり言いたくないが……ここまでの至近距離から漂わせられると流石にツラい。

 可愛すぎて眩暈がする、とかならキモいがまだマシ。何かの拍子に欲情してしまえば本当に不味い。本当に不味い。ひたすらに不味い。

 

 だってさぁ。

 頭の先からお尻、そして足先までピッタリと全身にくっつけて来ている。左手もしっかり恋人繋ぎで固定されたし。もう逃げられないから、後は耐えるしかない。

 

 

 

 それでいて、ここまで静と会話無しである。

 スマホでの会話すらない。挨拶すら必要ないとばかりに初手先制でくっつかれてしまった。

 

 

 

 もう無理。

 後ろの恋太郎が怖くて見れない。

 多分振り返ったら死ぬ。

 

 なんなら周りの男どもやら、女どもまで殺気を向けてきている。

 おれでも授業中にこんな態度取られたらキレる自信がある。理解出来るからこそ汗が止まらない。

 

 

 

 おれに答えを教えてくれ。

 どう対応すれば正解だったんだよ。

 

 ここまでくると「そろそろやめろ」もロクに言えそうにない。

 だれか、コイツを遠ざける方法を教えてくれぇぇ……。

 

『……ロリコン』

「うるせぇ紙箱。文句があるなら静を抱きしめてから言ってみろ。……お前でも無理だと思うぞ』

『ロリコン』

「やかましいっ!」

 

 

 

 というか、なぜ不純異性交遊待ったなしの状態なのに先生は依然として指摘しないの!?

 

 さっきから黒板にいろいろ書いてるだけで生徒達を見てないって事なら理解できるけどさっ。あんた何回振り返ったよ!?

 何なら目が合ったよな!? 3回も! ……あっ、今4回になった。だから無視すんじゃねぇって!!

 

 

 

 おれの机の上を見てみろ!

 静のノートしか開かれてないからね!?

 

 おれ、何も授業の内容入ってないよ!?

 

 目の前のこいつが対話ツールのスマホを置いてノートにガリガリ書いてるだけだから! ……ってかコイツ速筆だし字ぃ上手っ。

 

 

 

「おいっ、どうすりゃいい!?」

 

『さぁ。そこらへんから飛び降りればいいんじゃないっすかね』

 

(なんで急に機嫌損ねてんだよぉ!!)

 

 

 

 さっきまで「一緒に何とかしましょう」とか言ってたのお前の方じゃん……っ。

 

 

 

 

 

 

 

「むっ、そろそろ時間ですね。少し早いですが授業を終わりま―――― 「オラァ!」「キェイ!」「シャァ!!」

 

 

 

「ちぃっ!」

 

 すかさず飛んできたカッター群を指と指の間ですべて挟んで防ぎきる。

 

 弾道から読んで、静諸共ではなく確実におれだけを狙って殺しに来ている。そんなにうらやましいか。

 

 

 

「ええかげんにせぇやオイコラカスぅ……!」

「休み時間ならまだしも授業中までイチャイチャイチャイチャァァァ……ッ!!」

「ぶち殺されたいんかワレェ……!!」

 

「ということは、普段からの行いじゃないから別に拒否しても良かったってことだが……そんな正解すぐ分かるわけねぇだろ……!!」

 

 明らかに怨念を体中から滲ませたクラスメイト達がおれを囲んでいく。

 そんな騒ぎの横で、先生はちゃっかり退室していた。

 

 ……注意ぐらいしていけよ!!

 

 

 

「静、どいててくれ」

「〝いやどす〟」

「なんでぇ???」

 

 このままでは戦えないと、静を避難させようとして失敗する。

 そしたら、180度回転して真正面からおれに抱き着いてきた。

 

 どうやら、この教室を取り巻く殺意の波動には気づいてないらしい。……嘘だろ。

 明らかに恨み言叫ばれてる状況なのに危機感が無いのはおかしいと、おれは思うよ。

 

 

 

「青井春人ォ!! ここで永遠にサヨナラだぁ!!」

 

「「「「「死ねぃ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、教頭先生だ」

 

「げへへ……ん? 今、校則違反の生徒(カモ)がいたような――――」

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 

 すげぇ、殺意を持ったクラスメイト全員が1秒足らずで元の席に座った。

 

 今でも教頭先生はちゃんと妖怪で助かった、というところか。

 

 

 

 

 

「気のせいか……」

 

 

 

「はっはぁー!! 命運尽きたなァ青井春人ォ!!」

 

「「「「「死ねぃ!!」」」」」

 

「げへ」

 

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 

 コントやってんじゃねぇんだよ。

 

 

 

「ジャパンスクールピーポー! 授業を始めるデース!」

 

 

 

 だからコントやってんじゃねぇんだよ……!

