騎士王国ルート   作:ツルギ剣

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現代の錬金術、信用創造


駐屯⑤

 

 

 誘い込んだ/追い込まれたように見せかけた、エ・ランテルの袋小路の裏路地にて。

 突如、スっと行って、ドスッと刺して―――

 

「ぐぶぅッ!?」

 

 ……上手くいかないな。

 思ったような心地よい声音は上がらなかった。けど、相手の懐/急所にしてどうしても鍛えられない脇と背中からの腎臓への両手二本、愛用のスティレット/刺突用短剣を素早く抜き出した。

 鮮血が吹き出し服が汚される前には、すでに再チャレンジへと滑り出した。

 

 一瞬で仲間が仕留められたことか、はたまた罠にハメられたことか、そもそも状況を理解するのを拒絶しているのか。常人ならば遅滞とは言えないだろうけど、私ならば致命的なマヌケを晒していると見える。

 だから、スっと行って、ドスっと刺して―――

 

「うぐぅッ!?」

 

 お! いい感じいい感じ。

 やっぱり女の方が良い声で鳴いてくれる。『アレ』をしてるみたいでゾクゾクしてしまう。やられるのは不愉快だけど、やるのはこんなにも快感とは……。私は生まれる性別も間違えたのかもしれない。

 背後から抱きしめながら二本刺し。激痛と死への恐怖でビクンビクン震えまくる彼女を、やさしく抱擁しつづける。涙とか汗とかヨダレとか股からのアレとか、色んな体液が溢れるほどでてくる。それらをこの時のため/自分のために絞り出してるとの実感が、たまらないほど嬉しい。……私もたぶん、同じぐらい濡れているはず。

 

 そんな彼女も、次第に抵抗力が弱まり脱力しきり……動かなくなった。きっと昇天できたのだと、どういうわけか我が事のように嬉しくなる。―――だからもう、搾りカスに用はない。

 一気にスティレットを抜いてあげると、崩れるように足元に倒れた。……彼女のおかげで全身血まみれだけど、今は不快感よりも愛おしさが勝る。

 だから、私から逃げ出そうとか、必死に地べたを這いつくばっている最初の男も気にならない。むしろそのイモ虫じみた情けなさは、後戯としては最高のスパイスだ。

 

 ゆっくりと一歩一歩、自分の足音と周囲への反響もしっかりと感じ取りながら、瀕死のイモ虫野郎へと近づき―――前へと伸ばされた手のひらを「いぎぃッ!」踏みつけてやった。……おっと! コレはこれで良い鳴き声ね。

 完全に/目と鼻の先の逃げ道を絶ってあげると……、唐突に気づいてしまった。

 

「___あ! でも女だったら、ドスッよりもブスッと刺して上げた方が良かったかなぁ?

 そこんとこ、アンタはどっちが良いと思う?」

「……い、イカれた裏切り者め」

 

 涙こらえながらのセリフは、ありきたりな/聞き飽きた罵倒だ。

 予想はしていたけど、とてもガッカリだ。こんな裏社会に生きているのに、自分だけは死なない信仰をしてる。だからこんな今はの際でも、ありきたりなセリフしか出てこない。……いつも思う、こんな風にはなりたくないなぁ。

 

「この手で討てぬのは無念だが、本国が必ずや貴様を殺す。貴様にはもはや安寧など訪れぬッ!」

「そんなご大層なモノ、生まれた時からあった試しがなかったけどねぇ」

 

 アイツの責で―――。何よりも、アンタら全部の責で。

 いつもながらのドス黒い感情が沸き上がってくると、逆に表には笑顔が浮かんでくる。手足も憎悪で震えるようなマヌケは晒さず、カチリと切り替わってくれる。生物ではなく武器へ、冷たく研ぎ澄まされていく。

 

「だろうな! なぜ貴様のような劣等種が、かの主席とご兄妹になれたのか……、神の御心は理解しがたい」

「私もそう思うよ。ガキの時分からいくら問いかけても答えちゃくれないから、神様にとっちゃクソどうでも良いことだてことにしたよ。

 とこで、私に向かって『そういうこと』をほざいた奴らの末路、ちゃんと調べといた?」

 

 [風花聖典]の一員のくせに、この程度とはね……。活動規模の拡大もあいまって、年々質が落ちてるとは聞いていたけど、コレはけっこう酷い部類だ。血まみれのスティレットを鼻先にぶら下げてやるだけで、先までの威勢が萎えてしまうほどには。……ま、逃げてる私にとっては、ありがたいことではあるけど。

