騎士王国ルート   作:ツルギ剣

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第二章
駐屯


 

 

 カルネ村の外の平原、常人離れした荒々しい剣撃が鳴らされ続ける。

 そこには二人、黒きアンデッド戦士[デスナイト]とガゼフ=ストロノーフが、戦いを繰り広げていた―――。

 

 

 攻め続けるはガゼフ、今ではよく手に馴染んでいる青水晶の剣を縦横無尽/様々な角度から叩き込んでいる。その連撃は、常人の目には映らぬほどの速さ/鋭さ加えて重さすらあった。だけど、デスナイトの防御を崩せない。その重々しくトゲトゲしいタワーシールドで、ことごとくを弾き/防ぎ/押し返しつづける。

 まるで鋼鉄の絶壁を相手にしているかの様。弾かれるたびにその反動が腕に/全身に痺れと疲労を蓄積していく。そして心にも、「無駄なあがき」と無力感を引きづり上げてくる。ほぼ防戦一方の相手は、もっと苦痛に耐えていると思いたいが、アンデッドには痛覚も無ければ疲労もない。生者を憎み殺すために発生した存在だ、こと戦場/殺し合いにおいては人間種を大きく凌駕している。……今は攻勢を保てているが、じきに逆転してしまう。

 

 ブンッと、デスナイトのフランベルジュが突き出された。その鋭く、何よりも殺意が凝縮された一閃に、心ならずも身体が竦み上がってしまう。ガゼフは紙一重でよけられたが、冷や汗が止まらないでいた。

 幾度の戦場と死闘を越えてきたことで鍛え上げた胆力が、正しく身体を制御し裁こうとするも、その人知を超えたアンデッドの殺意に生者としての本能的な恐怖を刺激されるのだろう。互いに衝突してしまう、逆に新兵のようなぎこちなさが生じてしまう。ソレをさらに気合で押し通すため、通常より倍は疲労が蓄積されていく。

 ただ、デスナイトが攻撃を差し込んでくるのは、一撃のみ。ガゼフが見せてしまっただろう隙か呼吸の乱れを突いて、攻勢の高まりに冷水を差すため、追撃は控えて鉄壁を保つのみ。……ソレは常人ならば有難いことではあるけど、今のガゼフにとっては違う。

 

 焦りのあまりか、大技を放った。一刀をもって六の光斬を発生させる、物理法則を無視した剣技。必殺の一斉攻撃にて、無理矢理にも鉄壁をこじ開けようとした。

 しかしデスナイトは……、すべてを耐え切った。鉄壁は崩れない。

 さすがに真正面からすべてを防ぎ切ったのでもない。その大技をまともに受けてしまえば、アンデッドの身体だろうと耐え切れずダメージを負ってしまう。両腕で受けざるを得ず、ゆえに隙が生まれ一気に畳み込まれる可能性がでてくる、尋常でない無理を通すのだろうができないことは無い。なので、アンデッドの身体/人体にみえて人体でない特性を利用した。筋が千切れ骨が外れることなど厭わずの急激なしゃがみこみにて、飛ばされる光斬の範囲外たる地面へとその巨体を沈めた。防ぐべきを最小にできる非殺傷範囲への急激移動。

 人間種にとってはただの蛮勇でしかないが、アンデッドには通常可動域。はじめは驚愕を押し殺して、そのまま追撃に移ってしまったが、何事でもなかったように身体を起こされたことで痛感できた。自分が今相手にしているのは、人間の戦士ではなかったことを。……次からは認識を改めるも、まだまだ身体の隅々/指先にまで浸透しているとは言えない状況。

 

 人間種がいかに脆弱なのかを、思い知らされ続けた。無意識にも胡座をかいてしまっていた、王国最強戦士/帝国まで含めても勝てる戦士はいないとの矜持が、壊されていった。自分がソレに縋っていたことに、改めて気づかされる。

 心にはそのたびに衝撃が走るも、折れることはない。むしろその気づきにより、軽やかになっていくのを感じていた。「ソレはならぬ!」とのせめぎ合いも生じるも、自由の中の一刀はより力が湧いてくる。己を強くしあの絶壁を打ち倒せる可能性が、間違いなのだとは……どうしても思い込めなくなっていた。

