̄
「___戦士長……、これは?」
やはり、そういう顔になるよな……。しかし、堪えてもらうしかない。
「ゴウン殿からの差し入れだ。かの天使たちには特攻の武器になる」
とは断言するも、そういう顔になるよな……。それでも、堪えてもらうしかない。
不満というか不快が、ありありと見えてしまうも、忠誠と信頼ゆえだろう。無理にでも飲み込んでくれた。
「……さすが[エルダーリッチ]ですな。考えが我らとはまるで違う」
「天使と敵対するのならば、亡者と手を組むしかない。……今はありがたく使わせてもらう」
責任を『彼』だけに負わせるのも、不本意だ。生き延びるために使うのならば、その業はコチラも背負わねばならない。
そんな意図が、どれほど伝わったのかは分からない。しかし各々、黙って受け取ってくれた。
コチラの要件を済ませると、今度は命令しておいた準備を確認する。
「___馬たちは、渡してくれたか?」
ここまで乗ってきた軍馬。一級の名馬というわけではないが、幾度の戦場でも愛用してきたのでそれなりに愛着はある。部下たちも、大なり小なりそうだろう。
「はい。ちと恐縮されてしまったので、『預かってもらう』との体で」
ソレを譲り渡した。騎兵であった部下たちを全員、歩兵へと下ろした。
『ソレ』が何を意味するのか? 分からずにいられるほど、新参兵ではないはず。今ここでソレを命じた意味は、村人たちですら感じられたほど。
しかし、遂行したその表情に覚悟していた負の色合いは、見当たらなかった。
「___従ってくれて、感謝する」
深々と、とはいかないものの頭を下げていた。……これぐらいしか今は、報いてやれない。
「よして下さい!? 皆の同意の下でもあります。
それに何より、急いで助けに来たつもりが、何もせずむしろ被害をもってきて……殺されるなど、死んでも死にきれないですから」
自嘲混じりながら、笑い飛ばしてみせた。
___俺は、良い部下達をもってたのだな……。
薄給かつ命の危険があり、貴族たちからの嫌がらせや陰口が絶えない。さらには時おり、民衆からまで罵倒を浴びせてくることもある。おまけに、自分で言うのもなんだが、かなり厳しい訓練をこなさせている。とてもやっていられない職場だ。……それなのに今、清々しくまで笑っている。
___この国はまだ、死んじゃいない!
彼らのような国民がいるのなら、復活できる。どんなに国政が腐敗していようが、吹き飛ばしてみせる『愛国心』がある、大事な情をしっかりと持ち合わせている。……ならば、なんの心配もない。
___ここでみな殺されるなど……、あまりにも惜しい。
できることなら全員、せめて一人だけでも生き延びさせたい。
彼らのような国民が、こんな場所で殺されるようなことになるのなら、それこそ亡国の所業。よりにもよって自分が、ソレに加担してしまうなど、あまりにも……悔しい。
一人の国民としての弱音は、しかし部隊を背負う『戦士長』には不要だ。
ただ瞑目し、全てを飲み込むのみだ……。
「ただ……、あのような比較的薄い包囲網は騎兵で突破するのが、定石。徒歩では退路にまで囲い込まれて、絞め殺されてしまうものです。それでも何ゆえ、馬をお捨てに?」
純粋に合理/戦術面として尋ねたと分かるも、一瞬ためらってしまった。
「ほぉ、どこで兵法をかじったのだ?」
「いえ、兵法などと言われると……。
うちの親父からの聞きがじりですよ。よく酒の席で講釈垂れてたので、嫌でも覚えてしまったものです。……その親父も、仕えていた上官からの聞きかじりでしょうがね」
家族の団欒の情景が、その苦笑から垣間見えた。
ふと、自分にはもう血の繋がった両親がいないことを思い出された。そこから悲しみや虚しさが沸いてでてこなかったのは、師匠のおかげだとも。今どこへと気ままに旅しているのやら……。思い浮かべてしまうと、心細さがにじみ出てきた。
そんな暗さを振り捨てるように、説明した。
