君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

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 100カノはいいぞ(先制攻撃)。

 今回からちょっとずつ、彼女達と春人の絡みが見れるようになっていくのではと思います。

 でも春人を前面に出し過ぎると、恋太郎の影が薄くなっちゃうし。
 バランスが難しいんですよね。

 みんなの魅力を良い塩梅に出していきたい。
 みんな好きになって欲しい。

 そのついででいいので、春人を好きになってくれると嬉しいです。


青い春と口先の行先

 目の前にいる艶やかな女たちがおれを見る。

 

『……実は、体が火照ってきてしまいまして……』

 

『別にあんたがその気じゃなくても、覚悟しなさい。絶対に離さないから』

 

 

 

「pipipipipi……」

 

 

 

『待てお前ら、恋太郎がいるだろ……!! なんでこっちに来るんだ!?』

 

 

 

『ごめんなさい、もう我慢が……』

 

『あんたが悪いんだからねっ、せっ、責任取りなさいよね……』

 

 

 

 二人の彼女が着ていた寝間着をするりと脱いで、おれに密着する。

 

 

 

 女の子特有の柔らかさ、魅惑的な匂いがおれの感覚を埋め尽くしたところで……。

 

 

 

「pipipipipipi、pipipipipi」

 

「……んぅぅ。あーっ……夢、でしたっと……ですよねー」

 

 

 

 夢から覚める。周りはいつも通りのおれの部屋。

 シワだらけのベッドは無意識にもがいていた事の表れで。

 

 まさか、朝から頭を抱える羽目になるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……嫌悪感、いや、罪悪感がすごい」

 

 なぜ友達の彼女寝取りルートをわざわざ朝っぱらから見なければならないのか。

 おれにそっちの趣味は無いぞ。こちとらバッドエンドは大っ嫌いなんだ。

 

 吐き気を催す邪悪とはまさしく今のおれのためにある言葉かもしれない。

 

 仮に友達の彼女ではなかったとしても、百合に挟まる男と同じレベルの害悪だ。始末に負えん。

 

 

 

「こんなに彼女に飢えていたっけか? おれって……。きっと、恋太郎達のアレソレを一日中見ていた所為だな……いやぁぁぁぁぁぁこんな夢を見るくらいなら今日はアイツらと会わずにゆっくりしたい……」

 

 

 

 告白が起こった入学式の初日。

 

 徹夜のクローバー探しでボロボロになった二日目。

 

 この二日目にあった自己紹介では恋太郎共々悪い意味で注目を集めた。

 

 

 

 ……立ちながら寝ることって、出来るんだね人間って。……この時はそう思った。

 

 

 

 そんなこんなで今日は全然疲れが抜けていない三日目の朝。残念ながら休日はまだまだ遠いので、せめて今日の負担は減らしたいものだ。

 

 

 

 減らしたい、のだが。

 

 

 

「おはようございます、青井君。一緒に行きませんか?」

 

 朝ごはん中に呼び鈴を鳴らされ、扉の前にいる花園羽香里を視認するや否や、ごはんをまとめてかき込む羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

「なんで家が分かった」

 

「すいません、軽く調べちゃいました」

 

 てへっ、と舌を出す花園に対し、呆れた顔を返す。

 

 近くだと言った覚えは確かにあるが、軽い気持ちでプライベートな情報を特定されるのは気持ちのいいものじゃないのだ。もうそんなことしないでくれ心臓に悪い。

 

 むすっとした顔を隠さずに歩いていく。

 

 

 

「そのお茶目な顔は恋太郎にしてやれよ。おれにされても何も出ないぜ?」

 

「『レン』君に、ですか?」

 

「よぉし分かった。お前いつか絶対泣かすわ。今にも拳が出そうだぜ」

 

 

 

 そのあだ名はまじでやめろ。

 

 おい、その「ぬふー」とした顔もやめろ。なんだその絶妙な顔は。ナメコみたいな顔しやがって。

 

