仕事の環境が一ヶ月だけ変わったり、ゲームしたり遊んだりゲーム買ったり……。
理由が半分以上「遊んでた」で埋められそうなのは申し訳ないですが、それはそれとして中々キーボードを動かせず遅くなってしまいました。すいません。
今は前の慣れた環境に戻ったので、ルーティンごと元に戻せればと思いつつ、やっていきます。お待たせしました。
「恋太郎君、最近なんだか眠そうですね?」
「ああ……ちょっと夜いろいろしててさ…………」
そう言うと、恋太郎は両隣にいる彼女二人からキスを受け取る。
その様子を好本静は覗き見ていた。実際には、たまたま居合わせ動けなくなったのだが。
好本静は愛城恋太郎のことが好きである。
以前、青井という男子にその場の勢いや空気に任せて告白しようとした時。
その時に言われた、『お前を理解してくれる友達をもっと作れ』という言葉。
最初は意味がいまいち分からなかった。そして悲しかった。
受け入れてはくれたけど、まるで突き放されたようで。
でも、家に帰ってしばらく考えて。
青井君の言いたいことがだんだんと分かってきた。
私には、男の友達がほとんどいない。
だから、もっといい人が私の前に現れるかもしれないと言ってくれたんだ。
そして、出会った。
一目見た時から、私の人生全てがあの人に……愛城君に向かって伸びていくような感覚が私の身体を支配する。
あなたの隣に居たい。それだけで私は幸せなんです。
でも。
もう一つだけ、わがままを言えるなら。
……隣のあの人とも。
そんな我儘の報いだったんだ、きっと。
私の好きな人には、彼女がいた。
その事実に、打ちのめされる。
ああ。
あの人が本を借りるのを断って、愛城君は本を笑顔で受け取ってくれた。
『王冠恋物語』を貸すということ自体、私にとってはあり得ないことで。それぐらい大事なことで。
でも、愛城君には……。
そうだよね。それなら……。
こんな変な子と話してる時間なんて。
誰にもアルワケ ナ イ ン ダ。
すすり泣く声が止まらない。
『声を出すな』
涙が零れる。
『あと泣くな』
目の前が闇に包まれる。
『まずは落ち着いて』
声が、聞こえる。はっとなって私は見上げる。
『落ち着いて、深呼吸。辛いがその方が後々楽に走れる』
言うとおりに、深呼吸を繰り返す。思考がほんの少しだけクリアになった。
持久走の時のアドバイスのはずだけど、不思議と効果がある気がした。
誰かの微笑みが幻となって少しずつ消えていく。
『好本がそんなに大事に出来る本なら、きっと面白いんだろ?』
「……うん」
『それでも自分に素直になれたら……その時はその想いが誰に向いていようが応援してやるよ』
うん。そうだ。
私が私を信じられなくても、私を信じてくれる人が確かにいる。
私の高校生活最初の友達が、力を貸してくれる。
気づけば、自分の卑下する気持ちはどこかへ行ってしまった。
私の中に確かな決意がみなぎる。
まるで、彼が嫌なものを連れて行ったみたい。私は立ち上がる。
今度、愛城君と二人になったら。
たとえ叶わなくても伝えよう。このキモチを。
心からの友達に、胸を張れるように。
「もう少し胸を張ってください。そんな猫背にならないでシャキッとしてください!」
「うるさい! こちとらガチガチに緊張してるんだよ!!」
夕方。変に寝不足な恋太郎の心配をする二人に『キスしたならアイツは大丈夫』と宥めて、帰り際に花園だけ呼び出す。
そして、作戦を開始するために花園邸へ向かう。
作戦。それは当然、花園に頼まれた親へのカミングアウトを如何に波風立たせずに公表するかという難題に対しての解決策。
提案はおれ。
閃いた作戦の内容は『花園母サイドに二股を受け入れられる土壌を作る』事にある。
「簡単に言えば、いきなり『二股してる!?』という現状を知ってもらうのではなく、関係性の変化をゆっくり見せつけた上で『恋太郎なら仕方ない』と思わせる状況に変えていく」
この提案を告げると、説明にあまり要領を得なかった花園が疑問符を浮かべた。
「つまり、私達はどう動くんですか?」
「例えばそうだな、『俺たちは友人関係だ』という設定から刷り込ませていく。……が、それと同時に恋太郎と現在彼女になっているお前らとの関係も『友人』以下から始めていくんだ。これから仲良くなっていきますよ、っていう状況が相手に伝わればそれでいい」