 ゆえに/さらにもう一回と、心中の葛藤ごとぶつかろうとすると―――

 

 

「___それまで! 一時間になりました」

 

 

 凛とした女性の/ユリ=アルファの制止/介入に、対決は止められた。

 

 

 タワーシールドにぶつけていた剣を、ためらいながらも……引き戻した。

 残心も警戒の視線も忘れない。目の前のデスナイトこそ、この『ルール』を遵守するとわかってはいるものの、まだ昂ぶっている戦意が警戒を怠らせない。デスナイトの常時溢れさせている殺意が、いま無用心に背中をむければグサリと刺してくるイメージを、こみ上げさせてくる。……ただしソレは、不快な裏切りなどではなく、徹底した真摯さと受け止められる。

 

 間合いの外よりもさらに下がると……ようやく剣を収めた。

 すると直後、ドッと疲労感が全身を苛んできた。溜まっていただろう汗も噴き出してもきた。亢進しすぎていた心肺にも気づかされ、すぐにも地面にしゃがみこみたくなる。

 

(……今日も勝てなかったか)

 

 一方的に攻めてはいたけど、負けたのはガゼフだ。

 一時間以内。防戦に徹するデスナイトを倒しきれなければ、自分の負け。……負けた以上、今日はこの村から出ることは許されない。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 始まりはちょうど一ヶ月前、あの[陽光聖典]たちとの激戦を終えた翌日。

 かの魔人の従者たちと特殊な回復ポーションのおかげで、戦いの怪我も癒えて、部下ともどもに王都へ帰還しようとした、その日からだ―――

 

 

 部下一同、改めて返してもらえた軍馬に乗り込み、カルネ村と別れを告げようとした。

 

「___王都へ、戻られるのですか?」

「ああ、ゴウン殿には返しきれない恩ができた。

 もしも王都に行くことがあったら、ぜひとも俺の下へ訪ねてくれ」

 

 純粋な感謝と、やはり打算もあった。……万が一でも、彼の力を王国に役立てさせてもらえるのならば、できうる限りの返報をするつもりだった。

 

「本当に、戻るつもりですか?」

「此度の件を報告せねばならんからな。……もちろん、貴殿のことはよくよく伏せるつもりだ」

 

 全ては無理だろうが、『アンデッド』の部分だけでも隠せればいい。『凄腕の魔法詠唱者』と言い換えれば良いだけだ。部下たちにも徹底させる。……陛下にも虚偽の報告をするしかないが、その責めぐらいは背負わねければならない大恩人だ。

 彼からは特に、注意するよう釘を刺されたことは無かった。思い返せば不思議なことではあったが、自分を信頼してくれているのだと思い込んだ。……事実は今も確かめられていない。

 ゆえに、次の一言には目を丸くするしかなかった。

 

「ああ、失礼。言い方を間違えました。

 本当に、()()()()()()()()()のですか?」

 

 一瞬何を言われたのか分からなかったが、部下たち/特に副官の顔が強ばったのをみて、気づけた。……彼はそもそも、自分たちを帰すつもりなど無かったと。

 殺される―――。明確ではないがそのイメージが脳裏に浮かんで、緊張させられた。しかし/それでも、そんなことはありえないと直感が否定してきた。矛盾が判断をにぶらせる。

 ゆえに、それまでの気楽な和やかさは捨てるしかなかった。

 

「……何か含みがある言い方だな」

「言葉通りですよ。

 万が一にも戻れたとしても、()()()()()()()()()()()のではありませんか?」

 

 またすぐには真意を測りかねたが、彼からは殺意も悪意も感じられなかった。

 それで、やはり直感は正しかったと安堵するも、気づかされた。ただ事実を述べているだけだったと、本当に言葉通りの意味なのだと。……改めて/そこで初めて、背筋が凍りついた。

 

「…………ソレは、『例の取引』のことを言っているのだな」

「安心しました。忘れているのかと思っていましたよ、都合よくね」

 

 彼の力を借りる代償。陛下への忠誠を捨てること―――。

 覚悟を決め、禊をした……はずなのに、また『今までどおりに戻れる』と行動していた。流されていた。……そんな俺の意志の弱さを、侮蔑してきた。

 無意識に理解させられても、あまりにも的確かつ鋭すぎたがゆえだろう。思わずも睨みつけるように声まで低めて、反発心をぶつけていた。

 

「王都に戻ることとソレに、何の関係があるのだ?」

「……本当にわからないのですか?」

 

 呆れてくる様子に、必ず反論してやると意気込んでいると、

 

 

「ガゼフ殿、貴方は人間ですか?」

 

 

 奇妙すぎる問に、あげていた拳の振り下ろし場所を見失った。 

 

「……何が言いたいのだ?」

「自分のことを、人間だと思っているのですか?」

 

 改めての問いかけにも、やはり首をかしげるしかなかった。……そんな当たり前のこと、なぜ尋ねてくる?

