君だけが大好きなただ一人の友   作:夢見 双月

6 / 24
おれと私と秘密の相談

「少し、お話いいですか?」

 

「本当に少しか? おれはこれから友達オススメの恋愛小説を買いに行きたくて仕方ないんだが???」

 

 花園にしては珍しく恋太郎から離れて下校したと思ったら、これだ。

 

 

 

 おれこと、青井春人は今日も今日とて長めのため息を出してしまった。さらば平和。

 

 

 

 

 

 家が同じ方向だという理由とは別の意図がある、とは思っていた。

 

 本当なら、院田と共に恋太郎と帰りたかったのだろう。そんな雰囲気がありありと見える。

 

 

 

 それでも彼女……花園がおれと一緒に帰りたいと願ったのは。

 

 

 

 なんとなく、厄介ごとな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『協力』だぁ?」

 

「はい」

 

 まぁいいぜ、と相談を了承し、いつかの公園に二人で佇む。

 

 

 

 その後に花園の口から出たのが「協力してほしい」という言葉だ。

 

 

 

「……」

 

 当然。何についてかも何も分からない状態で協力を申し込まれているわけで。

 

 

 

 しばしの思案。

 

 少なくとも、彼氏である恋太郎は頼れない案件なのだろう。そうでなければ、まず恋太郎に相談してから、恋太郎を介しておれへの協力要請が飛んでくる、はず。つまりおれとは間接的に頼る形になるはずだ。そうではなく直接、ということはそういうことだ。

 

 

 

 それでも、純粋なお願いなら聞くのもやぶさかではないのだが。

 

 ただ、この花園という女。

 結構策謀を巡らせるタイプ故に、回りくどいやり方で恋太郎からの甘い汁を啜りたがる傾向がある。

 

 比較的わずかな時間しか花園と接していなくても気付くし分かりやすい。こいつは自分の下心に割と素直である。

 

 

 

 例えば。以前なら登校の時に恋太郎と手をつなぐ。体を寄せる。苗字でなく名前で呼ぶ。

 

 これらの基本的な『押せ押せ』ならまだいい方で、何かと自分の豊胸を意識させる体勢を取っていたり、告白前のリベンジと言わんばかりに間接キスを狙っていたり、どこで撮ったかもわからない自身のブロマイドを恋太郎に送り付けているのだ。

 

 傍から見れば胸やけ待ったなしである。……胸だけに。

 

 

 

 そんな感じで中々にスケベなこの女、おれを利用して恋太郎のムフフなアイテムを手に入れるハラではないかとおれは疑ったのだ。

 

 

 

(ただ……なぁ)

 

 そういった比較的簡単な提案なら、恋太郎以外に対してであっても食い気味に……いや積極的に意見をぶつけてくるような気がするのだ。花園は。

 

 

 

『唐音さん、春人さん。恋太郎君の恋太郎君を覗きたいので……混浴できるいい温泉知りませんか?』

 

 ……うん、マジでありそう。覗くどころかガン見しそうだし。

 

 

 

 しかし、今の雰囲気はそんなふざけた予想とは一転して静かなものとなっている。それどころか、鈍いおれが感じ取れるくらいには空気が重たい。それはまるで。

 

 

 

(……告白前の、あの光景の焼き直しみたいだ)

 

 

 

 ああ。そういえばこの公園だった。

 

 あの時の涙は、忘れられない。

 

 目を開いてあの涙を見た訳でもないのに、身体が疼く。

 

 

 

 おれの隣で座っている花園羽香里は、あの告白前を幻視させるような沈痛な面持ちでおれの言葉を待っているのだ。

 

 

 

 そんなのに大した事情も聞かずに『NO』と突っぱねることなんて出来るわけもなく。

 

「ワケを聞かせろ。話はそれからだ」

 

 

 

 そう返答する。

 せめて、悪いニュースではないと信じて。

 

 

 

 だが、語られた内容は当然良いニュースではない。悪いニュースでもなかったが、しかしこのまま放置すれば最悪に成り得る爆弾でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「私のお母様が……恋太郎君にもし会ってしまったとき、どう動くか分からないんです。……最悪のケースも考えられるほどに」

