̄
胸の内で、大きくため息をつく。
「___これは反逆ですぞ、父上! 即刻懲罰軍を差し向けねばなりませんッ!」
長兄パルブロの怒鳴り声が、朝堂中に響き渡る。
大げさなまでの怒りの演技。半分以上は本気だろうけど、朝堂の中心になれてる陶酔感で演技であることは忘れてしまっているはずだ。
「懲罰とは、穏やかではありませんな。どんな罪を犯したというのですか?」
次兄ザナックのいなし。皇太子たるバルブロが強行してきた以上、反論できる人間は限られている。ソレもどういう言い回し/雰囲気を醸し出せればいいのか、心得ている人物でなければ。
「決まっておろう! たびたびの帰還命令を無視しての居座り。
父上直々の派兵を良いことに、かの村一帯を不法占拠しておるからだッ!」
自分の決めつけでありながら、あくまで『父上』を強調してくる。それもさりげなく、公私混同を控えるなら『陛下』であるべきなのに。……長兄らしくない小賢しさだ。
省みれば、どこかセリフを述べてるわざとらしさがあった。誰かが入れ知恵をしたのだろう。……おおよそ見当はついているけど。
「まだそうとは決まったわけではありません。もしもそのような厚顔無恥な行いをしているのなら、周辺の街村から何らかの苦情が来るはずですが……私の下には伝わっておりませんよ」
すでに把握しているはずなのに、あからさまな素知らぬ態度。次兄の態度は明白だ。……そんな次兄に追随するように、王統派閥のボス【ブルムラシュー侯】の子飼いと取り巻きたちが賛同してくる。
王国を支える(笑)六大貴族の一人。領土にミスリル鉱山を保有していることもあり、財力では飛び抜けている。それでいて金貨一枚も渋るケチだとの噂もある。……貴族としては好ましいことではないものの、財務大臣としては優れた性質ではある。
なので当然、長兄は青筋を立てながら、
「ならばなおのこと、確かめるためにも軍を差し向けるべきだろう!」
長兄の声に、声上げずとも賛同の意を表している者達。特に、長兄の義理の父親でありいわゆる貴族派閥のボスである【ボウロローブ侯】の子飼いと取り巻きたちだ。
老いた今でも武将としてならした威厳は健在で、ドッシリとした重々しい空気圧を朝堂中に放射しつづけている。中央の王座にいる父/陛下よりも、王者の威風をもっていると言わざるを得ない。……ただし、あまりにも武力に寄りすぎた考えゆえ、文官たちを毛嫌いしてしまってる。
なぜ皇太子である長兄が貴族派閥と、逆に次兄が王統派閥となっているかは、この[リ・エスティリーゼ王国]の歪みそのものだからだ。
老いもあり弱々しそうにみえる父/陛下だけど、国の『安定』のためにこのような歪みを作り出した。身内びいきを抜きにしても、仕方がいないしよくまとめてみせたと褒めるべき勢力拮抗作だ。兄たちはもちろん臣下たちにも、そんな権謀術数をしたとは思わせない演技も含めれば、『凡庸』という評価は低すぎると思う。……ただし、何の解決にもならないけど。
王国は緩やかに衰退の坂道を転げ落ちていく。いずれ帝国に飲み込まれるか、はたまた天変地異で壊されるか、見放され老衰していくだけか……。どの結末であっても、未来を夢見れる人々には地獄だ。
「確かめるだけなら、軍などいりませんよ。幾人かの伝令を送るだけですみます」
「もし叛心あってのことなら、どうする? その者らは無駄死にするだけだッ!」
自分の栄光のためならば、部下がいくら無駄死にしようとお構いなし。むしろ、自分のために死ねることは光栄なこと/できない部下はゴミか犬畜生だとも思い込んでいる。……実の父親よりも、義理の父によく似ている。
かという次兄もやはり、部下は道具としか思っていない。使えるか使えないかだけ。表面は博愛主義で覆っている分、長兄よりも残虐で陰湿なところがある。……次兄もやはり、義理の父によく似ている。
「……父上は、負傷が癒えてからで良いとおっしゃられた。ガゼフの忠義ぶりは皆も知っての通りだ。本当に、まだ王都には帰還できないほどなのだろう」
「そんなわけがあるかッ! 仮にも『王国戦士長』の座につかせている男だぞ。療養するにしても長すぎるわッ!」
「ただの負傷ならば、たとえ血を流したままでも帰還してくるのでしょうが、毒を受けてしまったのなら話は別かと」
あるいは、疫病を患ってしまったとか……。言外の警句に、さしもの長兄も言葉を詰まらせた。
「……そのような重大事項ならば、ハッキリと伝えてくるはずだが、奴はしてこなかったぞ」
「できなかったのですよ。自分が戦えないと知られたその隙に、帝国が侵略してくるのを防ぐためにも」
チェックメイトだ。長兄はもう動けない。
それでも我を通される前に、いちおうは中立を標榜している(けど実際は王統派)【ベスペア侯】が割り込んできた。
「ならば、医師か聖職者を派遣したほうがよろしいかと思われますが、どうなさいましょうか?」
「コチラから派遣しては、彼の戦略を壊してしまいかねない。