 

 

「まぁ冗談はさておき……」

 

「その冗談でおれは多大なるダメージを受けているが???」

 

「改めて、ありがとうございます」

 

「うんっ……ああ?」

 

 

 

 道端なのにも関わらず、腰からしっかり曲げて頭を下げる花園。

 

 

 

「……まったくどれの事やら分からないな」

 

「どれも、ですよ」

 

 朗らかな笑顔を浮かべ、おれに目線をまっすぐ射貫く彼女。

 

 

 

「二人とも昨日はまともに話を聞けなさそうだったので、遅れながらの感謝ですっ」

 

「感謝されてやるよ。ありがたく思いな」

 

「お礼に手でも繋ぎましょうか? 恋太郎君がなんておっしゃるか分からないですけど」

 

「お前本当にいい性格しているよなぁ!!」

 

 

 

 堂々と目の前での浮気なんてしてみろ、アイツが許すわけないだろいい加減にしろ!!

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

「あら」「おっ?」

 

 

 

 そんなじゃれあいをしていると、もう一人の彼女に遭遇した。

 

 

 

「何してんのよあんた達」

 

「楽しいお話をしながら恋太郎君のところへ向かってます!」

 

「いじめられてる。タスケテクレ院田ァ……」

 

 

 

「あぁ、そういえば愛城との待ち合わせってこの先だったわよね」

 

「あれ? おれの決死のSOSは無視安定なの? 似たようなコト前も無かったっけ???」

 

 

 

「ええ、家の場所を軽く調べたら見つけたので間違いないですっ!」

 

「 プ ラ イ バ シ ー 侵 害 」

 

「だから軽い気持ちで特定するのはやめてやれってぇ!!」

 

 自分の頭をコツンと叩いて「てへっ」っとやっても、お前の行動はかわいくないままだぞ。

 

 今度またやらかしそうになったら全力で止めよう。

 きっとその時はリアクション的に院田も仲間だ。多分一緒にこのアホを止めてくれるはずだ。

 

 しかし思ったよりもフットワークが軽いお転婆娘だな。その行動力の源はなんなんだろうか。

 

「とにかく、もうそこの角を曲がれば恋太郎君がいますよ! 早く行きましょう!!」

「べ、別に会いたいわけじゃないけど、そろそろ学校に遅れるから急ぐわよっ!」

 

「全力で走るなこんな公道で!! って、無駄に速いなお前ら!?」

 

 訂正。二人そろって行動力の化身すぎる。

 

 

 

 そして、花園の目論見通りに恋太郎が見えてくる。

 

 見えてくるのだが。

 

 

 

「おはようございます。恋太郎君」

 

「信じられるか……!? なぁ……っ! ……この俺に人生初の彼女が出来て……!! これから夢にまで見た『彼女との登校』……!! あっ、おはよう花園さん。院田さん」

 

 

 

 おれらに見えたのは、ありえない方向に向かって喋る恋太郎の姿だった。アイツが振り返るが、時すでに遅し。

 

 

 

(いや、『あっ、おはよう』じゃないが???)

 

「あんた今電柱と喋ってなかった!?」

 

 

 

 すんでのところで堪えた甲斐も空しく、代わりに院田が即座に指摘した。院田のツッコミ属性が光る、というものだな。

 

 おれなら、もうあきらめて受け流しちゃうぞ。

 

 

 

「おはようさん。相変わらずの奇行だな。せっかく彼女出来たんだ、その妙な素っ頓狂も少しは改めていけよ」

 

「彼女ができたらハルも気持ちが分かるよ」

 

「おっ、なんだ調子に乗りやがって。ケンカか?」

 

「今の俺は彼女がいるから無敵だぞ」

 

「彼女を便利アイテム扱いするな」

 

 

 

 こうして、おれ達四人組は学校に登校する。

 

 本来なら、おれは三人とは違って直接待ち合わせしたわけではなかったから一人で登校したかったのだが……それで花園が気を利かせてしまったのだろうと考えた。普通は彼氏との時間を大事にしたいはずなのに、感謝を伝えるためにしては少々律儀すぎじゃないか?