 

「お母様、ね。……結構なお偉いさんなのか?」

 

「いいえ。でも、富裕層の部類に当たるぐらいの家です。その気になれば、財力で数十人は動かせるくらいの」

 

 重く綴られる花園の言葉。

 

 その表情が示すのはその力が自分たちに向けられるか、の懸念。

 

「もし二股という恋太郎君の状況がストレートに伝わってしまえば、お母様が私を離そうと考える可能性も捨てきれません。ですから、その前に手を打っておきたいんです。恋太郎君が誠実な方であるとあらかじめ分かっていれば。……二股でもちゃんと愛してくれていると知ってくれれば、お母様も理解してくれるはずなんです」

 

 

 

 花園がこちらを見る。

 

 その顔も見覚えがある。

 

 

 

 あの時の、恋に生きる覚悟を決めた女の顔だ。

 

 

 

「助けてくださいませんか。春人さん」

 

 

 

 空を見上げて、額に手を当てる。きっと今のおれは近年稀に見る苦しい顔になっていることだろう。

 

 ああ、手間のかかる。お前らの彼氏も。お前らも。

 

 

 

「理解してくれる、ってのは楽観的すぎるぞ。その辺りちゃんと分かってんのか」

 

「はい。……でも、何もしないわけにはいきません」

 

 

 

「かえって、辛い結末になるかもしれないんだぞ」

 

「そうならないために、春人さんが協力してくれるんですよね?」

 

 

 

 

 

「くそっ、言っても止まらねぇんじゃねぇか」

 

 気づけば、口角を上げてそんな悪態を吐いていた。

 

 

 

「ええ、恋太郎君の彼女ですから!」

 

 花園はにこやかに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「ならもうしゃあねぇ。止まらないなら……出来る限りの協力は任されてやるよ」

 

 

 

 結局、根負けする形でおれが折れた。

 

 

 

 

 

「……っつってもノープランだ、一回持ち帰らせてくれ」

 

「はい。私だけではどうにもならないですが、二人なら取れる行動も色々選択肢が増えると思います。まずはその中から有効な手を探していきましょう」

 

「…………ちなみに、恋太郎と院田を頼らなかった理由は?」

 

 

 

「恋太郎君は今回、この問題の中心とも言える人です。下手に動いて失敗した時、お母様のとる行動がより過激になるのを警戒してのことです」

 

 

 

「なるほど、理解できる根拠だ。…………院田は?」

 

 

 

「……………………とりあえず、不向きとだけ言っておきます」

 

 

 

 なんか、気温が一瞬低くなったぞ。花園ってそんな顔出来るんだな。

 

「オーケー、分かったからその見下げた顔をするな。まるで『院田は今回役立たず』って言ってるようなもんだぞ」

 

「じゃあ明言します。唐音さんは今回役立たずです」

 

「あいつマジでなにやらかしたらそんな評価になるの???」

 

 

 

 言うかどうか迷って、やっぱり宣言するほどのことをやらかしているであろう院田に、どこか不憫を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 まったく、花園も心配し過ぎだ。院田だって大事な話と分かっているはずだし、そうそうおかしなポカなんて起こすはずないだろうに。

 

 

 

 

 

『べっ、別に二股男との交際を認めてほしくて暗躍してたわけじゃないんだからねっ!!』

 

 

 

 ……あっ、ダメだわコレ。

 

 内なるイマジナリー院田に軽くシミュレートして任せてみたけど、院田はこれに関わらせたらダメだ。即刻、ブチギレ母上による磔の獄門になりかねん。

 

 

 

『なんでよっ!!?』

 

 

 心の中にいる院田からの叫びが、公園に空しく響いた。…………気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 昼休みにおれ達は図書室へ向かっていた。

 

 

 

「図書館に用事って?」

 

「ちょっとお料理の本を探してみようかと」

 

 恋太郎の疑問に花園が返す。

 

