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《___あれだけで本当に、良かったのかな?》
『契約』によってガゼフに渡した戦力、かの『デキるデスナイト君』と、アイテムボックスに放置してあったブルークリスタル製の長剣だ。
どちらも、この異世界では伝説級だろう代物で、一つあれば十分なところ二つも与えた。これでダメなら、使い手が悪いだけとも言える。
ただし、相手は下級とはいえ天使を使役できる集団、くわしくは分からないが国の『特殊部隊』。賭け事は好きではない/だいたい外す自分にとって、確実と言い切れない状況は好ましくない。
なので、いざとなれば自分が代わりに出る。自分が戦えば確実に倒せる。そのためのアイテムももちろん渡したけど、
《『切り札』の存在も考慮すれば、とても素晴らしい差配です。互いに死力を尽くしながらも、殺しきることができない》
___ゆえに、あやつ等の奥で操っている者どもも、出てこざるを得なくなりましょう。
ソレが俺の目的だ。奴らを取っ掛りにして、どんどん首謀者を引きずり出していく。誰が相手だろうとも容赦しないし、する必要もない。
その先に『先行プレイヤー』がいたとしたら、少しだけ厄介なことになるけど、まぁ何とかなる。あの手の理不尽を許容してしまっている段階で、心が人間離れしすぎている。負け癖がついてるのにソレを認められない精神状態では、たとえレベルがカンストしてようが三流ゲーマーだ。必ず隙だらけだし、自分から墓穴を掘りにも来る。……とは、我がギルドの偉大なる諸葛孔明の受け売りだ。
《そいつらが出てきた時、俺がやるべきことは?》
捕まえることだ。逃げられないように/自殺されないように、その次の操り主を引っ張り上げるためにも。……ナザリックに攻め入らせるような形に持っていけば、勝ったも同然だ。
その際、この異世界中の勢力を大団結されるのはマズいけど、そのための『正義』だ。悪行の確たる証拠を握ってしまえば、まとまろうとにも脛に傷ある者同士だ。協力し合うどころか互いに足を引っ張り合ってくれるはずだ。
《確か、情報系魔法に対する攻性防壁の追撃には、【
覗き屋や漁夫の利を得ようとする奴らには、分かりやすい威嚇だ。カンストのプレイヤー相手にはあまり効果はないけど、いきなり爆発したらビビるのが人間の性。沸騰したヤカンに触れると手を引っ込めてしまう反射と同じだ、分かっていても踏み込みづらくなる。
ただし、この異世界ではどうか? 30レベルにも満たない相手に、カウンターで【爆裂】を使ったら……威嚇では済まなくなる。
《覗き屋を逆にスパイに変える【
《でも、あまりオススメじゃない?》
《……未知数の敵地に、悟様を単身で飛び込ませることになりかねないからです》
さすがにそんな無謀は、しない……はず。……たぶん。
普段と比べて少々『ハイ』になってるだろう今、大胆に行動してしまうかもしれない。行けるとこまで追求していきたい気持ちが、確かにある。……自粛せねば。
《……魔力の消費量と成功率が怪しいけど、【
《大変すばらしい選択です》
あとは拉致したそいつに【
「___ゴウン殿、よろしいか?」
背後からのガゼフの声で、現実に呼び戻された。……いかん、またやっちまった。
隙だらけになる、てなわけではなく、ちゃんと五感は機能していてすぐにアラームのように気づかせてくれる。ただ、実感が伴わない情報としてだけ記録してる状態。[オーバーロード]の骸骨顔でしかも仮面を被ってもなければ、意識がどこかに『トんでる』表情になっていたはずだ。
どうにかしなければならない大問題だけど、今はその都度にごまかすしていくしかない。良い案が浮かんでこない……。
「そろそろ出陣させてもらう。村のことは……お任せてしてもよろしいな?」
疑いというより念押し。それも、俺に対してじゃなくて自分に向けての。
『先の一幕』からほぼ一時間も経たず、俺に話しかけてこれるのはかなりメンタル強者だ。しかもヤケっぱちではなく、ちゃんと飲み込んでみせたかのようにも見える。瞳にも迷いの揺らぎが無くなってる……。意外な立ち直りの速さだ。
そのまま頷き返して、黙って見送ってもよかった。もうコチラの準備は整っている。勝てれば御の字で、負けてもすぐにカバーしてやれる。どう奮闘しようがどうでも良い。
けど……、その変化は気になる。
「籠城はしないのですか? 打って出るにしても、闇夜に紛れたほうが無難でしょうに」
よせばいいのに、尋ねてしまった。
「相手が魔法詠唱者ならば【
「アレら以上、私の力は借りたくないですか?」
言いよどみから晒し上げるかのように/皮肉も混じえて言うと、ピクと眉が動いたのが見えた。……ありゃ、図星だったのか。
しかし大人のスルー力で、ガゼフは続けてくれる。
「貸してくれるのなら大いに歓迎するが、あいにく私にはもう……、支払えるモノが無い」
「部下たちの命と魂、なんてものは論外なのですね」
今度は自虐を混じえて晒してみると、はっきりと顔をしかめられた。……けど何故かすぐ、恥じ入ったかのように小さく顔を伏せた。
スルーはしきれなかったけど、グッと飲み込んでみせると、
「何よりこれは、私とこの国の問題だ。自分たちの力で解決せねばならない。……部外者である貴殿に、これ以上世話になるわけにはいかない」
「ましてアンデッドに、ですな」
「……貴殿は本当に、痛いところを突いてくるな」
そういうや、観念したかのように肩を落とした。……俺、なにかやっちゃいましたか?
