騎士王国ルート   作:ツルギ剣

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エ・ランテル②

 

 いつものことながら、奴らの態度はどうにも気に食わないことばかりだ。

 

 

「___ガゼフを消してくれ」

 

 黒のフード付きマントとセンスのない仮面で全身を覆い、匿名性を保とうとしている男たち。王都のスラム街と下層街の中間地点、『俺たち』の縄張りの一つであるこの酒場においては、どうしても悪目立ちしてしまう格好だ。馴染ませようとの努力は認めるが、同時に見栄を張らなければならないジレンマか。

 公の場では決して口に出せない/身を滅ぼすような依頼。誰も受付たがらない仕事だが、俺たちは違う。

 

「なぜ消したい?」

 

 どうせ答えない客がほとんどだが、いちおう毎度のこと聞いている。知らないでいることのリスク分/疚しさを俺たちに知られないメリット分だけ、料金を上乗せできるからだ。

 そんな取引の通常手順を、相手はちゃんと心得ていた。

 

「報酬の前金だ。残りは成功したら渡そう」

 

 後ろで控えていた黒フードが、抱えていた厚革製だろう鞄を机の上に置くと、蓋を開いて見せた。

 中に収まっていたのは、大量の[銀行証明票(銀票)]だ。ここ7年ほど前からはじめられた新しい通貨の形。これ自体はただの紙束で価値など無いが、王国各地の両替商で銀・金貨と交換できる契約書でもある。大金が動く取引では現物の硬貨を持ち運ぶのは面倒、いちいち運ぶデメリットを無くせる。互いの『信用』を担保にすることで成立している紙幣だ。

 暗殺依頼には、大金が動く。大物相手ならなおさらだ。恨みややっかみも多く引き寄せてしまうので、現物を手元に置いておきたいが、それで身動き取れなくなっても意味がない。王国は斜陽の国なれど、国民自体がダメなわけでもない。むしろ、腐敗しているとはいえ長年安定政権であった分、潜在的な民度は高いぐらいだ。銀票は十分に使用可能だ。

 

「どうして俺たちの存在を知ったんだい?」

「……知り合いの伝手だ。お前たちは凄腕だと聞いた」

「なら、この程度じゃちと足りないなぁ」

 

 じゃっかんふんぞり返ってみせながら、断りをいれてみた。

 十分な大金ではある。アコギな値上げをして、今後の付き合いに悪影響を残すのもよくない。だがソレは、あくまで対等なビジネスパートナーとしてだ。……顔を晒さなかったのは悪手だった。

 

「自分たちの尻拭いをしてもらいたいなら、もう少し誠意があってもよさそうなものだけどな、()()()()()()様よぉ!」

 

 その名/栄えある六大貴族の一角を告げると、黒フードたちはびくりと強ばらせた。正面の交渉人だけは動揺を抑え込んでみせたが、周りにはそこまでの胆力がなかったらしい。

 その反応から、さらに判明した。ここに伯爵本人はいない。目の前のリーダーだろう交渉人も、伯爵家の忠実な執事だろう。

 貴族派閥の中、ガゼフ暗殺の尻拭いを任されたであろうリットン伯爵。自分たちの私兵では不可能なので俺たちに依頼してきた。そんな窮状なのに、使いっぱしりのさらに使いっぱしりを交渉人としてよこしてきた。……そんな舐めた態度をとっているから、カモにされる。

 予想通り交渉人は俺の『言いがかり』を訂正せず、リットン伯として続けてきた。

 

「……ガゼフはお前たちにとっても、邪魔なはずだ」

「今すぐぶち殺したいほどじゃないぜ、アンタらと違ってな」

 

 目の上のたんこぶではあるが、王国と帝国の戦争を続けさせるためには必要な駒だ。どちらが大勝ちしても、俺たちには旨みが少ない。ダラダラと毎年引き分けし続けてくれるのが、最も儲かる。両国ともにどんどん国力を減らすが、その分俺たちは潤っていく仕組みだ。

 ガゼフにはもうしばらく生きてもらった方が都合が良い。俺たちが、王国や帝国すらも飲み込めるほどの大勢力となるまで、この腐敗の停滞を続けさせたい。

 とは言うものの、すげなくお断りしては可哀想だ。『別口』に頼まれるのも厄介になる。権力者のケツ持ちは俺たちだけの生業でなくてはならない。……ここは引き止めておくべきだろう。