「この間の玉子焼きを喜んでもらえたので、恋太郎君のためにもっといろいろ作ってみたいなって……」

 

 

 

 恋太郎が「トオトイ……」と顔を押さえて悶えているが、花園の顔は意図的に目をウルウルとさせている。確実に「喜んでもらえる」と踏んでの行動だろう。

 

 さすが花園、あざとい。

 

 

 

「き、奇遇ねっ。私もちょうど最近料理のこと調べようかなって思ってたのよねっ!」

 

 

 

「……」

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

「べっ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!!!!」

 

「何も言ってないよ!」

「何と戦ってんだお前は」

 

 

 

 院田によるいつものツンデレ芸をスルーして料理本を探していく。おれは読む本は買ってから読む派なので、今回はみんなの読みたい本を探していこうか。

 

 ついでに、昨日相談された例の件。あれを花園と二人になれるタイミングで話せればいいが。

 

 

「俺も探すの手伝おうか」

 

「いえいえ、何を作るか楽しみに待っていてください♡」

 

 

 

 なるほど、そうやって恋太郎を遠ざけるのか。

 

 ……もしかして今回の誘い自体、そこまで仕組んでいるとしたら花園は相当の策士だ。本に熱中した隙におれ達二人は作戦会議。これなら近くにいないことを不審がられることもなく、ある程度の時間を稼ぐことが出来る。

 

 ならば、より離れやすくするためにもおれからも助け船を出そう。

 

「お前もたまには自分のための良さげな本を探して来い。最近なんか彼女のことしか考えてねぇんじゃねぇの?」

 

 

 

「うん、昨日もデートコースを1000通り考えてたら、いい時間になっちゃって……」

 

「それは桁がおかしい」

 

 もういい、と恋太郎を蹴るように送り出す。

 

 まったく、いつでも彼女のために何かしようとするのは本当に変わらないな。それでいて案外自分の事もこなせられるのだから、実は恋太郎ってその辺り器用なんだよな。

 

 

 

 

 

 さて恋太郎も行ったし、おれらは院田から離れて作戦会議をするぞ。なぁっ、花園!

 

「へー、なになに。恋人の胃袋を掴む料理集……」

 

「あっ、ちょっと唐音さん!」

 

 ん?

 

 

 

「私にも見せてくださいよ!」

 

 あっ、あのっ、花園さん?

 

 

 

「引っぱんないでよ、私が先に取ったのよっ!!」

「いいじゃないですか見せるくらい!!」

「他の見なさいよっ!!!」

 

 え、えぇ~……。

 

 

 

 普通に料理本漁りたかっただけじゃねぇか。

 

 お前を買い被りすぎたわ。くそっ、バーカバーカ。

 

 

 

 結局、この後おれは何とか話題を振るタイミングを見計らっていたのだが、ついに割り込めず。

 このまま昼休みを棒に振る結果となった。

 

 

 

 

 

 

「ああっ!?」

 

「何が『ああっ』だよお前。おれのアイコンタクトだけじゃなく何もかも気づかなかったクセによ」

 

「私の視界の隅でてっきり笑わせるために踊りだしたのかと……」

 

「だとしてもあそこまで院田にバレないようにやるかね??? あとおれのジェスチャーをネタ扱いするなこの⭐︎タ⭐︎ワ⭐︎ケ⭐︎がァ!」

 

 

 

 学校が終わった後、少しの間屋上で過ごし始めたおれ達四人は…………まぁイチャイチャしたり、おれがそれを揶揄したりする憩いの場のようなものになっているのだが。

 

 この会話は、そこから抜け出して飲み物を買いに行く途中でのことだ。何気ない会話から繋げて、花園を誘き寄せたのだ。

 

 

 

「確かに、作戦会議をしようにも四人で集まることが多いですしね。何とかいい方法はないモノでしょうか?」

 

「恋太郎が何か用事を見つけて、そっちに専念してくれれば手っ取り早いんだけどな。……あいつにあの本でも渡してみるか」

 

「あの本?」

 

