̄
___その一閃に出遭った時、はじめてこの世界に理不尽を感じた。
「【虎落笛】!」
以来、その刻まれた傷を覆すことが、生きる目標と変わった。
 ̄ ― _
汚れた骨格だけながら、殺意迸らせながら迫ってくるアンデットの
一応は亜人種に区分される半巨人、今も昔も王国では人権が著しく低い。骨格の太さや並びの良さからも、生前は幾つもの戦場を駆け巡った良き戦士であったことがうかがえる。ただ死んだ後はこの無縁墓所/大墓所に埋められていたのだろう、アンデットになる前から殺意は強かったのかもしれない。
哀れとは感じない。自分が死んだ後に自分の死体を他人がどう使おうが勝手だ。自分こそが自分をもっとも活用している、他人では二番煎じにしかならない。他人のソレも死骸に執着するなど、時間の無駄としか思えない。ネクロマンサーというのは、どうにも理解しがたい人種だ。――ー『彼』から、殺意以外を引き出すことができないのだから。
(武技発動【閃域】――ー)
独自に編み出した武技。【感覚鋭敏化】と【思考高速化】の重ね掛けから改良しつづけ、周囲数メルトルで生じるあらゆる動きを皮膚感覚で掴めるようになった。例え死角からの暗殺であっても、虫のごとき微細な揺らぎであっても、目には見えぬ魔力の振動であっても、余すところなく。
我ながら優れた武技ではあるが、全てを捉えてしまうのが弱点にもなる。体を動かしながらだと処理が追い付かず、文字通り頭が沸騰する。せっかくの武技が強制解除される。――ーゆえに、動きは最小限/一閃のみ。
展開した半径数メルトルの円陣/【閃域】。ちょうど俺の間合いそのもの。接近してくるアンデットは無造作にもそこに踏み込んできた。
直後、溜め込んでいた全身の筋肉のバネを一気に、解き放った。
(合技【
___一閃。
瞬きすら冗長なほど、抜刀した直後にはすでにそこに愛刀はあった。
【閃域】と武技【鋭撃】の重ね技、ゆえに反射的/無我の一刀。俺自身にすら斬った感触が遅れてやってくる。
コレを編み出し使いこなせるまで、文字通り血を吐くような修練と実戦を重ねてきた。どれだけ刀を振っても、記憶の中の『あの一閃』には届かない。腕力でも運用法でも無い、それでは当たり前すぎる/正攻法すぎる。「必殺」の名を与えるには、越えられない壁がそびえたっていた……。その今までの積み重ねを切り捨てる/命を斬り結ぶ刹那の愉悦を捨てる覚悟に至るまで、もたらされることは無かった。
斬られたアンデットはしかし、気づくことなく。無防備を晒している俺の頭上へ、人体を縦に輪切りにできそうな大斧を振り下ろそうと……、崩れた。
ガラガラと、まるで糸が切れた人形のように、魔力で支えられていたであろう巨体の骨格が地面に崩れ落ちていった。殺意をほとばしらせていた凶悪な頭蓋骨からも、何が起きたのか分からぬ呆然さのまま、摂理をだました命の黒火もかき消えていった。
終わりを【閃域】で感じ切ると、残身し愛刀を鞘に納め直す。
武器を戦場で納刀するなど愚の骨頂と、以前の俺は考えていたが、この【虎落笛】を会得したのちは改めた。抜き身の刃がどれだけ周囲のベースラインを乱していたのか、理解できていなかった。何より自分の心身状態の変化、どれだけ自他ともに残虐を強いるのを良しとできているのか、忘れていた。そんな嵐の只中のような心身では、正しく【閃域】を使いこなせない。いっそ納刀してしまうことで、逆に今の強さへと拓けた。
パチリと、刀の鍔と鞘口が食み合った。それで意識も通常に戻ると、
「……ふぅ、これで終わったな」
安堵の吐息とともに、切り落としたアンデットの魔力核を見下ろした。
赤子の握りこぶしほどの黒曜石に似た丸石。斬られた今は半球が二つで、邪悪そうな魔力の微光が失われていた、ただの磨かれた丸石でしかない。
見渡すともう2セット、斬られた丸石が落ちている。どちらも俺が切り落としたものだ。その周囲には、この半巨人の戦士の骨格同様に、別の骨格が崩れ落ちている。一つは
(アンデットと
武器に魔力や戦気をまとわせれば、触れることができない相手であっても攻撃できる。そして触れれるようにできさえすれば、思った以上に脆い/柔いのが相場だ。ただし魔術士であっても、味方の武器に魔力を帯びさせるのは難度の高い技らしい、ソレをやるなら攻撃魔法をぶつけたほうが早い。戦士であっても、【戦気梱封】を使えるものは達人一歩手前だ。修練に明け暮れるよりも、魔力を帯びた武器を入手するほうが早い。
かという俺も、かつては使えなかった/必要も感じなかった。一度公衆の面前で鼻っ柱を折られた後、初心に立ち返った武者修行の過程で会得できた。……奴が使えた以上、俺が使えないなど許されない。
「ガゼフめ……、けっきょく厄介ごとを押し付けやがったな」
この借りは、きっちり返してもらう……。勝負に勝った報酬と言い出したくせに、前払いさせられてしまった。
かつての奴は、イノシシも驚くだろう愚直で真面目な奴だった、こんなはかり事をする/できるとも考えに及ばないほど。その剣撃の真っすぐさにこそ、叩き折られたというのに……。王宮での生活が、奴に曲げることを教えたのだろうか?