ただよくは分からないものの、妙な強張りが抜けたのは分かった。近接戦闘は不得手ではあるものの、瞬発力と反射神経が大事なのは分かる。……コレで少しは、勝率が上がったのかもしれない。
コチラが話しかけてしまった/呼び止めてる形である以上、なにか益のあることを言ってやらねばならない。先までのでも足しにはなるはずだけど、必然なモノでなければ[絶対の支配者]的にマズい。……メンツを守るてのは、思ったよりも大変だ。
しばし考える。ガゼフたちに足りないものは? 『自力』を犯さない程度の助力/助言とは? 自然な形で受け入れさせれるのは―――……、閃いた!
直後、【伝言】にて伝えた。すぐに良い返事がきてくれて、思いつきは形を成せた。
最後にこちらに来るよう伝えると、通話終了。
訝しんでたガゼフに向き直ると、説明なしにいきなり、
「___かの天使たちの体は、魔力を凝縮して編まれたもの。通常の武器だけでは、ダメージが通りにくい作りとなっているはずです。失礼ながら、皆様がた持ち合わせてきた程度の武器では、倒すのは至難なこととなるでしょう。
ソレに対して、何か対抗策がおありですか?」
あの天使型のシモベたちだ。
ガゼフやその部下たちの様子から、何の対策も無いことはすぐに伺えた。そのような訓練や実戦すらも、積んできたことが無いことも。……気合だけで乗り切るつもりだとも。
果たしてソレは―――、正解だった。
「……無い。あのような天使たちと戦うのも、私も含めて初めての経験だ」
「そうですか……。
とこで、アレが[天使]だという知識は、
戦った経験はないのに、知っている。
見たままの脳筋ビルドの純近接戦闘要員。今は戦士長の肩書きをもっているも平民出身、それも剣の腕前一本でここまで上り詰めた男が、そんな知識をどこで知った? ……ガゼフだけでは、補えないはずの知識だ。
その疑念は正しく、ガゼフは息を飲まされていた。
言うべきか黙るべきか迷い……、しかし白状するように、
「……私の師匠だ。まだ青二才だった時に偶然見込まれて、天使の知識も含めて色々と鍛えてもらった。だが、今は行方知れずだ」
「ありがとうございます。書物からだと言われたら、
そうニヤリと言ってやると、しばし目を丸くされて……、『失敗』に気づいて顔をしかめた。
「……貴殿は凄腕の魔法詠唱者だと思っていたが、どうやら商人の才能もありそうだな」
「世界は不公平が当たり前、だがせめて結末は平等であるべきだ、というのが私の信念です」
と賢人ぶってみたけど……、コチラも失敗だったのは変わらない。
カマかけに引っかからず、「書物からだ」とか言ってくれたら、ソレを報酬にすんなり渡せたのに……。回りくどすぎたのが、仇になってしまったか。
「実に共感したい信念だが、苦痛が伴うものでもある。私にはとても……難しい」
また言いよどみの奥が見えてしまったけど、『らしくない』ことに首をかしげた。……ただの印象と直感だけのプロファイリングなので、らしくないもないけど。
ただ、ソレに自虐の暗さはない。『前進した』かのような、意気込みが感じられた。
その直感を信じてみると、自然と襟がただされる。次はどんな手でいくのかプランは全て棄却し、すんなりと真正面から、
「___天使対策について、私から提案できることがありますが、よろしいですか?」
お節介な助力を、申し込んでいた。
「先も言ったが、今の私に支払えるモノは無いぞ?」
「私固有のモノであるのなら、代価を受け取らざるを得ないのですが、この村の方々に所有権があるモノでしたら、どうでしょうか?」
「……まさかだが、『囮』になれと言うつもりではないな?」
視線に険しさを込めらると、『囮』の意味を察して……、苦笑を返す。
「ご安心を、ソレは私の求める平等ではありません。