つまり、関係性がリアルタイムで構築されていっている。と、誤認させること。それがこの作戦の肝となる。
「院田の両親は当人の体験談と感情を推し量って見守る判断を下したが、多分恋太郎本人の性格や歪な関係性に関しては不鮮明な箇所がきっとあったはずだ。でもそれは、恋太郎と直接会ったり深く関わる事が出来ない状態からのカミングアウトだったからだと考える。なら、花園の母親にはこちらからそういった事情をあえて曝け出した上で同情を誘うんだ」
恋太郎が二人のために悩んでいた、告白の返事をするまでの逡巡。そういったものを明確に事前に共有していられれば、親御さんが飲み込んでくれる確率はきっと馬鹿正直に事実を全てぶつけるよりも高くなる。
「そもそも、出会った初日で恋人……それも二股になるっていう時点で親目線からすればまず有り得ない事態だ。おれでも『考え直せ』の一言を飛ばしてしまうくらいの無茶苦茶を、お前たちは奇跡的に潜り抜けてしまっているんだからな。……だからこそ、より現実的に納得しやすいカタチに直して示していかないとならない」
そのために、親目線で起こりやすい勘違いや拒絶するであろう状態を修正しなければならない。
その1。
『俺たちは友人ではなく、恋人関係から始まった集団である』
コレを友人関係から始めた事にして、徐々に気になって好きになった事にする。一目惚れであったとしても、内面や性格を見た上での判断を下したと示して自分たちが悩んだ末での結論であると印象付ける。
その2。
『恋太郎が二股を提案し、彼女達はそれを受け入れた』
事実ではある。だが、感情の方向性が従来の最低なモノとは正反対で、恋太郎が二人を求めたのではなく二人の求める気持ちに応えるための提案であったことは明確にしておくべきだ。ベクトルが彼女側から向いている上に、それぞれに隠れて行なっている不誠実を出しているわけでもなく。むしろ彼女達は互いに付き合う事を認知している。この辺りの細かなニュアンスの違いは正しく訂正しておかないと、どれほど見かけが人間的に素晴らしい人物でも一発アウトになりかねない。
その3。
『愛城恋太郎は彼女達の事が大好きである』
これこそ大前提かつ、母親に見せるべき部分だ。恋太郎自身の本心がどのような結論を出して、彼女二人を想い、どのように誠実を貫いたのか。そして、そんな彼に対して自分の愛娘がなぜ好きになったのか。そういった疑念を納得させ得る形で払拭させる事は今回の作戦において重要な部分だ。ここが少しでも不鮮明であった場合、過保護な親であればまず二股という事実を許す事はない。都合の良い女にされている娘ほど、親として見ていられないものはきっとないだろうから。
「それでも、全部の壁を乗り越えてやっと五分五分か……それよりも分が悪い勝負になるかもしれないな。……はぁキツイ、胃がキリキリする、お腹痛くなってきそうだし帰って良い?」
「何言ってるんですか。……作戦会議中にキメ顔決めてたあの自信はどこへ行ったんですか?」
「いや、言っても要点をまとめただけだし。実際の所、一度会って話でもしないとロクに具体的な対策がこれ以上出来ないからな。少なくとも今回の訪問で出方を伺う……出来たら母上様の考え方を少しでも知って取っ掛かりを作れたら最高だな」
「じゃあさっさとやりますよ。何を今更日和ってるんですか」
「少しは心の準備をさせてくれよ!? 女の子の家に入るのが初めてなんだよこっちは!」
おれがそういうと、花園がピタリと止まる。
そして、おれの方向を見てしたり顔でニヤけ始める。
「へぇ〜……初めてなんですねぇ、だから緊張してるんですか?」
「…………花園」
「なんですかぁ〜?」
「ジャンケンしようぜ。なんの手で勝ったかによってパンチ、チョップ、ビンタのどれにするか決めるから」
「それだと私が勝っても何かしらでしばかれる事になりません???」
「よく気付いたな。じゃあやるぞ。じゃ〜んけ〜ん……手を離せ」
「何、勝手に始めてるんですか。そんなにいじられるの嫌でした? ……まさか、可愛い友達の彼女に対して本当に危害を加えたりしませんよね?」
「もちろん……全力で行く」
「あっ、これ割とキレてるパターンですね!? 院田さんでもここまで短気じゃないのに!?」
