騎士王国ルート   作:ツルギ剣

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エ・ランテル⑤

 

 

 大墓地まで無言でついてきてくれたブレインだったが、ついに訝しみを表に出してきた。

 

 

「___おいガゼフ、いつまで連れ回す気だ?」

 

 さすがに無視するわけにはいかないが、答えるわけにもいかない。というか、簡単には説明しきれない。巻き込んでしまったことも申し訳ないが、今はソレも口に出すことができない。……なんとも歯がゆいばかりだ。

 

「……お前が付き合っていたヤクザ者等は、いったい何者だ?」

「知らん。興味もない。お前を連れ出すあのアイデアが気に入ってただけだ」

 

 ただの興行師でないのは、襲ってきた連中の戦闘技術から伺える。間違いなく殺しを日常にしている者共で、表向きには隠しているのならば社会の暗部だろう。俺を呼び寄せ罠にかけて殺そうともしたとあれば、王国政府も大いに関わっている。……ついでに奴らも、巻き込めばよかった。

 

「……強さを得るためなら何でもする、か」

「お前のおかげでもあるぞ。あの敗北のおかげで、より貪欲になれた」

 

 差し向けられ続ける気配は、かつてより研ぎ澄まされているのが分かる。ただ荒削りから研がれたのみならず、血と闇の臭いを漂わせてもいる。ただ先に対峙した奴らと違って、腐った臭気だけは無い。己が殺し奪ってきた者たちを背負えるだけの鉄芯は、ちゃんと残っている。……遊びや傲慢さが無くなった、厄介な剣士に成長したものだ。

 

「『王国戦士長』など、下っ端貴族のマネ事にかまけて腕を鈍らせたと思っていたが……、安心したよ。鍛錬は怠っていなかったようだな」

「いや、そうなりかけていたが……、つい最近目を覚まされてな。本分に立ち返れた。

 それに、良き鍛錬相手にも恵まれた。己が未熟であると骨の髄まで痛感させてもらえたよ」

 

 その彼を今から討伐する……。改めて浮かべると、気が重くなってしまう。

 倒せるかは分からない。そもそも、倒すべきなのか迷ってる。何とか救える方法があるのではないかと、今更ながら考えてしまっている。死闘を前に迷いなどあってはならないことだが、生存と勝利以上の何かを手に入れたいとあれば、止めるわけにはいかない。

 

「お前にそう言わせる相手がいるとは……。そいつの名前は?」

「必要になるのか、お前に?」

 

 あえて挑発的な物言いをぶつけると、少し驚きしかしすぐにニヤリと不敵な笑みを返してきた。……上手く話題をごまかせた。

 

「こんな墓石群では、俺の剣技は止められんぞ」

「安心しろ。そんな安っぽい理由で、ここを選んだわけじゃない」

 

 ___いた! 

 あの身震いさせる黒い気配を感じる、近くに/確かに。おそらく地下にある神殿にいる。……やはりここだったか。

 遅れてブレインも、気づいた。俺への警戒を一部剥がされる、そちらに注意を割かされていた。

 

「……何だ、この気配は?」

 

 思わずか零した声に、どれほどの脅威か伝わって来る。ブレインですら戦慄を感じさせられる敵……。俺が感知できた脅威は、間違いではなかったらしい。

 気配は似ているが、明らかに変わっている。より濃密に/凶悪になったとも言えるが、だからこそおかしい。この一か月間ずっと対決し続けてきた、つい半時ほどしか別れていない。こんな急激な変質が起きるわけがない。……なにか、外部から影響をうけたのか?

 異変の正体を推理していると、ブレインが非難を差し込んできた。

 

「ガゼフ、まさか知っててここに誘導したの―――、ッ!?」

 

 言い切る前に、飛び退いた。

 その直後、立っていた場所に突然―――、巨大な人骨の塊が降ってきた。

 

 魔術による大爆発のごとき大地の鳴動。着地点から大きく飛び退いたはずだが、その巨体/重量ゆえにか地面が軋むように揺れた。

 全長およそ4メルトルはあるだろうか。全身すべて白骨の塊なれど、大蛇のごとき尻尾と獅子のような逆関節の脚部、寸胴な胴体部の上には鰐に似た巨大な頭蓋骨がある。目玉のない眼窩が、こちらを睥睨している。