「このような状況に馬を捨てるのは、本来は悪手だ。だが、敵が常識外である魔法詠唱者の集団なら話は別だ。しかも、俺たちをここで確実に殺そうと待ち構えていた、おそらくは法国のエリート部隊。騎兵への対策を講じていないとは、考えづらい」
「……どうせ使えなくなる、と?」
良い反応に、思わず笑みが浮かんだ。……しかしすぐ、その意味する『効果』を思い出し、引き締め直す。
「今回のような……厳しすぎる戦いでは、『戦意』こそが重要。使えない武器ならば、いっそ先に捨てた方が覚悟は決まる」
背水の陣―――。師匠より教わった、軍団の運用法の一つ。逆転するための奇策に近い。
生身と生身、意思が通じ合う人間同士の戦いにおいて勝敗を決するのは、もちろんのこと事前準備だ。敵を知り己を知り、天機を掴むこと。しかし生き死にを決めるのは、胆力だ。どれだけ絶望的な戦場に追い込まれようとも、戦意が消えなければ活路が見える。そして此度の戦いは、殺し合いだ。生き延びることが同時に勝つことにも繋がる。死への恐怖/逃げようとする弱気を絶つことが、勝率へとつながる。
そして、まず何よりも『プライド』を捨てなければならないが……、幸いなことに『ソレ』は切り捨ててもらった。禊はすませた以上、負ける/殺される元凶は限りなく無くなっている。
「___ありがとうございます、戦士長!」
また予想外の感謝に、目を丸くさせられてしまった。
改めて確認してみるも……、理解できていないことは無い、その上での感謝だと。
「……急にどうした?」
「皆を代表しての感謝です。ようやく、戦士長と共に戦わせてもらえます」
副官がそう不敵そうな笑顔とともに告げるや、集まっていた部下たちも同意の波長を見せてきた。
その皆の答えに、絶句させられてしまった。
「俺はお前たちを、蔑ろに……してきてしまったのか?」
「はい、ずっと見くびられてきましたよ! あれだけの訓練を付けてくれたいうのに、まだ未熟者なのだと」
あっけらかんとの暴露に、やはり部下たちも同意の苦笑と自嘲。
(そうか、確かに……そうだったのかもな)
自覚していなかった、と言うよりもしないようにしてきた考え。自分に比べて、あまりにも他の兵士たちが弱いという、事実。
努力を怠らなければ誰もが俺みたいにはなれる/越えられる―――とは、今ではさすがに言い切ってやれない。自分が生まれながら特別で、師匠に出会えたことも含めかなり恵まれていたのだと、最近になってようやく受け止めることができた。
それでも、口には出さなかった。自分がそう言えば、何かに負けてしまう気がしたから。忌み嫌っていた貴族たちと、同じような理不尽を強いるのかもと、恐れていた。
その腐敗への怖れは今もある、間違ってはいないとも。けれど、目の前の彼らに対してだけは……、間違っていたのかもしれない。
「ようやく戦士長自ら一人前だとお認めになった。
であるのなら、我らのことは気にせず、ただ敵の首魁を討つことに集中を」
自分たちのことは、自分たちで守る。足でまといどころか、大活躍してみせる―――。俺の鼻を明かしてみせる、とも。
思わずも、不敵な笑みがこぼれていた。
そんな頼りがいを見せてくるのならば、
「___では皆、雑魚は任せるぞ!」
自分も大将として、出陣の戦声を上げねばなるまい。
高々と振り上げた拳と剣に、部下たちの雄叫びがあがった。
―――
……
展開させた包囲を維持しながら/逃がさないよう、少しずつ村へと前進してはプレッシャーをかけていると、
「___ほほぉ、自ら出てきたか」
ついに、獲物/ガゼフが村から出てきた。……その横には、最大の不確定要素である黒いアンデッドも並んでいる。
コレで奴らは、アンデッドと共闘できていることは分かった。それはつまり、あの村には[神々の遺産]があり、どのような方法か操作することができるとも。……あるいは、それすらも偶然の噛み合わせであるかもだが、それならそれでもいい。
[遺産]の回収―――。新しい任務にして報酬が、増えただけだ。
ただ、
(馬は……、捨てたのか?)