 

「もしもそう思い込んでいるのなら、ソレは間違いです。貴方がたは全員、[アンデッド]なのですよ」

 

 私と同じです―――。教師が愚かな生徒へ、諭すかのように宣告してきた。

 彼以外の者がいったのなら、一笑に付すで終わらせた。だが、その仮面の下/素顔を知っている自分たちには、正体がバレる事など露とも恐れていない強靭さが込もって聞こえた。ただ反発心だった稚拙さを恥じさせる、襟を改めざるを得なかった。

 

「……意味がわからないぞ。何を言いたいのだ?」

「あなた方は昨日、死んだ。私がいなければ、確実に殺されていました―――」

 

 またコレだ……。覆せない事実を、躊躇いなく心臓に突きつけてくる。ずっしりと重たい一撃に、よろめきそうになった。

 

「殺した相手は、方々にいるのでしょうが、貴方の政敵である『貴族派閥』とやらが関わっているのは間違いないことでしょう。

 彼らにとって貴方は、昨日死んだのです。生きているはずがない。それなのに、まるで生きているかのように舞い戻ってきた」

 

 そこで初めて、言いたかったことを察することができた。……無意識にも目を背けていた事実を。

 

「アンデッドとは『生者を憎む亡者』。

 生者である彼らにとって、あなた方は亡者も同然。そして、自分たちを憎んで殺したがっていると、恐れている」

 

 見た目は人間だが、いやだからこそいっそう、駆除しなければならない『人類』の敵。ただの政敵だった今までとは違う、話し合いや取り引きの余地すら無い、どちらかを潰しきるまで終わらない。

 先日、自分たちが彼に見せてしまったように、命の恩人になった今でもやはりそうであるように。アンデッドと人類は、相容れることができない。そして、一度アンデッドになってしまったら、もう人類とは認められない。……戻る術もない。

 このまま王都に戻っても、彼らの恐怖を煽り立てるだけ。望んでいなくても戦乱を引き起こすことになる。戦乱になれば苦しむのは、このカルネ村のような人々だ。

 

 あまりの理不尽に、言葉が出なかった。『理不尽』だと怒れるほどにも、王都が代え難い我が身の一つとなっていたことにも、気づかされた。……あれだけ不平不満を吐いていた/それでも尽くしてきたのに、いざ永別の時を迎えたら、こんな裏切られたような気持ちになってしまうのか。

 後ろの部下たちもソレを理解したようで、怒りや遣る瀬無さが伝わってきた。

 

「…………私にできることは、もう無いと?」

「頑なに戦うよりも、キッパリと撤退するのが正しい時があります。あなた方にとっても、王国の未来にとってもね」

 

 正しすぎる助言に、何も言い返せなかった……。

 

 

 でも一つだけ、湧き上がってきたモノがあった。

 あまりにも愚かなこと、部下たちに犠牲を強いる結末しか思い浮かべられないが、それでも捨ててはならないモノがあった。

 

「___私が消えれば、王は孤立されてしまう。気落ちのあまり崩御でもなされたら、皇太子の【パルブロ】殿下が王位を継ぐことになる。さすれば……、今よりも苛烈な地獄が待っている」

 

 『英雄』たる虚妄の威光を欲している彼は、[帝国]との相応しき大戦争を求めている。何万人の兵士が殺され、その10倍以上の国民が死に絶えようとも、引き換えになりうると信じている。もし偶然にも勃発しないのなら、自分から始めても許されると、本気で信じている。

 王位に着いたのなら、心入れ替えるとの一縷の望みはあるが、彼に群がっている者共がソレを許さない。己の同志であり生命線でもある彼らと敵対できるほど、『英雄』でないことも悟られている故に。