「あーいや、気にしないでいい。ただのおれの趣味だ。あわよくば布教、ってな。……恋愛小説だが、今度読んでみるか?」

 

「いえ、またの機会で。折角いろいろと考えてくださっているのに、自分だけ暇を持て余すのはさすがに……」

 

「よく言った。んじゃあ早速で悪いが、一旦の方針をあらかじめ軽く決め……」

 

 本人も乗り気になり、おれも本題を出していこうとしたところで。

 

 

 

 

 

「羽香里ー! 春人ー! ちょっといいー!?」

 

「 て め ぇ 院 田 ァ ! ! 」

 

 

 

 これ以上ないベストタイミングの妨害が来た。

 

 

 

「ぎゃあ!? ちょっとびっくりさせんじゃないわよ!?」

 

「うるせぇ! 大事な話をしたいパーフェクトなタイミングで邪魔してきやがって!! そのほっぺたが垂れるまで伸ばし続けてやろうか!?」

 

「 私 が 何 を し た っ て ん だ 」

 

 

 

「まったく……一体どうしたんですか?」

 

「いや、例の料理本を借りに行きたいんだけど、貸出カードの発行に一週間かかるらしくて。あんた達は持ってないか確認しに来たのよ」

 

「まだ土日休みも来てないんですよ? 「おらっ、これでいいか?」 入学したての私たちが持ってるわけ……えっ」

 

 

 

 

「「えっ」」

 

「えっ?」

 

 ここにいる三人の声が異口同音で揃う。

 

 なんかおかしなことでもあったか?

 

 

 

「だって普通初日に作らない? 発行は先着順で、かつ入学式に発行を届け出る奴は非常に少ないとかで狙い目なのは自明の理。そんなわけで早めにゲットしました~パチパチ。……今日のお昼にもらったばかりの出来立てホヤホヤです、イェイ」

 

「い、いつの間に……」

 

「春人っ、あんた本当に用意がいいわね。……ってか用意良すぎない? あんた借りて読む気ないんでしょ?」

 

「そうだよっ?」

 

 驚く二人の顔を見て、わざとらしくニヤケながら言葉を続ける。

 

 たまにはどや顔もさせてもらおう。

 

「ふっ、おれがどれだけ恋太郎の突飛なアイデアに対応してきたと思ってんだぁ? アイツの無茶ぶりに『今から準備しますぅ』は悪手なんだぜぇ、このクソ雑魚恋愛少女共がぁ!! はっはぁー! 実力の差を思い知ったかバ~カ~めぇっ!! まっ、付き合って数日なら仕方ないっかなァ↑↑ へへっァ」

 

 

 

 

 

 この台詞を吐いてしばらく、飲み物を買いに行った前後の記憶がない。

 

 多分何かされたのだろうが、とりあえず院田が大事そうに料理本を抱えていたのは覚えてる。返却はおれがやらないといけなくなりそうだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「ハルごめん、文字を音声に変換できるアプリでいいやつってある?」

「あるぞ。おれのオススメは打った文字をリアルタイムで音声にしてくれるスイッチ氏が個人で作成して評判になったヤツだ。パソコン一つさえあれば喋りの表現がそこらのものとは出来が違ってマジで素晴らしくて……」

「キーボード入力じゃなくてスマホでやれる、それでかつ本の文章を選んでそのまま音声にできるやつがいい」

「テキスト読み上げ系の音声アプリか。簡単なものならいくつかあるが、本の内容まではダウンロードできないものが多いから直接打ち込むとか……」

 

 

 

「さっきの春人君の言葉、ほんとでしたね」

 

「なんでかしらね。あんたには負けてもしょうがないって思えることもあるんだけど、春人に負けるとなんかとてつもなく悔しいんだけど」

 

「同感です」

「…………むぅ、今度当てつけで何かやってやろうかしら」

 

 

 

「ところでさっきから背骨がキャメルクラッチと逆エビ固めを同時に食らって折れたみたいに痛いんだけど……恋太郎、お前おれの背骨砕いた覚えある???」

 

「俺じゃないけど。痛いならまず病院行けよ」

 

 