確か騎兵だったはずが、今は歩兵となっている。
さらには、
(騎兵突撃ではなく、密集陣形で固まるとは……どういうつもりだ?)
代わりにか、何やり木の大盾のような防具を部下たちに持たせては、一箇所に集まりソレを外に並べて囲んでいる、まるで亀のように固くして。
何も遮るもののない平原で、相手は遠距離攻撃をしてくる。おまけに、自分たちを包囲するための陣形を見せつけてもいるのに、あえてさせやすい密集陣形をしている。
ガゼフは、戦士としての強さが突出しているが、軍隊の運用ができないわけではない。敵の強者とは自分が対決しなければならないので、普段から部下たちが独自でも集団行動できるよう軍事訓練している。[風花聖典]の調査で、その指揮ぶりと軍事への造詣はかなり深いとも。今回のような包囲網には、騎兵の突出力が効果的だと、分からないはずがない。……そのためにコチラも、妨げる準備もしてきたが。
___何ゆえ、そんな愚かな選択を……?
ガゼフの意図を見抜こうと考えを巡らせていると、
『___隊長、どうなさいますか?』
部下からの【伝言】。……やはり戸惑わされてしまったか。
あの木の大盾に何かあるのか? と、【
しかし、大盾とは名ばかり、家屋の廃材や板を突貫で繋いだだけの代物だとすぐに分かった。
ただそれでも、障害物以上の壁だ。並みの攻撃/魔法では中々に壊せない硬さはある。……少々厄介だ。
『攻撃魔法を【
部下たちへの命令。
【矢】は連射速度と射程距離は高いけど、あの大盾を貫通したり粉砕したりする威力はない。魔力の続く限り何発も打てる、実物の弓矢を持ち運ばなくて良い利便性はある/証拠も残らず暗殺にも便利、けどやはり威力は実物の矢の方が強い。それなりの強弓と弓使いがいれば、あの程度の大盾など一撃で粉砕してみせるだろう。……騎兵で突撃してきたのなら効果はあったが、アレでは魔力の無駄になる。
かわって【火球】は、連射もできず射程も短くなるも、辺り一面を延焼させる追加効果がある。木材とはいえ、あれほど分厚ければ衝突とともに焼き尽くせないだろうが、周囲を燃やせば密集陣形は乱れる。背後も燃えれば分解させることも容易い。
予定よりも接近させてしまうも、一斉攻撃の方が効果も高い。一気に火ダルマにしてやれる。
(……結局は何も変わらんぞ、ガゼフ)
勝つための対策なのだろうが、死期を早めただけだ。素直に騎兵突撃をすれば、まだ微かだが活路はあったのかもしれないのに……。
あまりにも愚かな采配―――、そう断じるしかない。
死に急ぐ愚か者たち。その歩みを待ち構えていると―――、ガゼフが弓矢を取り出してきた。
「! 弓矢か―――」
かなりの高距離。しかし、ガゼフほどの戦士ならば、届かせられる距離。そして必中すらも。
___狙いは、我らの誰かか?
だが誰であっても、【矢防ぎの障壁】で防げる。連射されれば障壁は壊れ、再展開しなければならないが、それほどの矢があるわけでもなし。まして、障壁を貫ける魔力を帯びた特別製など、持ち合わせていないことは確認済みだ。
ビュンッ―――と、コチラにまできこえてくる風切り音。……どこにでもある木製の弓矢だろうに、何という音を鳴らすか。
無駄なことだと。自分も含めて部下たち誰も待ち構えている。絶望感を与えてやろうとも、無駄なあがきをみおくった。
しかしその軌道は……、どうも自分たちが狙いではない。その先にいるのは―――天使たちだ。
一手遅れた! ……いま指示を出してもよけられない。
(だが、そんなただの鉄矢では、天使の体は貫け―――)
―――てしまった。
鋭くまっすぐと射出されたガゼフの矢は、空中で炎を纏う剣だけ構えている天使の胸元を、射抜いていた。その衝撃でたたらまで踏まされている。……ありえない出来事だ。
(ばかなッ!? 魔力を秘めた矢だったのか?)