「死ねぃ!!」
「あぶなっ!! 目つぶしする気満々じゃないですか!? 話の流れ的にチョキはチョップのはずでしょう!?」
「うるさい!! おれを簡単に気持ちよくイジれると思うなよ……! やろうと思えば貴様のおっぱいの一つや二つ、揉みしだくことに躊躇などせん!」
「えっ、揉みたいってことですか……!」
「なんでちょっと満更でもないって感じの表情しとるんだ」
「アイタァ!!」
隙が出来たおでこにチョップを打ち込む。
冗談で言ったとはいえ、おれ相手のエッチなことに対してでちょっと乗り気になるのはやめてくれ。対応に困る。
そういうことに興味がないとは言えない健全男子ではあるが……もしやったら最後、背後から恋太郎がホラーテイストで殺しに来るだろうし。
「ふぅ、なんというか変わらないなお前は。緊張してんのが馬鹿みてぇ」
「それなら何よりです。そろそろ着きますよ」
「……ああ」
こいつは分かってやってんのか……いや、多分分かってるんだろうな。花園らしいやり方で気楽に構えられるようにしてくれている。
今回の件はしっかりしていかないと、とは思っていたんだが……なにせそこまで奸計が得意なわけではない。花園も同様だろう。きっと、ボロが出るようなことがこれからたくさん起こるのは想像に難くない。それは花園だって同じで、二人とも一緒にミスをしないなんて……限らない。
それでもフォローしあって、やるしかない。
既に一蓮托生の身だ。戻る気はない。
だって、恋太郎が笑う場所には花園もいてほしいと思っているから。
欲張りなんだよおれは。隣に居るのが院田だけじゃダメなんだ。花園だってアイツの隣に居るべきなんだ。
花園を後ろを歩いている。ふと見ると。
拳を握りしめていた。
「!」
その妙に強張った手を上から握りこむ。手を繋ぐとは言えない荒い手つきに花園が驚いてこちらを見た。
「緊張してんのはお互い様だな。……大丈夫だ、おれがいる」
「……はいっ」
ほどなくして、足を止める花園。
つまりは、ここが目的地であると告げていた。
花園邸。
「話は通してあります。行きましょう」
頷きで応え、家の門が開いていく。
二人の手は既に離れていた。
「お帰りなさいませ、羽香里様」
「ただいま帰りました」
正面玄関から入るや否や、メイド服を着た屋敷の人が出迎えてくれる。
外から見ただけでもある程度は分かっていたが、内装まで見ると家の大きさと上品な景観を嫌というほど思い知らされる。人生の中でも一度あるかないかと言えるほどの高級邸宅にお邪魔させてもらっているという体験にどこか現実感が抜けていってしまう。
「花園ぉー! 靴は何処で脱げばいいんだ?」
「基本的に室内でも履いてもらって大丈夫ですよ……」
「マジで? こんなピッカピカの床を汚すのはなんか嫌なんだが」
「早く中に入ってきてくださいっ!」
催促されてやっと「お邪魔します」と中へ入っていく。今のおれ、多分めちゃくちゃ情けない。
メイドさんが室内履き用のスリッパを用意して近づいてくる。
「お連れ様ですね?」
「あ、えっと、その、オツレではないです。多分、はい」
「……」
「……」
「「 ? 」」
「青井君、まさか『お連れ様』を名前か何かだと勘違いしてません???」
「えっ、ああっ! そうだよなっ、オツレサマ! ……はい、えっと羽香里さんの友人やらせてもらってます」
「青井様でよろしかったですか?」
「えっと……その、あー、違います?」
「?」
「ちょっと待ってください」
花園に肩を掴まれる。
「なんで嘘つこうとするんですか!?」
「えぇっと……多分、青井……です」
「自分の名前に疑問を持たないでくださいよ!!」
おれはもうダメかもしれない。後は任せた、花園。
頭の中グラグラで自分が何言ってるのかさっぱりわからん。家の外で感じた緊張とは比じゃない。
「ところで、青井様が来ることは聞かされておりましたが、今日はどのようなご用件でしたのでしょうか?」
「えぇっと、クラスメイトの誕生日が近くてですね。青井君と仲がいい友達なので何かサプライズを計画したいと話してたんです」
「なるほど」
「今回はいわば作戦会議です。必要なことがあったら銘戸さんにも相談しますね」
「かしこまりました。どちらで過ごされる予定ですか?」