 【骨の竜(スケリトルドラゴン)】―――。伝説のアンデッドの怪物だ。伝え聞いていた姿と若干異なっているが、迸らせている敵意と存在感から同格の怪物なのは間違いではないだろう。いくらこの墓所がアンデッド多発地帯といえども、こんな凶悪な怪物が自然発生はしない。

 それだけでも戦慄ものだが、さらに、

 

 

『ハッハッハ! 素晴らしい、このカラダは素晴らしいですぞ師匠ッ! 力が溢れてくるぅ―――』

 

 

 高笑いしながら、言葉を発してきた。舌や発声器官などない体ではあるが、開けたノコギリ歯の口をカツカツ鳴らしている様は、同時に聞こえてくる人間の男のような声音から喋っているとしか思えない。自ら思考できる、喋れるだけの知性を持ち合わせている怪物だ。

 怪物が己の力に酔いしれている間、警戒しながら近づいてきたブレインから、

 

「…………おい、まさかコレもお前の差し金か?」

「いや、コイツは別口だ」

 

 まさかこんな怪物がいたとは……。いったいどうなっているのか、俺のほうが聞きたい。

 明らかな異常事態に、思考が明後日に逃げ出そうとする前、現実に引き戻した。元凶など分からずとも、目の前の脅威は確かだ。生き延びる算段をしなければ、死ぬだけだ。……こんなところで、死ぬわけにはいかない。

 

「ブレイン、一時休戦てことでいいな」

「……そうするしかなかろう」

 

 舌打ち混じりながら認めてくれた。認めるしか無い状況なれど、その切り替えの早さには感謝しかない。

 

『おぉ! ちょうど良さそうな獲物がいるじゃないか。さっそく力試しでもしようか―――』

 

 一方的に宣言してくるや、いきなりその巨大な尻尾を叩きつけてきた。超重量の骨の塊が打ち下ろされる。

 突然ではあったが、予期できた攻撃。墓石群が綿菓子のごとく叩き潰されるが、危なげなくバックステップで躱す。

 

『おっと、潰せんかったか。なかなかに素早い―――』

「ハッ! ―――」

 

 躱すした直後には、懐に踏み込んでいたブレインが一閃。[骨の竜]の片足を切った。

 しかし―――

 

『おっ!? と……とぉ!』

「くそッ! やはり斬撃は効きが弱いか」

 

 輪切りにされたはず脚は切断されることなく、すぐに組みかわり繋ぎ直された。態勢を崩す/転倒することもなく踏みとどまる。

 アンデッドの、それもスケルトン系の魔物の特性。皮や筋肉などの生物としての躯体がないので、突きや斬撃は効果が薄い。代わりに打撃には脆い、生命活動をしていないので自己再生もしない。ただ目の前の怪物は、幾つもの/大量の人骨で構成されているゆえに、切断してもすぐに代わりの骨が繋いできてしまう。

 

(ならば―――、武技発動【剛撃】)

 

 剣に攻性魂力=戦気を濃縮封入して、発生する斬撃を打撃へと変質させる。

 怪物のもう片方の脚部を、横薙ぎにて粉砕しようとするも―――

 

『うおぉッ!? ……と、危ない危ない』

「…ちッ!」

 

 まさか避けるとは……。武技をのせた一撃は空振り。巨体のくせに、かなり敏捷な相手だ。

 いくら剣速が遅くなってしまう武技とはいえ、こんなにも容易く躱されるとは……。死角/意識の外からの奇襲でもあった。怪物の戦闘センスではなく、その躯体の性能による超反射。外見どおり、何かの大型肉食獣が原型になっているのだろう。

 奇襲を避けきった怪物は、その事実に改めて悦に入っていた。

 

『ふむふむ、思ったよりも歯ごたえのある剣士らしいな。かつてならば反応すらできなかっただろうが……、今の私は違うぞッ!』

 

 その大興奮に呼応するよう、怪物はその大口を開けて威圧咆哮してくる。声帯など存在しないので雄叫びなど出てこないが、噴火のごとき殺気は十分に吐きつけてきた。ブレイン共々、否応なしに緊張の度合いを高められる。

 すぐにもその暴力衝動を叩きつけてくる―――かと思いきや、急に何かに反応しだした。こちらに向けていた注意が明後日に向けられる。

 

『……師よ、まだやれますぞ。この程度の相手など、今の私ならば一人でも―――、ヒィッ!?』

 

