アニメだけ見てる勢はここで一時停止です。ここから本格的にネタバレ・彼女バレがあります。
物語の構成上、新しい彼女達は『単行本』を基準として加入させていく予定ですが、アニメ勢の方々へ配慮するのが難しく、彼女バレが嫌な方はプラウザバックする事をオススメします。ネタバレに対してはご自身での自衛をよろしくお願いします。
少し前の話から彼女が出ている事に関しましては、注意書きが遅れてしまい申し訳ございません。許して。
注意は以上になります。自分のペースで健全に100カノを楽しみましょう!
【短編小話】
『それもまた成長』
ハル「……」
羽香里「どうかしましたか?」
ハル「いや、昔と比べて大人っぽくなった気がしてな……」
羽香里「私がですか?」
ハル「お前だけじゃない。以前から仲良くしてたヤツらはみんな少しずつ雰囲気が違う……と思う」
唐音「そう?」
ハル「ああ。例えば……花園は包容力が増してるって感じだ」
羽香里「おお……昔と比べて成長しているという事ですね!」
ハル「唐音は……そうだな。外見で悪いが、ガリガリすぎて心配だったトコロが良くなってると思う。腕とか脚とか。かなり健康的に見えるぞ」
唐音「そう? あまり意識した事ないんだけど……健康に見えるならちょっとだけ嬉しいわ、ありがと」
ハル「愛されてる事で起きた変化ってやつかもなぁ」
羽香里「絶対そうですね」
唐音「恋太郎のおかげね!」
ハル「こういうのをアレか、『幸せ太り』と言えば……」
ハルだったモノ「おれは何かを間違えたようだ」
数「全部だぞ」
「とにかく、彼女が多過ぎて誰が誰だか分からん!」
開口一番のおれの言葉に、屋上の全員はおかしな目で見る事なく妙に納得した顔をした。
それはそうだ。
現在でもう既に30人を超えている。
そんな連中に対して、見ただけで全てを把握しろは到底無理な話なのだから。
「記憶喪失だからと失礼な事を言ってもいいとは思わないが、情報の把握を最優先にしないと地雷発言すら避けることが出来なくなる。だから悪いが、これからみんなに少し付き合って欲しい」
「デートに付き合えば良いんですね、分かりました早速日取りを……」
「違う、そこの花園家御令嬢は一旦口を閉じててくれ、ややこしくなりそうだ。……正直、姉さん以降の彼女に至ってはほぼ知らないに等しい。そこで、だ」
「これから、ひとりひとり面接をしようと思う」
「「「め、面接ぅー!?」」」
「一対一で話す。これほど情報収集に効率的なものもないだろう。あぁ、簡単に考えてくれていいぞ。名前と、自分の好きな事。後は簡単な性格……恋太郎から補足があるならそれも欲しい。今まででおれとどんな関わりがあったかとかが分かれば、なんとかなることもある」
「私たちはどうすんのよ。流石にある程度は分かってるでしょ」
「まぁな。だが……」
院田が口を挟むが、僅かに否定する。
「こんだけの大所帯なら、記憶の無くなった期間は相当長いと踏んでるからなぁ。だとしたらある程度の距離感や関係値も変化してるはずだ。ただ進展してるならまだ良いけど、ドギツイ大喧嘩を最近までやってました〜とかになると、今後目も当てられない事態に発展するかもしれない。保険は大事だぞ」
「ハル、俺は……」
「テメェは正座。悪気はないだろうが反省してろ色欲魔人。彼女をこんな大量に作りやがって」
「色欲魔人って……っ!? なんでハルと同じ扱いなんだ!!」
「キレるトコそこじゃねぇやろがい!! あと、なんで目ェ覚めてから変態呼ばわりばかりされんだマジでよぉ!!」
「少しは自分の胸に聞いてみろ——————」
「だからその記憶が無ぇって言って——————」
◆
そんな口喧嘩に軽く男性陣が発展した時。
彼女達は……伊院知与の発声によって、一塊に集まった。
「皆さん、これってもしかして不味い事態なんじゃないでしょうか!?」
「え?」
「ただボクらの事について話せば良いんじゃないの?」
「自分の話だとも言えるし、そうでないとも言えるね」
「逼迫した事態とは言えなさそうだが……」
「そもそも面接したくないにゃん……」
事態を深刻に考えていなかった一部の彼女から疑問の声が上がる。
「いえ、委員長をやっている私だからこそ分かります……! 私が加入した時、皆さんの乱れを直そうとしてご迷惑を掛けてしまったことがあるじゃないですか」
「3期のアニメでもやってたのだ」
「ゔっ、それはともかく……昔の春人さんは何かと彼女入りに対して厳しい目を向けていたと聞きます!」
「もしかして……お兄様の独断で、恋太郎ファミリーを追放される可能性があると……!?」
「「「「「えぇ!?」」」」」
「まじやばーい」
「イヤな話だけど……あり得ない話じゃない、か」
「追放は物理じゃ倒せない……!」
「つまり、ここで私達が恋太郎君に相応しい彼女であることを証明できなければ……!?」
「青井春人から追放を言い渡される恐れがある」
「ちょ、ちょっと!? 流石にそんな横暴を春人がするわけないでしょ!?」
「いえ、待って下さい」
そこで手を挙げたのは。
最初に成立した彼女二人の片割れにして、誰よりも早く告白を行なった花園羽香里である。
「私が先陣を切ります。……春人さんは昔から優しい人なんです。最初こそ勘違いされやすいけれど、それは胸を張って言えます」
「羽香里……」
「胸だけに」
「今それ言う必要あったかっ!?」
「この面接でどうなろうと、春人さんに悪印象さえ持たせることがなければきっと恋太郎ファミリーに残留することを認めてくれるはずです。彼は理不尽な人ではありませんから」
「羽香里、頑張るのだ!」
「皆さんは私に続いて下さい。恋太郎君の彼女である自覚があるなら、きっと大丈夫です!!」