 

「【暗殺教団(イジャニーヤ)】に渡す分も俺たちに上乗せすれば、事足りるはずだ」

 

 その名を告げてやると、今度こそ交渉人は戸惑いを示した。……やはり保険をかけていた。

 ただし、まだ考えとしてだけだろう。ある程度話のわかる俺たちと違って、奴らは職人集団だ。人類社会の掃除人とまで気取っている。今後の良好な関係など考慮しない。

 

「……奴らよりも上手くやれるのか?」

「方法は幾らでもある」

 

 顧客の真の望みは、依頼を完璧にこなすこととは限らない。求めているのは尻拭いであって、我が身の安全だ。暗殺は有効な方法の一つではあるが、別の方法でもかまわない。俺たちの望みとも合致する妥協点がある……かもしれない。

 

「アイツらは権力者てのが大嫌いだが、俺たちは違う。良きパートナーだと思ってるよ」

 

 殺し文句を言ってやると、しばし悩む素振りを見せるも……握手を求めてきた。

 

 

 

 ―――

 ……

 

 

 外では良い取引を結べたというのに、内では問題が膨らんでいた。

 

 

「___デイバーノック。なぜヒルマ達はまだ帰ってこない?」

 

 八本指の調査部を任せている死者の大魔術師(エルダーリッチ)。異形の者なれど、とても使える奴だ。俺の警備部の六腕も兼任していることから、調査部を乗っ取ったとの悪評は絶えず聞こえてくるも、どこ吹く風と淡々と仕事ができる。

 そんな使える異形の部下ゆえ、懸念事項を確かめずにはいられなかった。

 

「私よりも、お前のほうが知っているんじゃないのか?」

 

 奴も知らないのか……。どういうことだ?

 俺が貸出した部下二人からも、当然のことながら連絡が途絶えている。直接関わったことゆえに、調査部よりも情報が早いのは当たり前/弱みを疑われる心配はあったが、あえて尋ねてみた。万が一の事態が起きたのか、確かめるためにも。

 そしてデイバーノックの反応/訝しりは、ソレが起きてしまったことを示している。

 

(まさか……、返り討ちにされたのか!?)

 

 そこまでの相手がいた……。考えておくべき事態だが、優先度は高くはなかった。ヒルマの手勢をも圧倒できる相手など、数えるほどしかいない。

 例えば[蒼の薔薇]。最もぶつかってくるだろう強敵だが、今回の状況では分からない。奴らは麻薬売買をぶっ潰したいだけで、商売を乗っ取るまではしない。

 

「……気になるのか?」

 

 勘づかれたか……。だが、悩みを相談したいわけじゃない。疑念を共有するだけでいい。

 奴に探らせるべきだが、必ず返り討ちにされる。こっちの尻尾をさらに掴ませるだけになってしまう。正体不明の強敵に戦力の逐次投入など、愚策をこえたお笑い話だ。……俺はそんな間抜け共とは違う。

 コチラから出向かずとも、向こうから攻めてくるはず。どんな相手であろうと、こちらの土俵に持ち込むことができれば勝利は容易い。待ち構えるために戦力を温存してくべきだ。……ここは堪えどころだ。

 

「いや、奴らが声をかけてきたらすぐに知らせてくれればいい。

 それよりも、『例の男』の所在は分かったか?」

 

 加えて重要なのは、援軍の確保だ。……まさかこんな良いタイミングで、網に引っかかってくれるとは。

 

「エ・ランテルの下町に住んでる。

 当てにしてた[死を撒く兵団]が突如雲隠れしたことから、路銀に少々難儀している様子だった」

 

 今は宿屋の用心棒をしていることで、何とか糊口をしのいでいる有様だ……。剣技を極めるために生きている男、プロファイル通りの現状だ。別の裏組織の用心棒でもやれば、待遇も金も手に入られるというのに、不器用な男だ。

 

「使えそうか?」

「凄腕だ。奴の間合いに一切入れなかった。……使い魔を3匹も殺されてしまった」

 