 見えぬ何かに抗議するも、すくみ上がった。恐縮したようにうなだれる。まるで、飼い主に叱られた犬のように。

 そんな怪物の独り劇を訝る/嗤う間もなく、噴き出してきた濃密な闇の気配に息を呑まされた。眼前の怪物が放っている殺気を軽く上回る、この場にいない/まだ間合いの外のハズなのに死をイメージさせるほどの人外の殺気だ。

 まだ目に映る前から、ブレインも気づいてそちらに警戒を向けていた。いや、向けざるを得ない。怪物と対峙している間には見せなかった強張りが、その横顔に表れてしまっているのがその証拠だ。

 

 怪物が躍りでてきた地下から同じく、みなの注目の中から現れたのは―――やはりだった。

 [デス・ナイト]―――。黒く邪悪な瘴気を身に帯びた巨漢のアンデッド。波打ち血濡れた大剣と刺に覆われた壁のごとき大盾を使いこなす死者の戦士。ゆっくりと王者のごとく、地上へと歩み出てきた。

 さらに、その背後に付き従うように、2回りは大きな/4メルトルはある巨人の骸骨アンデッドもでてきた。幾つもの骨を固めて作られたハルバードらしき巨大な斧槍もあいまって、近づくたびに地響きが大きくなる。

 

 先の[骨の竜]が、歩み寄るデスナイトに対して頭を垂れて出迎えた。忠誠心からというよりも、絶対の強者への服従心。

 恐怖で萎縮しているソレにたいして、デスナイトの伸ばした手は……その頭を撫でてきた。

 怪物ならびにこちらも、殺されることをイメージしていた分、意表をつかれた。怪物もキョトンとしながら見つめ、すぐに撫でられるがままに頭をたれつづけていた。

 死の戦士は、何もしゃべることはない。その動作に飼い犬への優しさや労わりもない。あるのはただ、息が詰まるほどの緊迫感のみ。

 

「……まさか、こんな怪物が潜んでやがったとはな」

 

 その沈黙を破るよう、先よりもさらに闘志をたぎらせるブレイン。死への怖れと死闘への高揚感がブレンドされた武者震い、といったところだろう。……頼もしい限りだ。

 

「ガゼフ、コイツのことを知っているな」

 

 そのために、俺をここに誘導してきたな……。打算を読み取られた。それを糾弾するよりも、少しでも情報を手に入れることに切り替えてくれた。

 改めて感謝しかない。先から感じさせられてる違和感への戸惑いに、それどころではなかったから。

 

「ああ、だが……違う。俺が知っていた彼とは、何かが―――」

 

 デスナイトがいきなり、[骨の竜]の背に飛び乗る/騎乗した。怪物も慣れているように首をさげては跨がらせる、主の騎獣としての最適動作。

 騎獣の背にしかと跨ると、握っていた剣を頭上に伸ばすと、

 

 

『___源術(オリジンマジック)発動。

 邪道の三十三、【常闇の帳】』

 

 

 いきなり奇妙な/聞いたことのない詠唱を唱えてきた。

 ソレらに驚愕する間もなく、放たれた何かにより―――、視界が真っ黒く染まった。

 

 急な視界暗転。仰天と頭は真っ白になるも、体は脅威に対応してくれた。

 視覚を捨て、聴覚と皮膚感覚に集中。あの濃密な殺意の塊は変わらない、気配だけでも確かに追える。

 

(動いた!)

 

 察した直後、地面を砕くような音/骨の竜の踏み込み。空気もその巨体/重量に押されてはじけ飛ぶ―――

 同時、愛剣を握りしめ構えていた。見えなくとも誤つことは無い、奇襲をかけるなら迎え撃つのみ。むしろこちらこそ奇襲をかけてやれる―――

 しかし……、デスナイトは襲いかかってくることはなく。素通りしてきた。ただこの場を駆け抜けていくのみ。

 

 また意表をつかれて呆然、けどすぐに合点が降ってくる。

 

(マズい、ここで奴を逃がしたら―――、!?)