安心して欲しい。医師の代わりに、古今東西の解毒ポーションを贈っておいた。危機的な状況であってもすぐに回復することだろう」
最後に柔らかな微笑みを向けると、臣下たちに安堵の空気がひろがった。貴族派閥には苛立ちと不満が聞こえたが、朝堂の空気がそれを許してくれない。
勝敗が決したのをみると、いままで黙っていた父が審判を下してきた。
「ザナックよ、素晴らしい心遣いだ。ガゼフめの代わりに礼を言おう―――」
そう言うや、軽くだが本当に頭を下げてきた。
これにはさすがの次兄も驚いたのか、慌てて弁解してきた。
「恐れ多いことです父上! 彼は我が王国にとってかけがいのない人材。この程度のことなど、当然のことであります」
恭しく頭を下げ返した。
勝ちすぎれば恨みを買う。今回は次兄の勝利は揺るぎないものの、コレを『傲慢』と解釈されたら次は不利になる。父がガゼフを寵愛しているのは皆に知れ渡っていることなので、頭を下げるのは不自然には映らない、父へ反感を持つ者はいないだろう。けど次兄がただ嬉しそうに受け取っただけならば、長兄達に突かれることは間違いない。意図はどうあれこの場で頭を下げさせれば、恨みの持ち越しは不可能になる。……父の『安定』の望みは叶う。
コレでこの場は丸く収まったけど、唯一私の『望み』だけは叶っていない。くだらない政争/三文芝居に付き合わなければならないのは不愉快極まりないけど、求める未来を掴むためには演じきるしかない。
「___あッ!? 思い出しましたわ!
私もガゼフ様に、お薬を贈ってしまいました……」
唐突な私の介入に、皆の視線が刺さってくる。邪険にしたり侮蔑したり警戒したり、あるいは好色な視線まで。
自分でも少しわざとらしいとは思うも、無理にでも差し込まないといけない。何もせず流されるまま/黙ったままだと、いづれやってくるだろう最悪な未来線へと進んでしまう。……私の『婚姻話』を、政治の道具にするという未来が。
「でも、お兄様が贈ってくれたのなら、私のは余計なモノになってしまいますね……」
しょんぼりと目を伏せた。……さすがに涙まではにじませなかった。
皆にみせる演技なれど、一番の目標は父上だ。愛娘のワガママだと言外にアピールした、陛下ではなく父上として答えやすいように。
「そんなことはないぞ、ラナー。お前の優しさはきっと、ガゼフにも伝わるはずだ」
通った! ……父が抱いてるだろう『誤解』を否定しきらず/匂わせながらの綱渡り。
心拍が亢進してしまうが、気合で落ち着かせた。ここからは一歩でも踏み外したら、最悪に落ちるだけだ。慎重に進まなければならない。
「そうだと良いのですが……。
ザナック兄様、この頃
ドキリと、心臓が跳ね上がる音が聞こえたような気がした。矢面に立ってる次兄は、見事にも押さえつけてみせたけど、取り巻きたちの中にはできなかった者が何人か現れた、顔色まで変えてしまった者までも。
ハッキリと、この場の皆にも示せるような証拠はまだ何もないけど。次兄たちがこの機会を利用して、『例の薬』やら色んな商品を輸送したことは掴んでいる。彼の取り巻きたちの動揺ぶりからも、確信を深められた。
もちろん、私が知っていることは知られていない。知られても問題はない、どちらにとっても。けど、長兄は違う。今すぐは分からなくとも、気づきの種を蒔いておけば、彼の取り巻きにも知略を巡らせる策士はいる、時限爆弾の導火線に火をつけたも同然だ。……そんな最悪な未来を想像させることができた。
「……王宮の典医に見繕わせたモノだからな、市井で流行してるモノは入っていないはずだ。
心配なら、後で目録を見せてあげよう」
「ありがとうございます、お兄様」
狙いは順調だ。恐怖に取り付かれれば、未来のことなど/自分たちの利益など二の次だ。……
―――
……
朝堂からでると、癒しが待っていた。
「___お疲れ様です、ラナー様」
金髪の忠犬【クライム】だ。……今朝見たよりも一段と、男らしくなった気がする。
忠犬といっても、ちゃんと人間の青年。主人である私が帰ってくるまでココで待っていて、顔を見ただけで嬉しそうにする。おそらく尻尾があったら、ブルブル振っていることだろう。
ほかの人間/特に仕えてる侍女たちが同じようなことをしたら、裏にある薄汚い思惑が見えてしまい、吐き気を抑えるのに必死になってしまうけど、彼にソレはない。王都の裏路地で捨て犬だった時から今まで、ずっと変わらずにその瞳はキレイなままだ。
クライムがいるからこそ、今日も生きてられる。私も含めてこの世界に、その瞳以上に価値あるものなど無い。ソレを向けられている限り、私は私が生きていることに納得できる。……彼からすれば、逆なのだろうけど。
嬉しくてコチラこそ、無いはずの尻尾を振りたくなってしまう。すぐに抱きついてしまいたいけど、なんならそのままベッドまで―――……、グッとこらえた。