 そいつは素晴らしい……。思わず笑がこぼれていた。

 デイバーノックが情報収集に使っている使い魔は、どこにでもいる小動物たち、主にネズミだ。召喚した特殊なアンデッド/【腐肉溜り(ファットマン)】の死肉を食わせることで、使い魔に変え従わせている。元からの運動能力そのものを向上させることはできないらしいが、都市部での情報収集には十分だ。違和感が無いことが何よりも重要。他人の気配ならば誰でも警戒を怠らないが、身近な小動物にまで意識を広げられる使い手は、凄腕と言ってもお釣りがくるほどだ。

 

「たしか、今ならエ・ランテルには[エドスレーム]がいたな」

「副業の『サーカス』だな。帝国の祝祭にあやかっての興行だったか」

 

 わざわざ国王の直轄領にて、帝国の祝祭を……。戦争の火種を維持するためであり、こちらの肝っ玉を見せつけるためだ。両者が戦争して民衆からの恨みを買えば買うほど、俺たちは儲かる。

 

「本業は俺の命令だ。呼び出しておけ」

「……あまり良い返事はしないと考えるが?」

 

 同じ六腕同士。いくらゼロ/俺の命令だからとて、下っ端のように動かされるのは癪に障る。まして今は、組織としての仕事をしている最中でもある。……デイバーノック/アンデッドが、人並みの心配をするとはおかしなものだ。

 

「安心しろ。これも組織のためだ。……奴の副業も、大いに利用させてもらうことになるかもしれん」

 

 おおよその絵はできている。あとは現地で、仕立て上げていくだけだ。

 『消せ』と依頼されたが、暗殺である必要はない。公衆の面前にて、堂々とど派手にやるのは、俺たちにしかできないことだ。

 

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

 [流水加速]により、滑り込むよう/流れるように雑踏の隙間をくぐり抜けていく。

 デスナイトととの死闘を考えれば、今は武技は温存しておきたいが、そうも言っていられない状況だ。勝つことよりも何よりも、ここに集っている人々の安全こそ最優先。

 何より今は、使用するだけの利益がある。

 

「___追え、逃がすなぁッ!」

 

 わざと煽ってみせたのが功をなした。ヤクザ者たちの頭と思わしき禿頭が、背後で部下たちに命じているのが聞こえた。

 俺とブレインとの因縁を、決闘という形で/興行として演出してみせたらしいが、別の狙いがあることは直感できた。ただの金儲けではない、隠された悪意が鼻につく。

 その直感に従ってみたら、ご覧の有様だ。隠していたであろう獰猛さを露わに、襲いかかってきた。

 

 雑踏を抜けた頃合、道化風なメイクと格好をした太った男が立ちふさがってきた。

 あまりにも奇抜するぎる格好なれど、その両手にもっている鎖でつながった大鉈が殺意を物語っている。

 

「あひゃひゃぁッ!

 王国戦士長ともあろうお方が、敵に―――」

(武技発動、【疾風加速】―――)

 

 即座に、さらなる加速をかけた。全身を予め決めた方向へと強制的/潜在能力を引き出して動かす武技。

 滑らかな動きから一転、射出されたような動き。瞬間移動(ディメンションムーブ)でもされたかのような特異さで、心構えがなければ頭も感覚もおいつかない。

 

「___背を向けると―――、わぶぅぅッ!?」

 

 一気に懐まで飛び込むと、自重と勢いをこめた肘打ちを鳩尾にめり込ませた。背中まで突き抜ける力で打った。

 立ちふさがった道化な敵は、悲鳴を尾びれに吹っ飛んだ。そのまま背後にたっていた建物の壁にバチンッと叩きつけられて……、気絶する。

 

 

 最小最短の一撃で倒すと、ふたたび[加速]をかけた。……まだ敵は追いかけてきている。

 さらにデスナイトへの道を駆けていく。正確な落下地点は分からないが、もしも目測通りの場所だったのならば、まだ被害は出ていないはず。

 

 帝国近郊の街区から抜け、王国近郊の街区へと入る―――寸前、また敵が立ちふさがってきた。

 今度の敵も奇抜な格好、ただし道化というには筋骨体格が良い巨漢。俺よりも一回りデカく、2メートルはあるかもしれない。そんな巨体よりさらに巨大な、トゲがいくつもついた鉄管を片手で掴んで持っては、仁王立ちにて物理的に前進を塞ぐ。

 

「待て待てぇいッ!