 

 コイツから有用な情報を絞り出すのは……、難しいだろう。たぶん持たされていないから。

 でも、何もしてやらないのはよくない。かつてちょっとだけ在籍した先輩として、現実の厳しさを教育してあげないといけない。……おっと! 『最後の』を忘れてしまった。

 

「人間てさ、けっこう穴だらけにしても生きてられるんだよねぇ。もちろん、ちゃんと急所を外してやってだけどさ」

 

 アンタはどれぐらいの穴を、開けられるかな―――。両手でしっかりとスティレットを持ち直すと、ニンマリと口の端を歪めた。舌なめずりもしたくなる。

 怯えすぎて呼吸すらままならなく青ざめた男隊員。まさにこの世の終りを目にしてる表情だ。……ヤバイ! 今の君、けっこうそそる顔してくれてるじゃない。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 

 エ・ランテルの西方にある共同大墓所。毎年行われる帝国と王国の戦争で戦死した兵士たちが、ここで埋葬されるようになったことでその面積は増大化。今では城壁内の4分の1は占めるほどにまで膨れ上がり、これからもっと膨れ上がる予定。かと言って、野ざらしにすればアンデッド化という厄介な現象が起きてしまうため、放置することもできない。

 この苦境を帝国と王国に哀訴するも、帝国は敵国であるため頼みきれず、国王の直轄領であるはずなのに現状維持しか返答がない状況。エ・ランテルは年々、『死都』への道をたどっているとも言える。……私たちが何をしなくとも。

 

 まともな参拝者など訪れない、大墓所の中央にある地下墓所。地上部ですら、夜になればゾンビなどの低級アンデッドが徘徊してしまう墓所の中、地下はアンデッドたちが屯する集会場ともなってしまっている。時々冒険者どもや神官たちが駆除しにやってくるも、基本的にここのアンデッドどもは引きこもりだ、生者の住処にまで出て行って被害を及ぼす個体は稀。住民たちの慣れと妥協も相まって、奇妙な共生状態が成り立ってしまっている。

 誰も徹底的に駆除しようとは考えず/実行もできず、ゆえに権力の光がささない空白地帯ができあがった。アンデッドたちの鬱陶しさが気にならない私や、半ば奴らのお仲間になりかけてる『彼ら』にとっては、最適な隠れ家だ。

 そんな隠れ家に、今日出会うことができた二人を、ご招待してやることにした―――

 

 

「___さすがカジッちゃん! 相変わらず手際がはやくて助かるわぁー」

「……クレマンティーヌよ。わしらを『死体漁り』だとでも、言いたいのか?」

 

 ドンヨリとした暗い暗い瞳ながら、私がつけてあげた愛称への嫌悪感がにじみ出ていた。……もう何度注意しても無駄だったから、無視することにしたのかな?

 

 [カジット・バタンテール]。かの変態もといカルト宗教集団[ズーラノーン]の12高弟の一人。本人からはただ「カジット」とだけしか教えられていないけど、後に家名や色々な情報を調べ上げた。……さすがに全部とは、いかなかったけど。

 今は私も、そのカルト宗教の一人に加えられているけど、仲間や部下ではなく客将といった立ち位置だ。互いの目的のためだけに歩調を合わせているだけなので、ビジネスライクな関係は願ったり叶ったりだ。……かの法国から逃げ延びるには、彼らと手を組むしかない。

 そして近日、このカジットと愉快な弟子たちは、ここエ・ランテルで最高に派手な『花火大会』を催す予定だ。私もその裏方として協力する。……その大混乱をもって、私自身の足跡を消すために。

 だからこのエ・ランテルで、私がどれだけ『遊んだ』としても、彼らは後始末を手伝わざるを得ない。

 

「そんなことないよぉ! ただでさえ陰気臭くて冴えない根暗集団なのに、卑屈にまでになったらウジ虫以下だよ♪」

 

 我ながら素敵な笑顔でつい本音を漏らしてしまうも、カジットは顔をしかめるだけ。怒り狂いそうな弟子たちを片手を上げて宥めるまでしてみせた。

 

「……わしらは貴様の後始末をしてやってるつもりだが、ソレが貴様なりの礼なのか?」

「そ! こう見えて照れ屋なんでね」

 