 

「今日はっ。いいお天気ですね」

 

 

 

 そういって、恋太郎に寄りかかる花園。

 花園が近づいた途端、恋太郎が大きく肩が跳ねる。

 

 

 

 あっ。手をつないでる。そういうことか。

 

 

 

 おれは察した。こいつら、目の前でいちゃついてやがる。

 

 二人そろって赤くしている二人を見て、妙な微笑ましさを感じたが、白昼堂々とすぐやるじゃん。もう少し周りを慮れ。

 

 

 

 ということは。

 

「……っ」

 

 

 

 院田。めっっちゃ言おうか悩んでる。自分もやりたいって顔してるっ。わっかりやすぅ。

 

 そうだよな。お前も手、繋ぎたいんだよな。

 

 

 

「……っ?」

 

「……(ニヤニヤ)」

 

「……!?」

 

「……ホラ、ハヤク」

 

 

 

 おれの嫌味なくらいのニヤケ顔が、目を反らした院田の目の前にある。

 

 驚く院田に構わず肩を指で押していく。

 

 

 

 どうせなら、お前もご相伴にあずかれ。

 

 

 

 しばらく悶える院田だが、そんな様子に愛おしさすら覚える。

 幸せの中でもじもじしてる様子ってのは、見ているだけで健康になる。少なくとも、おれはなる。じっと院田を凝視し続けていたら、右の腿を叩かれた。

 

 恥ずかしさで俺に当たるなよ、あっはっは。

 てか、当たった太腿がどちゃくそ痛い。あれ、骨でも折れた???

 

 

 

「院田さんも繋ご……!」

「~~~~~~~っ!!!!」

 

 院田、憤死。RIP(安らかに眠れ)

 手でにやける口を抑えても真っ赤な顔は隠し切れていないからバレバレだ。

 

 

 

 後ろで声を抑えて大爆笑待ったなし。

 

 ツンデレ照れ顔百面相が面白すぎる。院田に気づかれたのか、肘で軽く小突かれる。

 

 

 小突……っ。えっ? あばら何本かイカれたのかってくらいめちゃくちゃ痛いっす。あれ、もしかして命に関わってる???

 

 

 

「ふ……ふん……! き、気乗りしないけど、静電気が来た時あんたも巻き添えにしてやりたいから繋いでて上げるわよっ!」

 

「ツンデレならぬビリデレだぁ」

 

「ビリデレ? ゴリデレの間違いだろ」

 

 

 

 もちろん、ゴリは『ゴリラ』の略である。

 

 

 

 院田の拳が音もなく、おれの顎を掠める。

 顎からの衝撃により脳みそは頭蓋骨の内側をシェイクしているかのように飛び回り、重度の脳震盪を引き起こす。

 

「きゃぴぇっ」(←ダメージボイス)

 

 傍から見れば一瞬の硬直。

 意地で無理やり覚醒し、転倒は防いだがしばらく足が震えてまともに歩けない。

 

 攻撃から復帰までの一秒未満。すべて恋太郎が見ていないわずかな時間に行われた。

 

 

 

 要約。死にかけた。

 

 

 

「ほんといい天気なんだからまったく……!!」

「ああいい天気……」

「本当にいいお天気ですね」

「全くもっていい天気だなぁ」

 

 

 

(ああもうなんなのよこいつ!! 好き!! 大好き!!)

(今生まれてきて一番幸せ……! 二人ともありがとう大好き……!!)

(好き……! 好き……! 好き好きすき大好き……!!)