 

 ここはいつからお笑い会場になったんだ!?

 そんで、なんでこんなコッテコテのアメリカ人が来るんだよ!?

 こんな教師は見た事無ぇぞ!? 本当に存在しているのかこの学校に!?

 

 

 

 

 

 

 

「では国語ペーパーの126ページをオープンしてくだサーイ」

 

 

 

 そんで国語教師なのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 あと静ァ! お前は隣の席に帰れよ!!

 いつまでおれの膝にいるんだよ!!

 

 

 

「『バカな……!』『身体が動かん……だと!?』」

「ウソをつくな」

 

 

 

 今もすげえ必死に抱きついてんだ。意図的に離れないようにしてるだろ。

 2時間目もこんな事してるつもりないんだが。ないんだが!

 

 

 

 

「題名は……オー……『銀河トッキューキューキューキュー』」

 

 それ読むならスリーナインだろ。

 

 

 

 ……。

 

 ……いやタイトル『銀河鉄道の夜』じゃねぇか!? 作品違うじゃねぇか騙されるかっ!? 教師がそこ間違えたらダメだろ!

 

 

 

「それでは読んでいきマース。ベリーベリーよく聞いててくだサーイ」

 

 ……あと英語下手くそなのなんとかならん?

 

 

 

 ……もしかして、今からこんなヘンテコ英語を通訳しながら国語を学んでいかないといけないのか?

 嫌なんだが。誰が好んでよく分からん英語もどきを履修しなければならないんだ。

 

 

 

 

 

 それから、静を伴いながら授業が進んでいく。

 全然離れてくれない。なんで。

 

 授業は聞いているだけで頭が沸騰して煙が出る。

 普通の授業ではあるはずだが、同時に翻訳しなければならない作業のせいで脳みそを常に回転させなければならずパンクしてしまう。何かしらの蘊蓄を披露されれば、教科書という日本語字幕も意味を成さない。

 

 というか、あんなふざけた英語を直訳したら滅茶苦茶になるからキチンと訳さなければならず、その上訳しても特に意味が無い言葉と分かった時が一番キレそうになる。

 

 おれはあの先生とは距離を置くべきだろう。

 今日初めて見る教師だが、是非とも近寄りたくない。

 通訳でも隣にいてやっと会話してやろうという気分になるかどうかだ。おれは無理。変にイライラしてしょうもない事にもなりかねん。

 

 ……授業くらい、まともに受けさせてくれ。

 

 

 

 

 

 休み時間には静の抱きつきによって嫉妬に狂ったクラスメイトに追われたが、これはかえって恋太郎達とあまり会話せずに済んでよかったのかもしれない。

 早々に返り討ちにして、思案する。

 

 しかし、廊下をウロついて時間を潰すのも面倒だ。

 静は引き剥がせたのはよかったが……静は静で、何故おれ如きにあんな執着を見せているのか分からん。

 

 そんなことより……。

 

 

 

 流し目で見ただけではあるが、後ろを振り返っても恋太郎達の反応が思いの外薄い。

 ……いや、あれは怪しんでるな。ほんの少しでも見れば分かる。どうしたもんか。

 

 

 

 手の形は色々場合によって変わるが、伏目がちのまま口に手を当て思考に潜るのは恋太郎のクセのひとつだ。

 

 割と早い段階で記憶喪失がバレる危険性が出てきたな。

 そろそろ妹にも、ちゃんと救援を呼んだ方がいい。

 このまま行けば秒で追い詰められてしまう。

 

 

 

 放課後までは隠し通すのが目的なら……。

 

 目的……。

 

 ……ふむ。

 

 

 

 

 

 ……よく考えたら、別にいいんじゃないかな。

 

 確かに混乱は招くかも知れないが、周りに十分配慮出来れば……人気のない場所で告白さえ出来てしまえば、妹の懸念していた大混乱は防げる。

 それよりもこのままだと大混乱の危険と隣り合わせのまま疑われ続ける。そちらの方がマズいのではないか。

 