 下校の時間。

 

 恋太郎にアドバイスを求められたものを適切な回答で処理していく。なんでも、物静かな子が喋るのが嫌なのか恥ずかしいのかで喋らないが、なんとかして目と目を合わせて会話できるようになりたい。との事。

 

 相談を聞けば、なんか以前に話した好本と随分特徴が似ているな。

 どこで会ったかとか経緯はおれは知らないが、似たようなヤツなんて案外かなりいるかもだし好本とは別人だろう。

 

 恋太郎とのそんな会話を彼女二人はコソコソ後ろから睨むように見ている。

 

 ……別に会話に入ってきていいんだぞ?

 

「じゃあ、俺はここで」

 

「おう、またな恋太郎」

「恋太郎君、また明日」

「じゃあね、恋太郎」

 

 今更だけど、案外別れるのが早いのは恋太郎だ。少し前にみんなで登校した時も最後に合流したのが恋太郎であるし、進む方向が中学校時代と違うとこういう事もあるのかとほんの少しではあるが驚いた。

 

「じゃあ、私はここで」

 

「またな」

「また明日」

 

 次に院田と別れる。

 

 

 

「……時間ありますか?」

 

 

 

 そう聞いてきたのは花園だった。

 

「あーっと……すまん、無理だ。買い出しがあってな。今日は時間がねぇ」

 

「でも、電話とかは…………」

 

「前に相談した時も言ったが、やめておこう。向こうがどれだけ過保護か把握できてない以上、警戒するに越したことはない」

 

「電話やメッセージは足がつく、でしたね」

 

「ああ、出来るだけ記録の残らない口頭で計画は進めるべきだ」

 

「分かりました。なら、私は一旦戻って、事情を多少はぐらかしつつ買い出しの場所に合流します」

 

「え、いいのか?」

 

「もちろんです。春人さんさえ、よかったらですけど」

 

「分かった。緊急事態になったら携帯で連絡を」

 

 大分協力的かつ積極的に動いてくれるのはこちらとしてもありがたい。今回は手間で悪いが骨を折ってもらおう。早速待ち合わせ場所を伝えて買い出しへ向かった。

 

 

 

 

 

「奇遇ねっ!! こんなところで会うとは思わなかったわっ!」

「 院 田 ァ ! ! 」

 

 おれは叫んだ。

 

 せっかく、花園が協力的なのに……っ!!

 

 

 

 すぐに周波数(連絡先)を合わせて無線(スマホ)を繋げる。

 さながら、かくれんぼが得意な段ボール兵士のような早業であった。

 

『花園、緊急事態が起こった。今回は中止し、俺との接触は避けてくれ』

『どうしました!?』

『唐音とエンカウントした……。これからごまかしフェーズに移る』

『把握しました。ご愁傷様です。また学校で会いましょう、ス○ーク』

『いや待て誰が蛇やねん』

『……えっ、ちょっと待ってください。なんで唐音さんのことは名m』

『オーバー』

 

 通信終了。

 これで不用意なブッキングは回避。とりあえず危機は去ったと言えるだろう。携帯、こんなことで使いたくなかったんだけどなぁ。

 

 

 

「ん? 今何かしてた?」

 

「気のせいだ院田。それより何でここに?」

 

「べっ、別に——————」

 

 

 

「「レシピ本の料理を練習したくて買い物しに来たわけじゃないんだからねっ!!」 ……ってトコか??」

 

 

 

「っ!?!?」

 

「よく考えればなるほど、どちゃくそ分かりやすい行動かましてるよなお前って」

 

 まさか一言一句ピッタリ一緒になるとは思わなかったけどな。

 

 しかし、こんな形で邪魔をされるとはこちらも思ってもいない。本人に悪気がないのは百も承知だが、それでも驚かされる意趣返しぐらいは許されてほしい。

 

 

 

 なんだか見えない糸で繋がっているような、運命の掌で転がされているような感覚に気味の悪さを感じる。恋太郎を中心に繋がっていて、おれ達はそれぞれ赤い糸で結ばれているかのような。……いや、おれと恋太郎が赤い糸で繋がってどうする。おかしいなこのイメージ。