 今の均衡を崩してはならない。例え根本的な解決策が無く、ただ崩壊の時を待つだけでしかないとしても、『今日』で無ければ良い……。『今日』は苦しくとも、逃げ出せば『明日』へは至れない。王国の存続こそが最優先だ。

 

「『そうなるとは限らない』と言っても、聞く耳は無さそうですね」

「忠告は深く受け止めたつもりだ。だが……、今は危険を冒すわけにはいかない」

 

 己の信念を言い切ると、結局彼は助言をし続けてくれてたのだと、気づかされた。色々と揺さぶりをかけたのも、救いの手を掴みやすくさせるためだと。……そんな好意を全部、払い除けてしまった。

 申し訳なさのまま、頭を下げていた。

 

「……すまぬ。命の恩人である貴殿と、このような別れ方をしてしまった」

「気になさらぬよう。私の方から唆しのですから」

 

 まだそう言ってくれるのか……。目の前の彼が、とてつもなく高潔な人物に見えた。かえって自分が、意固地な愚か者に思える。恥じ入るばかりだ。

 

 

 再会を楽しみに、意気揚々と出発したかったが……できなくなった。自業自得だ。

 逆に葬列かの様に、陰鬱さを漂わせながら馬をすすめた。村を出ていくと―――

 

 デスナイトが立ちふさがっていた。

 あの刺々しいタワーシールドをガンッと地面に突き立て、抑えていただろう殺意を迸らせていた。軍馬がふるえ、否鳴き声をあげて怯えるほどにも。……これより先へと抜ける者を、誰ひとり生かしはしないと。

 

 その強烈すぎる殺意から、思わず彼個人の怒りだと身構えてしまったが……、すぐに思い至れた。彼が誰に仕えていたのかを、生者への殺意すら自制させるほどの忠誠心をもたせられる主君―――

 

「___ゴウン殿。何のつもりだ?」

 

 振り返り、思わず詰問していた。

 デスナイトが立ちふさがっているということは、つまり彼があえて止めなかったということ。……帰してくれると言いつつ、逆のことをしてきた。

 

「どうぞ、お気になさらずにお帰りを。ただ、あなた方がいなくなった後、()()()()()()()()()()()()()()だけですから」

 

 デスナイトには、切り殺した者を[従者の動死体(スクワイアゾンビ)]に変える力がある―――。そして、その[動死体]が殺した者たちもまた、アンデッドになる。元凶たるデスナイトを消滅させない限り、アンデッドは無限に増え続ける。

 

 恐ろしすぎる能力に、ゾッとさせられた。あれほどの武人でありながら、そのような力も備わっているとしたら……。下手をしたら国が滅びる。

 さらに戦慄させられた。そんなデスナイトに、絶対の忠誠心を抱かせている目の前の彼は、どれほどの……。

 

 恐ろしすぎる、というよりも途方もなさすぎて、棚上げすることができた。……俺の限界を超えすぎてる。

 切り替えて/放棄して、現実の問題と向き合った。

 

「___なら、なぜ助けた?」

「最適な時を待っていたのです」

「我々ごとやらないのは?」

「王都に戻ってくれれば、より亡者を作る機会を作ってくれるからです」

「……なぜ話した?」

「貴方が私のことを信じ抜いているからです。『ゴウン殿はそんなことするはず無い』と」

 

 そしてソレを、王も信じるから……。ゆっくりと確実に/安全に、王国と国民を丸ごと飲み込める。自分がその一助となってしまう。

 

 ___なぜ、そんな手間をかける?

 その暴力でねじ伏せれば良い……と考えてしまうのが、俺の限界なのだろう。人知を超えている彼は、一切の抵抗/禍根すら許さないのだろう。驕りも侮りもしない。

 

「ご安心ください。あなた方が亡者となった村人たちと見えることは、ありません。またココに戻ってこられる前にはもう、全員を別の場所へ移動させ終えているので」

 

 彼らが本当に亡者にさせられたのか? 疑いながらも信じ続けるしかない……。おそらくそうなっても俺は、やはり信じてしまうのだろう。

 

 ___なぜ、そんなことをする必要があるのか?

 無意味な質問だ。……答えはもう、一つしかない。

 

 

「___我々で彼を……倒せ、と?」

 