( ※ 脳震盪により思考回路に障害発生 )

 

 

 

 その近くを通った通行人のおばあさんに、

 

「最近の高校生はやたらと天気に関心があるんじゃのう」

 

 と、随分と不思議がられた。

 

 

 

 

「そういえば花園さん院田さん、今日の授業……」

 

 

 

 と、恋太郎が話題を切り出そうとして、詰まる。

 

 後ろから様子を見ると、花園の思案顔が気になったらしい。花園は花園で気になることがあるのか何か考えている。

 

「どうかした……? 花園さん」

 

 おれと院田が反対側から覗いていると、こちらに向く花園。そして……。

 

 

 

「いえ、その……。名前で呼んでくれたら嬉しいなって……♡」

 

 

 

「えっ……、羽香里?」

 

「そうですけど、貴女じゃないです」

 

「これでいいのかHA☆KA☆RIさん」

 

「貴方でもないです。なんでそんなふざけた呼び方なんですか!?」

 

 

 

「はっ。そう簡単に名前呼びなんてさせるもんかよ!」

 

「は……羽香里さん」

「はい……恋太郎君♡」

 

 

 

「一瞬で破られたわ」

 

「あんたの恋の壁、暖簾よりもペラペラよね」

 

 

 

「「~~~~~~っ!!♡」」

 

 

 

 なんか悶絶してらっしゃる。恋太郎と花園がお互いに口元を抑えながら目を背けあい、その顔はどちらも真っ赤である。

 

「れっ、恋太郎っ!!」

 

「はいっ!!」

 

「べっ、べべ別にあんたの事じゃないわよっ!!」

 

「じゃあ誰!?」

 

 

 

「もしかして……おれ……!?」

 

「お前ではないだろ!!」

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

「……唐音」

 

「~~~~~~っ!!♡♡♡」

 

 

 

 真っ赤、三人目。

 

 

 

 慌てた様子で花園が「わ、私も呼び捨てがいいですっ!!」と詰め寄ると、恋太郎は応える。

 

 ほぼほぼおれをいないものとして空間が形成されている。

 誘われた割には、中々のはぶられっぷりに面白くない顔をする。

 

 さっきから茶々を入れてはいるが、話の中心は三人だ。どうして俺を混ぜたコンニャロ。

 

 

 

 ここは色ボケが悪化する前になんとかしよう。学校でもこのテンションならさすがについていけん。

 

「はいはい、恋太郎も花園も院田もいい加減にしろ。もうすぐ着くのに、恥ずかしいことしてちゃダメだろうよ」

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 そういうと途端に静かになる三人。

 しかし様子がおかしい。おれの言うことを素直に聞いた、というよりは目を見開いておれを注視していた。

 

「俺のこと、なんて呼んだ……?」

「……? れ、恋太郎だろ?」

 

「私は……?」

「花園」

 

「じゃあ私は?」

「院田」

 

 

 

「春人さんも名前でいいですよ? 私も呼ばせてもらいますし」

 

「ありがとうな、花園」

 

「むっ」

 

 

 

「仕方ないから呼ばせてあげるわよっ、感謝しなさいよねっ!」

 

「 院 田 ァ ! ! 」

 

「きゃあああびっくりした!? 大きな声で叫ぶんじゃないわよ!! というか名前でいいって言ってんの!!」

 

 

 

「ハル、そんな意地悪しなくても……」

 

「いいや、これはおれなりの区別だよ。友達ってのは認めてるが、それ以前の話でお前の彼女だからな。一定の線引きはさせておくれや」

 

 

 

 これだけは自分としては譲れない。

 おれは立場的には、彼女達にとっての『彼氏の友人』なのだ。直接的な関係とは言えない以上、勝手に近づいてるような立ち回りををするのはどうなんだろう、と一歩引くべきなのではないかと考えている。あくまで中心は恋太郎。その辺りをこじらせると後々良くない……と思う。

 

 まぁ、恋太郎越しではなくちゃんと友達として仲を深められたら……その時はちゃんと呼ぶことにしようかな。

 