「この『交換日記』ついて、話を聞こうか」
「カヒュッ」
「何か申し開きはあるか?」
「ご……ゴザイマセン」
「下がりたまえ」
「ハイ」
羽香里は体育座りのまま横になり、沈んだ。
「皆さん、さようなら……」
「羽香里ィィィィ!?!?」
唐音が叫ぶが、既に羽香里に生気はない。
あの『交換日記』は、盆能寺百八と一緒にかなりエグい(意味深)妄想をしたためたどこに出しても恥ずかしい書物だ。
それが彼の手に握られていた時点で、羽香里は詰んでいた。
「
「もはや面接官じゃなくて入国審査官のノリじゃねぇか!」
「次は唐音さんだ……!」
「『大丈夫』〝でしょうか〟」
「唐音様ならきっと……」
「はいはい、院田唐音よ。と言っても昔と変わったところなんて……。何よそれ?」
「おれの鞄から出てきた、今までの……恋太郎の外傷による入院の明細書だ」
「カヒュッ」
「札束みてぇな枚数だ。それだけならまだいいが、途中から手書きの明細で『青井医院』って書いてあるな。何処ぞに恋太郎の怪我を治せるブラックジャックでもいたのか、入院費が無くなったのか……」
「」
「お前、将来の為に貯めてる恋太郎のバイト代を治療代で消す気か? 言いたい事があるなら聞くぞ」
「イエ、ナニモ……」
「じゃあ話は終わりだ。下がりたまえ」
「……か、唐音さん」
「みんな……ごめんね……っ!」
「唐音さーん!?!?」
唐音、大号泣。
恋太郎に寄って、その胸元から顔が離れなくなった。
ついでに羽香里も胸元に顔を擦り付け始めた。
ちなみに青井医院の明細とは。
当然、昔の青井春人が治療を施した時に書いておいたものだ。
本人が素人ではあるし、大半が包帯ぐるぐる巻きの後絶対安静という方法だったが……まさか軽い冗談で書いていた明細書が束になって唐音に襲い掛かるとは、恋太郎を治療していた当時の春人も夢にも思っていなかっただろう。
「〝次は〟『私の番だ』」
「静先輩は、流石に大丈夫だと思うんだけど」
「静サン、頑張るど!」
「『いざ行かん』」
「おめぇはとりあえず、しばらくおれと接触禁止な」
「」
「授業の進行度の把握とかもやらなきゃならん。なのに四六時中、くっつかれるだの視界が真っ暗だのは流石に邪魔と言わなきゃならなくてな」
「」
「触るな。抱きつくな。……長くても一週間ぐらいだから我慢してくれ。決して嫌ってる訳じゃない、ちょっと処理すべき情報が多過ぎるからそれがひと段落するまでだ。以上!」
「」
「」
「静さんの目が死んでる……っ」
「くっ、まさかお兄様は……いちゃもんをつけて欲望のままに職権濫用をするつもりじゃ……!?」
「そんな好き勝手する人じゃないですよハルさんは」
「そう、例えば……
『恋太郎……これで二人っきりだな』
『ハル……みんなごめん、俺はハルと幸せになるよ』
……みたいなッ!!」
「妹さんが暴走してる……」
「はわわ……お、お二人がそんなぁぁぁ——————!」
知与は流石にそれはないだろうという顔をしたが、愛々は勝手に妄想を広げて消えた。
「落ち着きなさい、妹」
「は、羽々里様……!」
「諦めたら、試合終了だよ」
「育さん……」
「やれるだけのことはやらないとな!」
「百八先生……」
(……なんだろう、凄く失礼だけど不安しかない)
「うふふ」
「わはー」
「……」
「……みんな、死ぬ時は一緒だよ」
「育さんが諦めるレベルとは」
「赤点デート組で見合ったら、そうなるわよ」
「爆速で終わったのだ。次は花園羽々里の番なのだ」
「えっ!? もう私の番なの!?」
「加入した順番で進んでいたから流れを合わせることになった。その次は原賀胡桃」
「げっ、あたしかよ……なんか変な緊張するんだけど」
「凪乃ちゃん、顔色悪いわよ?」
「大丈夫」
「頑張るでい、ばーろちくしょ!」
「え、えぇ! ロリからの応援されるなんて僥倖ぐふふぅ」
「あっ、そういうのはしゃらくせぃよ」
「おーい、早く来てくれねぇか?」
「改めて、花園羽々里よ」
「突っ込むのも最早今更だけど、もうおかしいだろ」
「え?」
「なんで母親がココにいんだよ。なんとなくファミリー内にいる事は薄々察してたけども」
「ああ、なるほど。そこからの話になっちゃうのね」
「なんだ今更か、みたいな反応じゃんか。どうなってんだこのファミリー」
「羽々里さんは羽香里を助け出した時に彼女になったんだよ」
「あー……そういえば恋太郎が告白されてた……ような? だとしてもおかしいだろ、騙されんぞ」
「カップルとして成立したのは貴方が気を失った直後ぐらいの時よ」
「おれが気を失ってる横で何やってんだ」
「それからなんやかんやあって、今はここの理事長やってるから」
「なんだそれ? 世界の終わりか??? 好き勝手が過ぎるだろ」
「春人ちゃんとの思い出は色々あるけど……どれも素敵な思い出よ。……本当に」
「……そうっすか」
「あらあら照れちゃってか”ん”わ”い”い”ー”! ”! ” ……おっぱい、飲む?」
「うわあ勝手に興奮して急に落ち着くなっ!! あと飲まねぇ! 次ッ!!」
「は、原賀胡桃。中等部の……って、うわっ!?」
「中等部引っ掛けるとはいいご身分だなァ恋太郎ォ……!? まさかお前がロリコンだとは思わなかったぜェ……!」
「待て! 話を聞いてくれハルっっ!!」
「遺言なら聞いてやる。その後に処刑してやろう……!」
「……いやどっちかっていうとそれもハルのあだ名……」
「なんで悉く不名誉なあだ名が全ておれなんだよッッッ!!」
「いや面接しろよあんたら」
「……気を取り直して、オメェはどんなヤツだ。おれが目覚めた時には協力的でいてくれたのは覚えてる」