今の彼の立場は、かなり微妙だ。もう年頃の青年ということもあり、王族の公主である私とはいつも一緒にはいられない。従者&護衛ということにしているけど、まだ若いこととの武術の才能も乏しいことから、私にはふさわしく無いとの評価が下されている。何より、私の存在を疎ましいと思う輩が、真っ先に標的にしてくる。この海千山千が蠢く政界にて、こんなにも分かりやすい弱点を晒すのは愚の骨頂だ。……それでも、できる限り彼と一緒の時間を作りたい。
なので、そっけない態度を取るしかない。ただの遊びなのだと、いつでも切り捨てられるオモチャなのだと、印象付け続けなければならない。
「皆様、いつもの客間にてお待ちになっております」
「……そう」
何気なしに通り過ぎただけ、漂ってきた良い香りによろめきそうになった。……ああ、言ってるそばからこれだ。
朝堂の最中、さすがに暇を持て余しているからと、この場でもできる訓練に勤しんでいたのだろう。首筋や額に汗の跡がみえる。あのフルプレートの鎧の中は、もっと匂いが篭ってるのかなぁ……ゴクリ。
劣情がこみ上げてくるのを感じる。必死で抑えて、彼の理想たる『黄金姫』を被せた。
これしきではまだまだ私の偽装は破れない。逞しく成長した彼にめちゃくちゃに乱暴されるのは、すぅぅぅーーー……ごくッ!理想的だけど、現状ではもっと別の欲求があるからだ。対立しあう二つの欲求のおかげで、『黄金姫』に戻すのは割と簡単だ。
クライムを従え自室に戻る。周りの目があるとはいえ、貴重は二人だけの時間だ。心なしゆっくりと歩いていた。
彼のあのキラキラした視線を注がれていると、ただ歩いているだけで幸せだ。せめぎ合う二つの大欲ではなく、本当に今の『黄金姫』のままでも良いのかもと思わせてくれる、心穏やかになれるひと時……。
―――もう、自室にたどり着いてしまった。
ほんの一瞬のようでも、何時間も経ったかのようにも思えた。とにかく幸福感だけは確かに残っている。
充分に堪能できたとは、いつもいかない。けど終わりは訪れるもの。切なくはあるけど、次の楽しみを思えば乗り越えられる。
クライムに扉を開けてもらうと、そこには馴染みの友人たちが待っていた。
「___お待たせしました、【蒼の薔薇】の皆様。わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
座っていた席から立ってくれる二人に「そのままで」と、自分も彼女らの向かいの席/いつもの自分用の席に着席した。
「こちらこそ、素敵なお茶会にお招きいただき光栄ですわ、ラナー王女」
「もう【ラキュース】たら、ここでは『王女』は要らないて言ってるのに」
いつもの挨拶を交わしていると、クライムがお茶を持ってきてくれた。侍女が用意したモノを受け取っただけではなく、彼手づから入れて持ってきてくれた。
クライムには、剣の才能というものが無いそうだけど、従者としての才能はあるように思える。子供の頃から教育して慣れていることもあるけど、彼の嘘偽りない真心がそこかしこにこもっている。表面的な技術など誰でも/スパイで金に汚い侍女たちでも身につけられることだけど、この紅茶の味はもう彼にしか出せないものだ。
「貴族としても冒険者としても、ワガママを通させてもらってるので、それぐらいはしないとね」
あ、そう……。つい、どうでも良いとの本音がこぼれそうになった。代わりに、「あいかわらず律儀ね」と快活に親愛の情/少し憧憬を込めて。
もう一人にも挨拶をする前、彼女たちが二人だけなのを言及しておく。
「……【イビルアイ】さん達は今回も、お越し下さらなかったの?」
「ここの綺麗すぎる空気が、どうもダメらしくてね。真昼間てのも良くない。【ティア】と【ティナ】は監視中だ。
3人とも一応は『コイツ』を通して聞いてるらしいんで、堪忍してやってくれ」
筋肉質かつ大柄な女戦士は、彼女には似合わないピアスを見せてきた。
【
この王宮でも、それらしい品物をたびたび見かけた。ピアスだけではなく様々な形がある。魔法を軽視している王国では珍しいけど、現実と効力を正しく見極められてる古狸たちはいる。重要視できてる帝国のことも考えれば、自ずと誰がどこに仕掛けたのかがわかってくる。……排除するよりも、そのまま泳がしたほうが何かと便利だ。
「それじゃさっそくだが、お姫様の『頼み』てのを聞かせてくれないかい」
「いつもながら単刀直入ですね、[ガガーラン]様は」
「『様』はよしてくれ、背筋が痒くなっちまう」
苦笑しながらも、豪快な振る舞い。声も低めなハスキーなので、胸の特盛がなければ巨漢にしかみえない。貞淑やら礼節やら恥じらいなど、貴族の美徳とされている淑女とは真逆な存在だ。
彼女は少しだけ警戒に値する。その戦闘力はもちろんだけど、獣じみた直感だ。証拠も過程もすっとばして、ズバリ答えを導き出す。そして何のためらいもなくさらけ出してくる。心に疚しさが無いものには好まれるだろうけど、残念ながら私の中は真っ黒だ。……あるいは空っぽだ。