 ここより先を通りたくば、この俺様を―――」

(武技発動、【疾風加速】―――)

 

 先と同じようにさらなる多段加速。

 瞬時に、古代の武人のように名乗りを上げている/無防備を晒している懐へ飛び込むや、

 

「___倒してからにしてもらお―――、うぶぅぅッ!?」

 

 全力を鳩尾にめり込ますと、巨漢は体をくの字に曲がる。そのまま嗚咽と悲鳴の撒き散らしながら斜め宙に打ち上げられると、大河にかけられた大橋のごとき放物線を描き……落下した。落下地点に土煙がまき上がる。

 また立ちふさがった奇妙な敵を一人、一撃で倒した。……まともに対決したら、少々手こずりそうな相手だった。奇襲で仕留められたのはありがたい。

 

 背後からまだ追いかけてくる気配がある。また[加速]をかけるや、王国近郊の街区へと駆けていく。

 騒動が起きて/起こしてしまった落下地点へとあえて飛び込む。驚かれ騒がれては乱雑に動き回る群衆を影にしながら、大通りから裏路地へと抜けていった。……これで追手はまけたはず。

 

 

 [加速]を止める。一息ついては調子を整えた。……これならまだ、倒せるだけの余力はある。

 そんな安堵もつかの間、ゾワリと首筋の毛が泡だった。その直感に身を任せると、背後から微かだが鋭い風きり音が聞こえた。もう数瞬で串刺しにされる―――

 刹那、体を横へとズラすと、先までいた場所に高速回転する鋭い何かが飛び抜けていった。……危ない、紙一重だったか。

 

「___クソがッ、避けるんじゃないわよッ!」

 

 振り返ると、理不尽に喚き散らしてきたのは、踊り子のような際どい服装/褐色肌の若い女だ。一見するとありえないと思ってしまうが、この通りには彼女しかいない。彼女が俺を殺すべく、先の回転刃を投擲してきた犯人だ。

 回転刃は凄まじい速度だった、何より、ほんの数瞬前まで気配が微かだった。獲物を前にして殺気を極限まで制御してみせた証拠。あの細腕で繰り出したことも考えれば、外見の嫋かさに騙されると死ぬ事になるだろう

 改めて注意を向ける。次の攻撃に備える。―――しかしソレが、すでに罠だった。

 

 向かい合った踊り子は、奇襲が失敗して怒り心頭な表情の隙間から、不敵な笑みをこぼしていた。罠にかかった獲物の間抜け顔を、愉しんでいるかのように……。

 瞬間、また走り抜けた戦慄。背後から先にも聞いた、微かな風切り音が聞こえてくる。

 直後、恐れで体が強ばってしまう前に動いた。急いで斜め前へ飛び込むよう転がる―――

 先に直立した場所へ、回転刃が飛び抜けていった、……微かに二の腕を切り裂きながら。

 

「ちッ! ……さすがに良い勘してるわねぇ」

 

 女は戻ってきた回転刃を二つ、難なく掴んでとめた、互いの衝突力を両手で/自分の体内で相殺してみせたかのように。……やはり、相当な使い手だな。

 

「でもコレで、だいたいカタがついちゃったかなぁ」

 

 握っているのは/回転刃だったのは、ほぼ直角に屈曲した刃のシミター。その短剣を自分の指先のごとく/妖艶そうに口元で揺らめかせてくる。その刃に舌なめずりでもしそうなほど、うっとりとした表情を浮かべながら。……その様子はどこか、猛毒の南国蛇を思わせてくる。

 直後、何かがカチリとハマった。女が仄めかしてきたことを理解させられた。

 

(しまった!? 毒が塗られてたのか……)

 

 二の腕の切り傷。刃に毒が塗られていたのなら、間違いなくかかってしまった……。

 動揺を噛み殺す。今は毒で死ぬ心配よりも、目の前の女が繰り出す投擲剣だ。

 そんな俺の焦燥まで把握されたかのように、女はさらに妖艶さをましてくると、

 

「ただぁ……、アンタにそういう死に方されちゃうと、私個人にとってはあまり利益にならないのよねぇ」

 