「胡桃は、いわゆる腹ペコ系なんだ」
「いわゆる、って言葉を使えるほど普及してる属性ではないだろ」
「えっと、その……ハル……じゃなくて、春人先輩には色々世話になってて」
「世話をかけるのは構わんが、具体的に何をやってたか教えてくれるか?」
「その……1日10食ご飯を用意してくれたり、とか?」
「相撲取りでも食わねぇだろそんな量」
「ち、違うっ!! いつもそんなに用意してくれてる訳じゃなくて! あたし、お腹空くと機嫌悪くなってみんなに迷惑かけて……だから、気付いたら何か食べ物をくれる仲になって……」
「なるほどな……通りで、おれの鞄に食料が押し込まれてるのか」
「……っ(くるくるくる) ……そんな事より早く今日の夕方弁当はまだかよ」
「テメェさてはおれの昼メシ盗りの常習犯か? というか、夕方弁当って名称をおれは初めて聞いたんだけど」
「おらっ、早く出せェ!!」
「少なくとも後輩から出てくる言葉じゃねぇんだよ。大体そんなもん鞄を探しても……あったわ」
あるんだ。……と、心の中で春人はつぶやいた。
いつ作ったものか、記憶の無い春人には分からない。
「……いや。おれが味を思い出すために回収した方がいいかも、なのか」
「おまっ、ふざけ……ッ!! でも、今日の弁当を我慢しないともうハル先輩の手料理は味わえない……!?」
「レシピぐらいなら流石に残してるだろうし、あまり深く考えなくても……」
「やーっっ!!!!」
「……」
「や──ぁ──!!!! たべたいー!!!! う"わ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ッッ!!!!」
「あの胡桃さんが食べたいあまりに幼児退行してる!?」
「いや……もう、いいか。食っていいから、な? 持っていきな」
春人は『夕方弁当』と書かれている紙に包まれた、七段の重箱を胡桃に渡す。
鞄は随分と軽くなった。
「ありがてぇ……っ!! ありがてぇよ……っ!!」
受け取った胡桃は面接そっちのけで遠くへ駆け出したが、春人としてはキャラの特性を把握出来たので引き留める事は敢えてしない。
そのまま次の彼女を促した。
「次は私めでございます」
「……あんたも、か」
「……はい。改めて銘戸芽衣と申します」
春人は、あからさまに眉を細める。
恋太郎ファミリーにいる事自体に違和感は無いが、春人との因縁は決して浅いものではない。
個人的に恨みがあるわけではないが、それでも殺しに来た女だ。
少なくとも、今現在の春人の記憶では。
「うーまーいーぞォォオオオ!!!!」
「……今、変に考えるのはお互いよそう。絶対ここからシリアス展開にはならん」
「こ、このために! この瞬間のためだけにあたしは生きてきたんだ……!! むぐむぐ、あむっ! んふー、んふー! うぅぁ、涙でご飯が見えねぇよぉ……!」
「かしこまりました。私めとの個人的な関わりについてですが、基本的には付かず離れずの距離感というのが私めの印象です。お蟠り様のような後ろめたいものは互いに最優先で解消に動きましたが……妹のような特別な関係ではございませんでした」
「そうか……あんたから見て、性根が悪く見えたりしてたんじゃないのか?」
「いえ……分かりやすく言うなら『仕事仲間』といったところでしょうか。春人様の胸中は存じ上げませんが、私めから見た印象としては淡白ながら良い関係様を築けていたかと」
「『仕事仲間』だぁ?」
「恋太郎様をお守りする事と、羽々里をお守りする事。目的が同じでしたなら、手を取り合う事に迷いはありませんでしたから」
「そう言う事ね。……うん、おれの中でも腑に落ちたよ」
「それに……私めと貴方様には、過去の事件の事もあります」
「……っ、そうか……」
「心配せずとも、この件は口外しないようきつく春人様から言われておりました。全容を知っているのは直接関係者でいらっしゃった羽々里様のみです」
「……芽衣さん。あんたは、聞いたのか」
「はい、全てを。その上で、私め自身の意思で貴方様の横に立っております」
「分かった。十分だ。……終わってくれ」
「同情は出来ません。私めにも失ったものがあるので。ただ、許し合うことは……きっと出来ますよ、春人さん。……それでは、失礼いたします」
「……」
「……くそっ」
芽衣の靴の音を聞きながら、春人はどこに向けたか分からない悪態を吐く。
「ハル、大丈夫か?」
「……悪い、トラウマみてぇなもんを思い出しちまってた。もう大丈夫だ、次のヤツに行こう」
「大丈夫? 顔色が悪いよ?」
「気にすんな。……で、お前は……見た事あるな、でも誰だ?」
「ボクは須藤育。女子野球部で日々汗を流してるんだ!」
「…………後ろを向きながら喋るな。あと尻を突き出すな。なんの構えなんだそれは」
「挨拶代わりに、どうぞッ!!」
「いやどうぞじゃないが」
育のススメにより、半ば強引にバットを持たされる春人。
当然意味は理解したが、困惑の色が強い。
「バットは人を殴るモンじゃないだろ」
「そうだね。バットはお尻を叩くものだよ」
「野球界を追放されても文句は言えんぞ」
とてつもなく嫌そうな顔で構える春人。
人と喧嘩する事はあっても、人を一方的にいじめる趣味はない。
あくまで対等、彼女達をバカにする言動をしてもその後の仕返しは甘んじて受け入れるようにしていた。それもまたコミュニケーションである。
でなければ、囃し立てた院田の反撃に対して避けれずとも防げないはずは無いから。
『くぺっ』(←過去のダメージボイス)
春人は嫌な事を思い出した。が、無かったことにする。
普通に痛かった思い出を大事にしまっておく事もない。春人はそう思った。