 恥じらう乙女ぶりを披露してあげると、私を今にも殺したそうな視線を向けてくる奴らを何人か見つけられた。派手で分かりやすいアピールをしてくれる奴からあえて宥める側に立った奴、実はほかの高弟のスパイでもある奴らなどなど、隠しているつもりの薄汚い本性まで見えること見えること。……真にアンデッドになりたがってる弟子は、カジットが思っているよりも少ない。

 

「若くて鍛えられて、魔法まで使える…もとい使えた死体なんてのは、なかなか手に入らない貴重品でしょ。それも2体もよ! どこぞの[ネクロマンサー]にでも売却したら、逆に代金をたんまりもらってもおかしくない。それをグッと堪えてあげているだけでも、私の貴方たちへの『友情』の深さを推し量れるてものでしょ?」

「ここまで穴だらけにされては、貴重品も不良品になるがな」

「芸術品て言って欲しいわ。今回のはいつもより、穴が多めにできたしね」

「古巣の追手どもだから、余計に力が入ったのか?」

 

 その問には、少しだけ答えを選ばざるを得ない。やっぱり死体から記憶を抜き取ることができるのか……。予想はできてたから、問題はないけど。

 

「……不幸な再会てやつよ。別の任務できたのに、まさか遭遇するとは思っていなかったて、感じ」

「わしらの計画は、嗅ぎつけられてはいないと?」

「それどころじゃないて、感じだったわね」

 

 事実を込めて煽ってやると、さすがにか顔をしかめた。でもすぐに、いつもの不細工な無愛想に戻す。敵対するだけの脅威を認められなかったことよりも、儀式の成功率が上がったことに気づけたのだろう。……つまんねぇの。

 でもそのおかげで、ソレ以上の追求からは逃れた。

 

「___まぁよい。すでに大方の準備は整っている。あとは【叡者の額冠】を使える器のみ」

 

 [叡者の額冠]。私が失敬した法国の秘宝。身につけた人間から意識を完全に奪い取る代わりに、高階位の魔法を吐き出すだけの魔杖にかえてしまう変態なアイテムだ。……このアイテムを退職金代わりに持ち出してしまったことが、私をストーカーしつづける大きな理由の一つだ。

 その性能ゆえに変態御用達のアイテムなので、秘宝でも欲しがる変態かつ富豪は限られる。表立っては使えない代物ともなれば、私がズーラノーンと結託したことは、当然嗅ぎつけられていることだろう。

 

「アレ使える子て、かなり激レアよ? あたりはつけてるの?」

「バレアレ商会の跡取りが、使用を可能にする生まれ持っての才能(タレント)を持っているらしいが……、別の方法もできた」

 

 これだ―――。カジットが自慢したくて見せてきたのは、白い粉雪みたいな粉末がつまった小瓶だ。

 

「……何これ?」

「麻薬じゃよ。ソレも、かの黒粉の10倍は効果がある。最近流行りだし、市場を急速に占領してきた新しい麻薬じゃ。

 コレを致死量ギリギリで大量摂取させてやれば、誰でも器として使える代物になる」

 

 コヤツでもな―――。カジットが指示すると、弟子たちが引っ立ててきたのは……ボロ切れのようになってしまったドレスをきた若い女だ。肩や胸などが見えやすく、夜でも目につくような色合いのドレスから、街娼の一人だと推察できる。

 こんな客など誰もいないような墓所の中、まさかカジットや弟子たちの性欲処理でもしてきたのかと、ちょっと同情しそうになったけど……やはり違った。生気を失ったかのような虚ろな瞳、口からはヨダレがこぼれているが拭う素振りも見せない。生きてはいるが死んでないだけ、人形にさせられた人間だ。

 

 ソレを見せつけてきた意図は、弟子たちの嗜虐心にみちた暗い瞳からすぐに読み取れた。若くてキレイで可愛くておまけに逸脱者クラスの超~~強い私を、動揺させるつもりだと。

 逆に笑ってしまった。私がそんなモノを見て抱く感想など、『未熟者』以外ない。運が悪かっただけとも言えるけど、ソレを嗅ぎ取れてこそこの世の中は生き延びれる。金やら何やらの欲で目が暗んだが故だ。『また来世頑張ってねぇ』バイバイ以外に与えるものなどない。……たぶん来世があったとしても、同じような惨めな結末だろうけど。

 ゲスな意図に反した私の笑顔に、逆に弟子たちの方がみっともない戸惑いを晒してきた。盛大にネタが滑った道化そのものだ。……カジットも共犯だったのが、つまらなそうに鼻を鳴らしたので分かった。

 つまらないお披露目タイムを流してあげると、実のある話へと促す。

 