ご提案したいモノは、もっと安全で安上がりな、言うなれば『ゴミ処理』を兼ねたものですが―――おぉ、来たか!」
視線の先、ボストンバッグほどのズタ袋を担いでやってきたのは、メガネ特盛美女メイドだ。……急いで来てくれたのか、家々の屋根を飛び駆けながらで、女忍者みたいにもみえた。
俺の声に反応してすぐ、振り返っていたガゼフは、屋根の上の彼女を仰ぎ見て……呆然としてしまっていた。
そんな彼には構わず/眼中にもないかのように、シュタリと音もたてずに着地し、「お待たせしました」と優雅に挨拶を。
一連の動き/振る舞いのカッコ良さと、美女でメイドで特盛でもあるスクウェアパンチに、奥にしまっていたはずの厨二心がまた騒ぎ出してきた。そのまま声にも出しそうだったけど……、喉元で堪えてみせた。
そして急加速で、支配者ロールをフル回転させると、
「___やはりまだ、全てを『調理』しえ終えるのは難しかったか?」
「申し訳ありません、不出来な者共です……。
ですが、ご要望された最低限の『廃棄物』は、用意することができました」
持ってきてくれたズタ袋をチラリと、首尾は上々とも。
主従二人で意味深な会話をしていると、ようやくか我を取り戻したガゼフが、
「ゴウン殿、そちらの……ご令嬢は?」
「私の専属のメイドの一人です」
「[ユリ・アルファ]と申します。以後お見知りおきを、ガゼフ・ストロノーフ様」
スカートをつまんでの簡略メイド礼に、その名前通りの花が一面に咲き乱れそうな微笑み。……ガゼフはまた、呆気にとられていた。
その様子、君も男ならしょうがないよと、ユリへの無言の賞賛が我が事のように微笑ましくなる。
「……本当にただのメイド、なのか?」
「本当によくできた子です。私にはもったいないぐらいに」
「そ、そのような過分すぎるお言葉、私などにはあまりにも、あまりにも……勿体のうございます!」
恐縮しすぎて土下座までしそうな頭の下げっぷりに、慌てて「客人の前だ、そう畏まり過ぎるな」(やめてくれよぉ、俺めちゃくちゃ嫌な主人に見えるじゃん!)止めた。
それでも、なかなかに顔を上げられないでいるユリに、もうラチがあかないと話を進めることにした。
「ご提案したいものはコレです。……ユリ、ガゼフ殿におみせしろ」
「は、はい!」
___コチラでございます。
持ってきたズタ袋を前に、ガゼフに中が見えるように開けた。
ガゼフは、その中に詰まっているモノをみて―――
「___ぅおッ!?
こ、これは―――……、誰の人骨だ?」
「この村を襲ってきた輩たちです」
持ってきてもらったのは、奴隷たちに解体作業させていた、『廃棄物』だ。
「殺さず奴隷にした者達に、殺した仲間の死骸を解体させ、その血と肉と内臓を取りました。今後のエサにするために」
感情は込めず淡々と、ガゼフたちが追いかけてきた不快な輩たちの末路を教えた。
「すべて余さず使い切れば、それだけ村の方々の負担を減らすことができた。のですが、さすがに骨は処理がむずかしい。かといって、ここの土に埋めて大地に帰してやるなど、奴らのような人でなしには分不相応なこと。なので、どう処理すべきか思案していたところだったのです」
説明し終え、改めてズタ袋の中身を確認すると、その『キレイさ』には感嘆するしかない。血肉は全てこそげ取られた骨だけ、まさに残りカスだ。臭気すらもう微かにしかなくなっている。……ユリは本当に良い仕事をしてくれた。
またユリのことを褒めたくなっていると、そんな俺を複雑そうなにみつめるガゼフ、
「…………貴殿がアンデッドだという意味を、改めて痛感させてもらえたよ。
ソレと天使たちに何の因果があるのだ?」
「コレはとても効くのですよ、天使たちには」
知らなかったのか? ……教えてもらえなかった?