偽装がバレないよういっそう注意しながら、こたびのお茶会の趣旨を告げた。
「北西の辺境、【ドブの大森林】に接してる[カルネ村]に行ってもらいたいのです。その村に滞在されているガゼフ戦士長に、コレを直接渡して欲しい―――」
棚から、予め用意していた贈答品を渡した。
品は良いけど控えめな白い箱。ギリギリ王族の体裁を整えている、権力の無い黄金姫にはピッタリな外装。
「……中身、拝見してもいいですか?」
「どうぞ」
狙い通り冒険者としての警戒心を発揮してくれて、胸の内でほくそ笑んだ。
中身は、なんの変哲もない手紙と二つの小瓶。ほかの者達ならともかく、彼女たちならば見られて困るものでは無い。ソレを了解してくれるから、いっそう注意して確実に届けてくれる。
ただソレ以上に、私が避けなければならないのは、
「なんだぁ、恋文じゃねぇのかよ。
良かったな『童貞』」
悪意は無い/いつもの軽蔑語に、控えていたクライムは苦笑するしかなかった。……よかった、まだ童貞なんだ。
彼に誤解されてしまうのだけは、避けたかった。ガガーランなら間違いなく覗き見して、そうクライムを茶化してくれる/「彼とは仕事だけの関係」と伝えてくれると確信していた。……あなただけの私なんだと。
ガガーランの童貞識別センサーは、素晴らしい精度を誇っている。彼女がハッキリそういってくれるのなら、クライムは清い体のままだ。……彼女をここに連れてきた意義は、それだけで充分以上にある。
でも同時、彼女は童貞喰らいという悪癖があるので、目を光らせておかなければならない。いつ彼女なんかの毒牙にかかってしまうのか、心配で心配で……興奮してしまう!
ただ、彼女が初めてならば構わないのでは? 他の芋娘や薄汚い侍女で済ませるよりも、心の傷(私の)は浅い。少なくとも経験でき、それなりに技術を磨けるはず。私がリードしたいけど、コレばかりは私でもできない。彼にリードしてもらい『はじめて』を貰ってもらう方が、望む未来だ。本当はどちらも『はじめて』同士が最高だけど、はじめては上手くいかないのが常説。……彼が『汚される』のは嫌だけど、ガガーランならまだマシだ。
『あのこと』を考えると、やはり憂鬱になってしまう。避けては通れない道だし、きっと二人をさらなる高みに登らせてくれるとは分かっているけど、傷つけ合わなければならないのは悲しい。万が一にも、今の関係が壊れてしまったら……、想像するだけでも背筋が凍る。
「こっちの小瓶のは……、最近出回ってる『アレ』ですね」
「ええ。戦士長にそのことについての注意と、できれば協力を」
絶望の想像から現実に引き戻してくれた。……やっと役に立ったわね、ラキュース。
彼女は、童貞喰らいなんて悪癖もなければそもそもそっち方面の興味は薄い。乙女チックやら英雄譚好きとは違う、名状できない特殊な趣味を持っている。けど、容姿や性格や家柄すら良し、おまけに王国唯一のアダマンタイトのギルド所属だ。私をよく『天上の輝きをもった神玉』と称すると、彼女を『生命の煌きをもった宝玉』と評する。言い得て妙だ。彼女に惹かれない男性などいないだろう。……クライムすらも。
私のいないところで二人きりになることだけは、絶対に避けなければならない。年齢以外はお似合いな二人ではぜぇぇぇーーー…たい無いッけど、あの瞳の輝きを汚すわけにはいかない。もしもちょっとでも、クライムが彼女に劣情なんて抱いてしまったら、もう……もう―――
「……動いてくれますか?」
「大丈夫。
そう、貴方の役目も『動かない』こと。ここにいるときは私の影として掠れて、クライムが目もくれないようにしていること。……彼の視線を全てディフェンスしつづけるのは、なかなかに骨が折れることなんだから。
「もしかしたらだがね。アタシらは目立ちながらその村に行ったほうが、良かったりするのかい?」
「さすがガガーラン様! 話が早くて助かります」
そう、貴方の役目も『目立つ』こと。魅力があると思い込んでるようだけど、大抵の男性には威圧感しか与えてない、たぶん喰われるて恐怖。……怯えていながらも踏ん張っている彼の姿は、私にとっては何よりの潤いだから。
「彼がどうして長逗留しているのかは、分からないけど、私たちにとってはチャンス。普段はお父様しか振るうことができない王国随一の剣を、使わせてもらうことができる」
私にとっては窮地。あのまま殺されるのは、求める王国崩壊のソフトランディングにとって必要なことだったけど、すぐに帰還せず長逗留されたのはマズいことだった。ガゼフが
最強の武力を個人で保有している。ソレはつまるところ、
そんな絶妙なバランスを保っていたのに、まさか生き残り、まさかまさか『独立』してしまった。まだお父様の手から離れたとは言い切れないけど、そうする『意志』を見せてしまった。もはや王宮に帰還したとしても、彼の忠誠心を疑う声を止めることはできない。ソレを真に受けてしまえば/聞かされ続けるだけでも、ますます独立せざるを得なくなる。……そして圧政に苦しんできた民衆たちは、彼の独立を歓迎するだろう。