「じゃあ、やるぞ……恋太郎、加減はどのくらいだ?」
「身体が少し浮くくらい……とか?」
「お前……っ。それどんぐらい痛いか分かってて言ってんのか」
「ハルがやってた時はそのぐらいだったよ」
「うそだろ……」
ふぅ、と春人が息を吐く。
それに反応するように、育の全身がぶるりと震えた。
気配が変わる。
遠くで見守る彼女達は動く事を忘れ。
強烈な闘気を全員が浴びる。
瞬間。
春人のスイングは。
音を置き去りにした——————。
「あがっ、はぅん……っ!?!? あ、はぁっ、んひ——————♡」
キッツ——————といういつもの言葉を発する余裕もないまま、有頂天を超えてゆき……須藤育は気絶した。
「はぁ……♡ あはぁー♡」
「恋太郎、どかしておいてくれ。はい次!」
「ついにっっ! 私の番が来ましたのねーっっ!!」
「あっ」
「あら? どうかなさいまして?」
「あんたは——————っ!?」
「——————美がメチャクチャ多い先輩じゃないか!!」
「美杉美々美ですわー!」
「記憶が欠ける前の出来事だったから、比較的鮮明に思い出せるぞ。これは時系列関係の情報として助かるし……おいおい、あんたと一緒にいると役に立つことしかしないな」
「ふふーんですわぁ! 褒めても……私の美しさしか出ませんわぁー!」
「でも今はどちらかと言うと美しいってよりかは、『可愛い』って感じに見えるがな」
「んひっ」
「えっ?」
「あっ……お、おほほ」
「えーっと、美杉の先輩? 今のは……?」
「な、なんでもありませんわ」
「…………絶対なんかあるやつじゃん」
「い、いえ〜? ホ、本当になんでもございませんからほなサイナラですわぁ〜!!」
「あっ、逃げやがった!? くっ、すごい気になるけど今は彼女達を一通り終わらせてからだな。……そう言えば美杉先輩に関して、なんか忘れてるような気がする……なんだっけか?」
「ハル?」
「いや、忘れてるならそこまで重要な用事でもないな。とりあえず置いておくよ。気にしないで次に行こう」
「えっと……華暮愛々です。趣味はっ、編みぐるみで……その、鞄の中を見てくれませんか?」
「鞄の中? 編みぐるみならもしかして……あった。まさかこれが……」
「はい、私が作ったハルさんの編みぐるみです。……その、覚えてますか?」
「……悪いが覚えてない。だが、この編みぐるみがどんなものかくらいなら分かるよ。華暮なりの感謝が、痛いくらい伝わってくる」
「……っ!!」
「おれも何か贈り物がしたいな。こんな立派なプレゼントを貰っちまってさ。……そもそも何処かに飾るところがあったか……? いや、無いから鞄に入れて大事にしてたのか?」
「……」
「華暮? どうした?」
「いえ、なんでもないです……。どこまで記憶を無くしても、貴方はちゃんとハルさんなんですね」
そんな愛々の独白に、春人は申し訳なさそうに頬を掻いた。
一筋の涙が茶化すところではないと暗に告げていたため、少しこそばゆく感じてしまったためだ。
「よく分からんが、納得する事があったなら何よりだ。……念の為、改めて感謝を伝えておくよ。ありがとな」
「はいっ。また……いえ、今度は一緒に手芸をやってみませんか。私で良ければ教えます……っ!」
「どうなるか分からんが、予定が空くならやってみよう。その時は頼む」
「えっと、伊院知与と申します! 中等部で委員長をやってまして……」
「まぁた中等部……あ? 伊院? ……あの『伊院』か!?」
「あっ……えっと……はい……」
「あの『噂のヒロさん』の娘なのか!? お前が!?」
「はい……」
「マジで?」
「……はい」
「……実は偽者とかじゃなくて?」
「なんでそうなるんですか!?」
「正直、噂と違い過ぎる。第一声から生真面目さが押し寄せて来てるのをひしひしと感じてる。こんな礼儀正しい子があの噂のヒロさんの遺伝子から生まれるワケないだろう」
「どうしよう……かなり馬鹿にされてるのに否定出来ない……っ!」
「ハルはヒロおじさん覚えてる?」
「覚えてないが、噂で十分だ。事故りそうな時にパニックになって子供に助けられるエピソードひとつでもお腹いっぱいなんだけど。なんだ、まさか記憶ない時にでも会ったのか」
「うん、ハルがヒロさん泣かせてからは近付かなくなったけどね」
『アンタは馬鹿か!? 子供を守る大人ならともかく、いい大人が無様晒した挙句子供に助けられてんじゃねぇぶち殺すぞコラァ!!』
『ヒィィィィィィ——————!?!?』
『ハル!? もういいから! ストップ! おじさんが泣いちゃう!!』
「そんな事もありましたね……」
「そういう『うちの身内が粗相を……』って顔が出来んなら問題ねぇよ。常識的で非常に助かる。ヒロさんの生まれ変わりレベルならタンコブのひとつぐらいは覚悟してもらいたかったが」
「……ハル、ヒロおじさん嫌い?」
「苦手なだけだ。たぶん」
「さて次は……」
「ハーイ春人ボーイ!! アイアムの番デース!!」
「お引き取りください」
「もー、シャイボーイなんデスから⭐︎」
「帰れ、速やかに」
「ハル、分かってると思うけど……」
「よく分からん第二外国語を憶えざるを得なかった怒りは忘れんぞ。ふざけた英語を使いやがって」
「ナディー先生は純度100%の日本人なんだ」
「1%は外国人であれよそこは」
「やはり、春人君は此方の話し方の方が、耳触りが良いでしょうか?」
「……今の一瞬で変なものでも食ったのか???」
「これはこれで拒否反応を起こすんだ」
「オー、ベリーベリーめんどくさいデース」
「アンタが言うな、アンタが」
「おでだどー」
「優敷山女さんだな。頭に蝶が生えてんぞ」
「住んでるだけだから大丈夫だど」
