天獄の種
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「___正義の味方に……、なりたかったなぁ」
どこに届けるでもない虚空へと、呟いてみた。
言葉にすれば少しでも晴れるかと思ったが、やはりか、全く変わることはなかった。
それはもう届かぬ夢/理想、今の自分とは決して繋がっていない。たとえソレを願い続け、そのために努力も何もかも積み重ねてきたとしても。省みてもやはり、間違いなど見当たらないのだから……、もうどうしようもない。
あれだけの知略と眼識と悪意を、ためらうことなく振り絞って襲いかかった
もう全てが、あらかじめ決まっていた。悪意や願いも心では、こゆるがせもできない鋼の絶壁。その遥か高みにある清浄なる[天界]に自分はいて、親友はソレを仰ぎ見るしかない腐敗に満ちた[下界]の中にいたから。
決して交わることのない二つの世界。分とうと不断の努力をもって果たした結果。創世の御代から人類を絶え間なく苦しめ続けた原罪/獣性から、ようやく解き放たれた。
その代償に人類…いや[新人類]は、生まれ故郷たる地球を捨てねばならなかった。自分たちという最終にして最高傑作を生み出したことで、地球はその役目を終えた、ただ巣立ちの時を迎えただけ……と言ってもいい。
親友は言った、「お前たちにその価値は無いッ!」と。故郷を/母星をこんなにもめちゃくちゃに穢した寄生虫の分際で、身の程知らずも甚だしいと。
しかし同胞は告げた、「我らは常に警告し続けてきた」と。自らの邪悪なる本性を切り捨てられず、あまつさえ自覚すらできなかったお前たち[旧人類]こそが、その結末を招いた。すべて自業自得であると。
そして続けて告げた、「だからこそ母なる地球は、我らに旅立ちを求めた」と。野蛮なる猿どもに全て穢され滅ぼされてしまう前に、愛し子である我らを逃げしてくれた。―――だからこそ今、我らは生き延びることができた、と。
最後まで[箱舟]にしがみついてきた旧人類たち、その最も悍ましく醜い首魁たちへ、介錯の一太刀を冷厳に振り下ろした。
そうして新人類はようやく、旧人類から超克することができた。ついに人類が目指し続けた[答え]へと、たどり着くことができた。
…………そのはずだった。
母星/地球より旅立った新人類たちは、その後3つのグループに別れた。
一つ。ついに自分たちが得た[答え]を、まだ未開なる他の惑星の知的生命体へと、啓蒙しようとするグループ。
二つ。最終目的を得てしまったゆえ、もはや矮小なる人生に留まる必要なしと、緩やかなる自殺を図るグループ。
ほぼ9割の大多数は、この二つの派閥のどちらかに当てはまる。……当然のことだ。
ゆえに三つ。自分たちは間違っていたのではないかと、懐疑を抱くグループ。ついに獲得した[答え]は、ただの幻想に過ぎなかったのでは、と。
新人類全員が共通して抱いている、強固なる確信。ソレに懐疑を挟むなど、不遜であり不愉快なことではあるが、懐疑を抱けることそのものは否定されない。ゆえにこそ、沸き上がってくる疑いの全てをことごとく論破できるからこそ、三つは存続を認められている。
新人類誰もが、心の奥底から疑ってなどいない。不安を抱いてなどいない。己の正しさを皆知り抜いている。……かという自分も、その一人だ。
確信は揺るがず、ただ疑うフリをしているだけ。他の同胞たちのため、あえてその不快なる感情を請け負っている。妻も子供たちも、その[自己犠牲精神]を褒めたたえてくれている。良き夫・良き父、尊敬すべき男だと……。
___もう、ウンザリだ……。
地球から離れれば離れるほど、身の内から染み出すこの毒は、心身を蝕んでくる。
もちろん、完璧な医療ナノマシンと何よりこの強健な肉体には、病など入る余地がない。心の気鬱すらも、メンタルケアによりすぐに解きほぐされる。問題など何も起きない。
あえて起こした後のことを考えると、凍えるほど戦慄してしまうが、それこそ[懐疑派]の面目躍如。腐ったリンゴは即刻捨てるべき、などとの野蛮な考えなど選択せず、より賞賛と尊敬の眼差しを向けるだけだ。……そしてソレはやはり、幾ばくかの癒しにはなってくれる。
妻も子供たちも言ってくれる。仕事熱心なのは素晴らしいことだけど、あまり根を詰めるのは良くないと。……たまには家族だけで息抜きをしよう、とも。
慰めではない、心からの労わりの心遣いには……、感謝するしかない。付随してわきあがる彼らへの愛情まで、否定することはできない。
___でも! あぁ、それでも―――
自分は止めることができない。
かつて親友たちと夢見た、黄金の日々を、理想の自分の姿を―――捨てられない。
『―――だから私は、この【世界樹の種】を……、ここに残す』
願わくは、【コレ】が芽吹き大樹となった後、懐かしきそして新たなる世界を創造せしめた時、かつて願いもはや叶わぬ夢がそこで……叶うようにと。
あまりにも微々たる可能性に賭けて、【種】をおとした。
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