 

 まぁそんな不思議な繋がりのせいなのか、彼氏彼女の関係になってから一対一で会うことってもしかしてそんなに無いのかもしれない。

 

 それまでは出会った数日、二人きりになることは多かった気がするが。

 

 

 

「……何見てんのよ」

 

「今度、料理が不安なら見てやろうか? 味見からちょっとした下ごしらえまで、結構手伝うのも教えるのも得意な部類だぞ」

 

「そんなこと言って、食べたいだけじゃないの?」

 

「当然。女の子の手料理なんてめったに食べられないからな。彼女無しの身は特に、な」

 

「そんなことしなくても食べさせてやるわよ。その……気に入るかは分からないけど」

 

「マジ? さんきゅっ。楽しみにしてるわ」

 

 おれがそう言うと、院田がそっぽを向いた。

 急に別の方向を見るのだから、気になるのは当たり前で。

 

「どうした? なんかあったか?」

 

 

 

「…………あんた、それわざと?」

 

「……っ? 何のことだかさっぱり」

 

「あんたに彼女が出来ない理由が分かった気がするわ。……一応彼氏持ちよ? 私。分かってるの?」

 

「は? そんなん知ってるに決まってるだろ、何が言いたい?」

 

「はぁ、もういいわ。……女の敵」

 

「???」

 

 

 

 呆れた様子の院田だったが、眉を傾げて僅かに微笑んでいる。馬鹿にしたような態度ではなかったが、褒められるような言動ではなかったらしい。何か失言でもしてしまったのだろうか。

 

 首を横に傾げながらカゴとカートを持ってきて、今日の夕飯に備えようと動き始める。すると同じようにカゴとカートを持ってきた院田がおれの隣に来た。

 

「んんー?」

 

「なによ、私があんたの近くにいちゃ悪いわけ?」

 

「いや、横に並ぶのは他の客の迷惑になりそうだなー、って」

 

 すかさず、院田は後ろに移動した。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

「なにか言いなさいよ。言いたいことがあるんでしょ?」

 

「ほんとに言って良いの?」

 

「…………保証はできないわ」

 

「なんの!!??」

 

 

 

 顔が見えないのに声だけでもう怒っていると分かる。

 

 絶対に顔真っ赤にしてるって、後ろのやつ。

 

 だってカートの小さいタイヤがおれの足にガンガン当たってるもん。押し付けてきてるもん。

 

 

 

 その後は区切られたコーナーごとに、欲しいモノを互いに取りに行ったらもう一回合流して次のコーナーへ移動していく。途中、おれも院田も探している材料が見つからないときには声をかけあい、情報を教えあう。お菓子の原材料コーナーに来た時には、院田の方からレシピの材料を見せて聞きに来た。

 

「材料だけじゃなに作るか分からんな」

 

「そのために見せた訳じゃないからっ。……で、このカラースプレーチョコってヤツ、どこにあるか分かる?」

 

「お菓子を作るレシピなのは理解した。ほいコレ。いくつ要る?」

 

「一袋でいいわ。それなら少なくてもあまり困らないし」

 

 このような他愛のない緩い会話を、全体を通して互いに喋っていたはずだ。

 

 

 

 喋りながらおれ達は会計まで終わった。後は帰るだけになったというところで、おれは院田を止めて提案をすることにした。

 

「帰り、送ってやろうか?」

 

「いいわよ別に、変に気を使わなくて」

 

「じゃあ、お茶でもどうだ?」

 

 

 

「…………何か用事でもあるの?」

 

「用事があるから誘っている」

 

 

 

「ふーん……」

 

 しばらく訝しんだ様子だったが、少し重そうに口を開いた。

 

 

 

「いいわよ」

 

 

 

 

 

 近くのカフェに立ち寄り、適当に飲み物を注文していく。

 

「で? 話って何よ」

 

「少し、恋太郎とお前たちとの関係でちょっと聞きたいことがあってな」

 

 

 