 

 

「気にしなくていいのに……」

「妙なところで固いですね」

「ハルらしいっちゃらしいけど……」

 

「おれの個人的な感情の話で悪いけどな。変えるつもりはないから諦めてくれ」

 

 そう言って締める。

 側には既に高校の正門がある。そろそろ登校の時間は終わりだ。

 

 今日からまともな学校生活が始まる予感がする。

 

 

 

 

 

 下駄箱で靴を入れ替える。

 

「ん?」

 

 正確には、入れ替えようとした。

 

 

 

「なんだこれ……本?」

 

 おれの上履きの上にものが置いてある。

 

 一昔前なら、この中にメッセージが挟んであったり文章の中にマークされていたり。

 そんな感じのラブレターならまぁ、ありえるのかな。

 

 ……。

 

 …………。

 

(まっっっったく心当たりがない)

 

 誰だ、入れたの。

 

 

 

 昨日のおれってなにかしたっけ?

 眠すぎて……てか、実際ほとんど寝ていたからクラスメイトはおろか、恋太郎達ともまともに会話していない。自己紹介をオリエンテーションでしていた時には半死だったしなぁ。

 

 やっぱ徹夜でクローバー探したのが悪い方向に影響しているな。どっかで好印象になるよう挽回しなければ。

 

「とりあえず、この本は調べてみるか。本当におれ宛かもしれないし、違ったら持ち主探してちゃちゃっと返そうかね」

 

 

 

 一人である程度まとまったところで、先に履き替えていたであろう三人の下へ向かう。

 

 明らかに様子がおかしいが何かあったのだろうか。

 

 

 

「恋太郎、どうした? さっさと教室行けばいいのに」

 

「ああ、ごめんね。向こうで妖怪がディープキスしてて引いてた」

 

 

 

「おれそんな言い訳初めて聞いたよ」

 

 

 

「まだやってるよ、ほら」

 

「見せんでいい。……うわぁ」

 

 

 

 確かあれは教頭先生……が、男子生徒に覆いかぶさって蹂躙しているところだった。

 下敷きにされている生徒がビクンビクンと全身を痙攣させている光景を……いや直視できん。なんだこの地獄。

 

 世の中には、まだ知らないことがたくさんあるとは言うが……。

 絶対に目の前の妖怪ババァによる拷問は知らなくていいことだと思う。早くクビにしてくれ。

 

 

 

 後ろの彼女達はディープキスに何かを感じたのか、随分と静かだ。おれと恋太郎は教頭先生のあまりの衝撃に、ドヨンとした重たい空気を感じながら教室に向かう。

 

 

 

 そのすれ違いざまに本を探しに来たと思われる少女に、おれは気づくことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

『そなたは何故、口をお開きにならないのか』

 

〝彼女は人との会話が何より不得手だった〟

 

 いつからか、私は。

 

 その本に出てくる必然の出会いが、私の最もよく見た場面となっていた。

 

 

 

 騎士カマクルとイオ姫の初めての出会い。

 気づけばその二人の関係に、美しさに。

 

 焦がれるようになっていった。

 

 最新まで揃えてあるその作品の中でも、最初の一巻だけは特に特別なものとなっていた。

 大好きすぎて……何度も私を救ってくれたその本に報いるように、私は一巻に収録されている全ての文章を暗記できた。

 

 本をめくり、文章に指を当てる。

 

 それが、声を出さない私の。

 

 今、出来るただ一つの会話の方法となっていた。

 

 

 

 だから、その本をほんの一瞬でも放してしまったことに気づいて戦慄したのは、当然。

 

 靴を履き替えた時にでもどこかに置いたのだろうか。しかし下駄箱の方に探しに行っても見当たらない。

 

 

 

 でも、朝礼が始まる前にその本は見つけることが出来た。

 

 

 

 

 