「タレント持ちの方が信頼できるんじゃない?」

「もちろんそうじゃが、バレアレはかなり有名なのでな。わしらの此度の大儀式[死の螺旋]は、完璧な魔法発動よりもその後こそが肝要。……時間をかけねば、必要純度の負のエネルギーが練上がらん」

 

 量と質よりも時間か……。私の目的とは少しズレるけど、いざとなれば煽り立ててやればいいだけだ。エ・ランテルの守備隊たちと対決するのは必至、都市中が大混乱になるのも。死都にでもなってくれたのなら、文句なしの万々歳だ。……私は大手を振るって、第二の人生をエンジョイできる。

 頭の中で段取りの調整をつけると、了解を伝えてあげた。

 

「……魔法オタクな話はチンプンカンプンだけど、できるてんならソレで文句ないわ」

 

 ユー、チャレンジしてみなよ! ミーがビックにしてあげる!

 私の後押しに気をよくしてくれたのか、いつも以上に顔をしかめながらも、弟子たちとともに[死の螺旋]とやらの大儀式に取り掛かっていった。

 

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

 カルネ村で起きた暗殺未遂事件を追跡していくと、またしても大問題に行きあたった。

 [死を撒く兵団]と名乗ってる、犯罪者集団だ。

 [陽光聖典]たちがガゼフの暗殺を遂行するために雇った囮。被害をより拡大することで、ガゼフの戦士団の戦力を削ぎながら、続いて起きるであろう王国と帝国の戦争を激化させる燃焼剤にするためだ。……ソレが聖典ならびに法国たちの狙いだった。

 裏をかかれ、漁夫の利を取られた形。責任をすべて帝国と法国におっかぶせながら、襲った村々から奪い尽くした。若い女性たちはほぼ全員連れ去られ、これから奴隷として売却されていく……

 

 アジトを発見した当初は、奴らを殲滅し彼女らを解放すれば事足りると、安易に考えてしまった。あまりにも悲惨すぎるので、他人が深く関わるべきではない。PTSDの治療まではさすがに荷が重すぎるし、治療法もよくわからない。

 ただ、奴隷売買組織というものが蔓延っている現状を知ってしまうと、手を引くにも引けなくなった。中世風な階級身分社会ゆえもあってか、そもそも奴隷という存在が違和感なく普通に生息している現状も。この社会問題の根深さ/どうしようもなさを表している。……人間も家畜の一種。人間が人間を売買することは当たり前。

 俺の目的は、[アインズ・ウール・ゴウン]という名に栄光と永遠を与えること。未来において『世界史』なるものが編纂された時には、必ず描かれなければならない。そのためには、人間には到底成し得ないことを成し遂げなければならない。誰もが期待しながら諦めている/諦めていることすら忘れている、そんな大変革じみた偉業でなければならない。

 この奴隷売買問題は、まさにうってつけの大問題だ。……無視する理由は、見当たらない。

 

 

 

「___【上位道具複製(グレーターコピーオブジェクト)】」

 

 魔法を唱えると、片手の平からジャラジャラと金貨がこぼれでてきた。10を超えて50枚に達するほどにも。……もう片方の手に握っていた金貨と、酷似した金貨たちだ。

 

 魔法が終息/手のひらから金貨が吐き出されきると、自分が作り出した魔法の金貨をつまみ上げた。もう片方のオリジナルと見比べながら、感慨深けに嘆息する。

 

(……まさか通貨を、魔法で複製できてしまうとはな)

 

 はじめは半信半疑だったけど、いざやってみたら拍子抜けするほどあっさりできた。この異世界での資金問題が一気に解決してしまった。……まさにこれこそ本物の錬金術だ。

 ゲーム時でも通貨の複製は可能だったけど、街やNPC商人たちとの取引では一切つかえないハリボテだった。プレイヤーを騙すため以外に使い道がなかった。そのためか、拠点の中におさめてる大量のユグドラシル金貨も、ガワだけしかコピーできなかった。相変わらず/どういう理屈か、コピー金貨だけを正確に弾く仕組みがあるのだろうか。

 でもこの異世界では、その心配はない。本物もコピーも、真実の神が見極めてくれるのではなく、どこにでもいる/欲で曇った人間が見極めなければならないからだ。偽金貨は十分に通貨として使えてしまう。