 今のうちに、クラスの中にいるメンバーだけでも事情を話してフォローに回ってもらう方が最善策ではなかろうか。

 

「妹、聞こえるか?」

 

『今、貴方の後ろにいます』

 

「メリーさんかお前は。クラスの中の連中だけでも事情を早めに明かして味方に引き込みたい。他人に聞かれないような場所の目星を付けてくれ」

 

『確かに、恋太郎ファミリー以外に聞かれないなら問題はなさそうですが……なんかクラスの男子達から怒りの炎を燃やされてますけど、自由に動けます?』

 

「それこそお前の出番だろ。おれが恋太郎と……席が近いのは花園と院田か。その3人は確実に追いかけて来るように仕向ける。決行は次の休み時間、3限と4限の間だ。それまでに嫉妬に狂ったアホどもの妨害を……ん?」

 

 

 

 

 

「ハルさん、少し……その、いいですか?」

 

「君は……えっと」

 

 名前は分かる。華暮愛々だ。

 前髪で目元が見えないミステリアスさがありながら、どこか印象が薄い女の子。長身の割にそこまで目立ったようなイメージがない。意図的に目立たないよう隠れているのかは現状分からないが、今のおれとしては情報が少な過ぎる。

 

 おれに話しかける、ということは恋太郎の彼女なのか……?

 

 

 

「悪い。クラスメイトを蹴散らしたばかりで疲れてるから、大した用事じゃないなら後にしてくれないか」

 

「なんで、いつものようにしてくれないんですか? 今日のハルくんは……なんか、怪しいしおかしいです」

 

 いつもって何さ。

 今のおれに分かるわけないだろ。

 

 

 

「いつもみたいに………………

 

 

 

 

 

 …………『おい、スケベしようや』って言ってくださいっっ!!」

 

「そっちの方がおかしいだろ!?」

 

 何がどうなったら、おれがそんなセクハラ野郎に成り下がるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなやりもしない事を言って! ハードルを下げて! 『じゃあ代わりにお前の綺麗な目を見せてくれ』って……いつもみたいに言って……嫌ですって、言わせて下さい……」

 

「……」

 

「お願いです……言って……下さい……気のせいだって……安心させて……」

 

 

 

「……言ったところで、お前の求める答えにはならない事くらい……分かって言ってるんだろ?」

 

「……っ」

 

 

 

『ちょ、お兄様!?』

 

「予定変更だ。……華暮にはここで明かす。もうコレはダメだ、疑うとかじゃない。確実に気付いてる」

 

 ああ。

 

 本当に。

 

 

 

彼女達(こいつら)』の涙はいつ見ても慣れない。

 

 きっと、流れた涙が。

 今まで紡いできた絆の証なのだろう。

 

 知らない涙で、身体が凍りそうだ。

 

 

 

「華暮愛々。おれは昨日までの記憶が無い。お前と一緒にいた日々の一切を、知らない」

 

「……っ!? ふ、うぅ……っ!!」

 

 声を押し殺して泣く彼女に、手を差し伸べる事は出来ない。

 今のおれの手が慰めにさえならない事くらい、分かる。

 

 崩れる彼女に差し出せる手は……他人の手でしかない。

 

 だから。

 言える事はひとつだけ。

 

 

 

 

 

 

 

「華暮、悪い。……助けてくれよ」

 

 

 

 華暮は……確かに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 例の畑が広がる屋上に、静かに立つ。

 

 ここは優敷のテリトリーだ。

 ファミリー全体が集まる場所ではなく、事情を知った者だけが一時的に集まるなら問題ない。

 

 もう少し早く、休み時間の間に集まろうとはしていたが……随分と泣き腫らしたらしい華暮を見て、すぐ終わる話になるとは思えなかった。

 

 

 

 ……くそっ。女を泣かせるなんて、最低にも程がある。

 当の本人が覚えてないのが原因だというのだから、余計にタチが悪い。

 

 心の傷を抉る感覚を覚えるが、きっと苦しいのは華暮を始めとした恋太郎ファミリーの方になる。

 この程度で辛いなど言っていられない。

 

 

 

 でも華暮のお陰で。

 事態を察した連中が、一言を発する事なく着いて来た。

 

 

 

 今の屋上には、現状を知りうる関係者全員が到着した。

 

 

 

 