ただ、そうであっても不思議はない。たとえ戦さを生業としても、人が知るべきこととも思えない知識だ。
「[聖性]に満ちた天界に住まう天使たちが最も嫌うのが、地上の亡者たちが撒き散らす[邪性]。ソレは亡者を亡者たらしめる、生命の理を曲げる力の魂源でもあります―――」
かつて読み込んで暗記もした、とあるアイテムのフレーバーテキストたち。ギルド内でリーダーに選出され、ゆえにも最終ボスとなり、だったらと魔王なロールを押し付けられた。その役作りの一環として集めては読み込んだ『闇』の知識群。
ソレらはただの『設定』でしかなかったけど、ゲームが丸ごと現実世界化してしまったら話は変わる。……『設定』は世界の法則に通じる。
「亡者の素体になるのは、死骸。ソレも他殺体、悲憤が強ければ強いほど良い亡者になりえます。血と肉にもソレは宿るのですが、大地や虫たちに喰われて大半は消されてしまう。
しかし骨には残る、ゆえにも凝縮されていく」
そしてこの人骨の主たちは、極限の恐怖を抱きながら死んでいった……。おそらくたっぷりと[邪性]が染み込んでる。
自分でも確信には至ってはいないけど、死体がアンデッド化するのは常識な異世界だ。この人骨に天使たちの弱点属性が濃縮されているのは、ソレに比べれば簡単な歪みだ。
「……理屈はおよそ分かったが、一概には信じられんぞ? このような脆い……人骨が、硬い金属の武器よりも有効などとは」
「そのような常識に対しての脅威こそ、魔法の本質です」
魔術師っぽいセリフで、締めた/はぐらかした。……証明用の試し打ち、用意するの忘れてた。
なので当然、訝しられてしまったけど……、ユリがナイスサポートしてくれた。
「よろしければ、コチラの『矢』をお使いください」
数本しか作れませんでしたが……。
手渡された矢、その先端の『白い矢先』をみて、ガゼフはまた顔を険しくしながら、
「この白い鏃は……、人骨なんだな」
「もっとも邪性が収束される仙骨を、加工したモノです」
___えッ!? ……そ、そうなんだぁ。
なぜユリがそんな知識を持っているのか、後でそれとなく/悟られないように聞き出さないといけないけど、今は話を合わせるしかない。
「戦端を切る一射にて、ソレが天使を見事に射抜きましたら、部下の方々にも信じてもらえることでしょう」
当然知ってました/用意させていたものです……的な雰囲気をふんだんに見せつけながら、他にも不満がでてボロが出る前にはんば押し付ける形へ。
ガゼフは投げ捨てはしなかったけど、手に持った矢やズタ袋の中身を見返しては……、顔をしかめながら瞑目。そして天を仰ぐと、苦渋をにじませながら、
「…………コレらはあまりにも、人道に悖る気がしてならない」
受け取りを拒否……するのかどうかを、俺に問いかけてきた。ソレを受け取り使うに足る理由を、自分の中からは見いだせないのだと。……有り体に言えば弱音だ。
でも、気持ちは大いに理解できることだ。例え最悪な犯罪者とはいえ、その死骸に鞭打つどころか武器にする行為は許されるのか? 神や宗教を信仰していなくとも、人の形をした死骸や人骨には物質を超えた『何か』を見いだせるのは、人間の本能と言ってもいいはず。そしてガゼフの本能は迷った、例え生存のためだとしても、割り切ることができないと。
真面目すぎる苦悩に、自分の小物めいた慌てぶりが際立たされて……辛い。そして、ソレを見せられもできない、たぶん一生誰にも……。
気分が急激に落ち込むと、逆に冷静になれた。
ゆえにかスラスラと、自分でありながら自分でないかのようなセリフが口から出てきた。
「___あやつらは天使を気取っておりますが、その行いは人道に悖る外道の数々。腐臭に塗れた亡者と何も変わりはしないのに、白く輝き尊大にまで振舞っている。
そうやって『清らか』になった奴らの鼻っ面に、己が撒き散らした汚物を帰してやる。……そのようにお考え下さい」
そう断じ切ると、呆然と見つめてくるガゼフと相対した。
ガゼフは何かを言おうと口を開き……、しかし出せず。戸惑いを露わに、必死で相応しき言葉を探す。……しかしやはり、見つからなかった。
やがて諦め、肩の強張りを落とした。そして代わりに出てきたのは、、
「___貴殿は本当に、何者なのだ?」
疲れ果てて出たため息のような問い。……当然、答えを探りだす気勢などこもってない。
なので当然、俺は不敵に笑いながら、
「こたびの修羅場を生きて帰って来れたのなら、お教えすることができましょう」
見送りの決めセリフを贈ることにした。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
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