 なので運用するにあたり必要なことは、まず鑑定系スキルや魔法の目からごまかすこと、そもそも【魔法解除(ディスペル)】されないことだ。そのために【上位道具創造】ではなく、オリジナルが無ければ発動できない【上位道具複製】。無制限に錬金術できなくなるけど、その制約のおかげで[魔法解除]への耐性ができる。オリジナルさえ手元で保護し続ければ、あとは魔術師としての力量勝負。解除する方にかなり分がある勝負だけど、レベル30前後の魔術師ではレベル100の俺の隠蔽は破れない。現地人の魔術師の中でも、同じような錬金術でひと財産築こうとした奴はいたかもしれない。けど、隠蔽があまりにも困難ゆえに諦めたのだろう。

 次に/たぶんこれこそ現地では最重要になるのは―――

 

「さすがアインズ様、お見事な腕前です!」

 

 黒髪ポニーテールな白皙長身美人。たぶん着物をきたらどこぞの大将軍の姫君にみえるほどだけど、今は黒を基調としたナザリック製のメイド服を着こなしている。そんな怜悧そうな/絶対に赤の他人には見せないような顔ばせをかがやかせるようにして称賛してくれたのは、このためにも呼んだ戦闘メイド(プレアデス)の一人、【ナーベラル・ガンマ】だ。

 そんな若くて美人で、しかも生まれてこの方ほぼ他人のことを褒めたことがなさそうに見える冷徹そうな美女から、たぶん心から称賛されるのは……悪い気など起きようがない。

 でも今は、少しだけ間が悪い。

 

「……ナーベよ。外では私のことは[モモン]と呼ぶようにな」

「し、失礼しいたしました。アイ…モモン様!」

 

 できれば様付けもなくさせたいが……、無理そうだな。胸の内でため息を隠しておく。

 そんな彼女に、偽造金貨の山から数枚つまみ上げ、オリジナルの金貨を手の中で混ぜこぜにしてから見せてみた。

 

「___どうだ、どれがオリジナルの金貨か分かるか?」

 

 両手のひらにある6枚ほどの金貨。自分で作ったのでどれがオリジナルかすぐに見分けられるも、見た目だけはほぼ同一のようには見える。……俺が店員としてこの偽造金貨を受け取ったら、間違いなく騙されてしまうはず。

 ナーベラルの目には、どう映るのか?

 

「…………申し訳ありません。どれも似過ぎて判別つけられません」

 

 謝罪に間があった……。まじか、やっぱり分かるのか。

 一応は魔力の光みたいなモノが漏れないよう処理はしてある。鑑定系のスキルも魔法もアイテムも使われていない。自前の眼力だけ見抜いてみせた。……連れてきた甲斐があった。

 

「嘘をつくな。[二重の影(ドッペルゲンガー)]のお前に違いが分からぬはずがなかろう」

 

 窘めてやると、目に見えるほどの狼狽をみせてきた。……その萎縮ぶりからすると、かなり目立った粗があるらしい。

 改めて促してみると、おずおずと……本物を指差してきた。

 

「正解だ。さすがだなナーベ」

「お、恐れ多いお言葉です! ……至高の御方に虚言を吐くなど、あまりにも不敬なことでした」

 

 ___この非礼は、死んでお詫びいたします!

 そう決意するや突如、どこからか出してきた短刀を両手で握り、首筋にあてがい力を込めて―――

 

 直前、慌てて短刀を速攻魔法で弾き落とした。

 

「ば、バカ者! このような些事で死んでどうする!?」

「し、しかし……」

「お前の命は私のものだ! 勝手に捨てることこそ最大の不忠だと知れッ!」

 

 あっぶねぇ……。無いはずの心臓が縮み上がった。間に合って本当に良かった。

 何であの程度で自害しちゃうんだよぉ……。NPCたちの忠誠心が高すぎるとは警戒していたけど、コレは特級品だ。彼女だけの特異性だと信じたいけど、もしも全員同じだとしたら……、厳重注意が必要だ。

 

 感情に任せた叱りだったからか、ナーベラルは力なく地面にへなついては俯くのみ。さすがにもう自害はしないだろうけど、この落ち込み具合/絶望感では次に何をやらかすのか分かったものじゃない。

 無理やりにも冷静さを取り戻すと、和製美人部下をパワハラして泣かせている最悪な上司、てな構図にハマっていることに慌ててしまう。偽造金貨がたんまり傍にある今は、もっとスキャンダラスなことにまで。そんなつもりは一切無いし超冤罪だけど、傍から見たら事案としか見えない。……マズい、とにかく立ち上がらせるために取りなさねば。