 

 愛城恋太郎。

 

 花園羽香里。

 

 院田唐音。

 

 好本静。

 

 栄逢凪乃。

 

 原賀胡桃。

 

 華暮愛々。

 

 優敷山女。

 

 ハナノミツダイガクハシリバコ。

 

 盆能寺百八。

 

 

 

 そして、青井春人。

 全員が揃う。

 

 

 

「改めて、記憶喪失を起こした青井春人だ。花園が羽々里さんの手で遠くに送られる夜、意識を失った辺りまでの記憶が精々ってところで……多分、多くの過ごした時間がごっそり抜け落ちてる」

 

「ハルさん……じゃなくて、えっと……」

 

 花園が何かを言いたそうにして、呼び名を訂正した。

 だが、それはおれから言うべき事柄だろう。

 

「まず、おれの呼び方は好きにしろ。今までのおれとの距離を否定するつもりはない。こだわりを押し付けることもない。自分達で納得のいく考えの下、呼んでくれたらいい」

 

 

 

「ハル、いいの?」

 

「いいさ。花園も無理に変える必要はない。変えるなとも言わないが」

 

「いえ……私は春人さん、と。なんだか懐かしいですし」

 

「代わりに、おれは名字呼びに……いや、好きにさせてもらう。気が向いたら名前で呼ぶが、他人行儀でやりづらいかもしれなくても我慢してくれ」

 

「そう、ね。ところでちょっといい?」

 

「なんだ院田」

 

 

 

「あの段ボール箱は何?」

 

「知らんのか。あれはハナノミツダイガクハシリバコだ」

 

「名称を聞きたいんじゃないわよ。誰よ」

 

「正体がバレたら色んな意味で死ぬらしい哀れなヤツだ。今日のやらかした責任は全部アイツになすりつけたからな。明日には線香でも立てに行ってやろう」

 

 

 

「マイサン? ミツケタ…」

「ヒェッ⁉︎」

 

 

 

「〝私には〟『健康そのもの』〝いつも通り〟〝に見えます〟」

 

「悪いが、おれ自身に対する心配は後だ。多少バレただけで華暮みたいにボロボロ泣き始めるなら、他にも恋太郎ファミリーの中に酷い混乱を起こすヤツがいる可能性は高い」

 

 1人、しどろもどろになりながら前に出て来る。

 

「えぇっと……春人? 実はその……妹が隠そうとしてた彼女の人数に関してなんだけどさ……」

 

「盆能寺先生、わざわざ言わなくても分かってますよ。たかだか10人やそこらじゃない。もっといるって事は」

 

 この時のおれの顔色は……きっと恋太郎に向けた失望ではない。

 感情は二の次にして、一旦事実としては受け止めるがさっさと行動を計画するフェーズに切り替える。

 

 

 

 おれがどう思うか、なんぞに大した価値は無い。

 今の所分かっているのは、記憶喪失ショックによる彼女達への精神的損失が多大である事。

 

「少なくともさっきの華暮のような、突然横から現れる隠れ彼女には対処が出来ない。自分達の近くにいる事情を知らん恋太郎ファミリーの面々が、おれに近づかないようにそれとなく誘導してくれ。学校内でいきなりバレるとややこしくなる」

 

 

 

「記憶を失くしたことは……辛くないど……?」

 

「……それが分かるのは多分、これからだ。……話はこんなもんで一旦終わりだ。メシにしてくれ」

 

 

 

 そう言うとそれぞれが……決して和やかな雰囲気ではないにしろ、昼ご飯の準備をし始めた。

 

 当然だ。

 こんなことを聞かされて、「はいそうですか」といつも通りになれる人間はそうはいない。

 当人であるおれでさえ、なんて声を掛ければいいか分からない。

 

 

 

「春人さん」

 

「どうした、花園」

 

「……っ、いえ、なんでもないです」

 

 

 

「羽香里の方がいいか? やっぱり」

 

「……いいえ、貴方の性格は分かってるつもりです。……貴方は、本当に心を許した相手しか名前で呼びたがらないですから」

 

「どこまで溢したのか、それともただ口が軽くなったのか、だな。以前のおれは相当好き勝手してたみたいだな」

 

 

 

「とにかく、今は呼びたくないならないでいいんです。……すぐに名前で呼びたくなるように頑張るので」

 