「急な集まりでお母様への連絡も遅れましたし、私の部屋で細々とやろうかと」
「かしこまりました」
「青井様」
「あっはい! なんでしょうか!!」
「ご用件がありましたら、お気軽にお申し付けください」
そういって、深々と頭を下げるメイドさん。多分……おれより年上のはずなのにかしこまられるのは妙に気恥ずかしい。
「失礼ながら、お名前を伺っても?」
「銘戸芽衣と申します」
「うわぁ名前から既にメイドさんだぁ。それじゃあ銘戸さん、おれよりも年上ですし……メイドがどういったお仕事なのか分かりませんが、自分の前では楽にしてくれて大丈夫です。それでも敬語とか態度を崩したくないって言うことなら何も言いませんが」
「かしこまりました」
もう言いつけられることがないと察したのか、銘戸さんは離れて行ってしまった。
「なんか、普段会わないタイプの人だから調子が分からないな。クール? というよりは毅然? なんていえば良いか分からんが凄い大人な人だな」
「ああいったお姉さんがお好みだったりするんですか?」
「好みはあんまり考えたことがないから知らん。が、女性としての魅力を考えるならかなり素晴らしい人じゃないかな。どんな人でもすれ違い様に目を引かれるような人というか」
「なるほど……」
「おい、何メモしてる」
「『可愛い系も綺麗系もイケる』っと」
「ちょっと待て!? 綺麗系云々の話はともかく、どう解釈したらそんな文章が出来上がるんだ!?」
「じゃあ、行きますよ。小っちゃい女の子とイチャイチャしてた春人さん」
「それ好本のことか!? そうなのか!?」
あの本の騒ぎの時か!? よく考えりゃ、クラスメイトだからあの時のイザコザを見られても不思議じゃないとは思うが……っ!
「そういう関係じゃないから!! 友達だからな!!」
「ふふっ」
花園の笑った顔は、追いかけているおれからは見ることはできなかった。
羽香里の部屋は散らかっているどころか、埃一つさえ見当たらないような整理整頓が行き届いている部屋というのが一番の印象だった。
……それほどまでに、綺麗なところだ。
可愛い雑貨や趣味のもの、本棚などは当然のように整っていて、ベッドに至っては皴一つないベッドメイクである。メイドさん達使用人がいるとはいえ、ここまでのレベルのものを間近で見ると一庶民としてはそれぞれ完璧までの状態に感動さえ覚える。
まるで高級ホテルに毎日泊まっているかのような生活なのだろう。居座りたいなどと無粋なことは当然する気はないが、とても羨ましく感じてしまうな。
「さて、何から始めます?」
そういう花園は制服から部屋着に変わっている。一旦おれを締め出して着替えていたのだが……、待たされるのはいいが露出を控えてくれと思うのはいけないことだろうか。薄い部屋着のスキマから目に写る豊満な形に思わず目を背ける。本人は気にしていないのが中々に辛い。男側からあまり言えることでもないし、黙っていても状況が悪くなっていく気がするし……。
(ああもう知らん、おれが気にしなければいい話だっ!!)
あくまで平静を装うことにする。こういう時、恋太郎の存在がありがたい。性欲が死の恐怖を察知して理性的になれるからな。
……あいつのガチギレは、二度と見たくないくらいの地獄だったからなぁ。ありゃ誰よりも怖い鬼だ。
「とりあえずは、恋太郎の誕生日に向けての作戦を考える……という体で時間を稼いでいこう。あくまで目的は花園母やさっきの銘戸さんの羽香里の恋人に関する考えを知ること。何かしらのタイミングで『トイレ行こうとしたら迷った』とか言いながら雑談でもしに行こうと思う」
「なら、今回のサプライズの話は多少固めておいた方がいいですね。ここに来た目的ですし、出会った際に会話のタネになるかと」
「そうしようか。それでおれは訪問中、羽香里はおれが帰った後に花園母がそれとなく聞きに来る、または話せるタイミングが来るはず。それを念頭に動いていくぞ」
「はい」
「ところで、今は名前呼びなんですね」
「んあ? 今おれ、羽香里って言ってたか? にしても細かいところが気になるやつだな。まぁ、苗字で呼ぶとお前のお母さんと混ざりそうで仕方ないってことはあるかも」
「本当に仕方ないんですか~?」
「……これがうまくいったら名前呼びで呼ばせてもらうよ。お望みのとおり」
「楽しみにしてますよ、春人さんっ」