つなぎ止める為には、もっと厚遇しなければならない。自分たちと同じ、いや王族の一員にして縛り付ける必要がある。平民たちの英雄にはさせてはならない。……私との婚姻話が、出てきてしまう。
しかもお父様は、ソレを歓迎している節がある。ただ勢力均衡のためだけでなく、本当に彼の忠義に惚れ込んでいたのだろう。コレを機に自分の『新しい息子』にできれば、お父様にとって最良の未来が開けてくる。
いまは六大貴族がのさばっているとはいえ、王国は絶対王政。陛下が勅命を出せば、臣下は絶対に従わなければならない。お父様が彼を王族の一員にして、さらには後継者にすると決めたのなら、表立っては誰も反対できない。
(誰がこんなことを、ガゼフに唆したんだろう……)
謎の人物の助力と助言があったのは、間違いない。
私の望む未来へと至るには、その人物に働きかけるしかない。分からないづくし/準備不足すぎるけど、一刻も早くコンタクトを取らなければならない。できれば役に立つのだと、印象づけなければならない。……ここまで正解に不安を持ったのは、生まれて初めてだ。
「確かに、旦那ほどの戦士を王宮で腐らせておくのは、勿体なさすぎる。堅苦しい王宮なんかよりもそのまま外で働く方が、旦那にとっても悪かないことだと思うよ」
「私は少し複雑だけど……、お叱りぐらいなら受けて立ちます」
彼女らは、まだ気づいていない、これがどれほどの重大事かを。
王国の政変だけでは終わらない。帝国も必ず介入してくるだろう。直接暗殺しようとした法国だけど、白を通して友好関係を結ぼうとするかも知れない。商人たちも、新しい勢力の台頭に商機を見出すことだろう。……ガゼフは動かないだけで、大陸中の勢力を動かしている。
「ありがとう。これで少しでも、王国と民たちに明るい兆しが指すことでしょう」
だけど私の心は、暗澹たるもの。嵐の中、たった一筋の細い糸にすがりついてる頼りなさ。
王国の民たちはもちろんこと、ゴシップ好きなあらゆる老若男女たちにとって、黄金姫たる私と大陸最強の武人たるガゼフの婚姻など、最高に興奮することだろう。これ以上は考えられないほどのカップルだ。しかも、古い血筋の王族と平民出身の結びつきも加えれば、神様が引き合せたと思うしかない。
(本当に、誰がこんなにも悪辣な一手を打ったのよぉ……)
今すぐクライムの胸の中で、泣きじゃくりたくなるけど……できない。するわけにもいかない。現実は苦しすぎる……。
◆ ◆ ◆
「___というわけで来たわけよ、ガゼフの旦那」
少々長くはあったが、ガガーランらがここまで来た経緯は納得できた。
「そうか……。思っていた以上に、被害は広がっているのだな」
麻薬中毒……。王都の表通りを外れれば、すぐにそれらしい患者たちを見かけてしまう。真昼間から無気力で夢見心地で、垢まみれの衣服のまま路上に座り込んでる。幸いなことにまだ王国騎士団にはいないが、駐屯兵や国軍のなかには常用者が多数いる。戦争やモンスター討伐など後、重傷で戦えなくなった/日常生活すら困難になってしまった元兵士たちが、麻薬に逃げてしまうのもたびたびみてきた。
王国を腐らせる大問題の一つ。摘発しても次から次へと現れる。眉唾な噂であって欲しいが、一部の貴族たちは率先して関与し資金源にまでなってる始末。卑しむべき犯罪であるのに、もはや公然たる商売にまで成り上がってきて、王国の経済を支える柱にまでなりかけてるとか。……世も末だ。
「戦士長たちのお力をお借りするのは、かなり憚られるのですが……、このままでは衰退の一方。民たちは疲弊し、いずれは帝国に呑まれてしまう。
王国のためです。どうかそのお力、お貸しいただけないでしょうか?」
まだうら若き女性でありながら、王国の未来を憂いての義憤。コチラこそ恐縮してしまう。
「頼まれる以前に、私の職務でもある。冒険者の君らに背負わせてはならんことだ。むしら、頼まなければならないのは私の方だ」
感謝する……。深々と頭を下げた。今はこれぐらいしかできんし、コレでも足りないぐらいだ。
ただの武辺者でありながら、『王国』を背負っているかのような振る舞い。かなり不遜なことではあるが、誰かがやらねばならないこと。率先してやるべき貴族たちがむしろ悪逆に加担するのなら、俺がやるしかない。少なくともまだ若い彼女らよりも、励まなければならない。
「冒険者云々をアンタが気にすることはないぜ、旦那。『政治に不干渉』てのは建前で、ギルドのランクを上げるにはどうしたって『政治』と関わっちまう。ましてウチらみたいな老舗の[アダマンタイト]となると、無い方が不自然だ」
「それでも、ただの政争には関わらないようには勤めています。あくまで中立を保たれているお方とだけ、見過ごせない国難を排するお手伝いをさせてもらうだけです」
控えめな表現なれど、実績に裏打ちされたかのような力強さ/頼もしさすら感じた。