___まさか隠し持っていたのか!
いやしかし、そんな脅威は感じられなかった。魔力を帯びていたら、独特な光跡を残すものだが、ソレはなかった。……アレはただの、どこにでもある矢のはずだ。
驚愕させられていると、貫かれた天使が突然、酷く苦しみ出した。
矢を引き抜こうと胸をかきむしろうとして、しかし火傷を負ったかのように離す。どうにもできずに悶え苦しむ続ける。
その異常行動を、術者も制圧できないのだろう。必死で抑えつけようとはしているものの、暴れてしまうのを止められない状況。
そしてその混乱は、周囲の部下たちにも波及していく。
困惑から対処が遅れると、天使はさらに狂乱しはじめ、やがてコントロールから完全に外れだした。
となりに整列させていた、別の隊員の天使へと飛んでは―――ぶつかった。
それに当然ながら怒ってだろう、無事な天使は払い除ける。
『何をしている! さっさと止めんか!』
『ダメです! コントロールが効かないんですッ!』
使役者とシモベを繋ぐ見えない魔力の鎖、そこに目一杯の意識とさらなる魔力を注ぎ込むも、天使の狂乱は止められない。
「クソッ! ならば仕方がない―――『そいつを処分しろ!』」
別の部下/近くに配置した部下たちへと指示。
さすがに躊躇いが返されるも、状況もあり命令。即座に自分の天使たちに命じて、狂乱した天使を攻撃し始めた。
殺されたのなら、再度召喚しなおせば良いだけだ。狂乱した天使など邪魔でしかなく、天使は一人一体しか使役できない。それでもかなり痛い出費だが……、致し方がない。
『全隊員、先の矢を警戒しつつ穴を塞げ!』
さらに急いで全体へ命令。せっかくの包囲網を、こんな突発的な同士打ちで崩されるなど、あってはならない。
指示をうけた部下たちは、訓練通りにも穴をふさぐよう動いてくれた。全体的に前面に押し出す形、部下たちと天使との距離が離れてしまうが、捉えるべき敵軍は目の前だけだ。背後を気にする必要はない。
(確かに驚かされたが、そう何発もあるまい)
加えて今度は、天使たちにちゃんと警戒を指示させている。動き回りさえすれば、命中率はさらに減る。
どんな有利な作戦にも例外はある。窮鼠猫を噛むだ。この程度はみな想像の範囲内だ。
天使たちの隊列を変化させていると、密集陣から二人が―――飛び出してきた。
『来たぞ! ガゼフとあの黒いアンデッドだ!』
___この機に乗じるとは思っていたさ!
最悪だが、想像通り。ならば、あとは腹をくくるだけだ。
―――
……
優秀な【集眼の屍】のおかげで、村にいながら外の戦場全てがありありと見渡せる。
(おぉ!? マジかよ、ダメージ受けるだけだと思ってたのに)
まさか[混乱]みたいな状態異常まで引き起こすなんて……。予想外だ。
ただそのおかげで、包囲の輪が乱れる。敵も対処不能なのか、コントロールできなくなっていた。
「___ユリ、もしや何か仕込んでやったか?」
「いえ、素材そのままを加工したまでです」
___となると、作り手が良かったのかな?
ユリ自身に、[武器製造スキル]なんてものはなかったはず。一見ではあるものの、やはり高度な武器だとも感じなかった。ただ鋭い人骨をくっつけただけの矢だった。
ただ、天使に対しての特攻武器。高レベルアンデッドの[デュラハン]が、丹精込めた手仕事でもあるのなら……ありえそうだ。
あるいは[天使]という種族そのものが、異常な程の潔癖症。であるなら、あのような骨はゴキブリのようなものだろう。体内にゴキブリが入って、蠢きまわってるみたいな状況……。確かに、狂乱してしまう。
「___ッ!? 何やつ!」
そんな答えを出せない考察を浮かべていると、ユリの険しい警戒。……え、敵がいる?