「はいはい」
そうして、緩やかに作戦会議が始まった。
やれケーキだの、プレゼントボックスだの、くす玉を用意するだのと割とありがちで無難なものから選択肢を出していく。そこから現実的に何を用意したら喜ばれるかを二人で話し合い、とりあえずの候補を残していこう。
「くす玉は仮に用意したところで、見栄えがいいだけだからな。あまり大っぴらにしたくないかもなら、派手さよりも嬉しい物とか美味しい食べ物のほうがいいんじゃないか?」
「私の方で用意はできそうですけど、そうですね。クラッカーにした方がまだお誕生日会って感じがあるんじゃないでしょうか」
「賛成したいが、そもそも学校ってそういった類の持ち込みとか空き教室の使用って問題なかったか? あー……覚えてねぇ」
「最悪、私の方でなんとかしますね。基本的にはできる前提で進めていきましょう」
「なんにせよ、ケーキか贈り物のどちらかは欲しいな」
「分かりました。私の方で手配しますね」
「ねぇさっきから怖いんだけど!?」
思わず叫んだ。
緩やか、とはなんだったのか。爆速で企画が進んでいっているぞ。
「どうかしました?」
「何言っても『用意できます』『用意できます』ってさ!! ちょっとしたお嬢サマって結構何でもできるもんなの!? 正直、おれまだ結構軽いノリで話してるからね!? こんなポンポン話が進むこと想定して喋ってないからね!?」
「うーん……ふふっ、出来ますよっ」
「どや顔サムズアップをやめろよぉ!」
「まったく何がそんなに嫌なんですか?」
おれがまるで我儘な駄々っ子のように言うのは心外だぞ。
「嫌っていうか、際限が無さ過ぎて怖いっつーか……。あれだ、無茶な提案も理論上可能なら丁寧なゴリ押しで全部通りそうでさ……」
「まぁ恋太郎君のためなら……」
「しまった、恋太郎が頭一つ抜きん出てるだけでこいつもなかなか制御できないやばいやつだった」
「やめてくださいよ私がそんな変な子みたいな……」
「えっ?」
「え?」
「あ、うん。ソウダネー。じゃあケーキは人数分、贈り物は今度アイデアを持ち寄って……」
「待ってください? なぜ逃げれると思ってるんですか??」
「もう逃げれない前提で話しかけてくるって恐怖じゃない?」
「ハルちゃん?」
「その呼び方はやめろ? いやマジで」
静寂。お互いに動向を見合う。
「私たちは一度話し合うべきだと思うんです」
「残念だが話し合う余地はないな」
「分かりました。では穏便に暴力で行きましょう」
「望むところ……ん? 穏便の意味わかってる?」
再び静寂。小さくとも譲れない戦いだ。譲れないのだ。多分。
「普段から私がどう思われてるのか。しっかり白状させてやりますからね!!」
「ふぅ。かかってこい、悪いがその呼び方は恋太郎以外に呼ばせる気はねぇ!!」
室内戦、勃発。
と言っても、じゃれあいに近い戦いなので本気でボコボコにするつもりは当然ない。
まぁ、痛い目には合わせるかもしれないけど。
「ここは私の部屋ッ!! つまり、こんなこともあろうかと自衛用の武器を置いておくことなんてハルちゃんにとっては想定の範囲内ですよね!!」
「くっ、武器とは卑怯なっ!! ……あとその呼び方はすんなって!!」
そう言って花園はベッドの下から何かを取り出す。
「ふふふ、これで終わりですっ!」
「……いや待てや。なんだそれ」
「これは私の部屋に持ち込むことを許された唯一の『刃物』ですよ……!」
「それ刃物っつーか……うん、爪切りはギリ刃物とは言えないんじゃないかなー、って」
それで勝った気になられるのはどうかなとおれは思いますよ。
「あー……。やっぱりきついですかね?」
「お前自身がそれを疑問に思ってるなら完全にアウトだと思う。戦力外だ、やめとけやめとけ」
「そうは言われても。これ以外にまともで使えそうなものありますかね?」
「いや知らんよ。ちょっとおれも見てもいいか?」
「いいですよ」
許可をもらって一緒にベッドの下を漁らせてもらう。
はるとはエッチそうな表紙の本をてにいれた!!
「……」
「……」
「思春期の男子高校生じゃないんだからさ……」
「……見ます?」
「見ませんっ!! 取り上げないだけ感謝してくれ、ってなんだこりゃ……」
はるとは不思議な形の【見せられないよ!】をてにいれた!!