 

 追いかけようとすると、背後から強烈な殺意。ドシドシと地面があげる悲鳴のような足音とともに、墓所の陰気な空気を引き裂いてくるような殺意の風圧。―――従っていた巨人アンデッドが奇襲してくる。

 迎撃する暇などない、完全に裏をかかれた。

 必死に横跳び回避すると、寸前に立っていた場所に巨人の斧槍が振り下ろされる。

 

 地面との衝突音に鼓膜が痺れた。同時、小さな礫が飛び散っては肌を刺してくる。……きっと地面には、小さなクレーターができあがっていることだろう。

 たった一撃のみの判定、だがコチラも無視してよい敵でないのはわかった。瞬殺するのも難しい……。視界を奪われたのが悔やまれる。

 しかし―――やるしかない。今やらねば悲惨な未来が現実になる。

 

「ブレイン、コイツらは任せたぞッ!」

 

 死ぬなよ―――。我ながら身勝手の極みだが、仕方がない。信じて/押し付けて先にいくしかない。

 

(武技発動、【迅雷加速】!)

 

 全身/体内に強電圧が駆け巡る。肉体の運動能力を限界以上に引き出してくる。

 直後、弓から発射するように駆け出した。巨人に背を向け、デスナイトを追いかける。

 当然、巨人は追い打ちをかけてくるも、それ以上の加速だ。再度振り下ろされた斧槍は背中を両断することなく、また大地を削るのみ。

 

 

 限界を超えた最高速度にて/飛ぶように追いかける。

 すぐに[骨の竜]の高速度を超えて、デスナイトの背後にまで追いつくも……、読まれていたのだろう。手が届く寸前、いきなり急停止された。振り返りざま、怪物の尻尾が大波のごとく薙ぎつけてくる―――

 超重量の尻尾の一撃、直撃したらただではすまない、というか粉砕されるだろう。防御に専念しても吹き飛ばされるのがおち。追跡など不可能だ。―――ならば、やることは一つだけ。

 

(武技発動、【流水加速】!)

 寸前、全身を滑らかに/捻りながら前方へ跳躍。同時、横殴りの尻尾を背中に/紙一重にやり過ごした。さらに同時、捻転の勢いのまま愛剣をその背部に叩きつける―――

 尻尾は躱され/空を薙ぐ、粉砕する勢いのまま振られてたことで、切断した部分が明後日へとちぎれ飛んでいった。

 

 骨の竜は振り終わるや、仕留めきれなかったことに舌打ちし、自分の尻尾の先が無くなったことに目を剥いた。そして、怒気にみちた視線を差し向けてくる。……目玉などない眼窩でしかないが、アンデッドに憑依しているような悪党の感情がよく見えてくる。

 骨の竜だけなら、その間隙に攻め立てて仕留めることはできただろう。しかし、その騎乗者から目を離せなかった。決して動揺することなく、巌のようにコチラを分析/警戒を向けるのみ。……迂闊に手を出せない。

 

 両者拮抗、互いに次の手を伺う睨み合い。最善手がありえない刹那の凪……、先手を打つなら今しかない。

 

「答えろッ! お前は何者だ、[彼]では無いな」

 

 剣よりも言葉。まずは抑え続けてきた疑念を晴らす。……無視されても構わない、ぶつければ何かが返ってくるものだ。

 そんなこちらからの口撃にニヤリと(死人ゆえ表情など無いが確かに見えた)笑みを浮かべてくると、

 

『___ふふ、さすがにもう偽装はバレるか』

 

 [彼]ではあり得ない、明確な人語を返してきた。そしてもちろん、彼の主人でもありえない。

 底知れない気配は同じ。だが、隠しようもなく滲み出てくる邪悪さは別だ。彼の主人の畏敬を感じさせてくる様な深淵さとは違う、生者を穢し貶め殺しつくそうとするドブ底の殺戮衝動。……とてもアンデッドらしい。

 ソレは、意思疎通を可能としている知性と人語の中にも、大いに詰め込まれていた。

 

『今ここで私と殺し合えば、お前は十中八九死ぬだろう。足止めも、コヤツのおかげで大した時間は稼げない』

 

 取り引き…と見せかけて、裏切って殺す。その算段ができたから話を持ちかけてきたのだと、理屈を超えて直感できた。

 貴族共のおかげで大いに鍛えられたが、元来疑り深い性格ではない…と思っている。それでも分かった、コイツは決して信用してはいけない『敵』なのだと。

 

「取引は無駄だ。お前は今ここで、仕留める」

『…そうか。

 ならば―――死ね』

 