警戒心がなさ過ぎたことは隠しながら、というかやはり敵意もなければ設置したアラームも知らせてくれない、ユリが睨む方向へ振り向いていった。
そこは、何もない。あるのは家屋の影だけ。
しかし……、目を凝らせば分かった。その影の中に、モンスターの気配があることが。……さほど強力でも脅威もないけど、ここの村人たちならびにガゼフたちにとっては、怪物とはいえるだろう。
俺が注目し出してすぐ、影に潜んでいたモンスターが、その全身を地上へと露にしてきた。
その姿は全身が影のような黒、二本の巻角とコウモリのような皮膜の翼をもった二足型の生物。村の外で暴れている天使とは正反対の、つまりは悪魔だ。
さらに悪魔は、なぜか深く頭を下げながら表れてきた。その黒々とした/獣じみた身体では、あまりにも不釣り合いに見えるも、なぜか『完璧な礼儀』だと感じさせる。
「【シャドーデーモン】か? だがどこか―――……、!
まさか【デミウルゴス】か!?」
『___はい。下僕デミウルゴスでございます。
このような粗末すぎる姿でのご拝謁、お恥ずかしい限りです』
のように、丁寧な挨拶と謝罪をしてきているも、実際に聞こえてくるのは獣の鳴き声だ。主従間の念波みたいなモノが、脳内かどこかでキレイに言語化された結果だ。……まさか悪魔語も、俺はマスターしてるのか?
驚かされるも、セバスで二回め。今判明しないものは棚上げにする、スルースキルも馴染んできた。なので今やるべきことは、わざわざ来てくれたデミウルゴスだ。
「やはりお前も、外には出られなかったか……」
『お側でお仕えできないこと、私も含め皆、大変心苦しく思っています』
……やっぱり、ソレか。
ただの散策のつもりが、いつの間にか半日近く滞在してしまった。とりあえず現状報告と指示は出してきたけど、そろそろ限界なのかもしれない。
『ただ幸いにも、セバスの例に倣い、下級の下僕ならば地上での活動に支障はでないとのこと。私も『コレ』で試してみましたところ、拝謁の栄誉を頂くことができました』
どうやって、ナザリックから10kmは離れてるこの村に、シモベを送り込むことができたのか……。聞き出したいし自分もやってみたいけど、『支配者』としては恥ずかしいことな気もする。
迷いながらも『分かっている』風を装いながら、当たり障りのない部分だけでも、
「……セバスにも尋ねてみたのだが、本人の意識は潰してしまっているのか?」
『いえ、自らすすんで捧げています。今もコレの、私の手足となれてる喜びを感じられます』
マジか……。超ド級のMじゃん、怖。
ただ、自分の意識も体も自分から全て捧げると逆に残るのは、なかなかに興味深い現象だ。……次の奴隷制作と運用に、使えるかもしれない。
『コレでは、御身をお守りするにはあまりにも不十分。アインズ様を害せるよう者など、周囲にはいないようですが、それでも……お戻り頂ければ幸いです』
言葉面、伝わってくる念波は、セバスと同じような即時帰還の懇願。
けど、その奥にあるデミウルゴスの想いとしては、俺の意志が絶対。完璧な安全確保よりも、今繰り広げられている『ショー』の続き。ソレを監督してる(と思われてる)俺の仕事を、邪魔したくないと。そしてたぶん、できれば自分の力も使わせて欲しいとも、そのためにわざわざ来たのかもとも。……[モモンガ]に似た邪悪な愉悦が、ビンビン伝わって来る。
なので、気楽に「今はムリ」と伝える。
「案ずるな、この顛末を見届けたら帰ろう。
その前に―――ユリ、アレを」
視線だけ……ではなく、説明する気はあったけど、それだけで分かってくれた。
「デミウルゴス様。あちらの林の中に、そのシモベを受肉化させる触媒のご用意があります」