 

 搾り出すように答えると、彼はニヤリと笑った気がした。

 

「皆様全員で戦えば、まあ勝機も増えましょうが、止めたほうがよろしいかと。……おそらく半数は確実に、亡者になるでしょう」

 

 あまりにも楽観的だ。全員亡者になるに決まっている。かのデスナイトなら、率先してそうすることだろう。一番厄介だろう、俺の心をへし折るために。……人質かつ敵にもなる。

 俺一人で戦えば、犠牲はでない。逃げに徹せさせれば、鈍重なデスナイトは追い回してこないはず。……しかし、勝てるイメージが沸いてこない。

 彼もまた大恩人だ。たとえその首を落とせるチャンスが巡ってきたとしても、躊躇いが起きないわけがない。あれだけの殺気を放てる相手に、こんな中途半端な気持ちでは……、勝てる戦いでも勝てない。

 

 さらにトドメと、『ルール』も課してきた。

 

 

「___一日一時間以内。その間に倒しきれねば、その日は諦めてください」

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

 そうして一ヶ月経った今日もまた、倒せなかった。

 

 本気で戦ってない、わけではない。でも必死ではないことは、認めるしかない。

 自分と対等に、防御という面ではふた回りは優れている相手と戦えるのは、一剣士として楽しくないと言ったら嘘になる。日々学ぶことができて、己の弱点と無駄が鍛え直されるのが分かる。……強くなっている、実感がある。

 そしてなにより、こんな中途半端な状況に拍車を掛けてくるのが、

 

「___戦士長、今日もお疲れ様です!」

 

 部下たちの朗らかな顔だ。

 鎧は完全に脱いだ麻の衣服にて、農具や大工道具を担いでいる。騎士だと言われても疑われるほど、ココに馴染んでいた。王都ではあまり見かけないほど、生き生きとまでしている。

 皮肉など一切ないことは分かっているが、苦笑を返さざるを得ない。

 

 デスナイトととの毎日の戦いが、日常の催し物になっていた。

 部下たちはもちろんのこと、村人の特に若い男たちにとって。身近で毎日高レベルな激闘を見物できるのは、眼福だとか。部下たちがわざわざ解説役までかってでては、交流を深めていた。……賭け事にまで発展していないので、咎めることはしないが。

 戦い終えた後は、壊された家屋や畑の修繕などを手伝った。かなり荒らされてしまったがもともと小規模な村、力あり余している大の男数十人あまりで取り掛かれば、10日もしないうちに元通りになった。それから改築まで手がけている、さらには土地や森の開墾作業までも。その傍らでなぜか、村人たちに軍事訓練をつけることまで。

 大いに不満が出ると思っていた。が逆、カルネ村での生活を満喫している様子だ。

 

 さすがに咎めるべきと、戒めようとしたが……副官に止められてしまった。

 

「___まあ落ち着いてください。王都への連絡については、部下を赴かせましたので、戦士長が健在であるのは陛下にもしかと伝わるはずです」

 

 そう、デスナイトはほぼ俺の行動を注視しているだけで、部下たちについては無視している。村を出て森に向かおうが、視線はさすがに送るも止めはしない。

 それならばと、いっそのこと馬で駆け出してもやはり……追いかけることはせず。部下には、こたびの件の報告をさせることにした。

 

 そこまで無視するのならばと、いっそのこと部下たちは全員王都に戻るよう指示してみた。さすがに動くかもしれないが、馬を使いバラければ逃げ切れる。

 しかし部下たちは、その必要は無いと、村に厄介となりその分毎日働くことになった。

 

「___村を出るときは堂々と、戦士長とともに」

 

 ソレを言われてしまったら……、返す言葉がない。

 あとはただ、俺の力量の問題。デスナイトを単独で倒しきれるかどうかだけだ。……そして俺は、ソレに必死になることができないでいる。

 

 現状は不本意ではあるものの、問題は少ない。今はこのまま、流されるがままでいても良いのかもと……、思い始めていた。

 しかし、そんな隠居じみた怠惰な考えは、王都からの返報で引き戻された。

 

 

「___戦士長、陛下から『体が癒え次第、直ちに帰還するように』との伝言を承りました」

 