(だとしたら……、やはり面白い!)
この日を楽しみにしてきた甲斐はあった。惰弱に墜ちた奴など斬る価値がない。……俺はあの時の一閃こそ、越えたいのだから。
周囲を改めて警戒する。もう敵は/脅威となるアンデットどもはいない。
斬った奴らが出てきた地下墓所は気になるが、そこまで都合よく利用されるのは癪だ。まだ潜んでいたとしても、知ったことではない。
踵返し/ガゼフを追う。
奴もまた、あの一目見ただけでも強大なアンデットと鍔ぜりあっているところだろう。さすがに邪魔だてはしない。奴のことだからもう倒しているのかもしれないが、かなり疲弊はすることだろう。……ソレを言い訳にして逃げるのなら、ここで斬るまでだ。
自然と胸が高鳴ってくる。早く喰らい尽くしたいと急き立ててくる、抑えようにも足早になっていた。修練の果てに心を鎮める術を会得できたが、あの時の熾火を消したわけではない。溶鉱炉のように仕立てただけ、爆裂しないか調整しないといけない。
(抑えろ、抑えろ。まだ我慢だ。
勝負はただ一刀で終わる、台無しにするんじゃない――ー)
己へ暗示のように言い聞かせる。飼いならしながら進んでいくと……、着いた。
一面の氷原――ー。
まだ真冬でもない季節、そもそもこの土地/エ・ランテルは豪雪地帯でもない。ありえない光景が目の前に広がっていた。
呆けてすぐ、魔法によるものだと推察。これほどの大魔術が使える者など、今までお目にかかったことなどないが……。
先のアンデットたちも大概だった。今この墓所は異常事態が多発する地雷原だ。自分が目指すべき目標に集中しろ――ー。分からぬものは棚上げと、混沌たる戦場での経験が切り替えてくれた。
愛刀の濃口をきった、いつでも抜刀できるようにする。……これから何が起きようとも、この刀と鍛えた技さえあれば、乗り越えられる。
氷原に踏み入った。
ほんの少し力を込めただけでは踏み砕けない氷、靴底から冷気がそそりあがってもくる。呼び出した事象の余波でしかなかろうに、ここまで定着させるとは……。やはり、並の魔術士じゃない。
改めて唾を飲み込んだ。だが、怖れの強ばりは無い。畑違いの相手ながら、ほどよい緊張が保ててる。そのまま進み続けていった。
氷原の中心部、立ち上る冷気の薄霧を抜けると――ー、見えた。ガゼフだろう大男の姿。その近くにも、奴に負けないほどの大男?と褪せた金髪の少女の二人も。
3人とも、今まで死闘を繰り広げたかのような傷と疲労をうかがわせる。相手は、ガゼフが追っていたあの強大なアンデット騎士だろうが……、見当たらない。消滅させたにしては、誰もが意気消沈しているように見受けられる。
ここで何が起きた?
声を投げかける――ー寸前、
視界を揺さぶるほど巨大な地震。思わず膝をつきそうになる。
拍子で地面の氷原をみると、幾重もの亀裂が走っては広がっているのが見えた。凍らせた地面の底から、巨大な何かが噴出しようとしているかの様に……、
直後、その予想は的中した。
分厚く広範囲の氷原が、一気に――ー粉砕された。
現れた、
(なッ!? ……なんだ、アレは?)