「その理由で大丈夫とは微塵も思えねぇが」
「春人サンとは一緒に畑の世話とか手伝ってもらった事が多いど。とても助かってたど」
「今のおれに園芸関係の知識や経験は無い。多分、優敷と会ってから勉強をやり始めたからだろうな。……今度、また世話のやり方を一から教えてもらってもいいか?」
「もちろんだどー」
「山女ちゃんは火が苦手なんだ。山火事がトラウマになってて……」
「分かった。出来るだけ配慮はしよう。だが、どこまでの火が怖いのかは気になるところだな」
「今までの春人サンは炎色反応を試したりしてたど」
『黄色い火だどーッ!!』
『青緑の火だどーッ!!』
『紫色の火だどーッ!!』
『あっ、マグネシウムだど』
『青色の火だどーッ!!』
「過去のおれは何やってんだ」
「花火に似てるとほんの少しだけ大丈夫って分かったどー」
「どうも、茂見紅葉なのです」
「うっす、青井春人です」
「さてさて、挨拶代わりにマッサージはいかがですかな?」
「はぁ? マッサージ?」
「紅葉は人の揉み心地を確かめるのが好きな子なんだ」
「……色々言いたいことはあるが、マッサージはやられた覚えが無いな。推してくるって事は、以前は何かと頼りにしていたって事か?」
「まずはお試しくだされ、ほーらこちらにどうぞなのです」
「回復手段? いや、スタミナの回復という意味なら効果的か……」
「あそーれ、もみもみ」
「グワァァァァァアア!?!?」
「あっ。やっぱりダメだったのです」
「こ、殺す気……か……テメェは……はぁ、はぁっ……ぐふぅ……!」
「おかわりはどうですかな?」
「二度と近づくんじゃねぇ!!」
「おやおや、そろそろわしの番かい?」
「酷い目に遭った……って、は、はぁ!? や、ヤク婆!? なんでヤク婆がこんなところに!?」
「それは恋太郎はみりーの一員だからじゃよ」
「……そろそろおれは唯一の友人をどんな目で見りゃいいか分からなくなってきた……」
「まぁまぁ、元気出せよハル。あっ、ポッキー食べるか?」
「テメェのせいなんだよなぁ……! ヤク婆、一応聞くけど……無理矢理だとかそういうのじゃなくて、自分の意思でここにいるってことで合ってる……よな?」
「春人の心配するような事はないのじゃ。その心配症なところは変わっておらんねぇ」
「変えたくても変わんねぇさ。特にこんな事態を目にすればな。昔から知ってる分、他の連中よりかは楽か? まぁ、遠慮なく頼ってくれ」
「騎士華だ。剣道部の主将を務めている」
「ああ……真っ当な大真面目枠だ……っ!」
「騎士華先輩は父性に惹かれて、赤ちゃんみたいにトロトロになる事があるんだ」
「どこが真っ当だァ!!」
「お前が言い出した事だろう!?」
「……ちなみにどうなる?」
「見せる訳ないだろう!?」
「羽々里さん」「任されたわ」
「ままぁ──♥♥」
「よーちよちよちぐふふでゅへへ────ッ!」
「……」
「は、ハル……」
「えっと、此度は残念ですが……」
「早まるなー!」
「ぱぱ……?」
「違うが」
「あーしはー……」
「毛樽井亜愛子衣だな?」
「え、なんで知ってっしー?」
「いや、確か以前片付けを押し付けちまったよな? その頃以来なのが悪いが、名前だけは憶えてた」
「あー子はギャルで、かわいいものを探すのが得意なんだ」
「マジバリテンション上がってんよー」
「名前覚えててくれたのが相当嬉しかったみたいだね」
「本当に!? 本当にそうなの!?」
「春人っち、かーいー」
「どこが!?」
「かおー」
「どこがぁ!?」
「ボクは中二詩人だよ」
「なかなか旅人チックな服着てるな」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるね」
「おれは事実を言っている」
「ハル……!? キレないでっ!? ストップ!!」
「中々回りくどいヤツだな」
「人生とは寄り道の連続さ。無暗に近道を使おうとするなら────」
「悪い、おれはお前が苦手だ」
「────」
「詩人が停止したのだ」
「はいはい、妹は女井戸妹ですよ」
「仮にもお兄様と呼ぶ人間がその態度でいいのか?」
「……」
「どうかしたか」
「……今から何言ってるか分からないことを言います」
「あ?」
「貴方だから、この態度が良かったんですよ。……分かりますか?」
「すまん、分からん」
「……っ、でしょうね。これから精々頑張って思い出してください、ポンコツお兄様?」
「……やれやれ、随分いい性格の妹が出来たもんだ」
「……ばか」
「倫理の担当、盆能寺百ハだぞー」
「酔ってんじゃねぇ教師ぃ!」
「なぁに、昔も今も春人は変わんないさ。春人らしくいればいいんだよ」
「……とりあえずさっきの交換日記の話、あんたも関係者だろ」
「ぎくっ。あ、あれはその場の勢いっていうか……」
「場合によっては断酒も検討する」
「全て羽香里の責任です」
「百ハ先生ェー!?」
「えっと、灰尾凛と申します。春人先輩には時々……」
「まともな清純枠だと思ってるが、なんかあるだろ絶対」
「……時々、血を戴いていました」
「毎度毎度おれの予想を超えてくるのは想定外だがなァ!!」
「血? なんで? おたくは吸血鬼だったりすんの?」
「凛ちゃんは血とかグロテスクなものを見るのが好きなんだ」
「恥ずかしながら、色んなお願いを聞いてもらってまして……」
「……ちなみに、直近のお願いは?」
「……ロードローラーを借りてきt「吸血鬼じゃねぇか」
「数だ」
「中二とお前を混ぜたらいい感じになりそうだな。情報が簡潔すぎるだろ」
「……数の名前は、数だ」
「それ以上の情報を寄越せっつってんだよ」
「数は数字が好きなんだ」