 隣に居る……隣の席の男の子の手の中に。

 

 私、好本静の大事にしている『王冠恋物語』が握られていたから。

 

 

 

「やっぱ……パラパラめくってもなんも出てこないなぁ。おれ宛のラブレターって線は無さそうかぁ? ……もうちょっといろいろ探るか」

 

 …………そなたは一体何を言っているのか。

 

 

 

 状況を整理すれば、私が何処かへ忘れてしまっていた本を隣の男の子がいろんな角度から確認している。そう、確認している。

 

 読んでいる。とは確実に思えない行動を、思いつく限りやっているかのような。そんな行動ばかりしている。

 

 

 

 例えば。

 

 唐突に本のカバーをひん剥いて、元に戻す。

 

 パラパラとページをめくり、速読する訳でもなく最後までめくりきる。

 

 最後には、本編を読むより先に後書きの方に手を伸ばして読んでいた。

 

 

 

 ……いや、本当に分からない。

 

 

 

 私の本を無闇に汚す様子はないが、そのままにする気もないのは確実に分かる。

 授業が始まった同時にやっと、彼は机に私の本を置いたから。彼は私の視線に気づくことはなかった。

 

 

 

 授業が始まって暫く。

 彼の名前はなんだったかと過ぎり、頑張って思い出す。

 

 

 

 昨日の自己紹介。

 隣の男の子の番は中々に印象的だった。かも。

 

 

 

「青井春人……です……えっと、中学は…………Zzz…………」

 

「青井ー。自己紹介中に寝るなー」

 

「……はっ!? 彼女、いないんですか!?」

 

「そんな事言ってないし聞いてもないぞ!? まったく、じゃあ次の生徒ー」

 

 

 

 先生とのそんなやり取りしていたことを思い出す。

 入学早々眠そうにしていたし、青井くんの制服の内側や髪の毛には雑草が見え隠れしていた。

 

 その時の私は「なんでこんなボロボロになっているんだろう」とか考えていたと思う。

 

 

 

 きっと普通の事ではない何かを、誰かのために頑張れる人なのかな。

 

 

 

 そのぐらい。

 それ以外の目立ったところは……彼が寝ていたために特になかった。

 

 寝てたりと粗雑なところもあるけど、不思議と暖かくも爽やかな。

 

 穏やかではないけど優しい春風。そんな人。

 

 青井春人という名前をそのまま表したかのような男の子は、どこか孤独を感じさせる背中を持っているように感じた。

 

 

 

 でもちょっと話すのは怖い。

 

 普通の男子だけど、いや『普通』だからこそ心臓がきゅっとなる。

 

 

 

 私は普通じゃない。

 青井君とはまともに喋ったこともない。

 私はまともに喋る事も出来ない。

 

 本当に優しいかなんて近づかなければ分からない。でも近づきたくない。

 

 

 

 ……怖いんだ。

 

 

 

 傷つくくらいなら、最初から関わらないほうがいい。

 そう思ってしまう自分が悲しいけれど。きっと傷つくのは変わらないから。

 

 

 

 

 だけど、私の本と隣の青井君に関わらないこと。

 その二つのうち、どっちを取るかと言われれば。

 

 小さな拳を握る。

 

 

 

 大事なものは、絶対に見捨てたくない。

 

 私は静かに心を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間目。

 おれはノートに板書を写しながらこの本について考える。

 

 誰のものか分からない『王冠恋物語』と書かれた小説は、何を意図して俺の下駄箱に置かれたか。

 

 

 

 解、其の一。

 おれへのラブレター。またはそのための待ち合わせを示唆するためのもの。

 

 解、其の二。

 この本の魅力を伝えるために置いて行った。

 

 解、其の三。

 普通に忘れて置いていった。

 

 

 

 ホームルームから授業が始まるまでは一番目かとおれは考えていた。

 