出現の衝撃に耐えかねてか、その場で腰を抜かしていた。
――◆――◆――◆――
___その一閃が現れた時、はじめてこの世界の理不尽に届いた。
「【
その時、どれだけの暗雲に阻まれようとも、道は果てしなく続いているのだと知れた。
 ̄ ― _
(まずい、逃げられた……)
奴が消えてしまった地面を見下ろしながら、必死で打開策を考える。
そもそも、ただ潜んでいるだけか? こちらの油断を誘って、死角から奇襲するためのブラフ。……ありえなくもないが、ここで仕留めなければならない理由が奴にはない。
追いかけるにしても、どうやって? 出入口はあるだろうが、見つける糸口もない。任意に/どこにでも作り出せるのなら、反撃しようがない。
逃げたとして、どこに? 定かではない、ラキュースの元に向かった可能性は高い。ただ、この墓所以外はどこであれまずい。かのアンデットの能力が遺憾なく発揮されてしまう。このエ・ランテルが/強いては王国が、死都に変わってしまう。
「___くそぉッ! もぬけの殻かよ」
盛大にアンデットの頭部を打ち砕いたガガーランが、罵倒する。
頭部が粉砕されたアンデットは、切断面から黒々としたガスを噴出させ……数秒後、全身まで崩れ落ち霧散した。後に残ったのは、胴部の半分ほどまで切り込んだ愛剣のみ。支えを失い、凍らされた地面にカラリと落ちた。
武器は残されてた……。皮だけとはいえ躯体が残されていたことから、脱皮に近しい脱出法だったのだろう。持っていけるモノは限られたはず。こちらの武器を奪い取れなかったことから、奇襲の線はさらに薄れた。
落ちた愛剣をつかみ取った。感触からやはり愛剣だと分かる。
落胆から切り替え、さらに視野を広げた/思考をめぐらす。今俺にできること/すべきことは何だ? 何が最善だ――ー
「そこまで遠くにはいけないはずだ! 町の外にまでは逃げられない。どこかで一旦、浮上するはずだ」
魔術士/イビルアイからの推察。
この墓所の地面は凍らせているため、浮上することはできない。そこまで狭い範囲ではないからこそ発動させたのだろう。といっても、このエ・ランテルを一気に抜け出せるほど広範囲でもない。奴の力の源は、この墓所にたっぷりとしみ込んでいる怨念やら死霊たち。ここから出て/生者の街中であっても、あの暴力を保てるとは考えずらい。……浮上できる/しなければならない場所は、限られてくる。
「……当たりはつけられるか?」
「まず、墓所の奥ではなく隔壁の方面だよ。凍らせたこの氷原から、ある程度の魔力探知も可能なのでね」
あちらの方向だ……。示した方向は、街の大通りにある商店/富裕層区画ではないものの、人家が密集している貧民街区に近い。あんなところで出現したら、たちまち下僕を増産されてしまう。
「確かか?」
「いくつかブラフが撒かれていたがね、奴本体の気配は把握済みだ。……この腹の傷のおかげでね」
……今更ながら、酷い出血量だ。傷周辺のみならず衣服の大半が鮮血色になってしまっている。
「やばいな……、あっちはラキュースたちを隠した場所と被ってる」
「むしろ好都合じゃないか。挟み撃ちにできる」
そろそろお姫様には、目覚めてもらわないとね……。二人の言葉で、ようやく思い出せた。
「ラキュースは……、無事なのか?」
「消沈してたが、心配いらない。いざの時は立ち上がる。どんな強敵を前にしてもね」
「だな!