「わざわざ数学や数式じゃなくて数字と言う辺りに意味を感じる」
「なんでわざわざ数字を歪めようとするんだ」
「なぜ計算に対してそんな考えを持てるんだ?」
「これならあれだな、お前のことを素数だのグラハム数だのふざけたあだ名をつけてそうだな」
「よく分かったな」
「え?」
「え?」
「あたしは火保エイラ、今のところ唯一の大学生だね」
「あんたは……なるほどな、凄い脚だ」
「よく分かったね」
「そんな闘気見せておいて気付かないワケないだろう。痛い目に遭わされたんだろうなって思うよ」
「先に面接をやってた騎士華ちゃんとも特訓してたんだよ?」
「赤ちゃん化に目が行ってたが、あっちも相当強いのは見て分かってた。例えタイマンでも厳しいな、良くて互角だろう」
「へぇ……あたしと騎士華ちゃんを二人がかりでやっと互角だったハル君がそんなこと言うんだ?」
「……何が言いてぇ」
「単純に、負けっぱなしで終われないでしょってハナシ。……すぐに実力を戻してあげるから、お姉さんに任せてねっ」
「んーっ、まぁ負けず嫌いじゃなきゃ格闘家なんぞやれねぇか。その時はお手柔らかに頼むぜ、お姉さん」
「うん。カポエイラがどういうものかもう一度教えてあげないと、ね」
「楽しみだ。期待外れはやめてくれよ?」
「猫成珠にゃん……」
「猫みたいなヤツが来たな」
「タマは猫にゃん」
「猫はまず人語を喋らないって知ってるか?」
「タマは働くことが嫌すぎて、猫になったんだ」
「その説明で納得できる人間はそんなにいないと思うぞ?」
「春人は全てのごはんをキャットフードにしてきたから……」
「対応には困ってたろうな……」
「タマがブチキレて春人を猫にした事案なら発生したにゃん」
「何をどうしたらそうなったんだ」
「『奇姫』って言えば、貴方には伝わるかしら」
「分からん、誰だ」
「……き、『奇姫』を知らないなんて、逆に奇人ね! ……うぐぅっ」
「姫歌を泣かせたなァ……?」
「流れるように磔で燃やされそうになってるけど、どう言えば良かったんだおれは」
「別に、気にしてないから! ……大丈夫、だから」
「というか、ひめか? ……お前、歌を歌ってた『ひめか』か?」
「え!? そ、そう……」
「そっちを早く言えよ! そうか、『ひめか』かぁ! 昔の路上ライブで出会った頃は流石に覚えてるぞ……って、ん? つまりお前も恋太郎の……!?」
「えっと、そういうことなんだけど……なんか、ごめんね?」
「……恋太郎」
「……はい」
「お前マジで不幸にしたら殺すぞ」
「もちろんそのつもり……」
「殺すからな」
「はい」
「春人後輩はなんであんな顔になってるんだい?」
「ハル先輩はあの『奇姫』のファン第一号のはずだから……一号……いちご……?」
「それ関係でハルも色々やらかしてたわねそういえば」
「胡桃サン、苺持ってきたどー」
「あていは出井祭李でいっ!」
「……クロエ・ルメールとかじゃなくてか?」
「誰でい?」
「ガールフレ●ド(仮)は世代が出るから止めなさい春人ちゃん」
「祭李は家族の江戸っ子口調が染みついたハーフなんだ」
「まるで西洋と東洋の悪魔合体だな」
「春人! 聞きたいことがあるんでい、ばーろちくしょっ!」
「江戸っ子過ぎる……んで? なんだよ」
「祭りで好きな食べ物はなんでい!?」
「はぁ? あー……たこ焼きだな」
「……」
「……」
「ふっ……それでこそ、あていのライバルでい……!」
「何を認められたんだ、今」
「焼きそばとたこ焼きの因縁があったんだよ」
「いがみ合い過ぎて、屋台戦争が起きましたもんね……」
「屋台戦争ってなんだ」
「さみ死ぬ……っ!!」
「はやいはやい展開が早い……っ! 恋太郎、これはなんだ?」
「うさちゃん先輩はギチギチしてないと寂しさで死んじゃうんだ」
「どういうことだ???」
「とにかく、ハグしてギチギチにしてあげるんだ!」
「おれが!?」
「こんな物理的でいいの? これで大丈夫か────」
「ギチギチーッ!! ♥♥」
「払い腰ィ────ッ!!」
「あぎゃん」
「うさちゃん先輩────ッ!?」
「すまん、急に大声出されたからびっくりして……」
「大丈夫だ、恋太郎。私が預かろう」
「……で、結局このギチギチ先輩の名前は何?」
「あっ」
「どうも、雪房田夢留です」
「……本人目の前にして言うのは失礼だが、ホラーでこの顔出てきたらギリギリ失禁するぞ」
「それもまたメルヘンですね」
「何が???」
「夢留さんはメルヘンチックな絵本作家なんだ」
「絵本か……小学生以来だな。記憶なくなる前は流石に読んでたと思うが」
「ええ、それもまたメルヘンです」
「この人メルヘンしか言わないよぉ!?」
「この際です。あなたの脳味噌にメルヘンを刻みつけましょう」
「やってることが何もメルヘンじゃないよぉ!? おれこの人になんかやった!?!?」
「俺のクチからはちょっと……」
「本当に何やったのおれ!?」
「ふっふっふ。やっとアタイの出番だね、後輩ども!」
「あれは?」
「留年した彼女だよ」
「説明が今までの彼女より少なくないかい!? ……アタイは輩先だよ!」
「よろしく」
「あんたねぇ、アタイは先輩だよ? そんな舐めた態度取ってると……」
「あ?」
「だから、アタイは先輩……」
「あ?」
「せ、先ぱ「あ?」
「……へへっ、なんでもないです……っ」
「ハル」
「オーケー、扱い方は理解した」
「テキトーにワッショイしとけば大丈夫でい」
「それ言うならヨイショだろ」
「ぐー!」
「まず起きろ」
「寧夢ちゃんは寝てても動くことができるんだ」
「夢遊病の類いか……」
「ぐーぐー!」
「おれはこのハグにどう返せばいいんだ……」