「なんだか花園は随分と強くなったように見える。きっと成長したんだろうが、思い出せないのが悔しいな。随分と良い彼女に——————」

 

 

 

 

 

 

 

       『私を●●●●、ハルさん』

 

 

 

「——————ッ!? ……? なんだ?」

 

「どうしました?」

 

 

 

「……いや、なんでもない。そんなことよりも早くメシを済ませて……おれのメシはどこだ?」

 

 

 

「そうじゃん!」

 

 盆能寺先生がにじり寄ってくる。

 

 

 

「昨日の夜から春人は倒れてたんだ、弁当ないよな!? 山女の野菜でも一緒に食おうぜ!」

 

「だどー」

 

「昨日の夜? 意識がなかったのか?」

 

「確かそうだったはず。あれぇ~? ……酒入ってたからなぁ。アイツが確か『休ませてあげてくれないか』って言って……」

 

 

 

「アイツって、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだそうだ、育だよ。須藤育、春人は覚えてないか?」

 

 

 

「育さんが運んできたんですか? てっきり百ハ先生が連れ込んだのかと……」

 

「妹はあたしをなんだと思ってるんだ?」

 

「痴女……」

 

「すとう、いく……か」

 

 

 

「覚えちゃいないが、話は聞く必要があるな。昨日の時点で何があったか分かれば……」

 

「青井春人」

 

 

 

 目の前に栄逢凪乃が立つ。

 声の平坦さはかつて聞いた栄逢の声そのものだ。

 しかし。

 

 

 

 その顔色は病的なまでに酷いことになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の……その記憶喪失は……私が原因の可能性が高い」

 

 

 

 静寂。

 おれだけでなく、彼女達全員が動きを止めた。

 

 

 

 不穏な空気に一変する。

 全員の目から、光が消えた。

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

 

 

 少なくとも。

 この話を聞くまでは、昼飯は食べられないらしい。

 

 

 

 懇々と連ねられる、あり得ざる未来の介入。

 

 栄逢の話す『もうひとつの未来』と『もうひとりの自分』がしでかした記憶の話は、完全に静まり返った屋上をさらに冷ややかなモノに変えていった。

 

 

 

「未来の私が引き起こした、愛城恋太郎を始めとした全員の記憶消去。……それらの目的とは別に、偶発的に引き起こされてしまった——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————『バグ』によって、貴方の記憶は消滅した」





「ひとつ、簡単なお知らせがあるぞ」

「急にどうしたのハル」

「と言っても、簡単なお願いだ。もしこの作品が良かったと感じられたら、是非とも感想や高評価を送って欲しいというお願いだな」

「みんなにとっては小さなアクションでも、大きな励みになります!」

「モチベの上がり方が違う。更新直後じゃないからと尻込みする必要はないぞ」



「某YOUTUBEみたいなノリで気楽にコメントとか欲しいよね!」
「隠れてねーぞー」



「さらに! 何話か前に募集していた、読みたいエピソードも引き続きウェルカムだ。どしどし送って来てくれ」

「……そう言えばアレ、締切について何も言及がされてないね……」



「気付いたか。でもそうしないとネタが……」
「え?」
「おっと、こっちのハナシ」



「そういうワケで、最近腑抜け気味な作者を助けると思って、気軽なコメントをお待ちしております」

「モチベややる気によっては気持ち速く更新が出来るかも……いや、やっぱ期待しない方がいいかも」



「あと、アニメ3期をみんなで楽しもうな!! 以上、青井春人と!!」
「愛城恋太郎でした!」
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総合評価:904/評価:8.48/連載:21話/更新日時:2026年06月28日(日) 20:11 小説情報

 ま! よ! け! の! 塩! (120年分)(作者:哀しみを背負ったゴリラ)(オリジナル現代/ホラー)

▼  自分の部屋の天井の四隅を同時に見てみよう。▼  大丈夫。何も起きないから。絶対なにも起きないから、大丈夫だから。ね?ね?▼夜の山をじっと見続けると、何か光るモノが見えるよ。▼それが動いていたら、スマホで動画を撮ってみよう。▼きっとバズるよ。ほら撮って。▼    寝る前に布団にはいったら『誰かいますか?』って聞いてみよう。きっとそこに▼「 うるっせぇええ…


総合評価:26261/評価:9.09/連載:42話/更新日時:2026年02月23日(月) 13:01 小説情報


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