 

「……私とて完璧に何もかもこなせる訳ではない。お前たち臣下の力を借りねばならぬことは多々ある。特にこの通貨の複製は、今後の計画の要の一つだ。万が一のことが起きぬよう細心の注意を払わねばならん。あらゆる模写を得意としているドッペルゲンガーたるお前の鑑識眼こそ、必要不可欠なのだ!」

 

 一気にまくし立てると、ドンより俯いていたナーベラルが顔を上げてくれた。しかも希望が差した眼差しで。

 何とか事案は回避できたか……。全く、彼女はかなり厄介な性格をしているな。

 

「ではナーベよ、教えてくれ。お前が見抜いたこの複製品の粗を」

「はい! お任せ下さい―――」

 

 先とは一転、ウサギ耳でも付いてたら元気よく立ち上がっていただろうほど。偽造金貨の品質チェックに全力を注いできた。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

「___今度はどうだ、ナーベ?」

 

 もう幾度目かの試行錯誤。あまりにも使いすぎたので、そろそろ魔力量が心配になってしまうほど。

 ナーベ監督官にチェックをお願いしてみると―――

 

「___完璧かと!」

「……本当か?」

 

 満面の笑みの合格に嬉しくなってしまうも、度重なるダメ出しによる猜疑心。彼女には前科もあるので、詳しい評価内容を聞き出してみた。

 

「はい! もう一見しただけでは、判別はつけられません」

「それは……触れたのならば、まだ粗が分かるということか?」

「い、いえ!? そこまでは……、考えに及びませんでした」

 

 またシュンと、架空のウサギ耳が垂れ落ちたのが見えた気がした。……やっぱり、聞いてみて良かった。

 改めて、触れて探らせてみると……、その顔をさらに曇らせてしまった。

 

「……やはりまだ、粗があるようだな」

「はい……。

 しかし、これほどの精巧さならば、もはや人間には判別はつけられないほどです」

「……人間には再現できない、ドッペルゲンガー特有の皮膚感覚がある、ということだな?」

 

 自分で推薦し励ましてもみて何だけど、詳しくは知らない。モノマネの達人だから偽造もお手の物なはずだと、安易な直感で選んだだけとは……さすがに言えない。

 でも、知っている風を装わなくてはならない。本当に分からないから教えてもらいたいのに、あえて無知を演じて試しているかのようにしなければならない。……コレが絶対の支配者の姿だよ、皆。

 

「はい! 人間はあくまで記憶との整合しかできませんが、我々は体そのもので複製できます。アイ…モモン様にお褒めいただいた我らの『鑑識眼』とは、我らの体内でつくられた複製品との比較によってなされるものです」

 

 今回の場合は、指先で作ったものですが……。手のひらを見せてくると、指の腹に金貨の鋳型のような凹みができていた。

 なるほど、アレに嵌めることで確かめてたのか……。見ただけでも分かるともなれば、眼球内とかにも極ミニサイズの鋳型をつくったのかもしれない。

 

「人間でも感覚が鋭敏な者達は、たしかにいるでしょうが、あくまで不定形な記憶との照合。オリジナルと直に照合できる我らとは、比較になりません」

「……つまり、私がつくった複製品はもはや、オリジナルとともに比べなければ見抜けないほどの代物になった、ということだな」

「はい! 凄まじき腕前でございます」

 

 今度こそとばかりにか、満面の笑みで称賛を送ってきた。……冷たそうなビジネスウーマンそうに見えるのに、そうしていると可愛らしいティーンエイジャーになってしまう。

 

「いやいや、お前という先輩が導いてくれたからこそだよ。私一人だけでは、ここまでの精度には至れなかったことだろう」

「せ、先輩など……。恐れ多いお言葉です!」

「ではなおのこと、受け取ってみせろ。ナーベ先輩」

 

 少し悪ノリかもしれなかったけど、ちょっとした苦労を分かち合った仲だ。このぐらいは構わないだろう。

 俺にとっては余裕を持った安全ライン。コレを機に少しだけでも絶対の支配者ハードルを下げられるかもとの打算。けど彼女にとっては―――、ソレでは済まされなかった。

 

「や、や……やはり至高の御方にそのように言わせてしまうとは、不敬の極み! どうかこの愚かな私めは死……いえ、ダメだった。

 ならばどうか、私めに死罪を申し渡してくださいッ!」

 

 そうなぜか必死に懇願してくるや、その場に土下座までしてきた。額を地面にぶつける勢いでもって。

 

 …………唖然と、するしかない。なんでそうなるの?