「……はっ! ごめんなさい、こんな時に眠ってしまって……」
「慕ってくれてるのは理解できたが、寝てる時とテンション違い過ぎないか」
「夢の中なら理想の自分でいられるんですけど……」
「……理想の自分でなければならない理由は知らんが、今のお前自身も受け入れられてる自覚はあるか?」
「えっ?」
「誰も、今の大人しいお前さんにイラついても嘲笑ってもいないだろ。それなりの事情があるなら協力するが、無理して自分を変えたり隠したりする必要はないと思う」
「……」
「人間、素直になれないと案外人生を謳歌するのが難しいぞ。おれの体験談だし、証人はお前の彼氏だ。……まだ言葉が足りないか?」
「い、いえ……私は最近入ったばかりなので、前の春人先輩とは大分違うなって思っていたんですが……」
「今は違うのか?」
「ええ、入った直後と同じ言葉をくれたので……驚きました。春人先輩は春人先輩のままなんですね……」
「少しは救われるよ、ありがとうな」
「端須蓮葉です! 遂に私で最後ですよ!」
「やっとか……疲れたが、もう一踏ん張りするか」
「私こそ、この恋太郎ファミリーの中の名探偵! 何かあればこの名探偵にお任せ下さい!」
「蓮葉ちゃんは鼻が凄い効くんだよ」
「それは推理というより証拠のゴリ押しでは……なら、おれの匂いとかも分かるか?」
「それでは早速。すんすん……ん?」
「どうだ?」
「いえ……春人さんの匂いではあるんですが……お風呂に入りました?」
「記憶に無いから分からん」
「これは百八先生のお酒の匂いだし……春人さんの匂い、なんか薄く感じます」
「薄い?」
「なんと言えば良いんでしょう? ……汚れや雑菌、汗などの特有の臭さを感じないというか……一言で言えば……『新品』です! 身体も服も新品みたいな雰囲気を感じます! ……つまり!」
「つまり?」
「あなたは記憶が無くなる前は、念入りに風呂に入り、念入りに洗濯をして匂いを消したんです! どうですか、合ってますか!?」
「そうはならんと思うぞ」
「そ、そうですかぁ〜……」
「記憶が無くなる大事件だぞ。なんでそんな突発的な事件に前もって匂いを消せるんだ。何かある事が分かってないと無理だ。あまり現実的じゃないな」
「……ん? でも、洗ったのなら洗剤の匂いがあるはずなんですが……?」
「だが匂いの情報はお役に立ち過ぎるな。何かあれば頼ってもいいか?」
「え、えぇ!! お任せ下さい!!」
「ふうぅ〜……! 終わったぁ!! あぁーつかれたー!!」
「お疲れ様、ハル」
やっと、面接が終了した。
総勢32名。物凄い人数だ。
恋太郎のストライクゾーンも分からなくなった。結構な人数の中等部が彼女になってるし……なんでヤク婆もいるんだ。上から下まで幅が広過ぎるだろ。
とりあえず、大体顔と名前は一致させた。顔合わせの意味合いだった面談も終わったし、これでファミリー間で不都合が起きる可能性はかなり減ったはずだ。
「あの……春人ちゃん?」
「羽々里さん? まだ何かあるんすか?」
「あの……春人ちゃんの言いたいことも分かるのだけど……やっぱり、みんなちゃんと恋太郎ちゃんの事を愛しているのは一緒なの。だから……」
「そうなのだー! 勝手に恋太郎ファミリーから追放させるってんなら、やべー薬でぶち殺すのだー!」
「恋太郎ファミリーにいなくても良い人なんていないんです! だから……!」
「は?」
このおれの声は、随分と低かったと思う。
少しだけ苛つく。
その気配に一部の彼女達が、おれからみんなを守るように前に出た。
「なんでおれがお前らをどうこうする、って話になってんだ」
そんなことは一言も、たったの一言も言っていないだろうが。
「「「え?」」」
多くの彼女達が肩透かしに遭っているのも関係なしに言葉を続ける。
「あのなぁ。おれをなんだと思ってんだ。そもそもこれは恋太郎を中心とした集団だろ? おれは恋太郎のオマケなんだぞ、オマケ」
なぜ、おれにそんな権限があると思うのか。
おれなんて寿司で言うガリ、弁当で言うバラン、豪勢な食卓にちょこんと乗っかっている少しの漬け物なのだ。
確かに恋太郎ファミリーに参加したことはしたが、弁えるのは当然の話だ。だからファミリーを個人の勝手で荒らすなんて、おれにとっては以ての外となる行動だ。
「おれひとりのアレコレで追い出すワケが無いだろが。恋太郎に殺されるわ」
そう言い終わると、今度こそ彼女達は安心したようだった。
明るい雰囲気が戻り、次第に和気藹々としてくる。
恋太郎がおれに声を掛ける。
「そうだ。そういえば、俺には面接はしないの?」
「は? 一番分かりきってるだろ。お前は要らん」
「要らっ……要らないって、どういう……!?」
「何年、一緒にいたと思ってる」
「……っ」
「まだ、要るか? 言葉は」
「いや……要らないね」
気付けば夕方だ。
そろそろ、帰る時間だろう。
「では、さよならのちゅーをしたら、みんなで帰りましょう!」
なんだそれは。
夕方。
少しだけここにいると告げ、面接最後のひとりを待った。
理由なんて、一つしかない。
おれはこれから、そいつの縛られた鎖を解かなくてはならない。
実際、彼女間でおれが追放するかもしれないという流れが出来た時と一致して、様子がおかしくなっていた。
だからこそ、そいつだけは後回しにしたのだ。
『お前、居残りな。全員がいなくなった後に話がある。一旦お前の番終わりな』
『……!?』
『次は……どうせならこのまま加入順でやろう。楠莉の姉さん呼んでこい』
「よう、栄逢」
「青井春人……」