「[蒼の薔薇]とは噂通りの、いや噂以上の方々だったのだな」
賞賛を口にすると、酒を用意してこなかったことを悔やんだ。ラキュース殿とはちと支障がでてしまうが、ガガーランとは良い乾杯ができそうだ。
そもそも家にも招待せず、こんなだだ広い平原で座り込んでなど、失礼極まりないことだ。彼女らが辞退したので仕方が無かったが、逆に爽快なことではやはりあり得なかった、無理にでも招待すべきだった……。
しかし、今も目の端で捉えてはいる『彼』のことを思うと、致し方がないことではある。
「ただ……、頼んだ手前で恥ずかしい限りだが、ちと事情があってな、私はこの村から外に出られないのだ」
「その事情てのは、あそこでこっちを睨み続けてる……、アイツのことだな」
「そうだ。私が一人で彼を、倒さなければでられない、一時間未満でな」
今のアレはまだ『視線を向けてる』だけで『睨む』段階ではないが、人間を超えた殺気の濃度がそう警戒させるのだろう。何度も対峙している内に違いを分別できるようになったが、未だに馴染めない。……決して村の中には入らず外で不眠不休で門番をし続けてる彼の配慮を思うと、申し訳なくてたまらなくなる。
「アレを一人で、しかも一時間でか……。かなり無茶だねぇ」
「ああ。ここ一ヶ月ずっと挑戦してるが……、ごらんの有様だ」
情けない限りだ……。確かに尋常でない相手だが、必死で立ち向かっていないのは事実。互いに本気ながらも稽古をしているようなもので、毎度力を出し切れるのが楽しい。それなのに、仕方がないで誤魔化せてもしまう……。国難そっちのけで、一人で楽しんでしまっている。
「もしかして……、毎日やってんのかい?」
「村でよほどのことがない限りは」
部下たちと村人たちが森を開梱中、厄介なモンスターに遭遇してしまった時。急いで知らせてくれたらすぐ、現場に向かった。
その時は夢中であったが、今思えば村の外に勝手にでてしまっていた。モンスターを倒し、負傷者を連れ帰った後、ようやくそのことに気づいて慌てたが、デスナイトは気にする様子なくいつものごとく。俺が決して逃げないと、悟っているかのような泰然さだった。……ますます逃げるわけにはいかなくなった。
その後は、礼儀を込めて毎日対戦した。相変わらず必死さは出ないものの、真摯には向き合えては来た。殺し合いギリギリの戦いが礼儀というのは、我ながらおかしなことではあるが、彼とはソレが正しい関係だと今では確信できているほど。
「アタシもついちょっかい出しちまったがね。あまりに隙無さすぎ・硬すぎで、思わず焦って大振りしちまったら……、串刺しにされちまうところだったよ」
やはりガガーランも戦ったのか……。この平原に残る足跡やら、彼女の着ているフルプレートの鎧や体調からそうではないかとおもったが、やはりだった。あれだけのアンデッドを目の前にしたら、例え相手が積極的に攻撃してこなくとも、手を出さざるを得なかった……。
彼女が背負っている大槌から繰り出される、嵐のような連撃。分厚い城壁すら砕き穿つほどの武技。いくらデスナイトの防御は鉄壁だろうと、アレを捌ききるのは至難の技のはず。今回は使わなかったのか、それとも使用した上で捌かれたのか……。後者ならまだまだ、彼の鉄壁ぶりを過小評価していたことになる。
「ただ、私たち3人で協力すれば、倒すことは……不可能ではないと思いますよ」
神官戦士の彼女の力を借りれば、さしものデスナイトも倒すことはできるだろう。さすがに【
「それは……確かにそうだな。
ただ彼は、私と部下たちしいては村人たち全員の命の恩人でもある。見ての通りアンデッドではあるが、主人の命令を忠実に守っている。そんな彼の忠義に報いて恩義も帰したい。……私にできるのはただ、一人で倒すことだけなんだ」
公人としては大いに失格だが、譲るわけにはいかない。無視できない現状ではあるけど、できるとしてももはややらない。我ながら不純ではあるが、彼を超えない限り大義などありえない。
ひどいワガママぶりに、非難の二つや三つ受ける覚悟をしていたが、
「___まぁそういうわけなら、無理にとは言えないね。
今すぐ必要てわけでもなし。王宮に帰らずここに居座ってくれるだけでも、大いに手助けになるしなぁ」
「……どういうことだ?」
「これから訪問客が増えるかもしれません。戦士長なら心配など要らないでしょうが、不貞な輩には十分お気をつけてください」
意味深さに首をかしげるも……、わからない。
ただ誰であれ/何であれ、この村を二度とは蹂躙させるつもりはない。
自分の話は一区切り着いたので、今度は聞き出したかった『贈り物』のことを尋ねた。
「かさねて確認だが、本当に君たちもこの手紙の意味は、知らないのか?」
「はい。渡せば分かるとのことだったのですが……、そうではなかったみたいですね」
旦那への恋文じゃなくて、残念だったねぇ……。ガガーランの茶化しに、顔をしかめるよりも首をかしげた。なぜ彼女が、俺などに恋文を贈るんだ?