心配するだけ損だぜ旦那。だてに【蒼の薔薇】のリーダー任せちゃいないよ」
実に清々しい仲間への信頼感。経験に裏打ちされているのが表情からも読み取れる。……これ以上の疑いは不要だろう。
「連絡はとれるか?」
「任せろ。
【
魔法を唱えた直後、小さな呻き声があがった、不意にノイズをぶつけられたかの様に。
「大丈夫か?」
「……
いったい何が起きた? ……周りに目が向けられないほどの緊迫感からも読み取れる、危機的状況だと、彼女でも対応しきれないほどの。
「イビルアイッ!」
「ッ!? …なんだいガガーラン?」
「とりあえず分かってることだけ教えとくれ」
一瞬きょとんとされたが、すぐに「…あぁ、すまない」と切り替えてくれると、
「……連絡用の魔法が使えない、魔道具の方もダメだった。ラキュースたちに伝える手段がない」
「奴の置き土産?」
「かもしれないが……いや、違うな。
この周辺は私の魔力の支配域になっている。奴がジャミングを差し込む隙間など無い。あれだけ追い詰められた間に、そこまでできたとも考えづらいね」
「よしよし、調子がもどってきたねぇ」
ガガーランは褒めるように、無造作に頭をくしゃくしゃとした。供扱いされたことにむくれるも、軽くその手を除ける/乱れた髪をさっと整えながら切り替える。
「連絡が取れぬのなら、走るまでだ。
互いにカバーできる範囲で散開しつつ、向かった方角に行こう」
「私が前衛で探りに力を入れたほうが――」
「――了解、旦那! 今度こそモグラ野郎の頭を粉砕してやる」
イビルアイが最適な連携の提案をしてくれたが、こちらの意図を読んでくれてか、ガガーランが被せてくれた。
魔術士は基本後衛ではあるが、優れた魔力探知ができ囮にもなる、この捜索&殲滅の場合は前衛がベストだろう。……彼女が最も危険であることを除けば。
無理やりにも方針を決めると、すぐにも出発する――ー寸前、
直後、視界が上下にブレるほどの縦揺れ/地震までも。
驚きの声を上げる間もなく、地面の氷原に幾重もの亀裂が走った。亀裂は重なり/より開いていく。
地の底から何かがわき出ようとしている。その力に対し、凍り付いた地面は紙のごとく脆いかの様、悲鳴のように地震と亀裂が広がっていく/突き立てられ続ける。
(まずい! ここにいては――ー)
「みなッ、後ろに跳べぇーーッ‼」
その臨界がついに――ー破られた。
直後、飛びのいたその場から、
世界の摂理を嘲笑うかの様、地面に落ちるはずのソレが、空へと打ちあがっていく――ー
視界が真白に染められた。上下左右が分からない。聴覚もノイズ音に占領され、何も聞こえない……。
「――ーぅぐッ!?」
自分を確かめられたのは、骨に響くほどの衝撃の後、受け身を取れずに硬い何かに衝突してしまったがゆえ。
無理やりにも叩き戻されると、衝突したのが大墓所を囲む城壁だったと気づけた。……ここまで吹き飛ばされていたのか。
ぶつかった城壁をみて、驚かされた。ちょうど自分の背中が入るほどのくぼみと幾重の亀裂が走っている。……ここまで強い衝撃だったとは分からなかった。
周囲を見渡すと、二人も同じように城壁に叩きつけられていたのが見えた。どちらも何とか無事な様子だ。……その二人を覆っている淡い魔力の光膜/その残光をみて、衝突の前に防御魔法をかけてくれたのだと気づけた。
感謝のためにも、すぐに立ち上がった。……まだ眩暈も足の震えも収まらないが、構ってもいられない状況。
吹き飛ばされた場所/『敵』が噴出した場所を見た。
ただ現れただけで、視界一面を覆っていた氷原が砕かれた。幾十もの氷塊の残骸へと変られている。しかしながら、『ソレ』を収めていただけの大陥没は無い。あるのはただ、黒い瘴気と重油のような粘り気のある/ブクブクと沸騰しているかのような液体のみ。……まるで地獄の毒沼だ。
怖れを抑え込みながら、『敵』を見上げた。
噴出してきた敵は――ー、
月の化身とも思えてしまうほど、畏敬を抱かずにはいられない存在感。見惚れてしまうほど美しい芸術品だが、あの額を含めた3つの瞳が、どうしようもなく自分が喰われる側だと悟らせてもくる。狡猾で獰猛なケダモノでもある矛盾が成立している。
かつて一度だけみた竜種とは違う、巨大な蛇のような体躯。どうやって浮遊しているのか不明だが、摂理を越えた存在だからと、納得させられてしまう。
(アレは……、あんなものとは――ー)
戦えない。相手にすらならない……。
覚悟が本能に潰される。戦意を湧き上がらせようにも、あの眼光/睥睨を前にするとすぐに搔き消される。ただ相対しただけで、心の奥底まで征服されていた。