「一応、言うけど。お前だけ例外で追い出されるかも、とか不穏な事考えるなよ。彼女側の一部におれに対する恐怖? 畏怖? みたいなのがある。お前みたいな古参が不安がると中等部組は特に伝染するんだ」
「……」
「そういう石ころみたいなシコリが雪玉みたいに転がって大きくなって……ある日、致命的なタイミングでの衝突がきっと起こる。その為には、今の青井春人という人間は恐れる必要のない人間であるっていうイメージを作らなきゃならん」
優しい、というイメージをファミリーに浸透させる為には。
今の栄逢の状態は見過ごす事が出来ない。
……これが、個人的な一つ目の理由。
そして、第二の理由。
このままの栄逢を放って置けない。
記憶喪失の元凶が自分であると、栄逢は思っている。
そのまま潰れて欲しくなどない。きっと恋太郎もそう思っている。
そしてその自責は感情的なものではない。
こいつなりに客観的によく見て、正しく物事を打ち立てて。
導き出した真実が栄逢にとって最悪の事実であっただけ。
仮説を立てた。
否定材料を探した。
自分ではない理由を求めた。
だからこそ、この女は打ちのめされてしまったのだ。
おれはこれから、栄逢に巣食う負の理論武装を破壊しなければならない。
「『自分になにかあれば恋太郎は悲しむ』……聞いた事、ないか?」
栄逢の身体が、ぴくりと動いた気がした。
「……覚えている。愛城恋太郎とプールデートに行った時に花園羽香里が……」
「違う」
おれは、しっかりと言い切る。
「お前が。保健室で。……おれに対して、啖呵を切った時のセリフだ。それを引用して言ってやる」
あの時の保健室は暗かった。
手足がボロボロなおれと、後悔していたからこそ矛盾に気付いた栄逢凪乃。
満身創痍と、無意義からの変化。
それらが窓からの逆光に駆られ、二人に深い陰を落とす。
今、この屋上に影はない。
記憶が欠けたからこそ伝えるべき事に気付いた青井春人と、精神的にひび割れた彼女。
過去からの変化と、精神の摩耗。
夕焼けが世界を照らし、二人をも包み込む。
「『記憶を失くしたおれを見て、お前が悲しみ苦しむ』のなら、『苦しむお前を見て、おれが悲しむ』とは思わなかったのか!?」
「行動で示す、って! あの時、言ったよな!!」
「お前があの時啖呵を切ったのはなんだ!」
「お前がおれと一緒に戦ったのはなんだ!」
「お前が今流している涙は……なんだァ!!」
「その行動は……っ! その行動で、既にっ、認められてるって……言わねえと分からねえのか! ……このっ、馬鹿野郎!!」
「でも、私が貴方の記憶を消してしまった! 貴方の思い出を、大切な思い出……だったのに……!」
視界はとっくに滲んでいる。目の前に栄逢凪乃がいる事しか分からない。
互いに本音で叫びあう。醜く、叫ぶ。
罰してくれと、言わんばかりに。
「ごめんなさい」
その手は縋るように。
「ごめんなさい」
大切なものを零した……いや、零れさせてしまった。
「ごめんなさい……!」
「あ、あなたのっ、たいせつな、もの、をぉ……! こわしてっ、……ごめんなさい……」
栄逢凪乃は、壊れていた。
子供のように泣きじゃくった。
大切だと、分かっていたから。
未来の自分を。別世界の自分を。
他人だと、思えなかったから。
もう、分かってしまったから。
院田唐音が泣いていた。彼に隠れて泣いていた。
華暮愛々が泣いていた。彼の目の前で泣いていた。
女井戸妹が泣いていた。
才奇姫歌が泣いていた。
栄逢凪乃のせいで、記憶が消えたせいで。
栄逢は……その重みに耐えられなかった。
だから、その縋る手を取った。
だから、崩れる身体を抱き締めた。
おれが背負う。
お前の苦しみも、悲しみも。
「一つだけ、仮説を聞いてくれ……『凪乃』」
「……」
「おれだけ……記憶がおかしくなった理由だ」
これはあくまで、仮説。
だが、ひとつだけ閃いた事がある。閃いてしまった。
なら、『過去のおれが閃かない筈がない』から。
「この世界に、記憶がおかしくなった人間はおれだけだ。だから、教室のクラスメイト達も恋太郎にいつものように挨拶を返した。お前との記憶が無くなってまた戻っても変わらないくらいのいつも通りに見えた」
つまり、おれだけ特別だった。
「次に、記憶操作が行われて記憶が戻る前。凪乃が忘れられてた時、おれを見た人間が1人もいない」
何処からも情報が出て来ない。
つまり、おれの身に何か起きていた。
「最後に……引っかかったのは蓮葉の言葉だ」
『一言で言えば……新品です!』
『おやすみ、な、さい────』
「なぁ、凪乃……おれって——————
——————記憶が戻る前、死んでたんじゃないのか?」
「…………えっ?」
「一度死んだか、自分で殺したか。それで記憶が戻るショックを利用して生き返ってるんじゃないのか? おれなら、タイミングさえ分かれば……やる」
「でも、そんな事、不可能で」
「分からない。でも何があったのか調べれば、きっと分かるはずだ。記憶喪失の前におれが何をしていたのか。本当にお前の責任なのか」
「……!」
「いつか絶対、真実に辿り着いてみせる。だから……」
おれは凪乃を抱きしめながら、小さく笑った。
「助けてくれよ」
明日から、日常が始まる。
今回はKanさんの「春人と恋太郎の彼女たちが、それぞれタイマンで面談をする」という『見てみたいエピソード』を採用させていただきました!
採用おめでとうございます!
【短編小話】
『薬膳楠莉の場合』
春人「見た目は」
楠莉「子供」
春人「頭脳は」
楠莉「マッド」
春人「歩く姿は」
楠莉「トリカブト」
春人「よし、通れ」
楠莉「やったのだー♪」
蓮葉「本当にそれでいいんですか……!?」
【 楠莉は ほぼ 顔パス だった!! 】
次回もお楽しみに。