「……」
「……」
「おれもうお前のベッドの下、見たくないんだけど……」
「女の子にも色々あるんです。許してやってください」
「お前は何処目線で会話をしている???」
ここは他でもないお前の部屋にあるお前のベッドの下だぞ?
「どうしましょうかね? これだとハルちゃんに対抗できる武器がないですが……」
「じゃあもうどうしようもないかも……あっ」
「?」
「隙アリィイ!!!」
「キャアアしまったぁ!!」
そういえば今戦ってたんだったと思い出し、すかさずタックルで押し倒す。腰は二人とも下ろしていたし向こうが女子というのもあり、強くはない力で押し倒すことが出来た。
「ひ、卑怯者ー!」
「卑怯汚いは敗者の戯言ッ! ……そもそも武器持ち出そうとしたヤツのセリフじゃあなかったな」
「私をめちゃくちゃにする気ですかっ! エロ同人みたいに!」
「お前もおれの事相当おかしな目で見てないか?」
「どんと来てくださいッ!!」
「何で乗り気なんだよ」
馬乗りになったので、花園はほとんど抵抗できずただ暴れているだけである。
「んじゃ、とりあえずハル呼びをやめてもらおうか。そいつは恋太郎にしか今のところ呼ばれたくないくらいには思い入れがあるものなんだ。頼むからちゃんと名前で呼んでくれよ」
「分かりました。じゃあ、はーちゃんって呼んでも?」
「話聞いてた? いーやーだ、っつってんだからやめろっての! 一回呼ぶごとに一時間くすぐってやろうか!?」
「……なんでそれほど……いえ、そんなに恋太郎君と仲がいいんですか? 何かあったんですか?」
「……っ」
花園も半ば冗談半分で言っていたのだろう。しかし軽く口から出てきたものでも内心では疑問に思っていたものだったかもしれない。
だから、表情が変わり答えに窮するおれに、花園のほうが動揺してしまった。
「す、すいません。変なことを聞いてしまったみたいですね……?」
「いや、いいんだ。すまない。あまり気軽に話せるものじゃないからな……つい」
「……もしよければ、聞いても?」
「マウント取られてる状態で聞こうとすんなよ」
そう言って、笑顔を見せる。顔を近づけるおれに花園が「えっ」とか「ちょっと」と狼狽するが、気にせずそのまま……花園の瞳に吸い込まれるように。
やがて、額と額がこつんと当たった。
「悪い、この話はまた今度で。……ごめんな。嫌われたくないんだ」
「は、はい……」
顔を離すと、赤面した花園の瞳がかなり潤んでいる。それとは対照的に、おれの気分が沈む。
嫌われたくない、か。でもいつかは話せるときが来れば。
「……春人さん?」
「……っ!! 悪い、折角だしこれから二人で遊ぼう——————」
馬乗りから立ち上がり、不意に視線を感じる。
「——————ぜ。ってアレェー?」
ドアから「あら」と口を手で押さえているメイドさんが一人。ここに来た時にも見たあの銘戸さんだ。
それと、もう一人。
「何をやっているのかしら?」
花園羽香里によく似た、胸の大きな女性が目の前にいた。
「ところで、評価や感想を書いた事はあるか?」
「ハル、いきなりどうしたの?」
「いや、最近ハマった作品があってな。その二次創作とかにも手を出しているんだが、面白いのは良いんだが作品自体があまり目立たないんだ」
「そうなんだ」
「だから、もし少しでも面白いと感じてくれたのなら『しおり』を挟む、応援したいなら『評価』や『感想』を書くだけでも作品や作者のチカラになる。最近は強くそう思う事が特に多くてな。レンもマンガにコメントとかするだろ?」
「うん。彼女達のココが好きポイントを伝えるためにいつもコメントしてるよ」
「彼女? もしかして自分が主人公の原作に直接書きに行ったりしてる? ……まぁいい、でもやはり目に見える応援は盛り上がりが分かって熱くなるよな」
「例え拙くても、文章が苦手でも、想いを伝えるのは尊い事だし作る側も嬉しいものだよね」
「もし、そういう想いがあるなら気軽に書いてみて欲しい。失礼であったり過度な誹謗中傷などで無い限り、ほとんどのコメントは喜ばれるはずだ」
「じゃあ、俺は『100カノ』をトレンドに載せるために、100個ほど投稿頑張ってくるね!!」
「そ、そうか……みんなは、無理せず応援しような」