 すぐに帰還できず、かと言って事情も説明しづらいので、仮病を使うしかなかった。……陛下を騙す行為は、大変心苦しくあったが致し方がない。

 ただ仮病ではさすがに、5日が限度だろう。それ以上引き延ばせば、王宮の典医まで派遣してくれそうになる。嘘がバレてややこしいことになってしまう。

 ちょうど有効期限ギリギリのその時、別の言い訳をひねり出すしかなかった。

 

「……そうしたいのは山々だが、動けない事情がある。

 ゴウン殿からも許可を得ている。かのデスナイトについても含めて、もう一度陛下に伝えてくれないか」

 

 助力してくれた謎の魔法詠唱者に、デスナイトという凶悪なアンデッドを吹っかけられた。倒さねば村人が危ないので、身動きがとれないでいる……と。

 まさに現状そのままだが、おそらく誰も/自分が王宮にいたとしても、にわかには信じないだろう。

 

 ゆえもあり、はんば予想していた厳しげな第二の返報がきた。

 

 

「___戦士長、皇太子【パルブロ】殿下から『父上を心配させるな、即刻帰還せよ!』との伝言を承りました」

 

 殿下からか……。ならば、『貴族派閥』の意向でもあるだろう。

 本当は戻らせたくなど無いだろうが、敵は見えない外よりも内におきたいのか。刺客を差し向ける絶好の機会ではあるのに、自分たちの手は汚したくないのか。絶対に殺せると確信していた暗殺が失敗に終わり、火消しに忙しいのかもしれない。

 どちらにしても、陛下の『勅命』は引き出せなかった。徴集に応じなければ即刻懲罰することはできない。陛下と貴族派閥との溝の深さが、目に見えてくるようだ……。逆に陛下から、「すぐに戻らなくて良い」とのお墨付きにも、なってしまった。

 なので、副官とともに予め考えていた『お断り』を、持たせることにした。

 

「……そうしたのは山々だが、動けない事情がある。

 我々は武辺者。戦乱あれば粉骨砕身の働きをみせてみますが、今の王都は平穏無事。我々は穀潰しにしかなりません。殿下のご威光とお力が及ばぬ時には必ずや駆けつけますので、今はどうかご容赦を」

 

 おそらく大変お怒りになるだろうが、できることは無い。面子を潰されたと、懲罰軍をさしむけるべしと訴えでもしたら、皆が/特に仲間の貴族派閥からこぞって反対する。……コチラが動かない限り、彼が欲しがっている『威光』は手に入らない。

 陛下をまたお一人にしてしまう結果になったが、少なからずも仕返しができたのは、胸がすく思いがする。

 

 

「___戦士長、第二王子【ザナック】様から『此度の働きにより、叙勲と報奨をしたい。王都に戻ってくれないかな?』との伝言を承けたわりました」

 

 第三の返報をもってきた部下は同時、高級な回復ポーションやら滋養効果のある薬などが詰まった大層な大箱を持ってきた。ザナック様よりの贈り物として、一日も早い回復をお祈りしているとも。

 商人たちを主に、幅広い人脈をもっている第二王子の派閥。強権的かつ戦争好きな皇太子とは違い、現実的な国家運営ができる方だ。返報も謙虚であり、高価な品々も贈ってくれた。

 とても有難いし、学識と品の良さを伺わせる。けど、ソレは表面上だ。

 コレはあからさまな『賄賂』。自分の頼みで帰ってくれたら御の字なれど、できなくてもこの高額な贈り物の品々がある。仮病といった以上は受け取らざるを得なくて、王子も公に/堂々と渡すことができる。王の信任厚い自分を、楽して取り込むことができた。……後で必ず『取立て』がくる。

 

 今度はしてやられた気分で落ち込むも、ゆえにも帰還するわけにもいかなくなった。……これで帰還してしまったら、それこそ第二王子の派閥に加わったと誤解されてしまう。

 また、練っておいた『お断り』を、部下に持たせることにした。

 

「……そうしたいのは山々だが、動けない事情がある。

 此度はただ職務を遂行したのみ。叙勲や報奨など恐れ多いこと。ただ『それでも』とおっしゃて下さるのならば、被害者たちや辺境で苦しむ者達へのご配慮に加えていただければ、幸いです」

 