ニヤニヤと意地悪い笑みを向ける彼女に、ラキュースがコホンッ!、咳払い一つたしなめてくれた。
「コチラの小瓶は、かの[ライラの粉末]だろうが、こっちの小瓶のは……『新薬』ということで間違いないのだな」
「まだ一部でしか出回ってないですが、[黒粉]の数倍は効果が強い。そのくせ何故か格安で売られてました。誰かが故意に広めようとしてるのなら……、すぐに取って変わられるでしょう」
「たしか【シャルティアの雫】とか呼ばれてたな。ずいぶんとこじゃれた名前をつけたもんだよ」
[黒粉]にもあやかって【雪粉】とも……。黒ならば白だろうが、[白粉]では化粧用の
「王都に巣食ってる犯罪組織、【八本指】とやらが関わってるのか?」
「そうだと踏んでたんだが……、どうも新手の別口らしくてね。常連客をどんどん取られちまってるて、売人共が泣き言ほざいていたよ」
「彼らに尋ねてみても、正体不明としか。客たちに尋ねてみても、あまりにも強すぎる効果なのでか、前後の記憶が曖昧になってて……参考になりませんでした」
「ただ不思議なことに、黒粉自体の供給量も減っちまったらしくてね。商品も無ければ売れないときたら、もう商売は畳むしかなくなる」
「そこで、以前から目をつけていた黒粉の製造元、大規模な芥子畑を営んでる農場に…確認しにいくと、かつてよりも繁盛している様子でした」
「……新手の売人が、全て買い取っていると?」
「ソレもかなりの大盤振る舞いでだ。以前の仲買人がいかに端金でこき使ってたのかも知れ渡って、『お前らみたいな詐欺師共とは二度と関わらねぇ!』て絶交言い渡したとさ」
資金力はそもそもあり、金を稼ぐことが目的ではないかもしれない。わざわざ喧嘩を売ってまでは独自で、高品質な新商品を売っていることをみるに、『商売』そのものを奪うのが目的ともとれる過激さ。
「それで、新手の売人について正体は聞き出せたのか?」
「彼らも詳しくは知らないらしいんです。
ただ、受け渡し方法が独特でした。指定された倉庫に収穫した芥子の実を詰め込んで、扉を閉めてそこに『輸出可』との紙を貼っておくと……、半時内にはもう倉庫の中は空っぽになっているそうです」
「代わりに、大量の代金が置かれてる。……あとついでに、『次もよろしく』てな納入書もつけてたな」
やっていることは破天荒なのに、そこだけは律儀だ……。想像しただけでもとてもシュールな光景で、どう反応すれば良いのか困ってしまう。
「……どうやってそんな、大量の物資の輸送を?」
「地下倉庫はあったのですが、地下トンネルはなかったんです。密室でしたので空からは不可能でした」
となると……、答えは一つだろう。
「転移の魔法、ということか?」
「おそらくな。……そんな奇跡みたいな大魔術、誰ができるのかわからねぇけど」
肩すくめた気負わずだったが、意味する恐ろしさは十二分に把握している様子だ。
「誰か倉庫の中に潜んで、ともに送られてしまったことは?」
「あったらしいぜ。でも、代金とともに無事に送り返された。ついでに『二度とするな』て警告付きでな」
「巻き込まれたのは子供だったこともあって、ずっと寝てただけらしいです」
「かつての仲買人たちは、確かめなかったのか?」
「そいつらは戻ってこなかったらしいぜ」
その後のことは、手に取るように分かった。もはや誰も、確かめようなどとしなくなったのだろう。……おそらく、言及もしなくなったはず
「ほかの連絡方法は無いのか?」
「村長宅に置かれている、木箱に収められている紙の束です。そこに伝達事項を書いて収め直せば、半時内には向こうから返事が書き込まれているそうです」
「調べさせてもらえたが、何てことのないただの木箱と紙束だったぜ。念のため【
「一度、かつての仲買人たちに奪われたらしいのですが、その後すぐ、今度は机の引き出しに入っていた紙に連絡が書かれていたそうです。『新しい木箱と紙束を用意しろ』と」
とてつもない……。まるで全て見通しているかの様、あるいは超常の存在か。
「……話を聞いていると、人間の仕業とは思えんな」
「村人たちにとっては、救いの神様だ。正体不明ではあるが、ご利益しかねぇんだからな」
「犯罪ではあるのですが、かつての村の貧困ぶりを伺っていると……、一概には断罪できませんでした」
麻薬製造村の貧困……。考えたことはなかった。不正によって得た金で豪華に暮らしていると、勝手に想像していた。
しかし、芥子畑の育成と麻薬製造までの過程の困難さしかり、不法であることも鑑みれば、関係者全員が富豪になれるとは考え難い。誰かが儲けたら、他全てが搾取されていると同じ。金勘定をしてる暇のない製造元が、ダテを食うのは明白だ。
となると、製造元を潰すだけでは問題は解決できない。麻薬は作れなくなるだろうが代わりに、路頭に迷って餓死する国民を大勢作ることになる。
「しかし……、止めさせなければ。彼らは良いとしても、王都の人々が苦しむだけだ」
「まぁそいつは正論だが……、他に特産品があるわけでもなし。そもそも急に商売の鞍替えしても、生活の道が成り立たねぇ。国が気前よく補助金を出してくれるのなら話は早いが……、そいつの見込みはもっとあり得ない」