視界の隅、同じように茫然と見上げている仲間たちが見えた。歴戦の彼女らであっても、心まで凍り付かされたかの様、不可思議な金縛りにあっている。
眺めていただけのドラゴンが、ゆるりと動いた。その口を開ける。……喰われたものに残酷な終焉をもたらすような乱杭歯から、食欲に性欲までこもったような唾液がべっとりと滴り落ちてくる。
生まれ出てきた地面の瘴気。よく似たガスが渦巻いている口内の奥底、より黒い光が煌めきだした。……何かするつもりだと、まだ支配されきっていない場所で推察する、ソレは致命的な攻撃だとも。
漏れ出た黒い光は、開けた口の前/中空に何かしらの文様を描き出した。巨大な円のなかに見たことのない文字と幾何学模様。全く理解できない現象だが、魔法陣との連想は容易い。……【
――ーカチりと、繋がった。抑え込まれたものが、ようやくあるべき流れを紡ぐ。……金縛りが解けた。
急速に戦意を補充する/される。凍り付いた心身に喝を入れた。思考も急回転させる。
しかし――ー
(もう……、逃げられない)
分水嶺は遠に越えた。必殺の寸前まで麻痺させてくるとは……、念が入りすぎてる。
(防御は……、無意味だろうな)
ただ傍を通り抜けられただけで、はんば気絶させられた。その存在が、本気の敵意をもって放つ攻撃だ。自分の防御など、紙にも等しいはず。
諦めるしかない。この一時はただ、ソレを悟らせるための慈悲だろう。……ドラゴンの真意は分からないまでも、そう解釈させられてくる。
そのはずだ、それで良いはずだ。人間では越えられない壁なのだ。誰もが納得してくれる、誰も責め立てたりはしない。無理なものは無理なのだから、努力や信念では越えられないものが世の中にはある……。
それなのに――ー
(なぜ俺は、こんなにも……
気づけば、愛剣を構えていた。……あのドラゴンと比べたら、蟻にも等しいのに。
気づけば、臨戦の武技を発動させていた。……あのドラゴンに、届くわけも無いのに。
そして気づけば――ー
「うぉおおおぉぉぉぉーーーーッ!!」
雄たけびを上げていた。……あの
ドラゴンはそんな蟻の奇行に、気づくことなく。己の暴力の精髄をついに――ー、解き放った。
その瞬間、世界は白き光に漂白された。
太陽以上の光、様々な色の一切を吹き飛ばす真白。世界にありうべからざる白き光。
音も吹き飛ばされた静寂の中、白き爆熱の津波が塗りつぶしてくる――ー
しかし……、確かに聞こえた。己の雄たけびすら掻き消された無音の異空で、この暴虐をものともせず/引き裂くように――ー
「___【
___一閃。
白光に漂白されきった空、さらに光り輝く一筋の裂け目。
その裂け目を起点に、全てが逆行した。
放たれたドラゴンブレスは、裂け目へと吸い込まれるように逆流していった。白く塗りつぶした世界も、まるで宇宙創生の様、奪われた色彩を取り戻していく。
光り輝く裂け目の先、かの白きドラゴンが見えた。残酷な神のように睥睨しつづけていたソレからは、神聖が剥がれ落ちていた。ありえない出来事に驚愕を浮かべている。……その姿はただ、巨大な蛇でしかない。
ただ驚愕のまま、その一閃を見送るしかなく。ドラゴンはその額の巨瞳を――ー、斬り裂かれた。
「■■■ッ!? ■■ィィぎ■■ああぁぁぁぁー―――ッ!!」
耳障りな喚き声が、墓所中に響き渡った。……あの巨体では、街中にまで響き渡っているだろう。
ドラゴンは傷を受けたことにもだえ苦しみ、全身をくねらせながら暴れまわり続ける――ー
確かに傷を受けたが、苦しみすぎでは? ……そう感じさせる。まるで、現実を知らない貴族の悪ガキのような印象だ。痛みの泣き声は、悲しみの共感よりもみっともなさを、ただ煩いだけと。
そんな不愉快さのおかげでか、現実感が戻ってきた。
あのドラゴンの虚飾を切り裂いた相手、突然にも当然のように目の前に現れていた
「……
感謝の返答はしかし……、彼らしいものだった。
初めて出会ったときのような暗黒色のマントを翻す/振り返ってくると、
「___感謝には及びませんよ。私は私の思惑で動いたまでですから」
ドラゴンのドクロを象ったようなお面。
まるでこのことを予見していたかのように。しかしその奥に潜む真相は……、相変わらずだ。全く読み取ることができなかった。
_
長々とご視聴、ありがとうございました。
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