 その合図とともに、地面から複数のアンデッドが噴火するように沸いてきた。……やはり罠を仕掛けていたか。

 アンデッドの一体に足を掴まれそうになる寸前、その場から跳んで躱した。串刺しにせんと突き立ててきた骨の刃からも。しかし―――、それで奴から意識を剥がされた。

 空中に退避するや、それを狙ってきたかのように突撃してくる。まるで馬上槍のように大剣を前に突き出しながら、体を貫く以上に粉砕する殺意をもって。

 

(くッ!? 武技発動[迅雷加速]―――)

 

 発生させた体内電気によって、無理矢理体を動かす。本来は身動き取れない空中であろうとも、引き出した潜在筋力によって軸移動/筋伸縮/方向転換ができる。剣も横腹に/盾にしながら、突貫の衝撃をしのぎ切る。

 火花が散るほどの刃同士の摩擦―――。ギリギリ突貫を防いだ。交差の瞬間、屍人の表情など読み取れないが、舌打ちしたのが聞こえた気がした。

 同時に見えた。その胸におさまっている巨大な宝玉。カルネ村で見た時とは様子が異なっている様を、外にヒビが走っては中にも黒い濁りが混ぜられている。

 

 奴が何者かは分からない。しかし、元凶はわかった。『アレ』さえ外せば問題は解決できる。

 地面に着地と同時に、さらなる武技を発動させた。

 

(【疾風加速】―――)

 

 踏み込むや、全身を射出させた、一直線に/デスナイトの背へ。……今度はコチラの反撃だ。

 一気に接敵すると、さらに武技発動―――

 

(【四光連斬】!)

 

 濃縮して押し込んだ戦気が、この薙ぎ払いの一刀を四刀に/巨獣の豪爪のごとき斬撃へと変える。

 確実に捉えたと思った一撃は、しかし―――寸前で躱された。

 骨の竜が跳躍し、空中へと退避された。……巨体や重量をものともしない俊敏な動き。まるで武技でも使用したかのような射出ぶりだ。

 反撃は空を切り裂くのみだったが、仕掛けは分かった。沸き出させたアンデッドたちを跳躍台にしたらしい。巨獣に踏み潰されたスケルトン達の残骸/骨の細かな欠片が、パラパラと舞い上がっている。

 頭上を仰ぐと、勝ち誇ったような声が落とされてきた。

 

『さらばだガゼフ。

 魔道の八、【瞬天歩】―――』

 

 また奇妙な魔法を唱えるや、騎獣が何もないはずの空中を踏みしめた。詠唱の直後、どこからか現れた黒い霧の塊を足場にして。

 

 マズい―――。逃げられる!

 追いかけようにも、あの高度までの跳躍は武技で最大強化しても難しい。くわえて今は、跳躍台にさせられたアンデッドたちが四方からわき出てきている。そんな溜めなどしたら足を掴まれる、奴らの餌食になってしまう。

 デスナイトは勝ち誇った様。騎獣は撓めた両足を解放し、その全身を発射させた―――

 

 失敗した……。逃がしてしまう。外に出れば大被害を起こすのは必定。このエ・ランテルは死都に変えられてしまう、ソレ以上の厄災すらも。

 歯噛みしながら、頭上を凝視し続ける。ソレしかできず、絶望感に染まりそうになると―――、()が見えた。

 この大墓地を囲む城壁の上、デスナイトが今まさに飛び越えようとしている死者と生者の境界より、打ち出された透明なる光の矢。その名は―――

 

 

「【凍縛漁師銛(フロストジャベリン)】」

 

 

 大墓所を囲む城壁の上、放たれた魔法/巨大な氷の銛がデスナイトを襲う。

 一直線に跳躍するそれらを迎撃、騎獣の/骨の竜の横腹を貫いた。

 

 さらに、貫いた槍が爆散。槍の中から幾十ものトゲ槍が突き出てくる。内側から騎獣を幾重にも串刺しにしては、悲鳴あげさせず/すらも凍結していく。

 デスナイトは寸前で飛び退く/退避するも、躱しきれなかったのだろう。幾つか氷のトゲをその体にくい込まされていた。

 空中で衝突によりせき止められ、騎獣を身代わりに脱出し、そのまま落下していく―――

 

 地鳴りさせながら墜落したデスナイト。

 だが/しかし、瞬時に行動。

 自分を撃墜した魔法詠唱者の下へ、猛然と疾走していく―――

 

 逃げろ! ―――。沸いてくるアンデッドたちを粉砕しながら、その警告を叫ぶ前に気づけた。復讐しようとするデスナイトの前に/詠唱者を守るように立ちふさがった、筋骨たくましい巨体の女戦士に。