 そう。これは花園から相談をされたとき、家に戻ってから考えを巡らせたことであった。

 

 花園は言っていた。院田は協力には向かない、と。でも、どうやっても部外者のおれには頭の中にある想像だけでは賄いきれない問題だと感じていた。なら、深い事情は聞かせずに参考にできることは聞いておきたい。

 

 

 

「率直に聞く。恋太郎との二股という関係、お前は周りにどう言っているんだ?」

 

 

 

 院田には協力者になってもらわず、あくまで相談に乗ってくれる友人枠に留まってもらおう。

 

 そして本題。二股という事実をどう公表しているか。または隠しているか。返答によっては今後の動きにも関わる大事な質問だ。

 

 特に家族周りの事は必ず聞いておきたい。花園のためにも。

 

「……羽香里に何かあったの?」

 

「いや」

 

 少し俯きがちに心配する院田の疑念に対して、即座に否定する。事実、現状大きな問題でもないしするつもりもない。……が、思ったよりも院田は敏い。性根的にも深入りしたら突っ込んでくるタイプなのは目に見えてる。こっちの情報を渡すのはあまりよくないな。

 

「二股どころか、交際してることさえ恥ずかしくて言えてないってこっそり聞いてな。おれなりに何かできないか考えていたところなんだよ」

 

 何かあれば花園は親側からシャットアウトされる可能性があること。そして、それを危惧したためにおれへ相談しに来たこと。この二点は絶対に隠しきるべきだ。おれはそう結論付ける。 

 

 

 

「なるほどね」

 

「まっ、正直さっぱりでお手上げなんだ。院田の時はどうだったんだ? 何か問題とかあったりしたのか?」

 

「聞いてどうするのよ」

 

「話しに来なくてもアドバイスを押し付ける。お前の話をおれなりにかみ砕いたものをな」

 

「そんなことしなくても私が直接話しに行けばいいじゃないのよ」

 

「お前が花園と井戸端会議してもギャーギャー喚くか『恋太郎スキぃ!!』な惚気話ぐらいにしかならんだろ。それに、表立って恋太郎が気にしだしたらわざわざ花園がこっそりとしてた意味がない。多分、恋太郎に心配かけたくないんだろうからな」

 

「む……」

 

 

 

 出来る限り、恋太郎にバレないようにってのが花園の意向だ。だから院田が余計な動きをする道は徹底的につぶさないとならないな。

 

 ああ、面倒だ。

 

 

 

「だから、おれがコソコソするのさ。こういったのはおれの得意技なんだよ」

 

「はいはい、そういうことにしておくわよ。恋太郎と一緒にクローバーを探してたヤツは言うことが違うわね」

 

「…………そんなことした覚えはないぞ。恋太郎の返事とかはこっそり見てたけど……」

 

「服を雑草だらけにしておいてよく言うわね。言っとくけど、あの時は草の匂いがひどかったわよ。恋太郎もあんたも」

 

「……っ」

 

「あんた、コソコソしてるつもりでも結構バレバレなんだから。気をつけなさいよね」

 

「……忠告どうも」

 

 

 

 店員が注文したものを持ってきたので、おれは頼んでおいたミルクティーを飲む。へそを曲げたため顔を反らしつつ飲むおれの姿を見て院田は軽く吹き出した。

 

 

 

「で、恋人関係の話よね。もちろん最初は隠していたわ。自分で言うのもなんだけど、完璧に隠せていたわね」

 

「ほう、意外と隠せていたのか。それでバレちまったのはいつぐらいだ?」

 

「次の日よ」

 

「完璧って意味を知らんのかお前さんは。一日だけ隠しきっても意味ないだろ」

 

「仕方ないじゃないっ!! 初手から家族に『何かあったよな?』って聞かれたらボロボロ出るに決まってるじゃない!!」

 

「確信めいた言い方されてる時点で色々お察しじゃねぇか!!」

 

 

 

 普通は『何かあった?』とかの疑問のニュアンスで来ると思うんだが。まぁということは最初から怪しかったんだろうなぁ。

 

 