 

(……もしかしてこれが、[弐式炎雷]さんの好みの女子の姿なのか?)

 

 彼は、こういう女子が好みだったのか……。紙装甲すぎるのも、考えものだ。

 そんでもって、やっぱり超ド級なスキャンダラスな構図。彼女は魔術師なはずだけど、意表を突きすぎたクリティカル暗殺をぶつけてきた。創造主と同じく[忍者]になってたら、実に良い師弟か似たもの父娘になってたのかもしれない。……この世界にパパラッチがいなくて、本当に良かった。

 

 衝撃過ぎて明後日に飛んでいた思考を元に戻す。……目をそらしても状況は変わってくれない。

 もはや絶対の支配者ムーブ以外に道はない。……俺はこの道を歩くしかないみたいだ。

 

「……任務はこれからが本番だ。功績をもって挽回してみせろ」

「……承知、致しました」

 

 何とか土下座から解放させたその表情は、十全には納得してくれていない様子/消沈ぶり。……今にも崖から飛び降りそうだ。

 ようやく成功した和気あいあいブリがお通夜な空気。彼女の紙装甲ぶりが問題を引き起こしたはずなのに、俺が責任をとる/解決せねばならない理不尽な状況。……あれ、俺て絶対の支配者じゃなかったけ?

 

 

 なんとか付き従わせた彼女は、まるで背後霊の様。どんな慰めならまた明るくなってくれるのか……。道中の負担がまた増えた。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 時に慰めの言葉より、ストレス発散の方が効果的なのだと、思い知った。

 

 [死を撒く兵団]を拷問……もとい脳みそから直接絞り出した、行きつけの奴隷商人やら色んな闇の情報。

 蔓延してる麻薬/黒粉についてはデミウルゴスに任せ(丸投げ)ると、奴隷売買について調べることに。得られた情報を元にして、まずは彼ら馴染みの奴隷商人の下へと突撃訪問することにした。……すでに出荷されてしまった奴隷/村娘たちの行方も、探し出すためにも。

 アポなしで初対面。おまけに、ナーベラルはともかく俺は異様な風体。周りには、用心棒と思わしき厳つかったりキレてたりしている危ない男たち。はじめこそ丁寧だったけど、訪問の次第を正直に告げると一変。さらに、ナーベラルの美貌にも目が眩んだのか、穏やかな話し合いで解決することはできなかった……。

 およそ3時間後―――、彼らは俺たちとの出会いを心底から後悔した。もはや見捨ててるだろう神様やら、たぶん今の仕事を知ったら縁切りされるだろうお母さんの名前を哀願しながら、初登場時に見せてくれた危険な猛獣ぶりから尻尾をちぎれるほど振りまくる子犬ぶりにまで落としていた。

 彼らをそこまで調教してみせたのは、ナーベラルだった。俺もやるつもりだったけど、名誉挽回とばかりに張り切った彼女が、とてつもなく頑張ってくれた。あんまりにも頑張り過ぎて男たちは、「もうやめて下さい」から「もう死なせて下さい」へと進み、ついには「もっと下さい!」へと至った。……そのとてつもない手腕から、『女王様』という言葉が自然と浮かんできた。

 彼らをとても素直な子犬にしたナーベラルは、落ち込んでいたのが嘘のように、晴れ晴れと清々しい表情を見せてくれた。

 

 

 

「___さて、コヤツらの後始末をつけにいくとするか」

 

 初め見た時にはボロボロな人形だったのが、今では生気を取り戻すまでに急速回復できた奴隷たち。……たぶん主に、性奴隷たち。

 ナーベラルの人外の調教ぶりを間近で見物させてもらったからなのか、もはやかつての主従関係は逆転していた。男たちの方も人生を放棄することができ、奴隷生こそ生きる道だと悟ることができた。……今は彼女たちこそ、奴らの主人だ。

 幸運にもココに囚われていた彼女たちは、自らの人生を取り戻すことができた。でも彼女たち以外/売られてしまった奴隷たちは……、まだだった。

 

「あのようなウジ虫達など、放っておいても構わないではないのでしょうか?」

 

 ナチュラルな差別にびっくり。劣等感からとかではなく、ただただ常識としての様子。……マジかよ。

 

「……同じ性別の者として、不愉快に思ったりはしないのか?」

「?? ……確かに性別という点のみは同じですが、昆虫同士が交尾しているのを見るのと同じです。ソレそのものには、何ら思うところはございません」

 