『おぉ、ソレは助かります。そろそろ退去してしまう時間でした。
ありがとうございます、アインズ様』
改めて『完璧な礼』をするや、ユリの影へとその身を沈めていった。
彼女もまた一礼を返すや、村外の林へと向かっていった。
(さて、続きはどうなるかな―――)
ユリを見送り、意識をふたたび戦場へと集中しようとすると、異物の気配を察知した。……今度はちゃんと各種アラームが機能してくれた。
そちらに視線は向けず/意識だけは振り直すと、
「___少年、また好奇心の虫でも沸いてきたのかな?」
背後の物陰からビクリと、すくみあがった音が聞こえてくるようだった。
―――
……
(まさか、これほどとは……)
黒いアンデッド戦士([デスナイト]と言うらしい)の力。その戦いぶりは、今まで対決してきた戦士たちと比べても、指折り強さだ。
「オオォォォアアァァーーッ!!」
刺のついたタワーシールドと波打つ刀身の長剣/フランベルジュを巧みに扱い屠っていくさまは、まるで山津波のごとし。天使たちはその鉄壁を越えることができず、逆に一刀のもとに切り伏せられていく/刺し貫かれていく。かなりの重装備だろうが、その巨体通りの膂力ゆえだろう、重量を感じさせない機敏な動き。
敵ならば迫り来る山津波、味方ならば動く城壁だ。
さらに素晴らしいのは、その重厚な戦闘スタイルが自分の得意な/攻撃主体のスタイルととても噛み合っていることだ。
複数体の天使たちの攻撃を、一手に防いでみせているデスナイト。その横腹をくしざそうと迫り来る―――
視界の端で捉えるや、すぐさま行動。その炎を纏った剣を跳ね除け、即座に横一文字に一刀両断した。
続けて、デスナイトに集中させられてしまっている天使たちへ追撃だ。
___武技発動【流水加速】
その武名を心の中で叫ぶと、全身の神経が一気に活性化。最大最適な走歩行ができる心身へと変化させた。
駆けながら/飛び込みながら/掻い潜りながら、名の通り流水のように滑らかに。天使たちの横腹を/背中を/正面からでも両断していった。
硬いデスナイトが敵の注意を引きつけ、速い自分が敵を切り倒していく。
そして、必ず生じてしまう攻撃の切れ目/背後の死角を、互いに補い合う。チャンスだと思って踏み込んできた敵を、逆に返り討ちの一刀を浴びせていく。
「オオォォアアアァッ!!」
デスナイトの突風のごとき一閃。
攻撃の切れ目でかつ身を晒した俺に向かって、隙だと思ってだろう、回り込んできた天使の一体へ、その炎の剣が振り下ろされる前/その横腹へと、渾身の長剣を突き込んだ。
天使はその突撃をまともに/深々とくらい、そのまま魔力の光に霧散していった。
この敵だらけの包囲の中であっても、ひと呼吸おける/息継ぎできるのはすばらしいことだ。戦いのリズムを狂わすことなく、逆にドンドン高められていく。
相手はまともに喋ることもないアンデッド/そもそも初対面ながら、背中を預け合える相棒のようになっていた。
もちろん素晴らしいのは、デスナイトだけではない。貰ったこの[青水晶の剣]もだ。
手にとった感触どおり、凄まじい切れ味と強度に、何よりも魔力が込められているのだろう。特殊な身体をしている天使であろうとも、簡単に切り伏せることができた。
___秘技発動【六光連斬】
武名の直後、ひと拍だけ溜め……。次には、全てを解き放った。
ただのひと振りから、6本の斬撃を発生させ、なおかつ倍ほどまで飛ばす必殺武技/秘技。デスナイトに集めてもらった天使たちを一網打尽に、切り刻んでいった。