 ちゃんと私の印を、全身に切り刻んでおかないとねぇ……。俺の死体をトロフィーに、自分の武勲の一部にするために。

 粘り気のある殺気に絡まれゾッとさせられるも、同時に安心もできた。図らずも調子が整う。……馴染み深い戦場の空気だ。

 

「……解毒剤は持っているな」

「渡すと思う?」

 

 クスクスと煽る、俺を死地へと誘い込んでくる。……上等だ。

 

「女相手に無体なことはしたくない」

「できもしない脅しなんてぇ、滑稽だわ」

「……わかった。なるべく手早く済ませよう」

(武技発動、[流水加速]―――)

 

 滑るよう/流れるよう/コチラも蛇のごとく、女の元へ急接近していく。

 

「あはッ! そうこなくっちゃ―――」

 

 喜色を浮かべると、両手/二本のシミターを投げてきた。高速回転の刃が、同じく滑るように飛んでくる。

 脱力しきった柔らかな動き。左右に揺らめきながらの流水加速では、当然当たらない。難なく紙一重で避けた。

 しかし―――

 

「まだまだいくよぉ―――」

 

 さらに/背部からか、取り出した二本をすかさず、投げてきた。

 4本の回転刃。少々驚かされるも、別段どうということはない。危なげなく避けた。

 しかし―――

 

「ほらほら! 出し惜しみなしよぉ―――」

 

 さらに/どこからか、取り出した二本を、投げつけてきた。

 計6本の回転刃。はじめの直線軌道こそ避けるも、はじめに投げた戻りの回転刃が重なる。際どい隙間だが、柔軟にした手足/体をそこに押し込んで躱す。

 

 しかしすぐ、二度目の戻りの刃が迫ってきた。はじめとは違う足元から上がってくる軌道。かなり不安定な体勢から別の屈曲した体勢へと急変動で、何とか躱す。

 ソレもつかの間、接近していた踊り子がはじめの刃を掴むと、その投擲の勢いを殺さず/さらに加速させるよう、自身も回転しながら投げつけてくる。その二週目の刃と、3度目の戻りの刃がまた重なる。

 ほぼ転倒寸前/地面ギリギリの半月開脚にて躱す。しかし背後にて、躱した刃と刃が絡み合う。直後に軌道は急転換。うつぶせのような格好の俺の背に襲いかかってくる―――

 もはや流水では捌ききれない。武技を解くや、腕の力で強引に体を壁際へ押し出す。……しかしそこにも、踊り子の二週目の刃が襲いかかってくる。

 上下左右からの猛威、たまらず腰の愛剣を鞘ごと抜くと、襲いくるシミターを弾き飛ばした。

 

 それで一旦は一息つけるつもりだったが……、違った。

 なんと踊り子が飛び込んできた。弾かれ力なく宙に舞うシミターを掴むと、自身を回転させながら切りつけてくる―――

 驚愕での強張り、一拍遅れてしまった。躱しきれずに肩口を切られた。

 

(だが、ソレは自殺行為だぞ―――)

 

 自分も刃の檻の中に入ってきた。俺と違って全くの無防備で……。自分の回転刃で串刺しにされてしまう。

 何を意図しているのか戸惑うと……、すぐに目をむかされた。

 背に襲いかかるシミターを、全く振り向かず半身にして/完璧なタイミングで躱した。さらに同時/その刹那、通り過ぎる回転軸に掴んでいたシミターの刃を入れるや、さらなる加速と方向転換をしてのける。俺に向かって、回転シミターを再度ぶつけてくる―――

 

 慌てながらも、愛剣を盾に弾いた。しかし……、その回転刃は楕円球だった。二つのシミターを絡ませ合ったもので、握っていたモノも同時に投げてきた。一方は弾け飛ぶも、他方は腕を切り裂いた。

 痛みと飛び散る自分の鮮血。動揺を抑え込みながら、他の回転刃をギリギリ避ける。しかし女はまた、回転シミターに身を晒しては紙一重でよけ、掴み止めることなくさらなる加速と方向転換をしてきた。……今度は俺に直接ではなく、他のシミターに向かって。

 ぶつけ合わされたシミターは、互いに絡まるようにともに回転し―――爆散。3方向へと射出された。

 その一本がまた、俺へと襲い掛かる―――

 