 ただ、それで新しいウジ虫が増えるのかと思うと、憂鬱になるだけです……。

 その時に見せた表情は、まさにゴキブリに遭遇してしまった時の不愉快ぶりだ。少なくとも、同じような外見の会話できる二足歩行生物に向ける表情では、全くない。

 

 NPCたちの高すぎる忠誠心とともに、ナザリック以外/現地人への強烈すぎる差別意識も、解決せねばならない重大な問題だ。知力の優れた者やカルマ値が善性に傾いている者たちは、さほど問題にはならない。けどそうじゃない者たちは、俺が目を離した隙に何をしでかすのか分かったものじゃない。……この世界は、いくつもの絶滅の爆弾を抱えている。

 ナーベラルは、間違いなくその一人だ。他の姉妹と比べても、飛び抜けて危うい。一人で活動させたりでもしたら、通った街々は間違いなく焼却される。たぶん殺戮なんて感情ではなく、害虫は駆除な反射行動で。

 そういう理不尽な振る舞いこそ、ある意味ナザリックらしいとは言える。俺の魔王なロールプレイとも親和性が高い。今やっているような社会問題の解決安行など、狂ってしまったと疑われても仕方がない。たぶんどこかの段階で、誰かが気づいてしまうかもしれない……。

 でも、世界の絶滅などお呼びじゃない。終わらせるよりも続けていたい、ゲームの時からそうだったように。

 だからまぁ……、続けるしかない。

 

「…………確かに、ウジ虫を増やされるのは困るな。できる限り不快でない品種のみ栄えるようにしたい」

 

 これから向かうところに、その鍵がある―――。人間性が無くなってしまうような話題から、もっと現実的な疑問へと切り替えた。

 

 ___ここにいた彼女らは本当に、性奴隷として売却されたのか?

 そうじゃないことは無いのだろうけど、それにしてはあまりにも数が多い。使い捨てるためとも言えてしまうけど、相手とて無尽蔵な絶倫じゃないはず。取っ替え引っ替えでは体力がもたない、なにより別の日常もあるはずの身だ、財力ももたなくなる。……こんなにも需要があるとは思えない。

 そこで一つ、ここは魔法や怪物がある世界だということ。奴隷売買は人間社会の営みで、他とは無関係に可動している……と言い切れるのは、俺がいた崩壊間近の世界。ここでは自然との境界も曖昧で、商売もコンピュータとインターネットでもって精密にかつ地球規模で決め尽くすこともできない。別の生物社会が介入してくる余地が、十分にある。死体を放置すればアンデッド化という形で、異形種たちが介入してくるように。

 問題を解決するには、エッチな大富豪や貴族たちの下半身の情熱とは別、真の需要者を見極めなけれならない。

 

 

「―――、ッ!?」

 

 突如、胸に痺れが走った。痛みやダメージではなく、誰かからの[伝言]の要望時に起きるキャッチと似ている。ただ[伝言]の場合は、頭部にくる。胸部にくるような魔法およびスキル現象は、今のところ無い。

 

「……どうかなさいましたか?」

 

 ナーベラルの心配を、軽く「何でもない」となだめるも、胸の内では不安が膨らんできた。

 この反応は、通貨の偽造と同じく行った、『もう一つの実験』の成果によるものだったからだ。

 

(遠隔操縦の接続が……、切れたのか?)

 

 直接操っているではなく、実験で得た成果を通しての間接操縦。そのおかげもあって、複数体を同時並行で操ることができるようになった。けど、互いの情報や思考をリアルタイムで共有することができない。定期的に情報共有/同期する必要がある。オリジナルである俺ならば、いつでも同期して直接操縦に切り替えることはできるけど、こうやって切断されてしまえば不可能だ。

 そして切断とはすなわち、『装置』が壊れたことを意味する。外部からは決して、この異世界のレベル水準からしても、壊されることが無い代物が。

 

 何が起きたのか分からないが、嫌な予感がする。無視するべきではないだろう。

 

「___ナーベ、予定変更だ。カルネ村に転移するぞ」

 

 頷かれるやすぐ、手をかざした先に【転移門】を開いた。

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

ゲーム時、誰でも使えたであろう「ファストトラベル」機能。転移後世界ではどのような扱いがベスト?

  • 使用不可
  • プレイヤーと共に転移した拠点のみ使用可
  • イメージできれば転移後の街でも使用可
  • 独自の転移系魔法の一種として変化
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