 

「それで、洗いざらい話したのよ。恋太郎と付き合っていること、いつも四人で楽しくいること。……そして、羽香里っていう同じ男の子が好きな子がいて、恋太郎は同時に付き合って……愛してくれていることも」

 

「……やっぱ、いい反応じゃなかったんだな?」

 

「うん」

 

 

 

 素直に首肯する彼女に、おれは少しすまなさを感じている。どうしようもない感情が渦巻く。

 

 彼女は恥ずかしがり屋だ。そんないつもは雑なツンデレで隠そうとする彼女が、今は静かに語ってくれている。いつもとの違いが、より深くおれの心に突き刺さっていく。

 

 

 

 

 

 もしかすると、彼女も話したかったのかもしれない。

 

 

 

「……初めて、両親のあんな顔を見た。……凄い痛々しかった。二度と見たくないくらい悲しい顔をしてたわ」

 

 

 

 肩を震わせて、それでも院田は続ける。

 

 

 

「でもね……っ。言ってくれたのっ。『私が幸せなら構わない』って。みんなの事を話している時、照れながら、恥ずかしがりながら、それでも楽しいと言った私をね。……お父さんとお母さんは時間をかけて考えて、信じてくれた。私は……っ、私の家族は、このままでいることを受け入れてくれたっ」

 

 その時のことを思い出したのだろう。頭は下がりきっていた。両の目から既に涙が流れている。

 

 

 

 

 

 

 それでも彼女は笑顔だった。

 

 

 

 ハンカチを促すと、院田は鼻をかんだ。

 

 

 

「いや、涙吹けよ」

 

「あ、ごめん。……ふふっ、あはは。……洗って返すわ、今日はもらっていくわね」

 

「別に構わねぇさ……っ。そうかぁ、よかったな」

 

「一生忘れないわ、きっと。二人の子供でよかったって心の底から思えたの。常日頃から感謝はしてたけど」

 

「より一層、ってことか」

 

「うん、そんな感じ。……ねぇ春人」

 

「なんだ?」

 

 

 

「羽香里に手を貸してあげて。家族に話すのって、すごい不安よ。受け入れられなかったことなんて辛すぎて考えられないくらいに。だから、アンタのお節介はきっと必要なんだからっ」

 

「ああ、なんとかしてみる。聞いてよかったよ」

 

 心からの感謝を伝える。

 

 

 

「ああ、らしくないわね。今の私」

 

「同感だ。拳の一つでも飛んできた方がまだらしさがある」

 

「今からでも手を出してあげようか?」

 

「おっとそりゃごめんだ。失敬」

 

 

 

 後から来たスイーツをスプーンで口いっぱいに頬張る。甘みが、ひどく体に染みていった。

 

 

 

 

 

 

 

「誘ったのはおれだし、今日は払わせてくれ」

 

「ちょっと、別にいいわよ」

 

「いいから」

 

 強引に会計を済ませて、院田を外に追い出す。

 

 

 

 むすっと院田がしていたが気にしない。

 

 手頃な場所で解散するとしよう。

 

 

 

 今日はもう帰ろう。明日から忙しくなる。

 

 

 

「じゃあね、春人」

 

「ああ、またな。唐音」

 

「………………はっ?」

 

 

 

 よし。帰ろう。

 

 唖然とした表情の唐音を置いていく勢いで歩き去る。

 

 

 

「あんたっ、ちょ、名前…………っ!?」

 

「どうした、院田?」

 

「 な ん で 戻 し た 」

 

 目が飛び出さん限りの驚き様は見てて面白い。院田はやはりいじるに限る。

 

 顔を綻ばせてしまいながらも、ぱっと振り向く。

 

 

 

「さいなら~!」

 

「待ちなさいよ!!」

 

 

 

 さて、閃いたこのアイデアを花園は気に入ってくれるといいが。

 

 

 

 夜は更けている。それなのに、おれの身体の芯はまだ随分と熱かった。




原作第三話、未完。継続。

副題「私は貴方に、おれはお前に」踏破。

次回に続く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。