 あまりの変速軌道に避けきれず、太ももをかなり深く切られた。鮮血がまきあがる。

 図らずもぬけてしまった足の力。その遅滞に食いつくよう、他のシミターも襲いかかってくる―――

 

(くッ!? 武技発動【迅雷加速】―――)

 

 発生させた大量の生体電気が、倍速はあるだろう高速世界へと瞬時に移行させる。

 長時間は稼働させられない/緊急回避用の武技を発動させると、串刺しは避けた。……それでも浅く、足を切られてしまった。

 さらに、リズムを取り戻させる余裕は与えてくれない。襲いかかる回転刃群、武技による強引な身体操法で躱し続けさせられる。

 

 何とか回転刃群に食い殺されないが、全身が悲鳴を上げていた。切り刻まれないだけで、体内は過電流にて焼かれ続ける。その高熱と痛みで意識までブレ始めてきた―――

 

「あはははッ! 先までの威勢はどうしたのぉ!」

 

 視界の端、女が笑いながら踊り続けているのが見える。同じく回転刃群に襲われながら、しかしダンスのパートナーのごとく、その刃に切り裂かれることはない。むしろさらなる加速を与え続ける。回転刃群による見えざる檻を作り上げていた。

 

 とてつもない技術だ……。魔法にしては早過ぎる。何らかの生まれながらの才能(タレント)によるものかもしれないが、分からない。今は判明したところで無意味だろう。

 このままではジリ貧。俺の無理はすぐに限界をむかえるが、女の踊りはさらなる加速と好調へと至るだけだ。……何とか打破しなければならない。

 とは言うものの、もはや檻から出られない。女を倒そうにも、まるで複数人に囲まれているようなものだ。一人に集中すれば全方向から串刺しにされる。誘われているとしか思えない。

 

「この程度でへばるなんて、『王国最強の戦士』てのは誇大広告だったみたいねぇ!」

 

 女が煽ってくる。必勝の罠にハメたはずだろうに、俺のプライドを刺激してくる。勝利の予感に酔っているのならありがたいことだが、彼女が冷静なのは先の罠で判明している。……なぜだ?

 

 必死に避けながら、意識を向けた。前と変わらず絶好調に踊り狂っているが、疑念のフィルターごしだと見えてくるものがあった。

 希望的観測……。苦しさから逃げたい恐怖がみせる幻想。今この場では『死』と直結している危険すぎる妄想だ。しかし、このままではジリ貧なのも事実。賭けるだけの価値はある。

 

(……仕方がない。少々荒っぽいが、やるしかないな!)

 

 意識を賭けに切り替えると、やはり女はまた煽ってきた。

 

「このままバラバラに切り刻んで、犬のエサにでもしてあげようかしらァ!」

「ソレは、ゴメン被りたいッ!」

(武技発動、【戦気爆放】―――)

 

 武技を使用するための『魂の力』。ソレを『戦気』という攻性の波動/現実世界の物質にも干渉できる力に変え、自在に操る技。

 発動と同時、その戦気が全身から爆風のごとく放たれた。

 強烈な風圧により、女は後退せざるをえない。噛み付きつづけるシミターたちも近寄れなくなった。

 

「あはッ! なかなかの戦気だけど……、『ソレ』は長く続かないでしょッ!」

 

 わかってるさ―――。こんな大放出ではあと10秒も持たずガス欠だ。後は疲労困憊で立ってもいられなくなるはず。……これはただの前フリでしかない。

 僅かに空いた隙間、さらなる集中/魂の力をこめる。……この大技だけは、どうしても溜が必要になってしまう。

 [爆放]を切る。一瞬できた凪の中で―――、

 

(武技発動、【六光連斬】―――)

 

 発動と同時、その場を軸に超高速回転。鞘から抜き放った剣と鞘の『両刀』をもって、本来は6本しかない光刃を10本にして撒き散らす。[爆放]によって、周囲ほぼ均等間隔で旋回させた全てのシミターへとぶつけ―――、叩き壊した。

 回転撃が終わると、砕いたシミターの破片群がキラキラと、宙に舞い落ちていく。

 

「そ、そんなッ!? 全部やられるなんて―――」

 