 賄賂については、つっ返すべきなのだろうけど、結果的に居候させてもらっている身だ。カルネ村の人々に代金として受け取ってもらうことにした。……賄賂の使い道として、これ以上は無いだろう。

 ついでに返報を持たせた部下にも、路銀として多くもたせた。できるだけ遠回りしながら/高級宿でも堪能しながら、王都へ行けとも。……次は誰が来るのか、少しでも気を揉まなくて良いように。

 

 

 そんな願いは虚しく、次の返報者が現れた。

 

「___戦士長、第4王女【ラナー】様より……コレをお渡しするようにと―――」

 

 黄金姫/ラナー様か……。珍しい名前に、つい興味が沸いてしまった。どの派閥にも属さないでいるのも下手に勘ぐりしなくて良い。

 渡されたのは、小さな木箱。上品ではあるが、とりたてて高級品というわけでもない。王族としての品を保ちながら、手紙以上の何かを渡すためだろう。

 

 封を切って開けると、中にあったのは、手紙らしき上質な紙と二つのガラスの小瓶だった。

 まず手紙を拝見すると、書かれていたのは……4つの紋様のみ。

 一つは、スレイン法国の紋章。二つは、リ・エステリーゼ王国の紋章。三つ目は、奇妙な/魔物の腕だろうか、8本もの指がある紋章。すべての指先から灯火のようなモノが描かれているが、一つだけなぜかバツ印がついている。最後の四つ目は、首なし馬に乗った大鎌をもった黒い死神だ。一般人にはただ不気味なだけの絵柄だが、俺にはわかった。思わず眉をしかめさせる、悪名高い傭兵集団[死を撒く兵団]の紋章だ。ソレには、大きくバツ印がつけられている。

 描かれているのはソレらだけだが、ちょうど真ん中にもう一つ分は描ける空白が残されていた。なぜあえてこんな描き方をしたのか……。

 

「何かの暗号でしょうか?」

「……分からん」

 

 あるいは意味など無いのかもしれない。……分かりやすくして欲しかった。

 

 次に二つの小瓶を確認する。それぞれ、色違いの粉が入っているようだった。

 一つを手に取り、よく観察すると……嫌な予感がした。

 コルクをあけ、中身の黒い粉をほんの少量手のひらに落とす。匂いをかぐと、ますます嫌な予感がつのった。それでも、確認せずには済まされないので、指先につけて舐めてみると―――当たりだった。

 

「___戦士長、もしやソレは……」

「ああ、かの[ライラの粉末]だ」

 

 戦場では、治療のための麻酔薬として公に出回っている。確かに麻酔効果はあるが、ソレ以上の副作用もある。吸引すると多幸感に包まれ恐怖を感じづらくなる。そのため治療以外にも、兵士たちを焚きつける/戦闘力を向上させるためにも使われてきた。……依存性が強く中毒になりやすいため、規制はされているが、勝利と死の恐怖の前では意味を成さない。

 なぜ彼女がこんなモノを持っていたのかは、無意味な問だ。王宮の誰もが少なからず持っているからだ。金さえ積めば幾らでも手に入る、王族ならば尚の事だ。彼女も常用していたのかと思うと、陰鬱な気分になってしまうが、憶測でしかない。送りつけてきた意味は、別にあるのだろう。

 

 最後に二つ目の小瓶を確認する。

 中身は[黒粉]とは違う/塩か砂糖に近しい半透明なものだが、用心に越したことはない。

 慎重にコルク蓋を開ける、中身を確認しようとして―――

 

 

「___ガゼフの旦那ぁー!! 村にいるなら出てきておくれぇーー!!」

 

 

 村中にまで響き渡った、地響きのような声に妨げられた。……思わず小瓶を落としそうになってしまった。

 

 声に聞き覚えがあった。あれだけの馬鹿デカさと豪快さでありながら、男の重低音とは違う女の声音だ。自分の知り合いともなると、該当するのは一人しかいない。

 村長からもらった仮宿から出て、声の主の下まで/村の玄関口まで駆けていった。

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

ゲーム時、誰でも使えたであろう「ファストトラベル」機能。転移後世界ではどのような扱いがベスト?

  • 使用不可
  • プレイヤーと共に転移した拠点のみ使用可
  • イメージできれば転移後の街でも使用可
  • 独自の転移系魔法の一種として変化
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