 その身の丈ほどの大槌を構えた女戦士は、迫る死神を前にしてニヤリと不敵な笑みを浮かべると―――、裂帛の気合で武技を放った。

 

 

「喰らいな、【超級連撃】!」

 

 

 大きく振りかぶった大槌が、目にも止まらぬスピードをもって、何発も連続して放たれ続ける/叩きつけられ続けた。

 腕力ならびに体の構造上ありえない連撃、重量ある大槌ならばなおさらだ。だが、武技は一時的に世界の理を超越する。ありえない高速で超重量の武器を繰り出すことも可能だ。

 猛烈な連撃の前に、デスナイトは復讐を急転換/防御に専念せざるを得ない。棘の大盾を前に防ぐ、その場に足止めされた。

 

「オラオラオラオラぁーーーッ!!」

 

 猛撃は止まらず、さらにボルテージが上がる。

 決してこの先へは行かせない、だけではない、このまま叩き潰してやるとの闘志が込められていた。その気合のまま、デスナイトは圧され続ける。

 

 そのまま倒しきれる……とは楽観できない。今は確かに押してはいるが、決定打をいれてもいない。デスナイトはしっかりと身を守っている、堅牢さはいっさい崩れていない。……武技が終息してしまったら、すかさず反撃を刺してくるはず。

 女戦士もソレを分かっている。焦りを見せないようにか笑みを濃くしていた。一秒でも長く武技を継続させんしている。……勝機は俺だ、コンマ一秒でも早く合流しなければならない。

 しかし……、敵も読んでいたのか。こちらのチェックメイトを潰してくる。

 

 

『邪道の八、【影渡り】―――』

 

 

 あの奇妙な魔法を唱えた直後、デスナイトの姿が消えた。大盾だけ残し、地面に落下するように沈み込んだ。

 地面に消えたデスナイトに気づけず、そのまま大槌を叩きつけた女戦士は、急に失せた堅牢さに戸惑う。弾き飛ばした大盾の後ろには、もう誰もいないことに。

 

「うおっと!

 ……アレ、どこに消えやがった?」

「飛べガガーランッ!!」

 

 警告を叫んだ直後、彼女の足元に広がっていた暗闇から奴が突き出てきた。

 寸前で/戦士の直感で気づけた彼女は、警告通りに跳躍で回避。さらに、レディーの足元から奇襲してきた不届き者へ反撃してやろうと、大槌を振り下ろそうとした。

 しかしソレは、デスナイトではなかった。スケルトン型のアンデッドだった。

 本物のデスナイトは、さらに離れた地面の闇から、影の階段を駆け上るように現れた。そのまま全身を徐々に現しながら駆け続け、背後に控えていた魔法詠唱者へと迫っていく。

 

 まずは背後の魔法詠唱者から潰す―――。回復役と大砲を潰すのは、戦術の基本中の基本だ。最も厄介で敵も守ろうとするが、それゆえに先んじて倒すメリットが大きい。戦力を大幅に激減させられる、士気も潰せる。……防がなければならないことだった。

 警告は間に合わない。やられる……。自分の無力に歯噛みする。なぜ俺はいつも間に合わない。何が足りなかったんだ、なぜもっと早く察せられなかった……。自分の弱さが/バカさ加減が憎らしい。

 

 だがソレは、お互い様だったらしい。

 フードを被った小柄な魔法詠唱者は、眼前の死神に臆することなく、そのか弱そうな片手を前に突き出すと―――大魔法を放った。

 

 

「【氷葬十字磔(アイシクルクルス)】」

 

 

 詠唱の直後、地面から突き上がって巨大な氷柱が、デスナイトを貫いた。そのまま中空にまで突き上げていくと、貫いた腹から横に氷柱が突き出してもきた。まるで体内から十字架で貫かれるようにして、四肢がもぎ取れなかったのが奇跡なほどに、デスナイトは磔にされた。

 

 その大魔法の影響でか、ふわりとフードがめくれた。収めていた長い金髪と奇妙な仮面を露わに/風になびかせると、

 

「___悪いなアンデッド。私はこんな可憐に見えても、一番強いのだよ」 

 

 可憐な少女の声音にて、勝ち名乗りを上げてきた。

 

 

 

 

_




長々とご視聴、ありがとうございました。

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