「ラナー王女とも話し合いましたが、『今は目をつぶる』とのことです」
……それが賢明だな。
他にどうしようもない。一番の問題は麻薬ではなく、国政を司っている者達にあるのだから。金払いが良く、本来は最も儲けるべき製造元が潤っている形は、理想的ともいえる。彼らも犯罪者だが、同時に犠牲者でもあった。育成者や技術者として、優秀であることは間違いないだろう。……遵法精神や倫理観の出番は、飢餓感が解消された後だ。
「ちなみに、確認できただけでもそんな村は他にも2つほどあったぜ。……皆似たような状況になってた」
「皆かつては八本指の傘下だったのですが、今ではその『新手』のモノへと変わってました」
「これからドンドン増えてくるだろうぜ」
販売ルートを奪うよりも、製造元そのものを奪いに来た。しかも今までの不正を告発して、彼らが自発的に従ってくれるようにも仕向けている。……八本指にはもはや、彼らを引き止める術が暴力しかない。
ただ、暴力で従わせるのは最終にして緊急手段だ。再統治に失敗すればストライキ、もしくは反乱まで起きたら……、八本指そのものの存亡の危機になる。貴族達もソレに乗じて漁夫の利を得てくるだろう。もともと反社会勢力ゆえに誰も助けやしない。……使うに使えない。
盤上ゲームで言うところのチェックメイト間近だ。不正蓄財や邪なプライドをかなぐり捨てなければ、退路すらままならないだろう。
「そんでもってだよ、旦那。
実はこのカルネ村も、その『新手』の傘下なんじゃないかと、私らは踏んでるんだよ」
寝耳に水だ。一瞬何を言われたのかわからなかった。
「……ここでは、芥子など栽培していないはずだぞ?」
「ところが、新しく開墾した畑を見てみると……、それらしいモノが繁殖しているんですよ」
新しく開梱した畑。たしか、あの凶悪なモンスターが出現した場所か……。あの後から確認したことはなかった、迂闊だった。
「……ここも流行に乗ってしまった、ということか」
「知らなかったとしたら、ちょいと節穴過ぎるな旦那」
返す言葉がない……。面もくなさすぎる。剣の腕を磨くことにかまけ過ぎていたらしい。
「旦那が知らなかったてことなら、部下たちが唆したてことになっちまうけど……、ソレでいいかい?」
「なぜそうなる? 奴らに限ってそんな不届きな真似は……___」
言い終える前、急に浮かんできた。誰が一連のコレを仕掛けてきたのかを。……まさか、いやそうとしか思えない。
「どうした旦那、急に黙りこくっちまって」
「おそらくだが……、その『新手』の正体が分かった」
「本当ですかッ!?」
「……どこのどいつだい?」
勢い込んで尋ねてくる二人に、自分に全責任があるわけではないが、さらに申し訳なさが沸き出してくる。あまりに正体不明ゆえ、少しでもいいから糸口が欲しいのだろう……。
しかしながら、『彼』もまた大恩人だ。まだ確かな証拠もないのに、犯罪者呼ばわりはしたくない。
「まず、私から問い質したい。いつ会えるかは分からないが、何とかしてみよう。
それまで君らは―――、ッ!?」
ぞわりと、背筋が泡だった。……二人も気づけたのか、緊張が走る。
その気配の源へ急いで振り返ると―――、今まで案山子同然になっていたデスナイトが、立ち上がっていた。コチラに向かってくる。
戦意は……無い。殺気の濃度はより暗く濃密になっていたが、殺しに来るわけではないのは分かった。
柄から握っていた手を緩める。二人にも「大丈夫だ」と警戒を緩めさせた。……それでも安心はできないだろうが。
僅かに間合いの外、ギリギリの瀬戸際で立ち止まってくれると―――
『___いつとは言わず、今話そうじゃないか。ガゼフ殿ならびに[蒼の薔薇]のお二方』
人語を喋ったことが無かったデスナイトの口から、懐かしくも思わず顔をしかめざるを得ない『彼』の声が、聞こえてきた。
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長々とご視聴、ありがとうございました。
[ライラの粉末][黒粉]の原材料が芥子というのは、あからさま過ぎたかもです。
もしマズそうなら、別名に変えてみようかと。
感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。
ゲーム時、誰でも使えたであろう「ファストトラベル」機能。転移後世界ではどのような扱いがベスト?
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使用不可
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プレイヤーと共に転移した拠点のみ使用可
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イメージできれば転移後の街でも使用可
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独自の転移系魔法の一種として変化