 すかさず、驚愕している彼女の懐にもぐりこむや、その鳩尾に「うぐぅッ!?」剣の柄をめり込ませた。

 背中まで突き抜ける勢いで放った急所への奇襲。一つ呻き声を吐き出すや、そのままくの字に折れては……俺の腕の中へと倒れた。握っていたシミターも地面に落ちる。

 

 

 あれだけの魔技を繰り出した彼女だが、やはり本体は外見通り。鍛えてはいただろうが、速度と柔軟性に特化させたはず。この一撃は耐えられない。

 

「……すまんな。結局荒っぽい方法になってしまった」

 

 気絶させた彼女を、そのまま地面に寝かせてやると、解毒剤を探りにかかった。……この際どい衣装のどこかに、隠し持っていればいいのだが。

 

 戦いが終わって冷静になると、あまり他人には見られたくない光景になっていた。完璧な正当防衛の結果だが、事情を知らないで遭遇されたら俺は犯罪者にだろう。後に知ったとしても、ダメかもしれない。……やじ馬が集まって来る前に済ませねば。

 急いで探しているとと、突然―――殺気

 

「ッ!? ―――」

 

 慌てて飛び退くと、つい先にいたそこに、刃が走り抜けた。風擦音が聞こえなかった、無音の斬撃。

 

 避けることはできたが、全身から冷や汗がふいた。先の回転シミターなど目ではない理想的/鍛え抜かれた斬撃だった。……もしかしたら、わざと躱せるレベルに/察せさせたのか?

 急いで振り返ると、そこには―――青髪の剣士が佇んでいた。

 

 

「___流石だなガゼフ。見事な戦いだったぞ」

 

 

 ブレイン……。いつの間に接敵していたんだ。

 

 警戒を露わにしている俺を横目に/気にすることなく、気絶した踊り子の元に近づくと、その懐をまさぐっては……小瓶を取り出した。解毒剤だろう丸薬が入ってる小瓶。

 見せつけるよう手元で転がしてみせると、

 

「それにその剣、とてつもない業物じゃないか。粗製とはいえ、ミスリル加工のシミターを粉々にしてのけるとは……。

 王国の宝剣ではないよな。どこで手に入れたんだ?」

「答えたのなら、そいつを渡してくれるのか?」

 

 無駄とは分かっていたが、要求した。……当然返答は、口の端を歪ませただけ。

 

「安心しろよ。この手の投擲剣の刃に塗った毒なんてものに、即効性の猛毒なんてない。掠った程度の微量じゃなおさらだ。腹か背に深くぶっ刺さらない限り()()()死ぬようなことにはならないぜ」

 

 ただ、少々痺れるような目には遭うかもしれんが……。その程度の痺れ毒もやはり、深く刺さらなければ効果は見込めない。

 戦いの途中、彼女のブラフには気づけた。急用と異常事態と不意に切られた事実、おまけに彼女の大胆なハッタリが目を曇らせてきた。いくら使い手だとしても、自分も刃に触れてしまうかもしれないのに、そんな猛毒など塗るのかとも。……我が事ながら情けない、修行が足りなかった。

 それでも、解毒剤を用意しているということは、何らかの毒が塗られていたのは確か。すぐには回らずとも、これだけ切られた以上は患っているはず。もう万全とはいえない状況にくわえての毒。……解毒剤は必須だ。

 

「連戦させるのは少々不本意だが、その調子じゃいい準備運動程度だったみたいだな。安心したぜ」

「……やはり、戦わんとダメか?」

 

 もちろん―――。言外に含ませるや、静かに戦意を迸らせてきた。

 

 ブレインと死闘を繰り広げるのは避けたいが……、ここまで囲われてはどうしようもない。

 チラと、この通りの先にある街区に目を向けた、目指しつづけたゴールでもあるその場所を。……少々強引だが、やむを得まい。

 

「なら……、場所を変えようか」

「もう逃げるのはなしだぜ」

「安心しろ。邪魔者がいない場所でやりたいだけだ」

 

 そう、邪魔者はもうやってこないだろう。……すでにそこに、いるのだからだ。

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

感想・批評・誤字脱字のしてき、お待ちしております。

ゲーム時、誰でも使えたであろう「ファストトラベル」機能。転移後世界ではどのような扱いがベスト?

  • 使用不可
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  • イメージできれば転移後の街でも使用可
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