 もし、おれに気がある。というのなら何かしらの手がかりを残しているはず。

 拾ったときに考えていた、文字のマーキングやメモを挟む等の行為だな。

 

 そういったものが隠れていないか調べまくった。

 

 

 

 結果、見つけられず。

 悲しき哉、おれが好きだという女の子がお近づきになったわけではなさそうだ。

 

 

 

 まぁよく考えたら、よ。

 可能性はないわけではないんだけど、そもそも入学してすぐアタックしてくる女子が現れる確率なんてほぼほぼ無いに等しい。

 

 要するに時期を考えれば絶望的なんだよな。勝手に舞い上がって損した。

 

 

 

 次。

 魅力を伝えるため……こんな雑な布教することある???

 

「さすがにもっとやり方あるだろ……おれがもし全く興味なかったら捨てる可能性だってあったし。なのに中々いい値段しそうなこんな本を下駄箱に乗っけるか??」

 

 

 

 小さな独り言をこっそり呟く。授業中だからね。

 

 先生には聞こえていなかったようだが…………隣で何かが大きく動いた。

 

 

 

「?」

 

「……っ(さっ)」

 

 

 

 振り向くと、お隣さんの後頭部が見える。

 

 なんだ気のせいか。でもなんかぷるぷるしてる。

 

 

 

(……見られてると思ったが……寝ぼけてどっかぶつけたのかな?)

 

(今、捨てるって言ったよね!? どうしよう!? は、早く返してもらわないと!!)

 

 

 

 ふと、右腕に触られる感覚がした。

 

 つん、っと指でつつかれるような。指よりも細い何かでされたような。

 

 

 

 振り向くと、お隣さんの後頭部が見える。

 

 なんだ気のせい…………じゃないな!?

 

 

 

(こいつ、なんかやってるな!? さっきからなんでおれはコイツの頭の後ろしか見えねぇんだよ!? 黒板は横にはねぇだろ前向けや!!)

 

(ダメ……っ! 何か申し訳なくなっちゃって見ないふりしちゃうよぉ……!!)

 

 

 

 チラッ、とお隣さんがこっちをゆっくり振り返る。

 

 きっと、こちらが授業に集中した頃だと思ったのだろう。

 

 

 

 だから、おれの完全に威嚇するための表情を前に思いっきり肩を震わせることになった。

 

 

 

「…………っ!!!!??」

 

「よう。なんか用か、ああ?」

 

「…………ぁ、…………ぅ!!」

 

 

 

 即効、涙目になっていく隣の女の子。

 

 しかし、意を決したように目を見開くと。

 

 

 

 彼女は片手を、おれの前に出した。

 

 

 

 小さな女の子が勇気を込めて差し出した手。つまりその手が意味するのは。

 

(まさか…………そういうことか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その女の子の手に、消しゴムが握られた。

 

 

 

「忘れ物には、気をつけろよ」

 

( ち が う ! ! )

 

 

 

 大きく肩を落とす女の子の様子に、おれはまったく理解ができない。

 

 …………もしかして、間違った???

 

 

 

 今度は何回かつんつんとつつかれる。

 

 もう一度差し出される手のひら。

 ついでに、消しゴムは返してくれた。

 

 

 

(消しゴムじゃない。かつ、このタイミングで要求されるもの…………ということは……そうか分かったぞ!)

 

 

 

 

 

 

 

 その女の子の手に、おれの手が握られた。

 

「これから、よろしくな!」

 

(仲良くはしたいけどソウジャナイ!!)