この秘技の発動には、他の武技の4つ分の集中力が必要だ。それまで発動していた身体強化や精神防御の武技を解除しなければならず、しかも発動させたら反動疲労も大きい。どうしても直後には隙が出てしまうゆえにも必殺で、集団戦や乱戦では使えない。……頼れる相棒がいるからこそだ。
そして、持ってきた/ただの鉄の剣を使っていたら、武技【戦気梱封】を纏わせなければ天使たちを一撃で両断することはできなかったはず。この剣のおかげだ。使用しなくて良い分、負担は大いに減った。
ただし……、ここまでは戦う前から予想することができた。
戦端を開いてから後、素晴らしい/嬉しい誤算でもあったのが、部下たちの活躍ぶりだ。
自分とデスナイトが陣形から飛び出した後、ソレを見習ってか、攻防二人ひと組で敵と対峙していた。
木材を寄り集めただけのソレは、タワーシールドとは比べ物にならないも、一刀だけでは切り裂けないだけの強度はある。注意をひき攻撃を一手に受け止めながら、回り込んだ味方が天使を攻撃できる。
ただ、部下の剣と攻撃では、天使たちに致命傷を与えるのは難しい。傷を与えるのすら、ただの鉄では困難だ。
しかしその危惧は、あらかじめ想定済みだ。愛用の武器の代わり、天使に特攻となる『爆弾』をぶつけた。……人間の頭蓋骨と、腸に詰め込んだ血やら色々なモノ、その『爆弾』を。
使役している敵はもちろん、天使たちすらソレの脅威をよく分かっていなかった様子。加えて、先に打った『矢』を警戒しすぎてたこともあるだろう。隙を突いて投げつけたこともあり、ソレは正面からぶつかり―――、そのまま『内容物』を天使に浴びせた。
天使はソレを浴びると、急に苦しみだした。先に骨の矢で射抜いた天使同様に、錯乱状態に陥ったかの様子。使役していた敵も、シモベをコントロールできずに慌てている。
ただし、骨の矢ほどではなかった。体内にくい込んだのではなく浴びせただけなのもだろう、錯乱は続かない。使役者は何とかコントロールを取り戻し、天使たちも苦しみながらも戦意喪失はしていない。―――しかしながら、もう敵ではなくなっていた。
爆弾を浴びてしまった天使は、飛翔能力を喪失して地に這いつくばる。
もともと飛ぶのが前提の身体でもあったからだろう、上手く歩けず立つのもよろめいてしまっていた。当然、武器などまともに振るえない。
あるいは、その武器から纏われた炎が消える。
大した熱でもなければすぐに延焼させられる炎でもないが、無くなったことで真の脅威たる武器が露わになった。間合いが正確にとりやすくなる。見分した限り、武器を扱う技量と小回りは部下たちが優勢ゆえ、もはや一対一でも倒せる相手になった。
あるいは、盲目になったかのように周囲を識別できなくなる。
見当はずれの方向に武器を振り回したり、他の天使とぶつかる不祥事まで起こした。錯乱が続いているのかと思ったが、使役者をみればコントロールできている様子、天使もシモベとして従順に動いている。ただそれが、見当はずれになってしまっていただけ。……そのような相手は、もはや倒す必要すらない。
天使たちは数を減らしただけでなく、邪魔者にもなってしまい、包囲網は完全に壊すことができた。
しかし/それでも、まだまだコチラが不利だった。
天使を倒し退散させても、さらなる増援が召喚された。
さらには、天使たちによる包囲網は断念してか、その穴を埋めるように敵の魔法詠唱者たちの遠距離魔法が飛んでくる。
【
一番厄介なのは、【
機をみて接敵しようにも、【
持久戦になればコチラがジリ貧だった。
初めは優勢で包囲網も破ってみせたが、時間が経つにつれコチラが『総力戦』の覚悟なのだと読まれた。脱出しないのならば包囲はそもそも放棄して、わざわざ迫り来る自分たちを『迎え撃つ』ことに集中する。
次第に曇ってくる戦況。しかし奥の手など無い。あるとすれば、ただ―――突貫だけだ。