 

 

 

 明らかに握手ではなかったらしいがちゃんと応じてくれた。

 

 彼女が求めていることがイマイチわからないが、変ないたずら……というわけでもないその振る舞いに益々分からなくなる。

 

 

 

 結局、本と彼女がおれの中で繋がることはなく、一時間目の授業が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間。

 早速お隣さんに先程の意図と目的を聞きに話しかけようとして。

 

 それよりも先に必死な二人に連行されることになる。

 

 

 

「なぁ、さっきの一体……ってウハァ!?」

 

「春人さん、ちょっとお聞きしたいことが!」

「早くツラァかしなさいよねっ!」

 

「そんなヤンキーみたいな連行のしかたがあるかぁ…………!」

 

 

 

 閃光のごとく遠くに消えていくおれに、同じく会話するつもりだったお隣さんは固まったまま、見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 ところ変わって、廊下のすこし教室から離れた場所。

 

「恋太郎君のファーストキスって、まだですか?」

 

「そんなことのためにおれを誘拐したの? えっ? マジで?」

 

「早く答えなさいよっ! こっちにとっては大事なことなんだからっ!!」

 

「あー、確か罰ゲームでおれと…………」

 

 

 

「「はっ???」」

「ひっ」

 

「詳しく……説明してください。私は今、冷静さを欠こうとしています」

 

「ちゃんと本当のことを言わないと……指って20本も要らないと思うのよ」

 

 

 

「嘘ですホントに申し訳ゴザイマセンデシタァ!!!」

 

 

 

 花園と院田に連れ去られた後に聞かれたのは、愛しの恋太郎のファーストキスについて。

 

 微かな冗談でバイオレンスになる二人に心底驚愕したが、なんとなくその様子で察した。

 

 

 

「お前らあれか。まさかどっちが最初にするかでモメてんのか」

 

「べ、べべべべつつtttつににににに…………!!!」

「そんな訳……って、あなたといると隠し事もできませんよ!!」

 

「いや隠す気があってもバレバレだろうが」

 

 

 

 大きくため息を吐く。

 恋に生きる、って感じで微笑ましくなるが……多分、おれにはどうしようもできない問題だな。

 

「はぁ〜。おとなしく、恋太郎に直接言いに行け。あいつなら案外そこらへんも考えてるはずだぜ?」

 

「本当ですか? なんでそう言い切れるんですか?」

 

「アイツの友達だから。……アイツは恋人として成立する前から100通りのデートを考える男だぞ。それを振られる瞬間までおれに聞かせ続けたからよぉ~く分かる。まっ、お前らもしばらくすりゃ分かる。あいつを信じな」

 

「…………流石に災難ね」

 

「ドン引きしてやるなよ……。そんな犬も食わないことをするのがお前らの彼氏だ。きっとこれからも退屈はしないぜ、保証する」

 

 

 

 そういって、教室に戻ろうとする。

 

 

 

「春人さんっ!……昼休み、一緒に食べませんか?」

 

 歩くのを止めた。

 

 花園に院田が続く。

 

「別にあんたがいないと寂しいわけじゃないけど……。一人で食べるよりはマシでしょ」

 

 

 

 

 

「ありがとな。でもわりっ、やることがあるからパス。頑張って早く済ませるから、その後の……そうだな、明日にでも誘ってくれ」

 

 

 

 振り向いて笑顔で返す。が、その表情が純粋な嬉しさから出来ているのかはおれにはまだ分からない。

 

 だけどきっと、いつかこの含みのある顔を無くしたいけど。でも多分それは今じゃない。

 

 

 

 やることがあるのも事実。そう思ってこの場を後にする。

 

 うん。今日はゆっくりしたいんだ。勘弁な。

 

 

 

 ……さて、差出人不明の小説をどうするか。

 

 おれは隣に居た少女を見定め、思考を巡らした。




『彼女達と春人の絡みが見れる(今、彼女だとは言ってない)』回でした。

 原作時系列から考えると先出しになってしまっている好本静ちゃんが参戦です。

 恋太郎が彼女と出会い、一目惚れする。

 その過程をこなすのは実は春人だけが動く場合、後からでも出来ることに気付いたので今回は春人と静ちゃん初対面回になります。

 でも残念、後半に続くんじゃ!!
 次回もお楽しみに!
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