戦いの中、互いに視線だけでも気心が通じていた。自分が危惧したように、デスナイトもまた同じ考えに至っていると。
ゆえに/強引にも、デスナイトは突貫した。同時に自分も、その背を追う/守る。
「オオオォォォアアアァァッ!!」
「うおおぉぉぉーーーッ!!」
襲いかかってくる天使たちへも、消滅させることはあきらめるた。一撃を食らわせるだけにとどめる。
ただ全速前進、前だけに集中―――
狙いは、敵の首魁だ。
一際巨大な天使を従わせ、しかもなぜか動かしてこない。……アレを倒せば、戦況はコチラに傾くはずだ。
―――
……
(___だろうな! ソレしかキサマらに活路はない)
そして残念ながら、ソレはとても有効だ。
この【
もう少し敵たちを弱らせていたら、弱体化など足しにはならなかっただろう。だが今は、まだマズい。やつの部下たちも相当厄介だった……。
(くそ! 勝負勘まで優れているとはな)
動かすべきか……。戸惑ってしまう。
一般の天使とは違い【権天使】強い。しかし、かの二人を相手取って勝てるとは、思えない。他の天使たちで包囲したとしても、無理だろう。それが逆にアダになりかねない、【権天使】の恩恵もすぐにバレるだろう。
倒されてしまう……。そして倒れたら、戦況は変わる、逆転されるかもしれないほどに。
今この状況下では、二体目を召喚している魔力も余裕もない。何より、倒された衝撃でやつらに気勢がのる。暗殺どころか、返り討ちの危険すら出てくる。
(……どうする、『コレ』を使うか?)
懐に大事にしまっていた、もしもの時の【魔封じの水晶】。[神々の遺産]の一つ、数百年前に暴れまわった『魔神』をも撃ち倒した天使が眠っている。
そのあまりの希少さ/尊さが、何よりも使わずとも勝ってみせるとのプライドが、戸惑わせてくる。
(だがもう、コレを使うしかない―――)
迷いを振り払うと、部下たちに【伝言】
『___総員、最高位天使を召喚する! 各自包囲を保ちつつ、被害範囲外まで下がれ!』
吐き捨てるように命じると、一方的に切断した。
もはや決断した以上、【権天使】を動かす。メイスと円盾をもった巨体の天使が指示にしたがい、不動の位置から二人へと向かっていった。……同時に、部下たちの天使たちの防御力は落ちたことだろう。
天使たちではほとんど時間稼ぎにならなかった二人も、【権天使】にはその足を止められた。攻撃を繰り出しながらも、[権天使]の硬さに驚愕している様子。倒しきれなくて苦難している……。そもそも、ソレこそが目的だったのだから、食いつくのは当たり前だろう。
しかし、もはや捨て駒だ。『コレ』さえ召喚すれば、全ては終わるのだから―――
「光栄に思え、ガゼフッ! ただの人の身で、『魔神』を屠った最高位天使を使わせたのだからなぁッ!! ―――」
そして高々と掲げながら、その輝かしい天使の御名を叫んだ。
―――
……
(___マジかよ!? 最高位てことは[
切り札は予想していたけど、とんでもない隠し玉だった。……いくらなんでもオーバーキル過ぎるけど。
(……さすがにあの二人じゃ、セラフ級の相手なんて到底無理だな)
瀕死になるまで観戦するつもりだったけど、殺されるのを黙ってみるつもりはない。
手の中のアイテムを意識する。いざとなればすぐにでも、これで『位置交換』してやれる。
息を飲みながら、その時に集中すると―――
「…………、へ?」
なんだ、アレは……。
あんなモノが、ここでは『最高位』天使なのか?
_
長々とご視聴、ありがとうございました。
感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。